説明

汚水用ルーツポンプ

【課題】ハウジング部の構造がシンプルで、閉じ込み現象の解消と汚水に混入する夾雑物によるトラブルを防止する汚水用ルーツポンプを提供すること。
【解決手段】2葉ルーツロータ22は、各ローブ22aの中心線から回転方向へ所定寸法だけ離れた位置の周面に、ロータケーシング5の内周面との隙間が大きくなるような断面三角形状の逃し溝24を各ローブの全長にわたって設け、さらにルーツロータ22の側面にロータ軸23と同心状に設けた拡径部5をハウジング26,27に設けられたスタッフィングボックス31の軸穴26cに挿入するように設けられ、ハウジング26は、その内側面にロータ軸23を中心として半径方向に延びる複数のせん断用溝26dが設けられ、さらにメカニカルシール32を収納したスタッフィングボックス31内に連通する注水口40を設け、注水口40にフラッシング作用を行なわせる水を供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水処理場、海苔移送、ディスポーザ等で使用される汚水用ルーツポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の汚水用ルーツポンプとして、下記の特許文献に示すように、キャビテーションの抑制、ルーツロータの凹円弧部と凸円弧部(ローブ)との間に水が閉じ込められるいわゆる閉じ込み現象を解消することを目的とする構造、汚水に混入する毛屑や長い繊維等の夾雑物がメカニカルシール部に侵入してこれに巻きつくという不具合を防止することを目的とする構造のものがある。
【0003】
ところが、例えば、特許文献1に示す汚水用ルーツポンプでは、ハウジングの軸封部(「スタッフィングボックス」とも称される)の構造が複雑であり、部品点数が多いこともあって組み立て作業に多くの時間を要していた。
【0004】
特許文献2に示すルーツポンプには、ハウジングの低圧側内面に形成した切削溝とルーツロータのローブ側縁とによりせん断刃対を設けて、切削溝に進入した異物を粉砕する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3に示すルーツポンプには、ポンプケーシング内に配置するロータケーシングをほぼ45°の傾斜角として土砂水を吸い込む場合に起動力を軽くするなどの技術が開示されている。
これらの従来の技術を踏まえて、シンプルな構造で上記不具合を解消する汚水用ルーツポンプの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2864357号公報
【特許文献2】実公昭51―51443号公報
【特許文献3】特公昭44−11345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ハウジング部の構造がシンプルで、閉じ込み現象の解消と汚水に混入する夾雑物によるトラブルを防止する汚水用ルーツポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために請求項1に記載した発明は、吸込口と吐出口を設けたポンプケーシング内に、吸込口部を斜め上方に吐出口部を斜め下方に設けたロータケーシングを配置し、そのロータケーシング内に装着された一対の2葉若しくは多葉式ルーツロータのロータ軸を該ポンプケーシングの両側に固定したハウジングにより回転自由に支持した汚水用ルーツポンプにおいて、
前記ルーツロータは、芯金部の外側にポリウレタンゴム材又はニトリルゴム材によりライニング加工が施されていて、各ローブの中心線から回転方向へ所定寸法だけ離れた位置の周面に、前記ロータケーシングの内周面との隙間が大きくなるような断面三角形状の逃し溝を各ローブの全長にわたって設け、さらに当該ルーツロータの側面にロータ軸と同心状に設けた拡径部を前記ハウジングに設けられたスタッフィングボックスの開口部に挿入するように設けられ、
前記ハウジングは、その内側面に前記ロータ軸を中心として半径方向に延びる複数のせん断用溝が設けられ、さらに前記ロータ軸に固定した回転体と当該ハウジング側に固定される固定体とからなるメカニカルシールを収納した前記スタッフィングボックス内に連通する注水口を設け、
前記ポンプケーシング内に混入して前記せん断用溝に流入する夾雑物を前記ローブの側縁と該せん断用溝の角縁とによるせん断作用によってせん断し、他方、前記注水口に供給する所定圧力の水によるフラッシング作用によって前記スタッフィングボックス内に前記夾雑物が侵入するのを防止することを特徴とする。
【0009】
同様の目的を達成するために請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の汚水用ルーツポンプにおいて、前記ルーツロータの拡径部の外周にブッシュを嵌着したことを特徴とするものである。
【0010】
同様の目的を達成するために請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載の汚水用ルーツポンプにおいて、前記ロータケーシングの内面にライナーを固着したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1の発明)
