説明

沸騰冷却装置

【課題】 沸騰冷却装置の熱伝達率を向上させる。
【解決手段】 内部にウイック13が設置されるとともに液相の冷媒が貯留され、外表面に発熱体90が取り付けられる冷媒槽1と、発熱体90の熱によって沸騰した冷媒を冷却して凝縮させた後に冷媒槽1に戻す放熱部2とを備える沸騰冷却装置において、ウイック13は、気孔径が100μm以下で、かつ空隙率が80%以上である、連続泡の発泡金属体よりなる。これによると、気孔径を100μm以下にすることによりウイック内部での核沸騰が促進されるとともに、空隙率を80%以上にすることにより蒸気が抜けやすくなるため、熱抵抗が小さくなって沸騰冷却装置の熱伝達率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の沸騰と凝縮による潜熱移動によって半導体素子等の発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の沸騰冷却装置は、冷媒槽の内部にウイックが設置されるとともに液相の冷媒が貯留され、冷媒槽の外表面に発熱体が取り付けられ、発熱体の熱によって沸騰した冷媒を放熱部で冷却して凝縮させた後に冷媒槽に戻すようになっている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2002−141449号公報
【特許文献2】特開2000−49266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、沸騰冷却装置においては、熱伝達率向上の要求が高まっている。本発明は上記点に鑑みて、沸騰冷却装置の熱伝達率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、内部にウイック(13)が設置されるとともに液相の冷媒が貯留され、外表面に発熱体(90)が取り付けられる冷媒槽(1)と、発熱体(90)の熱によって沸騰した冷媒を冷却して凝縮させた後に冷媒槽(1)に戻す放熱部(2)とを備える沸騰冷却装置において、ウイック(13)は、気孔径が100μm以下で、かつ空隙率が80%以上である、連続泡の発泡金属体よりなることを特徴とする。
【0005】
これによると、気孔径を100μm以下にすることによりウイック内部での核沸騰が促進されるとともに、空隙率を80%以上にすることにより蒸気が抜けやすくなるため、熱抵抗が小さくなって沸騰冷却装置の熱伝達率が向上する。
【0006】
また、上記のウイック仕様では、保水量が大きく、かつ毛細管力が大きいため、ウイック内部で沸騰を起こしてもドライアウトし難く、したがって高い発熱量まで良好な放熱特性を得ることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明のように、ウイック(13)の厚さを2mm以下とすることができる。
【0008】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態について説明する。図1は一実施形態に係る沸騰冷却装置の正面図、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。
【0010】
図1、図2に示すように、沸騰冷却装置は、半導体素子等の発熱体90を冷却するもので、内部に液相の冷媒を貯留するとともに、外表面に発熱体90が取り付けられる冷媒槽1と、発熱体90の熱によって沸騰した冷媒を冷却して凝縮させた後に冷媒槽1に戻す放熱部2とを備えている。
【0011】
冷媒槽1は、銅材より成るカバープレート11と、銅材より成るベースプレート12とが接合されて、液相の冷媒が貯留される空間が内部に形成された最中状ないしは扁平箱状の容器となっている。
【0012】
冷媒槽1内には、ウイック13が設けられ、沸騰冷却装置全体を一体ろう付けする前に、ウイック13はベースプレート12に予め拡散接合されている。あるいは、ウイック13とベースプレート12間に適量のろう材を配置することにより、一体ろう付け時に同時にろう付けしても良い。
【0013】
ウイック13は、本実施形態では発泡銅を用いており、より詳細には、気孔径が100μm以下で、かつ空隙率が80%以上である、連続泡の発泡金属体を用いている。発泡金属体は、スラリー発泡法や、フォーム材へのメッキ処理により3次元的な格子構造を形成したものである。因みに、粒状金属の焼結体では物理的に80%以上の空隙率を確保することは不可能であるが、発泡金属体では80%以上の空隙率を確保することができる。
【0014】
