説明

汚泥及び/又は土壌に含まれる重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出抑制方法

【課題】汚泥や土壌に含まれる重金属類及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を確実に、且つ安価に防止する。
【解決手段】重金属及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌と、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体とを混合する工程を含み、上記汚泥及び/又は土壌から上記重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛等の重金属、ポリ塩化ビフェニル等の有機ハロゲン化物を含有する汚泥や土壌から、これら重金属や有機ハロゲン化物が溶出することを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工場では様々な化学原料や触媒、溶剤等を使用するため、工場の種類や生産ラインによっては種々の環境汚染物質を含んだ汚泥が発生する。また、これらの物質の漏洩による地下水や土壌汚染も懸念されている。日本においては廃棄物処理法によって、汚泥に含まれる環境汚染物質の基準値が定められており、一項目でも基準を超過する汚泥は特別管理型産業廃棄物、すべての基準を下まわった場合は産業廃棄物とされる。
【0003】
また、環境汚染物質を含む汚泥や土壌に対しては、環境汚染物質の溶出を抑制するための種々の対策がなされる。例えば、重金属類の溶出を抑制する技術としては、キレート剤を用いて重金属類を錯体として抽出し、キレート剤と重金属類とを分離して当該キレート剤を再利用する方法(特許文献1:特開2007−209830号公報)が知られている。また、重金属を含み、適度な水分によって湿潤状態にされた処理対象物に塩酸、硫酸などの酸を添加し、pHを4以下の酸性条件に調整した後、電解鉄粉、溶射鉄粉、還元鉄粉など粒度が2mm以下の鉄粉末を添加し、全体を少なくとも全体が均一な混合状態になるまで混合処理して重金属を不溶化する方法も知られている(特許文献2:特開2004−89850号公報)。さらに、重金属を含有する汚染物質に、チオ硫酸化合物溶液を添加するとともに、必要に応じて更に水を添加した後、常温で撹拌混合処理することで重金属元素を不溶化する方法も知られている(特許文献3:特開2003−245632号公報)。さらにまた、所定の割合で硫酸カリウム、硫酸ナトリウムおよびポルトランドセメントを含有する重金属不溶化剤を、重金属類を含む焼却灰に添加してロータリーキルンで加熱処理し、その後粉砕機で100メッシュ以下の微粉体にする方法が知られている(特許文献4:特開平9−309748号公報)。
【0004】
以上のように、重金属類の不溶化、溶出抑制に関しては、様々な対策技術が提案されており、主にカルシウム化合物、硫化物、鉄粉、キレート剤が用いられている。カルシウム化合物を用いた重金属類の不溶化は一般的であり、硫化物を用いた方法も硫化物固定化法として広く知られている。一方、鉄粉やキレート剤を用いる方法については、不溶化の薬剤である鉄粉やキレート剤が高価であるという課題がある。また、技術によっては高温での加熱処理も必要となる。
【0005】
一方、重金属類及び有機塩素化合物の溶出を抑制する技術としては、揮発性有機化合物と重金属に汚染された土壌に酸化カルシウムを含む重金属不溶化剤を混合攪拌して、発熱させ揮発性有機化合物を蒸散させつつ重金属を不溶化する方法が知られている(特許文献5:特開2010−75774号公報)。また、有機塩素化合物で汚染された固体にアルカリ性物質を添加、混合して無害化処理を施した後、さらに鉄(III)塩、鉄(II)塩、アルミニウム塩又はマグネシウム塩を添加混合する方法も知られている(特許文献6:特開2004−25115号公報)。
【0006】
特許文献5に記載された方法は、有機塩素化合物を加熱により気化させ除去する方法であるため、その種類によっては沸点が高く酸化カルシウムの水和熱のみでは気化させることができない場合もある。また、気化した有機塩素化合物を確実に回収し処理する設備も必要である。特許文献6に記載された方法は、アルカリによりPCBやダイオキシン類など有機塩素化合物の脱塩素を行い、その後、鉄やアルミニウム等の塩で重金属類を不溶化させる方法である。ただし、ダイオキシン汚染土壌を対象とした場合、アルカリによる脱塩素には350〜400℃もの高温処理が必要とされている。特に、有機塩素化合物のなかでもポリ塩化ビフェニル(PCB)を含む汚泥や土壌から、PCBの溶出抑制に関する先行事例はなく、PCBの分解に関する技術がほとんどである。