この汚水用ルーツポンプは、100〜1500rpmで運転が行なわれた場合、2葉若しくは多葉式ルーツロータの吸い込み側に局部的な真空部を生じて汚水から一部のガスが分離され、吐出側において同様に発生したガスが圧縮されて圧縮作用部を生じても、ローブの逃し溝に圧力の高い吐出側の汚水が流入することにより局部的な真空部が消滅するため、キャビテーションが生じにくくなる。また、ローブの逃し溝によって閉じ込み現象が緩和されるので、ポンプの振動が減少する。
【0012】
さらに、このルーツポンプはルーツロータに拡径部を設けているので、汚水に混入した夾雑物がハウジングのスタッフィングボックス内に侵入しにくい。加えて、ポンプケーシング内に混入してせん断用溝に流入する夾雑物は、ルーツロータのローブの側縁とせん断用溝の角縁とによるせん断作用によってせん断されるので、汚水と一緒に吐出口から排出される。また、せん断された夾雑物がスタッフィングボックス内に侵入しようとした場合には、注水口に供給される所定圧力の水によるフラッシング作用によって夾雑物の浸入を防止することができる。
【0013】
(請求項2の発明)
ルーツロータの拡径部の外周にブッシュを嵌着することにより、夾雑物による摩耗を防止することができると共にポンプの耐久性が向上する。
【0014】
(請求項3の発明)
ロータケーシングの内面にライナーを固着することにより、夾雑物による摩耗を防止することができると共にポンプの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る汚水用ルーツポンプの縦断側面図
【図2】同、一部破断正面図
【図3】ハウジングの一部破断正面図
【図4】ハウジングを内面側から見た正面図
【図5】ライナーを固着したロータケーシングの説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の最良の形態例を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1において、本発明に係る汚水用ルーツポンプPは、吸込口2と吐出口3を設けたポンプケーシング1の内部に、吸込口部6を斜め上方に、吐出口部7を斜め下方に設けたロータケーシング5が45度傾けて配置されている。ロータケーシング5の吸込口部6の上隅部5aとポンプケーシング1の吸込口2側の天部1aとは、壁8により連接されている。また、吐出口部7の下隅部5bから横方向へ凹円弧壁9が一体に形成され、その凹円弧壁9のほぼ中間部とポンプケーシング1の底部1bとは、縦壁10により連接されている。11は縦壁10に設けられたバイパス穴である。
【0018】
12はポンプケーシング1の周壁1cに設けられたドレン用穴、13はポンプケーシング1の天部1aに設けられた給水穴である。15はドレン用穴12に螺着されたキャップ、16は給水穴13に螺着されたキャップである。吸込口2には、逆止弁18を介して配管のためのフランジ金具19が取り付けられている。また、吐出口3にも同様に、フランジ金具20が取り付けられている。
【0019】
ロータケーシング5内には一対の2葉ルーツロータ22が収められている。図2に示すように、ルーツロータ22のロータ軸23は、ポンプケーシング1の両側に夫々固定されたハウジング26,27に装着したベアリング28,28により回転自由に支持するように設けられている。下方のロータ軸23のハウジング26から突出する一端23aには図示しないプーリを取付け、モータ装置(図示せず)により該プーリを回転駆動するように設けられている。ロータ軸23の他端23bにはタイミングギア29を夫々固定し、それらのタイミングギア29,29を噛合するように設けている。30はハウジング27の開口部に取り付けたギアカバーである。
【0020】
ルーツロータ22は、各ローブ22aの中心線cから回転方向へ所定寸法、この実施例では約3〜5mmだけ離れた位置の周面に、ロータケーシング5の内周面5cとの隙間が大きくなるような断面三角形状の逃し溝24を各ローブ22aの全長にわたって設け、さらに当該ルーツロータ22の側面22bにロータ軸23と同心状に拡径部25を一体に設けている。
【0021】
ルーツロータ22については、ロータ軸23を除いて形成された芯金部(図示せず)の外側にポリウレタンゴム材(又はニトリルゴム材)によりライニング加工を施したものである。また、この実施例では、2葉式ルーツロータを採用しているが、本発明はこれに限らず、3葉又は4葉式の多葉式ルーツロータを適用することもできる。
【0022】
図3に示すように、ハウジング26には、軸穴26aにロータ軸23を支持するベアリング28が装着され、そのベアリング28の奥に公知のメカニカルシール32を収納したスタッフィングボックス31が設けられている。メカニカルシール32は、ロータ軸23に固定された回転体33とハウジング26の軸穴26bに固定されたリング形状の固定体34とから構成されている。35はベアリング28と固定体34の間に配置されてロータ軸23に取り付けられた円形シール部材である。また、スタッフィングボックス31に連通する軸穴(開口部)26cには、ロータ軸23の拡径部25が緩く挿入されるように設けられる。その拡径部25の外周には、厚さ3〜5mm程度のステンレス製ブッシュ37を嵌着している。
【0023】
40はメカニカルシール32を収納したスタッフィングボックス31内に連通するようにハウジング26に設けられた注水口である。41は水道水等を供給するホースを注水口40に接続するための金具である。そして、注水口40に水道水等を供給することにより、汚水に混入した夾雑物がスタッフィングボックス31内に侵入するのを防止するように設けられている。
