説明

水銀濃度の測定方法及び測定装置

【課題】排ガスのサンプリング中における難溶性水銀の生成及び酸化態水銀の還元を抑制することにより、排ガス中の水銀を化学形態別に高い精度で検出する。
【解決手段】導管2内に導いて採取したガス11を酸化態水銀を吸収する第1の溶液3と接触させてガス中の酸化態水銀を捕集する第1の工程と、第1の工程で第1の溶液に捕集されなかったガスを金属水銀を捕捉する水銀捕集剤5又は金属水銀を吸収する第2の溶液21と接触させてガス中の金属水銀を捕集する第2の工程と、第1の工程で第1の溶液に捕集された酸化態水銀の濃度と、第2の工程で固体又は第2の溶液に捕集された金属水銀の濃度をそれぞれ測定する第3の工程とを含み、第1の工程は、導管内を流れるガスをガス通流方向に沿って徐冷すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中の水銀濃度を測定する方法及びその測定装置に係り、特に、石炭焚き火力発電所等から排出される排ガス中に含まれる水銀を、酸化態水銀と金属水銀とに分けて測定する方法及びその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧米を中心として、火力発電所用ボイラの排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、さらには水銀(Hg)の排出規制を強化する動きが強まっている。特に、排ガス中に含まれる水銀は、酸化態水銀と金属水銀に大別され、排ガス温度や排ガス中の塩素(Cl)、臭素(Br)等のハロゲン化合物の濃度、SOx濃度、水分量等の変化によって、その化学形態が大きく変化する。さらに、排ガス中に含まれる水銀量は微量であるため、脱硝装置や集塵装置或いは脱硫装置等での水銀の挙動を正確に把握するためには、排ガス中の酸化態水銀と金属水銀とを化学形態別に精度よく測定できる方法が不可欠である。
【0003】
排ガス中の水銀の測定方法としては、日本工業規格(JIS K−0222)に規定される方法や、米国材料・試験協会(ASTM D6784−02)に規定されるオンタリオハイドロ法と称する方法が提案されている。
【0004】
JISに規定される測定方法では、排ガス中の全水銀濃度を測定する方法として、導管を用いて採取した排ガスを硫酸酸性の過マンガン酸カリウム溶液を入れた吸収瓶に導き、排ガス中の水銀を過マンガン酸カリウム溶液中に吸収させ、その吸収液を還元処理することにより吸収液から空気で水銀を気相中に追い出し、その気相中の水銀量を原子吸光分析法により測定する方法が示されている。また、排ガス中の金属水銀の濃度を測定する方法として、導管を用いて採取した排ガスを水やリン酸緩衝液中に通気した後、その通気した排ガスを金−アマルガム捕集管に導いて排ガス中の金属水銀を捕集させ、その後、捕集管を加熱しながら通気して、気相中に移行した水銀を原子吸光分析法により測定する方法が示されている。
【0005】
一方、オンタリオハイドロ法は、導管を用いて採取した煙道中の排ガスを、KCl溶液、過酸化水素水と硝酸の混合液及び硫酸酸性の過マンガン酸カリウム溶液を含んだ吸収瓶へ順番に通気させた後、KCl溶液に吸収された水銀を酸化態水銀、過酸化水素水と硝酸の混合液及び硫酸酸性の過マンガン酸カリウム溶液に吸収された水銀を金属水銀として、化学形態別に分けて測定するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS K0222−1997
【非特許文献2】ASTM D6784−02(Standard Test Method for Elemental, Oxidized, Particle-Bound, andTotal Mercury in Flue Gas Generated from Coal-Fired Stationary Sources)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法では、排ガスの性状やガスのサンプリング条件の設定等によって、採取されたガスが導管内を流れて吸収瓶に至るまでの過程で、ガス中に難溶性の水銀が発生することが分かってきた。そのため、吸収液を用いて水銀を吸収させる方法では、水銀を完全に捕集できないことがある。
