説明

油脂被覆粉末の製造方法

【課題】呈味成分を十分に被覆でき、マスキング効果、舌触り、打錠性、保存安定性にも優れた油脂覆粉末の製造方法の提供。
【解決手段】下記の(A)〜(C)工程を含み、呈味成分を含有する油脂被覆粉末の製造方法。 (A)呈味成分を含有する粉末にゼインを被覆する工程。 (B)前記(A)工程で得られたゼイン被覆粉末に、平均粒径1〜50μm、融点50〜80℃であり、光源としてCuKα線を用いたX線回折測定における2θ(19°)のピーク強度と2θ(21°)のピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下である硬化油脂粉末を、粉体温度が45℃以下となる条件で衝突させ、被覆粉末を得る工程。 (C)前記工程(B)で得られた被覆粉末を、35〜60℃において、1時間〜200時間テンパリングする工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味成分の油脂被覆粉末の製造方法に関する。詳しくは、呈味成分上にゼイン及び油脂を二重に被覆した油脂被覆粉末の製造方法であり、呈味のマスキング、舌触り、保存安定性及び打錠性に優れた油脂被覆粉末の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、漢方生薬、医薬物または健康食品等は、その有効成分固有の苦味、えぐみ等があるため、服用しづらいとういう難点がある。そこで、味をマスキングする方法として、呈味成分の粉末に融点40℃以上の硬化油脂粉末を接触・衝突させてコーティングする方法(特許文献1)、粒径が50μm以下の呈味成分をゼラチン等の水溶性結合剤を用いて造粒後、これに硬化油脂微粉末を被覆する方法(特許文献2)、呈味成分を含む造粒物を賦形剤と油脂で攪拌造粒し、更にゼインでコーティングする方法(特許文献3)等がある。
【0003】
しかしながら、特許文献1の製造方法によると、十分なマスキング効果が得られておらず、強い呈味を有することから服用を容易にするに至らなかった。これは、油脂粉体を衝突させる油脂被覆工程において、味をマスキングできるだけの十分な油脂による被覆ができていないことが考えられる。また、特許文献2の製造方法によると、油脂被覆の前に、呈味成分をゼラチン等の水溶性結合剤で造粒しているが、この場合でも十分な油脂被覆によるマスキング効果が得られるには至っていなかった。
また、特許文献1や2における製造方法では、製造される油脂被覆粉末において、打錠性が低下する、長期保存時に固着する等の問題があった。これは、最外層にある油脂が構造的に融着し易く、錠剤等の原料と使用する際の打錠性能や、粉末の長期保存安定性において不十分になるものと考えられる。
なお、最外層をゼイン等の蛋白質で被覆する製造方法(特許文献3)では、造粒物の粒度が大きくなり易い。また、ゼイン特有の舌触りの悪さが残り、服用に適さない。さらに、造粒工程を繰り返しており、生産効率も悪いとの問題点を有している。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−164863号公報
【特許文献2】特開平11−308985号公報
【特許文献3】特開平6−24963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、呈味成分を十分に被覆でき、マスキング効果、舌触り、打錠性、保存安定性にも優れた油脂覆粉末の製造方法を提供することを目的とする。
そこで、まず、本発明では、呈味成分をゼインで被覆し、さらに、これを油脂で被覆すると、味のマスキング効果に優れ、舌触りの良い被覆粉末を製造できることを見出した。
次に、本発明は粉末を被覆している油脂の多形に注目した。
油脂の本質的な属性として、多形現象があり、トリアシルグリセロールには通常、数種類の結晶多形が存在しており、それらの分類と命名は、融点と副格子を基準にして以下のように整理されている。
α型・・・ヘキサゴナル(H)型副格子、不安定型
β’型・・O⊥型副格子、準安定型
β型・・・T//型副格子、安定型
ここで、油脂被覆時には不安定型であるα型油脂粉末を用い、打錠性、保存時には結晶多形をα型から安定型のβ型に転移させれば、打錠性や保存安定性を改質できる。
