説明

永久磁石埋め込み形回転子の製造方法と、その製造方法を用いた永久磁石埋め込み形回転子

【課題】
オイルセパレータの取り付けに関して、作業性が良好で、材料費も軽減できる永久磁石埋め込み形回転子の製造方法と、その製造方法を用いた永久磁石埋め込み形回転子とする。
【解決手段】
回転子鉄心には永久磁石を回転子軸方向から挿入する磁石収容孔が設けられ、磁石収容孔に永久磁石を挿入した後、回転子鉄心の両端を塞ぐ端板を備え、回転軸心回りに偏心した偏心部を有する圧縮機構のアンバランス量を回転子で補正するためのバランスウェイトを回転子鉄心の軸方向端部の少なくともどちらか一方に備え、前記バランスウェイトの上にはオイルセパレータを備え、前記オイルセパレータ側のバランスウェイトを締結していない前記締結部材の少なくとも一箇所の位置において、前記オイルセパレータに切り欠き部が設けられ、前記切り欠き部から締結部材の締結治具を挿入し締結させた永久磁石埋め込み形回転子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉形圧縮機に使用される電動機の永久磁石埋め込み形回転子の製造方法と、その製造方法を用いた永久磁石埋め込み形回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転子は、特許文献1(実開平5−18246号公報)に示すような回転子構造がある。本願では図5に示している。この回転子90は薄板電磁鋼板を積層した回転子鉄心10で構成され、この積層した回転子鉄心10の外周部に永久磁石20を装着し、その永久磁石20の上からキャン50を嵌着し、積層した回転子鉄心10の両側から端板40a、40bを配置し、回転子鉄心10を貫通する貫通穴にカシメピン80を挿入し回転子軸方向の一端側にカシメピン80を延長させスペーサ60を介してオイルセパレータ70を取り付けることによって、オイルセパレータ70と端板40aとの間に開口部300bが設けられている。
【0003】
これによって密閉形圧縮機内の圧縮機構部からの巻き上げた冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスをオイルセパレ−タ70にぶつけ端板40aとオイルセパレータ70との間に開口した開口部300bから回転子円周方向に飛ばすことにより分離し油だめ部に冷凍機油が戻るようにしているので冷凍機油が巻き上がり圧縮機内の吐出管から冷媒回路に流出しないようにしている。
【0004】
【特許文献1】実開平5−18246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5の様に積層した回転子鉄心10の両側に端板40a、40bを配置し、回転子鉄心10を貫通する貫通穴にカシメピン80を挿入し回転子軸方向の一端側にカシメピン80を延長させスペーサ60を介してオイルセパレータ70と端板40aとの間に開口部300bを設けた永久磁石表面形回転子90では、端板40aとオイルセパレータ70との間に開口部300bを設けるためにカシメピン80にスペーサ60を挿入している。このように図5の永久磁石表面形回転子90においてはスペーサ60をカシメピン80の1本1本に挿入し手間が係り作業性が悪い。また、当然ではあるがスペーサ60の別部材としての材料費も係ってしまう。また、カシメピン80が端板40aより飛び出しているのでカシメピン80が挫屈し易い。
【0006】
本発明は、これに鑑みて永久磁石埋め込み形回転子におけるオイルセパレータの取り付けに関して、作業性が良好で、材料費も軽減できる永久磁石埋め込み形回転子の製造方法と、その製造方法を用いた永久磁石埋め込み形回転子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスを圧縮する密閉形圧縮機に搭載される電動機の回転子であって、回転子は薄板電磁鋼板を積層した回転子鉄心で構成され、その回転子鉄心には永久磁石を回転子軸方向から挿入する磁石収容孔が設けられ、磁石収容孔に永久磁石を挿入した後、回転子鉄心の軸方向両端部を端板で覆い、更に、回転軸心回りに偏心した偏心部を有する圧縮機構のアンバランス量を回転子で補正するためのバランスウエイトを回転子鉄心の軸方向端部の少なくともどちらか一方に備え、少なくともどちらか一方のバランスウィトには圧縮機構で圧縮した冷媒から冷凍機油を分離するためのオイルセパレータが取り付けられ、それらを複数の締結部材により一体に固定した永久磁石埋め込み形回転子において、
締結部材はオイルセパレータが取り付けられる側とは反対方向から回転子鉄心に挿入しオイルセパレータ側で締結されるものであって、
