説明

水蒸気改質用触媒及び改質触媒体

【課題】貴金属を含まず、貴金属と同程度の優れた水蒸気改質性能を示すことができる水蒸気改質用触媒、及び改質触媒体を提供すること。
【解決手段】非貴金属合金からなる、メタンの水蒸気改質用触媒1及びこれを多孔質基材に担持してなる改質触媒体である。非貴金属合金は、その結晶構造を決定している第1非貴金属元素2と、第2非貴金属元素3との2種類の非貴金属元素からなる。非貴金属合金における第1非貴金属元素2のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満である。好ましくは、第1非貴金属元素2は、Fe、Co、又はNiがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンから水素を生成するための水蒸気改質用触媒及びこれを多孔質基材に担持してなる改質触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、新エネルギーの原料として注目されており、燃料電池や発電所などへの適用が期待されている。
水素は、触媒を用いてメタンから水蒸気改質により生成することができる。この際に用いられる水蒸気改質用触媒としては、Ru、Rh等の貴金属が用いられている。ところが、貴金属は、希少金属で高コストであるという問題や安定供給が困難であるという問題がある。近年、水蒸気改質用触媒においては、コスト低減や資源枯渇の観点から、その貴金属量を低減しようとする試みがなされている。
【0003】
水蒸気改質用触媒において、貴金属量を減らすための方法としては、例えば小粒径化による反応面積の増大という方法が知られている。また、貴金属に代わる金属触媒を用いる方法も検討されている。
【0004】
例えば、貴金属よりも安価なNiを含む合金触媒(炭化水素分解用触媒)が開発されている(特許文献1参照)。
このような、合金触媒を用いることにより、水蒸気改質用触媒において脱貴金属化を図ることができ、低コストで水蒸気改質用触媒を安定に供給することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−255245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の合金触媒は、その水蒸気改質性能が十分ではなく、貴金属触媒に匹敵する水蒸気改質性能を示す合金触媒は得られていない。したがって、十分な触媒活性を得るためには、非貴金属合金と貴金属との併用が必要となり、脱貴金属化を十分に図ることができていないのが現状である。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、貴金属を含まず、貴金属と同程度の優れた水蒸気改質性能を示すことができる水蒸気改質用触媒、及び改質触媒体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、非貴金属合金からなる、メタンの水蒸気改質用触媒であって、
上記非貴金属合金は、該非貴金属合金の結晶構造を決定している第1非貴金属元素と、第2非貴金属元素との2種類の非貴金属元素からなり、
上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満であることを特徴とする水蒸気改質用触媒にある(請求項1)。
【0009】
本発明の他の態様は、上記水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる改質触媒体であって、
上記水蒸気改質用触媒は、アルミナ、ジルコニア、セリア、及びシリカから選ばれる1種以上からなる担体粒子と上記水蒸気改質用触媒とが凝集してなる多孔質の触媒担持層として、上記多孔質基材に担持されていることを特徴とする改質触媒体にある(請求項26)。
【発明の効果】
【0010】
上記水蒸気改質用触媒は、第1非貴金属元素と、第2非貴金属元素との2種類の金属元素からなる非貴金属合金からなり、上述のごとく上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満である。そのため、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)を貴金属(Ru、Rh)のdバンドセンターに近づけることができる。そのため、上記水蒸気改質用触媒は、非貴金属合金でありながら、Ru、Rh等の貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。上記水蒸気改質用触媒は、水蒸気改質によりメタンから水素を生成するために用いることができる。
【0011】
上記改質触媒体は、上記水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる。そして、上記改質触媒体においては、上記水蒸気改質用触媒と上記担体粒子とが凝集してなる多孔質の触媒担持層が形成されている。該触媒担持層は、比表面積が大きいため、上記改質触媒体においては、上記触媒担持層を通過するメタンの水蒸気改質を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電子の数(DOS)と電子のエネルギー(energy)の関係において、dバンドセンター(εd)を示す説明図。
【図2】各純金属のdバンドセンターεdを示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、水蒸気改質用触媒の結晶構造の一例を示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、第1非貴金属元素(Ni)を第2非貴金属元素(Ti、Zr、又はHf)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図5】実施例1にかかる、第1非貴金属元素(Ni)を第2非貴金属元素(V、Nb、又はTa)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図6】実施例1にかかる、第1非貴金属元素(Ni)を第2非貴金属元素(Cr、Mo、又はW)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図7】実施例2にかかる、第1非貴金属元素(Fe)を第2非貴金属元素(Ti)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図8】実施例2にかかる、第1非貴金属元素(Fe)を第2非貴金属元素(V、Nb、又はTa)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図9】実施例2にかかる、第1非貴金属元素(Fe)を第2非貴金属元素(Cr、Mo、又はW)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図10】実施例3にかかる、第1非貴金属元素(Co)を第2非貴金属元素(Ti又はZr)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図11】実施例3にかかる、第1非貴金属元素(Co)を第2非貴金属元素(V、Nb、又はTa)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図12】実施例3にかかる、第1非貴金属元素(Co)を第2非貴金属元素(Cr、Mo、又はW)で置換固溶した非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒において、第2非貴金属元素の表面濃度と、第1非貴金属元素のdバンドセンターとの関係を示す説明図。
【図13】実施例6にかかる、水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる改質触媒体の全体を示す説明図(a)、改質触媒体の径方向断面の部分拡大図(b)。
【図14】実施例6にかかる、改質触媒体における触媒担持層の構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記水蒸気改質用触媒は、第1非貴金属元素及び第2非貴金属元素という2種類の非貴金属元素の非貴金属合金からなる。
上記第1非貴金属元素は、上記水蒸気改質用触媒の上記非貴金属合金の結晶構造を決定する非貴金属元素である。好ましくは、上記第1非貴金属元素は、Fe、Ni、又はCoであることがよい。
【0014】
また、上記第2非貴金属元素は、上記非貴金属合金を構成する2つの非貴金属元素のうち、上記第1非貴金属元素以外の非貴金属元素である。
上記第2非貴金属元素は、上記非貴金属合金において上記第1非貴金属元素が形成する結晶構造において、上記第1非貴金属元素の一部に置換固溶していることが好ましい。また、上記第2非貴金属元素は、上記非貴金属合金の少なくとも表面に置換固溶しており、上記第1非貴金属元素が形成する上記結晶構造の最安定面における第1非貴金属元素の一部に少なくとも置換固溶していることが好ましい。
【0015】
上記第2非貴金属元素としては、例えば前周期遷移金属元素を用いることができ、該前周期遷移金属元素の中でもTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wを用いることが好ましい。例えば前周期遷移金属であるSc、Y、及びLaは、Ni等からなる第1非貴金属に固溶し難い。また、Mnは、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)を−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という範囲にするために必要な量が多くなりすぎるおそれがある。また、Tc及びReは希少金属元素であり、製造コストが増大したり、安定供給が困難になったりするおそれがある。