【0008】
また、採取されたガス中にSOが存在する場合、導管内で凝縮した水分にSOが吸収されて亜硫酸となり、この亜硫酸が酸化態水銀と反応することにより、酸化態水銀が金属水銀に還元される。このため、排ガス中の水銀を酸化態水銀と金属水銀の化学形態別に計測する場合、各形態の測定値に誤差が生じ易くなる。
【0009】
そこで、本発明は、排ガスのサンプリング中における難溶性水銀の生成及び酸化態水銀の還元を抑制することにより、排ガス中の水銀を化学形態別に高い精度で検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題点に対して鋭意検討を進めた結果、排ガス中から導管でサンプリングしたガスを計測する際、以下の現象が生じることを知見した。
【0011】
(1)排ガスのサンプリング中における難溶性の水銀の生成は、排ガスの採取導管から吸収瓶に至るまでの導管内のガスが、放熱によって急速に冷却される過程で生じる。
(2)導管内に導いた排ガス中にSOが存在すると、上記(1)の過程における難溶性のミスト状水銀の生成が加速される。
(3)ミスト状水銀の生成量は導管内に導いたガス中のSO濃度に依存性を持ち、SO濃度が高くなると、増加する傾向にある。
(4)導管内に導いた排ガスが吸収瓶に向かって流れる過程で、排ガスの温度が水の露点以下になると、導管内で水が凝縮し、さらにその凝縮水に吸収されたSOが亜硫酸となることにより、亜硫酸と酸化態水銀とが反応し、酸化態水銀が金属水銀に還元される(反応式(1)〜(3))。
SO+HO(l) → 2SO2−+2H (1)
HgCl+SO2−+HO → Hg+SO2−+2H+2Cl (2)
HgBr+SO2−+HO → Hg+SO2−+2H+2Br (3)
【0012】
上記(1)〜(3)に記載したように、排ガスのサンプリング中に導管内でガスが急冷されると、固体微粒状と思われる形態の水銀が生成する。このような水銀は、難溶性の物質であると考えられ、溶液中に吸収させて捕集することが困難となる。また、ガス中にSOが存在すると、この難溶性水銀の生成が促進されるが、これは、導管内のガスの急冷に伴って、サブミクロンオーダーの難溶性のSOミストへ水銀が吸着或いは内包される形で取り込まれるためと考えられる。
【0013】
以上のことから、導管を流れる排ガスが急速に冷却される条件でサンプリングを行った場合、排ガスを酸化態水銀の吸収液と金属水銀の吸収液の順に通過させたとしても、ガス中の水銀をすべて捕集することができず、精度の高い測定が困難となる。
【0014】
そこで、本発明は、上記課題を解決するため、ガス中の水銀濃度を酸化態水銀と金属水銀とに分けて測定する水銀濃度の測定方法において、導管内に導いて採取したガスを酸化態水銀を吸収する第1の溶液と接触させてガス中の酸化態水銀を捕集する第1の工程と、この第1の工程で第1の溶液に捕集されなかったガスを金属水銀を捕捉する固体又は金属水銀を吸収する第2の溶液と接触させてガス中の金属水銀を捕集する第2の工程と、第1の工程で第1の溶液に捕集された酸化態水銀の濃度と、第2の工程で固体又は第2の溶液に捕集された金属水銀の濃度をそれぞれ測定する第3の工程とを含み、第1の工程は、導管内を流れるガスをガスの通流方向に沿って徐冷することを特徴とする。
【0015】
このようにすれば、導管内に導いたガスを、急冷させることなく、徐々に冷やしながら導管内を通流させることができるため、第1の溶液に至るまでの過程で難溶性水銀の生成及び酸化態水銀の還元を抑制することができる。このため、導管を通過して第1の溶液に導かれたガスは、酸化態水銀の全て或いはその大部分が第1の溶液に吸収され、金属水銀の全て或いはその大部分が第2の溶液に吸収されるため、各々捕捉された水銀量を検出することにより、ガス中の水銀を化学形態別に高い精度で検出することが可能となる。
【0016】
この場合において、第3の工程には、導管内に付着した酸化態水銀の濃度の測定を含むものとする。このようにすれば、酸化態水銀の濃度の測定精度をさらに高めることができる。
【0017】
