説明

油圧式オートテンショナ

【課題】吸気時の開放圧力と排気時の開放圧力を個別に設定することができるようにした簡単な構成の組立ての容易な油圧式オートテンショナを提供する。
【解決手段】ばね座18に吸排気孔43と、その吸排気孔43をリザーバ室23と連通する通気路44を設け、上記吸排気孔43内に吸気用ベント54を有する弁体と、その弁体を吸排気孔43の閉塞端に向けて付勢するバルブスプリングを組込み、リザーバ室23の圧力低下時にベント54のスリットを開放させ、反対にリザーバ室23の圧力上昇時に弁体を開放させるようにして、リザーバ室23内の圧力を一定に保つようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータやウォータポンプ、エアコンのコンプレッサ等の自動車補機を駆動するベルトの張力調整用に用いられる油圧式オートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトの回転を各種の自動車補機に伝えるベルト伝動装置においては、ベルトの弛み側にテンションプーリを支持する揺動可能なプーリアームを設け、そのプーリアームに油圧式オートテンショナの調整力を付与して、上記テンションプーリがベルトを押圧する方向にプーリアームを付勢し、ベルトの張力を一定に保持するようにしている。
【0003】
上記のようなベルト伝動装置に使用される油圧式オートテンショナとして、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この油圧式オートテンショナにおいては、作動油が充填された底付きシリンダの内底面から立ち上がるスリーブ内にロッドの下部をスライド自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの底面間にリターンスプリングを組込んでロッドとシリンダを伸張する方向に付勢している。
【0004】
また、ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有するベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、そのリザーバ室の下部と上記圧力室とを通路で連通し、その通路にチェックバルブを設け、ベルトからテンションプーリおよびプーリアームを介してシリンダとロッドに収縮させる方向の押込み力が負荷された際に、チェックバルブを閉じ、圧力室内に封入された作動油のダンパ作用によって上記押込み力を緩衝するようにしている。
【0005】
ところで、上記の油圧式オートテンショナにおいては、シリンダとロッドとが相対的に伸張するとき、リザーバ室の体積が増加して圧力が低下し、逆に、シリンダとロッドとが相対的に収縮するとき、リザーバ室の体積が減少して圧力が高くなるため、リザーバ室の圧力変動によりベローズが収縮または膨張し、その収縮時にベローズに引張り力が付与されて外れが生じたり、膨張時に嵌合部に隙間が形成されて内部の作動油が噴き出す可能性がある。
【0006】
そのような不都合を解消するため、特許文献2に記載された油圧式オートテンショナにおいては、ばね座にリザーバ室と外部を連通する通気路を設け、その通気路内にベントを組込み、リザーバ室の体積減少による圧力低下時、あるいは、体積増加による圧力上昇時にベントを開放させて、リザーバ室の圧力を一定に保ち、ベローズの外れや作動油の噴き出しを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2000−504395号公報
【特許文献2】特開2007−315562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献2に記載された従来の油圧式オートテンショナにおいては、ばね座に2つの通気路を設け、一方の通気路に吸気用ベントを組込み、他方の通気路に排気用ベントを組込んだ2つのベントを用いる構成であるため、部品点数が多くなって組立に手間がかかり、コストも高くなり、改善すべき点が残されていた。
【0009】
ここで、ベントには、吸気と排気の両方の機能を備えるものが開発されるに至っており、そのようなベントを上記油圧式オートテンショナに採用することにより、上記の問題点の解決に大きな効果を挙げることができる。
【0010】
