説明

油性食品タンクの洗浄方法及び同洗浄システム

【課題】低水分の油性食品タンクの天板や攪拌機付け根部分を含むタンク内を水を使用することなく、短時間に自動的に行う洗浄法及び洗浄システムを提供する。
【解決手段】油性食品タンク7内の洗浄液として加熱した油脂を用いて、スプレーノズル6からタンク内に噴射し、油性食品タンクの天板や撹拌機8付け根部分を含むタンク内を洗浄する。また、洗浄後の油脂はフィルター10でろ過した後、再び加熱して、油を洗浄油としてリサイクル使用するシステムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性食品タンク洗浄方法及び同洗浄システムに関する。より詳しくはチョコレート生地の付着したタンクを洗浄することに関する。
【背景技術】
【0002】
油性食品の典型であるチョコレート類や非脂肪カカオ分を含有しないチョコレート様食品(通称としてホワイトチョコレート、カラーチョコレートと呼ばれる)等の生地(以後総称してチョコレート生地と記述する)は、ココアパウダー、カカオマス、粉乳類、糖類等を油脂と混合し、ペースト状にしたものをロールやボールミルで微粒化粉砕し、コンチング工程にて残りの油脂、乳化剤、色素、香料等が添加され、均質になるまで混合することにより製造される。
【0003】
このコンチング工程は典型的には40〜80℃の温度範囲で行われており、原材料に含まれる3%程度の水分は、最終の生地に至ると1.5%以下にまで低下する。これは、この工程中に水分が蒸散するためであるが、蒸散した水分はコンチングタンク開口部より大気中に拡散するか、ファン等で強制的にタンク外へ排出されている。
【0004】
このコンチング工程が行われるコンチェと呼ばれる攪拌混合タンクやその後の生地からの脱泡タンク及び生地の貯蔵タンクのタンク天板、撹拌機付け根部分等はチョコレート生地が付きやすく、生地が付着したまま長時間経過することがある。この付着した生地は放置するとそのまま固化する。
【0005】
チョコレート生地は油性食品で水分が1.5%以下であることから、菌の増殖や腐敗の発生が殆どないため、チョコレート生地のタンク類は長期間連続使用されることが多い。この連続使用において、タンク内は殆ど充満され常に新しい生地と入れ替わるため、実用上は殆ど問題ないが、タンク天板や撹拌機付け根部分等はその入れ替わりが十分でなく、洗浄しないと、チョコレート生地から蒸散した水分を抱き込む形で付着、固化したチョコレート生地はカビの温床となる。
【0006】
従い、タンク天板や撹拌機付け根部分等のカビ発生を防止するために、従来では、定期的に連続生産を停止し、作業員がタンク内に入ってタンク天板や撹拌機付け根部分等に付着したチョコレート生地をヘラ等で掻き落とし、さらに洗浄水噴射による所謂手洗い作業によってタンクの洗浄を行っていた。
【0007】
しかし、上記従来のような人手によるタンク洗浄では、作業員の多大な労力を要し、作業性が悪く、作業能率の面で改善する余地があった。また、チョコレートタンクからの洗浄水の乾燥、除去に長時間を要するために、生産効率が大きく低下する問題があった。
【0008】
人手によるタンク洗浄を自動化する目的では、洗浄液をスプレーノズルからタンク内面に噴射して洗浄する方法が、特許文献1、特許文献2などで開示されており、タンクのスプレー洗浄法は非特許文献1にあるような公知の技術である。しかし、これらの先行技術では、タンク洗浄液として水、温水を用いるか、酸、アルカリ、界面活性剤などの洗浄剤液での洗浄後に水そそぎを行うのが一般的であった。
【0009】
このような、従来からのスプレー洗浄法では、やはり洗浄後の洗浄水の乾燥、除去に長時間を要するために、さらに簡略化した効率的な油性食品タンク洗浄方法が求められていた。
【特許文献1】特許2582273号公報
【特許文献2】特開2002−66480号公報
【非特許文献1】堀田喜久男:ジャパンフードサイエンス、食品製造ラインの洗浄と殺菌、55−64、NO.4(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
油性食品タンクの天板や攪拌機付け根部分を含むタンク内を水を使用することなく、短時間に自動的に洗浄することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
