説明

水素関連施設

【課題】万一の爆発に対する安全性を可及的に簡便かつ低コスト、メンテナンスフリーで向上させることのできる水素関連施設を実現する。
【解決手段】水素爆発に耐え得る耐力を有する躯体2により水素取扱室1を構成し、該水素取扱室の内面に、水素爆発の際の爆風圧を受けて爆風による衝撃を吸収可能な緩衝部材3を設ける。緩衝部材3としては、爆風圧により変形しあるいは破壊される容器体3a内に液体、気体、粉粒体、低反発素材からなる封入物3bを封入した構成のもの、爆風圧により変形しあるいは破壊される低反発素材からなる中実ブロック体からなるもの、躯体の前面側に間隔をおいて配置されて爆風圧を受ける受圧板と該受圧板を躯体に対して離接する方向に変位可能に弾性支持するバネ部材とにより構成するもの、フレーム体を主体としてその中空部に封入物を充填して封入したもの、柔軟な膜材からなるものが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば水素を製造する施設や水素を輸送する施設あるいは水素を貯蔵する施設等の水素を取り扱う諸施設(以下、水素関連施設という)に係わり、特に燃料電池自動車に対して燃料としての水素を随時供給するための施設であるいわゆる水素ステーションに適用して好適な水素関連施設に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料とする燃料電池により走行する車両(燃料電池自動車)の開発が進められているが、その普及を図るためには燃料電池自動車に対して燃料としての水素を随時供給するためのシステムが不可欠であり、近い将来にはそのための施設である水素ステーション(従来のガソリンスタンドに相当するもの)が各地に多数設置されることが想定されている。
【0003】
そのような水素ステーションは多量の水素を貯蔵する施設であり、しかも市街地や繁華街等にも設置されるものであるから、水素の万一の爆発(より厳密には爆発を伴う燃焼、すなわち爆燃や爆轟)を想定した安全対策が不可欠である。そのため、たとえば特許文献1には万一の爆発時には屋根面が爆風により一体的に剥がれるようにしておくことにより爆発被害や周辺への影響を最小限に抑えるという水素貯蔵建屋についての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、水素が万一爆発した際のエネルギーは極めて大きいことから、特許文献1に示されるような従来一般の手法のみでは充分ではなく、特に爆風圧による被害を充分に抑制するためにはより万全の安全対策が必要であると考えられている。
【0006】
また、この種の水素ステーションは狭小な敷地に小規模のものとして設置される場合も多いことから、安全対策のための保安スペースや各種安全設備のための設置スペース、保守スペースを充分に確保し得ないことが想定される。
さらに、この種の施設は経済的に運用し得ることが前提でもあり、したがって可及的にメンテナンスフリーに近い施設であることも要求されるから、如何に安全対策が重要とはいえ多大なコスト(設備費および運転費)や頻繁な保守を必要とするような高度かつ複雑な安全管理システムを採用することも現実的ではない。
【0007】
以上のことは水素ステーションのみならず水素を取り扱う諸施設全般に共通する課題でもあり、したがって燃料電池自動車の普及を図るためには水素ステーションをはじめとする水素関連施設の安全性の確立が必要であり、特に可及的に簡便かつ低コスト、メンテナンスフリーで安全性を向上させることのできる有効適切な構造の水素関連施設の実現が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の水素関連施設は、水素爆発に耐え得る耐力を有する躯体により水素取扱室を構成し、該水素取扱室を構成している躯体の内面に、水素爆発の際の爆風による衝撃を吸収可能な緩衝部材を設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明における緩衝部材としては、爆風圧により変形しあるいは破壊される容器体内に、液体または気体または粉粒体もしくは低反発素材からなる封入物を封入した構成のものが好適である。
