説明

油圧機械及びデッキクレーン

【課題】駆動対象に対して並列に軸結合する複数の油圧モータで駆動対象を駆動する場合に従来よりも細かな速度切り換えを実現する。
【解決手段】複数のチャンバ5a〜5c,6a〜6cを備えると共に巻用ウインチに対して並列に軸結合する第1、第2の油圧モータ5,6について、作動油を供給するチャンバ数を巻用ウインチの負荷に応じて切り換えることにより速度制御する油圧機械Aであって、作動油を供給するチャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6間で異ならせることを許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧機械及びデッキクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
デッキクレーンには、2台のベーンタイプ油圧モータを用いてウィンチを駆動するものがある。ベーンタイプ油圧モータは、周知のように羽根(ベーン)と称される複数の板状部材がロータの周面上に鉛直に取り付けられ、ロータを収容するケーシングとロータとの間に作動油が供給される複数のチャンバが設けられた油圧モータである。このようなベーンタイプ油圧モータでは、作動油が供給されるチャンバ数(以下では「油供給チャンバ数」という。)に応じて回転速度が切り換わる。上記デッキクレーンは、このようなベーンタイプ油圧モータをウインチに対して2台並列に設けたものであり、各ベーンタイプ油圧モータについて上記油供給チャンバ数を可変させるこよによりウインチの巻上回転速度を切り換える。例えば下記特許文献1には、2台の油圧モータでウィンチを駆動し、負荷に応じてウィンチの巻上回転速度を3段階に切り換えるデッキクレーンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−220189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術では、油供給チャンバ数は2つのベーンタイプ油圧モータについて同一である。すなわち、従来のデッキクレーンでは、油供給チャンバ数が各々のベーンタイプ油圧モータについて、1つの場合、2つの場合、また3つの場合の3パターンに切り換わり、この結果としてウィンチの巻上回転速度が3段階(3パターン)に切り換わる。
【0005】
しかしながら、このような3段階の巻上回転速度の切り換えでは切換数が少ないので、荷物の重さ(ウインチに掛る荷重)によっては荷役作業の効率にロスが生じる場合があり、より細かな巻上回転速度の切り換えによりさらに効率的な荷役作業を行うことが要望されている。なお、ウインチの巻上回転速度の切換数を容易に増やす方法として、例えばベーンタイプ油圧モータのチャンバ数を増やすことが容易に考えられるが、この場合には油圧モータのコストが大幅に増大するために好ましくない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、駆動対象に対して並列に軸結合する複数の油圧モータで駆動対象を駆動する場合に従来よりも細かな速度切り換えを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、油圧機械に係る第1の解決手段として、複数のチャンバを備えると共に駆動対象に対して並列に軸結合する複数の油圧モータについて、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて切り換えることにより速度制御する油圧機械であって、作動油を供給するチャンバ数を各油圧モータ間で異ならせることを許容する、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、油圧機械に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、複数の油圧モータについて、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させる、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、油圧機械に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、負荷の変動範囲を複