説明

油圧式ダンパ用油圧弁および油圧式ダンパ

【課題】 簡易な構造で、線形性に優れ、2段減衰特性を得ることができる油圧式ダンパ用油圧弁およびこれを用いた油圧式ダンパを提供する。
【解決手段】 弁部27は、大きく第1弁部33と第2弁部35とに分けられる。第1弁部には、流路である溝部41が設けられる。溝部41は、根本部(弁体19側)が略半円形状であり、半円形状に接続され軸方向に略平行な形状を(略U字形状)の所定深さの溝である。溝部41は、第1弁部33の全長にわたって設けられず、弁部27の根本部(弁体19との境界近傍)には、溝部41が設けられない円柱部39が形成される。円柱部39は、略円柱形状であり、周囲に溝やテーパ、切欠き等を有さない部位である。第2弁部35は、第1弁部33の先端に形成され、第2弁部の根本側(第1弁部33境界側)から先端側に向かって縮径するテーパ部37を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線形性に優れ、ピストンの速度領域における低速度領域と高速度領域の双方に適応した減衰係数を有する油圧式ダンパ用油圧弁およびこれを用いた油圧式ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震や風などにより構造物が振動した際の制震性を高める為、ブレース等に油圧式ダンパが用いられる場合がある。油圧式ダンパは、流体抵抗を利用し、構造物の揺れを抑える効果を有する。このような油圧式ダンパは、構造物の特性に応じて最適な減衰係数が設定される。この際、油圧式ダンパのピストンの変位速度と発生する減衰力との関係である減衰係数は線形であることが望ましい。したがって、線形性が良い減衰係数の油圧式ダンパを得るためには、線形性に優れた調圧弁が使用される。
【0003】
一方、ある程度以上の大きな揺れが生じ、ある程度以上の速度で油圧式ダンパのピストンが変位した場合には、油圧式ダンパが過大な減衰力を発生し、建物が破損する恐れがある。そこで、通常、調圧弁の他に、リリーフ弁が設けられ、所定以上の大きな減衰力を油圧式ダンパが発生した際には、リリーフ弁が開き、過剰な減衰力を発生することを防いでいる。
【0004】
このような、2段階の減衰特性を有する油圧式ダンパとしては、例えばピストンで区切られた油圧室をつなぐ流路に、複数のチェック弁と、調圧弁と、一対のリリーフ弁とが設けられた油圧式ダンパがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−36677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の油圧式ダンパは、多くの弁を必要とし、構造が複雑であることから、ピストンの加工性などの製造面やコストの面で、より簡易な2段減衰特性を有する油圧式ダンパが望まれている。
【0007】
特に、特殊な油圧回路やチェック弁等を組み合わせるような方法ではなく、通常の油圧弁と置き換えることで、簡単に2段減衰特性を得ることができる油圧式ダンパ用の油圧弁が望まれている。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で、線形性に優れ、2段減衰特性を得ることができる油圧式ダンパ用油圧弁およびこれを用いた油圧式ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、油圧式ダンパに用いられる油圧弁であって、弁体と、前記弁体と対向する弁体押さえ部材と、前記弁体を前記弁体押さえ部材に押し付けるばねと、を具備し、前記弁体の先端には、前記弁体押さえ部材に設けられた孔に挿入可能な第1の弁部と、前記第1の弁部の先端に設けられた第2の弁部を有し、前記第1の弁部には流路が形成され、前記第2の弁部は、前記第1の弁部先端から縮径する第2弁テーパ部を有し、前記弁体が前記ばねに対抗して移動した状態で、前記第1の弁部が前記孔に挿入されている間は、前記流路と前記孔との隙間を流体が流れ、前記第1の弁部が前記孔から抜けると、前記第2弁テーパ部と前記孔との隙間を流体が流れることを特徴とする油圧式ダンパ用油圧弁である。
【0010】
前記第1の弁部の前記弁体近傍には、前記流路が設けられず前記孔の内径に対応する円柱部が形成されることが望ましい。
【0011】