なお、α型からβ型の転移は、固相転移が知られており、融点50〜80℃での油脂であれば、融点の10〜30℃以下の温度に放置することにより、経時的に転移していく。
【0006】
これらの多形を同定する一般的な手法は、X線回折法があり、回折条件は下記のブラックスの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1、2、3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16〜27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行うことができ、特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°にβ型の特徴的ピークが、21°にα型に特徴的なピークが出現する。但し、X線の光源としてCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。
本発明はこれらの知見をもとに、被覆する油脂粉末の多形をβ型の特徴的ピークである2θ=19°のピーク強度とα型の特徴的ピークであるピーク強度比(19°/21°強度比)を用いて、その多形の状態を表すことにした。この比が0.6以下のとき、多形中、α型の比率が50%以上である場合に相当する。
そして、油脂粉末における被覆時の多形をα型とし、及び被覆した油脂の多形をβ型に転移すると、マスキング効果、舌触り、打錠性、保存安定性にも優れた覆粉体が製造できることを見出して、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記(1)及び(2)の発明である。
(1)下記の(A)〜(C)工程を含み、呈味成分を含有する油脂被覆粉末の製造方法。
(A)呈味成分を含有する粉末にゼインを被覆する工程。
(B)前記(A)工程で得られたゼイン被覆粉末に、平均粒径1〜50μm、融点50〜80℃であり、光源としてCuKα線を用いたX線回折測定における2θ(19°)のピーク強度と2θ(21°)のピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下である硬化油脂粉末を、粉体温度が45℃以下となる条件で衝突させ、被覆粉末を得る工程。
(C)前記工程(B)で得られた被覆粉末を、35〜60℃において、1時間〜200時間テンパリングする工程。
【0008】
前記(1)の製造方法により得られた、平均粒径が100〜300μmである油脂被覆粉末。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、呈味成分を十分に被覆でき、マスキング効果、舌触り、打錠性、保存安定性にも優れた油脂覆粉末の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、下記の(A)工程〜(C)工程を含むことを特徴とする。
(A)工程
本発明における(A)工程は、呈味成分について(B)工程での油脂被覆を容易にするため、呈味成分をゼインで被覆する工程である。
本発明に用いる呈味成分は、味を感じさせる粉末であれば特に限定するものではなく、生薬、ビタミンB類、ハーブ類、グルコサミン、L−ロイシン等の苦味成分、クエン酸、リンゴ酸等の酸味成分、砂糖、ステビア等の味を感じさせる粉末である。本発明の呈味成分は呈味物質それ自体の粉末であっても、デキストリン、澱粉等の粉末に呈味物質を含有させた粉末であってもよい。
粉末の平均粒径は1〜300μmであることが好ましい。1μmより小さい場合、表面積が大きくゼイン被覆の効果が低下し、300μmより大きい場合は、最終的に製造される油脂被覆粉末の舌触りに悪い影響を与え好ましくない。300μmより大きい場合は、所望の粒度に粉砕して使用してもよい。
【0011】
本発明において、ゼインを被膜材として使用する。ゼインは、トウモロコシ由来の蛋白質であり、分子量は21,000〜25,000である。市販品としては、小林ツェインDP(小林香料株式会社)などが挙げられる。ゼインの被覆量は、工程Aにより得られるゼイン被覆粉末の4〜25質量%が好ましい。4質量%より少ない場合、被覆が十分でなく、油脂被覆をしても味のマスキング効果が不十分となる。一方、25質量%より多い場合は、製造される油脂被覆粉末を用い打錠した場合に錠剤の硬度が低下するので、好ましくない。