オイルセパレータは、オイルセパレータ側のバランスウェイトと締結していない締結部材の締結箇所と対向しているオイルセパレータ側の少なくとも一箇所の位置において、オイルセパレータに切り欠いた切り欠き部が設けられた永久磁石埋め込み形回転子とし、前記切り欠き部から、締結部材の締結治具を挿入し締結した永久磁石埋め込み形回転子の製造方法と、その製造方法を用いた永久磁石埋め込み形回転子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の永久磁石埋め込み形回転子の製造方法を用いることにより、冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスを、回転子鉄心の軸方向の両端部を覆う端板と、圧縮機構部の回転子軸心回りに偏心した偏心部のアンバランス量を補正するために回転子鉄心の軸方向端部の少なくともどちらか一方に取り付けられたバランスウェイトと、少なくともどちらか一方のバランスウェイトの上に取り付けたオイルセパレータとを、締結部材において一体化した永久磁石埋め込み形回転子とすることにより、余分なスペーサを用いることなく端板とオイルセパレータとの間に開口部を設けることができ、材料費を低減し、締結部材にスペーサを通す作業も低減できる。
【0009】
更に、バランスウェイトを締結していない締結部材の締結箇所と対向しているオイルセパレータ側では、オイルセパレータを切り欠いた切か欠き部を設けて、締結部材の長さを短くすることができる。これにより締結部材を固定する際、回転子端部から締結部材が飛び出していないので締結を安定して行うことができ、締結部材が挫屈することもない。尚、この切り欠き部は、オイルセパレータの外径から凹状に切り欠いた切り欠き部、またオイルセパレータの回転子軸方向から穴を開けた形状でも良い。
【0010】
一方、オイルセパレータを切り欠いた切り欠き構造となっているので、締結部材を固定するための治具が回転子鉄心の端部(端板を装着している位置)まで挿入できるので、締結部材の固定作業が安定して容易にできる。これにより、締結部材の挫屈不良を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を図面を用いて説明する。本実施形態の永久磁石埋め込み形回転子9を搭載した密閉形圧縮機の断面図を図1に示している。
【0012】
圧縮機100の主な構造は、圧縮機構部102、アキュムレータ103、固定子110と回転子9(永久磁石埋め込み形回転子)とで構成された圧縮機100である。圧縮機構部102と電動機は密閉容器101の内部に配置され、密閉容器101には、吸入管105と吐出管104が設けられている。圧縮機構部102で圧縮された冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスは、固定子110に形成された通路110a(穴、切り欠き部)や回転子9に設けられた通路9a(穴、切り欠き部)、固定子110と回転子9との間の隙間110b(ギャップ)等を通り、吐出管104から吐出される。
【0013】
ここで特に縦型に設置する図1に示した圧縮機100のタイプでは、冷凍機油を含んだ混合ガスはそのまま吐出管104から吐出されてしまうと、密閉容器内101の冷凍機油がなくなり圧縮機構部102の潤滑が悪くなり温度上昇や圧縮機構部102の焼付き等を起してしまう。そこで、冷凍機油を含んだ混合ガスが極力、圧縮機100の吐出管104から吐出されないように回転子9等に冷媒と冷凍機油とを分離するためにオイルセパレータ7が取り付けられている。
【0014】
オイルセパレータ7は圧縮機100内の圧縮機構部102で圧縮された冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスが電動機の下部から回転子9に設けられて通路9aや固定子110と回転子9の隙間110bを通って上昇し、オイルセパレータ7にぶつかった後、回転子9が回転することにより回転子9の円周方向へ遠心分離され冷媒と冷凍機油に分離している。これにより分離された冷凍機油は固定子110などに設けた通路110a等から油だめ部106へ戻るようになる。
【0015】
このように回転子9に取り付けたオイルセパレータ7が回転することにより遠心分離して冷媒と冷凍機油を回転子9の円周方向に飛ばすため、オイルセパレータ7と回転子鉄心1に装着した端板4aとの間には回転子外径方向に開口した開口部300aを設ける必要がある。
【0016】
図2には本実施形態における永久磁石埋め込み形回転子9を示している。
図2に示した永久磁石埋め込み形回転子9は、薄板電磁鋼板を積層し回転子鉄心1を構成している。この回転子鉄心1には永久磁石2を回転子鉄心1内の軸方向に挿入できるように回転子鉄心1の軸方向に貫通した永久磁石収容孔3が設けられている。この回転子鉄心1の永久磁石収容孔3に永久磁石2を挿入した後、回転子鉄心1の両端部を塞ぐように端板4a、4bを配置している。