前記弁体の前記第1および第2の弁部が設けられる側には、本体テーパ部が設けられ、前記孔の周囲には、段部が設けられ、前記本体テーパ部が前記段部の縁と接触可能であってもよい。
【0012】
前記流路は、前記第1の弁部の側面に設けられ、前記弁体の動作方向に対してU字状、V字状、半円形状または、U字状、V字状および半円形状の組み合わせによる形状の溝部であってもよい。
【0013】
または、前記流路は、前記第1の弁部に設けられ先端方向に縮径した第1弁テーパ部であり、前記弁体の軸方向に対する前記第1弁テーパ部のテーパ角度は、前記第2弁テーパ部のテーパ角度よりも小さくてもよく、この場合、前記第2弁テーパ部の前記弁体の軸方向に対するテーパ角度は30から120°の範囲であることが望ましい。
【0014】
第1の発明の油圧式ダンパ用油圧弁によれば、弁体の先端に第1の弁部と第2の弁部とを有し、第1の弁部には通常時の制震に対する調圧が可能な流路が形成され、第2の弁部には、線形性に優れ、性能設計が非常に容易なテーパ部を有するため、弁体押さえ部材に対する弁体の変位量に応じて、2段階の減衰特性を得ることができる。特に、第2の弁部がテーパであるため、リリーフ特性が極めて安定し、かつ設計が容易である。なお、テーパ部のテーパ角度を30〜120°の範囲とすれば、リリーフ特性が安定して望ましい。
【0015】
また、通常の油圧弁に対して弁体先端形状のみを変更するものであるため、構造が簡易であり、一つの油圧弁によって容易に2段階の減衰特性を得ることができる。
【0016】
また、第1の弁部と弁体との交差部近傍には、流路が設けられない円柱部が形成されるため、弁体が閉じている状態において、弁体と弁体押さえ部材との間に油の漏れる隙間が生じた場合であっても、円柱部と弁体押さえ部材の孔との間で確実に油の逆流を防止することができる。
【0017】
第1の弁部および第2の弁部が設けられる側の弁体の肩部には、本体テーパ部が設けられ、弁体押さえ部材に設けられた段部の縁と接触可能とすれば、弁体と弁体押さえ部材との接触面積が小さくなり、面圧が大きくなるため、背圧による作動油の漏れを抑えることができる。
【0018】
また、第1の弁部に設けられる流路の形態は、設計される減衰特性等に応じて種々の形状が選択できるため、第2の弁部のテーパ部とは独立した設計が可能である。
【0019】
第2の発明は、第1の発明にかかる油圧式ダンパ用油圧弁を一対有し、互いに逆向きに配置されることを特徴とする油圧式ダンパである。
【0020】
第2の発明の油圧式ダンパによれば、線形性に優れ、極めて簡易な構造で2段階の減衰特性を得ることができる。たとえば、第1の発明にかかる油圧式ダンパ用油圧弁を一対逆向きに配置するだけで、2段階の減衰特性を簡単に得ることができ、油圧回路が極めてシンプルで簡易構造の油圧式ダンパを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡易な構造で、線形性に優れ、2段減衰特性を得ることができる油圧式ダンパ用油圧弁およびこれを用いた油圧式ダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】油圧式ダンパ1を示す断面図。
【図2】油圧弁11を示す断面図。
【図3】油圧弁11の弁体19先端の第1弁部33、第2弁部35の形状を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図4】弁体19の動作と作動油の流れを示す図。
【図5】油圧式ダンパ1による減衰特性を示す図。
【図6】弁体19にテーパ部53が形成され、段部51と接触する状態を示す図。
【図7】その他の実施形態にかかる第1弁部33の形態を示す図。
【図8】その他の実施形態にかかる第1弁部33の形態を示す図で、(a)は平面図、(b)、(c)は動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる油圧式ダンパ1を示す図である。油圧式ダンパ1は、主に、シリンダ3、ピストン5、ピストンロッド7a、7b、油圧弁11a、11b等から構成される。
【0024】
シリンダ3は円筒状部材である。シリンダ3内にはピストン5が設けられる。ピストン5の外径はシリンダ3の内径と対応し、ピストン5はシリンダ3内を軸方向に往復移動が可能である。ピストン5の軸方向の両側には、それぞれピストンロッド7a、7bが設けられる。ピストンロッド7a、7bはシリンダ3を貫通する。ピストンロッド7a、7bとシリンダ3と間の摺動部は液密が保たれる。すなわち、シリンダ3内部は、液密が保たれる。
