説明

油圧式ピストン機械の行程容積の調整装置

【課題】簡易に構成可能であるとともに、システムをオーバヒートから保護することが可能な油圧式ピストン機械の行程容積の調整装置を提供すること。
【解決手段】第1のピストン機械1を第2のピストン機械2に隣り合うよう配置し、これら第1及び第2のピストン機械を接続する管路3が設けられ、共通の部材4が設けられ、該共通の部材4の第1の位置において第1のピストン機械1が行程容積ゼロに調整される一方、第2のピストン機械2が最大の行程容積に調整される調整装置において、手動設定を行うための装置10,22を設け、該装置10,22によって、該装置10,22の操作時に、共通の部材4を管路3における圧力及び前記装置10,22の操作に応じて初期位置へ調整するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分の記載に基づく油圧式ピストン機械の行程容積の調整装置に関するものである。
【0002】
この油圧式ピストン機械は、変速比を無段階に変更するために、例えば油圧機械式の動力分割変速機における油圧動力部に用いられる。このために、ピストン機械の行程容積を調整するための調整装置が必要となる。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、ピストン機械と、該ピストン機械を無段階に調整可能な調整装置とを備えた無段階式の油圧機械式動力分割変速機が開示されている。この調整装置は制御装置を含んで構成されており、この制御装置によりピストン機械が制御されるようになっている。また、調整装置はシステムをオーバロードから保護するために圧力制限弁を備えており、この圧力制限弁により最大圧力が制限されるようになっている。圧力制限弁を作動させると、エネルギーが熱に変換されるが、この熱は冷却器により放出する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第4206023号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、簡易に構成可能であるとともに、システムをオーバヒートから保護することが可能な油圧式ピストン機械の行程容積の調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、請求項1記載の特徴を備えた調整装置により達成される。
【0007】
調整装置は第1及び第2のピストン機械を備えており、これらピストン機械は斜板式に構成されている。斜板式のピストン機械は、効率が非常に高いという特長がある。また、これら両ピストン機械は、互いに隣り合うように配置されているとともに、いわゆるヨークと呼ばれる共通の部材を備えている。この共通の部材により、両ピストン機械は共通に調整されることができる。また、これらピストン機械は管路を備えており、該管路を介して両ピストン機械は互いに接続されている。これにより、ピストン機械はいわゆる閉回路を形成している。
【0008】
ところで、ピストン機械の行程容積を調整するための前記共通の部材は、該共通の部材の第1の位置において第1のピストン機械が小さな行程容積又は行程容積ゼロに調整される一方、第2のピストン機械が大きな行程容積又は最大の行程容積に調整されるように配置されている。また、第1のピストン機械は、例えばポンプとして動作し、作動油をこの場合エンジンとして動作する第2のピストン機械へ送出する。なお、第1のピストン機械をエンジンとして動作させ、第2のピストン機械をポンプとして動作させてもよい。
【0009】
前記共通の部材を第1の位置から第2の位置へ切り換えると、第1のピストン機械(例えばポンプ)の行程容積が増大する一方、第2のピストン機械(例えばエンジン)の行程容積が減少する。共通の部材を第2の位置で動作させる場合、第1のピストン機械は最大の行程容積を有しつつポンプとして動作し、吐出量が最大となる。これに対し、第2のピストン機械は、最小の行程容積を有し、高い回転数を伴うエンジンとして動作する。
【0010】
前記共通の部材は、例えば油圧シリンダなどの調整手段によって、第1の位置から第2の位置へ、又は第2の位置から第1の位置へ調整される。これにより、例えば車両の運転者が、機械的又は電気的に切換弁を制御する手動設定のための装置(例えばアクセルペダル)を介して運転者の意図を前記共通の部材の調整手段に伝達することが可能である。これにより、共通の部材、すなわち手動設定のための装置が運転者の意図に応じて調整されることになる。
