説明

油性外用製剤及びその製造方法

【課題】単分散性及び安定性に加え、皮膚(表皮、真皮又は皮下組織)に対する浸透性に優れた油性外用製剤を提供する。
【解決手段】活性成分、界面活性剤及び油剤を含み、当該活性成分を含む活性粒子が界面活性剤及び油剤を含む油相中に単分散されており、(1)活性成分が生薬抽出成分及び/又は分子量1000以上の親水性高分子であり、(2)活性粒子の平均粒子径が200nm以下であり、(3)水分含有量が0.5重量%以下である、ことを特徴とする油性外用製剤に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な油性外用製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、外来物質の体内侵入を阻止するバリアとして働く皮膚角質層を透過できる物質は、分子量500Da以下の分子とされている。これにはさらに物質の溶解性が影響し、皮膚層を形成する脂質に対して親和性の低い水溶性物質は、より皮膚透過が困難とされている。これらの皮膚非親和性物質を皮膚及び皮下へ浸透させるために、例えば1)物理的処理による角質層の除去、エレクトロポレーション等の電気的な皮膚層の一時的な破壊、2)マイクロニードル等による痛みをできるだけ抑えた皮下注入等が開発されているが、いずれも技術的な課題を残しており、実用化に至っていない。注射投与に対して、これらの方法は非侵襲的とされ、QOL向上のためにさらなる技術開発が期待されているが、それぞれの治療個別のデバイス開発が必要となる。これに対し、従来の塗布型外用薬により、皮膚親和性の低い薬物を効果的に皮膚に作用させる基材の開発も進められている。
【0003】
外用薬(外用製剤)においては、その経皮吸収性等の見地より、より大きな分子量をもつ活性成分であっても小さな粒子(特にナノ粒子)として調製することが望ましいと言えるが、この場合にその粒度分布及び経時安定性が問題となる。すなわち、粒径を小さくしようとする場合には、その粒度分布をシャープにする必要があると同時に、経時的に粒径が大きくならないような技術が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には「薬剤含有複合体が油相に溶解または分散しているものを含み、且つ当該複合体は、親水性薬剤が界面活性剤により被覆されている固体状のものであることを特徴とする経皮吸収性に優れたS/O型外用剤」が開示されている。しかし、上記外用剤では、親水性薬剤の分子量としては10000以下を指定しており、より好ましい分子量として5000以下、さらに好ましい分子量として1000以下としているものの、完成した固体分散粒子の粒子径はもとより、その粒度分布、経時安定性等についても一切触れられていない。
【0005】
また例えば、特許文献2には、W/Oエマルションを脱水することにより、平均粒子径が20nm〜10μmの粒子として水溶性固体物質が油相中に分散したS/Oサスペンションを製造する方法が開示されている。S/Oに封入する水溶性固体物質として抗癌剤、タンパク質製剤、酵素薬剤、DNA等いずれの水溶性薬剤であっても良く、用途に応じた水溶性の固体物質とを適宜選択することができるものの、分子量の大きな活性成分をナノ粒子としてより効果的に分散させるための具体的な方法については言及されていない。また、特許文献2には、上記サスペンションを外用製剤として用いることには触れられていない。
【0006】
一方、特許文献3には外用医薬品や化粧品の基材として利用されてきたリオトロピック液晶を有効成分とする経皮吸収促進剤について開示されている。この発明によれば、リオトロピック液晶は、界面活性剤と水の他に油を含んでも良く、油分を含むことで液晶構造は角質層の細胞間脂質が形成するラメラ構造に近似したものとなり、皮膚表面に塗布した際に相転移を起こしやすくする。すなわち、皮膚角質層のバリア機能を一時的に開放状態にし、高分子物質や水溶性物質の経皮吸収性を向上できることが開示されている。しかし、バリア機能が開放状態になることで、真皮層からの水分放出あるいは外環境からの異物混入の危険性をはらんでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2006/025583
【特許文献2】特開2009−84293
【特許文献3】国際公開WO2006/118246
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】羽田乃武子、杉林堅次「化粧品成分の皮膚への浸透・貯留挙動と有効性」、“表面談話会・コロイド懇話会”、2009年、Vol.47、No.5、p.157−171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
外用薬(外用製剤)においては、その経皮吸収性等の見地より、より大きな分子量をもつ活性成分であっても小さな粒子(特にナノ粒子)として調製することが望ましいと言えるが、この場合にその粒度分布及び経時安定性が問題となる。すなわち、粒径を小さくしようとする場合、その実効性を発揮させるためには粒度分布をシャープ(単分散性)にする必要がある。また、そのように粒径を小さく制御しても合一化等により経時的に粒径が大きくなれば用時に支障を来すおそれがあるため、その経時安定性を付与することも必要となる。
【0010】
しかしながら、前記の通り、従来技術では、未だ単分散性と安定性とを兼ね備えた油性製剤の開発には至っていないことから、そのような技術の開発が切望されているのが実情である。
【0011】
また、非特許文献1には、低分子物質は経皮膚・経付属器官(汗腺、毛包等)経路の両方を透過可能であるが500Da以上の物質では角質実質経路を通りにくくなることが記載されている。よって500Da以上の有効成分を角質実質を透過させる技術の開発が望まれている。
【0012】
