説明

治療剤

【課題】 紅花種子抽出物に種々の医療・薬学的効果が存在することが知られている。例えば、動脈硬化予防、心筋梗塞予防、脳梗塞予防である。本発明の課題は、これら以外の種々の疾病に、とりわけ顕著な効果でもって有効である、紅花種子抽出物を有効成分とする治療剤の提供にある。
【解決手段】 紅花種子抽出物を有効成分とする、抗糖尿病剤、血圧降下剤、抗腫瘍剤、抗アレルギー剤、インフルエンザウイルス感染阻害剤、抗鬱・抗ストレス剤、薬物依存症治療薬、アディポネクチン産生促進剤、カルシウム吸収促進剤、抗骨粗鬆症剤、二日酔い予防又は改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅花種子抽出物を有効成分とする各種治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紅花種子抽出物に種々の医療・薬学的効果が存在することが知られている。例えば、動脈硬化予防、心筋梗塞予防、脳梗塞予防が挙げられる(特許文献1)。しかしながら、紅花種子抽出物が、下記で説明する本発明で適用される種々の疾病に、とりわけ顕著な効果でもって有効であるとの見地はない。
【特許文献1】国際公開WO2005/034975号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、下記で説明する本発明で適用される種々の疾病に、とりわけ顕著な効果でもって有効である各種治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗糖尿病剤である。
請求項2に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、血圧降下剤である。
請求項3に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗腫瘍剤である。
請求項4に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗アレルギー剤である。
請求項5に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、インフルエンザウイルス感染阻害剤である。
請求項6に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗鬱・抗ストレス剤である。
請求項7に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、薬物依存症治療薬である。
請求項8に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、アディポネクチン産生促進剤である。
請求項9に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、カルシウム吸収促進剤である。
請求項10に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗骨粗鬆症剤である。
請求項11に記載の発明は、脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、二日酔い予防又は改善剤である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、下記で説明する本発明で適用される種々の疾病に、とりわけ顕著な効果でもって有効である各種治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明で使用される紅花種子抽出物は公知であり、例えば上記特許文献1に記載されている。
本発明でいう紅花種子とは、種子全体、あるいは、種皮、胚乳、胚芽等からなる一部分であってもよい。
【0007】
まず、「脱脂後の紅花の種子」を得る方法について記載する。紅花の種子を脱脂する方法は、当業界で公知の各種手段を採用することができる。例えば、紅花種子から脂質を圧力下抽出する方法や、紅花種子の破砕物にn−ヘキサン等を加えて抽出する方法が挙げられる。なお、脱脂の程度は60重量%以上であればよい。
【0008】
次に、「脱脂後の紅花の種子を水で洗浄する」方法について説明する。
水は、特に純水である必要はない。例えば蒸留水、水道水、工業用水等を利用できる。また、特許文献1に記載のように水には必要に応じて、無機塩類、酸類、アルカリ類を添加してもよい。水の使用量は、総量として、脱脂後の紅花種子の重量に対して、通常2〜100倍量であればよい。洗浄は、紅花種子と水との接触により行われ、例えば脱脂された紅花種子の破砕物を水に懸濁後、濾過する方法がある。水の温度は室温であればよいが、必要に応じて加熱してもよい。洗浄時間は例えば通常10〜240分である。
【0009】
次に、「洗浄処理物を有機溶媒で抽出する」方法について説明する。
上記のようにして得られた洗浄処理物を、続いて有機溶媒と接触せしめる。
