説明

油中水型乳化組成物

【課題】 皮膚に対する保湿効果の高い油中水型乳化組成物でありながら、香料を高配合した場合に乳化安定性を良好に保ちつつ、且つマッサージクリームとしての良好な使用性を兼ね備えた油中水型の乳化組成物を提供する。
【解決手段】 下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする油中水型乳化組成物。
成分:(A)モノオレイン酸グリセリン
(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤
(C)水性成分
(D)油性成分
(E)香料成分
条件:(1)成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のアルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤の和が組成物全体に占める割合が5質量%以上10質量%未満である。
(2)成分(E)の香料成分が組成物全体に占める割合が0.3質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化組成物に関し、特に皮膚に対する保湿効果の向上、香料を高配合した場合の乳化安定性の改善、さらにはマッサージクリームとして用いた場合のマッサージ性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化組成物は水中油型(O/W)及び油中水型(W/O)に大別されており、さらには油中水中油型(O/W/O)、水中油中水型(W/O/W)などのマルチタイプも存在する。これらは、従来、化粧品分野ではスキンケア用のクリーム、乳液、マッサージクリーム、メーク落としクリーム、ヘアケア用クリームなどに活用され、医薬品分野では経皮用クリームなどとして活用されている。
【0003】
油相を外相、水相を内相とした油中水型の乳化組成物は、油溶性の有効成分、例えばエモリエント油、油溶性の薬剤、紫外線吸収剤などを効率的に皮膚上に展開できることから、皮膚外用剤として適した剤型であり、この点において水中油型よりも優れている。
【0004】
一般に、油中水型乳化組成物は水中油型乳化組成物に比べ安定性を確保することが難しいと考えられている(例えば非特許文献1参照)。これは水中油型乳化組成物であれば非イオン界面活性剤として汎用されるポリオキシエチレンアルキル型界面活性剤のポリオキシエチレン鎖のエントロピー反発や、イオン性界面活性剤の静電反発を乳化物の安定化に活用できるのに対し、油中水型乳化組成物の場合は、調製に適しているとされる親油性の界面活性剤は、親水性(疎油性)が低い傾向にあり、そのため界面に吸着すべき界面活性剤が油相中に単分散溶解して消費される割合が大きくなり、効率的な油水界面の安定化が図りにくいなどの要因が関係している。そのため、水中油型乳化組成物においては、外相を構成する油をゲル化させ水滴を不動化するための高分子化合物の配合や界面活性剤を大量に配合することによって安定化を図ることが多く、乳化剤の量および種類、内水相比、水性成分の種類及びその量、油分の種類及びその量、他の安定剤の種類及びその量などの使用に制限があった。
【0005】
油中水型乳化組成物に香料成分が配合される場合、一般に香料は油性の成分であるため、外相である油相に配合される。香料は植物などから分離された揮発性の高い油性成分である天然香料やテルペン類などを代表とする合成香料、精油などを目的に応じて調合した混合物であり、その分子構造中には二重結合、アルコール、アルデヒド、ケトンなどを含み、極性の油分として位置づけられる。このため、一般に香料が高配合された油分は、界面活性剤の疎油基(親水基)がなじみ易く単分散状態に溶解する傾向が強くなり、油中水型乳化組成の安定性はより悪化する傾向があるという問題があった。
【0006】
また、油中水型乳化組成物を活用したマッサージクリームは顔、ボディなどへクリームを塗布した後、一定時間に亘って指、手のひらなどでクリームを延ばしながら繰り返し塗擦(マッサージ)することで、クリームのスキンケア効果を高めるものである。しかしながら、従来の油中水型のマッサージクリームにおいては、マッサージ中に水などの成分が揮発するため、残存する成分である界面活性剤や油の使用感触への影響が大きく、安定性と使用感触とを両立する油中水型のマッサージクリームを得ることは困難であった。
【0007】
以上のように、皮膚に対する保湿効果の高い油中水型乳化組成物中において、香料を高配合した場合に乳化安定性を良好に保ちつつ、且つマッサージクリームとしての良好な使用性を兼ね備えることは非常に困難な課題であった。
【0008】
一方で、従来、乳化剤としてポリエーテル変性シリコーンを用いることにより、安定性が高い、油中水型乳化化粧料が開発されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。この方法では高分子量(30000以上)のポリエーテル変性シリコーンを使用することが推奨されている。しかしながら、ポリエーテル変性シリコーンは通常、高分子界面活性剤としての挙動を呈し、高分子鎖の絡み合いに起因する、べたついた使用感を与えることが問題であった。
【0009】
また、部分的に親水化されたポリシロキサン架橋体を用いて得られた内水相比の高い油中水型乳化組成物が化粧品へと応用されている(例えば非特許文献2参照)。しかしながら、この方法でエマルションを調製する際には、乳化組成物が環状シリコーン以外の油分、非極性油、極性油、直鎖シリコーンなどの配合により容易に不安定化するという問題があった。特に香料成分を高配合することは困難であり、使用感の制約が存在した。
【0010】
【特許文献1】特開2001−89356号
【特許文献2】特開2002−201355号
【非特許文献1】阿部正彦 編、界面と界面活性剤−基礎から応用まで−、日本油化学会(2005)
