説明

汁と具材とを分離したレトルト食品の製造方法及びその方法によって製造したレトルト食品

【課題】 本発明は、スープなどの即席食品の提供において、汁の影響による具材の食感の劣化や具材からの成分の溶出による汁の食感や色等の視覚的質感の変化を防止することを目的とする。
【解決手段】 スープなどの即席食品の提供において、汁と具材を分離してレトルト処理を行い、そのまま別個の容器で包装し提供する方法を提供し、さらに、その方法によって製造したレトルト食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汁に大麦や豆類などの具材を加えたスープ、粥、リゾット等のレトルト食品に関する。より詳細には、スープなどの即席のレトルト食品の提供方法において、汁と具材を分離してレトルト処理し、そのまま個別に包装し提供する方法及びその方法によって製造されたレトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スープは即席食品として多数商品化されており、一般的な食品となっている。当該即席スープの1つとして、汁に野菜、豆、米や麦等の穀類を具材として加え、調理した後、高温高圧で殺菌する、いわゆるレトルト製法タイプのものがある。この製法により得られたものは、具材の食感が劣化してしまう傾向があり、そしゃくしたとき歯ごたえを十分に感じないという欠点が指摘されている。
【0003】
本発明者の調査によると、レトルト殺菌時の高温高圧下で汁が具材にしみ込み、具材本来の食感を劣化させてしまうことがわかった。また、汁と具材が同じ容器内にパッケージされているため、経時的に具材に汁がしみ込んで行き、具材の食感を劣化させてしまうことも明らかになった。
【0004】
また澱粉などの糖類を多く含む具材(例えば米、麦などの穀物)を用いた場合、レトルト殺菌時や長期保存時において具材の糖質や色素などの成分がスープなどの汁中に溶出し、その結果として汁の粘度が上昇し食感を損ねることとなり、また、汁本来の色が変化してしまう場合があることも明らかになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、汁と具材とを分離して個別にレトルト殺菌し、さらに、汁と具材を別々の容器に包装して提供することにより、具材が、余分な水分(汁)の吸収を防止することを防ぎ、具材の食感が保持されることと、スープへの具材からの粘性物質や色素の溶出を防ぎスープの粘性や色を適切に保持できることを見出した。これらの発明により、食感を十分に有し、視覚的にも本来の質感を備えたスープなどのレトルト食品を製造することが可能となり本件発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、汁と具材を分離した容器に包装したことにより、具材は水分の比較的少ない状況下で殺菌、保存が可能であり、長期保存でも具材の食感が保持され、レトルト殺菌時や保存時における汁の粘度や色の変化を防ぐことにより上記課題が解決できることを見出して、食感を有した具材を添付した視覚的な質感も備えたスープなどのレトルト食品を製造する本件発明を完成させたものである。
【0007】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、汁と具材とを別個の容器に収容し、レトルト処理を行うことを特徴とする汁と具材を分離したレトルト食品の製造方法によって達成される。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、販売過程において、汁の影響による具材の食感の劣化や具材からの粘性物質や色素の溶出による汁の粘度上昇や色の変化を防止することができ、長期保存でも具材や汁の食感や視覚的な質感(色)を保持することができる。
【0009】
請求項2にかかる発明は、汁と具材とを別個の容器に収容し、レトルト処理を行い、該レトルト処理後の汁及び具材を別個のまま包装して製品とすることを特徴とする汁と具材を分離したレトルト食品の製造方法によって達成される。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、販売過程において、汁の影響による具材の食感の劣化や汁の粘度や色の変化を防止することができ、長期保存でも具材や汁の食感や視覚的な質感を保持することができる。
【0011】
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記レトルト食品は、汁と具材とを分離したスープ、粥、又はリゾットであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、販売過程において、汁の影響による具材の食感の劣化や汁の粘度や色の変化を防止することができ、長期保存でも具材や汁の食感、視覚的な質感を保持したスープ、粥、又はリゾットを提供できる。
【0013】
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれか一項記載の製造方法で作製された汁と具材とを分離したレトルト食品によって達成される。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、販売過程において、汁の影響による具材の食感の劣化や汁の粘度の変化を防止することができ、長期保存でも具材や汁の食感や視覚的な質感を保持したレトルト食品が提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果は、汁と具材を分離した容器に包装したことにより、具材は水分の比較的少ない状況下で殺菌、保存が可能であり、長期保存でも具材の食感が保持され、したがって、その販売過程において、汁の影響による具材の食感の劣化を防止するレトルト食品の製造方法が提供できる。また汁の粘度の調節や保存中における粘度や色の変化を防止することができる。さらに、本発明の効果は、上記製造方法によって製造したスープ、粥、リゾット等のレトルト食品が提供できる。しかも、上記製造方法で製造したレトルト食品は、食する前の調理方法を任意に選択することにより、例えば、汁と具材の加熱時間を調節したり、汁に具材を入れて煮込む(加熱)際、汁に具材を入れるタイミングを変えることにより好みの食感や視覚的質感(汁の色等)を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、大麦から押麦を作製後、これを具材とするスープを製造した。その結果、スープの粘度や色の変化がなく、かつ具材特有の食感の長期間保持が可能なことを、以下の実験製造により明らかにした。
【0017】
押麦は、欧州では一般的なスープの具材として使用されている。一般的に、押麦は、大麦から皮を剥ぎ取って丸麦とし、これを蒸して柔らかくし、ローラーで押しつぶして作製される。この方法は、麦は一般的に食し難いので、平らにして食するための方法として、従来から使用されている。
【0018】
このようにして作製した押麦は、スープとして使用する汁とは別にして、レトルト処理を行う。レトルト処理とは、食品加工分野で一般的に行われている調理又は加工済みの食材を保存する際に行われる殺菌処理であり、一般的には、高圧加熱殺菌と呼ばれ、具体的には、加圧して115乃至120℃で行う殺菌処理をいう。汁もまた、具材としての押麦とは別にしてレトルト処理を行う。処理後の具材と汁は、別々の容器に収容して包装し、製品として提供することができる。
【0019】
また、このように具材と汁を別々にして製造したレトルト食品を食する場合、例えば、電子レンジなどを使用して一定の温度と時間で具材と汁を別々に加熱調理した後、食する直前で汁に具材を混合して食することが好ましいが、加熱調理の前に、汁と具材を混合して、加熱調理してもよい。
【0020】
押麦を具材とし、汁と別個の容器に収容し、レトルト処理を行い、該レトルト処理後の具材及び汁を個別のまま包装してレトルト食品を製造した結果、製造段階や保存時における汁の粘度上昇が抑制され、かつ具材本来の食感を保持することが明らかとなった。したがって、具材と汁とを別々にレトルト処理することにより、具材については殺菌時に過剰な水分がないので、食感が失われず、保存時に水分吸収がおこらないので、具材特有の食感を保持することが可能であり、汁については、具材からの粘性物質の溶出による粘度変化が起こらず、このようにして製造したレトルト食品を調理する際に、汁に具材を入れるタイミングを変えることができ、好みの食感に調節することが可能となる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明の製法にしたがって実施した具体例をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
市販の押麦(品種:ファイバースノー)200gに水200gを入れ、一般的に、米を炊飯する場合と同様の従来の炊飯手段で炊飯した。次に、このようにして炊飯した押麦22gにコンソメスープ(マギー チキンコンソメ)175gを入れたもの(以下「サンプル1」という)と、炊飯した押麦22gと、コンソメスープ175gとをそれぞれ別個の容器に収容して、121℃で30分間レトルト殺菌した(以下「サンプル2」という)。
【0022】
摂る直前に、炊飯した押麦22gをコンソメスープ175gに入れて、電子レンジで2分間加熱したサンプル1は、レトルト処理前に炊飯した押麦22gにコンソメスープ175gを入れたサンプル2を電子レンジで2分間加熱したものに比べて、押麦特有の食感が残り、好ましいものであった。当該サンプル1とサンプル2の官能検査結果を表1に示す。表1に示す「評価」項目は、押麦の食感の良し悪しを4段階(0:悪い 1:やや劣化あり 2:普通 3:良い)で表す。
【0023】
【表1】

