説明

油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置

【課題】油脂含有排水を高効率で浄化すると共に排水中の有機成分からエネルギーを効率的に回収し、かつメタン発酵処理の安定化、処理効率の向上、メタン発酵槽の小型化、油脂含有排水からの油脂の分離効率の向上、発生汚泥量の減量化等を図る。
【解決手段】油脂含有排水を凝集反応槽2で凝集処理した後油水分離槽(加圧浮上槽)3で加圧浮上処理し、加圧浮上処理水を酸生成槽4、高負荷嫌気性処理槽5及び好気性処理槽6で生物処理した後沈殿池7で固液分離する。加圧浮上汚泥はメタン発酵槽8でメタン発酵処理した後汚泥脱水機9で脱水処理する。生物処理工程の余剰嫌気性汚泥及び/又は余剰好気性汚泥はメタン発酵槽8に導入する。或いは、生物処理工程の余剰嫌気性汚泥、余剰好気性汚泥及びメタン発酵槽8の余剰消化汚泥を凝集反応槽2に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品工場排水等の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置に関するものであり、特に、油脂含有排水から油分を効率的に分離し、分離後の油脂含有汚泥をメタン発酵で分解することにより、油脂含有排水を高効率で浄化すると共に、余剰汚泥の減量化と排水中の有機成分からのエネルギー回収を促進する生物処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場排水のように、油脂を多く含む排水を生物処理する場合、油脂が汚泥微生物に付着し、処理能力低下につながるため、排水中の油脂を加圧浮上装置等で前処理して予め除去し、油脂を分離した後の分離液を活性汚泥法等の微生物処理で処理し、油脂含有汚泥については別途処理する方式が採られている。油脂含有排水から加圧浮上装置等で油脂を分離する際には、多量の凝集剤を必要とする。また、分離された油脂含有汚泥はクリーム状で取り扱い性が悪く、このため、この油脂含有汚泥は、吸着剤で処理して油脂を吸着剤に吸着させた後、脱水し廃棄されている。この際、油脂含有汚泥は未分解の有機物を含むため、臭気の発生も問題となっている。また、発生した脱水汚泥に関しても、従来は埋立や焼却などで処分されているが、焼却時の有害物質の発生、或いは埋立地の不足などから、廃棄コストの増加も問題となっている。
【0003】
一方、油脂含有排水中の油脂を除去せずにそのまま排水処理系で処理する方法として、調整槽又は曝気槽に微生物製剤を添加し、油脂分解を曝気槽にて行う方法がある。例えば、特開平6−246295号公報には、油脂含有排水にリパーゼを添加して油脂を分解した後嫌気性処理する方法が提案されている。ここで、リパーゼの働きとしては、油脂をリパーゼによりグリセリンと高級脂肪酸に加水分解する作用、生成した高級脂肪酸を高効率なβ酸化により、低級脂肪酸化する作用が知られている。
【0004】
効率的な油脂分解が可能な微生物を利用する方法としては、他に酵母処理法が知られている。酵母処理法は微生物製剤による処理と異なり、立ち上げ時に酵母を投入するだけで、製剤の定量注入装置や油脂分解細菌培養槽を必要としない。また、酵母処理法では高濃度の排水処理が可能で、活性汚泥法と異なり有機物を分解して熱エネルギーを発生するため、余剰汚泥の発生が少ないシステムとされている。
【0005】
ところで、メタン発酵、即ち、嫌気性消化は、有機物の安定化、汚泥の減量化、エネルギーの回収、曝気コストの節減等、利点が多いため、油脂含有排水や、油脂含有排水から分離した油脂含有汚泥の処理に用いられることがある(特開昭57−117380号公報、特開2001−321792号公報)。特に、特開2001−321792号公報には、油脂含有排水の効率的な処理方法として、後段の好気処理槽から発生する余剰汚泥を油脂含有排水と混合させ、その排水をそのままメタン発酵する方法が提案されている。特開2001−321792号公報には、この処理において、リパーゼの添加や微生物保持担体の導入、高級脂肪酸の阻害緩和のための微生物体添加により処理性能が向上することが記載されている。
【特許文献1】特開平6−246295号公報
【特許文献2】特開昭57−117380号公報
【特許文献3】特開2001−321792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特開2001−321792号公報記載の方法により、油脂含有排水中の有機物からのエネルギー回収は可能になるが、以下のような問題点がある。
・メタン発酵槽に投入する基質が加圧浮上汚泥のように濃縮されたものではないため、高負荷運転を行えない(通常、3kg−COD/m/d以下)。
・排水処理も同時に行うのでメタン発酵槽の必要容量が大きくなる。