数の小領域に分割し、負荷が最小の小領域では各油圧モータについて、各々1つのチャンバに作動油を供給し、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させる、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、油圧機械に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、各油圧モータの複数のチャンバのうち、少なくとも1つを除くチャンバに作動油の供給をON/OFFする油圧弁をそれぞれ設け、負荷に応じて変化する作動油の圧力に基づいて各油圧弁をON状態あるいはOFF状態とすることにより、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させる、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、油圧機械に係る第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれか1つの解決手段において、油圧モータを2つ備え、各油圧モータは各々に3つのチャンバを備えたベーンモータである、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、デッキクレーンに係る解決手段として、上記第1〜第5のいずれかの解決手段に係る油圧機械を具備し、当該油圧機械によりウインチを駆動するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作動油を供給するチャンバ数を従来のように油圧モータ間で同数とするのではなく異ならせることを許容する。例えば、油圧モータが2台である場合には、一方の油圧モータの2つのチャンバに作動油を供給し、また他方の油圧モータの1つのチャンバとに作動油を供給したり、あるいは一方の油圧モータの3つのチャンバに作動油を供給し、また他方の油圧モータの2つのチャンバに作動油を供給することが可能なので、従来よりも細かな速度切り換えを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧機械Aの油圧回路図である。
【図2】本発明の実施形態に係るデッキクレーンDの概略構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態において、荷重(負荷)に応じた巻用ウインチd7の巻上/巻下回転速度を示す図である。
【図4】本発明の実施形態において、第1の油圧モータ5及び第2の油圧モータ6の各チャンバへの作動油の供給状態を示す模式図(a)〜(e)である。
【図5】本発明の実施形態に係る油圧機械Aの動作を示す図であって、巻用ウインチd7の荷重が7トンの場合における作動油の供給状態を示す油圧回路図(a)及び巻用ウインチd7の荷重が14トンの場合における作動油の供給状態を示す油圧回路図(b)である。
【図6】本発明の実施形態に係る油圧機械Aの動作を示す図であって、巻用ウインチd7の荷重が21トンの場合における作動油の供給状態を示す油圧回路図(a)及び巻用ウインチd7の荷重が28トンの場合における作動油の供給状態を示す油圧回路図(b)である。
【図7】本発明の実施形態に係る油圧機械Aの動作を示す図であって、巻用ウインチd7の荷重が35トンの場合における作動油の供給状態を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る油圧機械Aは、図1に示すように、エンジン1、油圧ポンプ2、第1の方向制御弁3、第2の方向制御弁4、第1の油圧モータ5、第2の油圧モータ6、第1の油圧弁7、第2の油圧弁8、第3の油圧弁9、第4の油圧弁10、第1のプレッシャスイッチ11、第2のプレッシャスイッチ12、第1のソレノイド弁13及び第2のソレノイド弁14から主に構成されている。このような油圧機械Aは、図2に示すようなデッキクレーンDの巻用ウインチd7を駆動対象とするものである。
【0016】
