説明

油検出装置および油検出方法

【課題】ごく狭い水路において油を確実に検出すること。
【解決手段】所定のパターンにより変調された所定の波長の光を照射するASK変調回路11、LD駆動回路12およびLD19を有する投光部13と、投光部13から照射される光を線状に整形するラインレンズ20と、投光部13から照射される光の波長とは異なる波長であり所定のパターンにより変調された光を受光する蛍光検出部14、共振・高周波増幅回路15、検波回路16および蛍光フィルタ21と、蛍光検出部14が受光した旨を油検出結果として出力するトーンデコーダ回路18およびLD制御&信号演算部10と、を有する油検出装置1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油検出装置および油検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海への油の流出は、自然環境に重大な悪影響を与える要因となるため、厳重に監視するべきものである。このような油の流出を監視するために、たとえば特許文献1には、主に海面に浮遊する油を検出する油検出装置が開示されている。また、たとえば特許文献2には、主に河川や湖沼に浮遊する油を検出する油検出装置が開示されている。
【0003】
特許文献1,2の油検出装置では、いずれも光源から水面に照射した光を油が吸収して発した蛍光を検出することにより、水面に浮遊する油を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−275135号公報
【特許文献2】特開2002−214140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の油検出装置は、海面、河川または湖沼などに流出した油を検出するものである。その一方で、建物内部において、建物外部に流出する可能性がある油を検出し、建物外部への油の流出を未然に防ぎたいという要望がある。
【0006】
たとえば電力会社の発電所あるいは変電所では多数のトランスを使用している。これらの多数のトランスでは、絶縁油として多環芳香族炭化水素などの鉱物油が使用されている。もし、トランスの筐体に錆などにより微細な孔や亀裂が生じると、絶縁油の一部が流出する可能性が生じる。
【0007】
したがって、このような発電所内あるいは変電所内にある排水ピットにおいて、外部(河川や海)に流出する可能性がある油を検出し、外部への油の流出を未然に防ぐことはきわめて有用である。
【0008】
しかしながら、このような要望に対し、上述した従来の油検出装置は、いずれも海面、河川または湖沼などの広大な水域を想定したものであり、従来の油検出装置を、上述した排水ピットのようにごく狭い水路に適用することは困難である。
【0009】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、ごく狭い水路において油を確実に検出することができる油検出装置および油検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの観点は、油検出装置としての観点である。すなわち、本発明の油検出装置は、所定のパターンにより変調された所定の波長の光を照射する投光部と、投光部から照射される光を線状に整形する照射領域整形手段と、投光部から照射される光の波長とは異なる波長であり所定のパターンにより変調された光を受光する受光部と、受光部が受光した旨を油検出結果として出力する出力部と、を有するものである。
【0011】
さらに、照射領域整形手段により照射された線状の光の照射領域が当該線状の光の照射領域に直交する方向に往復運動するように投光部を首振り状態とする首振り機構部を有することができる。
【0012】
さらに、投光部が照射する光の波長および受光部が受光する光の波長をそれぞれ変更可能とする波長変更手段を有することができる。
【0013】
また、所定のパターンは、20Hzから20kHzの信号であり、出力部は、所定のパターンの信号により変調された光を復調して得られる20Hzから20kHzの可聴音を出力することができる。
【0014】
本発明の他の観点は、油検出方法としての観点である。すなわち、本発明の油検出方法は、水面に浮遊する油を検出する油検出装置が行う油検出方法であって、投光部が、所定のパターンにより変調された所定の波長の光を照射するステップを実行し、照射領域整形手段が、投光部から照射される光を線状に整形するステップを実行し、受光部が、投光部から照射される光の波長とは異なる波長であり所定のパターンにより変調された光を受光するステップを実行し、出力部が、受光部が受光した旨を油検出結果として出力するステップを実行するものである。
【0015】
さらに、首振り機構部が、照射領域整形手段により照射された線状の光の照射領域が当該線状の光の照射領域に直交する方向に往復運動するように投光部を首振り状態とする首振りステップを実行することができる。
