説明

治療方法および化合物

本発明は式Iのジケトピペラジン類を提供する。また、本発明は、ジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグを活性成分として含む医薬組成物も提供する。さらに、本発明は、式Iのジケトピペラジン類を利用する治療処置であって、増殖性疾患または状態の抑制、血管新生の抑制、血管新生疾患および状態の処置、癌および前癌性状態の処置、線維性疾患の処置、ウィルス感染の処置、Akt介在疾患または状態の処置、マトリックス・メタロプロテイナーゼ−9の産生、放出またはその両方の抑制、およびAkt活性化の抑制を含む治療処置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジケトピペラジン類および活性成分としてこれを含む医薬組成物に関する。また、本発明は、ジケトピペラジン類を利用する治療処置であって、増殖性疾患または状態の抑制、血管新生の抑制、血管新生疾患および状態の処置、癌および前癌性状態の処置、線維性疾患の処置、ウィルス感染の処置、Akt活性化の抑制、Akt介在疾患または状態の処置、およびマトリックス・メタロプロテイナーゼ−9の産生、放出またはその両方の抑制を含む治療処置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジケトピペラジン類は、種々の生化学活性を発揮することが報告されている。例えば、米国特許第3,941,790号(癌の処置)、同第4,289,759号(免疫調節剤)、同第4,331,595号(免疫調節剤)、同第4,940,709号(血小板活性化因子(PAF)拮抗薬)、同第5,700,804号(プラスミノーゲン活性化因子抑制剤の抑制剤)、同第5,750,530号(プラスミノーゲン活性化因子抑制剤の抑制剤)、同第5,990,112号(メタロプロテアーゼの抑制剤)、同第6,537,964号(多剤耐性癌の治療用の化学感作拮抗薬)、同第6,555,543号(インターロイキン8(IL−8)の産生および/または放出、ならびに炎症の抑制剤)、および同第6,815,214号(例えば癌および喘息に関係する炎症性状態の処置)、PCT出願WO97/36888号(ファルネシル−タンパク質トランスフェラーゼの抑制剤)、同WO98/9968号(感染、癌および他の悪性疾患の処置)、同WO99/40931号(中枢神経系損傷の処置)および同WO04/87162号(薬品耐性癌の治療剤)、EP出願第43219号(免疫調節剤)、日本国出願第63 290868号(PAF拮抗薬)、日本国出願第31 76478号(免疫抑制剤)、日本国出願第51 63148号(抗悪性腫瘍剤)、Shimazakiら,Chem.Pharm.Bull,35(8),3527−3530(1987)(PAF拮抗薬)、Shimazakiら,J.Med.Chem.,30,1709−1711(1987)(PAF拮抗薬)、Shimazakiら,Lipids,26(12),1175−1178(1991)(PAF拮抗薬)、Yoshidaら,Prog.Biochem.Pharmacol,22,68−80(1988)(PAF拮抗薬)、Alvarezら,J.Antibiotics,47(11),1195−1201(1994)(カルパインの抑制剤)を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,941,790号明細書
【特許文献2】米国特許第4,289,759号明細書
【特許文献3】米国特許第4,331,595号明細書
【特許文献4】米国特許第4,940,709号明細書
【特許文献5】米国特許第5,700,804号明細書
【特許文献6】米国特許第5,750,530号明細書
【特許文献7】米国特許第5,990,112号明細書
【特許文献8】米国特許第6,537,964号明細書
【特許文献9】米国特許第6,555,543号明細書
【特許文献10】米国特許第6,815,214号明細書
【特許文献11】国際公開WO1997/036888号公報
【特許文献12】国際公開WO1998/009968号公報
【特許文献13】国際公開WO1999/040931号公報
【特許文献14】国際公開WO2004/087162号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shimazakiら,Chem.Pharm.Bull,35(8),3527−3530(1987)
【非特許文献2】Shimazakiら,J.Med.Chem.,30,1709−1711(1987)
【非特許文献3】Shimazakiら,Lipids,26(12),1175−1178(1991)
【非特許文献4】Yoshidaら,Prog.Biochem.Pharmacol,22,68−80(1988)
【非特許文献5】Alvarezら,J.Antibiotics,47(11),1195−1201(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ジケトピペラジン類及び活性成分としてこれを含む医薬組成物、及びジケトピペラジン類を利用した治療処置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の式で表わされるジケトピペラジンを提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、
は、
(a)アミノ酸の側鎖であって、ここで、アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリン、フェニルアラニン、p−アミノフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、チロキシン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、ペニシラミンまたはオルニチンであるアミノ酸の側鎖、
(b)−CH−CH−CH−または−CH−CH(OH)−CH−、および隣接する環窒素と一緒になって形成されるプロリンまたはヒドロキシプロリン、または
(c)アミノ酸の側鎖の誘導体であって、ここで、アミノ酸は(a)で列挙したアミノ酸の1つであり、誘導体化側鎖は、
(i)−NHRまたは−N(R基で置き換えられた−NH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(ii)−O−POまたは−OR基で置き換えられた−OH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iii)−COOR基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iv)−CON(R基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(v)−S−S−CH−CH(NH)−COOHまたは−S−S−CH−CH−CH(NH)−COOHで置き換えられた−SH基、
(vi)−CH(NH)−または−CH(OH)−基で置き換えられた−CH−基、
(vii)−CH−NHまたは−CH−OH基で置き換えられた−CH基、および/または
(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、
を有するアミノ酸の側鎖の誘導体であり、
は、式II、IIIまたはIV:
【0009】
【化2】

【0010】
式中、
各Rは、独立して、アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、カルボキシル、ヒドロキシル、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホまたはスルフヒドリルであり、ここで、アルキルは、場合によっては、ヒドロキシル、アミノまたはスルフヒドリルで置換されており、
nは0〜5であり、
は、水素または低級アルキルである。)
本発明は、また、医薬的に許容しうる担体と活性成分とを含む医薬組成物であって、活性成分は式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグである医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明はさらに、増殖性疾患または状態を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0012】
加えて本発明は、血管新生を抑制する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0013】
本発明はさらに、血管新生疾患または状態を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0014】
加えて、本発明は、癌を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0015】
本発明はさらに、前癌性状態を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0016】
本発明また、線維性疾患を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0017】
加えて、本発明は、ウィルス感染を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【0018】
本発明はまた、細胞によるマトリックス・メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)の産生、放出またはその両方を抑制する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、該細胞に接触させることを含む。
【0019】
加えて、本発明は、細胞によるAktの活性化(リン酸化)を抑制する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、該細胞に接触させることを含む。
【0020】
本発明はさらに、Akt介在疾患または状態を治療する方法を提供する。該方法は、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステル(Cpd.5)の合成を説明した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、以下の式Iで表わされるジケトピペラジン類を提供する。
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、
は、
(a)アミノ酸の側鎖であって、ここで、アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリン、フェニルアラニン、p−アミノフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、チロキシン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、ペニシラミンまたはオルニチンであるアミノ酸の側鎖、
(b)−CH−CH−CH−または−CH−CH(OH)−CH−、および隣接する環窒素と一緒になって形成されるプロリンまたはヒドロキシプロリン、または
(c)アミノ酸の側鎖の誘導体であって、ここで、アミノ酸は(a)で列挙したアミノ酸の1つであり、誘導体化側鎖は、
(i)−NHRまたは−N(R基で置き換えられた−NH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(ii)−O−POまたは−OR基で置き換えられた−OH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iii)−COOR基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iv)−CON(R基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(v)−S−S−CH−CH(NH)−COOHまたは−S−S−CH−CH−CH(NH)−COOHで置き換えられた−SH基、
(vi)−CH(NH)−または−CH(OH)−基で置き換えられた−CH−基、
(vii)−CH−NHまたは−CH−OH基で置き換えられた−CH基、および/または
(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、
を有するアミノ酸の側鎖の誘導体であり、
は、式II、IIIまたはIV
【0025】
【化4】

