説明

油水吸着剤及びこれを用いた水質浄化剤並びに油分の処理方法

【目的】 本発明は、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油やビルジ、更に船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場における機械周辺の水分を含む油、各種工場の床面における水分を含む油等、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)及び、特に水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を効率良く処理するための新規な油水吸着剤及びこれを用いた水質浄化剤並びに油分の処理方法を提供することを目的とする。
【構成】 水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を吸着処理するための油水吸着剤であって、この油水吸着剤は、ココヤシの中果皮を原料として用い、この原料に加熱、炭化処理を施して形成してなる吸着炭と吸水性高分子物質とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油やビルジ(船底に溜まった油を含む海水)、更にヨットや船舶(漁船を含む。)などの船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場における機械周辺の水分を含む油、各種工場の床面における水分を含む油、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を効率良く処理するための油水吸着剤及びこれを用いた水質浄化剤並びに油分の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油やビルジ(船底に溜まった油を含む海水)は定期的にポンプで汲み出し、船外に排出されるが、この水分を含む油やビルジが環境汚染の原因となる。又、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の船着き場にはこれらの船から水分(海水など)を含む油が漏れ出し、当該船着き場の環境汚染の原因となる。
【0003】
又、各種工場などにおいて機械周辺や床面に飛散した水分を含む油、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)などは、油と水分が混在しているため、相当注意深く取り扱ってもその処理に極めて手間がかかるものである。
【0004】
更に、ガソリン、軽油、灯油、ジェット燃料などの燃料を取り扱うガソリンスタンドや飛行場更に軍用基地などにおいて、誤ってこぼしてしまった油などは、相当注意深く取り扱っても雨水の溜池や下水、廃水に混入してしまい、その大部分が水面上に拡散・浮遊した状態で薄い油膜を形成したり、油分が水中に分散した状態(エマルジョンの状態)で流出し、その後、河川、湖沼、海などの自然水域に流れ込んだり、自然環境を悪化させるといった問題が生じる。
【0005】
加えて、各種工場などにおいて機械周辺や床面に飛散した水分を含む油などは、相当注意深く取り扱っても雨水の溜池や下水、廃水に混入してしまい、その大部分が水面上に拡散・浮遊した状態で薄い油膜を形成したり、水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)の状態で流出し、その後、河川、湖沼、海などの自然水域に流れ込んだり、自然環境を悪化させるといった問題が生じる。
【0006】
従来、水面上の油膜を除去するための手段が研究・開発されている(例えば、特許文献1〜5。)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−182929号公報
【特許文献2】実開平6−85035号公報
【特許文献3】特開平6−170359号公報
【特許文献4】特開2002−346380号公報
【特許文献5】特開2004−131855号公報
【0008】
これら特許文献1〜5に記載された油膜の除去手段は、水面上の油分を吸着するマットやシートを用いるものであるが、このマットやシートによる油の吸着には時間がかかり、又、水面上の広範囲に広がった油膜を除去するためには、相当な数のマットやシートを敷設する必要があり、多大なコストと労力更に手間を要するといった問題がある。
【0009】
ところで、水中の不純物を吸着除去することができる材料としては、活性炭が最も簡単且つ効率が良いということで一般的に多用されている。
【0010】
活性炭は、木材、おがくず、木材乾留物、木炭、椰子殻及びリグニン等を原料(活性炭原料)として、これに加熱、炭化処理を施すことによって、気体や色素等に対する吸着能力を高めたものであり、生活臭等の臭いの成分やホルマリン、エチルベンゼン又はキシレン等のシックハウスの原因となるVOCガス等の吸着成分に対する吸着能力が比較的高く、且つ安価であることから、現在、水の浄化、冷蔵庫や下駄箱の消臭剤或いは空気清浄機のフィルターその他の消臭・吸着製品の分野において、最も広く使用されている。