【0016】
上記水蒸気改質用触媒において、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満である。
上記第1非貴金属元素のεdが−1.7eV以下又は−1.2eV以上の場合には、水蒸気改質性能が低下し、メタンの水蒸気改質を十分に行うことが困難になるおそれがある。
【0017】
dバンドセンター(εd)は、フェルミ準位εFに対するdバンドのエネルギー重心であり(図1参照)、触媒反応に寄与する触媒粒子表面の活性種の電子状態密度(DOS;Density of States)において、フェルミ準位εFに対するd軌道成分のエネルギー重心である。図1において、横軸は電子の数(DOS)を示し、縦軸は、電子のエネルギー(energy)を示す。
εdの具体的な導出にあたっては、密度汎関数理論である平面波−擬ポテンシャル法に基づいた第一原理電子状態計算プログラムであるCASTEP(Accelrys社)を用いることができる。CASTEPによるεdの算出条件については、汎関数として「一般化された電子密度勾配近似(GGA−PBE)」を用い、平面波基底のカットオフエネルギーを330eVとし、擬ポテンシャルとしてはウルトラソフト型を適用することができる。CASTEPによるεdの算出に用いた結晶構造のモデルについては、例えば上記第1非貴金属元素がNiであるNi合金の系においては、該Ni合金を、(111)面で切り出した4原子層を含み、かつ真空層の厚さが12Åのスラブ模型を用いることができる。また、Ni合金の系の場合と同様に、例えば上記第1非貴金属元素がFeであるFe系合金の場合には該Fe系合金を(110)面で切り出し、また、上記第1非貴金属元素がCoであるCo系合金の場合には該Co系合金を(001)面で切り出したスラブ模型を用いることができる。
算出に用いたモデルのk点のサンプリングには、Monkhorst−Pack法を用いることができる。そして、最表面の第1非貴金属元素の局所電子状態密度のうち、d軌道成分を抽出し、d軌道成分の局所電子状態密度のエネルギー重心を求めることにより、dバンドセンターを導出することができる。
【0018】
上述のようにして算出される各種純金属のdバンドセンターを図2に示す。
上記水蒸気改質用触媒においては、非貴金属合金における例えばFe、Co、Ni等の第1非貴金属元素のdバンドセンターを、−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満にすることにより、図2に示すごとくRuのdバンドセンターの値(−1.61eV)及びRhのdバンドセンターの値(−1.69eV)に近づけることができる。これにより、上記水蒸気改質用触媒は、非貴金属合金でありながら、Ru、Rh等の貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0019】
上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンターの測定方法につき、説明する。
上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンターは、電子状態を元素選択的に観測することができる軟X線発光分光法により測定することができる。より高精度なスペクトルを得るためには、放射光を用いた高輝度な光源を選択することが好ましい。例えばFe、Co、Ni等の第1非貴金属元素のd軌道のX線発光スペクトルのエネルギー重心とフェルミ準位の差がdバンドセンターとなる。
【0020】
上記水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がFeであり、上記第2非貴金属元素がNb、W、又はTaであることが好ましい(請求項2)。
この場合には、Feからなる上記第1非貴金属元素に対して、Nb、W、又はTaからなる上記第2非貴金属元素を選択することにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することが容易になる。即ち、dバンドセンターが−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満の範囲にある上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒を実現し易くなる。
【0021】
また、上記第1非貴金属元素がFeであり、上記第2非貴金属元素がNb又はTaである場合において、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は75mol%以上であることが好ましい(請求項3)。
また、上記第1非貴金属元素がFeであり、上記第2非貴金属元素がWである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が85mol%以上であることが好ましい(請求項4)。
これらの場合には、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することがより一層容易になる。そのため、上記水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0022】
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWであることが好ましい(請求項5)。
この場合にも、Coからなる上記第1非貴金属元素に対して、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWからなる上記第2非貴金属元素を選択することにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することが容易になる。即ち、dバンドセンターが−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満の範囲にある上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒を実現し易くなる。
【0023】
上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTiである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は20mol%以上であることが好ましい(請求項6)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がV、Nb、Cr、Mo、又はTaである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が5mol%以上であることが好ましい(請求項7)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がZrである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が40mol%以上であることが好ましい(請求項8)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がWである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が5〜80mol%であることが好ましい(請求項9)。
これらの場合にも、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することがより一層容易になる。そのため、上記水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0024】
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWであることが好ましい(請求項10)。
この場合にも、Niからなる上記第1非貴金属元素に対して、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWからなる上記第2非貴金属元素を選択することにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することが容易になる。即ち、dバンドセンターが−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満の範囲にある上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒を実現し易くなる。
【0025】
上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、又はZrである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は30mol%以下であることが好ましい(請求項11)。