【0016】
さらに、波長変更手段が、投光部が照射する光の波長および受光部が受光する光の波長をそれぞれ変更可能とする波長変更ステップを実行することができる。
【0017】
また、所定のパターンは、20Hzから20kHzの信号であり、出力部が、所定のパターンの信号により変調された光を復調して得られる20Hzから20kHzの可聴音を出力することにより油検出結果を出力するステップを実行することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ごく狭い水路において油を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る油検出装置のブロック構成図である。
【図2】図1のASK変調回路が出力するASK変調されたレーザダイオード(LD)駆動信号を説明するための図である。
【図3】図1のラインレンズを説明するための図である。
【図4】油に照射される励起光の波長とこの励起光を吸収して油が発する蛍光光の波長とを示す図である。
【図5】図1の投光部および蛍光検出部が排水ピットの水路上に配設されている状態を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施の形態に係る投光部の首振り機構部を示す図である。
【図7】本発明の第三の実施の形態に係る油検出装置のブロック構成図である。
【図8】本発明の第四の実施の形態に係る油検出装置のブロック構成図である。
【図9】図8の油検出装置の使用形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(本発明の第一の実施の形態に係る油検出装置1について)
本発明の第一の実施の形態に係る油検出装置1の構成について図1を参照して説明する。油検出装置1は、レーザダイオード(以下ではLDと記す)制御&信号演算部10、ASK(Amplitude Shift Keying)変調回路11、LD駆動回路12、投光部13、蛍光検出部14、共振・高周波増幅回路15、検波回路16、低周波増幅回路17およびトーンデコーダ回路18を有する。さらに、投光部13は、LD19およびラインレンズ(請求項でいう照射領域整形手段)20を有する。また、蛍光検出部14は、蛍光フィルタ21を有する。
【0021】
LD制御&信号演算部10は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポートなどにより構成される。なお、CPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などでもよい。LD制御&信号演算部10は、ユーザからの操作入力を受け付けて油検出装置1における油検出の処理を起動させる。LD制御&信号演算部10は、油検出装置1を起動させると後述するASK変調回路11を制御することによりASK変調信号を発生させる。
【0022】
また、LD制御&信号演算部10は、油検出装置1の油検出の結果を出力する。この出力形態として、たとえば液晶表示装置、有機EL( Electro Luminescence)表示装置などのディスプレイ装置へ検出結果をテキストデータ、画像データまたは図形データなどにより表示する。あるいは、出力形態として、紙面に検出結果を示すテキスト、画像、図形などを印刷する。あるいは、出力形態として、スピーカまたはヘッドホン(またはイヤホン)などに検出結果を音声データで出力する。なお、この音声データは、「油を検出しました。」などの合成音声によるメッセージである。あるいは、この音声データは、「ピー」という単純な発振音である。この単純な発振音の場合は、後述するトーンデコーダ回路18の出力信号をそのまま出力しても「ピー」という発振音としてユーザが耳で聴くことができる。または、LD制御&信号演算部10は、LED(Light Emitting Diode)などのランプを点灯もしくは点滅させることにより、油検出装置1が油を検出したことを報知してもよい。
【0023】
ASK変調回路11は、後段のLD駆動回路12に対してASK変調されたLD駆動信号を出力する。ASK変調回路11は、図2に示すように、発振器30および変調器31を有する。発振器30は、搬送波として、たとえば500kHzの正弦波信号を発振する。変調器31は、図2に示すように、発振器30が発振する搬送波を、たとえば1.953kHzの信号である送信データにより変調する。これにより、変調器31からLD駆動信号が出力される。
【0024】
なお、発振器30が発振する搬送波の周波数としては、たとえば50kHz〜800kHzを想定している。また、送信データの信号の周波数としては、たとえば20Hz〜20kHzを想定している。ここでは、搬送波の周波数を500kHz、送信データの信号の周波数を1.953kHzとして説明するが、各周波数をこれに限定するものではない。
【0025】