【0026】
式中、
各Rは、独立して、アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、カルボキシル、ヒドロキシル、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホまたはスルフヒドリルであり、ここで、アルキルは、場合によっては、ヒドロキシル、アミノまたはスルフヒドリルで置換されており、
nは0〜5であり、
は、水素または低級アルキルである。)
は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリン、フェニルアラニン、p−アミノフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、チロキシンまたはオルニチンの側鎖、またはこれらの側鎖のうちの1つの誘導体が好ましい。
【0027】
より好ましくは、Rは、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリンまたはオルニチンの側鎖、またはこれらの鎖のうちの1つの誘導体である。
【0028】
さらにより好ましくは、Rは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシン、より好ましくはグリシンまたはアラニン、最も好ましくはグリシンの側鎖である。
【0029】
好ましくは、Rは、式IIまたはIIIで表わされ、最も好ましくは式IIで表わされる。
は、アリール、ヘテロアリールまたはアリールオキシが好ましい。より好ましくは、Rは、アリールまたはアリールオキシである。最も好ましくは、Rは、フェニルまたはフェノキシである。
【0030】
nは1〜3が好ましい。最も好ましくは、nは1である。nが1の場合、Rは、環上の4(パラ)位にあるのが好ましい。
は好ましくはメチルである。
【0031】
最も好ましい化合物は、ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステル(本明細書では、「Cpd.5」と言う)である。
アミノ酸側鎖の式に関して「置き換えられた」は、特定の基が他の特定の基によって置き換えられることを意味する。例えば、イソロイシン側鎖の式は−CH(CH)−CH−CHである。もし末端基−CHが−CH−OH基で置き換えられると、得られる誘導体化されたイソロイシン側鎖の式は、−CH(CH)−CH−CH−OHとなる。他の例として、アラニン側鎖の式は−CHである。もし水素原子の1つが塩素原子で置き換えられるとすれば、得られる誘導体化されたアラニン側鎖は、−CH−Clとなる。グリシンの側鎖が−Hで、もしこのHが塩素(または他のハロゲン)原子で置き換えられるとすれば、得られる側鎖は−Clとなり、該塩素原子は、環炭素に結合する(例えば、R=−Cl)ことに留意されたい。
【0032】
アミノ酸の「側鎖」は、先に挙げたアミノ酸の全てに共通のNH−CH−COOH骨格に結合するアミノ酸の部分を意味する。例えば、グリシンの側鎖は−Hであり、アラニンの側鎖は−CHであり、セリンの側鎖は−CHOHである。
【0033】
「アシル」は、式:−C(O)R(式中、Rは、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールである)の部分を意味する。
「アルコキシ」は、式:−OR(式中、Rはアルキルである)の部分を意味する。アルコキシ基の例として、メトキシ(−O−CH)がある。
【0034】
「アルキル」は、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜8個の炭素原子を含有する、1価で直鎖または分岐状の飽和炭化水素を意味する。各アルキルは、場合によっては、1個以上のアミノ、ヒドロキシルまたはスルフヒドリル基で置換されてもよい。「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子を含有する、1価で直鎖または分岐状の飽和炭化水素を意味する。
【0035】
「アルキルアリール」は、アリールで置き換えられたHを有する低級アルキル(例えば、−CH−Cまたは−CHCH(C)CH)を意味する。
「アミノ」は、式:−NR10(式中、RおよびR10は、それぞれ独立して、Hまたは低級アルキルである)の部分を意味する。
【0036】
「アリール」は、6〜14個の環炭素原子を有する、1価の一、二または三環式芳香族炭化水素部分を意味する。フェニルが好ましい。
「アリールオキシ」は、式:−OR11(式中、R11はアリールである)の部分を意味する。フェノキシが好ましい。
【0037】
「アリールアルキル」は、低級アルキルで置き換えられたHを有するアリール(例えば、−C−CH)を意味する。
「カルボキシル」は、−COOHを意味する。
【0038】
「シクロアルキル」は、3〜10個の環炭素原子を有する1価の一または二環式飽和炭化水素部分を意味する。4〜8個の環炭素原子を含有するシクロアルキルが好ましい。最も好ましいシクロアルキルは、シクロヘキシルである。
【0039】
「ハロゲン」は、塩素、フッ素、臭素またはヨウ素を意味する。塩素または臭素が好ましい。
「ヘテロアリール」は、O、SまたはNで置き換えられた環炭素原子を少なくとも1個、好ましくは3個以下有するアリールを意味する。
【0040】
「ヘテロシクロアルキル」は、O、SまたはNで置き換えられた環炭素原子を少なくとも1個、好ましくは3個以下有するシクロアルキルを意味する。
「ヒドロキシル」は−OHを意味する。
【0041】
「ニトロ」は−NOを意味する。
「置換された」は、ある部分が、以下の基、−OH、NH、−SH、−COOHおよび/またはハロゲン原子から選択される1個以上の置換基によって置換されることを意味する。
【0042】
「スルフヒドリル」は−SHを意味する。
「スルホ」は−SOHまたはSOを意味する。
ジケトピペラジン類を製造する方法は、当該分野で周知であり、これらの方法を使用して、本発明のジケトピペラジン類を合成することができる。例えば、米国特許第5,817,751号、第5,932,579号、第5,990,112号、第6,395,774号、第6,555,543号および第7,288,345号、米国特許出願公開公報第2004/00132738号および第2004/0024180号、PCT出願第WO96/00391号およびWO97/48685号、Smithら,Bioorg.Med.Chem.Letters,8,2369−2374(1998)、Prakashら,Bioorg.Med.Chem.Letters,10,3034−3048(2002)、Fischer,J.Peptide Sci.,9,9−35(2003)、およびZengら,Bioorg.Med.Chem.Letters,15,3034−3038(2005)を参照のこと。これらの参考文献の全開示は、本発明のジケトピペラジン類を合成する例示的な方法として参照によって本明細書に組み込まれる。
【0043】
例えば、ジケトピペラジンは、先ず、ジペプチドを合成することによって調製する。ジペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸またはD−およびL−アミノ酸の混合物を使用して、当該分野で周知の方法によって合成することができる。固相ペプチド合成方法が好ましい。もちろん、ジペプチド類、DMI Synthesis Ltd.、Cardiff,UK(受託合成)、Sigma−Aldrich,St.Louis,MO(基本的に受託合成)、Phoenix Pharmaceuticals,Inc.,Belmont,CA(受託合成)、Fisher Scientific(受託合成)およびAdvanced ChemTech,Louisville,KYを始めとする数多くの供給元から市販されている。ジペプチドを合成または購入すれば、これを環化し、ジケトピペラジンを形成する。これは種々の技術で達成することができる。
【0044】
例えば、米国特許出願公開公報第2004/0024180号には、ジペプチドを環化する方法が記載されている。簡単に言えば、水を蒸留によって除去しながら、ジペプチドを有機溶剤中で加熱する。好ましくは、有機溶剤は、低沸点の水との共沸物、例えば、アセトニトリル、アリルアルコール、ベンゼン、ベンジルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、酢酸ブチルエステル、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエタン、ジエチルアセタール、ジメチルアセタール、酢酸エチルエステル、ヘプタン、メチルイソブチルケトン、3−ペンタノ−ル、トルエンおよびキシレンが好ましい。温度は、環化が起こる反応速度および使用する共沸剤のタイプによって決まる。反応は、50〜200℃で行うのが好ましく、より好ましくは80〜150℃である。環化が起こるpH範囲は、容易に当業者によって決定することができる。pH2〜9が、都合がよく、pH3〜7が好ましい。
【0045】
ジペプチドの1つまたは両方のアミノ酸が、その側鎖上にカルボキシル基を有する場合、あるいはその側鎖上にカルボキシル基を有するように誘導体化された場合(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)、該ジペプチドは、米国特許第6,555,543号に記載されるように、環化されるのが好ましい。簡単に言えば、まだ保護されている側鎖カルボキシルを持つジペプチドを、中性条件下で加熱する。通常、ジペプチドは、約80℃〜約180℃、好ましくは約120℃で加熱する。溶剤は中性溶剤である。例えば、溶剤は、アルコール(例えば、ブタノール、メタノール、エタノール、およびフェノール以外の高級アルコール類)、および共沸共溶剤(例えば、トルエン、ベンゼン、またはキシレン)を含んでもよい。アルコールとしてブタン−2−オール、および共沸共溶剤としてトルエンが好ましい。加熱は反応が完了するまで続けられ、その時間は経験的に決定しうる。通常、ジペプチドは約8〜24時間、好ましくは約18時間還流することによって環化されるであろう。最後に、保護基をジケトピペラジンから除去する。その際、最終化合物のキラリティーを維持するために、強酸(鉱酸、例えば、硫酸または塩酸)、強塩基(アルカリ性塩基、例えば、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウム)、および強い還元剤(例えば、水素化リチウムアルミニウム)の使用は避けるべきである。
【0046】
固相樹脂上で製造したジペプチドを、環化し、1ステップで該樹脂から放出することができる。例えば、米国特許第5,817,751号を参照。例えば、結合N−アルキル化ジペプチドを有する樹脂を、酢酸(例えば1%)またはトリエチルアミン(例えば4%)の存在下、トルエンまたはトルエン/エタノール中に懸濁する。通常、環化時間が速くなるので、塩基性の環化条件が好ましい。
【0047】
ジペプチドを環化しおよびジケトピペラジンを製造する他の方法も当該分野で公知であり、本発明の実施において有用なジケトピペラジンの調製において使用することができる。例えば、先に挙げた参考文献を参照のこと。
【0048】
アミノ酸側鎖が誘導体化された式Iのジケトピペラジンを調製するため、アミノ酸誘導体をジペプチドの合成において使用することができ、当該分野で公知のように、該ジペプチドは誘導体化させることができ、および/またはジケトピペラジンは誘導体化させることができる。例えば、先に挙げた参考文献を参照のこと。また、米国特許第5,589,501号、米国特許公開公報第2005/0215468号、ヨーロッパ特許出願第1,445,323号、Changら,J.Med.Chem.,16(11):1277−1280(1973)も参照のこと。これらの参考文献の完全な開示は、R側鎖を有するアミノ酸誘導体(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸誘導体)を製造する例示的な方法として、参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
式Iのジケトピペラジンには、個々のキラル中心、軸または面の配置形態を変えることにより得られる立体異性体の全てが含まれる。言い換えれば、式Iのジケトピペラジンは、可能性のあるジアステレオマの全て、および光学異性体(エナンチオマ)の全てを包含する。
【0050】
式Iのジケトピペラジンが1つ以上のキラル中心を含有する場合、該化合物は、エナンチオ選択的に合成することができ、またはエナンチオマおよび/またはジアステレオマの混合物を調製し、分離することができる。本発明の化合物、それらの出発物質および/または中間体の分割は、例えば、4巻の概論Optical Resolution Procedures for Chemical Compounds:Optical Resolution Information Center,Manhattan College,Riverdale,N.Y.中に、およびEnantiomers,Racemates and Resolutions,Jean Jacques,Andre Collet and Samuel H.Wilen、John Wiley&Sons,Inc.,New York,1981(これらはその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、公知の手順により行ってもよい。基本的に、化合物の分割は、エナンチオマとして純粋な部分の化学的または酵素的な結合による、ジアステレオマの物性の相違に基づき、分画的結晶化、蒸留またはクロマトグラフィにより分離可能な形態となる。
【0051】
式Iのジケトピペラジンの医薬的に許容しうる塩を、本発明の実施において使用してもよい。医薬的に許容しうる塩として、従来の非毒性塩、例えば、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)、有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、アスコルビン酸など)または塩基(例えば、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、D−グルコサミンまたはエチレンジアミンから誘導される、医薬的に許容しうる金属カチオンまたは有機カチオンの水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩)から誘導される塩が挙げられる。塩類は、従来の方法、例えば、化合物の遊離の塩基形態を酸で中和することによって調製される。
【0052】
「プロドラッグ」は、該プロドラッグを動物に投与した場合、生体内で、式Iで表わされる活性な親薬物を放出する任意の化合物を意味する。式Iのジケトピペラジンのプロドラッグは、式Iのジケトピペラジンに存在する1個以上の官能基を、生体内で変性が解離し、親薬物(すなわち、式Iのジケトピペラジン)が放出するような方法で変性することによって調製する。プロドラッグとして、式Iの化合物中のヒドロキシ、アミノまたはスルフヒドリル基が、生体内で開裂を起こし、それぞれ、ヒドロキシル、アミノまたはスルフヒドリル基を生成するような任意の基に結合している、式Iのジケトピペラジンが挙げられる。プロドラッグの例示として、エステル類(例えば、酢酸エステル、ギ酸エステル、および安息香酸エステル誘導体)、式Iの化合物中のヒドロキシ官能基のカルバメート類(例えば、N,N−ジメチルアミノカルボニル)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
前に述べたように、本発明は、増殖性疾患または状態を治療する方法を提供する。増殖性疾患または状態は、細胞の増殖を起こす、増殖によって起こる、増殖に関与する、または増殖によって悪化する疾患または状態である。式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグで治療可能な増殖性疾患および状態として、具体的には、血管増殖異常、癌、メサンギウム細胞増殖異常、線維性疾患および過剰増殖性皮膚障害が挙げられる。
【0054】
血管増殖異常として、血管新生疾患および状態が挙げられる。血管新生疾患または状態は、血管新生を起こす、血管新生によって起こる、血管新生に関与する、血管新生によって悪化する、または血管新生に依存する疾患または状態である。血管新生は、体内で新しい血管が形成する過程である。また、血管新生は、本明細書では、新血管新生、血管新生化、動脈化および脈管形成と同じ意味、またはそれらを含む意味としても使用される。
【0055】
本発明のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグは、血管新生を抑制し、血管新生疾患または状態を治療するために使用することができる。本発明により治療可能な血管新生疾患および状態として、具体的には、腫瘍性疾患(例えば腫瘍(例えば、膀胱、脳、乳房、子宮頸部、結腸、直腸、腎臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、胃および子宮の腫瘍)および腫瘍転移)、良性腫瘍(例えば、血管腫、聴神経腫瘍、神経線維腫、トラコーマおよび発熱性肉芽腫)、肥大(例えば、甲状腺ホルモンによって誘発される心肥大)、結合組織障害(例えば、関節炎およびアテローム性硬化症)、乾癬、眼球血管新生疾患(例えば、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性症、角膜移植後拒絶反応、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症および虹彩血管新生)、循環器疾患、脳血管疾患、子宮内膜症、ポリープ症、肥満、糖尿病関連疾患、血友病性関節症、炎症および自己免疫が挙げられる。本発明のジケトピペラジンは、特に、腫瘍性疾患および眼球血管新生疾患(とりわけ、糖尿病性網膜症および黄斑変性症)の処置に有用である。また、本発明のジケトピペラジンは、胚移植に必要とされる血管新生化の抑制に使用することもでき、これによって産児制限の方法を提供することもできる。
【0056】
本発明はまた、癌または前癌性状態を治療する方法も提供する。式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグを使用して治療可能な癌として、カルシノーマ、サルコーマ、骨肉種、リンパ腫、白血病、血液悪性腫瘍、癌症候群、悪性腫瘍および転移が挙げられる。本発明により治療可能な癌として、具体的には、脳腫瘍、頭頸部癌、乳癌、噴門癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、泌尿生殖器癌、前立腺癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、甲状腺癌、肝癌、肺癌、骨癌、皮膚癌およびカポジ肉腫が挙げられる。本発明により治療可能な癌症候群として、具体的には、バンナヤン・ゾーナーナ(Bannayan−Zonana)症候群、カウデン病およびレルミット・デュクロス(Lhermitte−Duclos)病が挙げられる。本発明により治療可能な悪性腫瘍として、具体的には、膀胱、骨、脳、乳房、子宮頸部、結腸、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ組織、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、甲状腺、泌尿生殖器および子宮の悪性腫瘍が挙げられる。
【0057】