放熱部2は、2枚のプレートが接合されて内部に空間が形成された最中状ないしは扁平箱状のヘッダ21と、ヘッダ21と冷媒槽1とを連通させてヘッダ21と冷媒槽1間で冷媒を流通させる複数本のチューブ22と、チューブ22間に介在されて放熱面積を増大させるフィン23と、ヘッダ21と冷媒槽1とを連結するサイドプレート24とを備えている。なお、ヘッダ21、チューブ22、フィン23、およびサイドプレート24は、いずれも銅より成る。
【0015】
上記沸騰冷却装置は、ウイック13をベースプレート12に予め拡散接合した後、各部材間で接合される部位に施されたろう材により一体ろう付けされる。
【0016】
真空引きされた沸騰冷却装置の内部空間には、所定量の冷媒が封入され、飽和状態に保たれている。冷媒には、ここでは水を使用しているが、水の他にアルコール、フロロカーボン、フロン等を用いてもよい。
【0017】
発熱体90は、図示しない締結手段により、ベースプレート12に押し付けられた状態で沸騰冷却装置に固定されている。
【0018】
上記構成になる沸騰冷却装置の作動について説明する。
【0019】
発熱体90の熱がベースプレート12を介してウイック13に伝達され、ウイック13内の液相冷媒はその熱により沸騰気化し、気相冷媒はチューブ22内を上昇してヘッダ21に向かって流れる。気相冷媒はチューブ22内を流れる際に外部の空気と熱交換して冷却される。そして、冷却されて凝縮した冷媒は、チューブ22内を下降して冷媒槽1内に還流する。
【0020】
このように、発熱体90が発生した熱は、冷媒に伝達されて放熱部2に輸送され、この放熱部2で気相冷媒が凝縮する際に凝縮潜熱として放出され、フィン23を介して外気に放熱され、これにより発熱体90が冷却される。
【0021】
ところで、図3は気孔径と熱抵抗との関係を示す特性図であり、図4は空隙率と熱抵抗との関係を示す特性図である。
【0022】
図3から明らかなように、空隙率が80%で厚さが0.5mmのウイック13や、空隙率が80%で厚さが2.0mmのウイック13の場合、気孔径が100μm以下になると熱抵抗が急激に小さくなることが分かった。これは、気孔径を100μm以下にすることによりウイック13内部での核沸騰が促進されるためである。
【0023】
また、図4から明らかなように、気孔径が50μmで厚さが0.5mmのウイック13の場合、空隙率が80%以上になると熱抵抗が急激に小さくなることが分かった。これは、蒸気が抜けやすくなるためである。
【0024】
したがって、気孔径を100μm以下にし、且つ空隙率を80%以上にすることにより、ウイック13内部での核沸騰が促進されるとともに蒸気が抜けやすくなり、熱抵抗が小さくなって沸騰冷却装置の熱伝達率が向上する。
【0025】
また、毛細管力を冷媒の駆動力として利用するヒートパイプ(べーパチャンバなども含む)では、核沸騰の発生により発熱体近傍のウイックがドライアウトする危険があるため、沸騰を起こさずに、ウイック表面からの蒸発による伝熱形態を起こさせるのが常識である。
【0026】
これに対し、上記のウイック仕様(気孔径が100μm以下、空隙率が80%以上)の場合は、保水量が大きく、かつ毛細管力が大きいため、ウイック13内部で沸騰を起こしてもドライアウトし難く、したがって高い発熱量まで良好な放熱特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る沸騰冷却装置の正面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】気孔径と熱抵抗との関係を示す特性図である。
【図4】空隙率と熱抵抗との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0028】
1…冷媒槽、2…放熱部、13…ウイック、90…発熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にウイック(13)が設置されるとともに液相の冷媒が貯留され、外表面に発熱体(90)が取り付けられる冷媒槽(1)と、前記発熱体(90)の熱によって沸騰した前記冷媒を冷却して凝縮させた後に前記冷媒槽(1)に戻す放熱部(2)とを備える沸騰冷却装置において、
前記ウイック(13)は、気孔径が100μm以下で、かつ空隙率が80%以上である、連続泡の発泡金属体よりなることを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項2】
前記ウイック(13)は、厚さが2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−177582(P2006−177582A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369369(P2004−369369)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】