従って、本発明の主な目的は、特に、単分散性及び安定性に加え、皮膚(表皮、真皮又は皮下組織)に対する浸透性に優れた油性外用製剤を提供することにある。さらなる本発明の目的は、生薬成分を活性成分とする油性外用製剤を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法により油性の外用製剤を調製することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の油性外用製剤及びその製造方法に係る。
1. 活性成分、界面活性剤及び油剤を含み、当該活性成分を含む活性粒子が界面活性剤及び油剤を含む油相中に単分散されており、
(1)活性成分が生薬抽出成分及び/又は分子量1000以上の親水性高分子であり、
(2)活性粒子の平均粒子径が200nm以下であり、
(3)水分含有量が0.5重量%以下である、
ことを特徴とする油性外用製剤。
2. 当該界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上である、前記項1に記載の油性外用製剤。
3. 活性粒子の単分散性が積算体積分布において、1)当該分布の10体積%に対応する粒径(10%D)と当該分布の50体積%に対応する粒径(50%D)との比R1=(10%D)/(50%D)が50%以上であり、かつ、2)当該分布の90体積%に対応する粒径(90%D)と上記50%Dとの比R2=(90%D)/(50%D)が200%以下である、前記項1に記載の油性外用製剤。
4. 当該製剤の調製直後の活性粒子の平均粒子径に対する9ヶ月静置後の当該平均粒子径の変化率が20%以下である、請求項1に記載の油性外用製剤。
5. 油剤の含有量が40重量%以上である、前記項1に記載の油性外用製剤。
6. 生薬が、ウイキョウ、ダイオウ、ゲンノショウコ、コウブシ、カンゾウ、人参、オウバク、チンピ、ガジュツ、オウゴン、ニガキ、コウボク、カミツレ花、ボレイ、キキョウコン、クレンピ及びセンキュウの少なくとも1種を含む、前記項1に記載の油性外用製剤。
7. 薬学的に許容される金属塩の少なくとも1種をさらに含む、前記項1に記載の油性外用製剤。
8. 油剤が1)炭素数6以上の脂肪酸、2)炭素数6以上の脂肪酸エステル及び3)油脂の少なくとも1種である、前記項1に記載の油性外用製剤。
9. 脂肪酸エステルが、カプロン酸エステル、カプリル酸エステル、カプリン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、アラキジン酸エステル、オレイン酸エステル、スルシン酸エステル、リノール酸エステル及びリノレン酸エステルの少なくとも1種である、前記項7に記載の油性外用製剤。
10. 油脂が、大豆油、ごま油、オリーブ油、サフラワー油、サンフラワー油、ナタネ油、綿実油、パーム油、グレープシード油、シソ油、コーン油、落花生油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油、ベルガモット油、ヤシ油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、米油、小麦胚芽油、エゴマ油、カポック油、月見草油、シア脂及びけし油の少なくとも1種である、前記項7に記載の油性外用製剤。
11. 界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の油性外用製剤。
12. 皮膚外用剤として用いる、前記項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
13. 抗菌外用剤として用いる、前記項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
14. 抗白癬菌皮膚外用剤として用いる、前記項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
15. 活性成分、油剤、界面活性剤及び水を混合してなる乳化液を脱水することにより得られる、前記項1に記載の油性外用製剤。
16. 活性成分、油剤、界面活性剤及び水を混合してなる乳化液を脱水することにより油性外用製剤を製造する方法であって、界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上であることを特徴とする油性外用製剤の製造方法。
17. 乳化液が、1)活性成分の水溶液と2)油剤及び界面活性剤の混合液とを体積比2:1〜1:4で混合して得られるものである、前記項16に記載の製造方法。
18. 脱水を加熱脱水又は真空脱水により行う、前記項16に記載の製造方法。
19. 乳化液が、W/Oエマルションである、前記項16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単分散性及び経時安定性に優れた油性外用製剤を提供することができる。特に、油相中に分散した活性粒子がナノオーダーの微粒子であることから、皮膚浸透性等に優れた製剤を提供することも可能である。例えば、後記の試験例にも示すように、薬剤そのままでは皮膚浸透性が低いために外用剤として利用することが困難であったり、外用剤としては効果が十分に発揮できないような場合においても、優れた皮膚浸透性、さらには患部での高い貯留性・滞留性、徐放性等を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各種蛋白質を分散させた油性外用製剤の分散平均粒子径Dsの経時的変化を示したグラフである。
【図2】油性外用製剤の分散粒子の粒度分布を示したグラフである。
【図3】ユカタンマイクロ豚皮膚を用いた生薬成分の皮膚浸透性に対する製剤形の効果を示したグラフである。
【図4】同一個体での生薬抽出液と生薬成分含有油性外用製剤の牛白癬治療効果を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.油性外用製剤
本発明の油性外用製剤(本発明製剤)は、活性成分、界面活性剤及び油剤を含み、当該活性成分を含む活性粒子が界面活性剤及び油剤を含む油相中に単分散されており、
(1)活性成分が生薬抽出成分及び/又は分子量1000以上の親水性高分子であり、
(2)活性粒子の平均粒子径が200nm以下であり、