LD駆動回路12は、ASK変調回路11から出力されるLD駆動信号に基づき投光部13内のLD19を駆動させる。すなわち、LD駆動回路12は、投光部13内のLD19を1.953kHzの周期で500kHzの点滅を繰り返すように駆動させる。
【0026】
投光部13は、筐体内にLD19が配設される。また、投光部30の筐体には、ラインレンズ20が取り付けられている。ラインレンズ20は、図3に示すように、LD19から照射される点光源の光を集光して線状の照射領域24を得るための光学レンズである。なお、LD駆動回路12内には、図3に示すように、LD駆動信号によりスイッチングを行うスイッチング回路22が設けられている。また、電池23は、油検出装置1の電源でありLD19にも電源を供給している。
【0027】
蛍光検出部14は、ごく弱い蛍光(たとえば1フォトン)であっても検出可能であるように、高い感度を有する光電子増倍管もしくは複数のアバランシェダイオードで構成された光検出素子であるMPPC(Multi-Pixel Photon Counter)である。さらに、蛍光検出部14は、蛍光フィルタ21を有し、所望する波長(たとえば436nm(ナノメーター))の蛍光のみを選択的に受光可能としている。なお、蛍光検出部14は、図3で示した線状の照射領域24における蛍光を検出するものである。しかしながら蛍光検出部14の検出範囲までもが線状である必要はなく、たとえば円形状であってもよい。
【0028】
共振・高周波増幅回路15は、蛍光検出部14から出力される信号成分のうちで500kHzの高周波成分に限定して増幅する。すなわち、共振・高周波増幅回路15は、500kHzの搬送波の信号成分に共振して増幅を行う。これにより、共振・高周波増幅回路15は、所望する蛍光成分を雑音成分などの他の信号成分と分離して増幅することができる。
【0029】
検波回路16は、共振・高周波増幅回路15が増幅した搬送波の信号成分から送信データである1.953kHzの信号を復調する。なお、検波回路16は、送信データである1.953kHzの信号以外は検波(すなわち復調)しない。
【0030】
このように、蛍光フィルタ21によって、所望する波長(たとえば436nm)の蛍光のみを選択的に受光し、共振・高周波増幅回路15によって、所望する高周波成分(たとえば500kHz)を有する蛍光のみを選択的に増幅し、検波回路16によって、所望する周波数(たとえば1.953kHz)の信号を有する蛍光のみを選択的に抽出することができる。したがって、所望する蛍光以外の外乱光については3重に高い精度で除去することができる。
【0031】
低周波増幅回路17は、検波回路16が抽出した1.953kHzの信号である送信データの信号成分を増幅する。
【0032】
トーンデコーダ回路18は、低周波増幅回路17が増幅した1.953kHzの信号である送信データを音声データとして抽出する。なお、一般的に人間の可聴周波数は、20Hzから20kHzくらいといわれる。よって、1.953kHzの送信データは、これを音声データに変換した場合、そのまま人間の可聴周波数になる。
【0033】
したがって、前述したように、LD制御&信号演算部10において、トーンデコーダ回路18が抽出した音声データをそのまま出力しても「ピー」という発振音として人間が聴くことができる。よって、この発振音をもって検出結果出力としてもよい。
【0034】
なお、請求項における投光部は、単に投光部13のことではなく、LD制御&信号演算部10、ASK変調回路11、LD駆動回路12およびLD19が協働して成立する。また、請求項における受光部は、単に蛍光検出部14のことではなく、蛍光検出部14、共振・高周波増幅回路15、検波回路16および蛍光フィルタ21が協働して成立する。あるいは、請求項における受光部に、低周波増幅回路17まで含めてもよい。また、請求項でいう出力部は、トーンデコーダ回路18およびLD制御&信号演算部10が協働して成立する。あるいは、請求項でいう出力部に、低周波増幅回路17まで含めてもよい。
【0035】
(油検出装置1の油検出の動作について)
次に、油検出装置1の油検出の動作について図1〜図5を参照して説明する。油検出装置1は、図1および図5に示すように、排水ピット50を流れる水の水面40に浮遊する油41を検出するものである。油41は、多環芳香族炭化水素などの鉱物油を想定している。油41は、図4に示すように、波長405nm付近の励起光を吸収して波長436nm付近の蛍光光を発することが知られている。なお、図4では、説明を分り易くするために、励起光の光強度と比較した蛍光の光強度を実際よりも大きく描いてある。
【0036】
油検出装置1は、図1および図5に示すように、排水ピット50の上部に配設される。投光部13から励起光が、排水ピット50を流れる水の水面40上の線状の照射領域24に照射される。照射領域24の長さは、排水ピット50の横幅以上であることが好ましい。これにより、照射領域24は、排水ピット50を流れる水の水面40を横切るようにして漏れなく励起光を照射することができる。