PCBの分解技術としては、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱化学分解法、光分解法、プラズマ分解法等の化学処理技術がある。また、PCBを含む排水処理技術としては、湿式酸化処理法(特許文献7:特開2001−225084号公報)、紫外線照射とオゾンまたは過酸化水素を併用した処理法(特許文献8:特開2002−79280号公報)が知られている。このように、PCBに関しては、主に分解を目的とした処理技術は実用化されている。ただし、PCB汚染物を保管している現位置で分解処理を行うには、処理設備を新たに設ける必要があるだけでなく、事前に環境アセスメントを行い、パブリックアクセプタント(PA)を得る必要がある。このように、PCB汚染物は、処理着手までに長時間を要することも十分想定され、やはりPCB溶出を確実に抑制する必要がある。
【0007】
PCB廃棄物や汚染物の処理は、平成13年6月に制定されたPCB特別措置法(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法)に準じている。PCB廃棄物の中でも汚泥の卒業判定基準は含有量基準ではなく、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の昭和48年環境庁告示第13号に定められた溶出試験に準じている(0.003mg/L未満)。さらに、最近では焼却技術の高度化が進み、微量PCBを含む廃棄物の焼却処理の実施も十分期待される状況となってきた。そのため、溶出基準で規定されるPCB汚泥の溶出を抑制し、認定された焼却施設まで安全に輸送することができれば、処理処分のコストダウンが進み、国内に保管されているPCB汚泥の撲滅にも大いに貢献することとなる。
【0008】
特許文献9(特開2004−202441号公報)には、γ-ポリグルタミン酸等のポリアミノ酸及びその架橋体を用いて、ダイオキシン類汚染水中のダイオキシン類を凝集沈殿させる方法が開示されている。また、特許文献10(特開2002−210307号公報)には、γ-ポリグルタミン酸放射線架橋体の機構が説明されている。この放射線架橋体は、γ-ポリグルタミン酸またはγ-ポリグルタミン酸の鎖状長分子が相互に架橋することによって形成され、内部に大きな袋状空間が多数形成されている。特許文献10によれば、この袋状空間に被処理液が吸収され、袋状空間に汚濁物質が吸着されるのではないかとしている。また、特許文献9によれば、汚染水に含まれるダイオキシン類の捕捉を代表的な凝集剤であるPAC(主成分:ポリ塩化アルミニウム)と比較した結果、γ-ポリグルタミン酸またはγ-ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は汚染水のダイオキシン類を効率的に捕捉できることも示している。このように、ダイオキシン類を含有する汚染水については、γ-ポリグルタミン酸やその架橋体をダイオキシン類の凝集剤として利用できることが示唆されている。しかしながら、これら技術は、重金属類やダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物により汚染された汚泥や土壌を対象とはしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−209830号公報
【特許文献2】特開2004−89850号公報
【特許文献3】特開2003−245632号公報
【特許文献4】特開平9−309748号公報
【特許文献5】特開2010−75774号公報
【特許文献6】特開2004−25115号公報
【特許文献7】特開2001−225084号公報
【特許文献8】特開2002−79280号公報
【特許文献9】特開2004−202441号公報
【特許文献10】特開2002−210307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、汚泥や土壌に含まれる重金属類及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を確実に、且つ安価に防止することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討したところ、ポリアミノ酸やポリアミノ酸架橋体を、重金属及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌に混合することで、当該汚泥及び/又は土壌から重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出が防止できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下を包含する。