【0011】
運転者が第2のピストン機械について高い回転数を望む場合、前記共通の部材は第2の位置へ調整され、運転者が第2のピストン機械について低い回転数を望む場合には前記共通の部材が第1の位置へ調整される。また、走行抵抗が増大すると、第1と第2のピストン機械を接続する管路内の許容圧力を超過することがある。
【0012】
本発明においては、あらかじめ定めた所定の圧力レベルを超えると、前記共通の部材は第1の位置へ調整され、これにより第1のピストン機械(例えばポンプ)が小さな行程容積に調整される一方、第2のピストン機械(例えばエンジン)が大きな行程容積に調整される。これにより、管路内の圧力が低下する。上記所定の圧力レベルは圧力制限弁が開放される許容最大圧力レベルより低く設定されており、エネルギーが圧力制限弁を介して熱に変換されることがないため、システムをオーバヒートから保護することが可能である。
【0013】
本発明の他の実施形態においては、もう1つの手動設定を行うための装置を介してもう1つの手動設定を管路内における現在の圧力レベルに加えることにより、上記共通の部材が低い圧力レベルにおいても第1の位置へ調整される。そのため、許容最大圧力に対して無段階に影響を与えることができる。
【0014】
また、弾性部材によって初期位置に調整されつつ該初期位置において上記共通の部材を第1の位置に接続する、単純に作用する油圧シリンダを使用する場合には、この油圧シリンダに圧力源からの圧力を負荷することで、上記共通の部材が第1の位置から第2の位置へ変位する。油圧シリンダを作動油リザーバに接続する場合には、上記共通の部材が第1の位置へ復帰する。
【0015】
ところで、手動設定を行うための装置を他の切換弁で構成してもよく、この切換弁は、油圧シリンダを運転者の意図に応じて圧力源又は作動油リザーバに接続するものであるとともに、上記共通の部材の位置を決定するものである。これにより、ピストン機械の回転数が設定される。
【0016】
また、前記他の切換弁と油圧シリンダの間には切換弁が配置されており、この切換弁は、その初期位置においては上記他の切換弁からの作動油を油圧シリンダに流通させるものである一方、初期位置以外の位置においては上記他の切換弁から作動油を遮断し油圧シリンダを作動油リザーバに接続するものである。なお、管路内の圧力レベルが所定の圧力レベルを超えると初期位置以外の位置に設定される。
【0017】
したがって、上記他の切換弁を介して、上記共通の部材を回転数をコントロールするために制御可能であるとともに、上記共通の部材をその第1の位置へ調整することで、油圧シリンダと上記他の切換弁の間に配置された切換弁を介して圧力レベルを制限することも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易に構成可能であるとともに、システムをオーバヒートから保護することが可能な油圧式ピストン機械の行程容積の調整装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】調整装置の油圧回路図である。
【図2】油圧機械式動力分割変速機の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
<図1>
調整装置は斜板式の第1のピストン機械1及び斜板式の第2のピストン機械2を備えており、動作状態において、第1のピストン機械1は例えばポンプとして動作し、第2のピストン機械2は例えばモータとして動作するようになっている。そして、これら第1及び第2のピストン機械1,2は、管路3を介して互いに接続されているとともに、これらの行程容積は、共通の部材4によって調整されるようになっている。
【0022】
また、弾性的に付勢された油圧シリンダ5が上記共通の部材4に接続されており、油圧シリンダ5の無負荷状態においては、第1のピストン機械1の行程容積がゼロに設定されている。すなわち、第1のピストン機械1が動作しても、作動油が全く供給されないように調整されている。
【0023】
一方、第2のピストン機械2は、油圧シリンダ5の無負荷状態においてその行程容積が最大となるように設定されている。また、油圧源6は、作動油を作動油リザーバ7から管路8へ供給する。油圧シリンダ5の無負荷状態において、上記部材4が第1の位置から第2の位置へ調整されると、手動設定を行うための装置10の切換弁9は、作動油を管路8から管路11へ流通させるように切り換えられる。
【0024】