本発明のジケトピペラジンは、乳癌およびメラノーマの処置、および転移の処置にとりわけ有用である。また、本発明のジケトピペラジンは、原発性腫瘍および転移性(続発性)腫瘍を含む悪性脳腫瘍の処置にも非常に有用である。全原発性脳腫瘍のおよそ半分は膠腫である。膠腫として、星状細胞腫(例えば、毛様細胞性星状細胞腫、悪性度の低い星状細胞腫、未分化(悪性度の高い)星状細胞腫および多形神経膠芽腫)、脳幹神経膠腫、上衣腫、神経節腫、若年性毛様細胞性膠腫、混合膠腫、乏突起神経膠腫および視神経膠腫が挙げられる。神経膠芽腫は、大人の悪性脳腫瘍中最も一般的なものであり、おそらく、治療する全ての癌の中で最も困難なものである。他の原発性脳腫瘍として、頭蓋咽頭腫、髄芽腫、松果体腫瘍、下垂体腺腫、原始神経外胚葉性腫瘍および血管腫瘍が挙げられる。転移性脳腫瘍は、体の他の部分から脳に広がった腫瘍である。脳に転移する最も一般的な癌として、乳癌、メラノーマおよび肺癌が挙げられる。転移性脳腫瘍は脳腫瘍の最も一般的な形態であり、原発性脳腫瘍に対して数で大きく圧倒している。
【0058】
式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグで治療可能な前癌性状態として、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、子宮頸部病変、皮膚母斑症(プレ−メラノーマ)、前立腺上皮細胞内(管内)新生物、腺管上皮内癌、胃のヘリコバクター・ピロリ菌感染、結腸ポリープ、肝臓における重症肝炎または肝硬変(とりわけ、ウィルスにより誘発される肝炎)および他の癌に進行するおそれのある前悪性状態が挙げられる。
【0059】
メサンギウム細胞増殖異常は、メサンギウム細胞の異常増殖により引き起こされる障害を言う。メサンギウム細胞増殖異常として、糸状体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症症候群および糸球体症のような腎疾患が挙げられる。
【0060】
線維性疾患は、細胞外マトリックスの異常形成、望まないまたは過剰線維症、またはこれらの両方を起こす、これらによって起こる、これらに関連する、またはこれらによって悪化する疾患または状態である。線維性疾患は、例えば、皮膚、肝臓、腎臓、心臓または肺組織で起こりうる。線維性疾患として、瘢痕(例えば、ケロイドの形成および肥厚性瘢痕)、強皮症、腎臓線維症(例えば、糸球体硬化症または尿細管間質線維症)、肺線維症(突発性肺線維症を含む)、心線維症、化学療法/放射線療法誘発肺線維症、膵炎、アテローム性硬化症、再狭窄、炎症性腸疾患、クローン病、関節炎、癌(例えば、浸潤性乳癌、ストローマ・リッチ乳房腫瘍、皮膚線維腫、血管脂肪腫および血管平滑筋腫)、筋膜炎、一般的な線維症症候群(正常な筋肉組織が様々な程度で線維組織に置き換わることを特徴とする)、肝臓線維症(例えば、肝硬変)、急性線維症(例えば、事故による外傷、感染、手術、火傷、放射線療法または化学療法処置を始めとする、種々のトラウマの形態に応答して)、黄斑変性症および糖尿病性網膜症が挙げられる。
【0061】
過剰増殖性皮膚障害として、乾癬、皮膚癌および上皮性過剰増殖が挙げられる。
また、本発明のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグは、ウィルス感染の治療に使用することもできる。本発明により治療可能なウィルス感染として、具体的に、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、風疹ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、ヒトヘルペスウィルス4(エプスタイン・バーウィルス)、ヒトヘルペスウィルス5(ヒトサイトメガロウィルス、HCMV)、ヒトヘルペスウィルス8(カポジ肉腫関連ヘルペスウィルス、KSHV)、ヒト・パピローマウィルス(HPV)、ポリオーマウィルス、ヒト呼吸器多核体ウィルス(RSV)、アデノウィルスおよびインフルエンザウィルスによって起こる感染が挙げられる。
【0062】
また本発明は、細胞によるマトリックス・メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)の産生、放出またはこれらの両方を抑制する方法も提供する。該方法は、細胞を、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量に接触させることを含む。当該分野で公知のいかなる方法によっても、細胞をジケトピペラジンに接触させることができる。特に、有効量のジケトピペラジンを動物に投与することによって、細胞をジケトピペラジンに生体内で接触させることができる。
【0063】
MMP−9を産生および/または放出する細胞として、腫瘍内またはその周りに見出される細胞が挙げられる。そのような細胞として、腫瘍細胞そのもの、間質細胞、好酸球、マクロファージ、好中球および内皮細胞が挙げられる。Thiennu H.VuおよびZena Werb、Matrix Metalloproteinases中の「Gelatinase B:Structure,Regulation,and Function」115−148頁(Academic Press,Editors William C.Parks and Robert P.Mecham、1998)参照。また、MMP−9を産生および/または放出する細胞は、炎症に関与する細胞も含む。例えば、Id.,Solakiviら,Lipids in Health and Disease,8(11)(Epub2009年3月30日),Luら,J.Leukocyte Biol.,78:259−265(2005)およびAminら,Genes Cells,8:515−523(2003)参照。
【0064】
また、本発明は細胞によるAktの活性化を抑制する方法も提供する。該方法は、細胞を、式Iのジケトピペラジンあるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量に接触させることを含む。当該分野で公知のいかなる方法によっても、細胞をジケトピペラジンに接触させることができる。特に、有効量のジケトピペラジンを動物に投与することによって、細胞をジケトピペラジンに生体内で接触させることができる。
【0065】
タンパク質キナーゼは、成長因子、ホルモンおよび細胞の成長、生存および代謝の他の細胞制御分子を連絡するシグナル伝達経路に関与する。そのようなタンパク質キナーゼの1つがAktキナーゼである。タンパク質キナーゼBとしても知られるAktキナーゼは、幅広い細胞型の増殖および生存を促進し、それによってアポトーシスから細胞を保護することにおいて中心的な役割を果たすセリン/スレオニンキナーゼである。数多くのタンパク質キナーゼおよびホスファターゼがAktの活性を制御している。例えば、Aktの活性化は、ホスファチジルイノシトール3’−OHキナーゼ(PI3キナーゼまたはPI3K)によってもたらされる。活性化PI3Kは、細胞膜の内側でホスファチジルイノシトール−3,4,5−トリホスフェート(PI(3,4,5)P)を産生する。PI(3,4,5)Pの増加によってAktは内膜に引き付けられ、そこで活性化される。またAktは、PI3Kとは無関係の成長シグナルによっても活性化されうる。Aktを完全に活性化するためには、2種類の異なるキナーゼによる2箇所の部位でのリン酸化が必要である。
【0066】
活性化Aktは、細胞増殖、成長および生存の制御に関与する数多くの基質の機能、および細胞周期エントリーおよび進行の機能を調節し、活性化Aktは、転写、分化、代謝、アポトーソス、遊走、転移、血管新生および線維化を始めとする、数多くの細胞内プロセスの調節に関与する。結果として、Aktは、数多くの疾患および状態においてある役割を果たす。
【0067】
特に、Aktは、癌において中心的な役割を果たすことが知られている。Aktの活性化は、乳房、卵巣、脳、前立腺、皮膚およびリンパ組織を始めとする多くのタイプの組織における腫瘍化の一因となる。種々の癌、例えば、卵巣、乳房、前立腺、膵臓、胃、結腸直腸、脳、甲状腺、肺、皮膚、白血病および未分化腫瘍において、活性化Aktのレベルの上昇が検出されている(Aktは腫瘍病原力および進行と関連し得ることを示唆している)。加えて、Aktは、多様な癌において恒常的に活性であることが発見されている。ホスファターゼPTENは、Aktの重要な負の制御因子であり、多くの癌、例えば、乳房および前立腺カルシノーマ、神経膠芽腫、およびバンナヤン・ゾーナーナ症候群、カウデン病およびレルミット・デュクロス病を始めとする数種の癌症候群において、その機能は失われる。機能的PTENのない腫瘍細胞では、活性化Aktのレベルの上昇が示される。化学療法およびガンマ線照射による癌処置は、主に、アポトーシスの誘発により標的細胞を殺し、活性化Aktの抗アポトーシス作用は、化学療法耐性および放射線療法耐性の両方の一因となる。また、活性化Aktは、腫瘍浸潤性および転移の一因ともなる。Aktの活性化は、マトリックス・メタロプロテアーゼMMP−9およびMMP−2の発現および分泌の増大とかかわりがあり、Aktは、血管新生を上方制御する能力を持ち、これらは両方とも、腫瘍生存の一因となる。
【0068】
また、Aktは、ウィルスの生命サイクルにおいてもある役割を果たす。例えば、Cooray,J.Gen.Virol.,85:1065−1076(2004)およびPCT出願WO2007/149730号参照。特に、アポトーシスの抑制は、ウィルス生存において、重要な寄与因子として認識され始めている。アポトーシス抑制は、潜伏感染および慢性感染確立の一因であり、ウィルス発癌に関与している。PI3K/Akt経路のウィルス調節により、ウィルス発癌発現またはアポトーシス促進タンパク質の直接抑制に別の方法が提供される。多くのウィルスが長期感染を維持するために、この経路の上方制御を必要とし、ある場合は、細胞形質転換に都合のよい環境を作り上げるために、特定のウィルス産生によってそれを調節していることが明らかになってきた。他の場合では、PI3K/Aktシグナル伝達が、単純に、ウィルス複製およびビリオン集合に都合のよい環境を作る手助けをする。
【0069】
Aktは、血管新生および線維化においてある役割を果たす。血管新生および線維化は、発生、成長、創傷治癒および再生において重要な事柄である。Aktの活性化は、血管新生を十分に誘発し、活性化Aktは、血管新生に関与するプロセスのいくつかにおいて重要な役割を果たす。例えば、JiangおよびLiu,Current Cancer Drug Targets,8:19−26(2008)、Shengら,J.Cell.Physiol.,218:451−454(2009)を参照。Akt経路の活性化により、結合組織成長因子(CTGF)を産生させる。CTGFは、線維芽細胞増殖、細胞接着、および細胞外マトリックス(ECM)産生の刺激においてある役割を果たすことが示されている、強力な成長因子であり、CTGFは、線維化の強力な活性化因子である。したがって、Aktは、癌、および他の血管新生疾患および状態の抗血管新生療法、および線維性疾患の治療に最適の標的である。
【0070】
Aktは、細胞増殖、アポトーシスおよび細胞遊走のコントロールにおいて、中枢的な役割を果たすため、これは、損傷に対する血管壁の増殖性/遊走性応答のマスター調節因子である。PCT出願WO03/032809号。したがって、血管形成術後の血管の再狭窄、および移植後の移植血管(例えば、動脈、静脈、血管グラフトおよび導管)の狭小化は、血管の細胞中のAkt活性を抑制することによって防止または減少することができる。同上。Akt抑制剤は、血管に局所的に(例えば、カテーテルを介して、またはステント上の被覆物の一部として提供される)投与するのが好ましい。同上。
【0071】
また、Akt活性化は、炎症および自己免疫においてもある役割を果たすことが報告されている。例えば、Ottonelloら,Br.J.Pharmacol.,(2009年3月25日)(Epub ahead of print)(PMID19338579)、Solakiviら,Lipids in Health and Disease,8(11)(Epub2009年3月30日)、Raneら,Front.Biosci.,14:2400−2412(2009)、Bakerら,J.Immunol.,182(6):3819−3826(2009)、Takeshimaら,BMC Microbiol.,9:36(2009)、Patelら,Immunol.Res.,31(l):47−55(2005)、Luら,J.Leukocyte Biol.,78:259−265(2005)、およびAminら,Genes Cells,8:515−523(2003)参照。
【0072】
Aktに関する一般的な背景および種々の疾患および状態における関与に関しては、例えば、米国特許第7,175,844号、第7,220,539号および第7,378,403号、米国特許出願公開公報第2008/0009507号、PCT出願WO2009/032651号、WO2009/009793号、WO2007/149730号、WO2004/086038号およびWO03/032809号、Russoら,Int.J.Oncol.,34(6):1481−1489(2009年6月)(abstract,PMID19424565,プロセスにおける全記事)、Shengら,J.Cell.Physiol.,218:451−454(2009)、Ottonelloら,Br.J.Pharmacol.,(2009年3月25日)(Epub ahead of print)(PMID19338579)、Solakiviら,Lipids in Health and Disease,8(11)(Epub2009年3月30日)、Raneら,Front.Biosci.,14:2400−2412(2009)、Bakerら,J.Immunol.,182(6):3819−3826(2009)、Takeshimaら,BMC Microbiol.,9:36(2009)、Sinnbergら,J.Invest.Dermatol.,PMID19078992,abstract of article Epub2008年12月11日、ChoおよびPark,Int.J.Mol Sci.,9(11):2217−2230(2008年11月)、Qiaoら,Cell Cycle,7(19):2991−2996(Epub2008年10月13日)、JiangおよびLiu,Current Cancer Drug Targets,8:19−26(2008),Didaら,Experimental Hematology,36:1343−1353(2008)、Jiら,Recent Pat.Biotechnol.,2(3):218−226(2008)、Wangら,J.Neuroscience,26(22):5996−6003(2006)、Chenら,Current Medicinal Chemistry−Anti−Cancer Agents,9(6):575−589(2005年11月)、Kimら,Endocrinology,146(10):4456−4463(2005)、Patelら,Immunol.Res.,31(l):47−55(2005)、Luら,J.Leukocyte Biol,78:259−265(2005)、Cooray,J.Gen.Virol,85:1065−1076(2004)、およびAminら,Genes Cells,8:515−523(2003)を参照のこと。これらの全文献の完全な開示は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0073】
本発明のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグは、Akt介在疾患または状態を治療するために使用することができる。Akt介在疾患または状態は、Aktの活性化を起こす、活性化によって起こる、活性化に関与する、または活性化によって悪化する疾患または状態である。Akt介在疾患および状態として、増殖性疾患および状態、血管新生疾患および状態、癌、線維性疾患、再狭窄、ウィルス感染、炎症および自己免疫が挙げられる。
【0074】
いかなる理論にも縛られるものではないが、現在、式IのジケトピペラジンのR側鎖が、それらの活性に主として関与するであると考えられている。さらに現在、Rが式IIであり、Rがアリール、ヘテロアリールまたはアリールオキシであり、nが1であり、Rがメチルの時、最適活性が得られると考えられる。Rは、アリールまたはアリールオキシが好ましい。より好ましくは、Rは、フェニルまたはフェノキシであり、最も好ましくは、フェニルである。また、Rが環の4(パラ)位にあるのが好ましい。
【0075】
本発明の範囲には、式Iのジケトピペラジンそれ自体ばかりでなく、その医薬的に許容しうる塩およびプロドラッグの使用も包含されると理解すべきである。加えて、本発明は、式Iのジケトピペラジン、ならびにその医薬的に許容しうる塩およびプロドラッグの異性体(純粋な異性体および異性体の様々な混合物も含む)の使用も意図している。
【0076】
「抑制する」または「抑制すること」は、本明細書では、(全体的にまたは部分的に)減らす、または防ぐことを意味するために使用する。
「治療する」、「治療すること」または「処置」は、本明細書では、疾患または状態の症状、持続期間または重症度を(全体的にまたは部分的に)減らすことを意味するために使用し、例えば、疾患の完治、または疾患または状態の予防、疾患または状態の発生率を下げること(すなわち、該疾患または状態に曝された状態または罹患しやすい素因を備えるが、まだ疾患または状態の症状を体験していないまたは現していない動物において、その疾患または状態の症状が発現していないこと)が挙げられる。
【0077】
「有効量」は、疾患または状態を治療するために、または効果を得るために動物に投与された時、そのような結果を得るのに十分な化合物の量を意味する。「有効量」は、化合物、疾患または状態およびその重症度、または起こると考えられる効果、ならびに治療を受ける動物の年齢、体重などによって違ってくる可能性があり、多分違ってくる(以下を参照)。
【0078】
動物を治療するためには、式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグを該動物に投与する。動物としては、ウサギ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウマまたはヒトのような哺乳類が好ましい。本発明の化合物に関する効果的な剤形、投与モードおよび投与量は、経験的に決定されてよく、そのような決定は、当業者の範囲内である。投与量は、使用する特定の化合物(複数を含む)、治療すべき疾患または状態、疾患または状態の重症度、投与の経路(複数を含む)、化合物の排泄の速度、処置の期間、動物に投与される他の薬剤の識別、動物の年齢、大きさおよび種、および医学および獣医学分野で知られているような要因によって変化することは当業者によって理解される。一般的に、本発明の化合物の適切な日用量は、治療効果を生み出すのに効果的な量であってその最低の用量である化合物の量である。しかし、日用量は、正常な医学的判断の範囲内で、担当する医者または獣医によって決定される。必要に応じて、効果的な日用量を、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上の副投与として投与してもよく、1日を通して適正な間隔で分けて投与してもよい。化合物の投与は、許容応答が達せられるまで続けるべきである。
【0079】
本発明の化合物(すなわち、式Iのジケトピペラジンならびにその医薬的に許容しうる塩およびプロドラッグ)は、動物患者に、経口的、経鼻的、直腸、膣、非経口(例えば、静脈内、脊髄内、腹腔内、皮下、または筋肉内)、嚢内、経皮的、頭蓋内、脳内、および局所(頬粘膜および舌下を含む)投与を始めとする任意の適切な投与経路によって投与することができる。好ましい投与経路は、経口および局所経路である。
【0080】