(1)重金属及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌と、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体とを混合する工程を含み、上記汚泥及び/又は土壌から上記重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を抑制する方法。
【0013】
(2)上記有機ハロゲン化物はポリ塩化ビフェニルであり、上記重金属は亜鉛であることを特徴とする(1)記載の方法。
【0014】
(3)上記汚泥から上澄液を除去した後の固形分及び/又は土壌をスラリー化した後、上記ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体とを混合することを特徴とする(1)記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重金属及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌における重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を確実に、且つ低コストに防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した、重金属類と有機ハロゲン化物を含有する汚泥を対象とした場合の処理フローを示す構成図である。
【図2】各種凝集剤を使用してフロック化した後の状態を撮像した写真である。
【図3】実施例4で使用したB汚染土壌に水を添加したときの状態を撮像した写真である。
【図4】PGα21Caにて処理した場合と処理しなかった場合のスラリーを、それぞれ固液分離して得られたろ液を撮像した写真である。
【図5】亜鉛の溶出が確認されているC汚泥をPGα21Caにて処理した場合と処理しなかった場合におけるスラリーを撮像した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る方法は、汚泥又は土壌に含まれる重金属類及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を防止する方法である。本発明において、土壌としては、特に限定されず、いかなる土壌であってもよい。例えば、農地、建設現場の土壌、工場跡地、原油流出事故現場の土壌、河川の低泥等を挙げることができる。また、汚泥としては、特に限定されず、いかなる汚泥であってもよい。例えば、下水処理施設、工場などの廃液処理施設で生じる泥状の固体を挙げることができる。
【0018】
本発明において重金属とは、特に限定されないが、砒素、水銀、亜鉛、銅、カドミウム、クロム、マンガン、ニッケル、鉛等を挙げることができる。特に、本発明において溶出防止の対象としては、亜鉛を挙げることができる。すなわち、処理対象の汚泥及び土壌は、重金属として少なくとも亜鉛を含有するものが好ましい。
【0019】
本発明において有機ハロゲン化物とは、特に限定されないが、例えば、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ペンタクロロフェノール(PCP)及びDDT等の有機塩素化合物を挙げることができる。特に、本発明において溶出防止の対象としては、ポリ塩化ビフェニルを挙げることができる。すなわち、処理対象の汚泥及び土壌は、有機ハロゲン化物として少なくともポリ塩化ビフェニルを含有するものが好ましい。
【0020】
本発明に係る方法では、重金属類及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌に、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体を混合する。ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体としては、特に限定されず従来公知のものを使用することができる。ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体については、例えば特開2002−210307号公報や特開2004−202441号公報に開示されたものを使用することができる。要するにポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体の構成単位であるアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ジョードチロシン、スリナミン、トレオニン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、シスチン、システイン、α―アミノ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミン等を挙げることができる。