【0037】
ここで、油41が水面に存在すると、油41は水面40を流れるため、必ず照射領域24を横切る。これにより、油41は投光部13から照射された励起光を吸収して蛍光(波長436nm付近の蛍光)を発する。油41が発した蛍光は、蛍光フィルタ21を透過したものだけが蛍光検出部14によって捉えられる。このときに、油41が発した蛍光は散乱光であるため、あらゆる角度に照射される。したがって、たとえば水面40が波打っていたとしても、油41から発生された蛍光の少なくとも一部は、蛍光検出部14(の蛍光フィルタ21)に入射するので、蛍光検出部14は、油41が発する蛍光を捉えることができる。
【0038】
蛍光検出部41に捉えられた蛍光は、500kHzの高周波成分を含んでいる場合に限り共振・高周波増幅回路15によって増幅される。共振・高周波増幅回路15によって増幅された500kHzの高周波成分を含む蛍光は、検波回路16によって検波される。このとき検波回路16は、1.953kHzの信号以外の信号については検波(抽出)しない。これにより、500kHzの高周波成分を含む蛍光であっても1.953kHzの信号以外の信号である場合には、検波回路16による検波は行われない。これにより水面40からの所望する蛍光以外の雑音成分を除去することができる。このように蛍光フィルタ21、共振・高周波増幅回路15および検波回路16の3つによって所望する蛍光以外の雑音成分を高い精度で除去することができる。
【0039】
検波回路16が抽出した1.953kHzの信号は、低周波増幅回路17によって増幅される。低周波増幅回路17によって増幅された1.953kHzの信号は、トーンデコーダ回路18に入力されて音声データとしてLD制御&信号演算部10に入力される。
【0040】
LD制御&信号演算部10は、蛍光検出の結果出力としてトーンデコーダ回路18から入力された音声データをそのまま出力してもよいし、あるいは、トーンデコーダ回路18から音声データが入力されたことを契機として、ディスプレイ装置(不図示)に油を検出した旨の表示を行ってもよい。もしくは、トーンデコーダ回路18から音声データが入力されたことを契機として、スピーカ(またはヘッドホンもしくはイヤホン)から油を検出した旨の音声メッセージ(「油を検出しました。」など)を送出してもよい。または、LD制御&信号演算部10は、トーンデコーダ回路18から音声データが入力されたことを契機として、LEDなどのランプを点灯もしくは点滅させることにより、油検出装置1が油を検出した旨を報知してもよい。
【0041】
(本発明の第二の実施の形態に係る投光部13Aについて)
次に、本発明の第二の実施の形態に係る投光部13Aについて図6を参照して説明する。投光部13Aは、図6に示すように、線状の光の照射領域24が照射領域24に直交する方向に往復運動するように投光部13Aを首振り状態とする首振り機構部60を有する。なお、首振り機構部60の詳細な構成の説明は省略するが、たとえば自動車のワイパーの往復運動機構あるいは扇風機などの首振り機構を応用することによって実現できる。
【0042】
これによれば、たとえば排水ピット50において、水面40の流速が著しく小さく、図5に示す投光部13による照射領域24の上流に油41があるが照射領域24に到達するまでには長い時間を要するような場合を想定する。このような場合、図6に示すように、投光部13Aを首振り状態にすることによって、投光部13と比較して投光部13Aは、水面40の広い面積に対して励起光を照射することができる。これにより、排水ピット50において、水面40の流速が著しく小さい場合でも油41を投光部13と比較して素早く検出することができる。なお、蛍光検出部14は、投光部13Aが首振り状態によって励起光を照射する面積の全てが蛍光検出部14の検出範囲に含まれるように配設する。
【0043】
(本発明の第三の実施の形態に係る油検出装置1Aについて)
次に、本発明の第三の実施の形態に係る油検出装置1Aについて図7を参照して説明する。油検出装置1Aは、油検出装置1とは一部が異なる。以下では、油検出装置1と同一または同種の部材には同一または同一系の符号(同じ番号に“A”または“B”等を添えた符号)を付してその説明を省略または簡略化し、主に異なる部材について説明する。
【0044】
油検出装置1Aは、LD制御&信号演算部10Aに波長テーブル70を有する。波長テーブル70には、複数の油種♯1,♯2,♯3に対応する励起光および蛍光の波長が記録されている。LD制御&信号演算部10Aは、波長テーブル70を参照し、ユーザが設定した油種♯1,♯2,♯3に対応する励起光および蛍光の波長を認識して投光部13Bおよび蛍光検出部14Aが扱う波長を設定する。請求項でいう波長変更手段は、波長テーブル70に対応する。なお、波長テーブル70を省略し、励起光および蛍光の波長の数値をユーザが直接的に操作入力によってLD制御&信号演算部10Aに設定してもよい。この場合、請求項でいう波長変更手段は、LD制御&信号演算部10A自体になる。