【非特許文献2】栗林さつき, オレオサイエンス Vol.1. No.3, 247−254(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記従来技術の課題に鑑み行われたものであり、その目的は、皮膚に対する保湿効果の高い油中水型乳化組成物でありながら、香料を高配合した場合に乳化安定性を良好に保ちつつ、且つマッサージクリームとしての良好な使用性を兼ね備えた油中水型の乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが前述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、(A)モノオレイン酸グリセリン、(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤、(C)水性成分、(D)油性成分、(E)香料成分を特定の割合で含んだ油中水型乳化組成物が、特に皮膚に対する保湿効果が高く、香料を高配合しても乳化安定性が良好であり、さらにはマッサージクリームとして用いたときにマッサージのしやすい油中水型乳化組成物であることを見出し、発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明にかかる油中水型乳化組成物は、下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とするものである。成分:(A)モノオレイン酸グリセリン,(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤,(C)水性成分,(D)油性成分,(E)香料成分 条件:(1)成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のアルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤の和が組成物全体に占める割合が5質量%以上10質量%未満であり、(2)成分(E)の香料成分が組成物全体に占める割合が0.3質量%以上である。
【0014】
また、前記油中水型乳化組成物の成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がポリオキシエチレンイソステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、あるいはポリオキシエチレングリセリルモノイソステアレートのいずれかであることが好適である。また、前記(B)成分のイソ分岐鎖を有する界面活性剤が平均5〜15モルのポリオキシエチレン部分を分子構造中に有することが好適である。あるいは、前記油中水型乳化組成物の成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン(商品名:フィタントリオール)であることが好適である。
【0015】
前記油中水型乳化組成物の成分(A)と成分(B)を合わせた質量と成分(E)の質量費が10:1〜10:5であることが好適である。また、前記油中水型乳化組成物の成分(D)として環状シリコーン油が1成分であることを特徴とする。また、前記油中水型乳化組成物の成分(A)の不純物として含まれるグリセリンオレイン酸ジエステルおよびグリセリンオレイン酸トリエステルが成分(A)の10質量%未満であることが好適である。
【0016】
また、本発明にかかるマッサージクリームは、前記油中水型乳化組成物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる油中水型乳化組成物は、(A)モノオレイン酸グリセリン、(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤、(C)水性成分、(D)油性成分、(E)香料成分を特定割合で含む組成物であって、特に皮膚に対する保湿効果が高く、香料を高配合しても乳化安定性が良好であり、さらにはマッサージクリームとして用いた場合の使用性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明にかかる油中水型乳化組成物は、(A)モノオレイン酸グリセリン、(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤、(C)水性成分、(D)油性成分、(E)香料成分から構成され、且つ(1)成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のアルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤の和が組成物全体に占める割合が5質量%以上10質量%未満であり、(2)成分(E)の香料成分が組成物全体に占める割合が0.3質量%以上であるという条件を満たすものである。以下、各成分について詳述する。
【0019】
成分(A)のモノオレイン酸グリセリンは、種々の公知の合成法により提供され得るものである。通常の合成法によれば、モノオレイン酸グリセリン、ジオレイン酸グリセリン、トリオレイン酸グリセリンの混合物として生成される。本発明にかかる油中水型乳化組成物を構成する成分(A)のモノオレイン酸グリセリンは純度が高いことが望ましい。モノオレイン酸グリセリンの精製法として、通常分子蒸留法が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0020】
成分(A)の不純物として含まれるグリセリンオレイン酸ジエステルおよびグリセリンオレイン酸トリエステルが成分(A)の25質量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは10質量%未満である。モノオレイン酸グリセリンが界面活性剤(乳化剤)としての機能を有するのに対し、ジオレイン酸グリセリン及びトリオレイン酸グリセリンは油分としての挙動を呈する。従って、モノレイン酸グリセリンの純度が低い場合には、極性の油分が配合されたのと同様に乳化安定性が低下する傾向かある。なお、モノオレイン酸グリセリンの純度は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの一般的な方法で測定することができる。