本発明の化合物は、単独で投与することも可能であるが、医薬製剤(組成物)として投与するのが好ましい。本発明の医薬組成物は、1種以上の医薬的に許容しうる担体、および場合によっては、1種以上の他の薬物と組合わせて、本発明の化合物(複数を含む)を活性成分(複数を含む)として含む。各担体は、製剤の他の成分と相溶性があり、動物に有害でないという意味で、「許容しうる」ものでなくてならない。医薬的に許容しうる担体は、当該分野で周知である。選択される経口経路にかかわりなく、本発明の化合物は、当業者に公知の従来の方法により医薬的に許容しうる剤形に製剤化される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences参照。
【0081】
経口投与に適した本発明の製剤は、カプセル、カシェ剤、ピル、錠剤、粉末剤、顆粒剤の形態で、水性または非水性液体中の溶液または懸濁液剤、水中油または油中水系の液体エマルジョンの形態で、エリキシル剤またはシロップとして、トローチ錠剤(ゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアカシアのような不活性な基剤を使用して)などとして投与してもよく、それぞれ、活性成分として所定の量の本発明の化合物または化合物群を含有する。本発明の化合物または化合物群は、ボーラス、練薬またはペーストとして投与してもよい。
【0082】
経口投与用の本発明の固体剤形(カプセル、錠剤、ピル、糖衣錠剤、粉末剤、顆粒剤など)では、活性成分(すなわち、1種以上の式Iのジケトピペラジンおよび/またはその医薬的に許容しうる塩および/またはプロドラッグ)を、1種以上の医薬的に許容しうる担体、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸ジカルシウムおよび/または以下の任意の成分と混合する。(1)充填剤または増量剤、例えば、デンプン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトールおよび/またはケイ酸、(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖および/またはアカシア、(3)湿潤剤、例えば、グリセロール、(4)崩壊剤、例えば、カンテン、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、(5)溶液遅延剤、例えば、パラフィン、(6)吸収促進剤、例えば、四級アンモニウム化合物、(7)加湿剤、例えば、セチルアルコールおよびグリセリンモノステアレート、(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイトクレー、(9)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物、および(10)着色剤。カプセル、錠剤およびピルの場合、医薬組成物は、緩衝化剤を含んでもよい。類似の形態の固形組成物は、高分子量のポリエチレングリコールなどとともに、ラクトースまたは乳糖、およびのような賦形剤を使用する軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用してもよい。
【0083】
錠剤は、場合によっては1種以上の補助成分とともに、圧縮または成型によって製造してもよい。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、グリコール酸ナトリウムデンプンまたは架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、界面活性剤または分散剤を使用して、調製してもよい。成型錠剤は、適切な成型機中で、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を成型することによって製造してもよい。
【0084】
本発明の医薬組成物の錠剤および他の固形剤形、例えば、糖衣錠剤、カプセル、ピルおよび顆粒剤は、場合によっては、分割線を入れ、または腸溶コーティングおよび医薬製造の分野で周知の他のコ−ティングのようなコーティングおよびシェルを用いて調製される。また、それらは、例えば、所望の放出プロファイルを提供するように、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを種々の割合で使用して、または他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/または小球体を使用して、その中の活性成分の放出をゆっくりしたまたはコントロールされた放出を提供するように、製剤化されてもよい。それらは、例えば、細菌保持フィルタを通すろ過によって滅菌してもよい。また、これらの組成物は、場合によっては、乳白剤を含有してもよく、消化管のある部位において、徐放式で、活性成分だけ、または活性成分を優先的に放出する組成物であってもよい。使用することができる埋封組成物の例として、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。また活性成分は、マイクロカプセルの形態も可能である。
【0085】
本発明の化合物の経口投与用の液体剤形として、医薬的に許容しうるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液剤、シロップおよびエリキシル剤が挙げられる。液体剤形では、活性成分に加えて、当該分野で通常使用されている不活性な希釈剤、例えば、水または他の溶剤、可溶化剤および乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油類(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、ハイ芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、およびこれらの混合物を含有してもよい。
【0086】
経口用組成物は、不活性な希釈剤の他に、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、着色剤、芳香剤および防腐剤のような補助剤を含有することもできる。
懸濁液剤は、活性成分の他に、懸濁剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガント、ならびにこれらの混合物を含有してもよい。
【0087】
直腸または膣投与用の本発明の医薬組成物の製剤は、座剤であってもよい。該座剤は、1種以上の本発明の化合物を、例えば、ココナッツバター、ポリエチレングリコール、座剤ワックスまたはサリチル酸塩を含む、1種以上の適切な、刺激のない賦形剤または担体と混合することにより調製することができ、これは、室温で固体だが、体温では液体であり、したがって、直腸腔または膣腔内で溶け、活性化合物を放出する。また、膣投与に適した本発明の製剤としては、適正であることが当該分野で公知の担体を含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤も挙げられる。
【0088】
本発明の化合物の局所または経皮投与用の剤形として、粉末剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、滴剤および吸入剤が挙げられる。活性成分は、無菌状態下で、医薬的に許容しうる担体、および任意の緩衝剤、または必要な場合は噴霧剤と混合される。
【0089】
軟膏剤、ペースト剤、クリームおよびゲルは、活性成分の他に、動物性および植物性脂肪、油類、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはこれらの混合物のような賦形剤を含有してもよい。
【0090】
粉末剤およびスプレー剤は、活性成分の他に、乳糖、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物のような賦形剤を含有することができる。さらに、スプレー剤は、クロロフルオロ炭化水素および揮発性非置換炭化水素、例えば、ブタンおよびプロパンのような通例の噴霧剤を含有することができる。
【0091】
経皮用パッチは、本発明の化合物の体へのコントロールされた送達を提供する利点が加えられている。そのような剤形は、1種以上の本発明の化合物を、弾性マトリックス材料のような適切な媒体に、溶解、分散または含浸させることによって製造することができる。皮膚を通り抜ける化合物の流れを増やすために、吸収促進剤を使用することもできる。そのような流れの速度は、速度コントロール膜を備えつける、あるいは化合物をポリマーマトリックスまたはゲル中に分散することによってコントロールすることができる。
【0092】
医薬製剤として、吸入または注入による投与、または経鼻または眼球内投与に適した医薬製剤が挙げられる。吸入による上(鼻)気道または下気道への投与に関して、本発明の化合物は、注入器、ネブライザーまたは加圧パック、あるいはエアゾールスプレーを送達するのに都合のよい他の手段から、都合よく送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスのような適切な噴霧剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、計量した量を送達するバルブを備えることによって測定される。
【0093】
あるいは、吸入または注入による投与に関して、組成物は、乾燥粉末、例えば、1種以上の本発明の化合物と、乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤との粉末混合物の形態を取ってもよい。粉末組成物は、例えばカプセルまたはカートリッジ、または例えば吸入器、注入器または用量計測吸入器の助けによって粉末剤が投与されるゼラチンまたはブリスターパック中に、単位剤形として存在してもよい。
【0094】
鼻腔内投与に関し、点鼻剤または液体スプレー剤によって、例えば、プラスチック・ボトル・アトマイザーまたは用量計量吸入器によって、本発明の化合物を投与してもよい。液体スプレー剤は、加圧パックから都合よく送達される。典型的なアトマイザーは、Mistometer(Wintrop)およびMedihaler(Riker)である。
【0095】
点眼剤および点鼻剤のような滴剤は、1種以上の分散剤、可溶化剤または懸濁剤も含む、水性または非水性基剤を用いて製剤化してもよい。滴剤は、単純な点眼器を被せたボトルによって、または特別な形をした閉鎖部によって中身の液体が滴下送達されるように適合させたプラスチック・ボトルによって送達することができる。
【0096】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、1種以上の本発明の化合物を、1種以上の医薬的に許容しうる無菌の等張水溶液または非水溶液、分散液剤、懸濁液剤またはエマルジョンと組合わせて含み、あるいは使用直前に無菌の注射用溶液または懸濁液剤に再構成される無菌粉末剤を含み、該組成物は、抗酸化剤、緩衝液、対象となる被投与者の血液で製剤を等張にする溶質、あるいは懸濁剤または増量剤を含有してもよい。
【0097】
本発明の医薬組成物において使用してもよい適切な水性または非水性担体の例として、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびこれらの適切な混合物、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルが挙げられる。適正な流動性は、例えば、レシチンのような被覆材料を使用することによって、懸濁液剤の場合は必要な粒径を維持することによって、あるいは界面活性剤を使用することによって維持することができる。
【0098】
また、これらの組成物は、湿潤剤、乳化剤、および分散剤のような補助剤を含有してもよい。また、組成物中には、糖類、塩化ナトリウムのような等張剤などが含有されることが望まれる場合もある。加えて、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンのような吸収を遅らせる薬剤を加えることにより、注射可能な医薬剤形の吸収の引伸しが起こるかもしれない。
【0099】
薬物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射から薬物の吸収を遅くすることが望まれる場合もある。これは、水溶性が低い結晶性または無定形物質の液体懸濁液剤を使用することによって達成できる。その場合、薬物の吸収速度は溶解速度に依存し、該溶解速度は結晶サイズおよび結晶形に依存する。あるいは、非経口投与された薬物の吸収を遅らせるには、オイル・ビヒクルに薬物を溶解または懸濁することによって達成される。
【0100】
注射可能なデポ剤形体は、薬物のマイクロカプセル・マトリックスを、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性ポリマー中で形成することにより製造される。薬物放出速度は、薬物のポリマーに対する比、および使用する特定のポリマーの性質によりコントロールすることができる。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。また、デポ型注射用製剤は、薬物を、生体組織と相溶性のあるリポソームまたはマイクロエマルジョンに包括することによっても調製される。注射可能な物質は、例えば、細菌保持フィルタを通すろ過によって滅菌することができる。
【0101】
製剤は、アンプルおよびバイアルのような容器中に密封された単位用量または複数用量として存在させてもよく、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用水を加えることだけが必要とされる凍結乾燥された状態で保存されてもよい。即時注射溶液および懸濁液剤は、先に記載したタイプの滅菌粉末剤、顆粒剤および錠剤から調製してもよい。
【0102】
式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグは、本発明による疾患または状態を治療するために、単独で投与してもよい。あるいは、式Iのジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグは、疾患または状態の治療に適した他の処置または薬物、1種以上と組合わせて投与してもよい。本発明の化合物は、他の処置または薬物投与の前、とともに(同時を含む)、または後に投与することができる。
【0103】
例えば、癌を治療する場合、本発明の化合物は、他の抗癌処置の前に、該処置とともに、あるいは該処置後に投与することができる。そのような抗癌処置として、手術、放射線療法または種々の抗癌剤のいずれかを使用する化学療法が挙げられる。通常、本発明による癌の処置では、ジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの投与の前に、該投与とともに、あるいは該投与の後に、治療されている感受性腫瘍に対し活性を持つ任意の抗癌剤を投与してもよい。そのような薬剤の例は、DevitaおよびHellman(編集者),Cancer Principles and Practice of Oncology,第6編,2001年2月15日,Lippincott Williams&Wilkins(出版者)、米国特許出願公開公報第2008/0009507号、PCT出願WO2009/009793号、およびPCT出願WO2009/032651号にあり、これらの全ての文献の完全な開示は、本発明の方法におけるジケトピペラジンとともに投与される抗癌剤の例示を開示するものとして、参照により本明細書に組み込まれる。当業者であれば、薬物の特定の特徴および関与している癌に基づいて、薬剤のどの組合せが有用であるか見分けることができるであろう。本発明で有用な典型的な抗癌剤として、抗微小管剤、抗有糸分裂剤、白金調整複合剤、アルキル化剤、抗菌剤、代謝拮抗剤、ホルモンおよびホルモン類縁体、トポイソメラーゼI抑制剤、トポイソメラーゼII抑制剤、血管新生抑制剤、シグナル伝達経路抑制剤、アポトーソス促進剤および免疫療法剤が挙げられる。
【0104】
抗微小管剤または抗有糸分裂剤は、細胞周期のM期、有糸分裂期の間、腫瘍細胞の微小管に対して活性な、期特異的薬剤である。該薬剤の例として、ジテルペノイド(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)、およびビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビノレルビン)が挙げられる。
【0105】
白金調整複合剤は、DNAと相互作用する期非特異的抗癌剤である。白金複合体が、腫瘍細胞に入り込み、アクア化を受け、DNAと鎖内および鎖間架橋を形成し、腫瘍に対して有害な生物学的効果を起こす。白金調整複合剤の例として、シスプラチンおよびカルボプラチンが挙げられる。
【0106】
アルキル化剤は、期非特異的抗癌剤であり、強い求電子剤である。通常、アルキル化剤は、DNA分子の求核性部分、例えば、アミノ、スルフヒドリル、ヒドロキシル、カルボキシルおよびイミダゾール基を介して、DNAをアルキル化することによって、共有結合を形成する。該アルキル化により、核酸の機能を妨害し、細胞死に導く。アルキル化剤の例として、窒素マスタード(例えば、シクロホスファミド、メルファランおよびクロラムブシル)、スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン)、トリアゼン(例えば、ダカルバジン)およびイミダゾテトラジン(例えば、テモゾロミド)が挙げられる。
【0107】
抗菌性抗癌剤は、DNAに結合またはDNAと相互作用する非期特異的薬剤である。通常、該作用により、安定なDNA複合体を形成し、または鎖破壊を起こし、これにより、核酸の正常な機能を妨害し、細胞死に導く。抗菌性抗癌剤の例として、アクチノマイシン(例えば、ダクチノマイシン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシンおよびドキソルビシン)、およびブレオマイシンが挙げられる。
【0108】
トポイソメラーゼI抑制剤としては、カンプトテシンおよびカンプトテシン誘導体(例えば、イリノテカン、トポテカン、および7−(4−メチルピペラジノメチレン)−10,11−エチレンジオキシ−20−カンプトテシンの種々の光学体)が挙げられる。カンプトテシンの細胞毒性活性は、そのトポイソメラーゼI抑制活性に関係していると考えられている。
【0109】
トポイソメラーゼII抑制剤として、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシドおよびテニポシド)が挙げられる。エピポドフィロトキシンは、マンドレーク植物から誘導される、期特異的抗癌剤である。エピポドフィロトキシンは、通常、トポイソメラーゼIIおよびDNAにより三元錯体を形成することによって、細胞周期のSおよびG期の細胞に作用し、DNA鎖の破壊を起こす。鎖破壊が蓄積し、続いて細胞死が起こる。
【0110】
抗代謝抗癌剤は、DNA合成を抑制することによって、またはプリンまたはピリミジン塩基合成を抑制し、それによってDNA合成を限定することによって、細胞周期のS期(DNA合成)に作用する、期特異的薬剤である。したがって、S期は進行せず、その後細胞死が訪れる。抗代謝抗癌剤の例として、フルオロウラシル、メソトレキセート、シタラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、ヒドロキシ尿素およびゲムシタビンが挙げられる。
【0111】