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がNb、Mo、W、又はTaである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が40mol%以下であることが好ましい(請求項12)。
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がVである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が45mol%以下であることが好ましい(請求項13)。
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がCrである場合においては、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が50mol%以下であることが好ましい(請求項14)。
これらの場合にも、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することがより一層容易になる。そのため、上記水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0026】
次に、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)は、−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満であることがより好ましい(請求項15)。
この場合には、上記水蒸気改質用触媒の水蒸気改質性能をより向上させることが可能になる。
【0027】
上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTi、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaであることが好ましい(請求項16)。
この場合には、Coからなる上記第1非貴金属元素に対して、Ti、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaからなる上記第2非貴金属元素を選択することにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満という値に調整することが容易になる。即ち、dバンドセンターが−1.6eVを超えかつ−1.35eV未満の範囲にある上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒を実現し易くなる。
【0028】
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTiである場合においては、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が70mol%以上であることが好ましい(請求項17)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がV、Nb、Taである場合においては、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が50mol%以上であることが好ましい(請求項18)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がMo又はWである場合においては、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が30〜70mol%であることが好ましい(請求項19)。
また、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がCrである場合においては、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が60mol%以上であることが好ましい(請求項20)。
これらの場合にも、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.6eVを超えかつ−1.35eV未満という値に調整することがより一層容易になる。そのため、上記水蒸気改質用触媒の水蒸気改質性能をより向上させることが可能になる。
【0029】
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、Zr、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaであることが好ましい(請求項21)。
この場合には、Niからなる上記第1非貴金属元素に対して、Ti、Hf、Zr、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaからなる上記第2非貴金属元素を選択することにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満という値に調整することが容易になる。即ち、dバンドセンターが−1.6eVを超えかつ−1.35eV未満の範囲にある上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒を実現し易くなる。
【0030】
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、又はZrである場合においては、上記第2非貴金属元素の濃度が10〜25mol%であることが好ましい(請求項22)。
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がNb、Mo、W、又はTaである場合においては、上記第2非貴金属元素の濃度が15〜30mol%であることが好ましい(請求項23)。
また、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がV又はCrである場合においては、上記第2非貴金属元素の濃度が20〜40mol%であることが好ましい(請求項24)。
これらの場合にも、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターを−1.6eVを超えかつ−1.35eV未満という値に調整することがより一層容易になる。そのため、上記水蒸気改質用触媒の水蒸気改質性能をより向上させることが可能になる。
【0031】
上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は、オージェ光電子分光法(AES)により測定することができる。AESにおいては、試料(非貴金属合金)に電子ビームを照射し、発生するオージェ電子のエネルギーから定性分析を行うと共に、信号の強度(オージェ強度)から定量分析を行うことができる。
【0032】
また、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は、いずれ金属の組み合わせにおいても、少なくとも100mol%未満であることが好ましい。
上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が100mol%の場合には、上記非貴金属合金の表面における活性成分がなくなり、触媒性能が低下するおそれがある。
また、第2非貴金属元素の添加効果を発揮させるという観点から、いずれの金属の組み合わせにおいても、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度は、少なくとも1mol%以上であることが好ましい。
【0033】
また、上記水蒸気改質用触媒の比表面積が小さすぎる場合には、上記水蒸気改質用触媒が本来有する優れた水蒸気改質性能を十分に発揮することができなくなるおそれがある。かかる観点から、上記水蒸気改質用触媒の比表面積は10m2/g以上であることが好ましい(請求項25)。より好ましくは15m2/g以上がよく、さらに好ましくは20m2/g以上がよい。
また、製造の困難性という観点から、上記水蒸気改質用触媒の比表面積は100m2/g以下がよい。
【0034】
上記水蒸気改質用触媒の比表面積は、合金作製時における焼成温度及び/又は焼成時間を調整することにより制御することができる。焼成温度が低い程又は焼成時間が短い程、比表面積は大きくなる傾向にある。
【0035】
上記非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒は、所謂含浸法、スパッタリング法、液相法、アーク溶解法、又は溶融法等により作製することができる。
【0036】
上記非貴金属合金からなる上記水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属触媒と同様に、水蒸気改質によりメタンから水素ガスを生成する反応の触媒として用いられる。具体的には、例えば燃料電池等に用いることができる。
上記水蒸気改質用触媒は、多孔質基材に担持して用いることができる。
【0037】
次に、上記改質触媒体は、上記水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる。
多孔質基材としては、様々な構造体を用いることができるが、例えばコージェライト、SiC、シリカ、ゼオライト、又はアルミナ等からなるハニカム構造の多孔質体を用いることができる。
【0038】