【0021】
また、ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体は、同一アミノ酸が鎖状に重合したホモポリマーと複数種のアミノ酸が鎖状に重合したヘテロポリマーのいずれでもよい。
【0022】
さらに、ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体は、アミノ酸以外の他の単量体成分を含む共重合体であってもよい。単量体成分の具体例としては、アミノカルボン酸、アミノスルホン酸、アミノホスホン酸、ヒドロキシカルボン酸、メルカプトカルボン酸、メルカプトスルホン酸、メルカプトホスホン酸等が挙げられる。さらに、単量体成分としては、多価アミン、多価アルコール、多価チオール、多価カルボン酸、多価スルホン酸、多価ホスホン酸、多価ヒドラジン化合物、多価カルバモイル化合物、多価スルホンアミド化合物、多価ホスホンアミド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、多価イソチオシアナート化合物、多価アジリジン化合物、多価カーバメイト化合物、多価カルバミン酸化合物、多価オキサゾリン化合物、多価反応性不飽和結合化合物、多価金属等も挙げられる。ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体が共重合体である場合、ブロック・コポリマーであっても、ランダム・コポリマーであっても構わない。また、ポリアミノ酸及びポリアミノ酸架橋体は、グラフト構造のものでも構わない。
【0023】
さらにまた。ポリアミノ酸の側鎖構造については、置換基が無くてもよいし、置換基を有する構造であってもよい。例えばポリアスパラギン酸は、単純にイミド環を開環した構造なのでカルボキシル基を有する、この構造に他の置換基をペンダント基として導入しても構わない。他の置換基としては、リジン等のアミノ酸残基、カルボキシル基を有する炭化水素基、スルホン酸基を有する炭化水素基等が挙げられる。
【0024】
さらにまた、ポリアミノ酸のカルボキシル基もしくは側鎖基は、ポリマー主鎖のアミド結合に対し、どの位置に結合していてもよい。例えば、アスパラギン酸残基の場合は、α位に置換されていても、β位に置換されていても構わない。グルタミン酸残基の場合は、α位に置換されていても、γ位に置換されていても構わない。ポリアミノ酸の基本骨格と側鎖部分の結合部分は、特に限定されない。例えば、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合等が挙げられる。
【0025】
さらにまた、ポリアミノ酸のカルボキシル基は、水素原子が結合した形でも、塩を構成した形でも構わない。カルボキシル基の対イオンとしては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等がある。
【0026】
ポリアミノ酸架橋体とは、複数のポリアミノ酸が側鎖を介して連結した構成をとる構造体である。架橋ポリアミノ酸の架橋部分及び側鎖部分は、無置換でもよく、置換していてもよい。置換基としては、炭素原子数1〜18のアルキル基(分岐構造でもよい)、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、アラルキル基、置換していてもよいフェニル基、置換していてもよいナフチル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基(分岐構造でもよい)、アラルキルオキシ基、フェニルチオ基、炭素原子数1〜18のアルキルチオ基(分岐構造でもよい)、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基(分岐構造でもよい)、炭素原子数1〜18のジアルキルアミノ基(分岐構造でもよい)、炭素原子数1〜18のトリアルキルアンモニウム基(分岐構造でもよい)、水酸基、アミノ基、メルカプト基、スルホニル基、スルホン酸基、ホスホン酸基及びこれらの塩、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