ホルモンまたはホルモン類縁体は、癌の治療に有用な化合物であり、ここで、ホルモン(複数を含む)と癌の成長および成長不能との間には関係がある。癌処置に有用なホルモンおよびホルモン類縁体の例として、副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾンおよびプレドニゾロン)、アミノグルテチミドおよび他のアロマターゼ抑制剤(例えば、アナストロゾール、レトラゾール、ボラゾールおよびエキセメスタン)、プロゲスチン(例えば、酢酸メゲストロール)、エストロゲン、アンドロゲンおよび抗アンドロゲン(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、酢酸シプロテロンおよび5α−還元酵素、例えば、フィナステリドおよびデュタステリド)、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、ヨードキシフェンおよび選択的エストロゲン受容体調節薬)、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン、および黄体刺激ホルモンおよび/または卵胞刺激ホルモンの放出を刺激するその類縁体(例えば、酢酸ゴセレリンおよびリュープロリド)が挙げられる。
【0112】
血管新生抑制剤として、抗VEGF抗体、インテグリン・アルファベータの抑制剤、エンドスタチン、アンジオスタチン、ダナゾール、および米国特許出願公開公報第20060189655号に記載のこれらのメチルフェニデート誘導体、特に、α−[フェニル−4−フェニル]−2−ピペラジン酢酸メチルエステルおよび4(パラ)位でフェニルまたはフェノキシで置き換えられたフェニル基の水素を有するα−[フェニル−4−フェノキシ]−2−ピペリジン酢酸メチルエステル(すなわち、メチルフェニデート(α−フェニル−2−ピペリジン酢酸メチルエステルの誘導体)が挙げられる。
【0113】
シグナル伝達経路抑制剤は、細胞内での変化、特に細胞増殖または分化を誘発する化学プロセスを遮断または抑制する抑制剤である。本発明で有用なシグナル伝達抑制剤として、受容体型チロシンキナーゼ、非受容体型チロシンキナーゼ、セリン/スレオニンキナーゼ、PDK、ミオイノシトール・シグナリングおよびRas癌遺伝子の抑制剤、およびSH2/SH3ドメイン遮断剤が挙げられる。適切な抑制剤は、PCT出願WO2009/032651号および該公報に挙げられた参考文献中に記載され、キナーゼ抑制剤、受容体型拮抗薬、抗体、リボザイムおよびアンチセンス・オリゴヌクレオチドが挙げられる。具体的な例示として、N−{3−クロロ−4−[(3−フルオロベンジル)オキシ]フェニル}6−[5−({[2−(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)−2−フリル]−4−キナゾリンアミン(ラパチニブおよびタイケルブとしても知られている)、ファルネシルトランスフェラーゼ、ゲラニル−ゲラニルトランスフェラーゼおよびCAAXプロテアーゼの抑制剤、Imclone C225EGFR特異的抗体、ハーゼプチン(トラスツズマブ)、erbB2抗体、2CB VEGFR2特異的抗体、BAY−43−9006、CI−1040、PD−098059、Wyeth CCI779、およびLY294002、および細胞周期シグナリング抑制剤(例えば、サイクリン依存性キナーゼの抑制剤)が挙げられる。
【0114】
アポトーシス促進剤として、腫瘍中のbcl−2の発現を下方調節するGenta’s G3139bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチド、および腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL)が挙げられる。
【0115】
免疫療法剤として、Imclone C225EGFR特異的抗体、ハーゼプチン(トラスツズマブ)、アレムツズマブ、エルビタックス(セツキシマブ)、アバスチン(ベバスズマブ)、ゲムツズマブ、ヨウ素131トシツモマブ、リツキシマブ、erbB2抗体、2CB VEGFR2特異的抗体、抗VEGF抗体、およびワクチンが挙げられる。
【0116】
本発明の化合物を、ウィルス感染の治療に使用する場合、該化合物は、他の抗ウィルス薬の前、それとともに、またはその後に投与することができる。抗ウィルス薬として、アマンタジン、リマンタジン、プレコナリル、ラミブジン、ホミビルセン、リファンビシン、ジドブジン、リレンザ(ザナミビル)、タミフル(リン酸オセルタミビル)、ゾビラックス(アシクロビル)、インターフェロンおよび抗体が挙げられる。
【0117】
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0118】
ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステル(Cpd.5)の合成
ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステル(Cpd.5)を以下に記載するように合成し、それを図1で説明した。
【0119】
(A)ビフェニル−4−イル−酢酸メチルエステル(Cpd.1)の合成
4−ビフェニル酢酸(Aldrichから入手、196487)(2g、9.4mmol)をメタノール(50mL)中、0℃で攪拌した溶液に、塩化チオニル(Aldrichから入手、230464)(4.1mL、56.5mmol)を滴下し、反応系を室温で0.5時間攪拌した。反応混合物を真空濃縮し、残渣を酢酸エチル(100mL)と水(100mL)との間で分配した。有機抽出物を、炭酸水素ナトリウム(飽和溶液,100mL)、ブライン(飽和溶液,100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶剤を真空除去し、Cpd.1を黄色油状物(2.1g、約100%収率)として得た。HNMR(CDCl)δH、3.67,2H(s,CH),3.71,3H(s,CH),7.31−7.37,3H(m,Ar−H),7.40−7.45,2H(m,Ar−H),7.52−7.59,4H(m,Ar−H)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH、5−95%勾配/HO2.5分、95%1.5分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間2.39分、測定質量167(M−COMe)。
【0120】
(B)ビフェニル−4−イル−ブロモ酢酸メチルエステル(Cpd.2)の合成
ビフェニル−4−イル−酢酸メチルエステル(5g、22.1mmol)を四塩化炭素(Acrosから入手、16772)(25mL)中で攪拌した溶液に、N−ブロモスクシンイミド(Aldrichから入手、18350)(3.9g、22.1mmol)および過酸化ベンゾイル(Acrosから入手、21178)(0.54g、2.2mmol)を加え、反応系を48時間還流加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、ろ過し、ろ液を真空濃縮し、Cpd.2を粗黄色油状物(6.24g、93%収率)として得た。HNMR(CDCl)δH、3.81,3H(s,CH),5.41,1H(s,Br−CH),7.33−7.39,2H(m,Ar−H),7.41−7.46,3H(m,Ar−H),7.54−7.63,4H(m,Ar−H)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH、5−95%勾配/HO2.5分、95%4分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間4.39分。
【0121】
(C)2−アミノ−3−ビフェニル−4−イル−コハク酸(Cpd.3)の合成
アセトアミドマロン酸ジエチル(Fisherから入手、11393)(0.53mg、12.5mmol)をエタノール(10mL)中、0℃で攪拌した溶液に、ナトリウムエトキシド(Flukaから入手、71212)溶液(0.7mL、2%エタノール溶液)を滴下し、反応系を室温で0.5時間攪拌した。ビフェニル−4−イル−ブロモ酢酸メチルエステル(0.5g、1.6mmol)のエタノール(5mL)溶液を滴下し、反応系を室温でさらに1.5時間攪拌した。反応を水(25mL)の添加によりクエンチし、酢酸エチル(3×50mL)で抽出した。有機抽出物を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空濃縮し、粗残渣を得た。該粗残渣を、酢酸エチルおよびイソヘキサン(1:1)で溶出するフラッシュ・クロマトグラフィ(SiO)を使用して精製し、2−アセチルアミノ−3−ビフェニル−4−イル−2−エトキシカルボニル−コハク酸1−エチルエステル4−エチルエステルを、淡黄色固体(0.49g、68%収率)として得た(約10%の対応する4−メチルエステルを含有する)。HNMR(CDCl)δH(ppm)、1.2,3H(t,CH J=7.02Hz),1.22,3H(t,CH J=7.02Hz),1.3,3H(t,CH J=7.02Hz),1.9,3H(s,CH),4.04−4.23,4H(m,2 × CH),4.31,2H(q,CH J=7.02&14.3Hz),5.01,1H(s,CH),6.5,1H(br s,NH),7.31−7.36,1H(m,Ar−H),7.40−7.46,4H(m,Ar−H),7.5−7.54,2H(m,Ar−H),7.56−7.60,2H(m,Ar−H)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH、5−95%勾配/HO2.5分、95%4分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間4.68分および4.9分(ジアセテレオマ)、測定質量465(M+H)。
【0122】
2−アセチルアミノ−3−ビフェニル−4−イル−2−エトキシカルボニル−コハク酸1−エチルエステル4−エチルエステル(0.33g、0.76mmol)の9N塩酸(10mL)溶液を7時間還流加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、真空濃縮し、Cpd.3を、白色結晶固体(0.21g、96%収率)として得た。HNMR(DMSO−d)δH(ppm)、4.24,1H(d,CHJ= 7.02Hz),4.38,0.5H(d,CH J=7.02Hz),4.44,0.5Η(d,CH J=7.02Hz),7.33−7.39,2H(m,Ar−H),7.40−7.48,3H(m,Ar−H),7.62−7.69,4H(m,Ar−H),8.4,3H(br s,NH)(ジアステレオマ)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH、5−95%勾配/HO2.5分、95%4分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間5.9分、測定質量286(M+H)。
【0123】
(D)2−アミノ−3−ビフェニル−4−イル−コハク酸ジメチルエステル塩酸塩(Cpd.4)の合成
2−アミノ−3−ビフェニル−4−イル−コハク酸塩酸塩(1.54g、48mmol)をメタノール(100mL)中0℃で攪拌した溶液に、塩化チオニル(4.2mL、57.5mmol)を滴下し、反応系を40℃で29時間加熱した。反応混合物を真空濃縮し、残渣を飽和炭酸水素ナトリウム(100mL)および酢酸エチル(100mL)との間で分配した。水層を酢酸エチル(2×50mL)で洗浄し、有機物を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空濃縮し、遊離の塩基を淡黄色油状物として得た。残渣をメタノール(50mL)に溶解し、HClの過剰溶液(4Nのジオキサン溶液)(Aldrichから入手、345547)(2mL)を加えた。得られた溶液を濃縮乾固し、該固体を酢酸エチル/ジエチルエーテル(1:1)から再結晶し、Cpd.4を淡黄色固体(0.37g、24%収率)として得た。HNMR(DMSO−d)δH(ppm)、3.52,2.7H(s,CH),3.67,0.3H(s,CH),3.71,2.7H(s,CH),3.75,0.3H(s,CH),4.48,0.8H(d,CH J=7.6Hz),4.53,0.2H(d,CH J=6.7Hz),4.57−4.63,1H(m,CH),7.3−7.41,3H(m,Ar−H),7.44− 7.51,2H(m,Ar−H),7.64−7.72,4H(m,Ar−H),8.9,3H(br s,NH)(ジアステレオマ)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH、5−95%勾配/HO2.5分、95%6分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間6.05分、測定質量314(M+H)。
【0124】
(E)ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステル(Cpd.5)の合成
Fmoc−Gly−OH(Bachemから入手)(1.66g、5.6mmol)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(Aldrichから入手、39391)(1.1g、5.7mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(Aldrichから入手、54804)(0.76g、5.6mmol)、およびトリエチルアミン(0.4mL、2.8mmol)のジメチルホルムアミド(50mL)溶液を、室温で1時間攪拌した。2−アミノ−3−ビフェニル−4−イル−コハク酸ジメチルエステル塩酸塩(0.98g、2.8mmol)のジメチルホルムアミド(10mL)溶液を加え、反応混合物を室温でさらに14時間攪拌した。溶剤を真空除去し、残渣を酢酸エチル(100mL)と炭酸水素ナトリウム(100mL、飽和水溶液)との間で分配した。水層を酢酸エチル(2×100mL)で洗浄し、有機物を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空濃縮し、粗残渣を得た。粗生成物を、酢酸エチル/イソヘキサン(3:1)で溶出するフラッシュ・クロマトグラフィ(SiO)を使用して精製し、2−ビフェニル−4−イル−3−[2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−アセチルアミノ]−コハク酸ジメチルエステルを、白色結晶固体(0.89g、54%収率)として得た。HNMR(CDCl)δH(ppm)、3.71−3.73(m,7H),3.81 0.2H(d,CH J=5.6Hz),3.86,0.3H(d,CH J=5.8Hz),3.9,0.3H(d,CH J=5.3Hz),3.94,0.2H(d,CH J=5.8Hz),4.13−4.24(m,1H),4.28−4.44(m,2.5H),4.5(d,0.5H J=4.4Hz),5.1−5.4(m,2H),6.4(d,NH J=8.5Hz),7.19(d,NH J=9.4Hz),7.23−7.34,5H(m,Ar−H),7.35−7.42,4H(m,Ar−H),7.47−7.60,6H(m,Ar−H),7.74,2H(d,Ar−H J=7.6Hz)、LCMS分析(溶剤MeCN/HO/0.1%HCOH,5−95%勾配/HO2.5分、95%4分、Phenomenex C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間5.33分および5.47分(ジアステレオマ)、測定質量593(M+H)。
【0125】
2−ビフェニル−4−イル−3−[2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−アセチルアミノ]−コハク酸ジメチルエステル(0.86g、1.5mmol)を20%ピペリジン−ジメチルホルムアミド(30mL)の溶液に溶解し、反応混合物を室温で2時間、次いで60℃で4時間攪拌した。反応混合物を真空濃縮し、粗物質を、ジエチルエーテルを使用して粉砕し、次いでろ過し、灰白色の固体を得た。該固形物質を、酢酸エチルを使用して粉砕し、分離した生成物を、メタノールで洗浄し、ろ過し、真空乾燥し、Cpd.5を灰白色結晶固体(0.26g、52%収率)として得た。HNMR(DMSO−d)δH(ppm)、2.83,IH(d,CH J=17.2Hz),3.38,0.7H(dd,CHJ=2.9&17.2Hz),3.47,0.3H(dd,CH J=2.6&17.5Hz),3.65,3H(s,CH),4.16,0.3H(d,CH J=5.6Hz),4.27,0.7H(d,CH J=4.7Hz),4.43−4.46,0.3H(m,CH),4.5−4.53,0.7H(m,CH),7.3−7.37,3H(m,Ar−H),7.41−7.46,2H(m,Ar−H),7.59−7.68,4H(m,Ar−H),7.97−8.14,2H(2 × NH)(ジアステレオマ)、LCMS分析(溶剤0.1%HCOH/MeCN,HO/0.1%HCOH、7.5−95%勾配/HO11分、Thermo Betabasic100×4.6mm C18逆相、流速1mL/分)HPLC保持時間5.61分、測定質量339(M+H)。
【実施例2】
【0126】
癌細胞の増殖の抑制
2つの癌細胞株の増殖におけるCpd.5(実施例1で記載した合成)の効果を測定するために、分析を行った。これらの2つの細胞株は、STTGグレード4星状細胞腫細胞株およびAU565乳癌細胞株であった。細胞株は両方とも、American Type Culture Collection,Rockville,MD(ATCC)から入手した。
【0127】
分析を行うため、50mMのCpd.5原液をDMSOで調製し、−80℃で凍結した。原液を一定分量取り出し、10%ウシ胎児血清(FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したイスコフの改変ダルベッコ培地(IMDM、ATCCから入手)で、100μM希釈液を製造した。比較の目的で、100μM溶液に対し等量のDMSOを含有するコントロールを混合した。次いで、得られた溶液100μlを3枚の96ウェル培養プレートそれぞれに加え、37℃の、5%COを含む恒温器中に置き、暖めた。コントロールは、PI3キナーゼ抑制剤、LY294002、および不活性PI3キナーゼ抑制剤関連化合物、LY303511(両方ともSigmaから入手)であった。
【0128】
ここで、トリプシンを使用してパッセージ・フラスコから細胞を取り出し、トリパン・ブルーを使用してカウントし、細胞数/mlおよび生存率を確かめた。全ての実験に関して、細胞の生存率は、95%を超えていた。4,000個の細胞/100μlの溶液を前からの培地で調製し、100μlの溶液をプレートの各ウェルに加えた。プレートを恒温器に戻し、化合物とともに96時間培養した。
【0129】
培養後、20μlのPromegaセルタイター・アクエス・ワン試薬(cell titer aqueous one reagent)を各ウェルに加えることによって、細胞増殖を分析した。Promegaセルタイター試薬は、生きている細胞によって還元され、ホルマザン染料になるテトラゾリウム染料を含有する溶液であり、この還元は、ウェル中に存在する、生きている細胞の数に比例する。プレートを37℃でさらに4〜18時間培養し、比色分析を進め、530nmフィルタを使用して、マイクロプレート・リーダーで各ウェルのODを測定した。細胞のない培養培地中のセルタイター試薬を含有するウェルのODを、全ての実験測定値のODから差し引いた。
【0130】
以下の式を使用して、総セルタイター・シグナルの減少%を決定した。((希釈剤OD−実験値OD)/希釈剤OD))×100。データを、3つの別々の実験のセルタイター・シグナルの平均減少%、プラスまたはマイナス標準偏差として、表1に示す。平均減少%の欄で、プラスの数字は、セルタイター・シグナルにおける減少を意味し、一方、マイナスの数字は、セルタイター・シグナルにおける増加を意味する。p値は、希釈剤コントロールに対し計算した。
【0131】
【表1】

