説明

水電解システム及びその運転停止方法

【課題】運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制してシステム効率の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置12を備える水電解システム10の運転停止方法に関するものである。この運転停止方法は、電解電流を印加した状態で、カソード側に連通する脱圧ライン86に配設された脱圧用バルブ88を開弁させる工程と、所定サイクル毎に、電解電流値を低減させる工程と、高圧水素製造装置12に供給される水の比抵抗値を検出する工程と、前記比抵抗値が所定値以下に低下した際、前記電解電流値を少なくとも前回の前記電解電流値以上の値に上昇させる工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置を備える水電解システム及びその運転停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード側電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード側電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素イオンと共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の水電解装置では、カソード側に高圧(一般的には、1MPa以上)な水素を生成する高圧水素製造装置が採用されている。この高圧水素製造装置では、固体高分子膜を挟んでカソード側セパレータの流体通路に高圧水素が充填される一方、アノード側セパレータの流体通路には、常圧の水及び酸素が存在している。このため、運転停止(生成水素の供給終了)時には、固体高分子膜を保護するために、前記固体高分子膜の両側の圧力差を除去する必要がある。
【0006】
従って、通常、各給電体への電力の供給をゼロにして水電解処理を停止した後、カソード側の流体通路に充填されている水素の圧力を強制的に脱圧し、前記水素の圧力を常圧付近まで減圧させる処理が行われている。
【0007】
その際、水素圧力の減圧が急激に行われると、固体高分子膜の内部に滞留している水素ガスが膨張し、ブリスターが発生するおそれがあり、減圧は時間をかけて徐々に行う必要がある。これにより、電解処理が停止してから、カソード側の流体通路の水素圧力が常圧になるまでに相当な時間を要してしまい、その間にカソード側からアノード側へと水素が透過(クロスリーク)するおそれがある。このため、アノード触媒が水素によって還元され、水電解性能が低下するという問題がある。
【0008】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている水電解装置の運転停止方法では、カソード側電解室から水素の供給が停止された後、電圧を印加する工程と、前記電圧を印加した状態で、少なくとも前記カソード側電解室の減圧を行う工程とを有している。
【0009】
これにより、カソード側からアノード側にリークした水素は、印加電圧により再度プロトン化し、膜ポンプ効果によって電解質膜を透過してカソード側に戻される。このため、高圧水素の滞留を抑制することができ、触媒電極の水素による還元(劣化)を阻止することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−236089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の運転停止方法では、水素の膜ポンプ効果に比べて水素のクロスリーク量が多いと、クロスリーク水素や酸素等が固体高分子電解質膜の膜成分と反応し、前記膜成分が流出するおそれがある。
【0012】
一方、水素のクロスリークを抑制するために、電解電流値を増加させて膜ポンプ効果の向上を図ることが考えられる。しかしながら、廃棄される水素量が増加してしまい、システム効率が低下するという問題がある。
【0013】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制してシステム効率の向上を図ることが可能な水電解システム及びその運転停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置を備える水電解システムの運転停止方法に関するものである。
【0015】
この運転停止方法では、電解電流を印加した状態で、カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値又は導電率を検出する工程と、前記比抵抗値が所定値以下に又は前記導電率が所定値以上に変化した際、前記電解電流値を上昇させる工程とを有している。
【0016】
また、本発明に係る水電解システムの運転停止方法では、電解電流を印加した状態で、カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値又は導電率を検出する工程と、前記カソード側の圧力を検出する工程と、前記比抵抗値が所定値以下に又は前記導電率が所定値以上に変化した際、前記カソード側の検出圧力に基づいて前記電解電流値を制御する工程とを有している。