・微生物担体導入により高負荷運転が行えるが、この場合、未分解の油や高級脂肪酸塩による目詰まり、担体の浮上が起こりやすい。
・特に、油分解の遅い中温メタン発酵では上記のような問題が起こりやすいため、メタン発酵の温度域が高温(45〜75℃)に限られる。
【0007】
本発明は上記従来の問題点を解決し、油脂含有排水中の油脂を分離し、分離後の油脂含有汚泥の分解にメタン発酵を適用することにより、油脂含有排水を高効率で浄化すると共に、排水中の有機成分からエネルギーを効率的に回収する方法であって、メタン発酵処理の安定化、処理効率の向上、メタン発酵槽の小型化、油脂含有排水からの油脂の分離効率の向上、発生汚泥量の減量化等を可能とする油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、油脂含有排水をまず油脂と有機排水とに分離し、油脂含有汚泥(油水分離汚泥)はメタン発酵し、油水分離液は好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理で生物処理することを基本とし、この方法において、生物処理の余剰汚泥やメタン発酵の消化汚泥を適当な箇所に循環することにより、油脂含有排水を高効率で浄化すると共に排水中の有機成分からエネルギーを効率的に回収し、かつメタン発酵処理の安定化、処理効率の向上、メタン発酵槽の小型化、油脂含有排水からの油脂の分離効率の向上、発生汚泥量の減量化等を可能とすることができることを見出し、以下を要旨とする本発明を完成させた。
【0009】
請求項1の油脂含有排水の生物処理方法は、油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離工程と、該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理工程とを備える油脂含有排水の生物処理方法において、前記生物処理工程で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を前記メタン発酵工程に導入することを特徴とする。
【0010】
請求項2の油脂含有排水の生物処理方法は、油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離工程と、該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理工程とを備える油脂含有排水の生物処理方法において、前記油水分離工程に導入される油脂含有排水に、前記メタン発酵工程で発生する消化汚泥及び/又は前記生物処理工程で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を混合することを特徴とする。
【0011】
請求項3の油脂含有排水の生物処理方法は、請求項1又は2において、前記メタン発酵工程の運転条件を槽内汚泥濃度20000mg/L以上、SRT15日以上、HRT20日以下とすることを特徴とする。
【0012】
請求項4の油脂含有排水の生物処理方法は、請求項2又は3において、前記生物処理工程が高負荷嫌気性処理工程を含む方法であって、前記油脂含有排水を酸発酵処理する酸発酵工程を有し、該酸発酵工程の処理水が前記油水分離工程に導入されることを特徴とする。
【0013】
請求項5の油脂含有排水の生物処理装置は、油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離手段と、該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵手段と、該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理手段とを備える油脂含有排水の生物処理装置において、前記生物処理手段で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を前記メタン発酵手段に導入する汚泥移送手段を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項6の油脂含有排水の生物処理装置は、油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離手段と、該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵手段と、該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理手段とを備える油脂含有排水の生物処理装置において、油水分離手段に導入される油脂含有排水に、前記メタン発酵手段で発生する消化汚泥及び/又は前記生物処理手段で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を混合する汚泥混合手段を有することを特徴とする。