すなわち、デッキクレーンDは、上記油圧機械Aを構成要素として含む荷役機械であり、周知のように船舶の甲板上に設置されて荷物の積み込み/積み下ろしに使用されるものである。より詳細には、このデッキクレーンDは、図2に示すように、甲板上に設けられたクレーンポストd1、当該クレーンポストd1上に回転自在に設けられた所定高さの回転体d2、当該回転体d2に設けられた運転室d3、回転体d2から前方斜め上方に突き出すと共に俯仰自在に設けられたブームd4、当該ブームd4の俯仰角を規定する俯仰用ウインチd5、上記ブームd4の先端から垂下すると共に先端のフックが荷物に係合する荷物用ワイヤーロープd6、当該荷物用ワイヤーロープd6を巻き取り/巻き戻しする巻用ウインチd7から主に構成されている。
【0017】
さて、油圧機械Aのエンジン1は、油圧ポンプ2を回転駆動する動力源であり、例えばジーゼルエンジンである。油圧ポンプ2は、エンジン1により駆動されることにより一定圧かつ一定流量の作動油を吐出するものであり、例えば容積型油圧ポンプである。この油圧ポンプ2の吐出口は、図1に示すように配管によって第1の方向制御弁3及び第2の方向制御弁4にそれぞれ接続されている。すなわち、この油圧ポンプ2の吐出口から吐出された作動油は、第1の方向制御弁3及び第2の方向制御弁4に分配供給される。
【0018】
第1の方向制御弁3は、配管によって第1の油圧モータ5に設けられた一対の給排口にそれぞれ接続されており、運転室d3から入力される操作指示に基づいて油圧ポンプ2から供給された作動油を上記一対の給排口のいずれか一方に供給する油圧弁である。第2の方向制御弁4は、配管によって第2の油圧モータ6が備えている一対の給排口にそれぞれ接続されており、運転室d3から入力される操作指示に基づいて上記一対の給排口のいずれか一方に作動油を供給する油圧弁である。
【0019】
2台の第1、第2の油圧モータ5,6は、各々の回転軸が上記巻用ウインチd7の回転軸に軸結合しており、当該巻用ウインチd7を回転駆動するものである。すなわち、2台の第1、第2の油圧モータ5,6は、駆動対象である巻用ウインチd7に対して並列に軸結合しており、協働して巻用ウインチd7を駆動する。
【0020】
第1の油圧モータ5は、第1の方向制御弁3を介して油圧ポンプ2から供給される作動油によって回転するベーンタイプの油圧モータであり、作動油を受容する3つのチャンバ(第1〜第3のチャンバ5a〜5c)を備える。この第1の油圧モータ5は、油供給チャンバ数つまり第1の方向制御弁3を介して油圧ポンプ2から受容する作動油の容量(流量)によって回転速度が可変する。また、この第1の油圧モータ5は、第1の方向制御弁3により設定される作動油の流れ方向に応じて正回転あるいは逆回転する。
【0021】
第2の油圧モータ6は、第2の方向制御弁4を介して油圧ポンプ2から供給される作動油によって回転するベーンタイプの油圧モータであり、作動油を受容する3つのチャンバ(第1〜第3のチャンバ6a〜6c)を備える。この第2の油圧モータ6は、油供給チャンバ数つまり第2の方向制御弁4を介して油圧ポンプ2から受容する作動油の容量(流量)によって回転速度が可変する。また、第2の油圧モータ6は、第2の方向制御弁4により設定される作動油の流れ方向に応じて正回転あるいは逆回転する。
【0022】
ここで、上述した第1の方向制御弁3は、このような第1の油圧モータ5の第1〜第3のチャンバ5a〜5cに各々設けられた左右2つの給排口のうち、上記巻用ウインチd7の巻上げ(荷物の引き上げ)を行わせるときには左側の給排口に作動油を供給し、巻用ウインチd7に荷物用ワイヤーロープd6の巻戻し(荷物の引き下げ)を行わせるときには右側の給排口に作動油を供給する。また、上述した第2の方向制御弁4は、第2の油圧モータ6の第1〜第3のチャンバ6a〜6cに各々設けられた左右2つの給排口のうち、巻用ウインチd7に荷物用ワイヤーロープd6の巻上げ(荷物の引き上げ)を行わせるときには左側の給排口に作動油を供給し、巻用ウインチd7に荷物用ワイヤーロープd6の巻戻し(荷物の引き下げ)を行わせるときには右側の給排口に作動油を供給する。
【0023】
第1の油圧弁7は、図1に示すように上記第1の油圧モータ5の第2のチャンバ5bにおいて左側の給排口に設けられ、上記巻用ウインチd7の巻上げ時における第2のチャンバ5bへの作動油の供給をON/OFFする。この第1の油圧弁7は、第1の方向制御弁3から供給される作動油と、配管によって互いに接続された第1の油圧モータ5の第2、第3のチャンバ5b,5cの右側(巻上げ時における作動油の排出側)の各給排口及び第2の油圧モータ6の第2、第3のチャンバ6b,6cの右側(同じく巻上げ時における作動油の排出側)の各給排口に排出される作動油とのバランスに基づいて、上記第2のチャンバ5bへの作動油の供給をON/OFFする。