【0017】
さらに、本発明に係る水電解システムの運転停止方法では、カソード側への透過水を規制する前記カソード側の圧力と電解電流との関係をマップとして作成する工程と、前記電解電流を印加した状態で、前記カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、前記カソード側の圧力を検出し、前記カソード側の検出圧力に対応する前記電解電流を前記マップから算出する工程と、算出された前記電解電流を印加する工程とを有している。
【0018】
さらにまた、本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置と、前記高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を気液分離する気液分離装置と、前記高圧水素製造装置から排出される前記ガス成分を含む未反応の水を、前記気液分離装置に導入する戻しラインと、前記気液分離装置に貯蔵された水を前記高圧水素製造装置に供給する供給ラインとを備える水電解システムに関するものである。
【0019】
この水電解システムでは、供給ラインには、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値又は導電率を検出する検出装置が配設されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値が所定値以下に又は導電率が所定値以上に変化した際、すなわち、膜成分が流出したことが検出された際、電解電流値を上昇させている。このため、水素のクロスリーク量に対して水素の膜ポンプ効果が向上し、膜成分の流出が抑制される。
【0021】
これにより、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができ、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0022】
また、本発明によれば、水の比抵抗値が所定値以下に又は導電率が所定値以上に変化した際、カソード側の検出圧力に基づいて電解電流値が制御されている。従って、カソード側の圧力に対応して最適な電解電流値が得られる。このため、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができ、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0023】
さらに、本発明によれば、カソード側への透過水を規制する前記カソード側の圧力と電解電流との関係をマップとして作成し、前記カソード側の検出圧力に対応する前記電解電流を前記マップから算出して印加している。これにより、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができ、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0024】
さらにまた、本発明によれば、供給ラインには、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値又は導電率を検出する検出装置が配設されている。従って、高圧水素製造装置に供給される水の比抵抗値又は導電率が検出されるため、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができ、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る運転停止方法が適用される水電解システムの概略構成説明図である。
【図2】第1の実施形態に係る水電解システムの運転停止方法を説明するフローチャートである。
【図3】印加される電解電流の説明図である。
【図4】前記運転停止方法における水素の挙動の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る運転停止方法が適用される水電解システムの概略構成説明図である。
【図6】圧力と電流値との関係を示す制御マップである。
【図7】第2の実施形態に係る運転停止方法を説明するフローチャートである。
【図8】第3の実施形態に係る運転停止方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る運転停止方法が適用される水電解システム10は、水(純水)を電気分解することによって酸素及び高圧水素(常圧である酸素圧力よりも高圧、例えば、1MPa〜70MPaの水素)を製造する高圧水素製造装置(差圧式水電解装置)12と、前記高圧水素製造装置12に一端が接続され、該高圧水素製造装置12から排出されるガス成分(酸素及び水素)を含む未反応の水を気液分離する気液分離装置14と、前記高圧水素製造装置12から排出される前記ガス成分を含む未反応の水を、前記気液分離装置14に導入する戻しライン16と、前記気液分離装置14に貯蔵された水を前記高圧水素製造装置12に供給する供給ライン18と、前記水から純水を製造し、前記純水を前記気液分離装置14に補給する純水製造装置20と、制御部(ECU)22とを備える。
【0027】