有機溶媒としては、低級アルコール、アセトン及びそれらの混合溶媒等が挙げられる。また有機溶媒含水物であってもよく、この場合、有機溶媒の濃度は、通常20〜95重量%、好ましくは50〜90重量%である。低級アルコールとしては、例えば炭素数1〜4のアルコールが挙げられ、具体的には例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられる。低級アルコールは、食品製造の点からは、エタノールが好ましい。エタノールは、エタノール分を50重量%以上含む含水エタノールあるいは無水エタノールが好ましい。
有機溶媒の使用量は、洗浄処理物に対し、通常2〜40倍量(有機溶媒容量/脱脂後の紅花種子重量)、好ましくは2〜10倍量である。抽出温度は通常20〜75℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は通常10〜240分、好ましくは60〜120分である。
【0010】
有機溶媒での抽出が行われた後、抽出液から固形分を濾過等により除去する。得られた抽出液は、そのまま、あるいは濃縮、乾燥して本発明における紅花種子抽出物として用いられる。また、抽出物は、公知の方法により精製しても良い。
【0011】
上記の方法により得られた本発明の紅花種子抽出物は、特許文献1に開示された内容によれば、セロトニン誘導体(例えばp−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体等)の含有量が総量として多く、且つ、2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ないものとされている。そしてこれらの含量は、p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体を総量として、紅花種子抽出物総量に対して、通常10〜70重量%、好ましくは20〜50重量%で含み、2−ハイドロキシアークチインの含有量が、紅花種子抽出物総量に対して、通常20重量%以下、好ましくは5重量%以下であるとされている。また、上記の方法により得られた本発明の紅花種子抽出物は、p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、通常1:0.05〜0.2であり、好ましくは1:0.01〜0.2であるとされている。
【0012】
本発明の紅花種子抽出物は、ヒト、ヒト以外の動物、鳥類等に適用することが有用である。
【0013】
本発明の紅花種子抽出物の投与量は、組成物の純度、対象人の年齢、体重、健康状態、疾患の種類等によって異なるが、例えば成人1日当たり乾燥物として10mg〜10g、好ましくは、100mg〜10gを1日1回から数回にわけて摂取又は服用するのが好ましい。人以外の動物の場合も、ヒトと同様の投与量が採用され得る。
【0014】
本発明の紅花種子抽出物は、各種健康食品および機能性食品として摂取可能である。これらの例としては、各種のものをあげることができるが、健康食品および機能性食品の製造に関しては、通常用いられる、食品素材、食品添加物に加え、賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、分散剤、保存剤、湿潤化剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化材、カプセル基剤等の補助剤を用いた飲食品製剤形態で利用することができる。該補助剤の具体的な例示をすれば、乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはその塩、アラビアガム、ポリエチレングルコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、プルラン、カラギーナン、デキストリン、還元パラチノース、ソルビトール、キシリトール、ステビア、合成甘味料、クエン酸、アスコルビン酸、酸味料、重曹、ショ糖エステル、植物硬化油脂、塩化カリウム、サフラワー油、ミツロウ、大豆レシチン、香料等が配合できる。このような健康食品、機能性食品の製造に関しては、医薬品製剤の参考書、例えば「日本薬局方解説書(製剤総則)」(廣川書店)等を参考にすることができる。
【0015】
上記以外にも本発明の紅花種子抽出物は飲食品として摂取することができる。具体的には、プリン、クッキー、クラッカー、ポテトチップス、ビスケット、パン、ケーキ、チョコレート、ドーナツ、ゼリーなどの洋菓子、煎餅、羊羹、大福、おはぎ、その他の饅頭、カステラなどの和菓子、冷菓(飴等)、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば、きしめん等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、コーンビーフ等の畜肉製品や、塩、胡椒、みそ、しょう油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、甘味料、辛味料等の調味類や、明石焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きうどん等の鉄板焼き食品や、チーズ、ハードタイプのヨーグルト等の乳製品や、納豆、厚揚げ、豆腐、こんにゃく、団子、漬物、佃煮、餃子、シューマイ、コロッケ、サンドイッチ、ピザ、ハンバーガー、サラダ等の各種総菜や、各種粉末(ビーフ、ポーク、チキン等畜産物、海老、帆立、蜆、昆布等水産物、野菜・果実類、植物、酵母、藻類等)や、油脂類・香料類(バニラ、柑橘類、かつお等)を粉末固形化したものや、粉末飲食品(インスタントコーヒー、インスタント紅茶、インスタントミルク、インスタントスープ、味噌汁等)等の各種食品が挙げることができるが、これらに特に制限されない。