より具体的には、導管内を流れるガスは、ガス温度が200℃以下の範囲で、通流方向に5℃/cm以下の温度勾配で徐冷すると共に、水の露点温度よりも高い温度で保持するようにする。このようにすれば、導管内を通流するガスの結露を防ぐことができるため、ガス中にSOが存在していても、酸化態水銀の還元を効率的に抑制することができ、化学形態別の測定精度をさらに高めることができる。
【0018】
また、本発明は、ガス中の水銀濃度を酸化態水銀と金属水銀とに分けて測定する水銀濃度の測定装置において、ガスを導入する導管と、この導管を通じて採取されたガスと酸化態水銀を吸収する第1の溶液とを接触させてガス中の酸化態水銀を捕集する第1の反応部と、この第1の反応部の第1の溶液に捕集されなかったガスと金属水銀を捕捉する固体又は金属水銀を吸収する第2の溶液とを接触させてガス中の金属水銀を捕集する第2の反応部と、第1の反応部で第1の溶液中に捕集された酸化態水銀を気相中に移行させ、気相中の水銀濃度を測定する第1の測定手段と、第2の反応部で前記固体又は第2の溶液中に捕集された金属水銀を気相中に移行させ、気相中の水銀濃度を測定する第2の測定手段とを備え、導管には長手方向に沿って複数のヒータが設けられ、ヒータの加熱温度はガス通流方向に向かって段階的又は連続的に低下するように設定されるものとする。
【0019】
また、導管は、該導管の内壁にガス中の成分が慣性衝突するように形成されていることが好ましい。このような導管であれば、ガス中のSOミストを導管の内壁面に衝突させて捕集することができるため、SOミストに同伴していた僅かな水銀も見逃すことなく回収することができるため、測定精度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、排ガスのサンプリング中における難溶性水銀の生成及び酸化態水銀の還元を抑制することにより、排ガス中の水銀を化学形態別に高い精度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例を示す水銀濃度測定装置の基本的な構成を示す図である。
【図2】本発明の水銀濃度測定装置に用いられる導管の構成を説明する図である。
【図3】本発明の一実施例を示す水銀濃度測定装置の基本的な構成を示す図である。
【図4】実施例1と比較例1、2において、導管内を通流するガスの温度変化の様子を説明する図である。
【図5】本発明の一実地例を示す水銀濃度測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の水銀濃度の測定方法及び測定装置を用いた実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明を適用してなる水銀濃度測定装置の基本的な構成を説明する図である。この水銀濃度測定装置は、被測定ガスが通流する円筒状の石英製の高温層1と、被測定ガスを採取するためのガラス製の導管2と、酸化態水銀と溶液3とを接触させて酸化態水銀を溶液3に吸収させる吸収瓶4と、吸収瓶4から抜き出された被測定ガスを導入して溶液3に吸収されなかった金属水銀を水銀捕集剤5と接触させて金属水銀を捕捉させる捕集管6と、吸引ポンプ7と、ガスメータ8を、図1に示すように順次接続してガスサンプリングラインを構成している。また、このようなガスサンプリングラインには、吸収瓶4で捕捉した酸化態水銀と捕集管6で捕捉した金属水銀の濃度とをそれぞれ検出する検出部(図示せず)が接続されている。
【0024】
高温層1はその周囲が電気炉9で加熱されることにより炉内が所定の高温に保たれるようになっている。高温層1の炉内のガス流路には、水銀の酸化触媒の充填層10が形成され、この充填層10の上流側には、被測定ガス(以下、ガス11という)を炉内に導入する導入口(図示せず)が設けられ、充填層10の下流側には、導管2の一端側が挿入されている。
【0025】
吸収瓶4は、溶液3とガス11とを接触させる密閉された反応管となっている。吸収瓶4には、導管2の他端側が挿入されており、その先端部分が溶液3の液中に位置するようになっている。ここで、溶液3とは、ガス11中の酸化態水銀を吸収可能な溶液として、例えば1N−KCl溶液(30cc)を用いることができる。
【0026】