(3)水分含有量が0.5重量%以下である、
ことを特徴とする。
【0018】
活性成分(有効成分)としては、生薬抽出成分及び/又は分子量1000以上、好ましくは2000以上の親水性高分子であれば限定的でなく、公知又は市販の活性成分も用いることができる。
【0019】
生薬としては、特に、生薬の水抽出成分を本発明製剤の活性成分として好適に使用することができる。生薬の種類は特に限定されず、効能等に応じて公知又は市販のものを使用することもできる。例えばウイキョウ、ダイオウ、ゲンノショウコ、コウブシ、カンゾウ、人参、オウバク、チンピ、ガジュツ、オウゴン、ニガキ、コウボク、カミツレ花、ボレイ、キキョウコン、クレンピ及びセンキュウの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0020】
また、前記親水性高分子としては限定的でなく、例えばタンパク、ペプチド、核酸、ポリフェノール、多糖類、ビタミン類、ヒアルロン酸、海草由来物質、植物由来物質、酵母等の細菌由来物質、抗生物質等を挙げることができる。
【0021】
なお、前記親水性成分の分子量の上限は通常は200万程度とすれば良いが、これに限定されない。例えば、核酸のように分子量100万以上のものにも適用することができる。
【0022】
活性成分の用途(効能)については、外用製剤として使用されている用途であれば限定的でない。例えば、抗菌剤(抗白癬菌、抗大腸菌等)、抗アレルギー剤、美白剤、保湿剤、皮膚角質保護剤、創傷治癒剤、火傷治療剤、脱毛剤、育毛剤、鎮痛消炎剤、血行促進剤、虚血性心疾患治療剤、ホルモン剤等を挙げることができる。また、医薬品、医薬部外品、化粧品等のいずれにも用いることができる。さらに、投与方法(投薬形態)の点からみれば、例えば経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等のいずれにも適用することができる。従って、本発明製剤は、例えば皮膚外用剤等として好適に用いることができる。
【0023】
また、適用対象としても、ヒトのほか、家畜(ウシ、ブタ、トリ(鶏))、伴侶動物(イヌ、ネコ)等にも適用することができる。本発明製剤(特に生薬を活性成分とする本発明製剤)は、例えばウシ又はブタに対する抗白癬菌用外用剤として好適に用いることができる。
【0024】
前記親水性成分は、親水性であることが前提であるが、特に、使用する油剤に対する溶解度が1μM/L以下であり、かつ、油水分配係数が1000以上であることが好ましい。通常は油に溶解しないこのような親水性の高い成分を経時安定性等に優れたナノ粒子とすることができる。
【0025】
活性成分の本発明製剤中における含有量は、用いる活性成分の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.00001〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲内で適宜調整すれば良い。
【0026】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のいずれも使用することができるが、本発明では特に非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGCR)、モノグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ジグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、トリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ペンタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘプタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、オクタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ノナグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル)等の少なくとも1種を用いることができる。この中でも、例えばテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0027】
界面活性剤の含有量は、油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上であり、好ましくは15〜50重量%であり、より好ましくは15〜45重量%であり、最も好ましくは20〜40重量%とする。上記範囲に設定することによって、より単分散性で安定した製剤を調製することができる。上記含有量が15重量%未満の場合は、本発明製剤においては単分散性又は経時安定性のいずれかが劣ることになる。
【0028】
油剤は、公知又は市販の油剤を使用することができる。また、天然由来品又は合成品のいずれも使用することができる。本発明製剤では、脂肪酸、脂肪酸エステル及び油脂の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0029】
脂肪酸としては、炭素数6以上の脂肪酸を好適に用いることができる。例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、オレイン酸、スルシン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を使用することができる。
【0030】