高圧水素製造装置12は、複数の単位セル24を積層して構成される。単位セル24の積層方向一端には、ターミナルプレート26a、絶縁プレート28a及びエンドプレート30aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル24の積層方向他端には、同様にターミナルプレート26b、絶縁プレート28b及びエンドプレート30bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート30a、30b間は、一体的に締め付け保持される。
【0028】
ターミナルプレート26a、26bの側部には、端子部34a、34bが外方に突出して設けられる。端子部34a、34bは、配線36a、36bを介して電解電源38に電気的に接続される。
【0029】
単位セル24は、円盤状の電解質膜・電極構造体42と、この電解質膜・電極構造体42を挟持するアノードセパレータ44及びカソードセパレータ46とを備える。アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0030】
電解質膜・電極構造体42は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜48と、前記固体高分子電解質膜48の両面に設けられるアノード給電体50及びカソード給電体52とを備える。
【0031】
固体高分子電解質膜48の両面には、アノード電極触媒層50a及びカソード電極触媒層52aが形成される。アノード電極触媒層50aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層52aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0032】
アノード給電体50及びカソード給電体52は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード給電体50及びカソード給電体52は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0033】
単位セル24の外周縁部には、積層方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔56と、反応により生成された酸素及び未反応の水(混合流体)を排出するための排出連通孔58と、反応により生成された水素を流すための水素連通孔60とが設けられる。
【0034】
アノードセパレータ44の電解質膜・電極構造体42に向かう面には、水供給連通孔56に連通する第1流路64が設けられる。この第1流路64は、アノード給電体50の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0035】
カソードセパレータ46の電解質膜・電極構造体42に向かう面には、水素連通孔60に連通する第2流路68が形成される。この第2流路68は、カソード給電体52の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0036】
気液分離装置14は、タンク部70を備える。タンク部70には、戻しライン16、供給ライン18、水補給ライン72及びガス排気ライン74が接続される。戻しライン16は、高圧水素製造装置12の排出連通孔58に接続される一方、供給ライン18は、前記高圧水素製造装置12の水供給連通孔56に接続される。水補給ライン72には、純水製造装置20が配設されるとともに、ガス排気ライン74は、タンク部70で純水から分離された酸素及び水素を排出する機能を有する。
【0037】
タンク部70の底部に接続される供給ライン18には、比抵抗計(検出装置)76、循環ポンプ78及びイオン除去装置(例えば、イオン交換樹脂)80が配設される。比抵抗計76は、タンク部70と循環ポンプ78との間に配置されているが、前記循環ポンプ78とイオン除去装置80との間に、又は前記イオン除去装置80と水供給連通孔56との間に配置されてもよい。また、検出装置としては、比抵抗計76に代えて導電率計(図示せず)を採用することも可能である。
【0038】
高圧水素製造装置12の水素連通孔60には、高圧水素ライン82が接続される。この高圧水素ライン82は、逆止弁84を設けるとともに、図示しない背圧弁を介して高圧水素(例えば、35MPa)を製品水素として供給することができる。高圧水素ライン82の途上には、逆止弁84の上流側から脱圧ライン86が分岐する。脱圧ライン86には、脱圧用バルブ88及び流量調整バルブ90が設けられる。
【0039】
高圧水素ライン82には、高圧水素製造装置12のカソード側(第2流路68)出口の圧力を検出するための圧力センサ92が配設される。圧力センサ92及び比抵抗計76は、制御部22に検出信号を送るとともに、電解電源38に設けられた電流計94から前記制御部22に検出信号が送られる。
【0040】
このように構成される水電解システム10の動作について、第1の実施形態に係る運転停止方法との関連で、図2に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0041】