【0011】
そして、加熱、炭化処理直後の活性炭は比較的比重が小さいことから水に浮くことができるのであり、そのため、このような活性炭を油膜が生じた水面上に相当量散布すれば、油分を吸着して水質を浄化することが可能になる。
【0012】
しかしながら、活性炭による吸着特性は、油分に対する吸着より、水分に対する吸着の方が優先するので、活性炭を水面上に散布すると、短期間で水分を吸収し、その結果、比重が増大して当該活性炭が水面下に沈むため、油分の吸着効率が非常に悪く、又、油を吸着したまま水面下に沈んだ活性炭を回収する作業も必要となり、大変な煩わしさが生じる。
【0013】
そこで、前記課題を解決すべく、本発明者は、以前、ココヤシの中果皮を原料として用い、これに加熱、炭化処理を施してなる吸着炭を開発している(下記、特許文献6参照。)。
【0014】
【特許文献6】特開2007−15907号公報
【0015】
即ち、この吸着炭はその原料としてココヤシの中果皮を用いた点に特徴を有するのである。つまり、ココヤシの中果皮(原料)には、その表面ないし内部において、独立孔同士や独立孔と連続孔が一体形となった複雑な網目構造を形成して無数に存する細孔同士が隣接したハニカム構造が形成されている点に着目したものであり、このココヤシの中果皮に加熱、炭化処理を施せば、無数に存する細孔同士が隣接したハニカム構造の吸着炭となるので、木材、おがくず、木材乾留物、木炭、椰子殻或いはリグニン等を原料とする従来の活性炭よりも比重が小さい炭化物質(吸着炭)となり、このようなココヤシの中果皮を原料とする吸着炭を水面上に散布すれば、多少の水分を吸収しても水面上に浮遊し続け、長期間にわたって水面上の油膜と接触させることが可能になるのである。
【0016】
又、ココヤシの中果皮を原料として得られた吸着炭は、独立孔同士や独立孔と連続孔が一体形となった複雑なハニカム構造をしているため、各細孔のサイズが非常に広範な構造となっているので、あらゆる種類の油分に対する吸着性に優れるのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところが、河川、湖沼、海などの自然水域や、工場廃水等の廃水、下水、雨水の溜池などに混入した油分の大部分は、水面上に浮遊した状態で存在しているのであるが、その一部の油分は水分中に乳化した状態(エマルジョンの状態)で存在しているので、水面上に前記吸着炭を散布しても、この水中に分散して存在する油分を吸着することが困難であった。
【0018】
又、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油更に船着き場周辺の油は、海水などの水分中に乳化した状態(エマルジョンの状態)で存在しているので、前述の場合と同様に、水面上に前記吸着炭を散布しても、この水中に分散して存在する油分を吸着することは困難であった。
【0019】
特に、一般に「ビルジ」と称される船底に溜まる油分等は、海水などの水分中に乳化した状態で存在していることが多く、これを前記吸着炭だけで効率よく吸着・除去することは困難であった。
【0020】
その一方で、このビルジは、海洋汚染の問題から排出基準が厳しくなり、その排出基準が油分濃度15ppm以下と厳しく管理されており、そのため、効率の良いビルジの除去手段の開発が強く望まれている。
【0021】
そこで、本発明者が、前記技術的課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ココヤシの中果皮を原料として用い、この原料に加熱、炭化処理を施して形成してなる吸着炭と吸水性高分子物質とからなることを特徴とする本発明の油水吸着剤を開発するに至ったのである。
【0022】
即ち、油分に対する優れた吸着力を有する吸着炭に加えて、水分を速やかに吸収して膨潤する吸水性高分子物質を併用すれば、この吸水性高分子物質が油分周りに存在する水分を吸収するため、水中に分散して存在する油分と吸着炭との接触機会を高めることができるのであり、もって、油分をより一層効率よく処理することが可能になるとの知見を得たのである。
【0023】
本発明は、前記知見に基づいて完成されたものであり、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油やビルジ、更に船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場における機械周辺の水分を含む油、各種工場の床面における水分を含む油等、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)及び、特に水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を効率良く処理するための新規な油水吸着剤及びこれを用いた水質浄化剤並びに油分の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するため、本発明に係る油水吸着剤は、船の機械室周辺や船着き場などに漏れた水分(海水など)を含む油、ビルジ(船底に溜まった油を含む海水)、各種工場における機械周辺や各種工場の床面に漏れた水分を含む油、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を吸着処理するための油水吸着剤であって、この油水吸着剤が、ココヤシの中果皮を原料として用い、この原料に加熱、炭化処理を施して形成してなる吸着炭と吸水性高分子物質とからなることを特徴とするものである。