ゼインはアルコールに溶解し、ゼラチン等の造粒や結合に使用される他の水溶性物質と比べて油脂と親和性の被膜材であり、後の油脂被覆に適した膜素材である。
【0012】
本発明において、中鎖トリグリセリドを使用するとゼインの被膜効果が高まり、味のマスキング効果が増す。ここで、中鎖トリグリセリドとは、グリセリン骨格に炭素数8〜10の脂肪酸がエステル化結合した油脂化合物であり、例えばカプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリドが挙げられる。本発明において使用する中鎖トリグリセリドは炭素数8と炭素数10の脂肪酸の両方を有する中鎖トリグリセリドが好ましい。中鎖トリグリセリドの市販品としてはパナセート810(商品名、日本油脂株式会社)、ココナードMT(商品名、花王株式会社)などが挙げられる。中鎖トリグリセリドの使用量は、ゼインの使用量の0.1〜20質量%が好ましい。0.1質量%より少ない場合、味マスキング効果が低下する。一方、20質量%より多い場合は、A工程のゼイン被覆時に団粒が生じる。
【0013】
本発明の(A)工程の製造方法は、呈味成分を含有する粉末75〜96質量%の表面に、ゼイン4〜25質量%となるようにエタノール水溶液を噴霧する。
【0014】
呈味成分を含有する粉末の表面にゼインを被覆する際は、転動流動層コーティング装置を用い、処理容器内で流動化エアーによって流動化状態にした粉体により、ゼインのエタノール水溶液を噴霧することが好ましい。中鎖トリグリセリドを使用する場合は、ゼインのエタノール水溶液中に添加して用いることが好ましい。
【0015】
転動流動層コーティング装置は、装置下部に回転ディスクが設置された流動層コーティング装置である。粉体は、装置内下部から流入した空気により流動化させ、更に回転ディスクの遠心力を加えることにより、流動層内壁を転がるように運動する。通常の流動状態に比べて、粉末の結合による造粒が抑制され、効率良く粉末に被覆ができる。これにゼイン溶液を噴霧乾燥できる装置であればよく、市販されている装置としては、(株)ダルトン製「商品名:ニューマルメラーザー」、(株)パウレック製「商品名:マルチプレックス」等が挙げられる。さらには回転ディスクの上面には、円錐形のコーン部と複数のブレードが設けられていることが好ましい。ブレードによる転動圧密作用により、団粒の発生が抑えられ、シャープな粒度分布を有する被覆粉体を得ることが可能となる。また、被膜が展延作用を受け、均一および強度の高い被覆粉体を得ることができる。
スプレーの方式は、回転ディスク上で転動運動する粉体の流れに、装置下方の側面から接線方向(回転ディスクの回転方向)にスプレー液を噴霧するタンジェンシャルスプレー方式が好ましい。一般的な流動層造粒装置に使用されるスプレー方式は、流動化した粉体の上部より下方に向けて液滴をスプレーするトップスプレー式であるが、タンジェンシャルスプレー方式は、コーティングゾーン内を運動する粉体に集中的にスプレー液を噴霧でき、粉体とスプレーノズルとの距離が常に一定に保たれるため、良好な被覆が可能となる。
【0016】
噴霧するゼインのエタノール水溶液は、エタノール水溶液100質量部に対して、ゼインを4〜25質量部を溶解させた溶液が好ましい。エタノール水溶液100質量部に対して、ゼインを4質量部未満使用する際は、ゼインのエタノール水溶液の噴霧工程時間が長くなり、製造効率が悪くなる。また、25質量部を超えるとゼインのエタノール水溶液の粘性が大きくなり、接着度が大きくなり、粉体間での凝集が起こり団粒形成しやすい。
中鎖トリグリセライドを添加する場合は、エタノール水溶液100質量部に対して中鎖トリグリセリドを0.1〜20質量部添加する。0.1質量部以上添加すると、団粒形成を防止し、シャープな粒度分布のゼイン被覆粉末を得られる。一方、20質量部を超えるとエタノール水溶液との分離が起こり、被覆が不均一となり好ましくない。
【0017】
ゼイン及び中鎖トリグリセリドを溶解させるエタノール水溶液は60〜90質量%エタノール水溶液が好ましい。ここでエタノール水溶液中のエタノール濃度が60質量%未満ではゼインの溶解量が低くなる。また、90質量%を超えると溶液がゲル化しやすく好ましくない。
【0018】