あるいは、爆風圧により変形しあるいは破壊される低反発素材からなる中実ブロック体を緩衝部材とすることも考えられる。
また、緩衝部材を、躯体の前面側に間隔をおいて配置されて爆風圧を受ける受圧板と、該受圧板を躯体に対して離接する方向に変位可能に弾性支持するバネ部材とにより構成することもできる。
もしくは、緩衝部材を、表面板と裏面板と仕切板とがトラス状ないし井桁状に連結されて爆風圧により変形しあるいは破壊されるフレーム体を主体とし、該フレーム体の内部全体に液体または気体または粉粒体もしくは低反発素材からなる封入物を充填して封入してなるものとすることもできる。
さらにまた、緩衝部材を、躯体を覆うようにその前面側に取り付けられる柔軟な膜材からなるものとすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、万一の水素爆発の際には緩衝部材が爆風圧を受けて変形しあるいは破壊されもしくは変位することで爆風による衝撃を効果的に吸収し、それにより優れた緩衝効果が得られて爆風圧による被害を軽減することができ、爆発時の安全性を向上させることができる。
特に、本発明においては緩衝部材として簡易な構成の安価なものを採用可能であり、それを水素取扱室の内面の要所にあるいは全面的に単に取り付けるだけで良いから、格別の設置スペースを必要としないし、保守も不要である。したがって本発明の水素関連施設は簡便かつ低コスト、メンテナンスフリーで万一の爆発に対する安全性を向上させることができるものであり、特に燃料電池自動車を対象とする水素ステーションに適用するものとして最適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態である水素関連施設の概略構成を示す要部の立断面図および壁部の拡大断面図である。
【図2】同、壁部の斜視図および緩衝部材の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態である水素関連施設の概略構成を示す壁部の拡大断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態および第2実施形態における緩衝部材の変形例を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態である水素関連施設の概略構成を示す要部の立断面図および壁部の拡大断面図である。
【図6】同、壁部の斜視図および緩衝部材の外観を示す斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態である水素関連施設における緩衝部材を示す斜視図である。
【図8】同、緩衝部材の組み立て状態を示す図である。
【図9】本発明の第4実施形態における緩衝部材の変形例を示す斜視図である。
【図10】同、緩衝部材の組み立て状態を示す図である。
【図11】本発明の第5実施形態である水素関連施設の概略構成を示す斜視図である。
【図12】同、緩衝部材を示す斜視図および平断面図である。
【図13】本発明の第5実施形態における緩衝部材の変形例を示す図である。
【図14】同、他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「第1実施形態」
図1〜図2は本発明を水素ステーションに適用する場合の第1実施形態を示すものである。
図1における符号1は水素取扱室であり、ここに水素ボンベ等の貯蔵容器(図示せず)が収納貯蔵されたり、あるいはここで水素を取り扱う各種の作業が実施されるようになっている。水素取扱室1は実質的に閉鎖ないし半閉鎖空間とされていて、その壁面と床面と天井面を構成している躯体2はいずれも鉄筋コンクリート造とされ、それら躯体2は水素取扱室1内において万一の水素爆発が生じた際にも破壊されないような充分な耐力を有する頑強なものとして構築されている。