【0045】
投光部13Bは、複数の油種♯1,♯2,♯3の励起光に対応する複数のLD19a,19b,19c(図ではa,b,cと記す)を有する。そして、LD制御&信号演算部10Aは、投光部13Bに対し、どの波長に対応するLD19a,19b,19cを選択するかを指示する。投光部13Bは、LD制御&信号演算部10Aからの指示に基づき、指示されたLD19a,19b,19cを選択して励起光の光源とする。
【0046】
なお、1つのLD19により複数の波長の励起光が照射可能であるならば、単一のLD19のみを有してもよい。あるいは、投光部13Bは、単一波長の単一のLD19を有し、このLD19の光の波長を変換するための複数のフィルタを設け、LD制御&信号演算部10Aからの指示によってこの複数のフィルタのいずれかを選択して設定するようにしてもよい。
【0047】
このときに、投光部13Bにおいて複数のフィルタの中から1つのフィルタを選択して設定する方法はどのような方法でもよい。たとえばフィルタがモータなどによって機械的に移動することにより所定の波長のフィルタが所定の位置にセットされるようにしてもよい。
【0048】
また、蛍光検出部14は、複数の油種♯1,♯2,♯3の蛍光に対応する複数の蛍光フィルタ21d,21e,21f(図ではd,e,fと記す)を有する。そして、LD制御&信号演算部10Aは、蛍光検出部14に対し、どの波長に対する蛍光フィルタ21d,21e,21fを選択して設定するかを指示する。蛍光検出部14は、LD制御&信号演算部10Aからの指示に基づき、指示された蛍光フィルタ21d,21e,21fを選択して設定する。
【0049】
なお、複数の蛍光フィルタ21d,21e,21fの中から1つの蛍光フィルタ21d,21e,21fを選択して設定する方法はどのような方法でもよい。たとえば蛍光フィルタ21d,21e,21fがモータなどによって機械的に移動することにより所定の波長の蛍光フィルタ21d,21e,21fが所定の位置にセットされるようにしてもよい。あるいは、複数の蛍光フィルタ21d,21e,21fにそれぞれ受光部(不図示)を設けておき、これら複数の蛍光フィルタ21d,21e,21fおよび受光部(不図示)のセットを電気的に切替えることにより所定の波長の蛍光フィルタ21d,21e,21fが設定されるようにしてもよい。
【0050】
このようにして、油検出装置1Aでは、複数の油種の検出に対応することができる。図7の波長テーブル70の例では、最上段の油種♯1が第一の実施の形態で説明した多環芳香族炭化水素と呼ばれる鉱物油の波長の組合せになっている。
【0051】
(本発明の第四の実施の形態に係る油検出装置1Bについて)
次に、本発明の第四の実施の形態に係る油検出装置1Bについて図8および図9を参照して説明する。油検出装置1Bは、油検出装置1とは一部が異なる。以下では、油検出装置1と同一または同種の部材には同一または同一系の符号を付してその説明を省略または簡略化し、主に異なる部材について説明する。
【0052】
油検出装置1Bは、油検出装置1をハンディタイプとして構成した例である。回路部80内には、図1に示す各部(LD制御&信号演算部10、ASK変調回路11、LD駆動回路12、共振・高周波増幅回路15、検波回路16、低周波増幅回路17、トーンデコーダ回路18)が設けられている。そして、図9に示すように、投光部13および蛍光検出部14が回路部80と共にユーザが片手で把持できるコンパクトな筐体81内に収納されている。さらに、回路部80にはヘッドホン82が接続されており、油41の検出結果としての音声データ(発振音など)が出力される。すなわちヘッドホン82は、回路部80内のLD制御&信号演算部10に相当する回路に接続されている。
【0053】
図9に示すように、油検出装置1Bによれば、ユーザは、油検出装置1Bの筐体81を手に持ち、壁面90に対して投光部13から励起光を照射する。このとき、壁面90に油41が存在すると、油41は励起光を吸収して蛍光を発する。この蛍光は、蛍光検出部14によって受光され、回路部80により音声データとしてヘッドホン82に出力される。ユーザは、ヘッドホン82から出力される音声データを耳で聴くことにより、壁面90上に付着した油41を検出することができる。なお、検出対象は、壁面90の代わりに水面40であってもよい。
【0054】
また、ヘッドホンの代わりに、ディスプレイによる表示あるいはLEDなどの表示灯の点灯または点滅を用いて検出結果を出力してもよい。
【0055】
(本発明の実施の形態に係る効果について)
油検出装置1は、所定のパターンにより変調された所定の波長の励起光を線状に照射し、励起光とは異なる波長であり所定のパターンにより変調された蛍光を受光し、受光したことを表示することにより、ごく狭い水路において油を検出することができる。
【0056】