(実施例2)
次に、具材として米や上記押麦等の穀類を使用する場合、食感を評価するための項目の1つとして、具材の「分離感」がある。これは、例えば、米や押麦で説明すると、いわゆる「ごはん」として米や押麦を食する場合には粒同士の適度な「くっつき合い」が必要であるが、スープの具材として使用する場合には「くっつき合い」よりも個々の粒の個別感、即ち「分離感」が重要視される。そこで、具材として押麦を使用し、炊飯していない未加工の押麦に水を加えて121℃で30分の高温高圧処理を行った(炊飯とレトルト殺菌を兼ねた処理・以下「サンプル3」という)ものと蒸した押麦をレトルト殺菌したもの(以下「サンプル4」という)を作製し、上記「分離感」と更に「かたさ」についての評価を行った。その結果を表2に示す。なお、「分離感」については3段階(0:無し 1:やや有り 2:有り)、「かたさ」については4段階(0:軟らかい 1:やや軟らかい 2:適度 3:硬い)とした。
【0024】
【表2】

サンプル3については、炊飯した押麦と同様、所謂「ごはん」の状態で、「くっつき合い」の状態であった。また、「かたさ」についても「ごはん」の範疇で、軟らかい状態であった。一方、サンプル4については、基本的にスープの具材として適切な加工を施した後、レトルト殺菌を行ったため、スープの具材としての適切な「分離感」、「かたさ」を付与することが出来た。この結果、スープの具材として適性な食感を得るためには、具材を適性に加工した後、レトルト殺菌を行う製造工程が有効であることが解った。
(実施例3)
実施例2で、レトルト殺菌前に具材を適正に加工処理することにより食感を高める製造方法について確認したが、次に、当該事前加工方法について検討した。本実施例では、具材として押麦を用い、事前加工処理として押麦の水浸漬時間及び蒸し時間による「分離感」と「かたさ」の変化について検討した。
【0025】
その結果を表3に示す。なお、各評価は実施例2と同様である。
【0026】
【表3】

結果については、サンプル5の浸漬時間30分、蒸し時間10分の食感が最も評価が高かった。
【0027】
したがって、上記実施例から明らかなように、具材と汁とを別個の容器に収容し、レトルト処理を行い、該レトルト処理後の具材及び汁を個別のまま包装してレトルト食品を製造することにより、具材特有の食感を長期間保持することが可能であり、このようにして製造したレトルト食品を、食する前に調理する際、汁と具材の加熱時間や汁に具材を入れて加熱(煮込む)する時の汁に具材を入れるタイミングを変えることができ、好みの食感、視覚的な質感を調節することが可能となる。
【0028】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汁と具材とを別個の容器に収容し、レトルト処理を行うことを特徴とする汁と具材を分離したレトルト食品の製造方法。
【請求項2】
汁と具材とを別個の容器に収容し、レトルト処理を行い、該レトルト処理後の汁及び具材を別個のまま包装して製品とすることを特徴とする汁と具材を分離したレトルト食品の製造方法。
【請求項3】
前記レトルト食品は、前記汁と前記具材とを分離したスープ、粥、又はリゾットであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレトルト食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の製造方法で作製された汁と具材とを分離したレトルト食品。

【公開番号】特開2006−187242(P2006−187242A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1577(P2005−1577)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】