【0013】
そして、本実施形態の水素関連施設においては、水素取扱室1の内部において万一の水素爆発が生じた際にその衝撃を緩衝するための緩衝部材3が躯体2の内面に取り付けられている。
本実施形態における緩衝部材3は図2(b)に示すように底面が正方形状の角錐台形状の外観をなすものであって、図1(b)に示すように中空部を有する容器体3aを主体としてその容器体3a内に封入物3bを密に充填した構成とされている。
【0014】
緩衝部材3の主体である容器体3aはたとえば金属材料や各種樹脂材料を素材として形成されたものであるが、その強度や形状は想定される爆風圧を受けた際に変形あるいは破壊されることで衝撃を吸収あるいは分散させて爆風圧に対する緩衝効果が得られるように設定されている。
容器体3aに封入されている封入物3bは、容器体3aが変形した際にはそれに追随して自由に変形するとともに容器体3aが破壊された際には周囲に飛散するような各種の流体や粉粒体が用いられており、具体的には水等の液体、窒素化合物や二酸化炭素あるいは空気等の気体、砂や土等の粉体ないし粒体(但し、粒径が充分に小さいものであって飛散しても危険や被害を及ばさないもの)が好適に採用可能である。さらに、後述する第2実施形態の緩衝部材4の素材としての低反発性ポリウレタンフォーム等の低反発素材も封入物3bとして好適に採用可能である。
【0015】
本実施形態では、図2(a)に示すように、上記構成の緩衝部材3の底面を水素取扱室1の壁面を構成している躯体2の内面に密着させた状態で接着等に強固に固定することにより、多数の緩衝部材3を壁面全体に対して縦横に隙間無く取り付けるようにしている。
なお、図面では緩衝部材3を1壁面に対してのみ取り付けたように図示しているが、必要であれば緩衝部材3を水素取扱室1を構成している全ての壁面に対して全面的に取り付けても良いし、さらに図1(a)に鎖線で示しているように天井面や、可能であれば床面に対しても取り付けても良い。
【0016】
水素取扱室1の内部に上記の緩衝部材3を取り付けたことにより、万一の水素爆発の際には緩衝部材3が爆風圧を受けてたとえば図1(b)に鎖線で示している如く大きく変形し、それに伴いその内部において封入物3bが圧縮されて変形することになる。あるいは爆風圧がより大きい場合には緩衝部材3が破壊されてしまって封入物3bが周囲に飛散することも想定される。いずれにしても、緩衝部材3が爆風圧を受けて変形しあるいは破壊されることで爆風エネルギーの一部が緩衝部材3の変形や破壊のために費やされ、したがってそれによる衝撃を効果的に吸収することができて優れた緩衝効果が得られる。
特に、爆風は対向する壁面間および床面と天井面との間で反射を繰り返すから、室内に面する壁面、床面、天井面の全体に緩衝部材3を隙間無く取り付けておくことにより爆風の反射を効果的に軽減し減衰させることができる。
なお、封入物3bとして上記のように水等の液体や窒素化合物や二酸化炭素等の気体を用いる場合には、緩衝部材3が破壊された際にそれらが周囲に飛散し放散されることによる消火効果や消炎効果も期待することができる。
【0017】
したがって本実施形態の水素関連施設によれば、緩衝部材3により優れた緩衝効果が得られて爆風圧による被害を充分に軽減することができ、爆発時の安全性を向上させることができる。
勿論、緩衝部材3は容器体3aに封入物3bを単に充填しただけの簡単な構成であって何ら特殊かつ複雑なものではないから、所定規格で大量生産することにより充分に安価に製作することができるし、その設置も壁面や天井面、床面に対して接着等により単に固定することができるから何ら面倒かつ複雑な作業を必要とせず、これを設置することに要するコストは些少である。しかも、これを設置するために格別の設置スペースを必要としない(室内有効面積や有効容積が若干減少する程度で済む)し、設置後のメンテナンスも一切不要である。
以上のことから、本実施形態の水素関連施設は充分に簡便かつ低コスト、メンテナンスフリーで爆発時の安全性を向上させることができるものであり、特に今後の普及が想定される水素ステーションに適用するものとして最適である。