【0024】
第2の油圧弁8は、同じく図1に示すように第2の油圧モータ6の第2のチャンバ6bにおいて左側の給排口に設けられ、上記巻用ウインチd7の巻上げ時における第2のチャンバ6bへの作動油の供給をON/OFFする。この第2の油圧弁8は、図1に示すように第2の方向制御弁4から供給される作動油と第1のソレノイド弁13から供給される作動油とのバランスに基づいて、上記第2のチャンバ6bへの作動油の供給をON/OFFする。
【0025】
第3の油圧弁9は、同じく図1に示すように第1の油圧モータ5の第3のチャンバ5cにおいて左側の給排口に設けられ、巻用ウインチd7の巻上げ時における第3のチャンバ5cへの作動油の供給をON/OFFする。この第3の油圧弁9は、上記第1の油圧弁7を介して第2のチャンバ5bに供給される作動油と第1のソレノイド弁13から供給される作動油とのバランスに基づいて、上記第3のチャンバ5cへの作動油の供給をON/OFFする。
【0026】
第4の油圧弁10は、同じく図1に示すように第2の油圧モータ6の第3のチャンバ6cにおいて左側の給排口に設けられ、巻用ウインチd7の巻上げ時における第3のチャンバ6cへの作動油の供給をON/OFFする。この第4の油圧弁10は、上記第2の油圧弁8を介して第2のチャンバ6bに供給される作動油と第2のソレノイド弁14から供給される作動油とのバランスに基づいて、上記第3のチャンバ6cへの作動油の供給をON/OFFする。
【0027】
すなわち、この油圧機械Aでは、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6aを除く第2、第3のチャンバ5b,5c,6b,6cの左側の給排口に、作動油の供給をON/OFFする油圧弁(第1〜第4の油圧弁7〜10の何れか)がそれぞれ設けられている。したがって、巻用ウインチd7の巻上げ時において、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6aには、油圧ポンプ2から吐出された作動油が第1の方向制御弁3あるいは第2の方向制御弁4を介して直接供給されるが、第2、第3のチャンバ5b,5c,6b,6cには、油圧ポンプ2から吐出された作動油が第1〜第4の油圧弁7〜10の何れかを介して選択的に供給される。
【0028】
また、このような第1〜第4の油圧弁7〜10には、OFF状態からON状態に遷移する圧力条件として設定圧力Xa(kPa)あるいは設定圧力Xb(kPa)が予め設定されている。これら設定圧力Xa,Xb(kPa)の詳細については後述するが、第1、第2の油圧弁7,8は設定圧力Xa(kPa)に基づいて作動し、第3、第4の油圧弁9,10は設定圧力Xb(kPa)に基づいて作動する。なお、第3、第4の油圧弁9,10の設定圧力Xb(kPa)は、第1、第2の油圧弁7,8の設定圧力Xaよりも大きな値である。
【0029】
第1のプレッシャスイッチ11は、第1の油圧モータ5における第2のチャンバ5bに供給される作動油の油圧を検出し、当該油圧が設定圧力X1(kPa)を超えるとOFF状態からON状態に遷移すると共にON信号を第1のソレノイド弁13に出力する。第2のプレッシャスイッチ12は、第1の油圧モータ5における第3のチャンバ5cに供給される作動油の油圧を検出し、当該油圧が設定圧力X2(kPa)を超えるとOFF状態からON状態に遷移すると共にON信号を第2のソレノイド弁14に出力する。ここで、第2のソレノイド弁14がOFF状態からON状態に遷移する条件である設定圧力X2(kPa)は、上記第1のソレノイド弁13がOFF状態からON状態に遷移する条件である設定圧力X1(kPa)よりも大きな値に設定されている。
【0030】
第1のソレノイド弁13は、ソレノイドによりプランジャを動かすことで作動する一種の電磁弁であり、第1のプレッシャスイッチ11からON信号が入力されると導通状態(ON状態)から非導通状態(OFF状態)に切り替わる。すなわち、この第1のソレノイド弁13は、第1のプレッシャスイッチ11からON信号が入力されると、油圧ポンプ2から供給された作動油の第2の油圧弁8及び第3の油圧弁9への供給を停止する。
【0031】