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によってさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。本発明で使用される紅花種子抽出物は、抗糖尿病剤、血圧降下剤、抗腫瘍剤、抗アレルギー剤、インフルエンザウイルス感染阻害剤、抗鬱・抗ストレス剤、薬物依存症治療薬、アディポネクチン産生促進剤、カルシウム吸収促進剤、抗骨粗鬆症剤、二日酔い予防又は改善剤としてきわめて有用である。以下、上記各種薬効について実施例でもって説明する。
【0017】
実施例1
抗糖尿病効果
脱脂後の紅花種子0.1kgを攪拌機付き容器にとり、水0.5Lを加え、温度30℃で30分間攪拌し、次いで内容物を室温下、遠心濾過機(200g)にかけて固形分と洗浄液分とに分離した。固形分に水0.5Lを加える洗浄を4回繰り返した。次いでこの洗浄済み種子0.17kgに含水エタノール(水:エタノール=1:9重量比)溶液0.5Lを加え、60℃で1時間攪拌し、内容物を遠心濾過機(200g)にかけて固形分と抽出液分とに分離し、0.5Lの抽出液を得た。この抽出液0.5Lを減圧濃縮後、真空乾燥を行い、紅花種子抽出物2.7gを得た。
【0018】
一方、6週齢の雄性SD系ラット(1群6匹)の尾静脈にストレプトゾトシンを1回投与することにより糖尿病を惹起した。
前記紅花種子抽出物の投与量を500μg/kgとし、ストレプトゾトシン(STZ)投与の1時間前に経口投与し、その翌日より1日1回13日間連続経口投与した。最終投与の翌日に50%グルコース水溶液(10ml/kg)を経口投与し、経時的に血糖値(mg/dl)を測定(o−トルイジン・ホウ酸)した。
【0019】
なお、正常対照群としてSTZを投与せずに滅菌水のみを投与した群、病態対照群としてSTZを投与して滅菌水を投与した群、および陽性対照群としてSTZを投与してニコチン酸アミド(50mg/kg)を投与した群を設けた。ニコチン酸アミドはSTZ糖尿病モデルに対して有効であることが報告されている(新薬開発のための動物利用集成,419−422頁,R&Dプランニング,1985年)。
【0020】
糖尿病は糖代謝能力が低下し高血糖を呈する疾患である。本実施例においてはグルコース投与1時間後に血糖値のピークを認めるが、病態対照群では最高血糖値が360mg/dlであり、正常対照群では最高血糖値は164mg/dlであった。病態対照群の最高血糖値は正常対照群のそれと比較して約2倍を示し、病態対照群では糖代謝能力の低下が認められた。
【0021】
紅花種子抽出物の活性は、式1により病態対照群の血糖値に対する抑制率(%)を算出した。
【0022】
(式1)
抑制率(%)=〔1−(紅花種子抽出物投与群または陽性対照群の最高血糖値−正常対照群の最高血糖値)/(病態対照群の最高血糖値−正常対照群の最高血糖値)〕×100
【0023】
その結果、紅花種子抽出物投与群の抑制率は63.1%であった。陽性対照群の抑制率は43.0%であった。したがって、紅花種子抽出物投与群は、病態対照群に比較して、優れた血糖値の低下が認められ、糖代謝能力が改善されていた。本実施例により紅花種子抽出物が、糖尿病の予防および治療に対して有用であることが明らかである。
【0024】
実施例2
血圧降下効果
実施例1の前記紅花種子抽出物を一般市販飼料(船橋農場製、船橋SP)に0.5重量%添加し、脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHR−SP)を用いて最高血圧値、体重の変化を比較した。対照区は、上記混合物を添加しない一般試料を用いた。A区を対照区、B区を本発明区とし、それぞれの飼料で5週齢の雄性SHR−SPを各区6匹ずつ7週間飼育し、12週齢に達した時の血圧値と体重の変化について調べた。表1に示すように体重の変化に有意差は見られなかったが、血圧の変化においては、本発明区に有意な血圧上昇の抑制が認められた。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例3
抗腫瘍効果
(1)日本チャールスリバー社より4週令、雄性のヌードマウス(SPF/VAFBalb/cAnNCrj−nu)を購入し、1週間予備飼育した。このマウスにヒト大腸がん細胞株HCT116(ATCC CCL−247)を1.5×10細胞/マウスとなるように皮下移植した。
大腸がん細胞株移植2週間目から、実施例1の前記紅花種子抽出物を500μg/ml含む飲料水を自由に摂取させた。マウス1匹当り1日平均3.5ml摂取していた。また飼育用餌としてオリエンタル酵母社製のMFを自由に摂取させた。