【0024】
図4に示すように、ハウジング26の内側面の吸い込み側に相当する箇所には、ロータ軸23が挿入される軸穴26cを中心として半径方向に延びる複数の、ここでは3個のせん断用溝26dを設けている。せん断用溝26dの大きさについては、幅:5〜15mm、長さ:15〜25mm、深さ:5〜10mmとする。また、せん断用溝26dの長さについては、1個目は軸穴26cの内端縁からロータケーシング5の内径の中間位置まで、2個目は軸穴26cの内端縁からロータケーシング5の内径の3/4の位置まで、3個目は軸穴26cの内端縁近くからロータケーシング5の内径から若干突出する位置までというように、ルーツロータ22の回転方向に合わせて変化させるように設けることもできる。
他方のハウジング27についても、同様のせん断用溝を設けるものとする。
【0025】
なお、ポンプケーシング1のロータケーシング5については、ケーシングの内面の摩耗を低減するために、図5に示すようにケーシング5の内面に厚さ3〜5mm程度のステンレス製ライナー38を固着した構造とすることもできる。
【0026】
これにより、ポンプケーシング1内に混入してせん断用溝26dに流入する夾雑物をルーツロータ22のローブ22aの側縁22bと該せん断用溝26dの角縁とによるせん断作用によってせん断し、他方、注水口40に供給される所定圧力の水によるフラッシング作用によって、汚水に混入した夾雑物がスタッフィングボックス31内に侵入するのを防止する本発明に係る汚水用ルーツポンプPが構成される。
【0027】
以上の通り、本発明に係る汚水用ルーツポンプPによれば、2葉ルーツロータ22の吸い込み側に局部的な真空部を生じて汚水から一部のガスが分離され、吐出側において同様に発生したガスが圧縮されて圧縮作用部を生じても、ローブ22aの逃し溝24に圧力の高い吐出側の汚水が流入することにより局部的な真空部が消滅するため、キャビテーションが生じにくい。また、その逃し溝24によって閉じ込み現象が緩和されるので、ポンプの振動が減少する。
【0028】
さらに、ルーツロータ22に拡径部25を設けているので、汚水に混入した夾雑物がハウジング26,27のスタッフィングボックス31内に侵入することが防止される。加えて、ポンプケーシング1内に混入してせん断用溝26dに流入する夾雑物は、ローブ22aの側縁とせん断用溝26dの角縁とによるせん断作用によってせん断されて汚水と一緒に吐出口3から排出される。仮に、せん断された夾雑物がスタッフィングボックス31内に侵入した場合には、注水口40に供給される所定圧力の水によるフラッシング作用によって侵入を防止することができる。
【符号の説明】
【0029】
P・・・本発明に係る汚水用ルーツポンプ
1・・・ポンプケーシング
2・・・吸込口
3・・・吐出口
5・・・ロータケーシング
6・・・吸込口部
7・・・吐出口部
22・・・2葉ルーツロータ
22a・・・ローブ
23・・・ロータ軸
24・・・逃し溝
25・・・拡径部
26,27・・・ハウジング
26d・・・せん断用溝
31・・・スタッフィングボックス
32・・・メカニカルシール
37・・・ブッシュ
38・・・ライナー
40・・・注水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口と吐出口を設けたポンプケーシング内に、吸込口部を斜め上方に吐出口部を斜め下方に設けたロータケーシングを配置し、そのロータケーシング内に装着された一対の2葉若しくは多葉式ルーツロータのロータ軸を該ポンプケーシングの両側に固定したハウジングにより回転自由に支持した汚水用ルーツポンプにおいて、
前記ルーツロータは、芯金部の外側にポリウレタンゴム材又はニトリルゴム材によりライニング加工が施されていて、各ローブの中心線から回転方向へ所定寸法だけ離れた位置の周面に、前記ロータケーシングの内周面との隙間が大きくなるような断面三角形状の逃し溝を各ローブの全長にわたって設け、さらに当該ルーツロータの側面にロータ軸と同心状に設けた拡径部を前記ハウジングに設けられたスタッフィングボックスの開口部に挿入するように設けられ、
前記ハウジングは、その内側面に前記ロータ軸を中心として半径方向に延びる複数のせん断用溝が設けられ、さらに前記ロータ軸に固定した回転体と当該ハウジング側に固定される固定体とからなるメカニカルシールを収納した前記スタッフィングボックス内に連通する注水口を設け、
前記ポンプケーシング内に混入して前記せん断用溝に流入する夾雑物を前記ローブの側縁と該せん断用溝の角縁とによるせん断作用によってせん断し、他方、前記注水口に供給する所定圧力の水によるフラッシング作用によって前記スタッフィングボックス内に前記夾雑物が侵入するのを防止することを特徴とする汚水用ルーツポンプ。
【請求項2】
前記ルーツロータの拡径部の外周にブッシュを嵌着したことを特徴とする請求項1に記載の汚水用ルーツポンプ。
【請求項3】
前記ロータケーシングの内面にライナーを固着したことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚水用ルーツポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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