説明

油圧経路用液通孔の封止栓

【課題】液通孔の開口部を閉塞すると共に、液通孔の液路として機能しない部分を埋めて、油圧経路中にエアが溜まり難くすることができる封止栓を提供する。
【解決手段】キャリパボディ3の内部に形成される油圧経路18を、キャリパボディ3の外面から内部に向けて穿設した第1液通孔12及び第2液通孔13と連通路14とを交差させて形成し、キャリパボディ3の外面に形成される第1液通孔12と第2液通孔13の開口部12a,13aを封止栓17で封止する。封止栓17は、開口部12a,13aを閉塞する封止部17aと、該封止部17aに連続して、第1液通孔12及び第2液通孔13と連通路14とが交差する交差部C2までを閉塞する軸部17bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧経路形成部材の外面から内部に向けて穿設した複数の液通孔を互いに交差させると共に、前記油圧経路形成部材の外面に形成される液通孔の開口部を封止して、油圧経路形成部材の内部に油圧経路を形成する際に用いられる油圧経路用液通孔の封止栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧経路形成部材の液通孔に用いられる封止栓として、油圧経路形成部材に形成される液通孔の開口部に嵌入する有底円筒状部と、該有底円筒状部の内部に圧入される球状の拡径部材とを備えたものがあり、前記有底円筒状部の開口部を外側に向けて液通孔の開口部に嵌着させた後、前記有底円筒状部内に前記拡径部材を押し込むことにより、前記有底円筒状部の周壁を押し広げて拡張させ、液通孔の開口部に密着させて液通孔を封止するものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、油圧経路形成部材として、例えば、車両用ディスクブレーキのキャリパボディでは、作動液を流通させる液通路を形成する際に、複数の液通孔をキャリパボディの外面側から交差するように穿孔すると共に、キャリパボディの外面に開口する開口部に封止栓を螺着して液通路を形成するものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭50−32369号公報
【特許文献2】特開2000−240693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献の封止栓では、液通孔の開口部を閉塞することはできるものの、液通孔の液路として機能しない部分、例えば、特許文献2の交差する2本の液通孔の、交差部よりもキャリパボディ外面側に、油圧経路中のエアが溜まりやすかった。
【0006】
そこで本発明は、液通孔の開口部を閉塞すると共に、液通孔の液路として機能しない部分を埋めて、油圧経路中にエアが溜まり難くすることができる封止栓を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の油圧経路用液通孔の封止栓は、油圧経路形成部材の内部に形成される油圧経路を、前記油圧経路形成部材の外面から内部に向けて穿設した複数の液通孔を互いに交差させて形成し、前記油圧経路形成部材の外面に形成される前記液通孔の開口部を封止する油圧経路用液通孔の封止栓において、前記液通孔の開口部を閉塞する封止部と、該封止部に連続して、前記液通孔が他の液通孔と交差する交差部までを閉塞する軸部とを備えていることを特徴としている。
【0008】
また、油圧経路用液通孔は、前記開口部側と前記交差部との間に形成した段部を介して開口部側に大径孔が、交差部側に小径孔がそれぞれ形成され、前記封止部は、前記大径孔の内径に対応した外径で、前記油圧経路用液通孔の開口側が開口し、底面外周が前記段部に当接する有底筒状部を有し、前記軸部は、前記封止部の底部中心から突出して前記小径孔の内径に対応した外径を有し、前記有底筒状部は、該有底筒状部の開口側に、該有底筒状部を前記大径孔の内面に向けて拡径させる拡径部材を保持した拡径部材保持部を有しているものでも良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油圧経路用液通孔の封止栓によれば、液通孔の開口部を封止栓の封止部で簡単に封止できると共に、封止栓の軸部によって、液通孔の油路として使用しない部分を埋めることから、油圧経路中にエアが溜まる部分を極力少なくすることができ、油圧経路のエア抜き性を向上させることができる。
【0010】
また、油圧経路用液通孔は、開口部側と前記交差部との間に形成した段部を介して開口部側に大径孔を、交差部側に小径孔をそれぞれ形成し、封止部は、前記大径孔の内径に対応した外径で前記段部に当接する有底筒状部を有し、該有底筒状部の拡径部材保持部に拡径部材を保持することにより、前記拡径部材を保持した状態の封止栓の軸部を前記小径孔に、有底筒状部を前記大径孔にそれぞれ嵌入し、拡径部材を有底筒状部の内部に押し込むことにより、有底円筒状部を拡径させて大径孔に密着させ、油圧経路用液通孔の開口部を簡単に封止できると共に、液通孔の油路として使用しない部分を軸部で埋めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示す封止栓の断面図である。
【図2】図3のII-II断面図である。
【図3】本発明の封止栓を適用したディスクブレーキの正面図である。