脂肪酸エステルとしては、炭素数が6以上の脂肪酸エステルを好適に用いることができる。例えば、カプロン酸エステル、カプリル酸エステル、カプリン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、アラキジン酸エステル、オレイン酸エステル、スルシン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル等を挙げることができる。より具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、スクワラン、イソノナン酸イソトリデシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸モノミリスチン酸グリセリル、乳酸オクチルドデシル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、アジピン酸ジイソプロピル、ミツロウ脂肪酸オクチルドデシル等を例示することができる。
【0031】
油脂としては、植物油脂又は動物油脂のいずれであっても良い。動物油としては、例えば豚脂、牛脂、鯨油、羊脂、イワシ油、スクワラン、魚油等の少なくとも1種を好適に用いることができる。植物油としては、例えば大豆油、ごま油、オリーブ油、サフラワー油、サンフラワー油、ナタネ油、綿実油、パーム油、グレープシード油、シソ油、コーン油、落花生油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油、ベルガモット油、ヤシ油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、米油、小麦胚芽油、エゴマ油、カポック油、月見草油、シア脂、けし油等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0032】
本発明製剤では、活性成分を含む活性粒子が界面活性剤及び油剤を含む油相中に分散されている。活性粒子は、活性成分を主成分とするものであるが、必要に応じて他の成分が含まれていても良い。例えば、pH調整等のために、薬学的に許容される金属塩を用いることができる。このような金属塩としては、無機酸又は有機酸の金属塩を例示することができる。例えば重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等を用いることができる。その他にも、医薬品添加物等も適宜配合することができる。他の成分の含有量は、本発明製剤中10重量%以下、特に0〜5重量%とすることが好ましい。
【0033】
本発明製剤における活性粒子の平均粒子径は、200nm以下であり、好ましくは100nm以下である。このようなナノオーダーの粒径に制御することによって、より優れた浸透性等を得ることができる。なお、活性粒子の平均粒子径の下限値は限定されないが、通常は30nm程度である。粒子径測定法は厳密なものから大雑把なものまであり、特にサブミクロンからナノ領域については測定精度が不十分なものまで様々な方法があるが、本発明における平均粒子径は動的光散乱法を用いて油用製剤の25℃での粘度をパラメーターとして測定し、キュムラント解析された数値である。
【0034】
特に、本発明製剤においては、平均粒子径の経時的な変化が小さいことが好ましい。すなわち、経時的安定性に優れていることが望ましい。より具体的には、当該製剤の調製直後の活性粒子の平均粒子径(Ds)に対する9ヶ月静置後の当該平均粒子径の変化率が20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。変化率は、本発明製剤が調製された直後から密閉状態で20℃の温度に9ヶ月静置した後の平均粒子径の変化率(R)をいう。調製直後の平均粒子径をDs1、9ヶ月経過後の平均粒子径をDs2とした場合、Rは[100×(Ds2−Ds1)]/Ds1の絶対値で示される。なお、上記の平均粒子径(Ds)は、動的光散乱法でキュムラント解析された平均粒子径をいう。
【0035】
また、本発明製剤の活性粒子の粒度分布は単分散である。具体的には、活性粒子の積算体積分布において、1)当該分布の10体積%に対応する粒径(以下「10%D」という。)と当該分布の50体積%に対応する粒径(以下「50%D」という。)との比R1=(10%D)/(50%D)が50%以上であり、かつ、2)当該分布の90体積%に対応する粒径(以下「90%D」という。)と上記50%Dとの比R2=(90%D)/(50%D)が200%以下であることが好ましい。
【0036】
本発明製剤中に含まれる水分含有量は、通常0.5重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。すなわち、本発明製剤は、実質的に水分を含まないS/Oサスペンションとなり得る。
【0037】
本発明製剤は、必要に応じて所望の剤形としても良い。例えば、軟膏剤、エアゾール剤、硬膏剤等の公知の剤形とすることができるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明製剤の投与量は、配合する活性成分の種類、含有量等のほか、例えば対象、症状等に応じて適宜調整すれば良い。
【0039】
本発明製剤の投与方法は、前記の剤形等に応じて適宜選択することができる。本発明製剤は外用剤として用いられるが、特に皮膚に適用するための外用剤として最適である。従って、例えば塗布、スプレー、貼付等の公知の方法によって皮膚に投与することもできる。
【0040】
2.油性外用製剤の製造方法
本発明製剤は、種々の方法により製造することができるが、特に本発明の製造方法により好適に製造することができる。すなわち、活性成分、油剤、界面活性剤及び水を混合してなる乳化液を脱水することにより油性外用製剤を製造する方法であって、界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上であることを特徴とする油性外用製剤の製造方法により調製することができる。
【0041】
活性成分、油剤及び界面活性剤は、前記1.で述べたものと同様のものを使用することができる。これらの成分のほか、本発明の製造方法では、必要に応じて親油性有効成分、浸透補助剤、溶解補助剤等を添加することもできる。
【0042】