しかし、吸気と排気の両方の機能を有するベントを採用した場合、吸気と排気の両方向の開放圧力の設定が困難であり、その設定圧力を吸気側を基準にして設定すると、リザーバ室の体積減少による圧力上昇時にベントが開放せず、そのリザーバ室の内圧過大により、ベローズが大きく膨張変形して嵌合部に隙間が形成され、作動油が噴き出し、反対に、上記設定圧力を排気側を基準にして設定すると、リザーバ室の体積増加による圧力低下時にベントが開放せず、ベローズに外れが生じるという不都合が発生する。
【0011】
この発明の課題は、吸気時の開放圧力と排気時の開放圧力を個別に設定することができるようにした簡単な構成の組立ての容易な油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明においては、閉塞端を下部に有し、内部に作動油が充填されたシリンダ内に、その内底面から立ち上がるスリーブを設け、そのスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座にリターンスプリングの弾性力を付与してシリンダとロッドを伸張する方向に付勢し、前記ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有する伸縮可能なベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、前記シリンダの底部には前記リザーバ室と圧力室を連通する第1油通路を設け、その第1油通路に圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると第1油通路を閉じるチェックバルブを設け、前記ロッドに圧力室とリザーバ室を連通する第2油通路を設け、前記ばね座には、その外周面で開口する吸排気孔と、その吸排気孔の閉塞端部とリザーバ室の作動油面上に形成された空気溜まりとを連通する通気路とを設け、前記吸排気孔内に、リザーバ室内の圧力が設定圧力より低下し、または、設定圧力を超えた際に開放して外部と通気路とを連通する弁機構を組込んだ油圧式オートテンショナにおいて、前記弁機構が、吸排気孔の内径面間に余裕をもってスライド自在に組込まれ、その吸排気孔の閉塞端面に対する密着状態で前記通気路を閉鎖する弁体と、その弁体を前記閉塞端面に向けて付勢するバルブスプリングとからなり、前記弁体が、中央部に通気孔が形成されたスプリングシートと、そのスプリングシートにより片面の全体が保持されるフランジを外周部に有し、中央部に形成されたスリットがリザーバ室内の圧力低下時に開放するゴム製の吸気用ベントとからなる構成を採用したのである。
【0013】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナにおいて、シリンダとロッドが相対的に伸張し、リザーバ室の体積増加によって圧力が低下すると、ベントに形成されたスリットが開放し、外部の空気が通気路に流れてリザーバ室内に流入する。このため、リザーバ室内の圧力が一定に保たれることになり、ベローズの外れが防止される。
【0014】
反対に、シリンダとロッドが相対的に収縮し、リザーバ室の体積減少によって圧力が上昇すると、弁体がバルブスプリングの弾性に抗して移動して開放状態となり、リザーバ室内のエアが通気路から外部に排気される。このため、リザーバ室内の圧力が一定に保たれることになり、作動油の噴き出しが防止される。
【0015】
このように、ベントのスリットの開放によって吸気が行なわれるため、ベントの肉厚や硬度、スリット幅を変更することで目的とする設定開放圧力を得ることができる。また、弁体の開放によって排気が行なわれるため、バルブスプリングをばね定数の異なる他のバルブスプリングと交換することによって目的とする設定開放圧力を得ることができ、吸気時の開放圧力と排気時の開放圧力を個別に設定することができる。
【0016】
また、ベントは弁体の一部であるため、部品点数の少ない簡単な構成の組立ての容易な油圧式オートテンショナを得ることができる。
【0017】
ここで、リザーバ室内のエアが排気される際、そのエアにはオイルミストが含まれるため、吸気用ベントは耐油性に優れたゴムで形成するのが好ましい。そのようなゴムとして、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムを挙げることができる。
【0018】