実施例1の前記紅花種子抽出物投与開始後4週間目に投与群の各マウスの固形がんを摘出し、その重量を、通常の飲料水を摂取させた対照群の固形がん重量と比較した。なお、本試験は各群10匹で行った。
その結果、制がん試験用被検液の経口投与群において有意のがん増殖抑制が認められた。
(2)5週齢の雌性ddY系マウス(体重約25g)18匹を用い、エーリッヒ癌を腹腔内投与(1.2×10細胞/マウス)し、30日間観察し、平均生存日数および30日間生存数を算定した。1群6匹でコントロール群、実施例1の前記紅花種子抽出物2mg/kg投与群および20mg/kg投与群の3群を設定した。紅花種子抽出物は、癌投与の翌日より4日間腹腔内投与した。
結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
以上、紅花種子抽出物は制がん活性を示した。
【0029】
実施例4
抗アレルギー効果
【0030】
(1) RAST法による食物アレルゲン陽性の慢性じんま疹の患者20名(20〜22歳の男性10名及び女性10名)に、1回の食事と共に実施例1の前記紅花種子抽出物を1g、1カ月投与した。結果を以下の表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
(2) RAST法によるアトピー性皮膚炎患者20名(20〜22歳の男性10名及び女性10名)に、1回の食事と共に実施例1の前記紅花種子抽出物を1g、1カ月投与した。結果を以下の表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
上記のように、紅花抽出物には抗アレルギー効果が認められた。この効果は、ダニアレルギー、花粉症にも見られる。
【0035】
実施例5
インフルエンザウイルス感染阻害効果
紅花種子抽出物の抗インフルエンザウイルス効果について、FFU assay(Focus Forming Unit Assay)により阻害率を測定し評価した。対象としたウイルスは、H5N1のトリインフルエンザウイルス(A/Kyoto/04)を用いた。
【0036】
まず、96穴マイクロプレートに実施例1の紅花種子抽出物を水に分散させた1%希釈液を50μl入れた。次に、トリインフルエンザウイルスを約200FFU/50μl MEM加え、混和し30分静置した。そして、96穴マイクロプレートに培養したMDCK細胞を加え、上記トリインフルエンザウイルスを感染させ、16時間培養した。その後、細胞をエタノールで固定し、抗A型NP(核蛋白質)モノクローナル抗体を用いて酵素抗体法により感染細胞(1FFU=1感染性ウイルス)を染色し、感染細胞数を数え、下記式により、トリインフルエンザウイルスの感染率(%)を測定した。
感染率(%)=(紅花種子抽出物を添加したウエルのFFU)/(紅花種子抽出物を添加しないウエルのFFU) × 100
【0037】
その結果、感染率は4%であり、紅花種子抽出物のインフルエンザ感染阻害効果が確認された。なお、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68(H3N2)を用いた場合も同様の結果を得た。
【0038】
実施例6
抗鬱・抗ストレス効果
マウス強制水泳試験による精神安定作用の評価
本実施例の抗鬱・抗ストレス評価は、1977年にPorsoltにより開発されたマウス強制水泳試験を採用した。本試験は鬱病の動物モデル実験として最も多用される方法のひとつである。本試験では、マウスをある限られたスペースの中で強制的に泳がせて「無動状態」を惹起させる。この無動状態は、ストレスを負荷された動物が水からの逃避を放棄した一種の「絶望状態」を反映するものと考えられ、ヒトにおける鬱状態、ストレス状態と関連づけられている。事実、抗鬱薬は特異的にこの状況下における無動状態の持続時間を短縮させることがわかっており、この短縮作用は臨床力価との間に有意な相関を有することが認められている。
【0039】
本試験方法は次のとおりである。
25℃の水を深さ15cmまで入れたプラスチック円筒中でマウスを強制水泳させる。5分間の強制水泳後、30℃の乾燥機中で15分間乾燥し、ホームケージに戻す。翌日マウスに試験試料を腹腔内投与して、その1時間後に再び5分間の強制水泳を課し、現れた無動状態の持続時間をストップウォッチを用いて測定する。マウスが水に浮かんで静止している状態を無動状態と判定する。無動状態持続時間については有意差検定を行い、統計学的に有意差を検定する。実験には雄のddYマウスを使用し、1群6匹とする。なお、試験は全て午後1時から午後6時の間に行う。また、ポジティブコントロールとして抗鬱薬であるイミプラミンを用いた試験も行う。
【0040】
その結果、実施例1の紅花種子抽出物を30mg/kg投与したマウスの無動状態持続時間は、171.2±7.0秒であった。コントロール(生理食塩水のみ)は215.0±2.2秒であった。ポジティブコントロール(30mg/kg投与)のマウスの無動状態持続時間は、176.5±4.0秒であった。本実施例およびポジティブコントロールの無動状態持続時間は、危険率1%で有意差を有する。
【0041】
実施例7