第2のソレノイド弁14は、第1のソレノイド弁13と同様にソレノイドにより開閉する弁であり、第2のプレッシャスイッチ12からON信号が入力されると導通状態(ON状態)から非導通状態(OFF状態)に切り替わる。すなわち、この第2のソレノイド弁14は、第2のプレッシャスイッチ12からON信号が入力されると、油圧ポンプ2から供給された作動油の第4の油圧弁10への供給を停止する。
【0032】
次に、このように構成された油圧機械Aの動作について、図3〜図7を参照して詳しく説明する。
なお、図5〜図7において、太線で示された配管は作動油が流通している配管であり、点線で示された配管は作動油の戻り配管であり、また一点鎖線で示された配管は、作動油の流れが遮断された配管であることを示している。
【0033】
最初に、この油圧機械Aでは、荷物を引き上げる際に巻用ウインチd7に掛る荷重範囲(負荷範囲)を複数の小領域に分割し、当該小領域に応じて第1、第2の油圧モータ5,6の巻上回転速度(巻用ウインチd7の巻上げ速度)を切り替える。例えば、巻用ウインチd7で引き上げ可能な荷重範囲(0〜100%)を図3に示すように5つの小領域E1〜E5(0≦E1≦20%、20%<E2≦40%、40%<E3≦60%、60%<E4≦80%、80%<E5≦100%)に分割する。そして、巻用ウインチd7の荷重が第1(最小)の小領域E1に属する場合には、図4(a)に示すように第1の油圧モータ5の第1のチャンバ5a及び第2の油圧モータ6の第1のチャンバ6aのみに作動油を供給する。
【0034】
また、この油圧機械Aでは、ウインチの荷重が第2の小領域E2に属する場合には、図4(b)に示すように第1の油圧モータ5の第1のチャンバ5a及び第2のチャンバ5b並びに第2の油圧モータ6の第1のチャンバ6aのみに作動油を供給する。また、この油圧機械Aでは、巻用ウインチd7の荷重が第3の小領域E3に属する場合には、図4(c)に示すように第1の油圧モータ5の第1のチャンバ5a及び第2のチャンバ5b並びに第2の油圧モータ6の第1のチャンバ6a及び第2のチャンバ6bのみに作動油を供給する。
【0035】
また、この油圧機械Aでは、巻用ウインチd7の荷重が第4の小領域E4に属する場合には、図4(d)に示すように第1の油圧モータ5の第1のチャンバ5a、第2のチャンバ5b及び第3のチャンバ5c並びに第2の油圧モータ6の第1のチャンバ6a及び第2のチャンバ6bのみに作動油を供給する。さらに、この油圧機械Aでは、巻用ウインチd7の荷重が第5(最大)の小領域E5に属する場合には、図4(e)に示すように第1の油圧モータ5及び第2の油圧モータ6の全てのチャンバ(第1〜第3のチャンバ5a〜5c,6a〜6c)に作動油を供給する。
【0036】
すなわち、この油圧機械Aは、荷物を引き揚げる(巻用ウインチd7を巻上げる)際において、第1、第2の油圧モータ5,6における油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6間で異ならせることを許容するものであり、巻用ウインチd7の荷重が小領域E1〜E5の何れに属するかに応じて上記油供給チャンバ数が変化する。
【0037】
また、第1(最小)の小領域E1以外の第2〜第5(最大)の小領域E2〜E5、例えば第5(最大)の小領域E5に属する荷重の場合には、第1の油圧モータ5の油供給チャンバ数が最初に1つ増え、次には第2の油圧モータ6の油供給チャンバ数が1つ増え、次には第1の油圧モータ5の油供給チャンバ数が1つ増え、最後に第2の油圧モータ6の油供給チャンバ数が1つ増えることによって、第1、第2の油圧モータ5,6の最大数である3チャンバ(総合計で6チャンバ)となる。
【0038】
つまり、この油圧機械Aでは、荷物を引き揚げる際における巻用ウインチd7の荷重(負荷)が比較的大きい場合には、第1、第2の油圧モータ5,6の油供給チャンバ数が第1の油圧モータ5から第2の油圧モータ6の順番で交互に1つずつ増加することにより、図3に示すような5段階(100%,a%,b%,c%,d%)の巻上回転速度を実現する。
【0039】
続いて、このような5段階の巻上回転速度を実現するための油圧機械Aの動作について、図5〜図7を参照して詳しく説明する。
【0040】
なお、以下では、巻用ウインチd7の荷重が7トン、14トン、21トン、28トン及び35トンの場合における油圧機械Aの動作状態を説明するが、7トンは上記第1(最小)の小領域E1に属する荷重であり、14トンは上記第2の小領域E2に属する荷重であり、21トンは上記第3の小領域E3に属する荷重であり、28トンは上記第4の小領域E4に属する荷重であり、35トンは上記第5(最大)の小領域E5に属する荷重である。