【0025】
一方の側のピストンロッド7aは、シリンダ3の外部に突出し、ピストンロッド7aの端部には、ブレース等と接合されるジョイント13aが設けられる。シリンダ3のピストン7aが突出する側とは逆側には、ジョイント13bが設けられる。ジョイント13bは構造物等と固定される。ピストンロッド7bはジョイント13b側に配置される。すなわち、ピストンロッド7bは、外部からは見えない。
【0026】
ピストン5には、油圧弁11a、11bが設けられる。油圧弁11a、11bは、それぞれ同一の構造であるが、互いに逆向きにピストン5に設けられる。なお、ピストン11a、11bの詳細については後述する。
【0027】
シリンダ3内は、ピストン5によって2つの圧力室に区画される。油圧室9aは、ピストンロッド7a側の圧力室であり、油圧室9bはピストンロッド7b側の圧力室である。油圧室9a、9bには作動油が充填されている。作動油は、油圧弁11a、11b等を介して油圧室9a、9b間を移動可能である。なお、油圧弁11aは油圧室9aから油圧室9b側への作動油の移動のみを許容し、逆方向へは作動油は流れない(図中矢印C、D)。一方、油圧弁11bは、油圧室9bから油圧室9a側への作動油の移動のみを許容し、逆方向へは作動油は流れない(図中矢印E、F)。
【0028】
なお、図示は省略するが、油圧式ダンパ1にはさらにアキュムレータが設けられることが望ましい。たとえば、ピストン5で区切られた油圧室9a、9bを連通する流路をピストン5内部等に設け、絞り弁等を介してアキュムレータを設置することが望ましい。アキュムレータは作動油の熱膨張等の影響を吸収し、油圧式ダンパ1の動作を安定させるためのものである。
【0029】
次に、油圧式ダンパ1の動作について説明する。油圧式ダンパ1のジョイント13bは構造物等に接続される。また、ジョイント13aがブレース等に接続される。このため、通常時には、構造物とブレース等とが油圧式ダンパ1を介して接続されている。
【0030】
この状態から、地震等により揺れが発生し、例えばピストンロッド7aがシリンダ3より伸びる側(図中矢印A方向)に移動しようとする力が加わると、油圧室9a内の作動油が圧縮される。油圧室9a内が所定圧力以上になると油圧弁11aが開き、油圧室9a内の作動油は、油圧室9aから油圧弁11aを通り(図中矢印C)、油圧室9bへ流出する(図中矢印D)。したがって、ピストンロッド7aは図中矢印A方向にシリンダ3より伸びる側に移動する。
【0031】
次に、揺れの方向が反転し、ピストンロッド7aがシリンダ3内に縮む側(図中矢印B方向)に移動しようとする力が加わると、油圧室9b内の作動油が圧縮される。油圧室9b内が所定圧力以上になると油圧弁11bが開き、油圧室9b内の作動油は、油圧室9bから油圧弁11bを通り(図中矢印E)、油圧室9aへ流出する(図中矢印F)。したがって、ピストンロッド7aは図中矢印B方向にシリンダ3内に縮む側に移動する。
【0032】
作動油が油圧室9a、9b間を油圧弁11a、11bを通り移動する際、その流路抵抗等によって振動が減衰する。すなわち、油圧式ダンパ1が振動エネルギーを吸収する。油圧弁11a、11bの減衰特性を、構造物に応じた所定値に調圧することで、適切な減衰性能を得ることができる。
【0033】
次に、油圧弁11について説明する。図2は油圧弁11を示す断面図である。油圧弁11は、主に、スリーブ14、弁体19、シート15、ばね21、ばね押さえ23等から構成される。
【0034】
スリーブ14は筒状部材であり、内部にシート15、ばね押さえ23等を保持する。スリーブ14の一方の端部には弁体押さえ部材であるシート15が設けられる。シート15は、中心を貫通する孔17aが設けられた筒状部材であり、スリーブ14に固定される。
【0035】
スリーブ14の他方の端部には、ばね押さえ23が設けられる。ばね押さえ23は、中心を貫通する孔17bが設けられた部材であり、スリーブ14に固定される。ばね押さえ23は、ばね21を保持可能な凹形状を有しており、ばね21の端部が挿入されて保持される。
【0036】