アルコール依存に対する紅花種子抽出物の効果の検討を行った。すなわち、Pharmacology Biochemistry and behavior,第35巻,第485〜487頁,1990年に記載の方法に従って試験を行った。
【0042】
(1)薬物用量
実施例1の紅花種子抽出物を、各試行においてエタノール投与の30分前に100mg/kg経口投与した。
(2)実験方法
動物はウイスター系雄性ラットの8〜9週齢のものを使用した。動物は1群10匹とした。実験装置は幅30cm、長さ60cm、高さ30cmのアクリル板製の2−compartments boxで、区画は中央に設置されているギロチンドアにより白及び黒区画に等分割されている。さらに、その床面は白区画では滑り難く、一方黒区画では滑り易く加工した、いわゆる白、黒の視覚刺激と床面の触覚刺激の両方を兼ね備えたシャトルボックスを用いた。
条件づけは1日1回、6日間行った。ラットにエタノール(0.5あるいは1g/kg)あるいは生理食塩液を処置後、一方の区画内に50分間入れ、翌日は前日とは異なる処置をしてもう一方の区画内に50分間入れるという試行を3回繰り返した。なお、条件づけ手順の差による結果への影響を最小限にするため、カウンターバランス方式を用い、即ちエタノール処置群、生理食塩液処置群と白あるいは黒区画との組合せについては、4通りの組合せを行った。
【0043】
1)エタノールと白、次の日は生理食塩液と黒
2)生理食塩液と黒、次の日はエタノールと白
3)エタノールと黒、次の日は生理食塩液と白
4)生理食塩液と白、次の日はエタノールと黒
また、対照として、エタノール処置の代わりに生理食塩液を投与した群を設け同様に条件付けを行った。
【0044】
6日間の条件づけ試行の後、15分間、各区画における滞在時間を測定する試験試行を行った。条件づけしたラットにはエタノール、生理食塩液のいずれの投与も行わず、装置には区画分割部であるボックス中央部に、白黒の中間色である灰色の金網製プラットフォーム(幅2cm,長さ5cm)を設置した。滞在時間の測定は、プラットフォーム上にラットを乗せ、その後、ラットが床に降り、自由に白黒両区画を行き来できる状況になってから15分間、ラットの前足と頭部が区画内に入っている時間をその区画における滞在時間として測定した。なお、薬物処置区画に対する欲求効果、即ちplace preferenceは、薬物処置区画の滞在時間から生理食塩液処置区画の滞在時間を引いた値で求めた。
【0045】
結果を表5に示す。エタノール処置区画に対する欲求効果は用量依存的に増加した。本実施例の試験試料はエタノール依存を抑制した(表5)。本実施例の試験試料は有意な効果を示した。なお、別実験では、本発明の試験試料は用量依存的にエタノール依存を抑制できることも確認されている。
【0046】
【表5】

【0047】
実施例8
アディポネクチン産生上昇確認試験
正常ヒト前駆脂肪細胞を使用し、1.0×10個となるように96ウェルマイクロプレートに播種した。播種培地にはヒト前駆脂肪細胞基礎培地を用いた。24時間後に分化誘導添加剤と実施例1の紅花種子抽出物を加えた増殖培地に交換し、さらに1週間培養した。その後、培養上清中に産生されたアディポネクチン量をELISA法により定量した。各試料の評価結果を、ブランク(試料未添加)のアディポネクチン量を100とした場合の相対値にて下記に示す。なお、添加した紅花種子抽出物濃度は、10μg/mlであった。
【0048】
上記試験結果:相対値=379。この数値は、危険率1%で有意差を有する。
【0049】
実施例9
カルシウム吸収促進試験
9週齢のSD計雄性ラット6匹を1群とし、セルロースを10重量%含む対照食を対照群、このセルロースの10重量%の一部を実施例1の紅花種子抽出物(試験試料)に置き換えたものを実施例9群とした。なお、実施例9群において、前記実施例1の紅花種子抽出物は、摂取量として1日平均500μg/kgとなるように、実験飼料中の試験試料の濃度を調整した。なお、実験飼料は2時間おきに交換した。
【0050】
【表6】

【0051】
水と対照食あるいは実施例9の飼料を5日間自由に摂取させ、給餌開始後3日目より2日間出納実験を行った。飼料摂取量は給餌した飼料の重量から残された飼料の重量を差し引くことにより求めた。出納実験終了後、糞を採取し、110℃の恒温器内で3時間乾燥させた。この糞を粉砕機で砕き、さらに乳鉢で細かくすり潰した後、3Nの塩酸に溶解し、カルシウムの含有量を市販のカルシウム測定キットを用いて測定し、糞中のカルシウム含有率を求めた。各実験飼料中のカルシウム含有率は0.536%であり、下式によりカルシウム(Ca)の見かけの吸収率を算出した。
【0052】
【数1】

【0053】
その結果、カルシウム吸収率は対照群が48.50±2.55(%)であったのに対し、実施例9群が60.89±3.21(%)であり、危険率1%で有意差が示された。
【0054】
実施例10
骨粗鬆症改善効果試験