(A)工程により得られたゼイン被覆粉末の平均粒径は、100〜300μmであることが好ましい。100μm未満の場合は、ゼイン被膜へ硬化油脂粉末を衝突させる際に、付着力、硬化油脂被膜の展延力が低下し、300μmを超える場合、本発明の油脂被覆粉末の舌触りが悪くなる。ここで、(A)工程における平均粒径の調整は、造粒を抑制できる上記のゼイン被覆の条件で行う。後に粉砕により所望の平均粒径に調整しても、粒子の割れによる芯材表面が露出することになり、マスキング効果を低下するので好ましくない。
【0019】
(B)工程
本発明における(B)工程は、前記(A)工程で得られたゼイン被覆粉末を油脂被覆する工程である。
本工程に使用する硬化油脂粉末の融点が50〜80℃であることが好ましい。50℃未満の場合には、硬化油脂をゼイン被覆粉末に被覆させる工程において、固結状態になりやすいので好ましくない。また、融点が80℃を超える硬化油脂を使用する場合は、ゼイン被覆粉末への付着力が低下し、被覆状態が悪くなる。
融点が50〜80℃である硬化油脂粉末としては、菜種硬化油、パーム硬化油、大豆硬化油、ハイエルシン酸菜種硬化油、牛脂硬化油等が挙げられ、これらを1種または2種以上の混合油脂を使用する。硬化油脂は一般的な水素添加により調製されたものを使用するが、ヨウ素価が3.0以下の硬化油脂は、(C)工程におけるテンパリングにより、より機密な結晶構造を形成し、味のマスキング効果、打錠性及び保存安定性が高くなり好ましい。更には、ヨウ素価が0.3以下の菜種硬化油、大豆硬化油、ハイエルシン酸菜種硬化油は、脂肪酸組成が高純度のステアリン酸となり、更に機密な結晶構造を形成するため好ましい。
【0020】
また、本発明に使用する硬化油脂粉末は、トリアシルグリセロールの含有量が95質量%以上のものが好ましい。硬化油脂には、モノグリセロール、ジグリセロール、脂肪酸等の不純物が含まれるが、これらの不純物は、機密な結晶構造の形成を阻害するからである。
【0021】
本発明の硬化油脂粉末の平均粒径は1〜50μmのものを使用することが好ましい。平均粒径が1μmより小さくするには工業的に容易ではなく、また、50μmより大きい場合、(A)工程で得られたゼイン被覆粉末表面に付着できないことがあり、良好な油脂被膜を形成できない。硬化油脂の被膜量は、(A)工程で得られたゼイン被覆粉末60〜97質量%、硬化油脂3〜40質量%であることが好ましい。硬化油脂の被膜量が3質量%より低い場合、味のマスキング効果が不十分となり、また、40質量%より高い場合、被覆量に対して過剰な硬化油脂粉末が槽内壁に付着して固結する。
【0022】
本発明において、光源としてCuKα線を用いたX線回折測定における2θ(19°)のピーク強度と2θ(21°)のピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下である硬化油脂粉末を被覆に用いる。このピーク強度比(19°/21°強度比)は、前記のようにα型結晶多形及びβ型結晶多形の割合の指標となるものであり、本発明はピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下のα型結晶多形に富む多形の硬化油脂粉末を用いることを特徴とする。
ピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6を超える場合は、β型に富む硬化油脂粉末であり、ゼイン被膜との付着力低下の原因となる。
なお、ピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下の硬化油脂粉末は、硬化油脂を融点以上の熱で溶解し、これを急速に冷却して再結晶化させ、粉砕機等で平均粒径1〜50μmにまで粉砕することで容易に得ることができる。油脂の再結晶化には、硬化油脂を板状またはフレーク状にし、これを粉砕する方法や、スプレークーリングにより、粉砕することなく平均粒径1〜50μmの硬化油脂粉末を得る方法等がある。
【0023】
本発明において硬化油脂被膜を形成する工程は、(A)工程により得られたゼイン被覆粉末に硬化油脂粉末を衝突させてゼイン被覆粉末の全周囲表面に硬化油脂を固着させて被覆する工程である。高速攪拌混合機としては、奈良機械(株)製「諸品名:OMダイザー」、(株)パウレック製「商品名:バーチカルグラニュレーター」が挙げられる。