以下、まず、本発明の油水吸着剤について更に詳細に説明し、追って、本発明の水質浄化剤及び油分の処理方法について詳細に説明する。
【0025】
本発明の油水吸着剤は、ココヤシの中果皮を原料として用い、この原料に加熱、炭化処理を施してなる「吸着炭」と、後述する「吸水性高分子物質」とからなる。
【0026】
ここで、ココヤシは、その最も中央に配される「胚乳」、その外側を包む硬い殻からなる「内果皮(ヤシガラ)」、及び内果皮を包むように取り巻く「中果皮」の三層構造となっており、前記胚乳は主として食用に供され、又、前記内果皮(ヤシガラ)はヤシガラ活性炭の原料などに供されている。
【0027】
その一方で、中果皮については、繊維成分以外、殆ど利用されることなく廃棄されているのが現状である。
【0028】
しかしながら、本発明者が、このココヤシの中果皮の利用について鋭意検討したところ、ココヤシの中果皮は、独立孔同士や独立孔と連続孔が一体形となった複雑なハニカム構造をしており、このココヤシの中果皮に加熱、炭化処理を施せば、複雑なハニカム構造の吸着炭が得られるのであり、この吸着炭は、木材、おがくず、木材乾留物、木炭、椰子殻或いはリグニン等を原料とする従来の活性炭よりも、比重が小さい炭化物質(吸着炭)となることが判明したのである。
【0029】
そして、このようなココヤシの中果皮を原料とする吸着炭を水面上に散布すれば、多少の水分を吸収しても水面上に浮遊し続け、長期間にわたって水面上の油分(油膜)と接触し続けることが可能になるのである。その結果、この吸着炭は、前述の油分(油膜)を効率良く、吸着、除去し得るのである。
【0030】
又、上述のように、ココヤシの中果皮を原料として得られた吸着炭は、独立孔同士や独立孔と連続孔が一体形となった複雑なハニカム構造をしているため、各細孔のサイズが非常に広範な構造となっており、このため、あらゆる種類の油分に対する吸着性に優れるのである。
【0031】
しかも、前述のように、ココヤシの中果皮は、繊維成分以外利用価値が殆どなく、殆んど利用されることなく廃棄されているのが現状であり、至極低コストでの原料の調達が可能であり、又、廃棄物利用の観点からも大きな利点があるのである。
【0032】
なお、ココヤシの中果皮は、繊維成分を含むものであり、本発明において用いられる吸着炭においては、この繊維成分を含んだ状態のままの中果皮に対して加熱、炭化処理を施しても良いのであるが、吸着炭において繊維成分が多く含まれると、吸着炭全体としての比重が大きくなることから、本発明においては、特に、ココヤシの中果皮から、更に繊維成分を除いたものを原料として用いることが好ましい。
【0033】
ここで、本発明において、「加熱、炭化処理を施す」とは、原料(ココヤシの中果皮)に対して熱を加えて炭化する処理のことをいい、この加熱、炭化処理における処理温度としては、前記原料を炭化できる温度であれば特に限定されるものではないが、本発明の場合、350〜850℃の範囲とすることが好ましく、この加熱、炭化処理温度が、350℃未満では炭化が不十分となって油(油膜)の吸着性が悪いのであり、一方、850℃を超えると、前述のハニカム構造が破壊される恐れが生じる上、省エネルギーの観点からも好ましくないのである。
【0034】
又、本発明において用いられる吸着炭に付き、更に、吸着能力を高めることを目的として、原料(ココヤシの中果皮)を加熱、炭化処理と共に、賦活処理を施したり、或いは原料(ココヤシの中果皮)を加熱、炭化処理後、賦活処理を施すことが好ましい。
【0035】
この賦活処理は、通常の活性炭の製造の際に施される吸着能力を高めるための処理と同様のものであり、大きく分けて「ガス賦活法」と「薬品賦活法」の二種類がある。
【0036】
前者のガス賦活法は、工業的によく用いられる一般的な方法であり、本発明の場合、前述の吸着炭を、更に水蒸気、二酸化炭素等の雰囲気中において、特に、温度650〜850度程度で処理する方法である。
【0037】
一方、後者の薬品賦活法は、本発明の場合、前述の吸着炭に塩化亜鉛水溶液等の処理液を染み込ませ、特に、350〜700℃程度の温度条件下で炭化と賦活を一挙に行う方法である。
【0038】
即ち、本発明において、いずれの賦活処理を用いるかについては、特に限定されるものではないが、賦活処理温度を通常より若干低めに設定することにより、油分に対する吸着力が増すことが判明しており、従って、本発明においては、350〜750℃程度、更に好ましくは、400〜750℃程度の通常より比較的低温にて賦活処理することが好ましい。
【0039】
このように、吸着炭を比較的低温で処理を行うと吸着能力が上昇する理由は、吸着炭を比較的低温で処理を行うと、前述した原料(ココヤシの中果皮)のハニカム構造がそのまま残存するのに対し、高温処理を行うと、前述のハニカム構造が破壊される恐れが生じるためと解される。
