説明

油吸収シート

【課題】 実用上問題の無いレベルに強度を保ちながら、油吸収能力の高い油吸収シートを提供する。
【解決手段】 少なくとも綿、カポック繊維及び熱溶融繊維が混合された油吸収シート本体(10)と、該油吸収シート本体の両面に接着される不織布シート(12)とを有し、前記油吸収シート本体及び前記不織布シートを接着用の熱溶融繊維(11)で接着したことを特徴とする油吸収シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海などを浮遊する油などを吸収するための油吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
タンカー事故などによる海洋流出油および工場または給油所などで生じた廃油は、そのまま放置すると環境汚染などを招くため、速やかに回収する必要がある。これらの海洋流出油や廃油を回収する方法として、油吸収シートが提案されている。
【0003】
この油吸収シートは、例えば、海洋中に流出した油の上に投入され、油吸収後、フック部材で引き寄せることにより、回収される。油吸収後の油吸収シートは、油を含んで重量が重くなっているため、フック部材を引っ掛けて回収するときに、破れるおそれがある。したがって、油吸収シートには、フック部材から引張応力を受けても、破れないような一定以上の強度が求められる。また、当然のことながら、油吸収シートは、油を吸収するために用いられてため、油の吸収能力が高くなければならない。
【0004】
特許文献1には、従来の油吸収シートが開示されている。この油吸収シートの構成を、図4、図5を用いて説明する。ここで、図4は従来の油吸収シートの斜視図であり、図5は従来の油吸収シートの断面図である。従来の油吸収シートは、2枚の合成繊維からなる不織布シート101を、該不織布シート101の長手方向に沿って延びる複数の接着部102において部分的に熱溶着することにより、袋状の収容部103を形成するとともに、該収容部103の中に棒状の油吸収体104を収容することにより構成されている。
【0005】
また、特許文献2には、別の油吸収シートとして、カポック繊維、靭皮繊維および熱融着繊維を混合し、この混合物をシート状に成形し、次いで、このシート状混合物にニードルパンチを施して孔を形成し、次いで、熱風による加熱後冷却することにより得られるシート状油吸着材が開示されている。
【特許文献1】特開平8−38892号公報
【特許文献2】特開平3−69648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の油吸収シートの場合、油吸収体104が、単に収容部103の中に収容されているだけであり、油吸収体104及び不織布シート101は接着されていないため、強度不足となって、油吸収後、不織布シート101にフック部材を引掛けて回収するときに、破れるおそれがある。
【0007】
また、油吸収体104を収容する収容部103を形成するために、油吸収能力を有さない接着部102を複数設けなければならないため、結果的に、油吸収シートが大型化し、該接着部102の分だけコストが増大する。
【0008】
特許文献2のシート状油吸着材の場合、油吸収率を上げるためには溶融繊維の含有率を減らして、綿及びカポックの含有率を増やさなければならない。ところが、溶融繊維の含有率を減らすと、繊維同士の接着が不十分となって、強度不足の問題が生じる。
【0009】
そこで、本願発明は、実用上問題の無いレベルに引張強度を維持しつつ、油吸収能力の高い油吸収シートを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願発明の油吸収シートの構成は、少なくとも綿、カポック繊維及び熱溶融繊維が混合された油吸収シート本体と、該油吸収シート本体の両面に接着される不織布シートとを有し、前記油吸収シート本体及び前記不織布シートを接着用の熱溶融繊維で接着したことを特徴とする。
【0011】
ここで、不織布シートは、レーヨンで構成するのが好ましい。前記不織布シートのうち、前記油吸収シート本体を接着する接着面とは反対側の面に、オイリング処理を施すとよい。該油吸収シートを、複数箇所スポット状に接着するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、不織布シートが油吸収シート本体の表裏面全体にわたって熱溶融繊維により固着されるため、油吸収シートの強度を全体として高めることができる。これにより、結果的に、油吸収シート本体に含まれる熱溶融繊維の割合を減らして、油吸収能力の高いカポック繊維の割合を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態である油吸収シートの斜視図であり、図2は本発明の実施形態である油吸収シートの製造方法を有効に実施できる、油吸収シートの工程図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態である油吸収シート1は、平面視を矩形としたシート形状に形成されており、海洋、河川に流出した油、工場内の機械製品から漏れた油、タンクローリから道路上に漏れた油、厨房などで発生した廃油などを回収するために、油中に投入されて使用される。