【0018】
「第2実施形態」
図3は本発明の水素関連施設の第2実施形態を示すものである。本第2実施形態も上記第1実施形態と同様に水素ステーションに対する適用例であって、両者の相違は緩衝部材の構成のみであるので、以下では相違点についてのみ説明する。
本第2実施形態における緩衝部材4も上記第1実施形態における緩衝部材3と同様に角錐台形状の外観をなすものであり、かつそれと同様に壁面や天井面、床面を構成している躯体2に対して設置されるものであるが、図3に示すように本実施形態における緩衝部材4はその全体が低反発素材からなる単なる中実ブロック体として形成されており、爆風圧を受けた際にはその全体が変形しあるいは破壊されて衝撃を吸収することにより第1実施形態の場合と同等の緩衝効果が得られるものである。
本実施形態の緩衝部材4の素材としての低反発素材は爆風圧に対して抵抗しつつ粘性的に大きく変形する特性を有するものであって、その変形時の粘性抵抗により、あるいは爆風圧により破壊されることで、充分な衝撃吸収効果を有するものである。そのような特性を有する低反発素材としてはたとえば低反発性ポリウレタンフォームが好適に採用可能である。
【0019】
「第1実施形態および第2実施形態の変形例」
図4は上記の第1実施形態および第2実施形態に共通する変形例を示すものである。
上記の第1実施形態および第2実施形態では、いずれも緩衝部材3,4として同一形状、同一寸法のものを用いたが、図4に示す変形例では各緩衝部材3,4の高さ寸法にばらつきを持たせてそれを取り付けた壁面(必要に応じて床面や天井面も)を実質的に凹凸面に形成したものである。
これにより、上記各実施形態と同様に各緩衝部材3,4が変形あるいは破壊されることによって衝撃を有効に吸収し分散することに加えて、各緩衝部材3,4によって反射される爆風が各方向に乱反射することによりさらに緩衝効果を高めることができる。
この場合、各緩衝部材3,4の高さ寸法をランダムに変化させることでも良いが、水素取扱室1の形状や寸法から爆風圧の反射状況を予めシミュレートし、それに基づいて反射波を効果的に乱反射させるように各緩衝部材3,4の形状や寸法、位置を最適に設定すればより効果的である。
さらに、上記のように反射波を緩衝部材3,4によって乱反射させることに加えて、あるいはそれに代えて、対向する壁面どうしや天井面と床面とを非平行面としておくことにより、それらの間での相互反射が自ずと軽減されて緩衝効果がより高まることが期待できる。
【0020】
「第3実施形態」
図5〜図6は本発明の第3実施形態を示すものである。
本第3実施形態における緩衝部材5は、受圧板5aとその受圧板5aを躯体2に対して離接する方向に弾性支持するバネ部材5bとにより構成されているものである。
受圧板5aは図6(b)に示すようにたとえば正方形状の平板からなるものであって、その背面側には複数のバネ部材5b(図示例では4本のコイルバネ)の一端が連結され、それらバネ部材5bの他端が壁面に固定されることにより受圧板5aを壁面との間に若干の間隔をおいてその前面側に配置し、それら受圧板5aの全体で壁面全体を隙間無く覆うようにしたものである。
【0021】
受圧板5aとしては鋼板が好適に採用可能であり、爆風圧を受けても変形しないような充分な肉厚と強度を有するものでも良い(必要に応じて補強リブ等により補剛すれば良い)し、あるいは爆風圧を受けて変形する程度の強度のものとすることでも良いが、いずれにしても爆風圧を受けた際には図5(b)に示すようにバネ部材5bを圧縮して躯体2側に変位可能な状態で躯体2に対して設置する。
バネ部材5bとしては、上記のように受圧板5aを躯体2に対して離接する方向に弾性支持できるものであれば良く、したがって図示例のようなコイルバネに限らず板バネや皿バネも採用可能であるし、バネ部材5bの素材も通常の鋼製バネのほかステンレスやピアノ線、各種の樹脂によるバネ材も採用可能である。いずれにしてもそのバネ剛性を受圧板5aが想定爆風圧を受けた際に設定ストロークだけ弾性的に変位するように適正に設定し、また受圧板5aが爆風で吹き飛ばされることがないようにバネ部材5bにより躯体2に対して確実強固に固定する必要がある。