特に、励起光を線状に照射することにより、排水ピットなどの狭い水路を横切るように励起光を照射することができる。これにより、水路の幅の全域にわたり確実に油検出を行うことができ、油41を見逃すことがないようにできる。
【0057】
また、所定の波長であり所定のパターンにより変調された蛍光を受光するので、所望する蛍光以外の外乱光の影響を除去することができる。
【0058】
さらに、ラインレンズ20により照射された線状の照射領域に直交する方向に往復運動するように投光部13Aを首振り状態とすることにより、たとえば著しく流速の小さい水路などにおいても素早く油41を検出することができる。
【0059】
また、油検出装置1Aでは、投光部13Bが照射する励起光の波長および蛍光検出部14が受光する蛍光の波長をそれぞれ変更可能とすることにより、複数の油種に対応することができ、ユーザの幅広いニーズに対応することができる。
【0060】
また、油検出装置1Bは、ハンディタイプとしてユーザが持ち運びできる。これにより、様々なものを検出対象とすることができ、ユーザの幅広いニーズに対応することができる。
【0061】
(プログラムを用いた実施の形態について)
また、油検出装置1,1A,1Bの各部(LD制御&信号演算部10,10A、ASK変調回路11、LD駆動回路12、共振・高周波増幅回路15、検波回路16、低周波増幅回路17、トーンデコーダ回路18)は、所定のプログラムにより動作する汎用の情報処理装置によって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、油検出装置1,1A,1Bの各部の機能が実現される。また、その他の機能についてもソフトウェアにより実現可能な機能については汎用の情報処理装置とプログラムとによって実現することができる。なお、上述したCPUの代わりにASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどを用いてもよい。
【0062】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、油検出装置1,1A,1Bの出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、油検出装置1,1A,1Bの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、油検出装置1,1A,1Bの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。油検出装置1,1A,1Bの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0063】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0064】
このように、汎用の情報処理装置とプログラムによって油検出装置1,1A,1Bの機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【0065】
(その他の実施の形態)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば上述の実施の形態では、ラインレンズ20を用いてLD19から照射される光を線状に整形したが、ラインレンズ20を用いる以外にも様々な方法によって線状の照射領域を形成可能である。たとえば複数のLDを一例に配列し、一例に配列されたLDの照射方向の前面に細長い隙間を有するスリットを設けることによっても線状の照射領域を形成できる。
【0066】
また、たとえば上述の実施の形態では、搬送波を500kHzとして説明したが、搬送波は、50kHz〜800kHzの周波数範囲の中で設定することができる。また、送信データの信号を1.953kHzとして説明したが、送信データの信号は、20Hz〜20kHzの周波数範囲の中で設定することができる。また、これ以外の周波数でも、外乱光の影響を除去できるならばどのような周波数であってもよい。
【0067】
また、上述の実施の形態では、ASK変調の例を説明したが、変調方式は、ASK変調以外でもよい。たとえばADK変調の代わりにFSK(Frequency Shift Keying)変調あるいはPSK(Phase Shift Keying)変調などでもよい。
【0068】
また、上述の実施の形態では、トーンデコーダ回路18は人間の可聴周波数領域の音声データを出力するとして説明したが、人間の可聴周波数領域以外であってもLD制御&信号演算部10,10Aがトーンデコーダ回路18からの出力の有無を判別できるのであればどのような周波数であってもよい。
【0069】
また、1つの油検出装置1,1Aが複数の投光部13,13Aおよび蛍光検出部14の組合せを有するようにしてもよい。これによれば、排水ピット50の水路上の複数箇所に投光部13,13Aおよび蛍光検出部14のセットを配設し、複数箇所で油検出を行うことができる。その他にも1つのLD制御&信号演算部10,10Aを複数の油検出装置1,1Aが共有するなど、油検出装置1,1Aの構成要素の一部を複数の油検出装置1,1Aで共有するようにしてもよい。