上記改質触媒体においては、アルミナ、ジルコニア、セリア、及びシリカから選ばれる1種以上からなる担体粒子と上記水蒸気改質用触媒が凝集してなる多孔質の触媒担持層を形成することができる。具体的には、上記触媒担持層は、上記水蒸気改質用触媒よりも粒径の大きな担体粒子が凝集して多孔質な層を形成し、上記担体粒子よりも粒径の小さな水蒸気改質用触媒が上記担体粒子に担持された構成とすることができる。好ましくは、上記担体粒子はアルミナがよい。
【0039】
また、上記触媒担持層の比表面積が小さすぎる場合には、上記水蒸気改質用触媒が本来有する優れた水蒸気改質性能を十分に発揮することができなくなるおそれがある。かかる観点から、上記触媒担持層の比表面積は30m2/g以上であることが好ましい(請求項27)。より好ましくは50m2/g以上がよく、さらに好ましくは100m2/g以上がよい。
また、製造の困難性という観点から、上記触媒担持層の比表面積は1000m2/g以下がよい。
【0040】
上記触媒担持層の比表面積は、触媒担持層の作製時における焼成温度及び/又は焼成時間を調整することにより制御することができる。焼成温度が低い程又は焼成時間が短い程、比表面積は大きくなる傾向にある。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
本例においては、非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒を作製し、dバンドセンターを調べる。
図3に示すごとく、本例の水蒸気改質用触媒1において、非貴金属合金は、その結晶構造を決定している第1非貴金属元素2と、第2非貴金属元素3との2種類の非貴金属元素からなる。本例においては、第1非貴金属元素1としてNiを採用し、第2非貴金属元素3として、各種前周期遷移金属元素を採用する。
【0042】
本例の水蒸気改質用触媒1の製造にあたっては、含浸法によりNi金属の表面にTi、Zr、又はHfの塩を付着させた後加熱することにより、Ni金属の表面を4族の前周期遷移金属元素(IVA属)であるTi、Zr、又はHfで置換固溶させた。これにより、Ni−Ti合金、Ni−Zr合金、Ni−Hf合金からなる水蒸気改質用触媒を作製した。本例においては、各合金におけるTi、Zr、Hfの表面濃度が異なる複数の非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒をそれぞれ作製した。なお、本例においては、含浸法により作製したが、スパッタリングにより合金を作製することもできる。
【0043】
図3に、本例の水蒸気改質用触媒1の結晶構造の例を示す。
同図に示すごとく、本例の水蒸気改質用触媒1において結晶構造を決定している第1非貴金属元素2はNiであり、水蒸気改質用触媒1は、純Niの結晶構造を示す。第2非貴金属元素3は、結晶構造内のNiの一部に置換固溶している。同図においては、最安定面であるNi−fcc(111)面において第1非貴金属元素2(Ni)の一部が第2非貴金属元素3(前周期遷移金属元素)に置換している例を示している。
【0044】
次に、本例においては、上記のように作製したNi−Ti合金、Ni−Zr合金、及びNi−Hf合金からなる各水蒸気改質用触媒について、オージェ光電子分光法(AES)により、第2非貴金属元素(Ti、Zr、Hf)の表面濃度(mol%)を測定した。
また、上述の方法により、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンター(εd)を測定した。
Ni−Ti合金、Ni−Zr合金、及びNi−Hf合金からなる各水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Ti、Zr、Hf)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図4に示す。
【0045】
また、本例においては、上述の4族の前周期遷移金属元素の場合と同様にして、5族の前周期遷移金属元素(VA族)であるV、Nb、又はTaでそれぞれ置換固溶した合金(Ni−V合金、Ni−Nb合金、Ni−Ta合金)を作製し、これらの合金からなる水蒸気改質用触媒について、それぞれ第2非貴金属元素(V、Nb、Ta)の表面濃度、及びdバンドセンター(εd)を測定した。
Ni−V合金、Ni−Nb合金、及びNi−Ta合金からなる各水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(V、Nb、Ta)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図5に示す。
【0046】
また、本例においては、上述の4族及び5族の前周期遷移金属元素の場合と同様にして、6族の前周期遷移金属元素(VIA族)であるCr、Mo、又はWでそれぞれ置換固溶した合金(Ni−Cr合金、Ni−Mo合金、Ni−W合金)を作製し、これらの合金からなる水蒸気改質用触媒について、それぞれ第2非貴金属元素(Cr、Mo、W)の表面濃度、及びdバンドセンター(εd)を測定した。
Ni−Cr合金、Ni−Mo合金、及びNi−W合金からなる各水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Cr、Mo、W)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図6に示す。
【0047】
図4〜図6に示すごとく、前周期遷移金属による合金化により、Niのεdを低下させることができることがわかる。即ち、第1非貴金属元素(Ni)からなる非貴金属の表面を、前周期遷移金属からなる第2非貴金属で置換することにより、Niのεdを低下させ、貴金属(Ru、Rh)のεdに近づけることができる。そのため、本例の水蒸気改質用触媒は、非貴金属合金でありながら、貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。本例の水蒸気改質用触媒は、水蒸気改質によりメタンから水素を生成する反応の触媒として用いることができる。合金化によってNiのεdを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満にすることにより、Ru、Rh等の貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0048】
また、図4〜図6より知られるごとく、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値にするためには、第2非貴金属元素の表面濃度の好ましい範囲が存在することがわかる。
即ち、図4より知られるごとく、Niの表面をTiで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Ti合金)、Niの表面をHfで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Hf合金)、Niの表面をZrで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Zr合金)においては、非貴金属合金の表面におけるTi、Hf、Zrの濃度は30mol%以下であることが好ましい。
また、図5及び図6より知られるごとく、Niの表面をNbで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Nb合金)、Niの表面をMoで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Mo合金)、Niの表面をWで置換固溶した非貴金属合金(Ni−W合金)、及びNiの表面をTaで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Ta合金)においては、非貴金属合金の表面におけるNb、Mo、W、Taの濃度は40mol%以下であることが好ましい。
【0049】
また、図5より知られるごとく、Niの表面をVで置換固溶した非貴金属合金(Ni−V合金)においては、非貴金属合金の表面におけるVの濃度は45mol%以下であることが好ましい。
また、図6より知られるごとく、Niの表面をCrで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Cr合金)においては、非貴金属合金の表面におけるCrの濃度は50mol%以下であることが好ましい。
【0050】
これらの場合には、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することができる。そのため、水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0051】
また、図4より知られるごとく、Niの表面をTiで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Ti合金)、Niの表面をHfで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Hf合金)、及びNiの表面をZrで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Zr合金)においては、Ti、Hf、Zrの濃度を10〜25mol%にすることにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0052】