【0041】
最初に、巻用ウインチd7の荷重が7トンである場合について説明する。この場合、図5(a)に示すように、第1〜第4の油圧弁7〜10の全てOFF状態になっているので、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6aのみに作動油が供給される。すなわち、この場合においては荷重(負荷)が比較的軽いので、第1の方向制御弁3から第1の油圧弁7に供給される作動油の油圧は第1の油圧弁7を状態遷移させるための設定圧力Xa(kPa)に達っせず、よって第1の油圧弁7はOFF状態である。なお、この設定圧力Xa(kPa)は、上述した第1のプレッシャスイッチ11の設定圧力X1(kPa)よりも小さな値である。
【0042】
この結果として、第1、第2のプレッシャスイッチ11,12が検出する作動油の油圧は、第1、第2のプレッシャスイッチ11,12をOFF状態からON状態に遷移させる程に上がらず、よって第1、第2のソレノイド弁13,14はON状態である。したがって、第2、第3の油圧弁8,9には第1のソレノイド弁13から作動油が供給され、また第4の油圧弁10には第2のソレノイド弁14から作動油が供給されるので、第2〜第4の油圧弁8〜10も、上述した第1の油圧弁7と同様にOFF状態である。
【0043】
次に、巻用ウインチd7の荷重が14トンである場合について説明する。この場合、図5(b)に示すように、第1〜第4の油圧弁7〜10のうち、第1の油圧弁7のみがON状態となり、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6aに加えて第1の油圧モータ5の第2のチャンバ5bに作動油が供給される。すなわち、この場合には荷重(負荷)は未だ比較的軽いものの、第1の方向制御弁3から第1の油圧弁7に供給される作動油の油圧が上記設定圧力Xa(kPa)を越えるので、第1の油圧弁7はOFF状態からON状態に遷移する。この一方、作動油の油圧は第1、第2のプレッシャスイッチ11,12がON状態に遷移する程に高くないので、第1、第2のソレノイド弁13,14はON状態であり、よって第2〜第4の油圧弁8〜10は第1の油圧弁7とは異なりOFF状態を維持する。
【0044】
次に、巻用ウインチd7の荷重が21トンである場合について説明する。この場合、図6(a)に示すように、第1〜第4の油圧弁7〜10のうち、第1、第2の油圧弁7,8がON状態となり、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6a及び第2のチャンバ5b,6bに作動油が供給される。すなわち、この場合には、第1のプレッシャスイッチ11が検出する作動油(第1の油圧モータ5の第2のチャンバ5bに供給される作動油)の油圧は、第1のプレッシャスイッチ11の設定圧力X1(kPa)を越えるので、第1のプレッシャスイッチ11は、OFF状態からON状態に遷移してON信号を第1のソレノイド弁13に出力する。
【0045】
この結果、第1のソレノイド弁13は、ON状態からOFF状態に遷移して第2、第3の油圧弁8,9への作動油の供給を停止する。ここで、第2の油圧弁8に供給される作動油の油圧は設定圧力Xa(kPa)を超える一方、第1の油圧弁7を介して第3の油圧弁9に供給される作動油の油圧は設定圧力Xa(kPa)よりも大きな設定圧力Xb(kPa)を越えるものではない
【0046】
したがって、第1のソレノイド弁13から作動油の供給停止によって、第2の油圧弁8のみがON状態に遷移し、第3の油圧弁9はOFF状態を維持する。なお、上記設定圧力Xbは、第1のプレッシャスイッチ11の設定圧力X1(kPa)よりも大きく、かつ第2のプレッシャスイッチ11の設定圧力X2(kPa)よりも小さな値である。
【0047】