弁体19は、先端に弁部27を有する部材である。また、弁体19内部には弁体流路25が設けられる。弁部27はシート15の孔17aに挿入される。なお、弁部27の詳細は後述する。弁体19の弁部27が設けられる側の端面は弁体接触部29であり、対応するシート15の端面がシート接触部31となる。弁体接触部29は、弁体19軸方向に対して垂直な平面である。
【0037】
弁体19とばね押さえ23との間には、ばね21が設けられる。ばね21は、弁体19をシート15に対して所定の力で押し付けるものである。弁体19がシート15に押しつけられると、弁体接触部29とシート接触部31とが接触する。このため、通常時には作動油の流れが遮断される。弁体19が後方に移動すると、シート15と弁体19(弁部27)との間に隙間が生じる。したがって、孔17aから流入する作動油が隙間を通り、弁体流路25内を流れ、スリーブ14内を流れて孔17bから後方へ流出する。
【0038】
次に、弁部27の詳細について説明する。図3は、弁部27近傍の形状を示す図であり、図3(a)は図2のG部に相当する平面図であり、図3(b)は弁部27の正面図である。弁体19の端部には略円柱形状の弁部27が形成される。弁部27は、大きく第1弁部33と第2弁部35とに分けられる。第1弁部には、流路である溝部41が設けられる。溝部41は、根本部(弁体19側)が略半円形状であり、半円形状に接続され軸方向に略平行な形状(略U字形状)の所定深さの溝である。すなわち、溝部41は、軸方向に対してU字形状の溝(深さ方向に対しては単なる矩形溝)であり、弁部27の対向する両側に設けられる。なお、溝部41の形状はこれに限られない。
【0039】
なお、溝部41は、第1弁部33の全長にわたって設けられず、弁部27の根本部(弁体19との境界近傍)には、溝部41が設けられない円柱部39が形成される。すなわち、円柱部39は、略円柱形状であり、周囲に溝やテーパ、切欠き等を有さない部位である。円柱部39の外径は、孔17aの内径に対応するため、弁部27が孔17aに挿入されると、円柱部39の外面と孔17aの内面との間にはほとんど隙間が生じない。
【0040】
第2弁部35は、第1弁部33の先端に形成され、第2弁部の根本側(第1弁部33境界側)から先端側に向かって縮径するテーパ部37を有する。テーパ部37のテーパ角度は、設置される構造物等によって適宜決定されるが、軸方向に対して30〜120°程度が望ましい。
【0041】
図4は、弁体19が動作した際の第1弁部33、第2弁部35の機能について示す図である。なお、図1に示すように、油圧弁11aと油圧弁11bとは逆向きに設置されるため、例えば油圧弁11aが動作する際には、油圧弁11bは閉じた状態であり、作動油を流さない。以下の説明では、動作側の油圧弁11aについて説明する。図4(a)に示すように、通常時(振動がない場合)には、前述の通り、弁体接触部29とシート接触部31とが接触し、作動油の流路は断たれている。なお、わずかに弁体19が移動した場合などでも、円柱部39が設けられるため、弁部27と孔17aとの間の隙間が塞がれているため、通常時における作動油の漏れは抑制される。
【0042】
次に、図4(b)に示すように、油圧式ダンパ1のピストン5が所定の速度で移動し始める(図1矢印A方向)と、移動速度に応じた力で弁体19がばね21(図2参照)の押しつけ力に対抗して押し戻され、後方(ばね21側)に移動する。この際、円柱部39は完全に孔17aから抜け、孔17aには第1弁部33の一部と第2弁部35とが挿入されている。すなわち、弁部27における第1弁部33の軸方向範囲が孔17aの縁部に位置している。なお、前述の通り、この際に逆向きの油圧弁11bは図4(a)の状態を保持して作動油を流さず、また、ピストン5の動作方向が逆向き(図1矢印B方向)の場合には、逆向きの油圧弁11bが図4(b)の動作を行い、この際には油圧弁11aが図4(a)の状態を保持して作動油を流さない。以下同様である。
【0043】
図4(b)の状態においては、弁体接触部29とシート接触部31とが離れるため、弁体19とシート15の間に隙間が生じる。また、孔17a内に挿入されている第1弁部33には溝部41が形成されている。したがって、孔17aに流入した作動油は、溝部41と孔17a内面との隙間を流れ(図中矢印H)弁体接触部29とシート接触部31との間に流入する。さらに、作動油は弁体流路25内を流れ、スリーブ14内を流れて孔17bから後方へ流出する(図2参照)。
【0044】