また、図5及び図6より知られるごとく、Niの表面をNbで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Nb合金)、Niの表面をMoで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Mo合金)、Niの表面をWで置換固溶した非貴金属合金(Ni−W合金)、及びNiの表面をTaで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Ta合金)においては、Nb、Mo、W、Taの濃度を15〜30mol%にすることにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0053】
また、図5及び図6より知られるごとく、Niの表面をVで置換固溶した非貴金属合金(Ni−V合金)、及びNiの表面をCrで置換固溶した非貴金属合金(Ni−Cr合金)においては、Nb、Crの濃度を20〜40mol%にすることにより、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0054】
このように、第1非貴金属元素と第2非貴金属元素との配合をさらに調整してdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすると、水蒸気改質用触媒の水蒸気改質性能をより向上させることが可能になる。
【0055】
(実施例2)
本例においては、第1非貴金属元素としてFeを採用し、第2非貴金属元素として、各種前周期遷移金属元素を採用し、第1非貴金属元素と第2非貴金属元素との非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒を製造する。
【0056】
本例の水蒸気改質用触媒の製造は、実施例1と同様に、含浸法により行った。具体的には、Fe金属の表面にTi、V、Ta、Nb、Cr、Mo、又はWの塩をそれぞれ付着させた後加熱することにより、Fe金属の表面をTi、V、Ta、Nb、Cr、Mo、又はWでそれぞれ置換固溶させた。これにより、Fe−Ti合金、Fe−V合金、Fe−Ta合金、Fe−Nb合金、Fe−Cr合金、Fe−Mo合金、Fe−W合金からなる各水蒸気改質用触媒を作製した。本例においても、実施例1と同様に各合金におけるTi、V、Ta、Nb、Cr、Mo、又はWの表面濃度が異なる複数の合金からなる水蒸気改質用触媒をそれぞれ作製した。なお、本例においては、含浸法により作製したが、スパッタリングにより合金を作製することもできる。
【0057】
次に、各水蒸気改質用触媒について、実施例1と同様にして、第2非貴金属元素(Ti、V、Ta、Nb、Cr、Mo、W)の表面濃度(mol%)を測定すると共に、合金における第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンター(εd)を測定した。
第2非貴金属元素として4族の前周期遷移金属であるTiを用いたFe−Ti合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Ti)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図7に示す。
また、第2非貴金属元素として5族の前周期遷移金属であるV、Nb、Taをそれぞれ用いたFe−V合金、Fe−Nb合金、Fe−Ta合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(V、Nb、Ta)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図8に示す。
また、第2非貴金属元素として6族の前周期遷移金属であるCr、Mo、Wをそれぞれ用いたFe−Cr合金、Fe−Mo合金、Fe−W合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Cr、Mo、W)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図9に示す。
【0058】
図7〜図9に示すごとく、前周期遷移金属による合金化により、Feのεdを低下させることができることがわかる。ただし、図7〜9より知られるごとく、第1非貴金属元素がFeの場合には第2非貴金属元素としてTi、V、Cr、Moを用いると、εdを十分に低下させることが困難になることがわかる。一方、第2非貴金属元素としてTa、Nb、Wを用いると、Feのεdを十分に低下させることができ、貴金属(Ru、Rh)のεdに近づけることができる(図8及び図9参照)。
したがって、少なくとも表面がFe−Ta合金、Fe−Nb合金、又はFe−W合金からなる水蒸気改質用触媒は、非貴金属合金でありながら、貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。本例の水蒸気改質用触媒は、水蒸気改質によりメタンから水素を生成する反応の触媒として用いることができる。合金化によってFeのεdを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満にすることにより、水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0059】
また、図8及び図9より知られるごとく、非貴金属合金におけるFeからなる第1非貴金属元素のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値にするためには、第2非貴金属元素(Nb、Ta、W)の表面濃度に好ましい範囲が存在することがわかる。
即ち、図8より知られるごとく、Feの表面をNbで置換固溶した非貴金属合金(Fe−Nb合金)、Feの表面をTaで置換固溶した非貴金属合金(Fe−Ta合金)においては、非貴金属合金の表面におけるNb、Taの濃度は75mol%以上であることが好ましい。
また、図9より知られるごとく、Feの表面をWで置換固溶した非貴金属合金(Fe−W合金)においては、非貴金属合金の表面におけるWの濃度は85mol%以上であることが好ましい。
これらの場合には、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Fe)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することができる。そのため、水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0060】
(実施例3)
本例においては、第1非貴金属元素としてCoを採用し、第2非貴金属元素として、各種前周期遷移金属元素を採用し、第1非貴金属元素と第2非貴金属元素との非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒を製造する。
【0061】
本例の水蒸気改質用触媒の製造は、実施例1及び2と同様に、含浸法により行った。具体的には、Co金属の表面にTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWの塩をそれぞれ付着させた後加熱することにより、Co金属の表面をTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWでそれぞれ置換固溶させた。これにより、Co−Ti合金、Co−Zr合金、Co−V合金、Co−Nb合金、Co−Ta合金、Co−Cr合金、Co−Mo合金、Co−W合金からなる各水蒸気改質用触媒を作製した。本例においても、実施例1と同様に各合金におけるTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWの表面濃度が異なる複数の合金からなる水蒸気改質用触媒をそれぞれ作製した。なお、本例においては、含浸法により作製したが、スパッタリングにより合金を作製することもできる。
【0062】
次に、各水蒸気改質用触媒について、実施例1と同様にして、第2非貴金属元素(Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はW)の表面濃度(mol%)を測定すると共に、合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンター(εd)を測定した。
第2非貴金属元素として4族の前周期遷移金属であるTi、Zrを用いたCo−Ti合金、Co−Zr合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Ti、Zr)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図10に示す。
また、第2非貴金属元素として5族の前周期遷移金属であるV、Nb、Taをそれぞれ用いたCo−V合金、Co−Nb合金、Co−Ta合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(V、Nb、Ta)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図11に示す。
また、第2非貴金属元素として6族の前周期遷移金属であるCr、Mo、Wをそれぞれ用いたCo−Cr合金、Co−Mo合金、Co−W合金からなる水蒸気改質用触媒について、第2非貴金属元素(Cr、Mo、W)の表面濃度(mol%)と、合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターεd(eV)との関係を図12に示す。
【0063】