なお、活性成分として、生薬を用いる場合は、1)生薬水抽出液又はその希釈液あるいは2)生薬の水溶液を水相として用いることができる。生薬抽出液は、公知の方法によっても得ることができ、例えば水抽出、熱水抽出、搾取等の方法により抽出液を得ることができ、必要に応じて精製(濾過、遠心分離等)等を実施しても良い。好ましくは、粗濾過後の水相を遠心分離により上清液を回収し、上清液をさらに濾過より不溶物を除去する。
【0043】
本発明の製造方法では、界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上、好ましくは15〜50重量%であり、より好ましくは15〜45重量%であり、最も好ましくは20〜40重量%となるようにする。上記範囲内の含有量にて界面活性剤を用いることにより、より単分散性で安定した製剤を調製することができる。上記含有量が12重量%未満の場合は、本発明製剤においては単分散性又は経時安定性のいずれかが劣ることになる。
【0044】
乳化液の調製方法は特に限定されず、公知の方法も採用することができる。例えば、少なくとも活性成分が水に溶解した水溶液を調製する。一方、界面活性剤及び油剤を含む混合液を調製する。次いで、前記水溶液を水相とし、前記混合液を油相として、両者を混合することによって乳化液を得ることができる。すなわち、少なくとも活性成分が水に溶解した水溶液からなる水相と、界面活性剤及び油剤を含む油相とを混合することにより乳化液を調製することができる。
【0045】
本発明の製造方法では、乳化液は、特にW/Oエマルションの形態で得ることが好ましい。すなわち、少なくとも活性成分が水に溶解した水溶液の液滴が界面活性剤及び油剤を含む混合液からなる油相中に分散してなるW/Oエマルションを好適に用いることができる。この場合の液滴の平均粒子径は特に限定されないが、内水滴が凝集せずに均一分散していること及び通常3000nm以下であることが好ましい。
【0046】
この場合、水相中における活性成分の溶解量は、用いる活性成分の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常0.1〜300g/L程度である。
【0047】
また、油相中における油剤及び界面活性剤の合計量は限定的ではないが、通常は90〜100重量%、特に95〜100重量%とすることが好ましい。
【0048】
水相と油相との混合(乳化)に際しては、1)少なくとも活性成分が水に溶解した水溶液と2)油剤及び界面活性剤を含む混合液とを体積比2:1〜0.25:1(特に1.2:1〜0.8:1)で混合することが好ましい。
【0049】
乳化手段は、安定な乳化液(特にW/Oエマルション)が調製できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、攪拌(スターラー撹拌、撹拌翼等による方法)のほか、ホモジナイザー、ホモミキサー、多孔質ガラス膜等を用いる方法のような一般的な乳化操作によって、W/Oエマルションを調製することができる。例えば、ホモミキサーを用いる場合の条件は、特に限定されるものではないが、通常600〜50,000rpm程度(好ましくは7,000〜24,000rpm程度)にて0.5〜60分間程度(好ましくは1〜10分間程度)とすれば良い。
【0050】
次いで、乳化液(W/Oエマルション)の脱水を行う。乳化液の脱水操作は、水相粒子が合一、分離あるいは分裂しなければ特に限定されるものではなく、加熱脱水、真空脱水等の通常の方法を採用することができる。例えば、加熱脱水する場合は、油剤の沸点や分解温度、乳化剤の曇点(乳化力がなくなる上限温度)、水溶性固体物質の分解温度を考慮し、それらを超えない温度に加熱して脱水することができる。真空脱水する場合は、温度と真空度を調節しながら脱水できるエバポレーター(ロータリーエバポレーター)のような市販の装置を使用することもできる。脱水操作は、脱水された水の量が当該乳化液(W/Oエマルション)を調製する際に用いた水相に含まれる水の量と同程度になった時点で終了すれば良い。このようにして乳化液(W/Oエマルション)の水相に溶解させた含有量の活性成分を含む活性粒子がナノオーダーの微細粒子として分散する製剤を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0052】
比較例1
大豆油(和光純薬)20mLに10mg/mLの平均分子量70,000のFITC−デキストラン(Sigma社製、以下「FD70」)水溶液10mLを滴下混合し、3時間均一になるまで撹拌した。この混合液は、油相(大豆油)と水相が分離したままであり、均一な状態に至らなかった。その結果を表1に示す。なお、表1中における油剤及び界面活性剤の含有量(重量%)は、上記体積を25℃の比重で換算した値で示す(以下同じ。)。
【0053】
比較例2
大豆油19.8mlとTGCR(阪本薬品工業製「CR−310」)0.2mLを混合し、音叉型粘度計(エイアンドデイ)で粘度を測定した。この油相に、10mg/mLのFD70水溶液10mLを滴下混合して3時間撹拌し、平均内水滴径3.177μm(島津製作所製 レーザー回折散乱式粒度分布計「SALD−2000」で測定)の乳化物を得た。ロータリーエバポレーターを用いて、この乳化物を40℃に加温しながら一時間減圧脱水し、水分含量0.2%(京都電子製 KF水分計にて測定)、FD70の分散平均粒子径(Ds)230nm(大塚電子製 動的光散乱式粒度分布測定装置「ELS−800」にて測定)の均一な油性外用製剤を得た。この製剤は不透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0054】
比較例3
大豆油19mlとTGCR1mLを混合した油相を用いたほかは、比較例2と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は1.847μm、脱水後の水分含量は0.09%、FD70の分散平均粒子径(Ds)は154.4nmであり、やや不透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例1