【0015】
油吸収シート1は、油吸収能力の高いカポック繊維を含む油吸収シート本体10を有し、その表裏面に熱溶融繊維11を用いて不織布シート12を接着した構造となっており、油吸収シート1の端面(厚み直交方向の端面)において、油吸収シート本体10は露出している。
【0016】
この油吸収シート1を、例えば、海洋中の油に投入した場合、海洋中の油は、不織布シート12を介して油吸収シート本体10に吸収されるとともに、油吸収シート1の端面から、直接油吸収シート本体10に吸収される。
【0017】
次に、本発明の油吸収シートの製造方法の概略を説明する。まず、綿、カポック及び熱溶融繊維からなる混合物を、二回の攪拌工程に分けて十分に攪拌し、繊維分布を略均一にする。
【0018】
次に、この十分に攪拌された攪拌物を、フリースマシンを構成するネット状の回転ドラムの表面に吹き付ける。回転ドラムの内側には、ドラムの外側から内側に空気を吸引する吸引機が設けられており、この吸引機によって、該攪拌物は、回転ドラム表面に帯状の繊維集合体(油吸収シート本体)となって、張り付くようになっている。
【0019】
続いて、回転ドラムに張り付いた油吸収シート本体10をスクレーパによって剥ぎ落とし、コンベアで搬送し、搬送途中で油吸収シート本体10の表裏面に接着用の熱溶融繊維11を供給し、さらにその熱溶融繊維11の上から不織布シート12を重ねる。
【0020】
そして、油吸収シート本体10、熱溶融繊維11が及び不織布シート12が積層された油吸収シート1を、コンベアの搬送方向下流端に設けられた熱処理機に搬送し、加熱する。これにより、油吸収シート内の熱溶融繊維が溶融し、油吸収シート本体10の表裏面全体に不織布シート12が強固に接着した強度の高い油吸収シート1を得ることができる。
【0021】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態である油吸収シートの製造方法を詳細に説明する。
【0022】
まず、ベールオープナ21で、綿を略握り拳大の大きさに粉砕する。この拳大の綿をマルチミキサ22に入れて、そこにカポック繊維及び熱溶融繊維を混入して、攪拌する。そして、この攪拌物を、ホッパービータ23で攪拌するとともに、細かく砕くことによって、繊維分布を略均一にする。本形態における綿としては、化学処理していない原綿であればその品種を問わないが、好ましく表層に油脂、ワックスの多く、油の保持に適した繊維長の短い紡績落ち綿(コーマ)を用いるとよい。
【0023】
また、熱溶融繊維としては、ポリプロピレン系、ポリエステル系などが挙げられる。例えば、繊維の芯成分が結晶性ポリエステルで、その外周がポリエステルより融点の低いポリプロピレン、ポリエチレン等でコートされた芯鞘型複合繊維等を用いることができる。
【0024】
ここで、綿、カポック繊維及び熱溶融繊維の混合割合は、綿20〜25重量%、カポック繊維55〜60重量%、熱溶融繊維20〜25重量%の範囲が好ましい。
【0025】
次に、この攪拌物を、フリースマシーン24を構成するネット状の外周面を有する回転ドラムの表面にエアーで吹き付ける。この回転ドラムの内側には、回転ドラムの外側から内側に向けて空気を吸引するための不図示の吸引機が設けられており、該吸引機を駆動しながら回転ドラムを回転させることにより、吹き付けられた攪拌物が、回転ドラムの表面に帯状の繊維集合体(油吸収シート本体)となって張り付くようになっている。回転ドラムの表面近傍には、スクレーパが配置されており、回転ドラムに張り付いた油吸収シート本体10は、スクレーパの鋭部に当接して、そこから剥ぎ落ちるようになっている。剥ぎ落ちた油吸収シート本体10は、無端回動するコンベア25によって、コンベア25の搬送方向下流に向かって搬送される。
【0026】
コンベア25の搬送途中には、上流側から順に、梳綿機26、不織布挿入装置27が配置されており、梳綿機26から油吸収シート本体10の表裏面に熱溶融繊維11が供給され、この熱溶融繊維11の上から不織布シート12が不織布挿入装置27によって供給されるようになっている。
【0027】