なお、本実施形態においても、上記各実施形態の場合と同様に、緩衝部材5を壁面に対してのみならず、必要に応じて、また可能であれば、天井面や床面の要所にも同様に取り付けても良いことは言うまでもなく、壁面、天井面、床面の全てに対して全面的に取り付けることも好ましい。
また、各緩衝部材5の受圧板5aの位置(躯体表面からの距離)を前後にずらしたり、受圧板5aの表面を凹凸面に形成して爆風を乱反射させるようにしても良い。
【0022】
本第3実施形態では受圧板5aがバネ部材5bによって躯体2に対して離接する方向に変位可能な状態で弾性支持されることにより、受圧板5aが爆風圧を受けた際にはバネ部材5bが圧縮されて受圧板5aが躯体2側に変位し、それにより上記第1実施形態の緩衝部材3や第2実施形態の緩衝部材4と同様に優れた緩衝効果が得られるものである。
【0023】
「第4実施形態」
図7〜図8は本発明の第4実施形態を示すものである。
本第4実施形態における緩衝部材6は、表面板7aと裏面板7bと仕切板7cとがトラス状に連結されて爆風圧により変形しあるいは破壊されるフレーム体7を主体とし、そのフレーム体7の内部全体に封入物8が充填されて封入されてなるものである。
フレーム体7は、表面板7a、裏面板7b、仕切板7cをいずれもたとえば鋼板やアルミパネル等の金属板あるいは樹脂成型板からなるものとして、それらを図示例のようにトラス状に組んた状態で連結ないし一体に形成して所定強度を有するものとすれば良い。あるいは金属材や樹脂材からなる管材あるいは棒材をフレーム状に組んだうえでそれに表面板7aや裏面板7b、仕切板7cを装着してフレーム体7を形成することでも良い。
封入物8としては、第1実施形態の緩衝部材3における封入物3bと同様に水等の液体、窒素化合物や二酸化炭素あるいは空気等の気体、砂や土等の粉体ないし粉粒体が好適に採用可能であり、また第2実施形態の緩衝部材4の素材としての低反発性ポリウレタンフォーム等の低反発素材も封入物8として好適に採用可能である。
【0024】
本第4実施形態の緩衝部材6は、万一の水素爆発時にはフレーム体7が爆風圧を受けて変形ないし破壊される程度の強度としておき、その際には内部全体に充填されている封入物8が変形あるいは周囲に飛散して衝撃を吸収あるいは分散させるようにしておくことにより、上述した第1実施形態の緩衝部材3と同様に機能して爆風圧に対する優れた緩衝効果が得られるものである。
【0025】
なお、本第4実施形態の緩衝部材6も上記各実施形態における緩衝部材3〜5と同様に水素取扱室1の壁面や天井面、床面の所望位置に適宜固定すれば良いが、壁面への設置や床面への設置に際しては転倒や位置ずれの懸念がなければ敢えて固定するまでもなく単に配置することでも良い。
【0026】
また、本実施形態の緩衝部材6は予め工場製作したものを現地に搬入して設置すれば良いが、あるいは現地にて組み立てながら設置することも可能であり、そのようにすれば大型重量物の搬入作業を軽減することができる。
緩衝部材6を現地にて組み立てる場合の手順の一例を図8に示す。この場合、(a)に示すように表面板7aと裏面板7bと仕切板7cの一部のみを連結しておいてそれらを横方向にずらした状態に薄く折り畳んでおき、その状態で現地に搬入して裏面板7bを躯体2に向けた状態で配置した後、表面板7aを起こして(b)に示すように双方を適正間隔にし、その状態で(c)に示すように残りの仕切板7cを取り付け、しかる後に(d)に示すように封入物8を所定密度となるように充填し封入すれば良い。
【0027】
「第4実施形態の変形例」
図9〜図10は上記の第4実施形態の変形例を示すものである。
上記第4実施形態における緩衝部材6は表面板7aと裏面板7bと仕切板7cとをトラス状に組んだものとしたが、本変形例では図9に示すようにそれらを井桁状に組むように変更したものであり、これによっても同様の緩衝効果が得られ、かつ図10に示すように同様の手法により現地での組立が可能なものである。