【0017】
また、圧縮機100の圧縮機構部102は、回転軸500により駆動される偏心ロータを有している。この回転軸500の偏心ロータのアンバランス量を補正するために回転子鉄心1に装着した端板4a上にバランスウェイト400aを取り付けている。これにより回転軸500により駆動される偏心ロータのアンバランス量を補正することができる。
【0018】
このバランスウェイト400aの端面には、先の圧縮機100の圧縮機構部102で圧縮された冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスが噴出し直接圧縮機100の外部の冷媒回路に吐出されてしまわないようにオイルセパレータ7が取り付けられている。これにより回転子9が回転することにより巻き上げられた冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスがオイルセパレータ7にぶつかり、バランスウェイト400aとオイルセパレータ7との間に設けられた回転子9の外径方向に開口した開口部300aから円周方向に吹き飛ばされ冷媒と冷凍機油を遠心分離している。冷凍機油はその後、固定子110などに設けた通路110a等から油だめ部106へ戻る。
【0019】
この様に構成された回転子9を一体化するために回転子9に設けた貫通穴に締結部材8a〜8dを反オイルセパレータ側から挿入し、オイルセパレータ7側で締結している。この場合、締結部材8a〜8dとしてカシメピンを用いる場合はカシメピンを反オイルセパレータ側から挿入しオイルセパレータ7側でかしめて一体固定している。これにより締結部材8a〜8dを締結する際に回転子鉄心1の内径が倒れて回転軸500が挿入できなくなることのないように、反オイルセパレータ側から締結治具ベース201と一体となった仮シャフト510を挿入し、締結部材8a〜8dを締結することができる。このようにすることによりオイルセパレータ7が邪魔することなく仮シャフト510を挿入することができる。締結部材8a〜8dが締結された後は、締結治具ベース201と一体となった仮シャフト510を抜くことができる。(図4参照)
【0020】
このオイルセパレータ7は、回転子9の外周形状からはみださない円形の形状をしており、オイルセパレータ側のバランスウェイト400aと締結していない前記締結部材8dの締結箇所において、前記オイルセパレータ7に切り欠いた切り欠き部7aが設けられている。この切り欠き部7aは、オイルセパレータ7の外径から切り欠いた凹形状でも良く、オイルセパレータ7の回転子軸方向から切り欠いた穴形状でも良い。このようにすることによりオイルセパレータ7に設けた切り欠き部7aから締結治具を挿入することができ締結部材8dを安定させ締結させることができる。この切り欠き部は複数設けても良い。バランスウェイト400aの固定位置及び方法により異なる。
【0021】
図3は、図2に示した永久磁石埋め込み形回転子9のA矢視図である。回転子鉄心1の端部に端板4aを付けバランスウェイト400aの上にオイルセパレータ7をのせて締結部材8a〜8dにより締結している。図2及び図3からも解るように締結部材8a〜8dの長さはバランスウェイト400aを回転子鉄心1に固定する場合の長さと、バランスウェイト400aを固定していない場合の長さとは異なっている。このバランスウェイト400aを固定していない締結部材8dの位置、つまり、締結部材8dが回転子鉄心1の端部に装着させた端板4aを直接締結している締結箇所においてオイルセパレータ7の外径から凹状に切り欠いた切り欠き部分7aを設けている。
【0022】
これにより締結部材8dは回転子鉄心1の端部に装着した端板4aの部分から飛び出ていないので締結部材8dを固定する際、不安定となり締結部材8dが挫屈することがない。また、締結部材8dの長さを短くすることができ余分なスペーサ等の別部材を必要とせず、締結部材自体の長さも短くすることができるので材料費も低減することができる。
【0023】
また、このような回転子9の構造を達成するためには、このオイルセパレータ7の切り欠いた切り欠き部7aから、締結部材8dを締結するための締結治具200dを挿入させて締結させている。
図4では、その締結治具200dの構造を示している。図2〜図3に示した永久磁石埋め込み形回転子9のバランスウェイト400aを締結した締結部材8a〜8cの3本と、バランスウェイト400aを締結していない締結部材8dの1本を、其々の締結部材と相対関係にある締結治具200a〜200dにより固定している。