ここで、梳綿機26から供給される接着用の熱溶融繊維11には、油吸収シート本体10に混入する熱溶融繊維と同じ資材を用いることができる。また、不織布シート12としては、レーヨン、ポリエステルなどの資材を用いることができる。なお、後述するように、油吸収シート1をスポット状に熱プレスする場合、該熱プレス温度よりも溶融温度の高いポリエステルを使用するとよい。
【0028】
不織布シート12のうち、油吸収シート本体10に接触する接触面とは反対側の面に、オイリング処理を施すのが好ましい。
【0029】
オイリング処理に用いられる材料としては、グリセリン、PEG−400N(日華化学)、リポオイル、NT−33K(日華化学)を好適に用いることができる。このように、不織布シートの外側の面にオイリング処理を施すことにより、海洋中の油が不織布シートを通って、速やかに油吸収シートに吸収されるため、油吸収体の油吸収速度を早くすることができる。すなわち、不織布シートにオイリング処理を施していない場合、不織布シートの表面に発生している毛羽によって、油の進入が妨げられるが、オイリング処理を施すことにより、毛羽が抑制され、油が油吸収シートに速やかに吸収される。
【0030】
梳綿機26及び不織布挿入装置27において、熱溶融繊維及び不織布シートが供給された油吸収シート本体(以下、「油吸収シート」という)は、コンベア25の搬送方向下流端に設けられた、熱処理機28に搬送される。
【0031】
熱処理機28は、外周面がネット状に形成された、ステンレスからなる回転ドラムと、この回転ドラムの内側から所定温度に加熱された空気を吸引する吸引機とを備えており、該熱処理機28を用いて熱溶融繊維を溶融し、油吸収シート1の成形性を高めるとともに、引っ張り強度を高くすることができる。
【0032】
すなわち、熱処理機26に送られ、回転ドラムの外周面に吸引された油吸収シート1は、吸引機によって回転ドラムの外側から内側に向かって流入する、約135℃に加熱された空気によって加熱されるようになっている。
【0033】
このように油吸収シート1を加熱することにより、油吸収シート本体10に含まれる熱溶融繊維が溶融し、この溶融した繊維が、冷却後、固化することによって、溶融繊維本体のみならず、綿繊維及びカポック繊維を含む複数の繊維集合体を繊維相互がからんだ状態で固化し、成形性を保つことになる。さらに、油吸収シート1における油通過口を形成する空隙(例えば、各繊維の間隙、不織布シートの目)を塞ぐことなく、油吸収シート本体10の表面から発生している毛羽をつたってそれをコーティングするようになっている。これにより、毛羽によって油吸収が阻害されるのを防止できる。
【0034】
また、油吸収シート本体10と不織布シート12との間に介在している接着用の熱溶融繊維11が溶融するため、油吸収シート本体10の表裏面に不織布シート12を強固に固着することができる。これにより、海洋中の油を吸収して、重量が重くなった油吸収シート1を、フック部材で引っ掛けて回収するときに、その引張力によって油吸収シート1が破損するのを防止できる。
【0035】
また、油吸収シート1の表裏面全体に、熱溶融繊維11を用いて不織布シート12を強固に固着することにより、油吸収シート1の強度が全体として向上するため、油吸収シート1自体の強度を特許文献3の油吸収シートよりも低くすることができる。その結果、油吸収シート1に含まれるカポック繊維の混合割合を高めることができるため、実用上問題の無いレベルに強度を保ちながら、油吸収率を上げることができる。
【0036】
また、不織布シート12の材料としてレーヨンを用いることにより、熱処理工程において不織布シートが溶融して、溶融物が回転ドラムのメッシュの目を塞ぐのを防止できる。すなわち、熱処理工程において、レーヨンは回転ドラムの外周面に接触した状態で約135℃に加熱された空気が通過し、油吸収シート1に含まれる熱溶融繊維は溶融するが、レーヨンの融点はそれよりも高いため、不織布シートが熱処理工程において溶融することはない。
【0037】
同様の理由から、熱溶融繊維がレーヨンと同程度以上、すなわち、180℃程度以上の熱溶融繊維であれば、レーヨンに代えて使用することができる。例えば、溶融温度を260℃としたポリエステルが考えられる。
【0038】
本形態の油吸収シート1に対して図3に示すように、所定間隔でスポット状に熱プレスしてもよい。油吸収シート1に対して所定間隔にスポット状に熱プレスすることは、油吸着能力を損なうことにつながるため、熱プレスによる熱融着面積とそのスポット数は、少ないことが望ましい。
【0039】
すなわち、油吸着能力と強度とは、相反する問題であるが、実用性から見ると、スポット部13の径は、1〜1.5cmとするのが好ましい。また、熱プレスの温度は、180℃〜200℃に設定するのが好ましい。
【0040】