【0028】
「第5実施形態」
図11〜図12は本発明の第5実施形態を示すものである。
本実施形態の緩衝部材9は柔軟な膜材からなるものであり、図11に示すように水素取扱室1の躯体2である壁面や床面、天井面の要所を覆うようにしてその前面側に取り付けられるものであり、万が一の水素爆発時には緩衝部材9としての膜材が爆風圧を受けてその背面側の躯体2への直接的な衝撃を緩和し得るものである。
【0029】
緩衝部材9としての膜材の素材としては、テント生地、ゴム、ウレタン、パラシュート生地、ビニル等、およびそれらを様々に組み合わせた複合素材が好適に採用可能であるが、緩衝効果を得るためには質量はある程度大きい(重い)ことが好ましく、また爆風圧を受けても容易に破断しない強度を有するものが好ましい。
【0030】
緩衝部材9は単に展開した状態で取り付けることでも良いし、あるいは所定張力を付与して張設した状態で取り付けることでも良いが、緩衝効果を高めるためには図示しているようにカーテンの如く充分に襞(ひだ)を取った状態で取り付けることが好ましく、また躯体2との間に若干の間隔を確保することが好ましく、そのためには躯体2に対する膜材の取り付けをたとえば図12に示すようにして行うと良い。
これは、パイプ材等によるフレーム状の取付部材10を適宜高さの脚部材11を介して躯体2の前面側に浮かせた状態で固定し、その取付部材10の内側に膜材の周囲をリング部材12により縫うようにして取り付けるものである。
但し、取付部材10は必ずしもフレーム状とすることはなく、膜材の上下のみをたとえばカーテンレールのような棒状の支持部材に対して取り付けるようにしても良い。また、図12に例示しているように上下方向に襞を取ることに限らず左右方向に襞を取ることでも良く、その場合は膜材の左右を襞を取りつつ取付部材10に対して取り付ければ良い。
【0031】
「第5実施形態の変形例」
第5実施形態の緩衝部材9としては、上記で例示したような一般的な素材による均一な厚みの単なる膜材でも良いが、たとえば図13に示すように襞の形状に合わせて肉厚部9aを形成して質量を増大させることにより緩衝効果を高めることが考えられる。
あるいは図14に示すように膜材を二重貼りとして中空部を設け、その中空部に適宜の封入物13(たとえば第1実施形態の緩衝部材3における封入物3bや、第4実施形態の緩衝部材6における封入物8,具体的には液体や気体、粉粒体、低反発素材等)を封入しておくことも考えられ、それにより膜材の質量が増大して緩衝効果が高めるられるとともに、爆発時には膜材が破断して封入物13が周囲に飛散することにより第1実施形態の緩衝部材3や第4実施形態の緩衝部材6と同様の効果を期待できる。
【0032】
以上で本発明の第1〜第5実施形態について説明したが、以下にさらに他の構成例や補足的な事項を列挙する。
本発明において用いる緩衝部材としては上記各実施形態の緩衝部材が好適に採用可能であるが、要は爆風圧を受けて変形しあるいは破壊されもしくは変位することによって衝撃を吸収して緩衝効果が得られるものであれば良いのであって、その限りにおいて緩衝部材の構成は任意であり、緩衝部材の形状や寸法、素材その他の具体的な構成は上記実施形態に限定されることなく適宜の設計変更が可能であるし、爆風圧に対する強度や緩衝性能その他の仕様も、想定される爆発規模や要求される安全性能に応じて適正に設定すれば良い。
【0033】
既に述べたように緩衝部材は水素取扱室の内面(壁面、天井面、床面)全体に設置することでも、要所に分散配置することでも良いが、いずれにしても水素取扱室の構造や形状、内部機器の配置状況、その他の諸条件を考慮して所望の緩衝効果が得られるように最適位置に最適な構成の緩衝部材を適正配置すれば良い。
特に、閉鎖空間においては爆風圧は隅角部(入隅部)に集中するから、室内の各コーナー部(壁面どうしの取り合い部や、壁面と床面や天井面との取り合い部)に緩衝部材を集中的に配置しておくことが有効である。