ポリアミノ酸架橋体は、従来公知の手法によりポリアミノ酸を原料として製造する事できる。ポリアミノ酸架橋体の製造方法は特に限定されない。例えば、特開平7−224163号、高分子論文集50巻10号,755頁(1993年)、米国特許第3948863号(特公昭52−41309号)、特開平5−279416号、特表平6−506244号(米国特許第5247068及び同第5284936号)、特開平7−309943号に記載の方法を用いることができる。その他、ポリグルタミン酸の架橋剤による架橋、ポリリジンの架橋剤による架橋、ポリアスパラギン酸のγ線架橋、ポリリジンのγ線架橋、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンの電子線による架橋などにより架橋ポリアミノ酸を製造することができる。
【0028】
特にポリアミノ酸架橋体は、ポリアミノ酸に対して放射線等の電子線を照射して架橋構造を形成するという方法によって製造されたものを使用することが好ましい。架橋用の放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、中性子線、中間子線、イオン線などが利用できる。この中でも、操作性の良好さからγ線、X線、電子線が好適である。X線はX線管球又は非管球式の両者が利用でき、近年普及している電子リングから放射される放射光も利用できる。電子線はビームエネルギーに応じて公知の電子線照射装置が利用できる。
【0029】
鎖状分子であるポリアミノ酸を放射線照射すると、例えば、ポリアミノ酸の中にあるCHが脱水素反応によりCH−となり、2本のポリアミノ酸のCH−同士がCH−HCと結合して架橋体を形成する。多数のポリアミノ酸同士が放射線で架橋すると網目構造になり、この網目構造の内部に袋状の空間が多数形成される。すなわち、ポリアミノ酸架橋体は、多数のポリアミノ酸が架橋構造を形成することで形成される多数の袋状の空間を有することとなる。なお、ポリアミノ酸架橋体は、上述した脱水素反応以外の経路で製造されてもよい。放射線による架橋は、ポリアミノ酸を加熱することなく架橋できるので、アミノ酸本来の性質を残したままポリアミノ酸架橋体を形成できる利点を有する。放射線架橋反応は低温架橋反応であり、加熱による架橋反応と異なる点が特徴である。加熱によりポリアミノ酸は熱変成を受けるが、放射線架橋では熱変成を受けない点に特徴を有する。
【0030】
なお、ポリアミノ酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の如何なる製造方法を適用することができる。例えば、微生物を培養することでポリアミノ酸を製造しても良いし、化学合成によりポリアミノ酸を製造しても良い。微生物により生産されたポリアミノ酸は天然物質であり、安全性の観点から推奨される。ポリアミノ酸の中でも、γ−ポリグルタミン酸が特に有力である。
【0031】
γ−ポリグルタミン酸の微生物培養法では、バチルス属のバチルス・スブチリス、バチルス・アントラシス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ナットウ等の菌が利用できるが、特にバチルス・スブチリスのF−2−01株が生産量において好適である。この菌株は分子量が数十万〜数100万のγ−ポリグルタミン酸を産生し、その分子量が比較的大きいから、放射線によって効率よく架橋体を製造できる。
【0032】
前記微生物が産生するγ−ポリグルタミン酸は、枝分れのない直鎖状のγ−ペプチドで、L−グルタミン酸とD−グルタミン酸の共重合体、即ちヘテロポリマーである。このヘテロポリマー構造のγ−ポリグルタミン酸がポリアミノ酸の一例として使用される。微生物産生のγ−ポリグルタミン酸は、所要の養分を混入した液体培地に微生物を植種し、所要温度で所要時間培養して、培養液からγ−ポリグルタミン酸を単離して得られる。液体培地以外に固形培地を利用しても良い。γ−ポリグルタミン酸単体のみならず、培養液自体、また培養液から沈殿させて得られたγ−ポリグルタミン酸を含む培養物を使用することもできる。この培養物にはγ−ポリグルタミン酸と同時にγ−ポリグルタミン酸塩も生成されている。
【0033】
また、上述した培養液、培養物、固形培地などに対して放射線照射することで、これらに含まれるポリアミノ酸に架橋構造を導入することができる。いずれも、放射線架橋体として使用できる。
【0034】
化学合成されるγ−ポリグルタミン酸には、L−グルタミン酸のホモポリマー、D−グルタミン酸のホモポリマー、これら両ホモポリマーの混合物など種々の構造のポリマーが生成される。これらの化学合成されたγ−ポリグルタミン酸もポリアミノ酸の一例として使用できる。つまり、ポリアミノ酸は化学合成品でもよいし、微生物合成品でも使用できる。
【0035】
また、本発明においてポリアミノ酸としては塩の形態も含まれる。ポリアミノ酸塩は、ポリアミノ酸と塩基性化合物の中和反応により塩として生成される。ポリアミノ酸と塩基性化合物を水などの溶媒に室温で溶解させ、加熱しながら攪拌すると効率的に生成される。塩基性化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等、アンモニア、アミンなどの有機性の塩基性化合物がある。