先ず、水電解システム10の始動時には、純水製造装置20を介して市水から生成された純水が、気液分離装置14を構成するタンク部70に供給される。そして、循環ポンプ78の作用下に、タンク部70内の水が供給ライン18を介して高圧水素製造装置12の水供給連通孔56に供給される。また、ターミナルプレート26a、26bの端子部34a、34bには、電気的に接続されている電解電源38を介して電圧(電解電流)が印加される。
【0042】
このため、各単位セル24では、水供給連通孔56からアノードセパレータ44の第1流路64に水が供給され、この水がアノード給電体50内に沿って移動する。従って、水は、アノード電極触媒層50aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される(ステップS1)。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜48を透過してカソード電極触媒層52a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0043】
これにより、カソードセパレータ46とカソード給電体52との間に形成される第2流路68に沿って水素が流動する。この水素は、水供給連通孔56よりも高圧に維持されており、水素連通孔60を流れて高圧水素製造装置12の外部に高圧水素ライン82を介して取り出し可能となる。
【0044】
一方、第1流路64には、反応により生成した酸素、未反応の水及び透過した水素が流動しており、これらの混合流体が排出連通孔58に沿って戻しライン16に排出される。この混合流体は、気液分離装置14を構成するタンク部70に導入されて気液分離される。水は、循環ポンプ78を介して供給ライン18からイオン除去装置80を通ってイオンが除去された後、水供給連通孔56に導入される。水から分離された酸素及び水素は、ガス排気ライン74を通って外部に排出される。
【0045】
上記のように、定常運転が行われる(ステップS2)。そして、制御部22では、例えば、図示しない燃料電池車両にドライ水素の充填が完了すると、水電解システム10の運転(電解)が停止したと判断する(ステップS3)。なお、運転停止の判断基準は、例えば、図示しないスイッチによるオフ操作等、他の方式を採用してもよい。
【0046】
次いで、ステップS4に進み、脱圧用バルブ88が開放されて、脱圧ライン86が水素連通孔60に連通する。このため、カソード側である第2流路68に充填されている高圧水素は、脱圧用バルブ88の下流に配置されている流量調整バルブ90の開度調整によって徐々に減圧処理される。
【0047】
ここで、電解電源38により、上記の電解電流よりも小さな電流値の電解電流値Aが印加される(ステップS5)。この電解電流値Aは、図3に示すように、所定サイクル毎に低減されており、階段状に電流値が小さくなるように制御される。なお、電流値の減少制御は、連続的に行うこともできる。
【0048】
制御部22では、供給ライン18に配設されている比抵抗計76により、高圧水素製造装置12に供給される水の比抵抗値が検出されている。その際、図4に示すように、高圧状態の第2流路68から常圧状態の第1流路64に、固体高分子電解質膜48を透過して水素が移動し易い(クロスリーク)。
【0049】
このため、膜ポンプ効果に比べてクロスリーク量が多いと、酸素と水素とが触媒と反応し、過酸化水素(H)が発生し易い。この過酸化水素は、電極中のカーボン担体や白金(Pt)上で分解し、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)が形成され、スルホ基(SO2−)等の離脱が惹起される。
【0050】
従って、高圧水素製造装置12の排出連通孔58から戻しライン16に排出される水中に不純物(陰イオン等)が混在する。この不純物は、気液分離装置14に送られるとともに、循環ポンプ78の作用下にタンク部70から供給ライン18に排出される。タンク部70の下流には、比抵抗計76が配設されており、前記比抵抗計76は、供給ライン18を流通する水の比抵抗値RSを検出している。
【0051】
制御部22では、検出された比抵抗値RSが所定値以下であると、すなわち、タンク部70の下流を流通する水中の不純物が規定量以上であると判断すると(ステップS6中、NO)、ステップS7に進む。なお、比抵抗計76に代えて導電率計が使用される際には、この導電率計により検出された導電率が所定値以上であると判断すると、ステップS7に進む。
【0052】
ステップS7では、電解電流値Aを少なくとも前回の電解電流値Abef以上の値(第1の実施形態では、前回の電解電流値Abef)に上昇させる。これにより、電解電流値Aが増加されるため、クロスリーク量に比べて膜ポンプ効果が増加し、膜成分の流出が抑制される。
【0053】
一方、制御部22では、検出された比抵抗値RSが所定値を超えていると(又は検出された導電率が所定値未満であると)判断すると(ステップS6中、YES)、ステップS8に進む。ステップS8では、圧力センサ92により検出された圧力P、すなわち、第2流路68の圧力が、第1流路64内の圧力(常圧)と同圧になるか否かが判断される。
【0054】