第1弁部33が孔17a内に挿入されている状態における油圧式ダンパ1の減衰特性は、溝部41の形状およびばね21の押しつけ力により決定される。すなわち、溝部41の形状を最適化することで線形性に優れ、高い減衰特性を得ることができる。
【0045】
次に、図4(c)に示すように、ピストン5がさらに大きな移動速度で移動した場合、弁体19はより大きな力で押し戻される。この際、所定量以上の力が加わると、第1弁部33が完全に孔17aから抜け、孔17a内には第2弁部の一部のみが挿入されている。すなわち、弁部27における第2弁部35の軸方向範囲が孔17aの縁部に位置している。
【0046】
この状態においては、孔17aに流入した作動油は、テーパ部37と孔17a内面(縁部)との隙間を流れ(図中矢印I)、弁体接触部29とシート接触部31との間に流入する。さらに、作動油は弁体流路25内を流れ、スリーブ14内を流れて孔17bから後方へ流出する(図2参照)。
【0047】
第2弁部35が孔17a内に挿入されている状態における油圧式ダンパ1の減衰特性は、テーパ部37の角度およびばね21の押しつけ力により決定される。すなわち、テーパ角度37を最適化することで線形性に優れ、高い減衰特性を得ることができる。
【0048】
ここで、通常弁の特性を設計する際には、弁体に発生する流体力とばねによる力を考慮する。流体力は、流体が流れる際に弁体等へ加わる力であるが、この流体力の算出は、テーパ形状であると比較的容易に算出することができる。このため、少なくとも第2弁部の形状をテーパ形状とすることが、油圧弁の設計を容易にし、安定した減衰特性を得るためには望ましい。
【0049】
図5は、油圧式ダンパ1を用いた減衰特性を示す図である。第1弁部33が孔17a内に挿入されている間(J部より左側)は、油圧式ダンパ1は、第1減衰係数43により決定される減衰特性を発揮する。一方、J部以上の速度でピストン5が移動した際には、第2弁部35が孔17aに挿入されており、油圧式ダンパ1は、第2減衰係数45により決定される減衰特性を発揮する。
【0050】
すなわち、例えば、第2弁部35が機能している状態(図4(c))において、弁体19が後方へ所定の量移動した際における、テーパ部37と孔17aによる流路抵抗の減少割合(すなわち流路断面積の増加割合)をSとする。同様に、第1弁部33が機能している状態(図4(b))において、同じ弁体19の移動量に対して溝41と孔17aによる流路抵抗の減少割合(すなわち流路断面積の増加割合)をTとすると、SはTよりも大きくなる。
【0051】
したがって、第1弁部が機能する間においては、大きな減衰特性を発揮するが、第2弁部が機能する間においては過剰な減衰力の発生を抑制し、建物の破損を防止することができる。
【0052】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる油圧式ダンパ1によれば、線形性に優れ、極めて簡易な構造で2段階の減衰特性を得ることができる。特に、油圧弁11a、11bの一対の油圧弁を逆向きに配置するだけで、2段階の減衰特性を簡単に得ることができ、油圧回路が極めてシンプルで簡易構造の油圧式ダンパ1を得ることができる。
【0053】
油圧弁11は弁体19の先端に第1弁部33と第2弁部35とを有し、第1弁部33には溝部41が形成され、第2弁部35には、テーパ部37を有するため、シート15に対する弁体19の変位量に応じて、2段階の減衰特性を得ることができる。特に、第2弁部35がテーパ部37を有するため、リリーフ特性が極めて安定し、かつ設計が容易である。
【0054】
また、第1弁部33と弁体19との境界部近傍には、溝部41が設けられない円柱部39が形成されるため、弁体接触部29とシート接触部31との接触面が傾くなどして、双方が確実に密着しない場合であっても、円柱部39が孔17aに挿入されている状態では、孔17aへの油の逆流(または孔17aからの油の流入)を防止することができる。すなわち、弁体19(弁部27)が閉じた状態での作動油の漏えいを確実に防止することができる。
【0055】
次に、その他の実施例について説明する。なお、以下の実施例において、図1〜図4で示した構成と同じ機能を奏する構成については、同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0056】