捕集管6は、吸収瓶4から取り出されたガス11を導入して、溶液3に吸収されなかったガス11中の金属水銀と水銀捕集剤5とを接触させる密閉された反応管となっている。捕集管6のガス流路には、水銀捕集剤5が充填されている。ここで、水銀捕集剤5とは、金属水銀を捕捉可能な固体で、例えば、金−アマルガム(日本インスツルメンツ製、充填量:約30mg)の捕集剤を用いることができる。
【0027】
導管2は、高温層1の出口から吸収瓶4の入口に至るまでの領域、つまり外周面が外部に露出する領域に、導管2の長手方向に沿って、複数のフレキシブルヒータ12が巻き付けられている。各々のフレキシブルヒータ12は、図示しない制御手段と接続され、加熱出力が制御されるようになっている。ここで、フレキシブルヒータ12は、導管2の長手方向に例えば5cm刻みで5つ設けられており、それぞれのフレキシブルヒータ12の加熱出力が調整できるようになっている。より具体的には、高温層1内から出たガス11が、所定の温度範囲において、所定の温度勾配で徐々に冷却されるように、それぞれのフレキシブルヒータ12の加熱出力が、ガスの通流方向に向かって段階的に低くなるように設定されている。
【0028】
このようにして構成される水銀濃度測定装置において、高温層1の導入口からガス11が導入される。高温層1に導入されたガス11は、高温層1内で約400℃に加熱され、さらに充填層10を通過する際にガス11中の水銀の一部が酸化される。充填層10を通過したガス11は、その一部が、吸引ポンプ7の吸引により高温層1内に導入された導管2によって採取される。導管2内に導かれた高温のガス11は、高温層1から出て導管2内を流れる際に、フレキシブルヒータ12の温度制御によって徐冷される。導管2内を流れて所定の温度まで徐冷されたガス11は、吸収瓶4に導かれ、ここで、ガス中の酸化態水銀が溶液3に吸収される。続いて、酸化態水銀が吸収されたガス11は、捕集管6に流入し、ここで、ガス中の金属水銀が水銀捕集剤5に捕捉される。このようにして化学形態別の水銀が捕捉されたガス11は、吸引ポンプ7を経由してガスメータ8に導かれ、採取した排ガス量等が測定される。
【0029】
次に、採取したガス11中から捕捉された水銀の濃度を検出する。先ず、吸収瓶4の溶液3に吸収された水銀、つまり酸化態水銀の量は、例えば、溶液3に周知の還元剤を添加して還元処理を施すことにより、酸化態水銀をガス状の金属水銀に還元して気相中に追い出し、その気相中の水銀濃度を原子吸光法で測定することにより検出することができる。また、捕集管6の水銀捕集剤5に捕捉された水銀、つまり金属水銀の量は、例えば、捕集管6を加熱しながら通気して水銀捕集剤5に捕捉された水銀を気相中に追い出し、その気相中の水銀濃度を原子吸光法で測定することにより検出することができる。
【0030】
また、導管2の内壁面には、ガス11に含まれる水銀、具体的には酸化態水銀が付着していることが、発明者らの調査で確認されている。このため、上記の検出方法に加えて、導管2に付着した水銀を洗浄液で洗浄し、その洗浄液中の水銀を、例えば上記と同様の還元処理により気相中に追い出して原子吸光法で測定する。このようにして導管2の内壁面に付着した水銀の量を測定し、測定された水銀量を酸化態水銀の量とみなし、溶液3に吸収された酸化態水銀の量と合算することにより、ガス11中の酸化態水銀の濃度をより正確に検出することができる。ここで、導管2の内壁面の洗浄に用いる洗浄液としては、例えば、過マンガン酸カリウム溶液(1.5g/L)及び塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液(20g/Lを用いることができる。
【0031】