【0040】
そして、本発明の油水吸着剤においては、前記吸着炭と併用して、吸水性高分子物質を用いた点に最も大きな特徴を有する。
【0041】
即ち、本発明の油水吸着剤においては、油分に対する優れた吸着力を有する前記吸着炭に加えて、水分を速やかに吸収して膨潤する吸水性高分子物質を併用しているから、吸水性高分子物質が油分周りに存在する水分を吸収することができるのであり、これにより、水中に分散して存在する油分と吸着炭との接触機会を高めることができるのであり、もって、油分をより一層効率よく処理することが可能になるのである。
【0042】
ここで、前記「吸水性高分子物質」としては、主として水分を円滑、且つ大量に吸水してゲル化する高分子材料であれば特に制限されるものではなく、既知の親水性高分子材料を好適に使用することができるが、具体的には、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、無水マレイン酸共重合物等の合成高分子系親水性ポリマー、デキストリン、プルラン、ゼラチン等の天然系親水性ポリマー、アルギン酸及びその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の半合成系親水性ポリマー等が挙げられるのであり、本発明においては、これらの吸水性高分子物質から選ばれた1種ないしは2種以上の吸水性ポリマーを適宜選択して用いることができるのであり、又、必要に応じては、これらを界面活性剤で処理したり、これらと界面活性剤とを組み合わせて親水性を向上させたりしても良いのである。
【0043】
なお、本発明において、前記吸着炭と前記吸水性高分子物質との配合割合としては、特に限定されるものではないが、通常は、吸着炭100重量部に対して、吸水性高分子物質1〜100重量部程度の範囲とすることが好ましく、吸水性高分子物質の配合割合が、1重量%未満になると、水・海水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)の充分な吸着処理ができない場合があり、一方、100重量部を超えると、過量の水分を吸収してその回収、処理が困難になるので、いずれの場合も好ましくないのである。従って、これらの観点から、前記吸着炭と前記吸水性高分子物質との配合割合としては、吸着炭100重量部に対して、吸水性高分子物質2.5〜50重量部程度の範囲とするのが一層好ましく、特に、吸水性高分子物質3.5〜30重量部程度の範囲とすることが最も望ましい。
【0044】
ところで、本発明の油水吸着剤は、そのままの状態、即ち、粉末状態で使用してもよいが、その後の回収・再生作業を容易にするために、粒状、板状や円盤状などのペレット状、タブレット状又は錠剤形等の任意の形状に成形することが好ましく、又、これらを通水性の袋材に封入したり、不織布や職布などの布や綿更にフェルトなどの繊維製品、多孔質発泡体又は多孔質発泡シートを支持体として、これに分散、担持させたり、繊維網に包含させて使用しても良いのである。
【0045】
本発明の水質浄化剤においては、前記本発明の油水吸着剤を主成分として用いることを特徴とするものであり、このように構成すると、吸着炭と吸水性高分子物質との相乗効果によって、特に、ヨットや船舶(漁船を含む。)などの船の機械室周辺に漏れた水分を含む油やビルジ(船底に溜まった油を含む海水)、更にヨットや船舶(漁船を含む。)などの船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場における機械周辺の水分を含む油、各種工場の床面における水分を含む油、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を効率良く処理することができるのであり、その結果、船内や各種工場内の環境衛生の向上、船着き場の自然環境の改善、向上等を図ることができるのである。
【0046】
又、河川、湖沼、海などの自然水域や、工場廃水等の廃水、下水、雨水の溜池などに散布すると、長期間にわたって、水面上に浮遊する結果、水面上に浮遊している油分(油膜)と水質浄化剤とが長期間にわたって接触し続けるので、当該油分(油膜)を効率よく除去することができるのであり、又、吸水性高分子物質が乳化物(エマルジョン)を吸収するため、水中に分散して存在する油分と吸着炭との接触機会も高めることができる結果、油分をより一層効率よく処理することが可能になるのである。
【0047】
ここにおいて、「主成分とする」とは、本発明の油水吸着剤を水質浄化剤として使用する際に、水質浄化剤が油水吸着剤のみで形成されている場合の他、油水吸着剤の有する油分吸着作用等が損なわれない程度の割合で他の分散剤ないし吸着剤などを配合しても良いのであり、この他の分散剤ないし吸着剤としては、一般に使用されている綿やコットン繊維或いはその粉末、又はココナッツ繊維やココナッツ繊維の粉末等の植物繊維ないしその粉末、羊毛等の動物繊維ないしその粉末、酢酸人造繊維等の半合成繊維やその粉末、レーヨン等の再生繊維やその粉末、活性炭やゼオライト等が挙げられる。これらのうち、各種繊維ないしその粉末などの分散剤、特に、各種繊維成分は吸水性を有するだけでなく、吸水性高分子物質が水分を吸着、膨潤するのを抑制して液ダレを防ぐので望ましい。