そして、切換弁12がその初期位置にあれば、作動油は管路11から管路13を介して油圧シリンダ5に至り、上記部材4が第2の位置へもたらされる。これにより、第1のピストン機械1の行程容積が増大される一方、第2のピストン機械2の行程容積が減少される。また、作動油は、第1のピストン機械1から管路3を介して第2のピストン機械2へ供給される。
【0025】
切換弁12は弾性部材14によってその初期位置に保持され、管路3内における比較的高い圧力が切換弁15及び管路16を介して円板リング面17へ伝達される。この円板リング面17は、圧力制限弁18の開放圧力以下で切換弁12が第2の位置へもたらされるよう弾性部材14によって付勢されている。これにより、管路11における作動油が油圧シリンダ5へ至ることが防止されることになる。また、油圧シリンダ5は作動油リザーバ7に接続されるため、上記部材4が第1の位置へもたらされ、管路3内における圧力が再び低下する。
【0026】
また、切換弁12を圧力制限弁18の開放圧力レベル以下に調整することで圧力制限弁18の閉弁状態が維持され、駆動部がオーバヒートから保護されることになる。そして、管路3内の圧力が再び低下すると、切換弁12がその初期位置へ再び戻されるとともに、管路11内の作動油が再び油圧シリンダ5内へ至ることになる。なお、切換弁12は、管路20に接続された円板面19を備えている。
【0027】
また、手動設定を行うための他の装置22の切換弁21を作動させると、該切換弁21により、作動油は管路8から管路20を経て円板面19へ至る。そして、この円板面19に作用する圧力により、切換弁12の弾性部材14に対して力が作用する。また、この圧力は、円板面17に作用する管路16内の圧力を合計したものである。これにより、管路8における圧力は管路16における圧力に加えられ、切換弁12の切換点を無段階に、かつ、手動設定を行うための他の装置22に応じて調整することが可能である。
【0028】
ところで、円板面19と円板リング面17の面積比は3:100とするのが好ましい。これにより、例えば16バールの最大制御圧が発生する場合、円板面上での533バールに相当する力が切換弁12に作用することになる。そして、上記のように圧力を無段階に制限することで、移動車両における調整装置の使用時に、けん引力調整を無段階に行うことが可能である。さらに、手動設定を行うための装置10により、無段階の速度調整を行うことも可能である。そして、無段階の速度調整と無段階のけん引力調整を組み合わせれば、車両の無段階の出力調整を行うことが可能である。
【0029】
なお、圧力源6は、変速機における調整装置の使用時に調整装置に油圧を供給するほか、変速機操作手段23及びクラッチ24にも油圧を供給するものである。
【0030】
<図2>
油圧機械式の動力分割変速機は図1に示すような第1のピストン機械1及び第2のピストン機械2を備えており、これら第1及び第2のピストン機械1,2は、共通の部材4により行程容積が変更できるようになっている。また、動力出力部25は、前進走行用のクラッチ26又は後進走行用のクラッチ27を介して駆動装置28に接続可能となっている。なお、走行範囲は、クラッチ29,30によって切換可能である。そして、複合変速機31は、機械的な動力と油圧による動力を合計するものである。
【符号の説明】
【0031】
1 第1のピストン機械
2 第2のピストン機械
3 管路
4 部材
5 油圧シリンダ
6 油圧源
7 作動油リザーバ
8 管路
9 切換弁
10 手動設定を行うための装置
11 管路
12 切換弁
13 管路
14 弾性部材
15 切換弁
16 管路
17 円板リング面
18 圧力制限弁
19 円板面
20 管路
21 切換弁
22 手動設定を行うための装置
23 変速機操作手段
24 クラッチ
25 動力出力部
26 前進走行用クラッチ
27 後進走行用クラッチ
28 駆動装置
29 クラッチ
30 クラッチ