第2流路68の圧力が、常圧となった際(ステップS8中、YES)、ステップS9に進んで、脱圧用バルブ88が閉弁される。そして、電解電源38による電圧印加が停止され、水電解システム10の運転が停止される(ステップS10)。
【0055】
この場合、第1の実施形態では、供給ライン18に比抵抗計76が配設されている。比抵抗計76の検出結果により、高圧水素製造装置12に供給される水の比抵抗値が低下したと(又は水の導電率が増加したと)判断された際、すなわち、固体高分子電解質膜48の膜成分が流出したことが検出された際、電解電流値Aを少なくとも前回の電解電流値Abef以上の値に上昇させている。
【0056】
このため、水素のクロスリーク量に対して水素の膜ポンプ効果が向上し、膜成分の流出が抑制される。しかも、電解電流値Aは、図3に示すように、所定サイクル毎に低減されており、階段状に電流値が小さくなるように制御されている。従って、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができる。これにより、水電解システム10全体のシステム効率の向上を図ることが可能になるという効果が得られる。
【0057】
また、供給ライン18において、比抵抗計76は、イオン除去装置80の上流に配置されている。このため、比抵抗計76により検出される比抵抗値RSの変化量(減少量)が所定範囲内であれば、イオン除去装置80の吸着作用下に不純物を除去することができる。
【0058】
従って、比抵抗計76により検出される比抵抗値RSの変化量(減少量)が所定値以上である場合に、膜成分の流出が惹起されているとみなす。そして、電解電流値Aを少なくとも前回の電解電流値Abef以上の値に上昇させ、比抵抗値の減少を抑制している。
【0059】
一方、比抵抗計76が、イオン除去装置80の下流に配置されている場合には、検出された比抵抗値RSが、閾値を下回った際、膜成分の流出が発生しているとみなす。そして、電解電流値Aを少なくとも前回の電解電流値Abef以上の値に上昇させ、比抵抗値の減少を抑制すればよい。
【0060】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る運転停止方法が適用される水電解システム100の概略構成説明図である。なお、第1の実施形態に係る水電解システム10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0061】
水電解システム100では、制御部102を備えるとともに、比抵抗計76を用いていない。制御部102は、図6に示すように、高圧水素製造装置12のカソード側(第2流路68)出口の圧力と、カソード側への透過水を規制する電解電流値Aとの関係を予め設定し、マップとして作成する。カソード側への透過水がなくなる状態とは、膜成分の流出がない状態であり、所定圧力に対応する電解電流値Amap以下の電流値では、膜ポンプ効果が不足して膜成分の流出が発生する。
【0062】
そこで、第2の実施形態に係る運転停止方法について、図7に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。なお、第1の実施形態に係る運転停止方法と同一の工程については、概略的に説明する。
【0063】
水電解システム100の電解が開始されると(ステップS101)、水電解システム10と同様に定常運転が行われる(ステップS102)。さらに、電解停止が検知されると(ステップS103)、ステップS104に進んで、脱圧用バルブ88が開放されて減圧処理が開始される。
【0064】
ここで、圧力センサ92により、高圧水素製造装置12の第2流路68の出口圧力Pが検出されている。制御部102では、図6に示すマップから検出された圧力Pに対応する電解電流値Amapを算出(読み出)して、電解電源38を制御する(ステップS105)。このため、高圧水素製造装置12には、カソード側への水透過が発生しない、すなわち、膜成分が流出しない最低限の電解電流値Amapが印加される。
【0065】
そして、第2流路68の圧力が、常圧となった際(ステップS106中、YES)、ステップS107に進んで、脱圧用バルブ88が閉弁される。その後、電解電源38による電圧印加が停止され、水電解システム100の運転が停止される(ステップS108)。
【0066】
この場合、第2の実施形態では、カソード側への透過水を規制する前記カソード側の出口圧力Pと電解電流値Aとの関係をマップとして作成し、前記カソード側の出口圧力Pに対応する前記電解電流値Aを前記マップから算出して(電解電流値Amap)印加している。
【0067】
これにより、運転停止後に、膜成分の流出を確実に阻止するとともに、水素の消費量を可及的に抑制することができ、水電解システム100全体のシステム効率の向上を図ることが可能になるという効果が得られる。
【0068】
次いで、第3の実施形態に係る運転停止方法について、図8に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0069】
なお、この運転停止方法では、水電解システム10が使用されるとともに、この水電解システム10(第1の実施形態)は、制御部102(第2の実施形態)を備える。また、第1及び第2の実施形態に係る運転停止方法と同一の工程については、概略的に説明する。