本実施形態では、高温層1内で高温に加熱されたガス11を導管2により採取し、その採取したガス11を、所定の温度範囲において、所定の温度勾配で段階的或いは連続的に徐冷した後、吸収瓶4に導いて酸化態水銀を溶液3に吸収させ、さらに捕集管6に導いて金属水銀を水銀捕集剤5に捕捉させるようにしている。すなわち、採取した高温のガス11を急冷させることなく、徐々に冷却させながら導管2内を通流させているため、化学形態別に水銀を捕捉する前の段階で、難溶性水銀の生成や酸化態水銀の還元を抑えることができる。したがって、採取したガス11中に含まれる酸化態水銀の全て或いはその大部分が溶液3に吸収され、金属水銀の全て或いはその大部分が水銀捕集剤5に吸収されるため、各溶液に吸収された水銀の濃度を測定することにより、採取したガス11中の水銀を、化学形態別に高い精度で計測することができる。尚、導管2により採取したガス11の徐冷手段は、フレキシブルヒータ12に限られるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
次に、本発明の具体的な実施例を説明する。本実施例では、図1の水銀濃度測定装置を用いて、表1に示す成分のガス11をサンプリングし、ガス11中に含まれる水銀濃度を化学形態別に計測した。本実施例では、導管2より採取したガス11が高温層1を出て吸収瓶4に至るまでの温度がガスの通流方向に向かって5℃/cmの温度勾配で低下するように、フレキシブルヒータの制御温度(加熱温度)をガスの通流方向に向かって175℃、150℃、125℃、100℃、75℃、50℃の順に設定した。また、導管2は、図2の(a)に示すようにストレート形状で延出するガラス管を用いた。
【表1】

【0033】
(実施例2)
実施例1において、水銀捕集剤5が充填された捕集管6を、溶液21(硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液)を30cc入れた吸収瓶22に換え(図3)、以下同様にしてガス11を採取し、水銀濃度を化学形態別に計測した。
【0034】
(実施例3)
実施例1において、図2(a)の導管2を、図2(b)に示すように長手方向で波型に屈曲する形状で延出するガラス管に換え、以下同様にしてガス11を採取し、水銀濃度を化学形態別に計測した。
【0035】
(実施例4)
実施例1において、図2(a)の導管2を、図2の(c)に示すように長手方向で渦巻状に形成する部分を有するガラス管に換え、以下同様にしてガス11を採取し、水銀濃度を化学形態別に計測した。
【0036】
(比較例1)
実施例2において、導管2に巻き付けたフレキシブルヒータ12の加熱を停止させた状態とし、以下同様にしてガス11を採取し、水銀濃度を化学形態別に計測した。
【0037】
(比較例2)
実施例2において、導管2に巻き付けたフレキシブルヒータ12の制御温度をすべて120℃に設定して温度勾配をつけずに導管2が保温される状態とし、以下同様にしてガス11を採取し、水銀濃度を化学形態別に計測した。
【0038】
(リーク水銀の確認試験)
本発明における水銀濃度の測定方法は、ガス中の水銀を化学形態別に確実に捕集することを目的としている。そこで、本発明の効果を明確にするため、上記実施例1〜4及び比較例1、2のサンプリングラインの最後段(吸引ポンプ7の手前)に、ガラスフィルタ(ADVANTEC製、QR-100)を入れたホルダーを配置し、これによりリーク水銀を捕集できるようにした。サンプリング後のフィルタ中の水銀量の測定は、フィルタを50ccの硫酸酸性過マンガン酸カリウム(1.5g/L)に漬け、約70℃で4時間湯せん後、溶液中に溶け出した水銀を原子吸光法で測定した。
【0039】
実施例1〜4及び比較例1、2において、それぞれ得られた水銀のサンプリング分析結果並びにリーク水銀量の分析結果を表2にまとめて示す。表2の数値は1回のガス採取で計測された水銀量をそれぞれ示している。(A)は充填層10の入口側におけるガス11中の水銀量、(B)は吸収瓶4の溶液3に吸収された酸化態水銀量と導管2の内壁面に付着した酸化態水銀量の合計値、(C)は捕集管6の水銀捕集剤5に捕捉され或いは吸収瓶22の溶液21に吸収された金属水銀量、リーク水銀はホルダーに捕集された水銀量を示し、水銀回収率(5)は(B+C)/Aの計算値、水銀酸化率(%)はB/Aの計算値をそれぞれ示している。また、実施例1及び比較例1、2の方法でサンプリングを実施する際に高温層1から出て吸収瓶4に至るまでの導管2内のガス通流方向の温度推移を図4に示す。
【表2】

【0040】
表2に示すように、比較例1及び2では、水銀回収率が約90%と低く、残りの約1割はサンプリングラインで捕集されずにリークしていることが分かる。これは、高温層1から採取されたガス11が導管2内を流れる過程で、ガス中に難溶性の水銀が生成したことによるものと考えられる。