【図4】同じくディスクブレーキの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図3は本発明の封止栓をディスクブレーキのキャリパボディ(本発明の油圧経路形成部材)に形成した液通孔に適用したもので、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスク回入側と回出側とは、車両前進走行時の場合とする。
【0013】
車両用ディスクブレーキ1は、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の作用部3a,3aと、ディスク回入側とディスク回出側とに設けられた一対のブリッジ部3b,3bとを一体形成したモノコック構造のキャリパボディ3を有している。
【0014】
各作用部3a,3aには、ディスクロータ2側が開口したシリンダ孔4が2個ずつ対向するようにしてそれぞれ設けられている。各シリンダ孔4内には、ピストン5がピストンシール6を介して収容されており、4ポットのピストン対向型に形成され、各シリンダ孔4の底部と各ピストン5の底面との間には、作動液が供給される液圧室7がそれぞれ画成され、隣接する液圧室7,7は、液圧室連通部7a,7aで連通している。
【0015】
シリンダ孔4の開口側には、ディスクロータ2を挟むようにしてライニング8aと裏板8bとからなる摩擦パッド8がそれぞれ対向配置されている。この摩擦パッド8は、ディスクロータ外周を跨いでディスク軸方向に架け渡されたハンガーピン9の一対の脚部9a,9aによって吊持され、ディスク回入側及び回出側にそれぞれ設けられたトルク受部3c,3cの間でディスク軸方向に移動可能となっている。
【0016】
一方の作用部3aのディスク回入側及びディスク回出側には、ディスク半径方向の取付ボルト挿通孔3d,3dが設けられており、この取付ボルト挿通孔3d,3dに挿通した取付ボルトを車体側に設けられているキャリパ取付部に螺着することにより、キャリパボディ3が車体に取り付けられる。また、同じ作用部3aの外側面から、前記液圧室連通部7aに向けて、ユニオン孔10が穿設されている。
【0017】
ディスク回入側とディスク回出側のブリッジ部3b,3bの天井面には、平面視楕円状の凹部11a,11bがそれぞれ形成されている。ディスク回入側のブリッジ部3bには、該ブリッジ部3bの凹部11aと一方の作用部3aのディスク回入側のシリンダ孔4の底部側とに開口する第1液通孔12(本発明の液通孔)と、前記凹部11aと他方の作用部3aのディスク回入側のシリンダ孔4の底部側とに開口する第2液通孔13(本発明の液通孔)と、これら第1液通孔12と第2液通孔13とを連結すると共に一端が一方の作用部3aの外面に開口するディスク軸方向の連通路14(本発明の液通孔)とを備えている。さらに、ディスク回出側のブリッジ部3bにも、ディスク回入側のブリッジ部3bと同様に、該ブリッジ部3bの凹部11bと一方の作用部3aのディスク回出側のシリンダ孔4の底部側とに開口する第1液通孔12と、前記凹部11bと他方の作用部3aのディスク回出側のシリンダ孔4の底部側とに開口する第2液通孔13と、これら第1液通孔12と第2液通孔13とを連結すると共に、一端が一方の作用部3aの外面に開口するディスク軸方向の連通路14とを備えている。
【0018】
さらに、双方のブリッジ部3b,3bに形成された第1液通孔12,12同士と、第2液通孔13,13同士と、連通路14,14同士とは、ディスク軸と平面視上のキャリパボディ中心部C1とを通る第1基準面B1に対してそれぞれ面対称に形成され、各ブリッジ部3b,3bの第1液通孔12と、第2液通孔13とは、ディスクロータ2の側面と平行で前記キャリパボディ中心部C1を通る第2基準面B2に対してそれぞれ面対称に形成される。なお、前記第1基準面B1と前記第2基準面B2とは、前記キャリパボディ中心部C1において直交する。
【0019】
連通路14,14の開口部には、ブリーダ孔15,15がそれぞれ形成され、該ブリーダ孔15,15にはブリーダスクリュ16,16がそれぞれ螺着される。また、一方の作用部3aに開口するユニオン孔10には、ブレーキホースのユニオンボルトが螺着される。
【0020】
各凹部11a,11b内に形成される第1液通孔12と第2液通孔13の開口部12a,13aは、開口側と第1液通孔12又は第2液通孔13と連通路14とが交差する交差部C2との間に形成した段部12b,13bを介して開口部側に大径孔12c,13cが、交差部側に小径孔12d,13dがそれぞれ形成され、封止栓17によってそれぞれ封止されている。
【0021】
封止栓17は、第1液通孔12及び第2液通孔13の開口部12a,13aを閉塞する封止部17aと、該封止部17aに連続して、第1液通孔12又は第2液通孔13と連通路14とが交差する交差部C2までを閉塞する軸部17bとを備えている。封止部17aは、前記大径孔12c,13cの内径に対応した外径で、第2液通孔13及び連通路14の開口側が開口し、底面外周が前記段部12b,13bに当接する有底筒状部17cと、球体17d(本発明の拡径部材)とを有し、前記軸部17bは、前記封止部17aの底部中心から突出して前記小径孔12d,13dの内径に対応した外径を有している。有底筒状部17cは、開口端内周面に段部17eを介して大径部17fが形成され、該大径部17fと段部17eとで構成される拡径部材保持部に、前記球体17dが保持されている。球体17dの直径は、前記大径部17fに保持可能で、且つ、有底筒状部17cの前記段部17eより底部側の小径部17gの径よりも大径に形成されている。