【0021】
成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤は、ポリオキシエチレンイソステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレングリセリルイソステアレート、テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン(商品名:フィタントリオール)のいずれかから選ばれることが好ましい。テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンは分岐鎖を4個有している。また、ポリオキシエチレンイソステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、及びポリオキシエチレングリセリルイソステアレートはポリオキシエチレンを分子構造中に有するものである。これらの構造がエマルション調製の際にもたらす性質として、低温での結晶化防止が挙げられる。また、ポリオキシエチレン鎖のモル数は5〜15であることが好ましい。5未満では低温での安定性が充分でなく、15を超えると成分(A)と成分(B)の混合物の親水性が増し、油中水型乳化組成物の調製としては不適切である。
【0022】
成分(B)のアルキル基にイソ分岐鎖を含む界面活性剤として、一般に化粧品として用いられているものを1種または2種以上を安定性を損なわない範囲で選ぶことができる。成分(A)と成分(B)の質量比は、好ましくは1:1〜4:1である。成分(B)のアルキル基にイソ分岐鎖を含む界面活性剤を本発明の乳化組成物に混合することは、成分(A)のモノオレイン酸グリセリンが低温で結晶化しやすいという性質を補って改善する効果をもたらす。成分(A)と成分(B)の混合比が1:1の範囲を外れて成分(B)が多く配合されると、高温での乳化安定性が充分でなくなり、逆に4:1の範囲を外れて成分(A)が多く配合されると、低温での結晶化が問題になり安定性が充分でなくなる。さらに、成分(A)と成分(B)の総量は多いほどマッサージのしやすい良好な使用感を与え、成分(A)に含まれるモノオレイン酸エステルの純分と成分(B)の合計質量が全質量に対して10〜5.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは7.0〜5.0質量%である。5.0質量%未満であると、マッサージのしやすさが充分でなく、また10.0質量%を超えると、乳化組成物がべたつき感を有するようになる場合がある。
【0023】
成分(C)の水性成分は化粧品、医薬品などに通常使用可能なものを、乳化物の安定性を損なわない範囲で配合することができる。保湿剤としては、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、D−マンニット、等がある。水溶性高分子としては、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、デンプン、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン等の動物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOLなど)等のビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト等の無機系水溶性高分子等がある。
【0024】
紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤、アントラミル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル、等のケイ皮酸系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタン等がある。
【0025】
金属イオン封鎖剤としては、エデト酸ナトリウム塩、メタリン酸ナトリウム、リン酸等がある。
酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α−トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等がある。
【0026】
薬剤としては、ビタミンA油、レチノール、パルミチン酸レチノール、イノシット、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、ニコチン酸DL−α−トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸2−グルコシド、ビタミンD2(エルゴカシフェロール)、dl−α−トコフェロール2−Lアスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩、dl−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、パントテン酸、ビオチン等のビタミン類、アラントイン、アズレン等の坑炎症剤、アルブチン等の美白剤、酸化亜鉛、タンニン酸等の収斂剤、イオウ、塩化リゾチーム、塩酸ピリドキシン、γ−オリザノール等がある。
また、上記薬剤は遊離の状態で使用されるほか、造塩可能なものは酸または塩基の塩の型で、またカルボン酸基を有するものはそのエステルの形で使用することができる。
【0027】