【0015】
請求項7の油脂含有排水の生物処理装置は、請求項5又は6において、前記メタン発酵手段の運転条件を槽内汚泥濃度20000mg/L以上、SRT(Solids Retention Time)15日以上、HRT(Hydric Retention Time)20日以下とすることを特徴とする。
【0016】
請求項8の油脂含有排水の生物処理装置は、請求項6又は7において、前記生物処理手段が高負荷嫌気性処理手段を含む装置であって、前記油脂含有排水を酸発酵処理する酸発酵手段を有し、該酸発酵手段の処理水が前記油水分離手段に導入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置によれば、油脂含有排水を高効率で浄化すると共に排水中の有機成分からエネルギーを効率的に回収し、かつメタン発酵処理の安定化、処理効率の向上、メタン発酵槽の小型化、油脂含有排水からの油脂の分離効率の向上、発生汚泥量の減量化等が可能となり、汚泥処分費の低減、処理設備用地の縮小、エネルギーの有効利用による省エネルギー化が図れ、工業的に極めて有利である。
【0018】
即ち、請求項1の油脂含有排水の生物処理方法及び請求項5の油脂含有排水の生物処理装置によれば、油水分離液の生物処理で発生する余剰汚泥をメタン発酵処理に供することにより、汚泥の減量化を促進することができ、また、特に高負荷嫌気性処理の余剰汚泥を導入した場合には、高濃度のメタン生成細菌を接種することができ、メタン発酵処理の安定化、高効率化を図ることができる。
【0019】
また、請求項2の油脂含有排水の生物処理方法及び請求項6の油脂含有排水の生物処理装置によれば、メタン発酵で発生する消化汚泥及び/又は生物処理工程で発生する余剰汚泥を油脂含有排水に混合することにより、これらの汚泥を油脂吸着剤として機能させることができ、油水分離に先立つ凝集処理における凝集剤使用量を低減するか、凝集剤を不要とすることができ、これにより全体の余剰汚泥発生量も低減することが可能となる。
【0020】
請求項3の油脂含有排水の生物処理方法及び請求項7の油脂含有排水の生物処理装置によれば、メタン発酵槽の高負荷運転でメタン発酵槽を小型化することができる。
【0021】
請求項4の油脂含有排水の生物処理方法及び請求項8の油脂含有排水の生物処理装置によれば、油脂含有排水の油水分離液を高負荷嫌気性処理する場合において、油水分離前に酸発酵を行うことにより、分離液側の溶解性COD濃度を高く保ち、高負荷嫌気性処理を安定化すると共に、酸発酵を受けた油水分離汚泥をメタン発酵することにより、メタン発酵処理の安定化と、有機物分解効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を参照して本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の実施の形態を説明する。
【0023】
図1〜4は本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の実施の形態を示す系統図である。図1〜4において、同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0024】
図1において、原水(油脂含有排水)は、配管21より原水貯留槽1に導入され、後述の汚泥脱水機9の脱離液と共に配管22より凝集反応槽2に導入される。凝集反応槽2では、配管23より高分子凝集剤と無機凝集剤が添加され、原水が凝集処理される。凝集処理水は、配管24より油水分離槽(加圧浮上槽)3に導入され、加圧浮上汚泥(油脂含有汚泥)と加圧浮上処理水とに浮上分離される。加圧浮上処理水は配管25より酸生成槽4に導入されて酸発酵処理された後、配管26より高負荷嫌気性処理槽5に導入され、高負荷嫌気性処理される。この高負荷嫌気性処理法としてはUASB法や嫌気性流動床法などが有効である。この高負荷嫌気性処理槽5で発生するバイオガスは配管27より脱硫塔10で脱硫処理された後、配管28、ガスホルダー11及び配管29を経て、ガス発電、ボイラ等のエネルギー利用工程へ送給される。また、高負荷嫌気性処理槽5で発生する余剰汚泥は、配管30,31を経てメタン発酵槽8に送給される。高負荷嫌気性処理槽5の処理水は配管32より好気性処理槽6に導入されて好気性処理された後、配管33より沈殿池7に導入されて固液分離される。沈殿池7の分離水は配管34より処理水として系外へ排出される。分離汚泥の一部は配管35,35Aより好気性処理槽6に返送され、残部は配管35,35B,31よりメタン発酵槽8に送給される。
【0025】