【0132】
Cpd.5によって引き起こされるセルタイター・シグナルにおける減少が、増殖の抑制によるのか、細胞毒性によるのかを判定するために、STTGおよびAU565細胞を、96ウェルプレートに10,000個の細胞/ウェルで播種し、集密状態の単層が得られるまで成長させた。これらの条件下では、細胞はこれ以上増殖するはずがない。培養培地は10%FBSを添加したIMDMであった。細胞が集密状態に達した後、培養培地を吸引によって取除き、試験化合物(以下の表2参照)を含有する新しい培地で置き換えた。培養細胞を、添加化合物の存在下でさらに24時間培養し、次いでセルタイター・シグナルを、20μlのPromegaセルタイター・アクエス・ワン試薬を各ウェルに加えることによって分析した。プレートを37℃でさらに2時間培養し、比色分析を進め、530nmフィルタを使用して、マイクロプレート・リーダーで各ウェルのODを測定した。細胞のない培養培地中のセルタイター試薬を含有するウェルのODを、全ての実験測定値のODから差し引いた。3つの実験の結果を表2に示す。
【0133】
以下の式を使用して、総セルタイター・シグナルの減少%を決定した。((希釈剤OD−実験値OD)/希釈剤OD))×100。データを、3つの別々の実験のセルタイター・シグナルの平均減少%、プラスまたはマイナス標準偏差として、表2に示す。平均減少%の欄で、プラスの数字は、セルタイター・シグナルにおける減少を意味し、一方、マイナスの数字は、増加を意味する。p値は、希釈剤コントロールに対し計算した。
【0134】
化合物存在下での24時間培養に代えて、18時間培養を使用し、かつ着色のための2時間培養に代えて4時間培養を行ったこと以外は、この実験を繰り返した。結果を以下の表3に示す。
【0135】
実験の結果を合わせると、Cpd.5により引き起こされるセルタイター・シグナルの減少の大部分は、増殖抑制のためであり、細胞毒性のためではなかったことを示していた。
【0136】
【表2】

