法面緑化工法および法面緑化構造
【課題】 風化程度が異なる岩質が入り混じった岩盤法面を経済的に効率よく緑化することができる法面緑化工法および法面緑化構造を提供すること。
【解決手段】 赤外線カメラ4で法面1を撮影する工程と、撮影した画像Aによって法面1における緑化可の領域2と緑化不可の領域3とを判別する工程と、この緑化可の領域2を緑化する工程とを含む。
【解決手段】 赤外線カメラ4で法面1を撮影する工程と、撮影した画像Aによって法面1における緑化可の領域2と緑化不可の領域3とを判別する工程と、この緑化可の領域2を緑化する工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば岩盤法面の緑化に好適な法面緑化工法および法面緑化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩盤法面は一様ではなく、土砂に近い土質から硬岩に至るまで風化程度が異なる岩質が入り混じった状態が多い。この岩盤法面の緑化には、従来から法面上の全面にネットを張設してその上から、例えば樹木種子に肥料、保水材、土壌改良材等を配合した厚層基材を吹き付ける吹付工法が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、厚層基材を岩盤法面全面に吹き付ける工法では、元々緑化不可能な領域である硬質岩盤面にも厚層基材を吹き付けることになるので、不経済である。
一方、法面上に落石防止用のネットだけを張設する場合は、緑化可能な領域である土砂部の強風化部分が浸食されたり、表層が崩落するおそれがあることから、外部から多くの植物の種子が飛来するにもかかわらず土砂部に植生が侵入しないことも多い。
【0004】
一方、下記特許文献1に示すように、赤外線カメラで法面を撮影し、その画像からモルタルの地山表面に対する密着状態を検知する手法が提案されている。これは、モルタル吹き付け法面を赤外線カメラで撮影することにより、地山の切り通し法面に打設されるモルタルと地山との間に形成される背面空洞、亀裂、漏水などの異常部を検知して落盤等の発生を事前に予知し、災害を未然に防ぐことができるようにしたものである。しかし、この手法は、法面の土砂部を検知するのではなく、また、土砂部の緑化を行うために意図されたものでもない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−10064号公報
【0006】
この発明は、風化程度が異なる岩質が入り混じった岩盤法面を経済的に効率よく緑化することができる法面緑化工法および法面緑化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の法面緑化工法は、赤外線カメラで法面を撮影する工程と、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程と、この緑化可の領域を緑化する工程とを含むことを特徴としている(請求項1)。
【0008】
そして、この発明では、緑化する工程が、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含むのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、緑化する工程が、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含んでもよい(請求項3)。
【0010】
また、この発明は別の観点から、請求項1〜3のいずれかに記載の法面緑化工法を用いて形成されたことを特徴とする法面緑化構造を提供する(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、赤外線カメラで法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別し、この緑化可の領域を緑化するようにしている。すなわち、請求項1に係る発明では、例えば岩盤法面のような、土砂に近い土質から硬岩に至るまで風化程度が異なる岩質が入り混じった法面を緑化するにあたり、土砂部のように緑化が可能なところだけを緑化するようにしたので、厚層基材を岩盤法面全面に吹き付けるようにしていた従来工法に比べて大変経済的であるとともに、効率よく緑化することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含むので、請求項1に係る発明による効果に加えて、早期の法面緑化が可能である。すなわち、植生マットは、外部から飛来する多くの植物種子の捕捉機能に優れているので、早期の法面緑化を行うことができるとともに、法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる。さらに、植生マットに例えば肥料袋を備えさせた場合には、早期の法面緑化をより促進できる。また、緑化可の領域に土のうを敷設する場合にも上記と同様の効果がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含むので、仕切部材内の植生基材などの流亡を効果的阻止することができるとともに、植生基材として、肥料、保水材、土壌改良材など以外に植生種子を含む場合には、早期の法面緑化が可能である。そして、法面近辺の森の林床などの土とともに採取した植生種子(シードバンク)を植生基材に混入することにより、早期の法面緑化を行いながら、この法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる。
【0014】
請求項4に係る発明では、風化程度が異なる岩質が入り混じった法面を経済的に効率よく緑化してなる法面緑化構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下にこの発明の実施の形態について説明する。なお、この発明はそれによって限定されるものではない。
【0016】