成分(D)の油性成分としては、化粧品、医薬品に通常使用可能なものを、乳化物の安定性を損なわない範囲で使用することができる。好ましくはシリコーン油であり、さらに好ましくは環状シリコーン油である。シリコーン油としては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどに代表される鎖状シリコーン油、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどに代表される環状シリコーン油がある。
極性油分としては、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イロプロピル、イソパルミチン酸オクチル、オレイン酸イソデシル、コハク酸2−エチルヘキシル、セバシン酸ジエチルなどに代表されるエステル油等が挙げられる。
非極性油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、パラフィン、イソパラフィン、セシレン等に代表される炭化水素油がある。
【0028】
成分(E)の香料成分としては、天然香料および合成香料がある。天然香料としては花、葉、材、果皮、などから分離した植物性香料、ムスク、シベットなどの動物性香料がある。合成香料としてはモノテルペンなどの炭化水素類、脂肪族アルコール、芳香族アルコールなどのアルコール類、テルペンアルデヒド、芳香族アルデヒドなどのアルデヒド類、脂環式ケトンなどのケトン類、テルペン系エステルなどのエステル類、ラクトン類、フェノール類、オキサイド類、含チッソ化合物類、アセタール類などがある。これらは単体で使用しても良いが、通常は適宜、目的に応じて調合され使用される。
本発明の油中水型乳化組成物は成分(A)と成分(B)を合わせた質量と成分(E)の質量比が10:1〜10:5であることを特徴とする。10:5を超えて成分(E)の香料成分が配合されるとべたついてマッサージ性が悪くなる。成分(E)の香料成分が10:1の比率未満になると、香料の匂い立ちが不充分となり好ましくない。
【0029】
また、本発明の油中水型乳化組成物は、従来皮膚に適用されている化粧料、医薬品、および医薬部外品に広く応用することが可能である。例えば、美白用美容液、乳液、クリーム、パック、ファンデーション、マスカラ、メーク落とし、ヘアーリンス、皮膚科用軟膏等が挙げられる。
なお、本発明の油中水型乳化組成物を、マッサージクリームとして使用することで、特にマッサージ中の良好な使用性を発揮し得る。
【実施例】
【0030】
本発明については、以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【0031】
油中水型乳化組成物の調製法
成分(A)のモノオレイン酸グリセリン、成分(B)のアルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤、成分(D)の油性成分、成分(E)の香料成分およびその他の油溶性成分を混合し、約40℃に加熱して溶解する。成分(C)の水性成分およびその他の水溶性成分を混合、溶解する。油溶性成分のパーツを比較的強く攪拌しながら水溶性成分のパーツを徐添する。
【0032】
油中水型乳化組成物の評価方法
下記表1〜表5に示す組成物について、以下の評価基準に基づいて、乳化安定性、皮膚に対する保湿効果、使用感、相平衡を評価した。
1.高温での乳化安定性
40℃で一ヶ月保存後に目視にて安定性を評価した。
○:水および/または油の分離が全く認められない。
△:水および/または油の分離が極僅かに認められる。
×:水および/または油の分離が明らかに認められる。
2.低温での乳化安定性
0℃で一ヶ月保存後に光学顕微鏡観察を行い安定性を評価した。
○:結晶の析出が全く認められない。
△:結晶の析出が極僅かに認められる。
×:結晶の析出が明らかに認められる。
3.マッサージしやすさ
専門パネル10名が腹部に油中水型乳化組成物を塗布し、マッサージのしやすさを判定した。
◎:パネルの9名以上が良と回答
○:パネルの6名以上9名未満が良と回答
×:パネルの6名未満が良と回答
4.香料の匂い立ち
専門パネル10名が腹部に油中水型乳化組成物を塗布し、香料の匂い立ちを判定した。
○:10名中9名以上が充分であると評価
△:パネルの6名以上9名未満が充分であると評価
×:パネルの6名未満が充分であると評価
【0033】
【表1】

【0034】
前記表1に示す結果より明らかなように、HLBの低い界面活性剤(ショ糖オレイン酸エステル、ポリエーテル変性シリコーン、ジグリセリンジイソステアリン酸エステル)を選択して用いることにより、香料を0.5%含む油中水型乳化組成物を調製することができる。しかしながら、これらの油中水型乳化組成物においては、40℃での乳化安定性が充分でなく、また、マッサージのしやすさの点でも満足のいくものは得られない(試験例1−1〜1−3)。
これに対して、モノオレイン酸グリセリンとPOE(5)グリセリルモノイソステアレートとを併用した試験例1−4においては、40℃の乳化安定性も良好であり、且つマッサージのしやすさ、香料の匂い立ちの点でも優れている油中水型乳化組成物を調製することができた。
そこで、本発明者らは、モノオレイン酸グリセリン及びPOE(5)グリセリルモノイソステアレート(および他の界面活性剤)の組み合わせの香料を含む乳化組成物の安定化機構について検討を行った。
【0035】
【表2】

【0036】
前記表2に示すように、(A)+(B):(E)が10:6である試験例2−1においては、マッサージ性が僅かながら低下してしまっていた。また、(A)+(B):(E)が10:0.6である試験例2−5においては安定性、マッサージ性は良好であるが、匂い立ちが低下していた。乳化剤をジグリセリンジイソステアリン酸エステルとした試験例2−6〜2−8においては、香料成分の配合量を低下させることで乳化安定性については向上するものの、マッサージ性、匂い立ちの点で充分ではなかった。
次に本発明者らは、油中水型乳化組成物の乳化剤量と乳化安定性、マッサージ性の関係についてさらに検討を進めた。