この発明に係る油圧式オートテンショナにおいて、ばね座の外周面に円柱状突出部を形成し、その突出部の中心部に前記吸排気孔を形成し、その吸排気孔を覆う端板の外周部に上記突出部の外径面に嵌合される円筒部が形成されたカバーを突出部に取付けることにより、吸排気孔から内部に異物が侵入してオートテンショナの機能が低下するのを防止することができる。
【0019】
この場合、カバーの端板内面の中央部にガイド筒を設け、そのガイド筒の開口端から軸方向に延びるスロットを形成し、弁体のスプリングシートに筒体を設け、その筒体をガイド筒内にスライド自在に嵌合し、かつ抜け止めしてカバー、弁体およびバルブスプリングをユニット化することにより、カバー、弁体およびバルブスプリングを同時に組付けることができるため、組立ての容易化を図ることができる。
【0020】
ここで、エンジンの駆動によって補機を駆動するベルト伝動装置においては、モータ・ジェネレータが搭載され、車両の停止時、エンジンを停止し、モータ・ジェネレータを発動動作に切り換えて補機を駆動するようにしたアイドルストップ対応車用のものが存在する。
【0021】
上記のようなアイドルストップ対応車用のベルト伝動装置においては、モータ・ジェネレータの駆動によるベルトの張り側(エンジンの駆動によるベルトの弛み側)にテンションプーリを設け、そのテンションプーリに油圧式オートテンショナの調整力を付与して、ベルトの張力を一定に保つようにする。
【0022】
この場合、ばね座に、その外周面で開口するバルブ取付孔と、そのバルブ取付孔を介して前記第2油通路とリザーバ室を連通する第3油通路を設け、上記バルブ取付孔に、ばね座の外周に支持されたソレノイドによって閉じ状態にロックされる第2チェックバルブを設けておくと、上記ソレノイドの作動により第2チェックバルブを閉じ状態に保持することによってシリンダとロッドの相対的な伸縮を防止し、テンションプーリを定位置に保持することができる。
【0023】
このため、モータ・ジェネレータによるエンジンの駆動時に、ソレノイドの作動によってテンションプーリを定位置に保持することにより、ベルトのスリップを防止することができ、安定したエンジンの始動を可能とすることができる。
【0024】
また、吸排気孔の対向位置にバルブ取付孔を配置することにより、ばね座の外周に吸排気孔の形成スペースを確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
上記のように、この発明においては、ベントのスリットの開放によって吸気を行なわせ、弁体の開放によって排気を行なわせるようにしたので、吸気時の開放圧力と排気時の開放圧力を個別に設定することができ、作動油の噴き出しやベローズの外れを確実に防止することができる。
【0026】
また、ベントは弁体の一部をなすため、部品点数の少ない簡単な構成の組立ての容易な油圧式オートテンショナを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係る油圧式オートテンショナが組込まれたベルト伝動装置の概略図
【図2】図1に示す油圧式オートテンショナの縦断正面図
【図3】図2の弁体の組込み部を拡大して示す断面図
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図
【図5】弁体を示す一部切欠斜視図
【図6】弁体の開放状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1は、エンジンの停止時にモータ・ジェネレータで補機を駆動するアイドルストップ対応車用のベルト伝動装置を示す。このベルト伝動装置においては、エンジンのクランクシャフト1に取付けたプーリ2と、モータ・ジェネレータの回転軸3に取付けたプーリ4および補機の回転軸5に取付けたプーリ6にベルト7を掛け渡し、エンジンによって発電動作に切り換えられたモータ・ジェネレータおよび補機を駆動し、発動動作に切り換えられたモータ・ジェネレータでエンジンおよび補機を駆動するようにしている。
【0029】
エンジンの駆動時に弛み側とされるベルトにはテンションプーリ8が接触され、そのテンションプーリ8を支持するプーリアーム9が軸10を中心にして揺動自在に支持され、そのプーリアーム9に油圧式オートテンショナAの調整力が負荷されてテンションプーリ8がベルト7に押し付けられている。
【0030】
図2は油圧式オートテンショナAを示す。この油圧式オートテンショナAは下部が閉塞するシリンダ11を有し、そのシリンダ11の内底面に形成されたスリーブ嵌合孔12内にスリーブ13の下端部が圧入されている。スリーブ13内にはロッド14の下端部に設けられた大径部14aがスライド自在に挿入され、そのロッド14の挿入によって、スリーブ13内に圧力室15が設けられている。