衝突条件は固体状の硬化油脂粉末がゼイン被覆粉末と衝突する条件であり、粉体温度が45℃以下であることが好ましい。45℃を超える場合、硬化油脂が軟化して槽内で固結するおそれがある。
【0024】
(C)工程
本発明の(C)工程は、(B)工程でゼイン被覆粉末の表面に被覆されたα型多形に富む油脂をβ型多形に富む油脂に転移させる工程である。
本発明の(C)工程では油脂被覆粉末を35〜60℃で1〜200時間テンパリングすることにより、硬化油脂の結晶多形を不安定型のα型から安定型のβ型へ転移させる。
テンパリング温度が35℃より低い場合、転移に長時間を要し、生産性が悪くなる。また、テンパリング温度が60℃を超えた場合、硬化油脂の被膜が溶解し、呈味のマスキング効果が低くなる。
更には、テンパリング温度を40〜50℃とすると、テンパリング時間が1〜100時間に短縮でき、生産効率が高くなり好ましい。40℃以上とすると、固相転移速度が上昇するが、50℃を超えると、硬化油脂の融点によっては硬化油脂被膜が軟化し、被覆粒子同士が固結や被膜が剥がれるなどの問題を生じるおそれがある。
また、テンパリング時間は、ピーク強度比(19°/21°強度比)が2以上となるのに必要な時間以上が好ましい。
この工程(C)により、α型では、十分なマスキング効果、打錠性及び保存安定性が得られないが、β型へ転移することにより、マスキング効果、打錠性及び保存安定性が高くなる。
【0025】
本発明で得られる被覆粉末の平均粒径は100〜300μmであることが好ましい。平均粒径が100μmより小さい場合、呈味のマスキング効果が弱く、300μmより大きい場合、舌触りが悪くなる。
本発明で得られる被覆粉末は、苦味等の味を有する医薬品や健康食品の服用を容易にするために使用することができる。また、クエン酸、リンゴ酸などの酸味剤を被覆した本発明の被覆粉末を、ガムなどに添加することにより、噛むことにより、徐々に呈味を放出し、長時間呈味を維持する食品にも応用できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(融点、ヨウ素価測定法)
日本油化学会制定の基準油脂分析試験法に準じて行った。融点は「上昇融点法」を、ヨウ素価は「ウィイス−四塩化炭素法」を用いた。
【0028】
(硬化油脂の純度)
約1gの硬化油脂粉末を正確に秤量し、30mLのクロロホルムに溶解し、ろ過する。ろ紙をクロロホルムで十分に洗い、硬化油脂の溶解した液を回収する。回収したクロロホルム溶液をロータリーエバポレーター(液温度70℃)で十分に乾固し、回収した固形分重量を測定する。試験に供した硬化油脂粉末に対する回収した固形分の割合(y%)を求める。固形分をクロロホルムに溶解し、イアトロスキャン「商品名;MK−5」(イアトロン社製)を用いて(展開液;ヘキサン/エーテル(80/20))、総面積に対するトリアシルグリセロールの面積比を求め、上記y%を乗じて、トリアシルグリセロールの純度を求める。
【0029】
(19°/21°強度比)
X線回折測定は、(株)リガク製「商品名:RINT−Ultima」で測定を行った。管電圧:20kV、管電流:40mA、開始角度3°、終了角度30°、スキャンスピード:2°/分、試料サンプルをサンプルホルダーに充填し、測定を行った。硬化油脂の結晶多形の同定には、前記のとおり、2θ=16〜27°のピーク強度、特に19°/21°強度比を算出することができる。
【0030】
(平均粒径)
粉末の平均粒径は、レーザー乾式粒度分布測定機(商品名:SALD−2100、(株)島津製作所製)を用いて測定した。内蔵するプログラム「Wing−1」により、データ処理された値にて評価した。
【0031】
(舌触り)
約50mgを舌に乗せ、○:ざらつきが少ない、△:ややざらついている、×ざらざらとしている、の3段階で評価した。
【0032】
(呈味強度)
約50mgを舌に乗せ、20秒間そのまま口中に含んだあとに飲み込む。このときに感じる呈味の強度を、1:感じない、2:ほとんど感じない、3:やや感じる、4:感じる、5:強く感じる、の5段階で評価した。
【0033】
(保存安定性)
製造後1ヶ月(常温保管)の2重被覆粉末の状態を目視検査した。
【0034】
(打錠性)