【0024】
締結治具200a〜200dは締結治具ベース202から4本飛び出している。締結治具ベース202から飛び出している長さが其々異なっている。バランスウェイト400aと相対関係を有する締結治具8a〜8cの3本は、バランスウェイト400aを締結していない位置と相対関係を有する締結治具8dの1本より短く構成されている。この締結治具200dの締結治具ベース202からの飛び出し長さXは、バランスウェイト400aとオイルセパレータ7の合計の長さと略同じになっている。
【0025】
締結治具200dは、図4に示すようにオイルセパレータ7に設けた凹状の切り欠き部7aから挿入し、締結部材8dを固定している。先に説明しているようにバランスウェイト400aとオイルセパレータ7の高さの差分だけ差を設けているので永久磁石埋め込み形回転子9の4本の締結部材8a〜8dを同時に固定することができる。これにより永久磁石埋め込み形回転子9の締結部材8a〜8dを1本1本順番に固定することなく同時に固定することができ作業工数を大幅に低減することができる。また、切り欠き部は複数設けても良い。バランスウェイト400aの固定位置及び方法により締結部材8a〜8dの締結位置、締結方法により異なる。
【0026】
尚、このオイルセパレータ7の切り欠き部7aは永久磁石埋め込み形回転子9の回転子鉄心1の永久磁石収容孔3に埋め込んだ永久磁石2を、密閉形圧縮機100に組み込んだ後に固定子110を着磁ヨークとして着磁する際、永久磁石埋め込み形回転子9の着磁位置決め用の目印溝とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】密閉形圧縮機を説明する図。
【図2】本実施形態の永久磁石埋め込み形回転子の図。
【図3】図2の永久磁石埋め込み形回転子のA矢視図。
【図4】締結治具により締結部材を締結するための図。
【図5】従来の永久磁石表面形回転子の図。
【符号の説明】
【0028】
1、10・・・回転子鉄心
2、20・・・永久磁石
3、30・・・永久磁石収容孔
4a、4b、40a、40b・・・端板
7、70・・・オイルセパレータ
7a・・・切り欠き部
8a〜8d、80・・・締結部材
9・・・永久磁石埋め込み形回転子
9a・・・回転子の通路
50・・・SUS管
60・・・スペーサ
90・・・永久磁石表面形回転子
100・・・密閉形圧縮機
101・・・密閉容器
102・・・圧縮機構部
103・・・アキュムレータ
104・・・吐出管
105・・・吸入管
106・・・油だめ部
110・・・固定子
110a・・・固定子の通路
110b・・・隙間
200a〜200d・・・締結治具
201、202・・・締結治具ベース
300a、300b・・・開口部
400a、400b・・・バランスウェイト
500・・・回転軸
510・・・仮シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と冷凍機油を含んだ混合ガスを圧縮する密閉形圧縮機に搭載される電動機の回転子において、前記回転子は薄板電磁鋼板を積層した回転子鉄心で構成され、前記回転子鉄心には永久磁石を回転子軸方向から挿入する磁石収容孔が設けられ、前記磁石収容孔に永久磁石を挿入した後、回転子鉄心の軸方向両端部を端板で覆い、前記回転子は圧縮機構部の回転子軸心回りに偏心した偏心部のアンバランス量を補正するために回転子鉄心の軸方向端部の少なくともどちらか一方にバランスウェイトが取り付けられ、
少なくともどちらか一方の前記バランスウェイトには、前記圧縮機構で圧縮した冷媒から冷凍機油を分離するためのオイルセパレータが取り付けられ、それらを複数の締結部材により一体に固定した永久磁石埋め込み形回転子において、
前記締結部材は前記オイルセパレータが取り付けられる側とは反対側から回転子鉄心に挿入し前記オイルセパレータ側で締結されるものであって、
前記オイルセパレータ側の前記バランスウェイトを締結していない前記締結部材の締結箇所と対向している前記オイルセパレータ側に少なくとも一箇所の切り欠いた切り欠き部が設けられ、
前記切り欠き部から、締結治具を挿入し前記締結部材を締結したことを特徴とする永久磁石埋め込み形回転子の製造方法。
【請求項2】
請求項1項記載の製造方法を用いて製作された永久磁石埋め込み形回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−263663(P2008−263663A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102322(P2007−102322)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】