加圧浮上槽3の加圧浮上汚泥は、配管36よりメタン発酵槽8に送給され、配管31からの生物処理の余剰汚泥と共にメタン発酵処理される。メタン発酵槽8でのメタン発酵で発生するバイオガスは、高負荷嫌気性処理槽5からのバイオガスと同様に、配管37より脱硫塔10で脱硫処理された後、ガスホルダー11及び配管29を経てエネルギー利用工程へ送給される。
【0026】
メタン発酵槽8の消化汚泥は配管38より汚泥脱水機(又は汚泥濃縮機)9へ送給されて脱水処理され、脱水ケーキは配管39より系外へ排出され、埋立又は焼却などで最終処分される。一方、脱水機9の脱離液は配管40より原水貯留槽1に返送され、原水と共に処理される。
【0027】
図1の処理では、加圧浮上処理水の生物処理により生じた余剰汚泥をメタン発酵槽8に導入することにより、メタン発酵の安定化、汚泥の減量化を図ることができ、特に、加圧浮上処理水の処理に高負荷嫌気性消化を用いた場合、余剰嫌気性汚泥をメタン発酵槽8に投入することで、高濃度のメタン生成細菌を接種することとなり、メタン発酵槽8におけるメタン発酵の安定化、高効率化を図ることができる。
【0028】
図2においては、配管35Bからの余剰好気性汚泥及び配管30からの余剰嫌気性汚泥をメタン発酵槽8ではなく凝集反応槽2に送給し、また、メタン発酵槽8から余剰消化汚泥を引き抜き、配管41より凝集反応槽2に送給し、凝集反応槽2には高分子凝集剤のみを添加し、無機凝集剤を添加しない点が、図1に示す処理と異なり、その他は同様の処理が行われる。
【0029】
この図2の処理では、凝集反応槽2で生物処理の余剰汚泥とメタン発酵槽8からの余剰消化汚泥を原水に混合することにより、原水中の油分を生物汚泥に吸着させることができる。即ち、この生物汚泥が油脂吸着剤として機能するため、無機凝集剤の必要添加量は大幅に減少するか、無機凝集無添加での浮上分離が可能となる。
【0030】
図3においては、メタン発酵槽8からの消化汚泥を凝集反応槽2に送給せず、汚泥脱水機9の濃縮汚泥を配管42よりメタン発酵槽8に返送する点が、図2に示す処理と異なり、その他は同様の処理が行われる。
【0031】
この図3の処理では、メタン発酵槽8から引き抜いた消化汚泥を汚泥脱水機(又は汚泥濃縮機)9で脱水又は濃縮後、脱水汚泥又は濃縮汚泥の一部又は全部をメタン発酵槽8に返送して、メタン発酵槽8内の汚泥濃度を高め、同時にSRTを長くすることでメタン発酵槽8の高負荷運転によるメタン発酵槽8の小型化が可能となる。このように、脱水又は濃縮汚泥を返送することにより、メタン発酵槽8の運転条件を、槽内汚泥濃度20000mg/L以上、好ましくは20000〜100000mg/L、SRTを15日以上、好ましくは15〜40日、HRTを20日以下、好ましくは3〜20日とすることができる。
【0032】
図4においては、酸生成槽4を凝集反応槽2の前段に設け、配管35Bからの余剰好気性汚泥及び配管30からの余剰嫌気性汚泥を凝集反応槽2ではなくこの酸生成槽4に送給し、原水貯留槽1の水を配管22Aから酸生成槽4に導入して酸発酵処理した後配管22Bより凝集反応槽2に導入する点が、図3に示す処理と異なり、その他は同様の処理が行われる。
【0033】
この図4の処理では、濃縮返送汚泥の返送により、図3と同様にメタン発酵槽8の高負荷運転によるメタン発酵槽8の小型化が可能である。更に、浮上分離に先立ち酸生成(酸発酵)を行うことにより、原水中の油脂や原水由来のSSの一部を可溶化、有機酸化でき、その後の加圧浮上処理水の溶解性COD濃度を上げることができる。また、加圧浮上汚泥も事前に酸発酵を受けることになるので、メタン発酵槽での処理の安定化、有機物分解効率の向上を図ることができる。
【0034】
即ち、油脂を多く含む原水を浮上分離すると、有機成分の大部分が加圧浮上汚泥中に移行するため、加圧浮上処理水の処理に高負荷嫌気性処理を適用し難くなる。図4では、浮上分離に先立ち酸発酵を行うことにより、この問題を解決し、高負荷嫌気性処理の適用を可能とする。なお、酸生成は油水分離槽(加圧浮上槽)3内で行っても良い。
【0035】
図1〜4に示す処理は、本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の実施の形態の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示の処理に限定されるものではない。例えば、油水分離槽3は加圧浮上槽に限らず、可能であれば沈殿槽であっても良い。また、加圧浮上処理水の生物処理は、好気性処理と高負荷嫌気性処理との併用に限らず、いずれか一方の処理のみでも良い。また、図2において、メタン発酵の消化汚泥のみを凝集反応槽2に返送し、加圧浮上処理水の生物処理の余剰汚泥はメタン発酵槽8に導入するようにしても良い。また、この生物処理の余剰汚泥のうち、沈殿池7からの余剰好気性汚泥を凝集反応槽2に返送し、高負荷嫌気性処理槽5からの余剰嫌気性汚泥はメタン発酵槽8に導入しても良く、これにより前述の如く、メタン発酵槽8のメタン生成菌の高濃度化を図ることができる。