大豆油16mLとTGCR4mLを混合した油相を用いたほかは、比較例2と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は717nm、脱水後の水分含量は0.06%、FD70の分散平均粒子径(Ds)は58.1nmであり、透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0056】
実施例2
大豆油14mLとTGCR6mLを混合した油相を用いたほかは、比較例2と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は477nm、脱水後の水分含量は0.1%、FD70の分散平均粒子径(Ds)は45.8nmであり、透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0057】
実施例3
大豆油8.9mLとTGCR1.1mLを混合した油相と、5mg/mLのBSA水溶液10mLを内水相として用いたほかは、比較例2と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は1,212nm、脱水後の水分含量は0.06%、BSAの分散平均粒子径(Ds)は88.1nmであり、ほぼ透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0058】
実施例4
大豆油8mLとHGCR(阪本薬品工業製「CR−500」)2mLを混合した油相を用いたほかは、実施例3と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は795.3nm、脱水後の水分含量は0.07%、BSAの分散平均粒子径(Ds)は53.5nmであり、透明な外観であった。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果からも明らかなように、界面活性剤添加濃度が本発明の範囲内にある実施例1〜4では、良好なFD70又はBSA含有油性外用製剤を調製することができた。これに対し、比較例1〜3では、所望の油性外用製剤を得ることが困難ないしは不可能であった。
【0061】
実施例5
大豆油16mLとPGCR4mLを混合した油相に、5mg/mLのBSA水溶液20mLを滴下混合して67時間撹拌し、平均内水滴径1.526μmの乳化物を得た。ロータリーエバポレーターを用いて、この乳化物を40℃に加温しながら一時間減圧脱水し、BSAの分散平均粒子径57.3nmの均一な油性外用製剤を得た。
【0062】
実施例6
5mg/mLのチトクロームC水溶液を用いたほかは、実施例6と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は849nm、チトクロームCの分散平均粒子径は43.1nmであり、透明な外観であった。
【0063】
実施例7
5mg/mLのミオグロビン水溶液を用いたほかは、実施例6と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は918nm、ミオグロビンの分散平均粒子径は97.5nmであり、透明な外観であった。
【0064】
実施例8
5mg/mLのヘモグロビン水溶液を用いたほかは、実施例6と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は1,074nm、ヘモグロビンの分散平均粒子径は51.5nmであり、透明な外観であった。
【0065】
実施例9
5mg/mLのゼラチン水溶液を用いたほかは、実施例6と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は1,423nm、ゼラチンの分散平均粒子径は51.5nmであり、透明な外観であった。
【0066】
実施例10
20mg/mLのFD70水溶液を用いたほかは、実施例6と同様の処理を行った。撹拌後の平均内水滴径は623nm、FD70の分散平均粒子径は50.0nmであり、透明な外観であった。
【0067】
試験例1
実施例5〜10で得られた油性外用製剤を室温にて保存し、9ヵ月後にそれぞれ分散粒子径Dsを測定した。その結果、外観はほとんど変化がなく、平均粒子径(50%Ds)の変化率R(R=[|調製直後と9ヶ月保存後の粒子径差|/調製直後のDs]/100[%])は20%以下であった。これら実施例5〜10の結果を表2及び図1に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
実施例11
大豆油16mLとPGCR4mLを混合した油相と、10mg/mLのオリゴコラーゲン(分子量約1,000)水溶液20mLを、ホモジナイザイーを用いて16,000rpmで5分間撹拌混合し、乳化物を得た。ロータリーエバポレーターを用いて、この乳化物を40℃に加温しながら一時間減圧脱水し、オリゴコラーゲン分散平均粒子径99.0nm、水分含量0.08%の均一な油性外用製剤を得た。この製剤について分散粒子径Dsを測定し、その累積10%Dと累積50%Dの比(R1=10%D/50%D[%])及び累積90%Dと累積50%Dの比(R2=90%D/50%D[%])を求めた結果、R1が72%、R2が138%であり、単分散分布であった。活性粒子の粒度分布を図2に示す。また、前記の分散粒子径等を表3に示す。
【0070】
実施例12
10mg/mLのバンコマイシン塩酸塩(分子量1,485.71)水溶液を用いたほかは、実施例11と同様の処理を行った。バンコマイシン分散平均粒子径81.8nm、水分含量0.17%の均一な油性外用製剤を得た。また、実施例11と同様にしてR1及びR2を求めた。その結果、R1は72%、R2は140%であり、単分散分布であった。活性粒子の粒度分布を図2に示す。また、前記の分散粒子径等を表3に示す。
【0071】
実施例13
10mg/mLのポリビニルアルコール(分子量2,800)水溶液を用いたほかは、実施例11と同様の処理を行った。ポリビニルアルコール分散平均粒子径55.8nm、水分含量0.09%の均一な油性外用製剤を得た。また、実施例11と同様にしてR1及びR2を求めた。その結果、R1は69%、R2は147%であり、単分散分布であった。活性粒子の粒度分布を図2に示す。また、前記の分散粒子径等を表3に示す。