図10〜図12に示すごとく、前周期遷移金属による合金化により、Coのεdを低下させることができることがわかる。第2非貴金属元素としてTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWを用いると、Coのεdを十分に低下させることができ、貴金属(Ru、Rh)のεdに近づけることができる(図10〜図12参照)。
そのため、これらの非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒は、非貴金属合金でありながら、貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。本例の水蒸気改質用触媒は、水蒸気改質によりメタンから水素を生成する反応の触媒として用いることができる。合金化によってCoのεdを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満にすることにより、水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵する優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0064】
また、図10〜図12より知られるごとく、非貴金属合金におけるCoからなる第1非貴金属元素のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値にするためには、第2非貴金属元素(Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の表面濃度に好ましい範囲が存在することがわかる。
即ち、図10より知られるごとく、Coの表面をTiで置換固溶した非貴金属合金(Co−Ti合金)においては、非貴金属合金の表面におけるTiの濃度は20mol%以上であることが好ましい。
また、図10より知られるごとく、Coの表面をZrで置換固溶した非貴金属合金(Co−Zr合金)においては、非貴金属合金の表面におけるZrの濃度は40mol%以上であることが好ましい。
【0065】
また、図11及び図12より知られるごとく、Coの表面をVで置換固溶した非貴金属合金(Co−V合金)、Coの表面をNbで置換固溶した非貴金属合金(Co−Nb合金)、Coの表面をCrで置換固溶した非貴金属合金(Co−Cr合金)、Coの表面をMoで置換固溶した非貴金属合金(Co−Mo合金)、及びCoの表面をTaで置換固溶した非貴金属合金(Co−Ta合金)においては、非貴金属合金の表面におけるV、Nb、Cr、Mo、Taの濃度は5mol%以上であることが好ましい。
また、図12より知られるごとく、Coの表面をWで置換固溶した非貴金属合金(Co−W合金)においては、非貴金属合金の表面におけるWの濃度は5〜80mol%以上であることが好ましい。
【0066】
これらの場合には、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンターを−1.7eVを超えかつ−1.2eV未満という値に調整することができる。そのため、水蒸気改質用触媒は、Ru、Rh等の貴金属に匹敵するより優れた水蒸気改質性能を発揮することができる。
【0067】
また、図10より知られるごとく、Coの表面をTiで置換固溶した非貴金属合金(Co−Ti合金)においては、Tiの濃度を70mol%以上にすることにより、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0068】
また、図11より知られるごとく、Coの表面をVで置換固溶した非貴金属合金(Co−V合金)、Coの表面をNbで置換固溶した非貴金属合金(Co−Nb合金)、及びCoの表面をTaで置換固溶した非貴金属合金(Co−Ta合金)においては、V、Nb、Taの濃度を50mol%以上にすることにより、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0069】
また、図12より知られるごとく、Coの表面をMoで置換固溶した非貴金属合金(Co−Mo合金)、及びCoの表面をWで置換固溶した非貴金属合金(Co−W合金)においては、Mo、Wの濃度を30〜70mol%にすることにより、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0070】
また、図12より知られるごとく、Coの表面をCrで置換固溶した非貴金属合金(Co−Cr合金)においては、Crの濃度を60mol%以上にすることにより、非貴金属合金における第1非貴金属元素(Co)のdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。
【0071】
このように、第1非貴金属元素としてCoを用いた場合においても、実施例1と同様に、第1非貴金属元素と第2非貴金属元素との配合をさらに調整してdバンドセンター(εd)を−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満にすることができる。この場合には、水蒸気改質用触媒の水蒸気改質性能をより向上させることが可能になる。
【0072】
(実施例4)
本例は、非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒を作製し、その水蒸気改質性能を調べる例である。
本例においては、第1非貴金属元素(Ni)と第2非貴金属元素(Cr)との非貴金属合金からなる水蒸気改質用触媒を製造する。本例の水蒸気改質用触媒においては、Ni金属の表面においてNiがCrで置換固溶されている。
【0073】
本例の水蒸気改質用触媒の作製にあたっては、まず、粉末状のNi(和光純薬工業(株)製)及びCr(NO3)3・9H2O(和光純薬工業(株)製)をNiとCrのモル比が2:1(Ni:Cr)となるように純水100gに混合し、ホットスターラー(アズワン製)で撹拌しながら150℃で3時間保持し水分を除去した。その後、電気炉(アズワン社製)にて大気雰囲気下で室温から500℃まで昇温し、500℃で2時間保持し原料の仮焼粉を得た。
【0074】
次に、仮焼粉を石英管に入れ、横型管状炉内に配置した。そして、管状炉内において、流速100cc/minの水素/窒素気流中で仮焼粉を温度900℃で4時間保持することにより還元焼成を行った。なお、水素/窒素気流中の水素濃度は2体積%とした。その後、得られた還元焼成粉を室温まで自然冷却した。
このようにして、NiCr合金からなる比表面積27m2/gの水蒸気改質用触媒を得た。これを試料X1とする。
試料X1について、実施例1と同様に、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンター(εd)を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0075】
次に、試料X1について、メタン転化率を測定した。
具体的には、まず、0.1g又は1.0gの試料X1に、Ar、メタン、及び水蒸気を含有する混合ガスを流通させた。そして、試料X1を通過する前の混合ガス中のメタンガス濃度(C0)及び試料X1を通過した後の混合ガス中のメタンガス濃度(C1)をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)により測定した。メタン転化率をCv(%)とすると、メタン添加率は、Cv=(C0−C1)×100/C0という式により算出した。
なお、試料X1に対する混合ガスの流通は、水:メタン=3:1(モル比)、メタン濃度:4体積%(Ar希釈)、反応温度:650℃、混合ガスの流速:1000cc/min、空間速度9000/hという条件で行った。
試料X1について、触媒量0.1gのときのメタン転化率、及び触媒量1.0gのときのメタン転化率を表1に示す。
【0076】
次に、本例においては、試料X1の比較用として、dバンドセンターの値が試料X1とは異なる5種類の触媒(試料X2〜試料X6)を用意した。
試料X2は、Ni金属粉末からなる比表面積1m2/gの触媒である。Ni金属粉末としては、市販品(上記試料X1の作製に用いた和光純薬工業(株)製のもの)を用いた。
また、試料X3は、Ru金属粉末からなる比表面積3m2/gの触媒である。Ru金属粉末としては、市販品(和光純薬工業(株)製)を用いた。
【0077】
また、試料X4は、NiMo合金からなる比表面積27m2/gの触媒である。
また、試料X5は、NiW合金からなる比表面積27m2/gの触媒である。
試料X4及び試料X5は、Cr(NO3)3・9H2Oの代わりに、それぞれ(NH4)6Mo724・4H2O和光純薬工業(株)製)及び(NH4)101241・5HO(和光純薬工業(株)製)を用いた点を除いては上記試料X1と同様にして作製した。
また、試料X6は、FeCr合金からなる比表面積27m2/gの触媒である。
試料X6の作製にあたっては、Niの代わりにFe(和光純薬工業(株)製)を用いた点を除いては上記試料X1と同様にして作製した。
【0078】
上記試料X4〜試料X6についても、上記試料X1と同様に、合金における第1非貴金属元素(Ni)のdバンドセンター(εd)を測定した。また、試料X2及び試料X3のdバンドセンター(εd)としては文献値を得た。その結果を後述の表1に示す。
【0079】
また、上記試料X2〜試料X6についても、上記試料X1と同様にして、メタン転化率を調べた。その結果を表1に示す。なお、試料X2〜試料X5については、触媒量0.1gのときのメタン転化率を測定し、試料X6については、触媒量1.0gのメタン転化率を測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