【0048】
又、この場合、一般的には、水質浄化剤全体に対する本発明に係る油水吸着剤の配合割合が60重量%程度以上とするのが好ましく、特に、油水吸着剤のみで水質浄化剤を製造するのが最も望ましい。
【0049】
本発明に係る油分の処理方法は、前記本発明の水質浄化剤を用い、この水質浄化剤を、油で汚染された部位、具体的には、例えば船内に漏れた水分を含む油やビルジ、更に船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場内に飛散した水分を含む油等の部位に、散布、敷設或いはオイルフェンスとしてなどの方法を用いて、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)及び、特に水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を効率良く処理することができるのである。
【0050】
又、河川、湖沼、海などの自然水域や、工場廃水等の廃水、下水、雨水の溜池などにおいて、同様の処理方法により、その水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)のみならず、水中に存在する油分(エマルジョン)も効率よく除去することができるのである。
【0051】
これより、従来法ではなしえなかった、例えば海水などの水分中に乳化した状態で存在しているビルジなどの油分も効率よく吸着・除去することが可能となるのである。
【発明の効果】
【0052】
本発明は、前記構成を有し、船内に漏れた水分を含む油やビルジ、更に船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、各種工場内に飛散した水分を含む油などだけでなく、河川、湖沼、海などの自然水域や、工場廃水等の廃水、下水、雨水の溜池などに含まれ、その水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、更に、水中に分散した状態で存在する油分も効率良く除去することができる油水吸着剤である。
【0053】
即ち、本発明の油水吸着剤においては、油分に対する優れた吸着力を有する本発明の吸着炭に加えて、水分を速やかに吸収して膨潤する吸水性高分子物質を併用しているから、この吸水性高分子物質が油分周りに存在する水分を吸収することができるのであり、これにより、水中に分散して存在する油分(エマルジョン)と吸着炭との接触機会を高めることができる結果、油分をより一層効率よく処理することが可能になるのである。
【0054】
又、本発明の水質浄化剤においては、前記本発明の油水吸着剤を主成分とすることを特徴とするものであり、船内に漏れた水分を含む油やビルジ、船着き場に漏れた水分(海水など)を含む油、更に各種工場内に飛散した水分を含む油などだけでなく、河川、湖沼、海などの自然水域や工場廃水等の廃水、下水、雨水の溜池などに、散布、敷設或いはオイルフェンスなどとして用いると、長期間にわたって、水面部に浮遊する結果、水面上に浮遊している油分(油膜)と水質浄化剤とが長期間にわたって接触し続けるので、当該油分(油膜)を効率よく除去することができるのであり、又、吸水性高分子が油分周りに存在する水分を吸収するため、水中に分散して存在する油分と吸着炭との接触機会も高めることができ、もって、油分(エマルジョンを含む。)をより一層効率よく処理することが可能になるのである。
【0055】
更に、本発明の油分の処理方法においては、本発明の水質浄化剤を用いて、水面上に浮遊する油膜、及び水中に分散して存在する油分を除去することを特徴とするものであり、本発明の油分の処理方法を、水面上に浮遊する油分の存在(油膜)箇所、及び水中における乳化状態で存在する油分箇所に適用すると、長期間にわたって、水面上に浮遊している油分(油膜)、及び水中における乳化状態で存在する油分をより一層効率よく処理することができるのである。
【0056】
これより、従来法ではなしえなかった、海水或いは淡水などの水分中に乳化した状態で存在している油分も効率よく吸着・除去することが可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明を実施例するための最良の実施形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0058】
<吸着炭>
ココヤシの中果皮を水流で洗い、繊維成分をある程度除去したものを乾燥し、これを温度約550℃で加熱し、赤熱した状態で水蒸気、炭酸ガス(燃焼ガス中のCO2)及び酸素(燃焼空気中のO2)の混合雰囲気中、温度約600℃で加熱、炭化処理を施すことにより吸着炭粉末を得た。
【0059】
<吸水性高分子物質>
吸水性高分子物質として、乾燥状態のポリビニルアルコール粉末を用いた。
【実施例1】
【0060】