勿論、同一仕様の緩衝部材を用いることに限らず、たとえば上記各実施形態の緩衝部材を任意に組み合わせて併用したり、各緩衝部材の構成要素を様々に組み合わせた構成の緩衝部材を用いる等、異なる形式の緩衝部材や異なる特性の緩衝部材を適宜組み合わせて適正配置することも可能である。また、可能であれば開口部に設けられる扉や窓に対しても同様に緩衝部材を設ければ良い。
【0034】
緩衝部材は躯体に対して個々に接着したりボルト締結やアンカーにより定着する等の適宜手法で容易に固定することができるが、複数の緩衝部材を予め連結しておいたり、大判のフレームに対して多数の緩衝部材を予め組み付けたユニットとして構成しておいて、それを一括して躯体に取り付けるようにしても良く、それにより緩衝部材の設置作業をより効率的に実施することができるし、水素取扱室の設計および施工の標準化を図ることができる。
【0035】
本発明の水素関連施設は実質的に閉鎖空間とされることが通常であるが、適宜、爆発放散口(エクスプロージョンベント)の類を併設して、爆発エネルギーを積極的にかつ安全に外部に逃がすようにしても良く、そのうえで施設内の爆風圧を本発明の緩衝部材により緩衝するようにしても良い。
勿論、本発明は燃料電池自動車を対象とする水素ステーションに限らず、水素を取り扱う各種の施設を対象として広く適用できるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 水素取扱室
2 躯体(壁面、床面、天井面)
3 緩衝部材
3a 容器体
3b 封入物(液体、気体、粉粒体、低反発素材)
4 緩衝部材(中実ブロック体)
5 緩衝部材
5a 受圧板
5b バネ部材
6 緩衝部材
7 フレーム体
7a 表面板
7b 裏面板
7c 仕切板
8 封入物(液体、気体、粉粒体、低反発素材)
9 緩衝部材(膜材)
9a 肉厚部
10 取付部材
11 脚部材
12 リング部材
13 封入物(液体、気体、粉粒体、低反発素材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素爆発に耐え得る耐力を有する躯体により水素取扱室を構成し、該水素取扱室を構成している躯体の内面に、水素爆発の際の爆風による衝撃を吸収可能な緩衝部材を設けてなることを特徴とする水素関連施設。
【請求項2】
請求項1記載の水素関連施設であって、
前記緩衝部材は、爆風圧により変形しあるいは破壊される容器体内に、液体または気体または粉粒体もしくは低反発素材からなる封入物を封入してなることを特徴とする水素関連施設。
【請求項3】
請求項1記載の水素関連施設であって、
前記緩衝部材は、爆風圧により変形しあるいは破壊される低反発素材からなる中実ブロック体であることを特徴とする水素関連施設。
【請求項4】
請求項1記載の水素関連施設であって、
前記緩衝部材は、前記躯体の前面側に間隔をおいて配置されて爆風圧を受ける受圧板と、該受圧板を前記躯体に対して離接する方向に変位可能に弾性支持するバネ部材からなることを特徴とする水素関連施設。
【請求項5】
請求項1記載の水素関連施設であって、
前記緩衝部材は、表面板と裏面板と仕切板とがトラス状ないし井桁状に連結されて爆風圧により変形しあるいは破壊されるフレーム体を主体とし、該フレーム体の内部全体に液体または気体または粉粒体もしくは低反発素材からなる封入物を充填して封入してなることを特徴とする水素関連施設。
【請求項6】
請求項1記載の水素関連施設であって、
前記緩衝部材は、前記躯体を覆うようにその前面側に取り付けられる柔軟な膜材からなることを特徴とする水素関連施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−53682(P2010−53682A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36932(P2009−36932)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】