油性食品タンクの洗浄液として、油脂をスプレーノズルから噴射、洗浄することにより課題を解決出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の第1は、油性食品タンク内面を、油脂を用いてスプレーノズルから噴射、洗浄することを特徴とするタンク洗浄方法である。第2は、油性食品がチョコレート類、チョコレート様食品である第1の洗浄方法である。第3は、油脂が油性食品に含まれる油脂の1種類以上と同一である第1の洗浄方法である。第4は、洗浄油タンクの洗浄油加熱手段、洗浄油の送液手段、洗浄油スプレー手段、油性食品タンクからの洗浄後の油脂の排出手段、及び洗浄後の油脂からのチョコレート固形分除去手段からなる、洗浄油をリサイクル使用する油性食品タンクの洗浄システムである。
【発明の効果】
【0013】
油性食品タンクの洗浄を水を使用することなく、短時間に自動的に実施することが可能となり、洗浄のための生産停止時間の大幅な短縮が達成出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
チョコレート生地などの水分1.5%以下のような低水分の油性食品では水分の混入を極力避ける必要があり、油性食品タンクの洗浄でも水の使用を出来るだけ避けるのが望ましい。水を使用しない洗浄方法を鋭意検討する中で、油性食品タンクの洗浄液として、油脂をスプレーノズルから噴射、洗浄することにより課題を解決出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明はチョコレート類(チョコレート、チョコレート利用食品)やチョコレート様食品のような油性食品タンクの洗浄に適用することが出来る。チョコレート類やチョコレート様食品の用途としては、板状や粒状の固形チョコレート単独菓子と、他の食品と複合して用いられる製菓原料、より具体的には、焼き菓子やパン、冷菓のコーティング材、エンローバー材、フィリング材、装飾材等としての用途がある。これらの用途適性に合うように、油脂分は20〜60%で様々な油脂が原材料の一部として用いられる。
【0016】
チョコレートの場合は、油脂としてココアバターやココアバター代用脂、乳脂肪が用いられる。ココアバター代用脂(典型的にはハードバター)には、テンパリング型、非テンパリング型がある。このうち、テンパリング型はシア脂、サル脂、イリッペ脂、パーム油等又はそれらの分別油から得られ、その主要なトリグリセリドはココアバター同様、SUS(2−不飽和、1,3−飽和のトリグリセリド)である。同タイプの油脂として、酵素によるエステル交換技術を利用してSUSに富むハードバターも利用されている。一方、非テンパリング型は、さらにトランス酸型、ラウリン酸型が代表的である。トランス酸型は、パーム油等の分別軟質部や大豆油等の液状油をトランス異性化硬化をして得られ、構成脂肪酸組成中に比較的多くのトランス酸を含む。ラウリン酸型は、ヤシ油、パーム核油、ババス油のようなラウリン酸を多く含むような油脂及びその分別油、硬化油から得られる。
【0017】
チョコレート利用食品やチョコレート様食品の場合は、油脂としては上記のチョコレート用油脂以外に、豚脂、牛脂、乳脂及び魚油などの動物脂、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、綿実油、パーム油、ヤシ油、パーム核油などの植物油及びそれらの硬化油、エステル交換油の1種以上が用いられる。
【0018】
水を使用しない洗浄法として、これらのチョコレート生地に用いられる油脂を洗浄液として利用すれば、洗浄後に乾燥することなく、速やかに生産開始が出来る。洗浄に用いた油脂がチョコレート生地タンク内に少量残存しても、その油脂が次に生産されるチョコレート生地に用いられる油脂の1種類以上と同一であれば、チョコレート生地の品質に殆ど影響しない利点がある。
【0019】
洗浄液として用いる油脂は、上記のチョコレート生地に用いられる油脂の1種類以上であれば良い。チョコレートの場合は、ココアバターもしくはココアバター代用脂を用いるのが好ましい。チョコレート利用食品やチョコレート様食品の場合は、生地中に使用される油脂の中で上昇融点が0℃〜40℃のような比較的低融点で酸化安定性に優れた油脂の使用が好ましい。パーム油分別低融点部、ヤシ油、パーム核油やその分別油、その他の硬化油やエステル交換油などが好適に利用出来る。