【0036】
ところで、本発明に係る方法を適用することで、例えば図1に示すような処理フローを構築することができる。尚、図1は、重金属類と有機塩素化合物とによる複合的に汚染された汚泥を対象とした例である。本発明に係る方法は、このような汚泥のみならず、重金属類と有機塩素化合物のいずれか一方に汚染された土壌を対象とすることでもできるし、重金属類と有機塩素化合物のいずれか一方又は両方に汚染された土壌を対象とすることもできる。
【0037】
図1に示した処理フローは、(1)上澄液の回収、(2)重金属不溶化処理、(3)凝集処理、(4)脱水処理、(5)放流処理の5つの工程からなる。以下に、各工程の内容を示す。
【0038】
(1)上澄液の回収
汚泥が保管されているピットでは、長期の保管期間により固形が自然沈降し上澄液と固形に分離されている。そこで、まず上澄液のみをピットから回収し貯水槽へ移送する。なお、上澄液にSS(浮遊物質)が多量に混在している場合には、事前にフィルタープレスや遠心分離で固液分離を行っても良い。
【0039】
(2)重金属不溶化処理
固形分としてピットから汚泥を、貯水槽から上澄液を凝集処理槽へ移送し、攪拌しながらスラリーとする。スラリーのpHをモニターしながらアルカリ水溶液を注入することにより目的のpHとする。これにより、対象となる重金属を水酸化物とする。なお、目的のpHは対象とする重金属類によって異なる。例えば、亜鉛の場合は、pH9.0から11.5の範囲において水酸化亜鉛となるため、このpH範囲に制御することとなる。
【0040】
(3)凝集処理
pHが安定した段階でスラリー中の固形分のフロック化を促進するために、上述したポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体を使用した凝集処理を行う。ここで、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体は凝集剤として機能する。ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体を適量添加し、その後、数分から数十分攪拌する。これにより、固形分のフロック化を促進することできる。なお、攪拌速度や攪拌時間は、フロックの大きさや沈降性を確認しながら適宜設定することができる。液容積と乾燥固形分重量の配合比は液分10に対して固形分0.05から1、望ましくは液分10に対して固形分0.1から0.3である。また、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体の添加重量は固形分重量1に対して0.01から0.5、望ましくは固形分重量1に対して0.02から0.2である。なお、加温の必要はない。また、γ-ポリグルタミン酸またはγ-ポリグルタミン酸架橋体は、pHが4〜12の範囲であれば支障なく使用することができる。この凝集処理により、汚泥や土壌に含まれるPCB等の有機ハロゲン化物と水酸化物となった重金属類をポリアミノ酸又はポリアミノ酸架橋体に捕捉することができ、これらの溶出を防止することができる。
【0041】
(4)脱水処理
凝集処理後のスラリーを凝集処理槽から引き抜き、フィルタープレスや遠心分離で固液分離を行う。分離された固形分を貯泥槽へ移送し保管するとともに、分離液は貯水槽へ返送される。
【0042】
(5)放流処理
全ての汚泥の処理が終了した段階で、貯水槽の水のpHを放流基準まで酸水溶液の注入で調整する。
【0043】
以上の処理フローにより、汚泥中の重金属類、有機ハロゲン化物の汚泥からの溶出を抑制するとともに、放流基準以下とした排水を放流することができる。
【0044】
本発明に係る方法は、重金属類及び有機ハロゲン化物を単独で含む汚泥や汚染土壌だけでなく、重金属類と有機ハロゲン化物の複合汚染に対しても、一つの工程で基準以下の溶出量とすることができる。また、本発明に係る方法によれば、有機ハロゲン化物がPCBの場合、PCBの溶出を完全に抑制できるため、PCB処理施設まで汚泥や土壌を安全に運搬することができ、またPCBの溶出を防止するための梱包や特殊な運搬に要するコストを削減することができる。また、本発明に係る方法によれば、汚泥に加水することなく処理ができ、固形分としては添加したポリアミノ酸等(及びアルカリ)のみが重量アップするのみであり、処理に伴う排水量や廃棄物量の著しい増加を招かない。さらに、本発明に係る方法は、常温での処理であり、高温処理等と比較してエネルギーコストを削減でき、さらに当該処理に伴う著しいCO2排出を低減できる。なお、ポリグルタミン酸及びその架橋体は生分解性を有する高分子である。しかし、短時間での生分解は生じず分解微生物が共存しなければ安定であることから、上記の処理を行った後、認定された焼却施設まで移送する期間において支障なく使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