【0041】
また、水銀酸化率では、比較例1が約75%、比較例2が約64%と、充填層10の同じ酸化触媒を通過させたガス11を評価しているにも関わらず、約10%もの差が見られる。これは、比較例1の場合、高温層1を出たガス11が保温されないため、導管2内を通流する際にガス温度が急激に低下して、微粒のSOミストが大量に発生したことによるものと推測される。
【0042】
一方、比較例2では、導管2内で水の凝縮を防止するため、高温層1を出たガス11を120℃で保温するようにしているが、この場合、120℃のガス11が常温の溶液3中に通気されるため、その温度差が大きく、ガス11が急冷される状態となる。その結果、ガス11中において微粒硫酸ミストが多く生成され、難溶性の水銀が容易に生成されたものと考えられる。そして、本来酸化態水銀として検出される水銀が、導管2内で難溶性の水銀に変化したことにより、溶液21でその一部が吸収され、金属水銀の検出量が多くなったものと推測される。
【0043】
以上のことから、導管2内の保温条件がサンプリングラインでのHg回収率やHg酸化率に大きく影響することは明らかである。
【0044】
上記比較例1、2に対し、本発明の実施例1及び実施例2の結果(表2)をみると、水銀回収率は98〜99%でリーク水銀も極僅かと良好な結果となっている。これは、導管2内を流れるガス11が所定の温度勾配で冷却されるようにフレキシブルヒータ12の加熱出力を制御したためである。すなわち、図4に示すように、導管2内を流れるガス11を、特に200℃以下において、徐々に冷却すると共に水の露点よりも高い温度に保つことにより、難溶性の水銀の生成を抑制し、高い水銀回収率と水銀酸化率を得ることができる。また、実施例3及び4では、図2(b)、(c)のように、導管2を波型或いは渦巻状(スパイラル型)に形成したものを用いているため、リーク水銀をほぼゼロにすることができる。これは、導管2内を流れるガス11の流れが乱れることにより、ガス11中のSOミストが内壁面に慣性衝突して捕集されるため、同伴するわずかな水銀も逃さず回収できるものと推測される。
【0045】
(実施例5)
次に、本発明を実施するための他の実施例について図5を用いて説明する。図5は、本発明を適用した実際のボイラ排ガス中の水銀分析を実施するための水銀濃度測定装置の一例を示したものである。この水銀濃度測定装置のサンプリングラインは、煙道111を流れる排ガスを採取する導管101、ダストフィルタユニット102、徐冷制御ユニット103、KCl溶液等を入れた酸化態水銀の吸収瓶107、硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液を入れた金属水銀の吸収瓶108、吸引ポンプ109及びガスメータ110で構成される。また、図示しないが、吸収瓶107、108に吸収された水銀量をそれぞれ計測する計測手段が設けられている。
【0046】
徐冷制御ユニット103の内部に収容される導管101には、その長手方向に複数のヒータが取り付けられている。徐冷制御ユニット103の内部には温度計104が設けられ、導管101の表面温度或いは導管101内を流れる排ガスの温度が検知できるようになっている。温度計104で検出された結果は、電気信号で温度モニタ105に表示されると共にその検出結果が演算器106で処理される。これにより、温度計104から出力された信号強度により演算された信号を徐冷制御ユニットの各ヒータに返し、ユニット内の導管101の温度を設定温度まで冷却制御するようになっている。
【0047】
ここで、導管101内のガスが徐冷される温度勾配は、ガス温度が200℃以下において、徐冷制御ユニット103内の導管101の長さに対し、例えば5℃/cm以下となるように制御するのが良い。加えて、ガス温度は、導管101内において、水の露点温度よりも高い温度に保持するようにする。導管101を保温するヒータは、フレキシブルヒータや小型の電気炉を複数個並べ、それぞれ個別に温度を制御するか、或いは、熱電線を導管101に巻き付けてその熱電線に流す電流を制御するように設定する方法がある。サンプリングするガス量が多く、ガスの放熱によって導管101の温度が高くなりすぎる場合には、ペルチェ素子などの電子素子を併用して導管101を冷却するようにしてもよい。