【0072】
比較例4
10mg/mLのトリパンブルー(分子量960.81)水溶液を用いたほかは、実施例11と同様の処理を行った。トリパンブルーは色素であり、着色のため動的光散乱法では測定できなかった。水分含量は6.91%であった。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例14
活性成分として生薬を用いた油性外用製剤を調製した。
1)生薬抽出液の調製
重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、ウイキョウ、ダイオウ、ゲンノショウコ、コウブシ、カンゾウ、ニンジン、オウバク、チンピ、ガジュツ、オウゴン、ニガキ、コウボク、カミツレ、ボレイ、キキョウコン、クレンピ及びセンキュウの破砕混合物100gをさらし袋に入れ、水2L中で加熱し、水分が約半量になるまで煮出した。次いで、得られた煮出し液を二重ガーゼで漉し、3000rpmで30分間遠心し、回収した遠心上清を細孔径0.02μmのAnodisc(Whatman製)に5MPaのガス圧で透過させ、沈殿物のない生薬抽出液を得た。
【0075】
2)油性外用製剤の調製
大豆油80mLとPGCR20mLの混合油相に、前記1)の抽出液100mLを滴下混合し、ホモミキサーを用いて16,000rpmで5分間撹拌した。これを56℃に加温しながらロータリーエバポレーターを用いて減圧脱水し、生薬成分含有油性外用製剤を得た。生薬成分の分散平均粒子径は102.5nmであり、褐色でやや透明感のある外観であった。
【0076】
試験例2
ユカタンマイクロ豚(5ヶ月齢メス、チャールズ・リバー社)背部皮膚を、皮下脂肪を取り除き、直径約3cmに切り出して縦型拡散セル(バイオコム・システムズ)に設置した。拡散セルのレセプター側に10mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)をいれ、セルジャケットに恒温槽より温水を循環させ、セル内環境を37℃に保たせる状態とした。ドナー側に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)200μLを添加し、ガラス玉で蓋をした。レセプター相をスターラーで緩やかに撹拌し、18時間後に皮膚を回収した。回収した皮膚をエタノールで2回リンスして表面に付着している成分を除去し、直径8mmのバイオプシーパンチを用いて同一面積の皮膚を切り出し、テープストリップにて角質層を採取し、ピンセットで表皮層を真皮層から剥離した。表皮層と真皮層はメスで細かく裁断した。メタノールにて48時間浸漬後、ホモジナイザーで氷中にて5分撹拌抽出し、12000rpmにて5分間遠心を行い、上清を抽出サンプルとして、各層から抽出された成分について、実施例14の前記1)の生薬抽出液の凍結乾燥品を検量線に用い、分光光度計にて268nmの吸収を測定して単位面積当たりの生薬成分貯留量を算出した。この試験例をコントロールとした。
【0077】
試験例3
試験例2と同じ条件で、PBSに代えてドナー槽に実施例14の前記1)の生薬抽出液(水溶成分抽出液)200μLを添加して試験例2と同様に皮膚を処理し、皮膚各層の生薬成分貯留量を算出した。その結果を図3に示す。
【0078】
試験例4
試験例2と同じ条件で、PBSに代えてドナー槽に実施例15の前記2)の油性外用製剤200μLを添加して試験例2と同様に皮膚を処理し、皮膚各層の生薬貯留量を算出した。その結果を図3に示す。
図3からも明らかなように、試験例4の油性外用製剤は、試験例3の抽出液に対して2倍以上の生薬成分が角質層へ達しており、表皮層においては試験例4の油性外用製剤が生薬成分の貯留、すなわち表皮層への浸透性に優れていることがわかる。
【0079】
試験例5
牛白癬(Tricophyton verrucosum)に罹患している子牛の体表に実施例14の前記1)の煮出した生薬抽出液を4日間連続噴霧し、経過観察を行った。その結果、9週間後には患部がほぼ治癒したことから、生薬抽出液の治療効果を確認した。
【0080】
試験例6
生薬抽出液に代わりに実施例14の前記1)の不溶物をろ過により除去した生薬抽出液を用いたほかは、試験例5と同様にして罹患子牛(別個体)の体表に4日間連続して前記製剤を噴霧し、経過観察を行った。その結果、9週間後には患部がほぼ治癒した。このことから、生薬抽出液の濾過により治療効果が変化しないことを確認した。
【0081】
試験例7
牛白癬に罹患している子牛の右顔面に、実施例14の前記1)の生薬抽出液(10重量%抽出液)100mLを霧吹きで患部を含む領域全体に噴霧し、これを週一回、5週間後まで継続し、観察した。治療前、2週間、4週間後に患部より落剥を採取して培養し、菌コロニー数をカウントした。その結果を図4に示す。
【0082】
試験例8
試験例7と同個体の子牛の左顔面の患部に、実施例14の前記2)の油性外用製剤(10重量%抽出液相当の成分含有製剤)20mLを患部全体に塗布し、これを週一回、5週間後まで継続し、観察した。試験例5〜7では、薬液が液状であることから患部のみに塗布するのが困難なため、霧吹きで患部を含めた領域全体に噴霧したが、油性製剤は粘性があり患部になじめが良いため、患部のみに塗布することが可能になり、少量で患部全体に行き渡らせることができた。治療前、2週間、4週間後に患部より落剥を採取して培養し、菌コロニー数をカウントした。その結果を図4に示す。
【0083】