また、メタン発酵槽8の余剰消化汚泥と共に或いは余剰消化汚泥の代りに、汚泥脱水機9からの脱水ケーキの一部を凝集反応槽2に返送するようにしても良い。また、図3において、汚泥脱水機9からの濃縮返送汚泥はその一部を凝集反応槽2に送給しても良く、また、濃縮返送汚泥の全部をメタン発酵槽8ではなく凝集反応槽2に返送しても良い。この場合であっても、結果的にメタン発酵槽8の汚泥濃度を高めて高負荷運転を行うことができる。同様に、図4において、汚泥脱水機9からの濃縮返送汚泥はその一部を酸生成槽4に送給しても良く、また、濃縮返送汚泥の全部をメタン発酵槽8ではなく酸生成槽4に返送しても良い。この場合であっても、結果的にメタン発酵槽8の汚泥濃度を高めて高負荷運転を行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0037】
実施例1
図2に示す方法で下記水質の食品工場排水(流量430m/d)を原水として処理を行った。
[原水水質]
BOD:2300mg/L
SS:653mg/L
n−ヘキサン抽出物:170mg/L
【0038】
この油脂含有排水は油濃度が比較的低く、後述の比較例1で示す従来法(加圧浮上法+活性汚泥法)で生成する汚泥の構成比が3:4(加圧浮上スカム:余剰汚泥)程度の水質のものである。
【0039】
各槽の仕様、処理条件は次の通りである。
酸生成槽容積:110m
高負荷嫌気性処理槽容積:210m
好気性処理槽容積:150m
メタン発酵槽容積:45m
【0040】
その結果、メタン発生量は526m/dで、脱水ケーキの含水率は85%で、その発生量は0.73ton/dであり、後述の比較例1に対して84%の減量が可能であった。
【0041】
比較例1
実施例1で処理したものと同様の原水を、加圧浮上法と活性汚泥法(活性汚泥槽容積:1010m)で処理した。即ち、原水を加圧浮上処理し、加圧浮上汚泥を排出すると共に加圧浮上処理水を活性汚泥処理した。
【0042】
その結果、発生汚泥量は4.67ton/dであった。
【0043】
実施例2
図4に示す方法で下記水質の食品工場排水(流量352m/d)を原水として処理を行った。
[原水水質]
BOD:2840mg/L
SS:1190mg/L
n−ヘキサン抽出物:959mg/L
【0044】
この油脂含有排水は油濃度が比較的高く、後述の比較例2で示す従来法(加圧浮上法+活性汚泥法)で生成する汚泥の構成比が4:1(加圧浮上スカム:余剰汚泥)程度の水質のものである。このような油濃度の高い排水は、図2に示す処理では、加圧浮上処理水のBODが非常に低くなってしまうため、酸発酵後、加圧浮上処理する図4の方式を採用した。
【0045】
各槽の仕様、処理条件は次の通りである。
酸生成槽容積:88m
高負荷嫌気性処理槽容積:130m
好気性処理槽容積:88m
メタン発酵槽容積:67m
【0046】
その結果、メタン発生量は535m/dで、脱水ケーキの含水率は85%で、その発生量は0.89ton/dであり、後述の比較例2に対して83%の減量が可能であった。
【0047】
比較例2
実施例2で処理したものと同様の原水を、加圧浮上法と活性汚泥法(活性汚泥槽容積:430m)で処理した。即ち、原水を加圧浮上処理し、加圧浮上汚泥を排出すると共に加圧浮上処理水を活性汚泥処理した。
【0048】
その結果、発生汚泥量は5.4ton/dであった。
【0049】
実施例3
実施例1で処理したものと同様の原水を、図3に示す方法で処理した。このとき、加圧浮上汚泥(28m/d)の組成は下記の通りであった。
[加圧浮上汚泥の組成]
全COD:55000mg/L
原水由来SS:12000mg/L
n−ヘキサン抽出物:11400mg/L
余剰汚泥:6600mg/L
【0050】
このときのメタン発酵槽のHRT,SRT,槽内SS濃度、COD容積負荷と、必要とされるメタン発酵槽容積を調べ、汚泥脱水機からメタン発酵槽への濃縮汚泥の返送を行わない場合と対比して、結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
この処理においてSRTはいずれも15日に設定したので、油脂除去率は80%、原水由来のSS除去率は70%、余剰汚泥分解率は30%だった。濃縮汚泥の返送を行ったNo.1の系では、メタン発酵槽内に余剰汚泥の難分解性成分が蓄積し、これに嫌気性細菌が吸着することで、濃縮を容易に行うことができた。また、急激な負荷変動においても、メタン発酵槽内に菌体が高濃度で維持されていたため安定した処理が維持された。濃縮汚泥の返送を行ったNo.1では、返送を行わないNo.2に比べて、メタン発酵槽の高負荷運転で、メタン発酵槽容積を約1/4に大幅に小型化することができた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の他の実施の形態を示す系統図である。