【0031】
ロッド14の大径部にはリング溝16が形成され、そのリング溝16に嵌合したOリング17はスリーブ13の内径面に弾性接触している。
【0032】
ロッド14のシリンダ11の外部に位置する上端部にはばね座18が固定され、そのばね座18とシリンダ11の内底面間に組込まれたリターンスプリング19は、シリンダ11とロッド14が相対的に伸張する方向に付勢している。
【0033】
ばね座18の上端にはエンジンブロックに連結される連結片20が設けられている。また、ばね座18には、リターンスプリング19の上部を覆う筒部21が一体に設けられ、その筒部21とシリンダ11の上部間にベローズ22が装着されている。
【0034】
ベローズ22は、その長さ方向の中央部に上向き反転部22aと、その上向き反転部22aの外側に下向き反転部22bが形成され、上記上向き反転部22aに連設された小径筒部22cが筒部21に嵌合されて抜止めされている。
【0035】
また、下向き反転部22bに連設された大径筒部22dの端部がシリンダ11の上部外周に嵌合されて抜止めされている。
【0036】
上記ベローズ22の装着により、シリンダ11の上部開口は閉鎖されて内部に充填された作動油の漏洩が防止されている。また、ベローズ22の装着によって、そのシリンダ11とスリーブ13との間に密閉されたリザーバ室23が形成され、そのリザーバ室23の作動油面上に空気溜まり23aが設けられている。
【0037】
リザーバ室23と圧力室15は、スリーブ嵌合孔12とスリーブ13の嵌合面間に形成された第1油通路24で連通し、その第1油通路24の圧力室15側の端部に設けられた第1チェックバルブ25は、圧力室15内の圧力がリザーバ室23内の圧力より高くなると、第1油通路24を閉鎖するようになっている。
【0038】
ロッド14には、第2油通路26が形成されている。この第2油通路26の下端は大径部14aの外周対向位置で開口してその大径部14aとスリーブ13の内径面間に形成される微小な間隙を介して圧力室15に連通し、上端はロッド14の上面で開口している。
【0039】
ばね座18には、その外周面で開口するバルブ取付孔27と、そのバルブ取付孔27を介して第2油通路26とリザーバ室23の空気溜まり23aとを連通する第3油通路28とが形成されている。
【0040】
バルブ取付孔27にはソレノイドバルブユニット30が接続されている。ソレノイドバルブユニット30はハウジング31を有し、そのハウジング31にはバルブ取付孔27に嵌合される接続筒32が設けられている。
【0041】
接続筒32の外周には2つのシールリング33が軸方向に間隔をおいて取り付けられ、各シールリング33はバルブ取付孔27の内径面に弾性接触して、バルブ取付孔27と接続筒32の嵌合面間をシールしている。
【0042】
接続筒32の先端部には、その内部と第3油通路28を連通する通油孔34が形成されている。
【0043】
ハウジング31の内部には、第2チェックバルブ35と、その第2チェックバルブ35を閉じ状態でロックするソレノイド36が組込まれている。第2チェックバルブ35は、接続筒32の先端部に圧入されたバルブシート37と、そのバルブシート37に形成された弁孔38に対して進退自在に設けられたロッド39と、そのロッド39の先端部に保持された半球状の弁体40と、その弁体40が弁孔38を閉じる方向に向けてロッド39を付勢するスプリング41とからなり、上記ロッド39の外径面と接続筒32の内径面間に隙間が設けられている。
【0044】
第2チェックバルブ35は、ソレノイド36に通電すると、弁体40が弁孔38を閉じる状態でロッド39がロックされるようになっている。
【0045】
ばね座18には、バルブ取付孔27から周方向に180°ずれた位置に円柱状の突出部42が形成され、その突出部42の中心部に吸排気孔43が設けられている。
【0046】
吸排気孔43は、ばね座18に形成された通気路44を介してリザーバ室23の作動油面上に形成された空気溜まり23aと連通している。吸排気孔43内には、リザーバ室23内の圧力が設定圧力より低下し、または、設定圧力を超えた際に開放して外部と通気路とを連通する弁機構50が組込まれている。
【0047】