【0022】
このように形成した封止栓17は、第1液通孔12又は第2液通孔13の小径孔12d,13dに軸部17bを、第1液通孔12又は第2液通孔13の大径孔12c,13cに有底筒状部17cをそれぞれ嵌入し、有底筒状部17cの底面を第1液通孔12又は第2液通孔13の段部12b,13bに当接させ、有底筒状部17cの開口側に保持されている球体17dを有底筒状部17cの底部側に押し込むことにより、球体17dが段部17eを乗り越えて小径部17gに侵入し、小径部17gの周壁を押し広げて拡張させる。これにより、有底筒状部17cが第1液通孔12及び第2液通孔13の大径孔12c,13cにそれぞれ密着し、第1液通孔12及び第2液通孔13の開口部12a,13aを封止すると共に、軸部17bが第1液通孔12及び第2液通孔13と連通路14との交差部C2までをそれぞれ閉塞する。
【0023】
さらに、このように第1液通孔12及び第2液通孔13の開口部12a,13aを封止栓17でそれぞれ封止することにより、4つの液圧室7と、液圧室側連通部10と、第1液通孔12と、第2液通孔13とから成り、ユニオン孔11と、ブリーダ孔15とを備えた油圧経路18がキャリパボディ3内に形成される。また、本形態例では、車体右側に取り付けられるキャリパボディ3は、図3に示されるような向きに配置され、車体上方となる一方のブリーダスクリュ16を緩めてブリーダ孔15から油圧回路のエア抜きをし、車体左側に取り付けられるキャリパボディ3は、図3に示す取付状態を上下方向に反転させて車体に取り付けられ、車体上方となる他方のブリーダスクリュ16を緩めてブリーダ孔15から油圧回路のエア抜きをする。
【0024】
本形態例の封止栓17は上述のように形成されることにより、第1液通孔12と第2液通孔13の開口部12a,13aを簡単、且つ、確実に封止することができる。さらに、封止栓17に設けた軸部17bによって、第1液通孔12と第2液通孔13の油路として使用しない部分を埋めることから、エアが溜まる部分を極力少なくすることができ、油圧回路のエア抜き性を向上させることができる。
【0025】
尚、本発明の封止栓は、上述の形態例のように、ディスクブレーキのキャリパボディに用いられるものに限らず、アンチロックブレーキ制御装置を始め、どのような油圧経路形成部材にも適用することができる。さらに、封止栓の封止部の外周に、リブを形成して封止部と液通孔の開口部との密着性を向上させることもでき、また、拡径部材として、球体を用いるものに限らず、円錐状や卵形の拡径部材を用いることもできる。さらに、封止部は、拡径部材を備えていないプラグであっても差し支えない。
【符号の説明】
【0026】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…ブリッジ部、3c…トルク受部、3d…取付ボルト挿通孔、4…シリンダ孔、5…ピストン、6…ピストンシール、7…液圧室、7a…、液圧室連通部、8…摩擦パッド、8a…ライニング、8b…裏板、9…ハンガーピン、9a…脚部、10…ユニオン孔、11a,11b…凹部、12…第1液通孔、13…第2液通孔、12a,13a…開口部、12b,13b…開口部、12c,13c…大径孔、12d,13d…小径孔、14…連通路、15…ブリーダ孔、16…ブリーダスクリュ、17…封止栓、17a…封止部、17b…軸部、17c…有底円筒状部、17d…球体、17e…段部、17f…大径部、17g…小径部、18…油圧経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧経路形成部材の内部に形成される油圧経路を、前記油圧経路形成部材の外面から内部に向けて穿設した複数の液通孔を互いに交差させて形成し、前記油圧経路形成部材の外面に形成される前記液通孔の開口部を封止する油圧経路用液通孔の封止栓において、前記液通孔の開口部を閉塞する封止部と、該封止部に連続して、前記液通孔が他の液通孔と交差する交差部までを閉塞する軸部とを備えていることを特徴とする油圧経路用液通孔の油圧経路用液通孔の封止栓。
【請求項2】
油圧経路用液通孔は、前記開口部側と前記交差部との間に形成した段部を介して開口部側に大径孔が、交差部側に小径孔がそれぞれ形成され、前記封止部は、前記大径孔の内径に対応した外径で、前記油圧経路用液通孔の開口側が開口し、底面外周が前記段部に当接する有底筒状部を有し、前記軸部は、前記封止部の底部中心から突出して前記小径孔の内径に対応した外径を有し、前記有底筒状部は、該有底筒状部の開口側に、該有底筒状部を前記大径孔の内面に向けて拡径させる拡径部材を保持した拡径部材保持部を有していることを特徴とする請求項1記載の封止栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−185299(P2011−185299A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48216(P2010−48216)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】