31 複合変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板式の複数のピストン機械の行程容積を調整する調整装置であって、第1のピストン機械(1)を第2のピストン機械(2)に隣り合うよう配置し、これら第1及び第2のピストン機械を接続する管路(3)が設けられ、これら第1及び第2のピストン機械が調整可能な複数の軸を有しており、該軸は、共通の部材(4)の変位により共通に調整されるよう前記共通の部材(4)を介して結合されており、前記共通の部材(4)の第1の位置において、前記第1のピストン機械(1)が小さな行程容積又は行程容積ゼロに調整される一方、前記第2のピストン機械(2)が大きな行程容積又は最大の行程容積に調整され、前記共通の部材(4)の第2の位置において、前記第1のピストン機械(1)が大きな行程容積又は最大の行程容積に調整される一方、前記第2のピストン機械(2)が小さな行程容積又は行程容積ゼロに調整され、前記共通の部材(4)の調整手段(5)が設けられており、前記共通の部材(4)が手動設定を行うための装置(10)に応じてその第1の位置又は第2の位置に調整可能である一方、前記管路(3)内の圧力が所定の圧力を上回ると、前記共通の部材(4)が前記手動設定を行うための装置(10)から独立して第1の位置にもたらされることを特徴とする調整装置。
【請求項2】
更にもう1つの手動設定を行うための装置(22)を設け、該装置(22)によって、該装置(22)の操作時に、前記共通の部材(4)を前記管路(3)における圧力及び前記装置(22)の操作に応じて前記第1の位置へ調整するよう構成したことを特徴とする請求項1記載の調整装置。
【請求項3】
前記共通の部材(4)の前記調整手段(5) を油圧シリンダとして形成するとともに、該油圧シリンダを、その初期位置で前記共通の部材(4)を第1の位置に保持する一方、圧力を負荷されることで前記共通の部材(4)を第2の位置にもたらすよう構成したことを特徴とする請求項1記載の調整装置。
【請求項4】
前記油圧シリンダ(5)の上流側に切換弁(12)を接続するとともに、該切換弁(12)の初期位置において、前記油圧シリンダ(5)を、前記手動設定を行うための装置(10)に依存しつつ前記切換弁(12)を介して圧力源(6)又は作動油リザーバ(7)に接続し、前記切換弁(12)により、該切換弁(12)の初期位置以外の位置で前記油圧シリンダ(5)を前記作動油リザーバ(7)に接続するとともに、これにより前記共通の部材(4)を前記手動設定を行うための装置(10)から独立して前記第1の位置へ調整するよう構成したことを特徴とする請求項3記載の調整装置。
【請求項5】
前記切換弁(12)をその初期位置から他の位置へ切り換えるために、前記管路(3)内の圧力を前記切換弁(12)に作用させることを特徴とする請求項4記載の調整装置。
【請求項6】
前記切換弁(12)に作用する前記管路(3)内の圧力に前記もう1つの手動設定を行うための装置(22)によって調整される圧力を加えて、この合計された圧力を前記切換弁(12)の切換に使用するよう構成したことを特徴とする請求項5記載の調整装置。
【請求項7】
前記切換弁(12)を弾性部材(14)に抗して調整可能に構成するとともに、圧力が負荷される第1及び第2の面(19,17)を設け、これら第1及び第2の面(19,17)のうち少なくともいずれかに圧力が負荷された場合に、前記切換弁(12)を、その初期位置から前記弾性部材(14)に抗して他の位置へもたらし、前記第1の面(19)を前記もう1つの手動設定を行うための装置(22)を介して前記油圧源(6)における作動油に接続可能とし、前記第2の面(17)を、比較的高い圧力を有する、前記管路(3)内の作動油に接続可能としたことを特徴とする請求項6記載の調整装置。
【請求項8】
前記第1の面(19)を前記第2の面(17)よりも大きく設定したことを特徴とする請求項7記載の調整装置。
【請求項9】
前記第1及び第2のピストン機械(1,2)を、油圧式の出力部と機械式の出力部を有する動力分割変速機内に配置し、かつ、前記油圧式の出力部を前記第1及び第2のピストン機械(1,2)に接続したことを特徴とする請求項1記載の調整装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−540868(P2010−540868A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527380(P2010−527380)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060762
【国際公開番号】WO2009/047040
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(504111347)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (75)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】