実施例、比較例により得られた粉末300g、乳糖(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:SUPER TAB)200g、及びショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、商品名:シュガーエステルB−370F)10gを混合し、ロータリー式打錠機を用いて打錠した。錠剤重量を400mgとし、杵種を10mm径、R=8.5mm、打錠圧を10000Nの条件で打錠品を作製した。これらの打錠品から無作為に200錠を取り出し、スティッキングの有無を調べた。
【0035】
実施例1
グルコサミン粉末(焼津水産化学工業(株)製、商品名:ナチュラルグルコサミン、平均粒径108μm)500gを転動流動層装置((株)ダルトン製、商品名:ニューマルメライザーNQ−160)に仕込み、ゼイン(小林香料(株)製、商品名:小林ツェインDP)58.8gを含水エタノール(精製水/エタノール=30/70(v/v))530gに溶解したコーティング液を噴霧した。運転条件は、給気温度:75℃、給気風量:1m/min、ローター回転数:300rpm、噴霧液速度:15g/minで行った。平均粒径が125μmのゼイン被覆粉末を503g得た。
得られたゼイン被覆粉末450gと、菜種極度硬化油(融点67℃、19°/21°ピーク強度比0.35、ヨウ素価1.1、トリアシルグリセロール純度100%、平均粒径12μm)50gを高速攪拌機((株)パウレック製、商品名:VG−05)に仕込み、ブレード回転数500rpm、クロススクリュー回転数2000rpm、ジャケット温度25℃にて40分間混合した。これを45℃の恒温槽にいれ、5時間静置し、平均粒径が121μmの油脂被覆粉末を490g得た。得られた油脂被覆粉末について、舌触り、呈味強度、保存安定性試験を行った。試験の結果を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1の製造方法において、コーティング液として、ゼイン(小林香料(株)製、商品名:小林ツェインDP)を53g、中鎖トリグリセライド(日本油脂(株)製、商品名:パナセート810)5.9gを含水エタノール(精製水/エタノール=30/70(v/v))530gに溶解したものを使用し、同様に行った。
【0037】
実施例3
実施例1の製造方法において、油脂被覆材として、菜種極度硬化油(融点67℃、19°/21°ピーク強度比0.55、ヨウ素価1.1、トリアシルグリセロール純度100%、平均粒径12μm)を使用し、同様に行った。
【0038】
実施例4
実施例1の製造方法において、油脂被覆材として、菜種極度硬化油(融点62℃、19°/21°ピーク強度比0.31、ヨウ素価3.2、トリアシルグリセロール純度100%、平均粒径12μm)を使用し、同様に行った。
【0039】
実施例5及び6
実施例1の製造方法において、テンパリング温度及び時間を、実施例5では37℃で5時間、実施例6では55℃3時間とし、同様に行った。
【0040】
実施例7
L−ロイシン粉末(協和発酵工業(株)製、商品名:L−ロイシン、平均粒径127μm)500g、ゼイン(小林香料(株)製、商品名:小林ツェインDP)115.4gを含水エタノール(精製水/エタノール=30/70(v/v))654gを用いて、実施例1と同様に製造した。平均粒径が138μmのゼイン被覆粉末を520g得た。
得られたゼイン被覆粉末400gと実施例1の菜種極度硬化油100gを使用し、実施例1と同様に製造した。
得られた2重被覆粉末について、舌触り、呈味強度、打錠試験、保存安定性試験を行った。試験の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例1
グルコサミン粉末(焼津水産化学工業(株)製、商品名:ナチュラルグルコサミン、平均粒径108μm)500gを転動流動層装置((株)ダルトン製、商品名:ニューマルメライザーNQ−160)に仕込み、ゼイン(小林香料(株)製「小林ツェインDP」)88.2gを含水エタノール(精製水/エタノール=30/70(v/v))500gに溶解したコーティング液を噴霧した。運転条件は、実施例1と同様に行った。平均粒径が125μmのゼイン被覆粉末を510g得た。
得られたゼイン被覆粉末について、舌触り、呈味強度、保存安定性試験を行った。試験の結果を表2に示す。
【0043】
比較例2