図4の結果からも明らかなように、5週間では、実施例14の前記1)生薬抽出液では患部かさぶた(白い部分)に変化がなく、治癒に至らなかった(白い部分(患部)がなお存在している)のに対し、実施例14の前記2)の油性外用製剤では投与量が少ないにもかかわらず、一週間後からかさぶたの減少と発毛が認められ、2週間後からは患部落剥より菌が検出されなくなり、5週間後に完治した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明製剤は、特に皮膚より作用させる多様な薬剤・生理活性物質の送達システム(DDSシステム)に有効利用することができる。例えば、皮膚創傷治療、真菌症治療、育毛、皮膚保湿等の皮膚に関わる多様な目的に対し、所望の効果をもたらすことが可能である。具体的には、ヒト用医薬品及び動物用医薬品として、また医薬部外品又は化粧品として、多様な成分の皮膚浸透性等に優れた製品に提供することができる。また、本発明製剤は、経皮ワクチン等への応用も期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分、界面活性剤及び油剤を含み、当該活性成分を含む活性粒子が界面活性剤及び油剤を含む油相中に単分散されており、
(1)活性成分が生薬抽出成分及び/又は分子量1000以上の親水性高分子であり、
(2)活性粒子の平均粒子径が200nm以下であり、
(3)水分含有量が0.5重量%以下である、
ことを特徴とする油性外用製剤。
【請求項2】
当該界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項3】
活性粒子の単分散性が積算体積分布において、1)当該分布の10体積%に対応する粒径(10%D)と当該分布の50体積%に対応する粒径(50%D)との比R1=(10%D)/(50%D)が50%以上であり、かつ、2)当該分布の90体積%に対応する粒径(90%D)と上記50%Dとの比R2=(90%D)/(50%D)が200%以下である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項4】
当該製剤の調製直後の活性粒子の平均粒子径に対する9ヶ月静置後の当該平均粒子径の変化率が20%以下である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項5】
油剤の含有量が40重量%以上である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項6】
生薬が、ウイキョウ、ダイオウ、ゲンノショウコ、コウブシ、カンゾウ、人参、オウバク、チンピ、ガジュツ、オウゴン、ニガキ、コウボク、カミツレ花、ボレイ、キキョウコン、クレンピ及びセンキュウの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項7】
薬学的に許容される金属塩の少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項8】
油剤が1)炭素数6以上の脂肪酸、2)炭素数6以上の脂肪酸エステル及び3)油脂の少なくとも1種である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項9】
脂肪酸エステルが、カプロン酸エステル、カプリル酸エステル、カプリン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、アラキジン酸エステル、オレイン酸エステル、スルシン酸エステル、リノール酸エステル及びリノレン酸エステルの少なくとも1種である、請求項7に記載の油性外用製剤。
【請求項10】
油脂が、大豆油、ごま油、オリーブ油、サフラワー油、サンフラワー油、ナタネ油、綿実油、パーム油、グレープシード油、シソ油、コーン油、落花生油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油、ベルガモット油、ヤシ油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、米油、小麦胚芽油、エゴマ油、カポック油、月見草油、シア脂及びけし油の少なくとも1種である、請求項7に記載の油性外用製剤。
【請求項11】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項12】
皮膚外用剤として用いる、請求項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
【請求項13】
抗菌外用剤として用いる、請求項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
【請求項14】
抗白癬菌皮膚外用剤として用いる、請求項1〜10のいずれかに記載の油性外用製剤。
【請求項15】
活性成分、油剤、界面活性剤及び水を混合してなる乳化液を脱水することにより得られる、請求項1に記載の油性外用製剤。
【請求項16】
活性成分、油剤、界面活性剤及び水を混合してなる乳化液を脱水することにより油性外用製剤を製造する方法であって、界面活性剤の含有量が油剤及び界面活性剤の合計量に対して12重量%以上であることを特徴とする油性外用製剤の製造方法。
【請求項17】
乳化液が、1)活性成分の水溶液と2)油剤及び界面活性剤の混合液とを体積比2:1〜1:4で混合して得られるものである、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
脱水を加熱脱水又は真空脱水により行う、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
乳化液が、W/Oエマルションである、請求項16に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−20963(P2011−20963A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168306(P2009−168306)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究「地域イノベーション創出総合支援事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【出願人】(304026168)中森製薬株式会社 (1)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】