SD系ラット(22週齢)メスの卵巣を外科的に取り除き、骨粗鬆症のモデルラットを作成した。卵巣摘出ラットを7匹ずつ6群に分け、35日間の試験期間中、1日置きに(計17回)、実施例1の紅花種子抽出物を、500μg/kgとなるように生理食塩水に分散させて経口投与した。飼料はオリエンタル酵母株式会社のマウス・ラット・ハムスター用固形飼料CRF−1を用い、給餌および給水方法は自由摂取とした。試験期間中、各群間で、餌の摂取量に差は認められなかった。試験開始後35日目にラットの体重を測定した後、大腿骨を取り出した。大腿骨は、接着組織および筋肉を取り除いて分析に使用した。大腿骨の体積を測定した後、エタノールで3回洗浄し、次にアセトンで3回洗浄したのち、一晩乾燥し、その後、重量を測定して大腿骨の乾燥重量を求めた。体積および乾燥重量から、骨密度(乾燥重量g/体積mm3 )を測定した。なお対照実験として、前記試験試料を含まない生理食塩水をラットに投与したこと以外は、上記実験を繰り返した例(比較例)も併せて、その結果を表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
実施例10と比較例とを対比したところ、実施例10はp<0.05の危険率で有意差が認められた。
【0057】
実施例11
二日酔い改善効果試験
以下の処方にてジュースを調製した。
冷凍濃縮オレンジ果汁 5.0質量部
果糖ブドウ糖液糖 1.0質量部
クエン酸 0.10質量部
L−アスコルビン酸 0.09質量部
実施例1の紅花種子抽出物 (適当量)
【0058】
エタノールパッチテストでアルデヒド脱水素酵素欠損型と判定された健常人5名(年齢25〜32才、男性3名、女性2名)をパネルとし、上記ジュースおよび上記ジュースから紅花抽出物を除いた対照ジュースを用いた。なお、上記ジュースにおける実施例1の紅花種子抽出物の量は、下記の試験において摂取量が500mgとなるようにした。
【0059】
ジュースおよび対照ジュース服用後20分にビール(アルコール濃度約 5.5%)135ml を飲酒させて、飲酒後20分での自覚症状を質問票で回答させた。
パネルテストは順序効果を考慮し、ブラインドで行い、同一時間帯に日を変えて実施した。
自覚症状の評価は1〜5(1:症状なし、2:やや症状あり、3:症状あり、4:ややひどい、5:ひどい)の5段階で行い、Paired-t 検定により有意差を検定した。
【0060】
結果を以下に示す。実施例11のジュースは、危険率 5%で酔いの程度および顔のほてりを改善し、悪酔いを予防することが明らかになった。
【0061】
ジュースおよび対照ジュースの悪酔い予防効果(平均値)
実施例11のジュース:
酔いの程度2.2*
顔のほてり2.0*
心臓の鼓動2.5
眠気の程度3.3
対照ジュース:
酔いの程度3.5
顔のほてり3.7
心臓の鼓動3.3
眠気の程度3.4
*:対照ジュースに比べて有意差あり(P<0.05)
【0062】
なお、菜種、大豆等の種子抽出物(上記紅花種子抽出物に適用される同じ抽出方法によって得られた抽出物)についても、上記紅花種子抽出物ほどではないものの、上記各種疾病に対する改善効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗糖尿病剤。
【請求項2】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、血圧降下剤。
【請求項3】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗腫瘍剤。
【請求項4】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗アレルギー剤。
【請求項5】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、インフルエンザウイルス感染阻害剤。
【請求項6】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗鬱・抗ストレス剤。
【請求項7】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、薬物依存症治療薬。
【請求項8】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、アディポネクチン産生促進剤。
【請求項9】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、カルシウム吸収促進剤。
【請求項10】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、抗骨粗鬆症剤。
【請求項11】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物を有機溶媒で抽出して得られた紅花種子抽出物を有効成分とする、二日酔い予防又は改善剤。

【公開番号】特開2009−126786(P2009−126786A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299595(P2007−299595)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(707000691)辻堂化学株式会社 (104)
【Fターム(参考)】