【0070】
ステップS1〜ステップS5と同様に、ステップS201〜ステップS205が行われる。ステップS205では、電解電流値Aが印加されるとともに、前記電解電流値Aは、階段状に電流値が小さくなるように制御される。そして、検出された比抵抗値RSが、所定値を超えていると判断すると(ステップS206中、YES)、ステップS207以降に進む。
【0071】
一方、検出された比抵抗値RSが、所定値以下であると判断すると(ステップS206中、NO)、ステップS209に進む。このステップS209では、検出された圧力Pに対応する電解電流値Amapを算出して、電解電源38を制御する。さらに、ステップS210以降に進む。
【0072】
これにより、第3の実施形態では、上記の第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0073】
10、100…水電解システム 12…高圧水素製造装置
14…気液分離装置 16…戻しライン
18…供給ライン 20…純水製造装置
22、102…制御部 38…電解電源
42…電解質膜・電極構造体 44…アノードセパレータ
46…カソードセパレータ 50…アノード給電体
52…カソード給電体 56…水供給連通孔
58…排出連通孔 60…水素連通孔
64、68…流路 70…タンク部
72…水補給ライン 74…ガス排気ライン
76…比抵抗計 78…循環ポンプ
80…イオン除去装置 82…高圧水素ライン
86…脱圧ライン 88…脱圧用バルブ
90…流量調整バルブ 92…圧力センサ
94…電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置を備える水電解システムの運転停止方法であって、
前記電解電流を印加した状態で、前記カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、
所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、
前記高圧水素製造装置に供給される前記水の比抵抗値又は導電率を検出する工程と、
前記比抵抗値が所定値以下に又は前記導電率が所定値以上に変化した際、前記電解電流値を上昇させる工程と、
を有することを特徴とする水電解システムの運転停止方法。
【請求項2】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置を備える水電解システムの運転停止方法であって、
前記電解電流を印加した状態で、前記カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、
所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、
前記高圧水素製造装置に供給される前記水の比抵抗値又は導電率を検出する工程と、
前記カソード側の圧力を検出する工程と、
前記比抵抗値が所定値以下に又は前記導電率が所定値以上に変化した際、前記カソード側の検出圧力に基づいて前記電解電流値を制御する工程と、
を有することを特徴とする水電解システムの運転停止方法。
【請求項3】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置を備える水電解システムの運転停止方法であって、
前記カソード側への透過水を規制する該カソード側の圧力と前記電解電流との関係をマップとして作成する工程と、
前記電解電流を印加した状態で、前記カソード側に連通する脱圧ラインに配設された脱圧バルブを開弁させる工程と、
所定サイクル毎又は連続的に、電解電流値を低減させる工程と、
前記カソード側の圧力を検出し、前記カソード側の検出圧力に対応する前記電解電流を前記マップから算出する工程と、
算出された前記電解電流を印加する工程と、
を有することを特徴とする水電解システムの運転停止方法。
【請求項4】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電流を印加することにより、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な高圧水素を発生させる高圧水素製造装置と、
前記高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を気液分離する気液分離装置と、
前記高圧水素製造装置から排出される前記ガス成分を含む未反応の水を、前記気液分離装置に導入する戻しラインと、
前記気液分離装置に貯蔵された水を前記高圧水素製造装置に供給する供給ラインと、
を備える水電解システムであって、
前記供給ラインには、前記高圧水素製造装置に供給される前記水の比抵抗値又は導電率を検出する検出装置が配設されることを特徴とする水電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−60625(P2013−60625A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199554(P2011−199554)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】