【0137】
セルタイター試薬の5分前に添加
【0138】
【表3】

【0139】
セルタイター試薬の5分前に添加
【実施例3】
【0140】
MMP−9の抑制
マトッリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)が持つ、細胞外マトリックス(ECM)の成分を切断し、細胞の微小環境を再構築する能力の結果、これらは、腫瘍の発症および進行においてある役割を果たすと考えられる。Thiennu H.VuおよびZena Werb,Matrix Metalloproteinases中、「Gelatinase B:Structure,Regulation,and Function」第115〜148頁(Academic Press,編集者William C.ParksおよびRobert P.Mecham,1998)。特に、IV型コラゲナーゼは、基底膜コラーゲンを分解する能力のため、腫瘍の浸潤および転移に関連している。前同。マトリックス・メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)(ゼラチナーゼBとしても知られる)は、IV型コラゲナーゼであると広く考えられている。前同。MMP−9は、正常細胞では通常発現しないが、皮膚、肺、乳房、結腸直腸、肝臓、前立腺、脳、骨髄および骨を始めとする様々な部位の腫瘍中に発現していることがわかっている。前同。ある腫瘍では、MMP−9は、腫瘍細胞それ自身によって発現される。前同。他の場合では、腫瘍を取り巻くまたは腫瘍中に見出される他の細胞がMMP−9を発現する。前同。多くの腫瘍では、MMP−9の高発現は、腫瘍浸潤性および転移性の可能性と相関する。前同。
【0141】
BT001膠腫細胞株によるMMP−9の分泌におけるCpd.5(実施例1で記載した合成)の効果を測定するために、分析を行った。BT001細胞株を、手術後に得られた細胞から以下のようにして確立した。切除された組織をプロテアーゼ・カクテルで簡単に処理し、得られた細胞懸濁液を、10%FBSを添加したIMDMで培養した。次いで、膨張した細胞を将来の使用のために凍結した。
【0142】
Cpd.5の新しい原液50mMをエタノールで調製し、37℃に暖めた。原液の一定分量だけ取り出し、0.1%FBS、インシュリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム(ITSS)溶液、およびペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したIMDMで希釈し、実験培養培地(Cpd.5の最終濃度は10〜100μMの範囲)を調製した。培養培地中のエタノールを希釈剤コントロールとして使用した。
【0143】
BT001細胞を25cmフラスコ中、10%FBSを含有するIMDMにより、37℃および5%COで培養した。細胞が70〜80%の集蜜度に達した時、該細胞を水浴で37℃に暖められたIMDMで、2回洗浄した。次いで、Cpd.5を含有する実験培養培地を、フラスコに加え(1フラスコ4.5ml)、フラスコを37℃および5%COで48時間培養した。次いで該調整培地を細胞から除去し、細胞破片を2000rpmで10分間遠心分離することにより除去した。次いで、上澄みを滅菌管に移し、−20℃で保存した。
【0144】
ゼラチン・ザイモグラムを使用して、サンプルのMMP溶出および活性を判定した。ゼラチンを含浸したPrecast10%ポリアクリルアミドゲルを、Invitrogen,Carlsbad,CAから入手した。解凍調整培地をそれぞれ10μLずつ、等量の還元剤を含まない染料を負荷するSDS−PAGE(Invitrogen,Carlsbad,CAから入手)と混合し、ゲルに塗布し、150ボルトで1時間分離した。次いで、製造者の推奨する手順(ゲルを1時間再生し、ゼラチンのプロテアーゼ消化のために緩やかに振盪しながら、37℃で一晩培養することを含む)に従ってゲルを加工した。ゲルをInvitrogen Simple Safeブルー・クーマシー溶液で染色し、Kodakイメージ・ステーションで撮影することによって、MMP活性の視覚化を行った。写真中のバンドの強度を、付属のKodakソフトウェアを使用して測定した。減少率を以下の式によって決定した。
(希釈剤コントロールの強度)−(処置の強度)/(希釈剤コントロールの強度)×100
結果を以下の表4に示す。表4に存在するデータは、3回または4回繰り返した実験の平均値である。
【0145】
【表4】

【0146】
BT001細胞に関して先に記載した実験と同じ実験を、STTG星状細胞腫細胞(STTG細胞株の記載について、実施例2参照)を使用して行った。Cpd.5は、STTG細胞からのMMP−9の放出に関し、何の効果も与えないことがわかった(データは示さず)。
【0147】
BT001細胞に関して先に記載した実験と同じ実験を、原発性ヒトミクログリア細胞(癲癇患者の肺葉切除術から単離した)を使用して行った。100μMのCpd.5により、原発性ミクログリア細胞からの活性MMP−9の放出が、35.89%まで抑制される(10倍に濃縮した上澄みを使用)ことがわかった。Cpd.5は、原発性ミクログリア細胞からのプロ−MMP−9の放出は抑制しなかった(10倍に濃縮した上澄みを使用。データは示さず)。
【実施例4】
【0148】
癌細胞の増殖の抑制
追加の癌細胞株の増殖におけるCpd.5の効果を測定するために、分析を行った。この細胞株は、U−118転移性星状細胞腫細胞株である。これは、ATCCから入手した。
【0149】
分析を行うため、50mMのCpd.5原液をDMSOで調製し、−80℃で凍結した。原液を一定分量取り出し、10%ウシ胎児血清(FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシン溶液を添加したイスコフの改変ダルベッコ培地(IMDM、ATCCから入手)で、50μMから300μMのCpd.5を含有する希釈液を製造した。比較の目的で、300μM溶液に対し当量のDMSOを含有するコントロールを混合した。次いで、得られた溶液100μlを3枚の96ウェル培養プレートそれぞれに加え、5%COを含む37℃の恒温器中に置き、暖めた。コントロールは、PI3キナーゼ抑制剤、LY294002、および不活性PI3キナーゼ抑制剤関連化合物、LY303511(両方ともSigmaから入手)を含んでいた。
【0150】
細胞を、トリプシンおよびエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を使用してパッセージ・フラスコから取り出し、トリパン・ブルーを使用してカウントし、細胞数/mlおよび生存率を確かめた。全ての実験に関して、細胞の生存率は、95%を超えていた。4,000個の細胞/100μlの溶液を前からの培地で調製し、100μlの溶液をプレートの各ウェルに加えた。プレートを恒温器に戻し、化合物とともに96時間培養した。
【0151】
培養後、20μlのPromegaセルタイター・アクエス・ワン試薬を各ウェルに加えることによって、細胞増殖を分析した。Promegaセルタイター試薬は、生きている細胞によって還元され、ホルマザン染料になるテトラゾリウム染料を含有する溶液であり、この還元は、ウェル中に存在する、生きている細胞の数に比例する。プレートを37℃でさらに4時間培養し、比色分析を進め、530nmフィルタを使用して、マイクロプレート・リーダーで各ウェルのODを測定した。細胞のない培養培地中のセルタイター試薬を含有するウェルのODを、全ての実験測定値のODから差し引いた。結果を以下の表5に示す。
【0152】
以下の式を使用して、総セルタイター・シグナルの減少%を決定した。((希釈剤OD−実験値OD)/希釈剤OD))×100。データを、3つの別々の実験のセルタイター・シグナルの平均減少%、プラスまたはマイナス標準偏差として、表5に示す。平均減少%の欄で、プラスの数字は、セルタイター・シグナルにおける減少を意味し、一方、マイナスの数字は、セルタイター・シグナルにおける増加を意味する。p値は、希釈剤コントロールに対し計算した。
【0153】
【表5】

【0154】
U−118細胞を3000個の細胞/ウェルで用いて、先の実験を繰り返した。結果を以下の表6に示す。
【0155】
【表6】

【実施例5】
【0156】
HUVECにおけるCpd.5の効果
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖におけるCpd.5の効果を測定するために、分析を行った。4−5継代HUVEC、ヒト源、ロット番号13047(Lonzaから入手)を、100μlの内皮増殖培養液−2(EGM−2)完全培地(Lonzaから入手)中1200個の細胞/ウェルで、96ウェル組織培養プレートのウェル中に置いた。50mMのCpd.5原液をDMSOで調製し、−80℃で凍結した。原液を一定分量取り出し、50μM〜300μMのCpd.5を含有する希釈液を、EGM−2完全培地(Lonza)で製造した。比較の目的で、200μM溶液に対し等量のDMSOを含有するコントロールを混合した。次いで、得られた溶液100μlを3枚の96ウェル培養プレートそれぞれの細胞に加え、5%COを含む37℃恒温器中に72時間置いた。コントロールは、PI3キナーゼ抑制剤、LY294002、および不活性PI3キナーゼ抑制剤関連化合物、LY303511(両方ともSigmaから入手)であった。
【0157】
培養後、20μlのPromegaセルタイター・アクエス・ワン試薬を各ウェルに加えることによって、細胞増殖を分析した。Promegaセルタイター試薬は、生きている細胞によって還元され、ホルマザン染料になるテトラゾリウム染料を含有する溶液であり、この還元は、ウェル中に存在する、生きている細胞の数に比例する。
【0158】
以下の式を使用して、総セルタイター・シグナルの減少%を決定した。((希釈剤OD−実験値OD)/希釈剤OD))×100。データを、3つの別々の実験のセルタイター・シグナルの平均減少%、プラスまたはマイナス標準偏差として、表7に示す。平均減少%の欄で、プラスの数字は、セルタイター・シグナルにおける減少を意味し、一方、マイナスの数字は、セルタイター・シグナルにおける増加を意味する。p値は、希釈剤コントロールに対し計算した。結果を以下の表7に示す。
【0159】
表7に示すように、Cpd.5は、最終濃度100μMでHUVECの増殖を抑制した。より低い濃度では、HUVECの増殖を刺激するようであった。この刺激の理由は不明であるが、Cpd.5が溶解するDMSOによるものであると推測される。
【0160】
【表7】

【0161】
内皮細胞を、血管新生シグナルの存在下、細胞外マトリックスタンパク質ゲル上で培養すると、それらは、毛細血管におおよそ似たような構造をとる(「管形成」)。Cpd.5の管形成に影響を及ぼす能力に関して試験し、50μMまたは100μMでは観察可能な効果は見出されなかった。
【実施例6】
【0162】
乳癌細胞中のAktリン酸化の抑制
AU565乳癌細胞株でのAktのリン酸化におけるCpd.5(実施例1で記載した合成)の効果を測定するために、分析を行った。Akt(またはタンパク質キナーゼB、PKB)は、細胞の生存を促進するセリン/スレオニンキナーゼである。Aktは、多くの異なる成長因子、例えば、IGF−1、EGF、bFGF、インシュリン、インターロイキン−3(IL−3)、IL−6、ヘレグリンおよびVEGFに応答して活性化する。Aktは3種のイソ型を有し、3種のイソ型全ての活性化は、完全な活性のために、2つの部位のリン酸化が必要であるという点で類似する。Aktは、一度活性化すると、アポトーシスを直接または間接的に制御する基質のリン酸化によって抗アポトーシス効果を発揮する。ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)/Akt伝達経路の活性化は、乳房、卵巣、脳、前立腺およびリンパ組織を始めとする多くの種類の組織中の腫瘍発生の一因となる。Aktは多くの癌において恒常的に活性であり、化学療法耐性および放射線療法耐性の両方の一因であることがわかっている。
【0163】
10%ウシ胎児血清(FBS,HyClone)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Lonza)を添加したイスコフの改変ダルベッコ培地(IMDM、Lonzaから入手)を使用して、75cmフラスコ中でAU565細胞を成長させた。トリプシン/EDTA(Lonza)を使用してフラスコから細胞を取り出し、トリパン・ブルーを使用してカウントし、細胞数を確かめた。前記添加IMDM培地中の細胞を、96ウェルプレートのウェルに加え(20,000個の細胞/ウェル)、プレートを37℃、5%COで24時間培養した。24時間後、培地を取除き、いかなる血清も含有しない培地(無血清IMDM)で置換え、プレートを37℃、5%COでさらに24時間培養した。
【0164】
この培養後、試験化合物を以下のようにしてプレートに加えた。20mMのCpd.5原液をDMSOで調製し、−80℃で凍結した。原液を一定分量取り出し、希釈液を無血清IMDM培地で製造した。比較の目的で、等量のDMSO(0.05%および0.25%)を含有するコントロールを混合した。他のコントロールは、PI3キナーゼ抑制剤、LY294002(Sigmaから入手)であった。次いで、100μlの各試験化合物溶液を2枚の96ウェル培養プレートそれぞれに加え、プレートを恒温器に戻し、37℃、5%COで1時間培養した。
【0165】
この培養後、0または400ng/mlのインシュリン様成長因子−1(IGF−1)(Sigmaから入手)を含有する100μlの無血清IMDM、Aktリン酸化プロモータを加え、プレートを37℃、5%COでさらに1時間培養した。この時の最後に、細胞を4%のホルムアルデヒドを用い即座に固定し、冷凍し、製造者の手順に従って、Akt Cellular Activation of Signaling ELISA(AKTS473用CASE(商標)キット、SABiosciences,Frederick,MD)を使用して、Aktのリン酸化の度合いを測定した。AKTS473用CASE(商標)キットは、比色検出法による従来のELISAフォーマットを使用する平行分析で、総Aktタンパク質に対する活性化(リン酸化)Aktタンパク質の量を定量する。Aktリン酸化部位は、セリン473であり、2つの平行分析の1つで使用された抗体の1個によって認識され、活性化Aktタンパク質の測定値を提供する。他の平行分析で使用された他の抗体は、Aktを認識し、総Aktタンパク質の測定値を提供する。原発性抗体は両方とも、西洋ワサビペルオキシダーゼでラベルされた二次抗体を使用して検出する。製造者の展開溶液を10分間加え、次いで製造者の停止溶液を加えることによって、比色的に測定することができる生成物が製造される。
【0166】
結果は、以下のように計算した。IGF−1/DMSOを含有する処置群を、それぞれのIGF−1/DMSOだけを含有する群(正のコントロール)から差し引いた。この値を、それぞれのDMSOだけを含有する群(負のコントロール)とそれぞれの正のコントロールとの差で割り算をした。この値は、DMSOの関与が差し引かれているので、抑制剤だけが関与するAktリン酸化の抑制率(%)を表わす。
【0167】
結果を表8に示す。表8からわかるように、Cpd.5は、Aktのリン酸化を完全に抑制した。
【0168】
【表8】