環境庁告示第13号による溶出試験において、PCB溶出濃度が0.055mg/L(PCB卒業判定基準0.003mg/L)である含水率80%のA汚泥を用いた。凝集剤としては、γ-ポリグルタミン酸塩架橋体1種(日本ポリグル社製、PGα21Ca)、ポリアクリル酸エステル系4種(MTアクアポリマー製アロンフロックC-508UL、C-535L、C-702、C-510)、モンモリナイト系1種(東新化成製フロナイト723)、中性水溶性ポリマー系1種(栗田工業製ソイルフレッシュP-101)、アクリル酸ジメチルアミノエチル系1種(ダイヤニトリックスル製ダイヤフロック)の計8種類の凝集剤を用いた。
【0047】
100mL容ビーカー8本にA汚泥1g(湿重)と蒸留水100mLを混合し、各凝集剤の至適pHになるように硫酸(1+35)にて調整した。その後、各凝集剤を0.3gずつ添加し、ガラス棒にて1分間攪拌した。攪拌を停止し5分後のフロック状態、上澄水の透明度及び粘性を目視で観察した。試験結果を表1及び図2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1及び図2から判るように、上澄水の透視度が良好であった凝集剤はNo.1のPGα21Ca及びNo.6のフロナイトであったが、フロナイトで形成されたフロックの大きさは非常に小さかった。一方、PGα21Caを添加した系では、水の透視度が高いだけでなく、粘性も低く、かつフロックの大きさも良好であった。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1と同様のA汚泥を用いた。凝集に用いる供試水として蒸留水だけでなく、現地の保管ピットから採取したA汚泥の上澄水を用いた。所定容のガラスビーカーに、湿汚泥、供試水を入れ、さらにγ-ポリグルタミン酸塩架橋体(PGα21Ca)を添加し、1分間スターラー上で攪拌処理を行った。攪拌を停止し、十分フロックが沈殿した段階で遠心分離を行い、液分と固形分に分離した。
試験条件及び凝集結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
供試水として蒸留水を用いた場合には、スケールを5倍としても良好な凝集が確認された。一方、供試水として上澄水を用いた条件では、凝集剤を湿汚泥重量当たり3%添加した条件で上澄水に若干の濁りが確認されたが、湿汚泥重量当たり凝集剤を4%添加することにより上澄液の濁りは大幅に改善された。
【0053】
〔実施例3〕
実施例2にて採用した試験条件(表2)のうち、γ-ポリグルタミン酸塩架橋体(PGα21Ca)で処理したNo.12の凝集サンプルを遠心分離機で固液分離した。遠心分離した液分については濁度及びPCB濃度を測定した。また、固形分については、環境庁告示第13号によるPCBの溶出試験を行い、溶出液中の濁度及びPCB濃度を測定した。
【0054】
PCBの定量はJIS K0093に準じて行った。分離液、溶出液をヘキサンで液液抽出し無水硫酸ナトリウムで脱水した後過熱・減圧濃縮を行った。さらに、多層カラムによるクロマト吸着分離を行った後、加熱・減圧濃縮、定容し、同位体を使用したGC-ECD法によって定量した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
遠心分離液、溶出試験液の濁度は各々5、3であった。また、PCBの溶出濃度は検出下限値未満(<0.0005mg/L)となり、γ-ポリグルタミン酸塩架橋体(PGα21Ca)による凝集処理により凝集処理前のPCB溶出濃度0.055mg/L を完全に抑制できることがわかった。なお、遠心分離液中にもPCBは全く検出されなかった。
【0057】
〔実施例4〕
本実施例4では、PCBを631mg/kg含むB汚染土壌を用いた(含水率67%)。なお、この汚染土壌を水に入れたところ、図3に示すとおり油膜が確認された。この結果、B汚染土壌は、PCB以外に油汚染も問題となる汚染土壌であることがわかった。
【0058】
本実施例では、300mLビーカー2本を用意し、各ビーカーに湿土壌10g、蒸留水100mLを混合しマグネチックスターラー上で攪拌した。一方には、γ-ポリグルタミン酸塩架橋体(PGα21Ca)を0.4g添加し、5分間攪拌を継続した。各スラリーの様子を見ると、PGα21Caを添加しない系では図3と同様に油膜が見られたが、PGα21Caを添加した系では油膜は全く確認されなかった。この結果、PGα21Caは極性の低い油もフロック内に捕捉できることが明らかとなった。
【0059】