【0070】
また、首振り機構部60を有する投光部13Aの他に、投光部13Aの線状の照射領域24と直交する方向に照射領域24を有するもう1つの首振り機構部60を有する投光部13Aを配設し、直交する2つの照射領域24上で蛍光を検出した際の2つの照射領域24の交点位置を求めることによって、油41が検出された水面40上の位置を求めるようにしてもよい。この構成は、水面40の流速が著しく小さいか零である場合に油41の水面40上の位置を特定する上で有用である。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B…油検出装置、10,10A…LD制御&信号演算部(投光部の一部、出力部の一部)、13,13A…投光部、14,14A…蛍光検出部(受光部の一部)、15…共振・高周波増幅回路(受光部の一部)、18…トーンデコーダ回路(出力部の一部)、20…ラインレンズ(照射領域整形手段)、21,21A…蛍光フィルタ(受光部の一部)、60…首振り機構部、70…波長テーブル(波長変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮遊する油を検出する油検出装置において、
所定のパターンにより変調された所定の波長の光を照射する投光部と、
上記投光部から照射される光を線状に整形する照射領域整形手段と、
上記投光部から照射される光の波長とは異なる波長であり上記所定のパターンにより変調された光を受光する受光部と、
上記受光部が受光した旨を油検出結果として出力する出力部と、
を有する、
ことを特徴とする油検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の油検出装置であって、
前記照射領域整形手段により照射された線状の光の照射領域が当該線状の光の照射領域に直交する方向に往復運動するように前記投光部を首振り状態とする首振り機構部を有する、
ことを特徴とする油検出装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の油検出装置であって、
前記投光部が照射する光の波長および前記受光部が受光する光の波長をそれぞれ変更可能とする波長変更手段を有する、
ことを特徴とする油検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の油検出装置であって、
前記所定のパターンは、20Hzから20kHzの信号であり、前記出力部は、前記所定のパターンの上記信号により変調された光を復調して得られる20Hzから20kHzの可聴音を出力することにより油検出結果を出力する、
ことを特徴とする油検出装置。
【請求項5】
水面に浮遊する油を検出する油検出装置が行う油検出方法であって、
投光部が、所定のパターンにより変調された所定の波長の光を照射するステップを実行し、
照射領域整形手段が、上記投光部から照射される光を線状に整形するステップを実行し、
受光部が、上記投光部から照射される光の波長とは異なる波長であり上記所定のパターンにより変調された光を受光するステップを実行し、
出力部が、上記受光部が受光した旨を油検出結果として出力するステップを実行する、
ことを特徴とする油検出方法。
【請求項6】
請求項5記載の油検出方法であって、
首振り機構部が、前記照射領域整形手段により照射された線状の光の照射領域が当該線状の光の照射領域に直交する方向に往復運動するように前記投光部を首振り状態とする首振りステップを実行する、
ことを特徴とする油検出方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の油検出方法であって、
波長変更手段が、前記投光部が照射する光の波長および前記受光部が受光する光の波長をそれぞれ変更可能とする波長変更ステップを実行する、
ことを特徴とする油検出方法。
【請求項8】
請求項5から6のいずれか1項記載の油検出方法であって、
前記所定のパターンは、20Hzから20kHzの信号であり、前記出力部が、前記所定のパターンの上記信号により変調された光を復調して得られる20Hzから20kHzの可聴音を出力することにより油検出結果を出力するステップを実行する、
ことを特徴とする油検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117857(P2011−117857A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276108(P2009−276108)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(391026106)株式会社電制 (12)
【Fターム(参考)】