次に、巻用ウインチd7の荷重が28トンである場合について説明する。この場合、図6(b)に示すように、第1〜第4の油圧弁7〜10のうち、第1、第2の油圧弁7,8に加えて第3の油圧弁9がON状態となり、第1、第2の油圧モータ5,6の第1、第2のチャンバ5a,5b,6a,6b及び第1の油圧モータ5の第3のチャンバ5cに作動油が供給される。すなわち、この場合には、第1の油圧弁7を介して第3の油圧弁9に供給される作動油の油圧が設定圧力Xb(kPa)を越えるので、第3の油圧弁9はOFF状態からON状態に遷移する。ただし、この場合には、作動油の油圧は第2のプレッシャスイッチ12がOFF状態からON状態に遷移する程に高くないので、第2のソレノイド弁14はON状態であり、よって第4の油圧弁10はOFF状態を維持する。
【0048】
次に、巻用ウインチd7の荷重が35トンである場合について説明する。この場合、図7に示すように、第1〜第4の油圧弁7〜10の全てがON状態となり、第1、第2の油圧モータ5,6の全チャンバ(第1〜第3のチャンバ5a〜5c,6a〜6c)に作動油が供給される。すなわち、この場合には、第2のプレッシャスイッチ12が検出する作動油(第1の油圧モータ5の第3のチャンバ5cに供給される作動油)の油圧は、第2のプレッシャスイッチ12の設定圧力X2(kPa)を越えるので、第2のプレッシャスイッチ12は、OFF状態からON状態に遷移してON信号を第2のソレノイド弁14に出力する。
【0049】
この結果、第2のソレノイド弁14は、ON状態からOFF状態に遷移して第4の油圧弁10への作動油の供給を停止する。第2のソレノイド弁14から作動油の供給停止によって、第4の油圧弁10がOFF状態からON状態に遷移し、第4の油圧弁10はON状態となる。そして、これによって第2の油圧モータ6の第3のチャンバ6cにも第4の油圧弁10を介して作動油が供給される。
【0050】
このような本実施形態によれば、油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6間で異ならせることを許容するので、油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6について交互に1つずつ増加させることにより、巻用ウインチd7の巻上回転速度を従来の3段階よりも多い5段階に切換えることが可能である。すなわち、従来のデッキクレーンでは、2つの油圧モータの油供給チャンバ数が常に同数なので、2つの油圧モータの油供給チャンバ数が同時に1→2→3と変化し、よって巻上回転速度が3段階にしか切り換らなかったが、本実施形態によれば、上述したように5段階に切り換る。したがって、本実施形態によれば、従来よりも細かな巻上回転速度の切換えが実現できるので、荷役作業を従来よりも効率的に行うことができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6について交互に1つずつ増加させるので、第1、第2の油圧モータ5,6間における油供給チャンバ数の差は最大で1つである。したがって、第1、第2の油圧モータ5,6が担う荷重のアンバランスを最小にすることができるので、第1、第2の油圧モータ5,6のチャンバ数の差を2つ以上にした場合よりも第1、第2の油圧モータ5,6の耐久性をより均等化することができる。
【0052】
さらに、本実施形態によれば、第1〜第4の油圧弁7〜10、第1、第2のプレッシャスイッチ11,12及び第1、第2のソレノイド弁13,14によって油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6について交互に1つずつ増加させることを実現している。すなわち、簡単な油圧回路の構成によって油供給チャンバ数を第1、第2の油圧モータ5,6について交互に1つずつ増加させるので、油圧機械Aの信頼性が高い。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記各実施形態では、デッキクレーンDの巻用ウインチd7を駆動対象とするが、本発明はこれに限定されない。本発明はデッキクレーンD以外の各種駆動対象に適用可能であり、また例えばデッキクレーンDの旋回機構を駆動対象としてもよい。
(2)上記各実施形態では、2台の油圧モータ(第1、第2の油圧モータ5,6)を備えているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、3台以上の油圧モータを備える場合にも適用可能である。
(3)また、上記各実施形態では、第1、第2の油圧モータ5,6が各々に3つのチャンバを備えるものであるが、本発明はこれに限定されない。油圧モータとして、2つのチャンバや4つ以上のチャンバを備えるものを採用してもよい。