グルコサミン粉末(焼津水産化学工業(株)製、商品名:ナチュラルグルコサミン、平均粒径108μm)425gと、菜種極度硬化油75gを、高速攪拌機((株)パウレック製、商品名:VG−05)に仕込み、実施例1と同様に混合した。これを45℃の恒温槽にいれ、12時間静置し、平均粒径が125μmの油脂被覆粉末を490g得た。得られた粉末について、舌触り、呈味強度、保存安定性試験を行った。試験の結果を表2に示す。
【0044】
比較例3
実施例1の製造方法において、油脂被覆材として、菜種極度硬化油(融点67℃、19°/21°ピーク強度比2.52、ヨウ素価1.2、トリアシルグリセロール純度100%、平均粒径12μm)を使用し、同様に行った。
【0045】
比較例4〜6
実施例1の製造方法において、テンパリング温度及び時間を、比較例4ではテンパリング処理を行わず、比較例5では30℃で12時間、比較例6では70℃3時間とし、同様に行った。
【0046】
比較例7
L−ロイシン粉末(協和発酵工業(株)製、商品名:L−ロイシン、平均粒径127μm)500gに、ゼラチン(新田ゼラチン(株)製「新田ゼラチンGBL−200」)115.4gを精製水2000gに溶解したコーティング液を噴霧した。運転条件は、給気温度:85℃、給気風量:1m3/min、ローター回転数:300rpm、噴霧液速度:12g/minで行った。平均粒径が238μmのゼイン被覆粉末を508g得た。
得られたゼラチン被覆粉末400gと実施例1の菜種極度硬化油100gを使用し、実施例1と同様に製造した。但し、テンパリング処理は行わなかった。
得られた油脂被覆粉末について、舌触り、呈味強度、打錠試験、保存安定性試験を行った。試験の結果を表2に示す。
【0047】
比較例8
比較例7と同様に油脂被覆粉末を調製し、45℃で5時間テンパリング処理を行った。
【0048】
比較例9
グルコサミン粉末(焼津水産化学工業(株)製、商品名:ナチュラルグルコサミン、平均粒径108μm)500gを流動層造粒装置(フロイント産業(株)製、商品名:フローコーターミニ)に仕込み、実施例1と同様にしてゼイン溶液を噴霧した。スプレーはトップスプレー式を用いた。運転条件は、給気温度:75℃、給気風量:1m/min、噴霧液速度:30g/minで行い、平均粒径399μmの造粒されたゼイン被覆粉末を490g得た。これを用いて、実施例1と同様にして、硬化油脂被覆、テンパリング処理を行った。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1及び2と比較例1及び2より、ゼイン及び硬化油脂の被覆粉末が味のマスキング効果が高いことがわかる。比較例3より、結晶多形がβ型である硬化油脂粉末を使用すると、味のマスキング効果が弱い。比較例4〜7では、C工程において、適切なテンパリング処理をしないと、味のマスキング効果、保存安定性、打錠性が低いことがわかる。比較例8と実施例7を比較すると、ゼインを使用することにより、良好な硬化油脂被膜が形成され、味のマスキング効果、打錠性、保存安定性を向上させることがわかる。また、比較例9より、造粒され平均粒径が300μmを超えると、舌触りが悪くなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)工程を含み、呈味成分を含有する油脂被覆粉末の製造方法。
(A)呈味成分を含有する粉末にゼインを被覆する工程。
(B)前記(A)工程で得られたゼイン被覆粉末に、平均粒径1〜50μm、融点50〜80℃であり、光源としてCuKα線を用いたX線回折測定における2θ(19°)のピーク強度と2θ(21°)のピーク強度比(19°/21°強度比)が0.6以下である硬化油脂粉末を、粉体温度が45℃以下となる条件で衝突させ、被覆粉末を得る工程。
(C)前記工程(B)で得られた被覆粉末を、35〜60℃において、1時間〜200時間テンパリングする工程。
【請求項2】
請求項1の製造方法により得られた、平均粒径が100〜300μmである油脂被覆粉末。

【公開番号】特開2009−84157(P2009−84157A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251539(P2007−251539)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】