【0048】
このように、排ガスが流れる導管101の温度を制御することにより、排ガス条件や外気雰囲気が変動した場合でも、導管101内を適度に徐冷することができ、かつ、導管101内での水の結露を防止することができるため、排ガスのサンプリング中における難溶性の水銀の生成及び酸化態水銀の還元を防止することができる。したがって、常時、高い精度の水銀測定を化学形態別で行うことが可能となり、石炭焚きボイラ等における多様な排ガス条件に対応可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 高温層
2 導管
3 溶液
4 吸収瓶
5 水銀捕集剤
6 捕集管
7 吸引ポンプ
8 ガスメータ
9 電気炉
10 充填層
11 ガス
12 フレキシブルヒータ
21 溶液
22 吸収瓶
104 温度計
105 温度モニタ
106 演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中の水銀濃度を酸化態水銀と金属水銀とに分けて測定する水銀濃度の測定方法において、
導管内に導いて採取した前記ガスを酸化態水銀を吸収する第1の溶液と接触させて前記ガス中の酸化態水銀を捕集する第1の工程と、該第1の工程で前記第1の溶液に捕集されなかった前記ガスを金属水銀を捕捉する固体又は金属水銀を吸収する第2の溶液と接触させて前記ガス中の金属水銀を捕集する第2の工程と、前記第1の工程で前記第1の溶液に捕集された前記酸化態水銀の濃度と、前記第2の工程で前記固体又は前記第2の溶液に捕集された前記金属水銀の濃度をそれぞれ測定する第3の工程とを含み、
前記第1の工程は、前記導管内を流れる前記ガスを該ガスの通流方向に沿って徐冷することを特徴とする水銀濃度の測定方法。
【請求項2】
前記第3の工程は、前記導管内に付着した前記酸化態水銀の濃度の測定を含むことを特徴とする請求項1に記載の水銀濃度の測定方法。
【請求項3】
前記導管内を流れる前記ガスは、ガス温度が200℃以下の範囲で、通流方向に5℃/cm以下の温度勾配で徐冷されると共に水の露点温度よりも高い温度に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水銀濃度の測定方法。
【請求項4】
ガス中の水銀濃度を酸化態水銀と金属水銀とに分けて測定する水銀濃度の測定装置において、
前記ガスを導入する導管と、該導管を通じて採取された前記ガスと酸化態水銀を吸収する第1の溶液とを接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第1の反応部と、該第1の反応部の前記第1の溶液に捕集されなかったガスと金属水銀を捕捉する固体又は金属水銀を吸収する第2の溶液とを接触させて該ガス中の金属水銀を捕集する第2の反応部と、前記第1の反応部で前記第1の溶液中に捕集された酸化態水銀を気相中に移行させ、該気相中の水銀濃度を測定する第1の測定手段と、前記第2の反応部で前記固体又は前記第2の溶液中に捕集された金属水銀を気相中に移行させ、該気相中の水銀濃度を測定する第2の測定手段とを備え、
前記導管には長手方向に沿って複数のヒータが設けられ、該ヒータの加熱温度は前記ガスの通流方向に向かって段階的又は連続的に低下するように設定されることを特徴とする水銀濃度の測定装置。
【請求項5】
前記導管は、該導管の内壁に前記ガス中の成分が慣性衝突するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の水銀濃度の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−249643(P2010−249643A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98965(P2009−98965)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】