図3に示すように、弁機構50は、吸排気孔43の内径面間に余裕をもってスライド自在に組込まれ、その吸排気孔43の閉塞端面に対する密着状態で通気路44を閉鎖する弁体51と、その弁体51を前記シート面に向けて付勢するバルブスプリング52とからなっている。
【0048】
図3乃至図5に示すように、弁体51は、スプリングシート53と、そのスプリングシート53に保持された吸気用ベント54とからなる。スプリングシート53は円板状をなし、バルブスプリング52の押圧力を受ける一方の面の中心部には筒体55が形成され、その筒体55の内側が通気孔56とされている。また、スプリングシート53の他方の面の外周部には複数の係合爪57が周方向に間隔をおいて形成されている。
【0049】
吸気用ベント54は、円弧状湾曲部58の外周部にフランジ59を設け、上記湾曲部58の凸曲面の中央部に形成された膨出部60にスリット61を設けた構成とされたゴムの成形品からなり、上記フランジ59がスプリングシート53に衝合され、フランジ59の外周面に形成された環状突出部62と係合爪57の係合により、スプリングシート53に結合一体化されている。
【0050】
ここで、吸気用ベント54に形成されたスリット61は、リザーバ室23内の圧力が設定圧より低下すると開放するようになっており、上記リザーバ室23内の圧力が設定圧より高い状態では閉じ状態を保持するようになっている。なお、スリット61の開放する際の設定圧力は、ゴムの硬度や、膨出部60の肉厚、スリット61の幅を変更することによって調整することができる。
【0051】
ここで、吸気用ベント54を形成するゴムとして、ニトリルゴム、水素を添加したニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム等の耐油性に優れたものが採用されている。
【0052】
図3に示すように、突出部42の先端部には吸排気孔43の開口端から内部に異物が侵入するのを防止するカバー70が取付けられている。図3乃至図5に示すように、カバー70は、吸排気孔43の開口端を覆う端板71の外周部に突出部42の外径面に少しの余裕をもって嵌合可能な円筒部72を設けた構成とされ、上記円筒部72には、その開口端から軸方向に延びる対向一対の割り溝73の複数が周方向に間隔をおいて形成されている。
【0053】
また、対向一対の割り溝73間に形成された弾性片74の先端部には内向きの係合爪75が形成されている。
【0054】
上記の構成からなるカバー70は、突出部42の外径面に対する円筒部72の嵌合によって取付け状態とされ、上記係合爪75と突出部42の先端部外周に形成された環状溝76の係合によって取付け状態に保持されている。
【0055】
ここで、カバー70における端板71の内面中央部にはガイド筒77が形成され、そのガイド筒77に開口端から軸方向に延びる複数のスロット78が形成されている。また、ガイド筒77の開口端に内向き爪79が設けられている。
【0056】
ガイド筒77内にはスプリングシート53に形成された筒体55がスライド自在に挿入され、その筒体55の先端部外周にはガイド筒77の内向き爪79に対する当接によって筒体55を抜け止めする外向き爪80が形成されて、カバー70、弁体51およびバルブスプリング52がユニット化されている。
【0057】
実施の形態で示す油圧式オートテンショナは上記の構成からなり、図1に示す補機駆動用ベルト7の張力調整に際しては、シリンダ11の閉塞端に設けられた連結片11aをプーリアーム9に連結し、かつ、ばね座18の連結片20をエンジンブロックに連結して、そのプーリアーム9に調整力を付与する。
【0058】
ここで、モータ・ジェネレータによってエンジンおよび補機を駆動する場合は、図2に示すソレノイド36に通電し、一方、エンジンの駆動による通常走行時は、ソレノイド36に対する通電を遮断する。
【0059】
いま、ソレノイド36に通電すると、第2チェックバルブ35の弁体40が弁孔38を閉じる閉位置でロックされる。
【0060】
このため、モータ・ジェネレータによりエンジンが駆動されてベルト7の張力が増大し、そのベルト7からプーリアーム9を介してシリンダ11に押し上げ力が負荷されて圧力室15の圧力が上昇しても、第2油通路26は第2チェックバルブ35によってリザーバ室23との連通が遮断される状態とされ、また、第1油通路24は第1チェックバルブ25で閉鎖されるため、圧力室15内の作動油はリザーバ室23に向けて流れず、上記圧力室15内に封入された作動油によってシリンダ11とロッド14が相対的に収縮する方向に移動するのが阻止され、テンションプーリ8は定位置に固定される。