【図3】本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の別の実施の形態を示す系統図である。
【図4】本発明の油脂含有排水の生物処理方法及び処理装置の別の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0054】
1 原水貯留槽
2 凝集反応槽
3 油水分離槽(加圧浮上槽)
4 酸生成槽
5 高負荷嫌気性処理槽
6 好気性処理槽
7 沈殿池
8 メタン発酵槽
9 汚泥脱水機
10 脱硫塔
11 ガスホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離工程と、
該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理工程とを備える油脂含有排水の生物処理方法において、
前記生物処理工程で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を前記メタン発酵工程に導入することを特徴とする油脂含有排水の生物処理方法。
【請求項2】
油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離工程と、
該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理工程とを備える油脂含有排水の生物処理方法において、
前記油水分離工程に導入される油脂含有排水に、前記メタン発酵工程で発生する消化汚泥及び/又は前記生物処理工程で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を混合することを特徴とする油脂含有排水の生物処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記メタン発酵工程の運転条件を槽内汚泥濃度20000mg/L以上、SRT15日以上、HRT20日以下とすることを特徴とする油脂含有排水の生物処理方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記生物処理工程が高負荷嫌気性処理工程を含む方法であって、前記油脂含有排水を酸発酵処理する酸発酵工程を有し、該酸発酵工程の処理水が前記油水分離工程に導入されることを特徴とする油脂含有排水の生物処理方法。
【請求項5】
油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離手段と、
該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵手段と、
該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理手段とを備える油脂含有排水の生物処理装置において、
前記生物処理手段で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を前記メタン発酵手段に導入する汚泥移送手段を備えることを特徴とする油脂含有排水の生物処理装置。
【請求項6】
油脂含有排水を油水分離して油水分離汚泥と分離液とを得る油水分離手段と、
該油水分離汚泥をメタン発酵処理するメタン発酵手段と、
該分離液を好気性処理及び/又は高負荷嫌気性処理する生物処理手段とを備える油脂含有排水の生物処理装置において、
前記油水分離手段に導入される油脂含有排水に、前記メタン発酵手段で発生する消化汚泥及び/又は前記生物処理手段で発生する余剰汚泥の少なくとも一部を混合する汚泥混合手段を有することを特徴とする油脂含有排水の生物処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記メタン発酵手段の運転条件を槽内汚泥濃度20000mg/L以上、SRT15日以上、HRT20日以下とすることを特徴とする油脂含有排水の生物処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記生物処理手段が高負荷嫌気性処理手段を含む装置であって、前記油脂含有排水を酸発酵処理する酸発酵手段を有し、該酸発酵手段の処理水が前記油水分離手段に導入されることを特徴とする油脂含有排水の生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−95377(P2006−95377A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282111(P2004−282111)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】