説明

油圧制御装置

【課題】 組み付け作業の効率を向上させるため、縦組を可能とする構造を備える油圧制御装置を提供する。
【解決手段】 プランジャ2をスリーブ1の内部に組み付け、これらを一体にしてバルブ穴に組み付ける際に、バルブ穴が縦向きの場合であっても、スリーブ1に設けた段部1aにより、プランジャ2がスリーブ1から脱落するのを阻止する。これにより、あらかじめスリーブ1にプランジャ2を組み付けた状態で、バルブ穴に縦組みすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧制御装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に使用される自動変速機は、プラネタリギヤユニット、複数の摩擦係合要素等を備え、各摩擦係合要素を所定の組合せで係脱させることによって、プラネタリギヤユニットのサンギヤ、リングギヤ、キャリヤ等の回転要素の回転速度を変化させ、複数の変速段を達成するようになっている。上記各摩擦係合要素は、油圧回路の油圧サーボへの油圧の給排によって係脱させられている。油圧回路には各種のソレノイドバルブ、切換バルブ等が配設され、所定のソレノイドバルブのソレノイドをオン・オフさせることにより、切換バルブが切り換えられ、上記油圧サーボに対して油圧の給排が制御される。
【0003】
図3(A)、(B)は、下記特許文献1に開示される油圧制御装置の断面構造を図示したものである。まず、図3(A)を参照して、この油圧制御装置の構造について説明する。バルブボディ10を有し、このバルブボディ10に形成されたバルブ穴7に対して摺動可能にスプール5が配設されている。また、スプール5をバルブ穴7に配設した状態において、スプール5との間にスプリング6を介在させて、バルブ穴7に嵌入される円筒形状のスリーブ1を有している。このスリーブ1の一端側には、バルブ穴7を閉塞するための略円柱形状のプラグ3が一体形成されている。プラグ3およびスリーブ1をバルブ穴7に嵌入した状態で、プラグ3とバルブボディ10との間を固定するためにキー4が打ち込まれている。円筒形状のスリーブ1の内部にはスプール5に対して当接可能な略円柱形状のプランジャ2が配設されている。
【0004】
上記構成からなる油圧制御装置において、図3(A)に示す状態は、正常時の状態を示す図である。特許文献1にあっては、ソレノイドバルブに異常が発生して、係合させる必要がない摩擦係合要素が係合させられると、自動変速機にインターロックが発生することから、インターロックを防止するために、ポート1に油圧が印加される。この状態が、図3(B)に示す状態である。ポートP1に油圧が印加されると、プランジャ2およびスプール5が、図中において下方に押し下げら、係合させる必要がない摩擦係合要素の油圧サーボに油圧が供給されるのが阻止される。
【特許文献1】特開2003−14096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成からなる油圧制御装置は、スリーブ1がプランジャ2を内包した状態でバルブ穴7を閉塞する形状となっている。したがって、プランジャ2をスリーブ1の内部に組付け、これらを一体にしてバルブ穴7に組み付ける際には、スリーブ1のスプール5に対向する側からスリーブ1の内部にプランジャ2をあらかじめ組み付けた上でバルブ穴7にスリーブ1を嵌入れることになるが、プランジャ2がスリーブ1の内部から脱落するのを防止するためには、バルブ穴7を横向きにして組み付け作業を行なう必要がある。特に、ロボット等を用いた自動組み付けの採用を考えた場合には、すべての組み付け作業を横組に変更しなければならなくなるなど、上記構成からなる油圧制御装置においては、組み付け作業の効率低下を招くこととなっている。また、横組みの場合、各部材同士の摺動面積が増加し、バルブ穴7内に異物を発生させるおそれもある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、油圧制御装置の組み付け作業において、横組を採用しなければならない点にある。したがって、この発明の目的は、組み付け作業の効率を向上させるため、縦組を可能とする構造を備える油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に基づいた油圧制御装置においては、バルブボディと、上記バルブボディに形成されたバルブ穴に摺動可能に配設されるスプールと、上記バルブ穴に嵌入されるとともに上記スプールに対して上記バルブ穴の開口側に配設されるスリーブと、上記スリーブの内部に摺動可能に、かつ、上記スプールに当接可能に配設されるプランジャと、を有する油圧制御装置であって、上記スリーブには、上記スプールに対向する側から上記プランジャが脱落するのを阻止する段部が設けられ、上記バルブ穴を閉塞するプラグが上記スリーブとは別体に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成からなる油圧制御装置によれば、プランジャをスリーブの内部に組み付け、これらを一体にしてバルブ穴に組み付ける際に、バルブ穴を縦向きにした場合でも、スリーブに設けた段部により、プランジャがスリーブから脱落するのを阻止することができる。これにより、あらかじめスリーブにプランジャを組み付けた組立体の状態で、バルブ穴に縦組みすることが可能となる。その結果、組み付け性が向上し、自動組み付けへの対応も可能となる。また、縦組みを実施することができる結果、組み付け時における各部材同士の摺動面積が低下し、バルブ穴内での発生異物を減少させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明に基づいた実施の形態における油圧制御装置について、図1および図2を参照しながら説明する。なお、図1(A)、(B)は、この発明に基づいた本実施の形態における油圧制御装置の断面構造を示す図であり、図2は、この発明に基づいた本実施の形態における油圧制御装置の要部の組立を説明するための断面図である。なお、図3において説明した油圧制御装置と同一又は相当部分については、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さないこととする。