表1より知られるごとく、非貴金属合金における第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満の範囲内にあるNiCr合金からなる試料X1は、純Niからなる試料X2に比べてメタン転化率が飛躍的に向上しており、Ruからなる試料X3に匹敵する高いメタン転化率を示した。試料X1は、触媒量を増やすことにより、試料X3のメタン転化率を超える優れた水蒸気改質性能を示すことができる。
これに対し、非貴金属合金における第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eV以下である試料X4及び試料X5においては、メタン転化率が不十分であった。また、非貴金属合金における第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.2eV以上である試料X6においても、メタン転化率が不十分であった。
【0082】
このように、本例によれば、非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満である水蒸気改質触媒は、水蒸気改質性能に優れることがわかる。
【0083】
(実施例5)
本例は、比表面積の異なる水蒸気改質用触媒を作製し、その水蒸気改質性能を調べる例である。
本例においては、第1非貴金属元素(Ni)と第2非貴金属元素(Cr)との非貴金属合金からなる比表面積の異なる4種類の水蒸気改質用触媒(試料X1、試料X8〜X10)を製造する。
【0084】
具体的には、まず、上述の実施例4の上記試料X1と同様にして、仮焼粉を作製した。
次いで、流速100cc/minの水素/窒素気流中において、仮焼粉を温度900℃で4時間、12時間、24時間、又は48時間それぞれ保持することにより還元焼成を行った。なお、水素/窒素気流中の水素濃度は、実施例4と同様に2体積%とした。その後、実施例4と同様にして得られた還元焼成粉を室温まで自然冷却した。
このようにして、焼成時間が異なる4種類の水蒸気改質触媒(試料X1、試料X8、試料X9、及び試料X10)を得た。
【0085】
試料X1は、4時間還元焼成を行って作製した水蒸気改質用触媒であり、実施例4の試料X1と同様のものである。また、試料X8〜試料X10は、焼成時間を変更した点を除いては、実施例4の試料X1と同様にして作製したものである。試料X1、及び試料X8〜試料X10の焼成時間を表2に示す。
なお、本例の試料X1、及び試料X8〜試料X10は、いずれもdバンドセンターが−1.49eVのNiCr合金からなる水蒸気改質用触媒である。
【0086】
次に、本例において得られた試料X1、及び試料X8〜試料X10について、比表面積(m2/g)を測定した。比表面積は、BET法(N2吸着)により測定した。その結果を表2に示す。
また、試料X1、及び試料X8〜試料X10について、実施例4と同様にして、メタン転化率(%)を測定した。その結果を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2より知られるごとく、焼成条件を変えることにより、比表面積の異なる水蒸気改質用触媒を得ることができる。そして、比表面積を大きくすることにより、メタン転化率をより向上させることができることがわかる。表2より知られるごとく、水蒸気改質用触媒の比表面積は、10m2/g以上であることが好ましい。より好ましくは15m2/g以上がよく、さらに好ましくは20m2/g以上がよい。
【0089】
(実施例6)
本例は、水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる改質触媒体を作製し、その水蒸気改質性能を調べる例である。
図13(a)及び(b)に示すごとく、本例の改質触媒体5は、多孔質基材6と、この多孔質基材6に担持された触媒担持層7とを有する。
本例において、多孔質基材6は、コージェライトからなる円柱形状のハニカム構造体からなる。多孔質基材6は、円筒状の外周壁60と、その内側において四角形格子状に配された多孔質のセル壁61と、このセル壁61に囲まれて軸方向に伸びる多数のセル62とを有する。セル壁61は多孔質であり、微細な孔(図示略)が形成されている。そして、セル壁61上には、触媒担持層7が形成されている。
【0090】
図14に示すごとく、触媒担持層7は、多数の担体粒子71と多数の水蒸気改質用触媒粒子72とが凝集してなる。水蒸気改質用触媒粒子72よりも粒径の大きな担体粒子71と、この担体粒子71よりも粒径の小さな水蒸気改質用触媒粒子72が凝集することにより、多孔質な触媒担持層7が形成されている。
本例において、担体粒子71はアルミナからなり、水蒸気改質用触媒粒子72は、dバンドセンターが−1.49eVであるNiCr合金からなる。
【0091】
以下、本例の改質触媒体の製造方法について説明する。
具体的には、まず、粉末状のNi(和光純薬工業(株)製)4g、及び粉末状のCr(NO3)3・9H2O(和光純薬工業(株)製)13.64を純水100gに混合(Ni:Cr=2:1(モル比)となるように混合)し、ホットスターラー(アズワン製)で撹拌しながら150℃で3時間保持し水分を除去した。その後、電気炉(アズワン社製)にて大気雰囲気下で室温から500℃まで昇温し、500℃で2時間保持し原料の仮焼粉5.8gを得た。
【0092】
次に、仮焼粉をメノウ乳鉢で粉砕した後、仮焼粉1gに純水100mlを加え、さらにバインダーとしてアルミナゾル250(日産化学社製)を仮焼粉の固形分に対して10wt%になるように加えて仮焼粉スラリーを調製した。
また、直径φ23mm×軸方向の長さL50mmの円柱形状の多孔質基材を準備した。多孔質基材は、コーディエライトからなるハニカム構造体である。
【0093】
次に、多孔質基材を仮焼粉スラリーに浸漬し、仮焼粉スラリーを多孔質基材に含浸させた後、熱風乾燥器により温度150℃で多孔質基材を乾燥させた。この浸漬及び乾燥は、多孔質基材に仮焼粉が0.1g担持されるまで繰り返し行った。
次に、この仮焼粉が担持された多孔質基材を石英管に入れ、横型管状炉に設置した。そして、管状炉内において、流速100cc/minの水素/窒素気流中で仮焼粉が担持された多孔質基材を温度900℃で4時間保持することにより還元焼成を行った。なお、水素/窒素気流中の水素濃度は2体積%とした。その後、室温まで自然冷却した。
このようにして、多孔質基材6のセル壁61上に、アルミナからなる担体粒子71とNiCr合金からなる水蒸気改質用触媒粒子72とが凝集してなる多孔質の触媒担持層7を形成し、改質触媒体5を得た(図13(a)、(b)、及び図14参照)。これを試料Y1とする。
【0094】
また、本例においては、還元焼成の焼成時間を試料Y1とは変えてさらに3種類の改質触媒体(試料Y2〜試料Y4)を作製した。
具体的には、試料Y2は、還元焼成を12時間行って作製した改質触媒体である。
また、試料Y3は、還元焼成を24時間行って作製した改質触媒体である。
また、試料Y4は、還元焼成を48時間行って作製した改質触媒体である。
試料Y2〜試料Y4は、還元焼成の焼成時間を変更した点を除いては試料Y1と同様にして作製した。
【0095】
次に、上記試料Y1〜試料Y4について、触媒担持層の比表面積をBET法(N2吸着)により測定した。その結果を表3に示す。
【0096】
また、試料Y1〜試料Y4についてメタン転化率(%)を測定した。
具体的には、各試料の改質触媒体5の一方の端面51から他方の端面52に向けてセル62内に、Ar、メタン、及び水蒸気を含有する混合ガスを流通させた(図13(a)参照)。そして、各試料の改質触媒体を通過する前の混合ガス中のメタンガス濃度(C0)及び改質触媒体を通過した後の混合ガス中のメタンガス濃度(C1)をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)により測定した。メタン転化率をCv(%)とすると、メタン添加率は、Cv=(C0−C1)×100/C0という式により算出した。
なお、混合ガスの流通は、実施例4と同様に、水:メタン=3:1(モル比)、メタン濃度:4体積%(Ar希釈)、反応温度:650℃、混合ガスの流速:1000cc/min、空間速度9000/hという条件で行った。その結果を表3に示す。
【0097】
【表3】

【0098】
表3より知られるごとく、焼成条件を変えることにより、セル壁上に、比表面積の異なる触媒担持層を形成することができる。そして、比表面積を大きくすることにより、メタン転化率をより向上できることがわかる。表3より知られるごとく、水蒸気改質用触媒の比表面積は、30m2/g以上であることが好ましい。より好ましくは50m2/g以上がよく、さらに好ましくは100m2/g以上がよい。
【符号の説明】
【0099】
1 水蒸気改質用触媒
2 第1非貴金属元素
3 第2非貴金属元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非貴金属合金からなる、メタンの水蒸気改質用触媒であって、
上記非貴金属合金は、該非貴金属合金の結晶構造を決定している第1非貴金属元素と、第2非貴金属元素との2種類の非貴金属元素からなり、