図6は、弁体19に代えて、テーパ部53を有する弁体52を用いた例である。テーパ部53は、弁部27との境界近傍から後方(ばね側)に向けて拡径するようなテーパ形状である。弁体52を押さえるシート50は、弁体52と対向する面の孔17aの外部に段部51が形成される。すなわち、孔17aの後方に、孔17aよりも大径の段部が形成される。
【0057】
ばねにより弁体52をシート50に押し付けると、テーパ部53が段部51の縁部に接触する。すなわち、弁体52とシート50とは面接触しない。なお、この状態においても、通常時は孔17a内に円柱部39が挿入されるように円柱部39の範囲を設定すればよい。
【0058】
弁体52およびシート50を用いれば、弁体52とシート50との接触面積が極めて小さくなるため、接触部の押しつけ圧力が大きくなり、弁体接触部29とシート接触部31との隙間からの作動油の逆方向への流れを確実に防止することができる。
【0059】
次に、第1弁部に設けられる流路形状の他の実施例について説明する。第1弁部33に設けられる流路の形状は種々変更することもできる。図7は、流路である溝部の形状を種々変更したものである。
【0060】
たとえば、図7(a)に示すように、溝部61の形状を、根本部(弁体側)を略半円形状とし、そこから末広がり状に先端(第2弁部側)にむけて幅が広がるように形成してもよい。すなわち、弁部60の軸方向に対して、略V字状(またはV字状および半円形状の組み合わせ形状)の溝部61(深さ方向は一定の単なる矩形)としてもよい。この場合も図7(b)に示すように、弁部60の対向する両側に溝部61を設けてもよい。このほか、溝部を、軸方向に対して単純な半円形状としてもよい。なお、先端に行くにつれて幅が広がるような形状(V字、半円、これらの組み合わせ)である方が、線形性に優れて望ましい。また、いずれの場合でも、弁体19との境界部近傍には、溝部を有さない円柱部39を設けることが望ましい。円柱部39によれば、弁部60が孔17aに挿入された状態での作動油の漏えいを確実に防止することができる。
【0061】
また、図7(c)に示すように、第1弁部に設けられる流路を溝部71のようなスリット形状としてもよい。溝部71は、先端に向けて深さが深くなるように形成されたスリットである。溝部71は、図7(d)に示すように、例えば弁部70の一部に設けられる。なお、この場合でも、第1弁部の溝部71端部と弁体19との間に、スリットが設けられない円柱部39を設けることが望ましい。円柱部39によれば、弁部70が孔17aに挿入された状態での作動油の漏えいを確実に防止することができる。
【0062】
さらに、図8(a)に示すように、第1弁部にテーパ部81が設けられた弁部80としてもよい。テーパ部81は前述の溝部と同様に流路となる部位である。なお、第1弁部のテーパ部81の軸方向に対するテーパ角度は、第2弁部のテーパ部37の軸方向に対するテーパ角度よりも小さい。すなわち、弁体の同じ移動量に対して、第1弁部での流路抵抗の低下(流路面積の増加)割合が、第2弁部での流路抵抗の低下(流路面積の増加)割合よりも小さくなる。したがって、第1弁部での減衰係数は、第2弁部での減衰係数よりも大きく設定できる。なお、この場合であっても、第1弁部33の根本部近傍に、テーパ部81が設けられない円柱部39が設けられることが望ましい。円柱部39によれば、弁部80が孔17aに挿入された状態での作動油の漏えいを確実に防止することができる。
【0063】
図8(b)は、弁部80の第1弁部による流路を示した図である。図8(b)に示すように、第1弁部33の一部と第2弁部35とが孔17aに挿入されている状態においては、孔17a内に挿入されている第1弁部33のテーパ部81と孔17aの内面との間に隙間が形成されている。したがって、孔17aに流入した作動油は、テーパ部81と孔17a内面との隙間を流れ(図中矢印K)弁体接触部29とシート接触部31との間に流入する。
【0064】
また、図8(c)に示すように、第1弁部33が完全に孔17aから抜け、孔17a内には第2弁部の一部のみが挿入されている状態においては、孔17aに流入した作動油は、テーパ部37と孔17a内面(縁部)との隙間を流れ(図中矢印L)、弁体接触部29とシート接触部31との間に流入する。以上により、2段階の減衰特性を容易に得ることができる。
【0065】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