【0061】
このように、ソレノイド36に通電することにより、テンションプーリ8を定位置に固定することができるため、ベルト7のスリップを防止し、安定したエンジンの始動を可能とすることができる。
【0062】
モータ・ジェネレータによるエンジンの始動後において、エンジンの駆動による通常走行に際し、ソレノイド36に対する通電を遮断すると、第2チェックバルブ35はロック解除される。
【0063】
第2チェックバルブ35のロック解除状態において、補機の負荷変動等によってベルト7の張力が変化し、上記ベルト7の張力が弱くなると、リターンスプリング19の押圧によりシリンダ11とロッド14が伸張する方向に相対移動してベルト7の弛みが吸収される。
【0064】
ここで、シリンダ11とロッド14が伸張する方向に相対移動するとき、圧力室15内の圧力はリザーバ室23内の圧力より低くなるため、第1チェックバルブ25が第1油通路24を開放する。このため、リザーバ室23内の作動油は第1油通路24から圧力室15内にスムーズに流れ、シリンダ11とロッド14は伸張する方向にスムーズに相対移動してベルト7の弛みを直ちに吸収する。
【0065】
一方、ベルト7の張力が強くなると、ベルト7から油圧式オートテンショナのシリンダ11とロッド14を収縮させる方向の押込み力が負荷される。このとき、圧力室15内の圧力はリザーバ室23内の圧力より高くなるため、第1チェックバルブ25は第1油通路24を閉じる。
【0066】
また、圧力室15内の作動油は大径部14aとスリーブ13間に形成された微小な隙間から第2油通路26に流れてリザーバ室23内に流入し、上記微小隙間に作動油が流動する際の流動抵抗によって油圧ダンパ力が発生し、その油圧ダンパ力によって、油圧式オートテンショナAに負荷される上記押込み力が緩衝されると共に、シリンダ11とロッド14は、押込み力とリターンスプリング19の弾性力とが釣り合う位置まで収縮する方向にゆっくりと相対移動する。
【0067】
ここで、油圧式オートテンショナAによって張力調整されるベルト7は、エンジンの始動時に大きな弛みが生じる。その際、油圧式オートテンショナAのシリンダ11とロッド14が伸張する方向に急速に相対移動してリザーバ室23の体積が増加し、逆に圧力が急激に低下する。
【0068】
このとき、図3に示すように、吸気用ベント54のスリット61が開放し、外部の空気が吸排気孔43から通気路44を通ってリザーバ室23の空気溜まり23a内に流入し、その空気の流入によって、リザーバ室23内の圧力は一定に保持されることになる。
【0069】
このため、ベローズ22に引張り力が負荷されることはなく、ベローズ22が外れるという不都合の発生はない。ここで、吸排気孔43が開放状態であると、リザーバ室23内に外部空気が流入する時、その外部空気と共にダスト等の異物が吸排気孔43内に侵入しようとするが、その吸排気孔43はカバー70で覆われているため、異物が侵入するという不都合の発生はない。
【0070】
また、上記ベルト7は、発動動作に切り換えられたモータ・ジェネレータによってエンジンおよび補機が駆動される時、張力が増大する。その際、油圧式オートテンショナAのシリンダ11とロッド14が収縮する方向に急速に相対移動してリザーバ室23の体積が減少し、逆に圧力が急激に高くなる。
【0071】
このとき、バルブスプリング52の弾性に抗して弁体51が吸排気孔43の閉塞端から離反する方向に移動して、図6に示すように、弁体51が開放状態となる。このため、リザーバ室23の空気溜まり23aの空気は通気路44から吸排気孔43内に流れて外部に流出し、その空気の流出によってリザーバ室23内の圧力は一定に保持されることになる。
【0072】
このように、リザーバ室23の体積減少による圧力上昇時に弁体51が開放し、空気溜まり23a内の空気が外部に流出して、リザーバ室23内の圧力が一定に保持されるため、ベローズ22が膨張して嵌合部に隙間が形成されるという不都合の発生はなく、作動油の噴き出しは確実に防止されることになる。
【0073】
以上のように、実施の形態で示す油圧式オートテンショナAにおいては、吸気用ベント54のスリット61の開放によって吸気を行なわせ、弁体51の開放によって排気を行なわせるようにしたので、吸気時の開放圧力と排気時の開放圧力を個別に設定することができ、作動油の噴き出しやベローズ22の外れを確実に防止することができる。