また、各ビーカーから固液分離機により固形分を回収し、環境庁告示第46号によるPCBの溶出試験を行った。溶出液中のPCB濃度は、実施例3と同様にJIS K0093に準じて測定した。試験結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示すように、PGα21Caを添加しない系での溶出液中のPCB濃度は0. 001mg/Lであったが、PGα21Caで処理した系では固液分離液と同様に検出下限未満(<0.0005mg/L)であった。
【0062】
〔実施例5〕
本実施例5では、実施例4で使用したB汚染土壌を用いた。300mLビーカー2本を用意し、各ビーカーに湿土壌50g、蒸留水500mLを混合しマグネチックスターラー上で21時間連続攪拌を行った。さらに、一方のビーカーにγ-ポリグルタミン酸塩架橋体(PGα21Ca)を2.0g添加し、5分間攪拌を継続した。その後、各ビーカーのスラリーを回収し遠心分離した。さらに、各分離液を0.45μmのガラスフィルターでろ過した。
【0063】
得られたろ液の様子を図4に示す。PGα21Caを添加しない系(図4の左)では若干黄色がかったろ液であったが、PGα21Caを添加した系(図4の右)では無色透明なろ液であった。
各ろ液の濁度、TOC(有機全炭素)、PCBを測定した結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
表5に示すように、濁度に関してはPGα21Ca無添加の系で6、添加の系で検出下限未満であった。TOCについてはPGα21Caを添加しない系で20mg/L、添加した系で111mg/Lであった。また、PCBに関しては、PGα21Caを添加しない系で0.0016mg/L、PGα21Caで処理した系で検出下限未満(<0.0005mg/L)となり、TOC同様、PGα21Caを添加することにより大幅に低下することがわかった。この結果、PGα21Caは固形分に吸着している有機物だけでなく、溶解性やミセル状または極微粒子に吸着した有機物まで捕捉できることが示唆された。この結果から、PGα21Ca等のポリアミノ酸を使用した汚泥や土壌に対する凝集処理は、上澄液の水質浄化にも繋がることが明らかとなった。
【0066】
〔実施例6〕
本実施例6では、亜鉛の溶出が確認されているC汚泥を用いた。500mLガラスビーカー2本に各々C汚泥を5g、蒸留水を400mL入れ30分マグネチックスターラー上で攪拌混合を行った。双方の汚泥スラリーのpHを測定したところ、いずれもpH7.4と弱アルカリであった。一方の汚泥スラリーのpHを水酸化ナトリウム水溶液にて10.0に設定するとともに、PGα21Caを0.55g添加し凝集沈殿を行った。各汚泥スラリーの様子を図5に示す。
【0067】
PGα21Ca無添加の系(図5の左)では沈降しにくい浮泥が多数確認されたが、PGα21Caを添加した系(図5の右)では固液の界面が明確にわかり、上澄液には浮泥はほとんど確認されず無色透明であった。
【0068】
双方のビーカーから上澄液を回収し、未ろ過のまま硝酸を用いた酸処理により浮泥をすべて可溶化させた。その後、液中の亜鉛濃度をICPで定量した。分析結果を表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
表6に示すように、PGα21Ca無添加の系では、上澄液中に102mg/Lの亜鉛が検出されたが、PGα21Ca無添加の系では0.3mg/Lとなった。このように、PGα21Caの添加により、水酸化した亜鉛は微粒子とともフロック内に捕捉されることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属及び/又は有機ハロゲン化物を含有する汚泥及び/又は土壌と、ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体とを混合する工程を含み、
上記汚泥及び/又は土壌から上記重金属及び/又は有機ハロゲン化物の溶出を抑制する方法。
【請求項2】
上記有機ハロゲン化物はポリ塩化ビフェニルであり、上記重金属は亜鉛であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記汚泥から上澄液を除去した後の固形分及び/又は土壌をスラリー化した後、上記ポリアミノ酸及び/又はポリアミノ酸架橋体とを混合することを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236136(P2012−236136A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105943(P2011−105943)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】