【実施例7】
【0169】
メラノーマ細胞におけるAktリン酸化の抑制
WM−266−4、ATCCから入手した転移性メラノーマ細胞株でのAktのリン酸化におけるCpd.5(実施例1で記載された合成)の効果を測定するために、分析を行った。10%ウシ胎児血清(FBS,HyClone)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Lonza)を添加したIMDM培地(Lonzaから入手)を使用して、25cmフラスコ中でWM−266−4細胞を成長させた。トリプシン/EDTA(Lonza)を使用してフラスコから細胞を取り出し、トリパン・ブルーを使用してカウントし、細胞数を確かめた。前記添加IMDM培地中の細胞を、96ウェルプレートのウェルに加え(10,000個の細胞/ウェル)、プレートを37℃、5%COで24時間培養した。24時間後、培地を取除き、いかなる血清も含有しない培地(無血清IMDM)で置換え、プレートを37℃、5%COでさらに24時間培養した。
【0170】
この培養後、試験化合物を以下のようにしてプレートに加えた。20mMのCpd.5原液をDMSOで調製し、−80℃で凍結した。原液を一定分量取り出し、希釈液を無血清IMDM培地で製造した。Cpd.5の最終濃度は、10μMおよび50μMであった。比較の目的で、Cpd.5の2つの濃度(0.05%および0.25%)と等量のDMSOを含有するコントロールを混合した。他のコントロールは、PI3キナーゼ抑制剤、LY294002(Sigmaから入手)で、最終濃度は50μMであった。次いで、100μlの各試験化合物溶液を2枚の96ウェル培養プレートそれぞれに加え、プレートを恒温器に戻し、37℃、5%COで1時間培養した。
【0171】
この培養後、0または400ng/mlのIGF−1(Sigmaから入手)を含有する100μlの無血清IMDM、Aktリン酸化プロモータを加え、プレートを37℃、5%COでさらに1時間培養した。この時の最後に、細胞を4%のホルムアルデヒドを用い即座に固定し、冷凍し、製造者の手順に従って、Akt Cellular Activation of Signaling ELISA(AKTS473用CASE(商標)キット、SABiosciences,Frederick,MD)を使用して、Aktのリン酸化の度合を測定した。AKTS473用CASE(商標)キットは、総Aktタンパク質に対する活性化(リン酸化)Aktタンパク質の量を定量する。CASE ELISA分析についてさらに詳しくは、実施例6を参照のこと。
【0172】
結果は、以下のように計算した。IGF−1/DMSOを含有する処置群を、それぞれのIGF−1/DMSOだけを含有する群(正のコントロール)から差し引いた。この値を、それぞれのDMSOだけを含有する群(負のコントロール)とそれぞれの正のコントロールとの差で割り算をした。この値は、DMSOの関与が差し引かれているので、抑制剤だけが関与するAktリン酸化の抑制率(%)を表わす。
【0173】
結果を以下の表9に示す。そこで示されているように、Cpd.5からは10μMで101.8%のAktリン酸化抑制が、50μMで47%のAktリン酸化抑制が得られ、公知のPI3キナーゼ抑制剤であるLY294002からは、50μMで23.1%抑制が得られた。また、別の実験で、Cpd.5はWM−266−4細胞の増殖を抑制しなかったが、LY294002はこれらの細胞の増殖を抑制した(105%まで)ことも注目すべきである。
【0174】
【表9】

【0175】
WM−266−4メラノーマ細胞株には、2つの増殖経路が存在し、1つはAktキナーゼを介する経路、および1つはMAPキナーゼを介するものである(MAPK)。Russoら,Int.J.Oncol,34(6):1481−1489(2009年6月)(要約、PMID19424565、プロセスの全記事)(メラノーマでは、MAPKおよびPI3K/Aktの両方の経路が、複数のメカニズムによって恒常的に活性化している)参照。両キナーゼとも、PI3キナーゼに依存し、これが、両化合物ともAktリン酸化を抑制するのに、なぜLY294002はこれらの細胞を抑制したのに、Cpd.5はしなかったのかについて説明している。たとえCpd.5がWM−266−4細胞株の増殖を抑制しなかったとしても、Cpd.5によるAktリン酸化(活性化)の抑制は、WM−266−4細胞を、標準的な抗癌治療(例えば、化学療法および放射線療法)に対しより感受性のあるものにしたはずである。Sinnbergら,J.Invest.Dermatol,PMID19078992、Epubの記事の要約、2008年12月11日(PI3K/Akt経路の抑制により、化学療法に対するメラノーマ細胞の感受性を大きく増加される)参照。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】

(式中、
は、
(a)アミノ酸の側鎖であって、ここで、該アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリン、フェニルアラニン、p−アミノフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、チロキシン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、ペニシラミンまたはオルニチンであるアミノ酸の側鎖、
(b)−CH−CH−CH−または−CH−CH(OH)−CH−、および隣接する環窒素と一緒になって形成されるプロリンまたはヒドロキシプロリン、または
(c)アミノ酸の側鎖の誘導体であって、ここで、該アミノ酸は(a)で列挙したアミノ酸の1つであり、該誘導体化側鎖は、
(i)−NHRまたは−N(R基で置き換えられた−NH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(ii)−O−POまたは−OR基で置き換えられた−OH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iii)−COOR基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(iv)−CON(R基で置き換えられた−COOH基(ここで、各Rは、独立して、Hでもよく、あるいはアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールで置換されてもよく、または置換されなくてもよい)、
(v)−S−S−CH−CH(NH)−COOHまたは−S−S−CH−CH−CH(NH)−COOHで置き換えられた−SH基、
(vi)−CH(NH)−または−CH(OH)−基で置き換えられた−CH−基、
(vii)−CH−NHまたは−CH−OH基で置き換えられた−CH基、および/または
(viii)ハロゲンで置き換えられた、炭素原子に結合するH、
を有するアミノ酸の側鎖の誘導体であり、
は、式II、IIIまたはIV
【化2】

式中、
各Rは、独立して、アリール、ヘテロアリール、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、カルボキシル、ヒドロキシル、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホまたはスルフヒドリルであり、ここで、アルキルは、場合によっては、ヒドロキシル、アミノまたはスルフヒドリルで置換されており、
nは0〜5であり、
は、水素または低級アルキルである。)
のジケトピペラジン。
【請求項2】
は、
(d)アミノ酸の側鎖(ここで、該アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリン、フェニルアラニン、p−アミノフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、チロキシンまたはオルニチンである)、または
(e)アミノ酸の側鎖の誘導体(ここで、該アミノ酸は(d)で挙げたアミノ酸の1つであり、該側鎖の誘導体は、請求項1に記載の(c)部で挙げた誘導体の1つである)であり、
は、式IIまたはIIIで表わされる、請求項1に記載のジケトピペラジン。
【請求項3】
は、
(f)アミノ酸の側鎖(ここで、該アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、α−アミノイソ酪酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、ホモセリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ホモアルギニン、シトルリンまたはオルニチンである)、または
(g)アミノ酸の側鎖の誘導体(ここで、該アミノ酸は(f)で挙げたアミノ酸の1つであり、該側鎖の誘導体は、請求項1に記載の(c)部で挙げた誘導体の1つである)である、請求項2に記載のジケトピペラジン。
【請求項4】
は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシンの側鎖である、請求項3に記載のジケトピペラジン。
【請求項5】
nは1〜3であり、Rの少なくとも1つは、アリール、ヘテロアリールまたはアリールオキシである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のジケトピペラジン。
【請求項6】
はアリールまたはアリールオキシである、請求項5に記載のジケトピペラジン。
【請求項7】
はフェニルである、請求項6に記載のジケトピペラジン。
【請求項8】
はフェノキシである、請求項6に記載のジケトピペラジン。
【請求項9】
nは1であり、Rは環の4(パラ)位にある、請求項1〜8のいずれか一項に記載のジケトピペラジン。
【請求項10】
は式IIで表わされる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のジケトピペラジン。
【請求項11】
は式IIIで表わされる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のジケトピペラジン。
【請求項12】
はメチルである、請求項1〜11のいずれか一項に記載のジケトピペラジン。
【請求項13】
ビフェニル−4−イル−(3,6−ジオキソ−ピペラジン−2−イル)−酢酸メチルエステルである、請求項1に記載のジケトピペラジン。
【請求項14】
医薬的に許容しうる担体と、活性成分とを含む医薬組成物であって、前記活性成分は、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグである医薬組成物。
【請求項15】
増殖性疾患または状態を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項16】
血管新生を抑制する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項17】
血管新生疾患または状態を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項18】
前記血管新生疾患または状態が、眼球血管新生疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記眼球血管新生疾患が、糖尿病性網膜症または黄斑変性症である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
癌を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項21】
前記癌が、脳腫瘍、頭頸部癌、乳癌、噴門癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、泌尿生殖器癌、前立腺癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、甲状腺癌、肝癌、肺癌、骨癌、皮膚癌、リンパ腫、白血病、血液の癌またはカポジ肉腫である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記癌が、脳腫瘍、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、甲状腺癌、肺癌または骨癌である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記癌が乳癌である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記癌が皮膚癌であるである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記癌がメラノーマである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記癌が膵臓癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記癌が白血病である、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記癌が癌症候群である、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記癌が悪性腫瘍である、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記腫瘍が、膀胱、骨、脳、乳房、子宮頸部、結腸、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ組織、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚、胃、甲状腺、泌尿生殖器組織または子宮の腫瘍である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記腫瘍が脳の腫瘍である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記腫瘍が膠腫である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記腫瘍が転移性脳腫瘍である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記癌が転移性である、請求項20に記載の方法。
【請求項35】
前癌性状態を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項36】
線維性疾患を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項37】
前記線維性疾患が瘢痕である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記線維性疾患が肺線維症である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記線維性疾患がアテローム性硬化症である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記線維性疾患が再狭窄である、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
ウィルス感染を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項42】
前記ウィルス感染が、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、風疹ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、ヒトヘルペスウィルス4型、ヒトヘルペスウィルス5型、ヒトヘルペスウィルス8型、ヒトパピローマウィルス、ポリオーマウィルス、ヒト呼吸器多核体ウィルス、アデノウィルスまたはインフルエンザウィルスによって起こされる感染である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
Akt介在疾患または状態を治療する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量を、それを必要とする動物に投与することを含む方法。
【請求項44】
疾患または状態が、放射線療法または化学療法による処置に抵抗性のある癌である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
さらに、疾患または状態の他の処置により前記動物を治療することを含む、請求項15〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記他の処置が、前記疾患または状態を処置するのに適切な1種以上の他の薬物の投与である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
細胞によるマトリックス・メタロプロテアイナーゼ−9の産生、放出またはこれらの両方を抑制する方法であって、前記細胞を、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量に接触させることを含む方法。
【請求項48】
前記接触が生体内で行われる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
細胞によるAktの活性化を抑制する方法であって、前記細胞を、請求項1〜13のいずれか一項に記載のジケトピペラジン、あるいはその医薬的に許容しうる塩またはプロドラッグの有効量に接触させることを含む方法。
【請求項50】
前記接触が生体内で行われる、請求項49に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−521956(P2011−521956A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511774(P2011−511774)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045281
【国際公開番号】WO2009/146320
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510314998)ディエムアイ アクイジション コーポレイション (2)
【氏名又は名称原語表記】DMI ACQUISITION CORP.
【Fターム(参考)】