【0054】
(4)さらに、上記実施形態では、巻用ウインチd7の荷重が第1(最小)の小領域E1に属する場合に、第1、第2の油圧モータ5,6の第1のチャンバ5a,6aに作動油を供給するようにしている。つまり、上記実施形態では、巻用ウインチd7の荷重が第1の小領域E1に属する場合に油供給チャンバ数を「2」とするが、本発明はこれに限定されず、巻用ウインチd7の荷重が第1の小領域E1に属する場合に油供給チャンバ数を「1」、つまり第1の油圧モータ5の第1のチャンバ5aのみに作動油を供給するようにし、これによって巻上回転速度を6段階に切り替えるようにしてもよい。
【0055】
(5)上記各実施形態では、油供給チャンバ数を増加させる際に第1の油圧モータ5を第2の油圧モータ6に対して先行させて増価させるようにしたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、油供給チャンバ数を増加させる際の順番は、第1の油圧モータ5の次に第2の油圧モータ6とする固定順番に限定されない。例えば、デッキクレーンDのある稼働期間では上記各実施形態のような順番で油供給チャンバ数を増大させるが、次の稼働期間では、上記順番を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0056】
A…油圧機械、1…エンジン、2…油圧ポンプ、3…第1の方向制御弁、4…第2の方向制御弁、5…第1の油圧モータ、6…第2の油圧モータ、7…第1の油圧弁、8…第2の油圧弁、9…第3の油圧弁、10…第4の油圧弁、11…第1のプレッシャスイッチ、12…第2のプレッシャスイッチ、13…第1のソレノイド弁、14…第2のソレノイド弁、5a,6a…第1のチャンバ、5b,6b…第2のチャンバ、5c,6c…第3のチャンバ、D…デッキクレーン、d1…クレーンポスト、d2…回転体、d3…運転室、d4…ブーム、d5…俯仰用ウインチ、d6…荷物用ワイヤーロープ、d7…巻用ウインチ






【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャンバを備えると共に駆動対象に対して並列に軸結合する複数の油圧モータについて、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて切り換えることにより速度制御する油圧機械であって、
作動油を供給するチャンバ数を各油圧モータ間で異ならせることを許容することを特徴とする油圧機械。
【請求項2】
複数の油圧モータについて、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させることを特徴とする請求項1に記載の油圧機械。
【請求項3】
負荷の変動範囲を複数の小領域に分割し、負荷が最小の小領域では各油圧モータについて、各々1つのチャンバに作動油を供給し、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の油圧機械。
【請求項4】
各油圧モータの複数のチャンバのうち、少なくとも1つを除くチャンバに作動油の供給をON/OFFする油圧弁をそれぞれ設け、負荷に応じて変化する作動油の圧力に基づいて各油圧弁をON状態あるいはOFF状態とすることにより、作動油を供給するチャンバ数を負荷に応じて特定の順番で1つずつ変化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の油圧機械。
【請求項5】
油圧モータを2つ備え、各油圧モータは各々に3つのチャンバを備えたベーンモータであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の油圧機械。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の油圧機械を具備し、当該油圧機械によりウインチを駆動することを特徴とするデッキクレーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−7476(P2013−7476A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142090(P2011−142090)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】