【0020】
乳脂、大豆油や菜種油のような液状油脂も利用可能であるが、酸化安定性が比較的弱いため洗浄中に酸化劣化して、次に生産するチョコレート生地の品質、特に風味に悪影響を与える恐れがあるので、それらの洗浄液への利用は好ましくない。上昇融点が40℃を超える油脂の利用も可能であるが、ストレーナーや油脂パイプラインでの固化、閉塞の恐れがあり、やはり好ましくない。
【0021】
本発明によるタンク洗浄は次の手順で行うことが出来る。まず、洗浄液として利用する油脂を、洗浄油用の保管タンクやドラム缶内で、またはスプレーノズルへの油脂供給パイプライン内で、熱交換器などにより40℃以上好ましくは50〜75℃に加熱する。この加熱洗浄油を送液ポンプで送り、ストレーナーを通してから吐出圧力を測定する圧力計を装着した油脂供給パイプを通って、スプレーボールなどのスプレーノズルからタンク内面に噴射、洗浄する。洗浄後の油脂はタンク下部の抜き出し口より、洗浄、除去されたチョコレート生地と供に排出、回収する。
【0022】
洗浄油の加熱温度は65℃程度が好ましい。温度が40℃以下のように低くなると、油脂の粘度が高いためスプレーノズルからの噴射がうまく行かず、またタンク内面に付着固化したチョコレート生地を溶解することが出来ないため、十分な洗浄が達成出来ない。温度が80℃以上のように高温になると、洗浄油の酸化劣化が起きやすく、洗浄後の次のチョコレート生地品質に悪影響を与えるため好ましくない。
【0023】
使用するスプレーノズルは市販されている様々なタンク容器洗浄ノズルが使用出来る。エアーモーターまたは電源モーターを回転の駆動源とするモータードライブ式3次元回転ノズル、洗浄液の圧力を駆動源として3次元回転する液圧3次元回転ノズル、液圧2次元ノズル、複数のオリフィスなどによる球状シャワーによる固定式ノズルなどが例示出来る。
【0024】
洗浄油を噴射するスプレーノズルの吐出圧力は、一般に高圧力であるほど短時間での洗浄が可能となるが、対象となるチョコレート生地タンクの容量に合わせ、吐出圧力と洗浄時間は適宜選定すれば良い。通常の容量10重量トン以下のチョコレート生地タンクであれば、0.5MPa程度の圧力で数分以内での完全な洗浄が可能である。
【0025】
また、本発明は、洗浄油タンクの加熱手段、洗浄油の送液手段、洗浄油中の固形物除去手段、スプレー吐出圧力の測定手段、洗浄油スプレー手段、油性食品タンクからの洗浄後の油脂の排出手段、及び洗浄後の油脂からの油性食品固形分除去手段からなる、洗浄油をリサイクル使用する油性食品タンクの洗浄システムである。
【0026】
洗浄油タンクの加熱手段としては、温水ジャケットや蒸気ジャケットが使用出来る。送液手段としては、送液ポンプが使用出来る。スプレー手段としては、上記の様々なタンク容器洗浄ノズルが使用出来る。油性食品タンクからの洗浄後の油脂の排出手段としては、タンク底部ノズルからのヘッド差を利用した排出や排出ポンプ利用がある。洗浄後の油脂からの油性食品固形分除去手段としては、バケットフィルターなどを用いることにより連続的に油性食品固形分をろ別出来る。ろ過された油脂は洗浄油タンクに送液され、洗浄油としてリサイクル使用出来る。
【0027】
洗浄後の油脂からのチョコレート固形分除去には、概ねJIS標準篩で60メッシュ程度のフィルターでろ過することにより、洗浄液としての再使用が可能であった。この固形分除去を行わないとストレーナー及びスプレーノズルの閉塞が起こり、連続循環的な洗浄が困難となる。このような洗浄システムを用いることにより、洗浄油の使用量を大幅に削減出来て、リサイクルしない場合に比べて洗浄油の使用量を概ね20〜50重量%に低減出来る。即ち、経済性の高い洗浄が可能となる。
【0028】
本発明の実施の形態を図1を参照して説明する。洗浄油用タンク1に洗浄油を引き込み、温水ジャケット9により洗浄油を65℃程度まで加熱する。加熱された洗浄油を送液ポンプ2で洗浄ラインに送液し、ストレーナー3を通してから圧力計4が装着された油脂送液パイプ5を通ってスプレーノズル6より洗浄油をタンク7内面に噴射する。タンク7内面やタンク攪拌羽根8に付着していたチョコレート生地と供に、洗浄後の洗浄油はバケットフィルター10でろ過され、ろ過油は洗浄油用タンク1に送液される。洗浄ろ過油は、洗浄油用タンクで再加熱され、洗浄用にリサイクル使用される。