このように、所定間隔でスポット状に熱プレスすることにより、スポット部13に対応した領域に存在する熱溶融繊維がさらに溶融し、不織布シート12及び油吸収シート10がさらに強固に接着されることになる。また、不織布シート12の材料に用いられているレーヨンの融点は、熱プレス温度の上限である200℃よりも高いため、熱プレスを行ったときに、不織布シートが溶融して、油吸収シートにスポット状の穴が空くのを防止できる。
【0041】
上述のように製造された油吸収シート1は、冷却された後、裁断機29にて所定寸法に裁断され製品化される。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例である油吸収シートと従来の油吸収シートとについて、油吸着速度、油吸収量及び引張強度を測定して、比較した。
【0043】
本発明の実施例である油吸収シート本体を構成する綿、カポック繊維及び熱溶融繊維の混合割合はそれぞれ、16重量%、56重量%及び28重量%であり、綿には紡績落ち綿を用い、カポック繊維にはベトナム産を用い、熱溶融繊維には、大和紡績株式会社製、PP・2.2デニール・繊維長51mm・融点120℃を用いた。
【0044】
また、接着用の熱溶融繊維としては、上述の油吸収シート本体に含まれる熱溶融繊維と同じものを使用した。
【0045】
不織布シートを構成するレーヨンとしては、金星製紙製のレーヨン不織布WJ27を用いた。また、不織布シートのオイリング処理には、グリセリン5%液を用いた。なお、本実施例の油吸収シートには、熱プレス成形をしていない。
【0046】
従来の油吸収シートは、綿、カポック繊維及び熱溶融繊維からなり、これらの混合割合は、綿15重量%、カポック繊維47重量%、熱溶融繊維38重量%とした。資材の種類は、本発明の実施例と同様にした。
【0047】
<油吸着速度及び油吸着量の測定> 10cm×10cm×0.6cmの試験片を、B重油の油面に浮かべ、所定時間静置した後、これを金網上に5分間放置し、試験片の重量を測定する。
【0048】
【表1】

【0049】
試験片を投入してから、60秒が経過すると、油吸収量は、従来シートよりも本実施例シートのほうが大きくなることがわかった。
【0050】
<引張強度の測定> JIS L1913に基づき引張試験を行った。
【0051】
試験装置として、島津製作所AGS−5kBNBを使用した。油吸収シートの大きさは、50mm×300mm×6mmとし、引張速度は10mm/minとした。
【0052】
【表2】

【0053】
縦方向の引張強度は、横方向の引張強度よりも3倍大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の油吸収シートの斜視図
【図2】本発明の油吸収シートの製造システムを図示したブロック図
【図3】図1の油吸収シートを更に熱プレスした油吸収シートの斜視図
【図4】従来の油吸収シートの斜視図
【図5】従来の油吸収シートの断面図
【符号の説明】
【0055】
1 油吸収シート
10 油吸収シート本体
11 熱溶融繊維
12 不織布シート
13 スポット部
21 ベールオープナ
22 マルチミキサ
23 ホッパービータ
24 フリースマシーン
25 コンベア
26 梳綿機
27 不織布挿入装置
28 熱処理機
29 裁断機
16 第2の熱処理機
17 裁断機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも綿、カポック繊維及び熱溶融繊維が混合された油吸収シート本体と、該油吸収シート本体の両面に接着される不織布シートとを有し、
前記油吸収シート本体及び前記不織布シートを接着用の熱溶融繊維で接着したことを特徴とする油吸収シート。
【請求項2】
前記不織布シートは、レーヨンからなることを特徴とする請求項1に記載の油吸収シート。
【請求項3】
前記不織布シートのうち、前記油吸収シート本体を接着する接着面とは反対側の面に、オイリング処理を施したことを特徴とする請求項1又は2に記載の油吸収シート。
【請求項4】
スポット状に接着された接着部を有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の油吸収シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−77718(P2007−77718A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268869(P2005−268869)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(390037604)カクイ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】