吸着炭50重量部、吸水性高分子物質2.5重量部、綿15重量部、ココナッツ繊維22.5重量部及びココナッツ繊維の粉末10重量部を混合することにより、粉末状の本発明の油水吸着剤を得た。
【0061】
この油水吸着剤13重量部を綿繊維製の網袋内に包み、更に、これをヒートシール性不織布からなる袋材(16cm×20cmの長方形)内に封入して、本発明の水質浄化剤を得た。
【比較例1】
【0062】
前記吸着炭52.5重量部と、分散剤としての綿15重量部、ココナッツ繊維22.5重量部及びココナッツ繊維の粉末10重量部との混合物(油水吸着剤)13重量部を綿繊維製の網袋内に包み、更に、これをヒートシール性不織布からなる袋材(16cm×20cmの長方形)内に封入して、水質浄化剤を得た。
即ち、この比較例においては、吸水性高分子物質は使用しなかった。
【0063】
<比較試験>
エンジンオイル1重量部に海水200重量部を混ぜ、更に中性洗剤1重量部を加えた後に充分に攪拌することにより人工的に作成した乳化溶液(エマルジョン)100mlをそれぞれ2つの容器に入れた。
次いで、前記実施例1及び前記比較例1で得られた水質浄化剤をそれぞれ投入し、一昼夜静置した。
【0064】
一昼夜経過後、各容器を確認したところ、実施例1の水質浄化剤を投入したものは、容器内の油分を殆ど全て吸収していたが、比較例に係る水質浄化剤を投入したものは、容器内にかなりの油分が残存していた。
【0065】
又、実施例1の水質浄化剤に油水分を吸着させ、次いで、これを容器から取り出したところ液ダレが然程生じないことが確認されたのであり、更に、これを自然乾燥させて固化した後、着火したところ完全に燃焼することが認められた。この燃焼の際、有害ガスの発生は認められなかった。
【0066】
一方、比較例1の水質浄化剤に油水分を吸着させ、次いで、これを容器から取り出したところ水質浄化剤(袋材)から多量の液ダレが生じていることが確認され、再汚染の恐れが発生することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船の機械室周辺や船着き場などに漏れた水分(海水など)を含む油、ビルジ(船底に溜まった油を含む海水)、各種工場における機械周辺や各種工場の床面に漏れた水分を含む油、水面上に浮遊した状態で存在する油分(油膜)、及び水中に分散した状態で存在する油分(エマルジョン)を吸着処理するための油水吸着剤であって、この油水吸着剤が、ココヤシの中果皮を原料として用い、この原料に加熱、炭化処理を施して形成してなる吸着炭と吸水性高分子物質とからなることを特徴とする油水吸着剤。
【請求項2】
原料であるココヤシの中果皮から、更に繊維成分を除いたものを原料として用いている請求項1に記載の油水吸着剤。
【請求項3】
原料の加熱、炭化処理における処理温度が350〜850℃の範囲である請求項1又は2に記載の油水吸着剤。
【請求項4】
加熱、炭化処理と共に、賦活処理を施してなる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油水吸着剤。
【請求項5】
加熱、炭化処理後、賦活処理を施してなる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油水吸着剤。
【請求項6】
賦活処理における処理温度が350〜850℃の範囲である請求項4又は5に記載の油水吸着剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油水吸着剤が、粒状、ペレット状、タブレット状又は錠剤形などの任意の形状に成形されている油水吸着剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の油水吸着剤には、更に、綿やコットン繊維或いはその粉末、又はココナッツ繊維やココナッツ繊維の粉末等の植物繊維ないしその粉末、羊毛等の動物繊維ないしその粉末、酢酸人造繊維等の半合成繊維やその粉末、レーヨン等の再生繊維やその粉末などの分散剤が配合されている油水吸着剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油水吸着剤が、布、フェルト、多孔質発泡体又は多孔質発泡シートに担持されている油水吸着剤。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油水吸着剤が、多孔質袋体内に収納されている油水吸着剤。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の油水吸着剤を主成分として用いることを特徴とする水質浄化剤。
【請求項12】
請求項11に記載の水質浄化剤を用いて、水面上及び水中に存在する油分を処理することを特徴とする油分の処理方法。

【公開番号】特開2008−289952(P2008−289952A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135050(P2007−135050)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(505107631)株式会社上田ホールディングス (14)
【Fターム(参考)】