以下に実施例で本発明をさらに詳細に説明する
【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
洗浄油として、次に生産するチョコレート生地に配合される油脂の中から、パーム低融点部(ヨウ素価67.5、上昇融点5℃)を選択した。このパーム低融点部300Kgを洗浄油用タンクに引き込み、温水ジャケットで油温65℃まで加熱した。この加熱油を送液ポンプで、流量15m/時間でスプレーノズル(アルファラバル社製:TJ20G、ノズル口径:3.9mm)に送液してチョコレート生地タンク(直径1,880mm、高さ3,116mm)のタンク内面を噴射、洗浄した。洗浄後の油脂はタンク底部ノズルから連続的にヘッド差を用いて排出し、60メッシュのバケットフィルターでろ過して洗浄油用タンクにリターンしてさらに循環洗浄に供した。スプレー吐出圧力0.48MPa,洗浄時間5分であった。洗浄終了後に、タンク天板、攪拌羽根付け根及びタンク内面を目視にて確認した結果、チョコレート生地の付着は全くなくほぼ完全に洗浄が出来ていた。
【0030】
〔実施例2〕
洗浄油として、次に生産するチョコレート生地に配合される油脂の中から、精製ヤシ油(ヨウ素価8.6、上昇融点24.0℃)を選択した。この精製ヤシ油300Kgを洗浄油用タンクに引き込み、温水ジャケットで油温65℃まで加熱した。この加熱油を送液ポンプで、流量15m/時間でスプレーノズル(アルファラバル社製:TJ20G、ノズル口径:3.9mm)に送液してチョコレート生地タンク(直径1,880mm、高さ3,116mm)のタンク内面を噴射、洗浄した。洗浄後の油脂はタンク底部ノズルから連続的にヘッド差を用いて排出し、60メッシュのバケットフィルターでろ過して洗浄油用タンクにリターンしてさらに循環洗浄に供した。スプレー吐出圧力0.50MPa,洗浄時間3分であった。洗浄終了後に、タンク天板、攪拌羽根付け根及びタンク内面を目視にて確認した結果、チョコレート生地の付着は全くなくほぼ完全に洗浄が出来ていた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、チョコレート生地タンクなどの油性食品タンクの短時間で、効率的な洗浄法に関するもので、生産性向上に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による油性食品タンクの洗浄方法を実施する洗浄システムの概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1:洗浄油用タンク、2:送液ポンプ、3:ストレーナー、4:圧力計、5:油脂供給パイプ、6:スプレーノズル、7:チョコレート生地用タンク、8:タンク攪拌羽根、9:熱交換用温水ジャケット、10:バケットフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性食品タンク内面を、油脂を用いてスプレーノズルから噴射洗浄することを特徴とするタンク洗浄方法。
【請求項2】
油性食品がチョコレート類、チョコレート様食品である請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
油脂が油性食品に含まれる油脂の中の1種類以上と同一である請求項1記載の洗浄法。
【請求項4】
洗浄油タンクの洗浄油加熱手段、洗浄油の送液手段、洗浄油スプレー手段、油性食品タンクからの洗浄後の油脂の排出手段、及び洗浄後の油脂からの油性食品固形分除去手段からなる、洗浄油をリサイクル使用する油性食品タンクの洗浄システム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−75891(P2010−75891A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249481(P2008−249481)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】