上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.7eVを超え、かつ−1.2eV未満であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がFeであり、上記第2非貴金属元素がNb、W、又はTaであることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がNb又はTaであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が75mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項4】
請求項2に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がWであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が85mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項5】
請求項1に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWであることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がTiであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が20mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項7】
請求項5に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がV、Nb、Cr、Mo、又はTaであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が5mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項8】
請求項5に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がZrであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が40mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項9】
請求項5に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がWであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が5〜80mol%であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、又はWであることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項11】
請求項10に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、又はZrであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が30mol%以下であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項12】
請求項10に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がNb、Mo、W、又はTaであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が40mol%以下であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項13】
請求項10に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がVであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が45mol%以下であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項14】
請求項10に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がCrであり、上記非貴金属合金の表面における上記第2非貴金属元素の濃度が50mol%以下であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項15】
請求項1に記載の水蒸気改質用触媒において、上記非貴金属合金における上記第1非貴金属元素のdバンドセンター(εd)が−1.6eVを超え、かつ−1.35eV未満であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項16】
請求項15に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がCoであり、上記第2非貴金属元素がTi、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaであることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項17】
請求項16に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がTiであり、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が70mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項18】
請求項16に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がV、Nb、Taであり、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が50mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項19】
請求項16に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がMo又はWであり、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が30〜70mol%であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項20】
請求項16に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がCrであり、上記非貴金属合金の表面における第2非貴金属元素の濃度が60mol%以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項21】
請求項15に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第1非貴金属元素がNiであり、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、Zr、V、Cr、Mo、Nb、W、又はTaであることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項22】
請求項21に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がTi、Hf、又はZrであり、上記第2非貴金属元素の濃度が10〜25mol%であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項23】
請求項21に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がNb、Mo、W、又はTaであり、上記第2非貴金属元素の濃度が15〜30mol%であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項24】
請求項21に記載の水蒸気改質用触媒において、上記第2非貴金属元素がV又はCrであり、上記第2非貴金属元素の濃度が20〜40mol%であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の水蒸気改質用触媒において、比表面積が10m2/g以上であることを特徴とする水蒸気改質用触媒。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の水蒸気改質用触媒を多孔質基材に担持してなる改質触媒体であって、
上記水蒸気改質用触媒は、アルミナ、ジルコニア、セリア、及びシリカから選ばれる1種以上からなる担体粒子と上記水蒸気改質用触媒とが凝集してなる多孔質の触媒担持層として、上記多孔質基材に担持されていることを特徴とする改質触媒体。
【請求項27】
請求項26に記載の改質触媒体において、上記触媒担持層の比表面積は30m2/g以上であることを特徴とする改質触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−196662(P2012−196662A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3363(P2012−3363)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】