【0037】
【表3】

【0038】
前記表3に示すように、成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のPOE(5)イソステアリン酸グリセリンの合計配合量が5%未満であると、マッサージ性が低下する傾向があった(試験例3−1、3−2)。また、成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のPOE(5)イソステアリン酸グリセリンの合計配合量が15%であると、成分(A)と成分(B)の総量と成分(E)の比が10:5〜10:1の範囲から逸脱してしまうため匂い立ちが低下した(試験例3−5)。また、試験例3−6〜3−8のジグリセリンジイソステアリン酸エステルの場合には、配合量を増加させてもマッサージ性は向上しなかった。
次に本発明者らは、油中水型乳化組成物の調製に使用する界面活性剤の種類と乳化安定性、マッサージ性の関係について、さらに検討を進めた。
【0039】
【表4】

【0040】
前記表4に示すように、界面活性剤の1種をモノオレイン酸グリセリン(90%)に固定し、親水性の界面活性剤を変えた組成に調整して、それぞれの乳化安定性を検討した。
この結果、テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンを使用した場合、乳化安定性、マッサージしやすさ、匂い立ちとも優れたものであることが判った(試験例4−1)。次に、通常化粧料の乳化剤として汎用されている、ポリオキシエチレン構造を有する適度なアルキル鎖長の界面活性剤を選択したところ、試験例4−2〜4のように乳化安定性に優れた組成物となることが分かった。しかし、同様のポリオキシエチレン構造、アルキル鎖長であっても、アルキル基が分岐していない界面活性剤であると、低温での結晶化が問題となり、乳化安定性が低下した(試験例4−5、4−6)。また、分岐鎖を有する同様のアルキル基であってもポリオキシエチレン構造を備えていないと、低温での乳化安定性が若干低下した(試験例4−7)。またこれらの界面活性剤を用いたものについては、いずれもマッサージ性の評価が不充分であった。
以上の結果から、モノオレイン酸グリセリンと併用する界面活性剤としては、テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン、あるいはポリオキシエチレン構造を有し、アルキル基に分岐構造を有する界面活性剤を使用することが、香料を高配合しても安定で、且つマッサージ性の良好な油中水型乳化組成物の調製ために好ましいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とする油中水型乳化組成物。
成分:(A)モノオレイン酸グリセリン
(B)アルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤
(C)水性成分
(D)油性成分
(E)香料成分
条件:(1)成分(A)のモノオレイン酸グリセリンと成分(B)のアルキル基に分岐鎖を有する界面活性剤の和が組成物全体に占める割合が5質量%以上10質量%未満である。
(2)成分(E)の香料成分が組成物全体に占める割合が0.3質量%以上である。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がポリオキシエチレンイソステアリン酸エステルである油中水型乳化組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がポリオキシエチレンイソステアリルエーテルである油中水型乳化組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物において、成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がポリオキシエチレングリセリルモノイソステアレートである油中水型乳化組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物において、成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤が平均5〜15モルのポリオキシエチレン部分を分子構造中に有することを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物において、成分(B)のイソ分岐鎖を有する界面活性剤がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンである油中水型乳化組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の組成物において、成分(A)と成分(B)を合わせた質量と成分(E)の質量比が10:1〜10:5であることを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物において、成分(D)の油性成分として環状シリコーン油を含むことを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の組成物において、成分(A)の不純物として含まれるグリセリンオレイン酸ジエステルおよびグリセリンオレイン酸トリエステルが成分(A)の10質量%未満である油中水型乳化組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの組成物からなるマッサージクリーム。

【公開番号】特開2008−290946(P2008−290946A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135231(P2007−135231)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】