【0074】
また、吸気用ベント54は弁体51の一部をなすため、部品点数の少ない簡単な構成の組立ての容易な油圧式オートテンショナを得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
11 シリンダ
13 スリーブ
14 ロッド
15 圧力室
18 ばね座
19 リターンスプリング
22 ベローズ
23 リザーバ室
23a 空気溜まり
24 第1油通路
25 第1チェックバルブ
26 第2油通路
27 バルブ取付孔
28 第3油通路
35 第2チェックバルブ
36 ソレノイド
42 突出部
43 吸排気孔
44 通気路
50 弁機構
51 弁体
52 バルブスプリング
53 スプリングシート
54 吸気用ベント
55 筒体
56 通気孔
59 フランジ
61 スリット
70 カバー
72 円筒部
77 ガイド筒
78 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞端を下部に有し、内部に作動油が充填されたシリンダ内に、その内底面から立ち上がるスリーブを設け、そのスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座にリターンスプリングの弾性力を付与してシリンダとロッドを伸張する方向に付勢し、前記ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有する伸縮可能なベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、前記シリンダの底部には前記リザーバ室と圧力室を連通する第1油通路を設け、その第1油通路に圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると第1油通路を閉じるチェックバルブを設け、前記ロッドに圧力室とリザーバ室を連通する第2油通路を設け、前記ばね座には、その外周面で開口する吸排気孔と、その吸排気孔の閉塞端部とリザーバ室の作動油面上に形成された空気溜まりとを連通する通気路とを設け、前記吸排気孔内に、リザーバ室内の圧力が設定圧力より低下し、または、設定圧力を超えた際に開放して外部と通気路とを連通する弁機構を組込んだ油圧式オートテンショナにおいて、
前記弁機構が、吸排気孔の内径面間に余裕をもってスライド自在に組込まれ、その吸排気孔の閉塞端面に対する密着状態で前記通気路を閉鎖する弁体と、その弁体を前記閉塞端面に向けて付勢するバルブスプリングとからなり、前記弁体が、中央部に通気孔が形成されたスプリングシートと、そのスプリングシートにより片面の全体が保持されるフランジを外周部に有し、中央部に形成されたスリットがリザーバ室内の圧力低下時に開放するゴム製の吸気用ベントとからなることを特徴とする油圧式オートテンショナ。
【請求項2】
前記吸気用ベントが、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムの一種からなる請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。
【請求項3】
前記ばね座の外周面に円柱状突出部を形成し、その突出部の中心部に前記吸排気孔を形成し、その吸排気孔を覆う端板の外周部に前記突出部の外径面に嵌合される円筒部が形成されたカバーを前記突出部に取付けた請求項1又は2に記載の油圧式オートテンショナ。
【請求項4】
前記カバーの端板内面の中央部にガイド筒を設け、そのガイド筒の開口端から軸方向に延びるスロットを形成し、前記弁体のスプリングシートに筒体を形成し、その筒体を前記ガイド筒内にスライド自在に嵌合し、かつ抜け止めしてカバー、弁体およびバルブスプリングをユニット化した請求項3に記載の油圧式オートテンショナ。
【請求項5】
前記ばね座に、その外周面で開口するバルブ取付孔と、そのバルブ取付孔を介して前記第2油通路とリザーバ室を連通する第3油通路を設け、上記バルブ取付孔に、ソレノイドによって閉じ状態にロックされる第2チェックバルブを設けた請求項1乃至4のいずれかの項に記載の油圧式オートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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