【0010】
まず、図1(A)および図2を参照して、本実施の形態における油圧制御装置の構造的特徴は、図3において説明した油圧制御装置と比較した場合、スリーブ1の形状にある。本実施の形態におけるスリーブ1は、円筒形状を有し、スプール5に対向する側において、内部方向に延びる突起部からなる段部1aが形成されている。この段部1aは、円筒形状のスリーブ1の全周にわたって設けられてもよいし、円周上、1箇所または複数箇所に部分的に設けるようにしても構わない。スリーブ1のスプール5に対向する側とは反対側は、開放状態に形成されている。また、プラグ3は、スリーブ1とは別部材により形成され、スリーブ1の開放端側を閉塞するため嵌入される軸部3aと、この軸部3aよりも大径に設けられ、バルブ穴7を閉塞するため嵌入される頭部3bとを有している。
【0011】
上記構成からなる油圧制御装置において、その組立においては、まず図2に示すように、スリーブ1を縦にした状態で、スリーブ1の内部にプランジャ2を挿入する。このとき、プランジャ2の端面には、摺動部2aの外径よりも小さい小径部2bが設けられ、小径部2bの外形により凹部領域2cが形成されている。その結果、スリーブ1の段部1aの内面が、凹部領域2cに当接して、プランジャ2のスリーブ1からの脱落を阻止している。その後、スリーブ1の開放端側に、プラグ3の軸部3aを嵌入する。これにより、スリーブ1、プランジャ2、および、プラグ3の組立体100が完成する。その後、図1に示すように、この組立体100をスプール5およびスプリング6が嵌め入れられたバルブ穴7に組み付け、キー4により組立体100をバルブボディ10に固定する。なお、図1(A)は、ポートP1に油圧が印加されていないときの状態を示す断面図であり、図1(B)は、ポートP1に油圧が印加され、プランジャ2およびスプール5が、図中において下方に押し下げられた状態を示す断面図である。
【0012】
以上、本実施の形態における油圧制御装置によれば、プランジャ2をスリーブ1の内部に組み付け、これらを一体にしてバルブ穴7に組み付ける際に、バルブ穴7が縦向きの場合であっても、スリーブ1に設けた段部1aにより、プランジャ2がスリーブ1から脱落するのを阻止することができる。これにより、あらかじめスリーブ1にプランジャ2を組み付けた状態で、バルブ穴7に縦組みすることができる。その結果、組み付け性が向上し、自動組み付けへの対応も可能となる。また、縦組みを実施することができる結果、組み付け時におけるスリーブ1とプランジャ2との間、スリーブ1とバルブ穴7との間の摺動面積が低下し、発生異物を減少させることもできる。
【0013】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるのではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に基づいた本実施の形態における油圧制御装置の断面構造を示す図であり、(A)はポートP1に油圧が印加されないとき、(B)はポートP1に油圧が印加されたときの断面構造図である。
【図2】この発明に基づいた本実施の形態における油圧制御装置の要部の組立を説明するための断面図である。
【図3】背景技術における油圧制御装置の断面構造を示す図であり、(A)はポートP1に油圧が印加されないとき、(B)はポートP1に油圧が印加されたときの断面構造図である。
【符号の説明】
【0015】
1 スリーブ、1a 段部、2 プランジャ、2a 摺動部、2b 小径部、2c 凹部領域、3 プラグ、3a 軸部、3b 頭部、4 キー、5 スプール、6 スプリング、7 バルブ穴、10 バルブボディ、100 組立体、P1 ポート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディと、前記バルブボディに形成されたバルブ穴に摺動可能に配設されるスプールと、前記バルブ穴に嵌入されるとともに前記スプールに対して前記バルブ穴の開口側に配設されるスリーブと、前記スリーブの内部に摺動可能に、かつ、前記スプールに当接可能に配設されるプランジャと、を有する油圧制御装置であって、
前記スリーブには、前記スプールに対向する側から前記プランジャが脱落するのを阻止する段部が設けられ、
前記バルブ穴を閉塞するプラグが前記スリーブとは別体に設けられていることを特徴とする、油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−153238(P2006−153238A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348631(P2004−348631)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】