例えば、油圧弁11はピストン5内部ではなく、シリンダ3内部に設けられてもよく、またシリンダ3外部に設けられてもよい。また、油圧式ダンパ1には、その他の弁を設けてもよい。
【0067】
また、ばね押さえ23には、ばね21が挿入される凹部を設けたが、ばね21の内側に挿入される凸部を設け、凸部によってばね21を保持してもよい。また、スリーブ14を用いずに直接ピストン5内部に油圧弁を設けてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1………油圧式ダンパ
3………シリンダ
5………ピストン
7a、7b………ピストンロッド
9a、9b………油圧室
11………油圧弁
13a、13b………ジョイント
14………スリーブ
15、50………シート
17a、17b………孔
19、52………弁体
21………ばね
23………ばね押さえ
25………弁体流路
27、60、70、80………弁部
29………弁体接触部
31………シート接触部
33………第1弁部
35………第2弁部
37………テーパ部
39………円柱部
41、61、71………溝部
51………段部
53………テーパ部
81………テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式ダンパに用いられる油圧弁であって、
弁体と、
前記弁体と対向する弁体押さえ部材と、
前記弁体を前記弁体押さえ部材に押し付けるばねと、
を具備し、
前記弁体の先端には、前記弁体押さえ部材に設けられた孔に挿入可能な第1の弁部と、前記第1の弁部の先端に設けられた第2の弁部を有し、
前記第1の弁部には流路が形成され、
前記第2の弁部は、前記第1の弁部先端から縮径する第2弁テーパ部を有し、
前記弁体が前記ばねに対抗して移動した状態で、前記第1の弁部が前記孔に挿入されている間は、前記流路と前記孔との隙間を流体が流れ、
前記第1の弁部が前記孔から抜けると、前記第2弁テーパ部と前記孔との隙間を流体が流れることを特徴とする油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項2】
前記第1の弁部の前記弁体近傍には、前記流路が設けられず前記孔の内径に対応する円柱部が形成されることを特徴とする請求項1記載の油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項3】
前記弁体の前記第1および第2の弁部が設けられる側には、本体テーパ部が設けられ、前記孔の周囲には、段部が設けられ、前記本体テーパ部が前記段部の縁と接触可能であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項4】
前記流路は、前記第1の弁部の側面に設けられ、前記弁体の動作方向に対してU字状、V字状、半円形状または、U字状、V字状および半円形状の組み合わせによる形状の溝部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項5】
前記流路は、前記第1の弁部に設けられ先端方向に縮径した第1弁テーパ部であり、前記弁体の軸方向に対する前記第1弁テーパ部のテーパ角度は、前記第2弁テーパ部のテーパ角度よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項6】
前記第2弁テーパ部の前記弁体の軸方向に対するテーパ角度は30から120°の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の油圧式ダンパ用油圧弁。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の油圧式ダンパ用油圧弁を一対有し、互いに逆向きに配置されることを特徴とする油圧式ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−209959(P2010−209959A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54706(P2009−54706)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000233239)日立機材株式会社 (225)
【Fターム(参考)】