図1〜図8は、この発明の第1の実施形態を示す。図1〜図5は、赤外線カメラで法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程を説明するためのものである。また、図6は、法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを示し、図7,8は、緑化可の領域に植生マットを敷設する工程を説明するためのものである。
図1〜図8において、1は施工対象地である例えば岩盤法面である。この岩盤法面1は、緑化可の領域である例えば軟質岩盤よりなる土砂部および/または強風化部(以下、単に土砂部という)2と、緑化不可の領域である例えば硬質岩盤よりなる硬質岩盤部(以下、単に岩盤部という)3に大別される。
【0017】
まず、赤外線カメラで岩盤法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程について説明する。
【0018】
図1に示すように、赤外線カメラ4で岩盤法面1を撮影し、サーモグラフによる法面熱画像A(図2〜図4参照)をパソコン5の画面6に表示させる。すなわち、赤外線カメラ4で撮影した岩盤法面1の熱画像Aをパソコンデータとして取り込むことにより、土砂部2の位置を確認することができる。この発明で用いるサーモグラフによる分析は公知のものであるけれども、この発明の検出対象が従来例のような異常部ではなく法面1の土砂部2である点で従来例と異なる。前記熱画像Aによって岩盤法面1における土砂部2と岩盤部3とを判別できるのは、岩盤法面1表面の昼夜の温度差による。すなわち、土砂部2における昼間と夜間の温度差と、岩盤部3における昼間と夜間の温度差がそれぞれ異なることを利用している。
【0019】
各土砂部2の位置を確認した後、その上から例えば後述する植生マット1枚の大きさに等しい網目を有するメッシュ7をかけ、植生マットを土砂部2に張付ける際の張付け位置をパソコン画面上で決定するとともに、各土砂部2に植生マットを何枚張付ける必要があるのかを計算する。
【0020】
このように、赤外線カメラ4で撮影した岩盤法面1の熱画像Aはパソコンデータとして取り込まれ、パソコン5の画面6上で植生マットや土のうの張付け位置を決定したり、植生マットや土のうの数量の計算を行うことができる。なお、図5は、パソコン5の画面6に表示された熱画像判読図9である。
【0021】
次に、図7、図8を用いて植生マットを用いた法面緑化工法について説明する。
図7、図8において、12は経糸13aと緯糸13bとを編織してなる網状本体部13を備え、この網状本体部13に複数の肥料袋部14と一枚のマット部15を付設させた植生マットである。この肥料袋付植生マット12には網状本体部13の複数箇所に収容部分16が形成されている。そして、これら収容部16の内部には、例えば有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材17が収容された例えば不織布などからなる肥料袋部14が挿入収容されている。また、網状本体部13の一側外表面には、例えば薄綿ラップや不織布などからなるマット部15がポリビニルアルコールなどの水溶性糊剤を介して接着一体化されている。さらに、このマット15には、前記と同様の水溶性糊剤を介して例えば植物種子が付着保持されている。
【0022】
而して、植生マット12を各土砂部2を覆うように岩盤法面1上に敷設する。各土砂部2に敷設される植生マット12の枚数は上述したように土砂部2の大きさに応じてパソコン5上で予め計算されている。植生マット12の敷設作業は、アンカー18や止めピンを使用して土砂部2の凹凸に、植物種子を下に向けた状態のマット部15を介して網状本体部13を岩盤法面1上に密着させることで行われる。続いて、植生マット12を覆うように植生マット12を含む岩盤法面1全面にネット19を張設する。このように、ネット19で植生マット12を覆ったので、落石を防止できて防災効果を増大できるとともに、収容部分16に肥料袋部14を収容し、また、植物種子をマット部15と土砂部2間に位置させたので、植生基材17や植物種子などの流亡が効果的に阻止される。そして、マット部15の植生種子が発芽成育し且つ繁茂することによって緑化による景観性の向上を図ることができ、土砂部2を介して岩盤法面1の緑化保護が達成できる法面緑化構造を提供できる。
【0023】
なお、網状本体部13には、マット部15に代えて、薄い素材間に前記植物種子などとともに、肥料や土壌改良材などを挟在させた所謂張芝体を貼着させることが可能である。 また、肥料袋部14、マット部15、前記張芝体の構成素材としては、例えばバクテリアなどの微生物で分解腐食されて経時的に消失する綿、絹、麻などの天然繊維や、再生セルロースからなるビスコースレーヨンなどの再生繊維、さらには、前述したような腐食性繊維の単独、又は、腐食性繊維と合成繊維とからなる混紡繊維を使用する。さらに、前記腐食性素材としは、前述したもの以外に、薬品で易腐食化されたポリオレフィン系の化学繊維、また、微生物分解性プラスチックや光分解性プラスチックなどの生分解性化学繊維なども使用できる。
【0024】
また、緑化可の領域に、三次元的に構成された立体ネット(特願2005−089970参照)を敷設して緑化するようにしてもよい。この場合、立体ネットを用いて飛来種子を積極的に捕捉することで、周辺植生と調和した緑化を行うことができる。すなわち、緑化可の領域に敷設された立体ネットで周辺植物を効率よく捕捉でき、この捕捉した植物の種子を繁茂させることにより、現地植物による緑化を達成できる。
【0025】
図9〜図11は、緑化可の領域に土のうを敷設したこの発明の第2の実施形態を示す。なお、図9〜図11において、図1〜図8に示す符号と同一のものは、同一または相当物である。
図9は植生基材を収容した袋状の土のう20を示し、図10は土のう20を構成する、植物の発芽生育が可能な目合いを有する網状本体21を示す。
土のう20は以下のようにして作成できる。すなわち、網状本体21の上端縁21aを折り返して括り紐22の挿通部23を形成すると共に、網状本体21を左右方向で二つ折りして、左右の端部21b,21cと下端縁両側21d,21eを縫着することにより、図11に示すような、口部を有する土のう用袋本体24が形成される。例えば、網状本体21は、抗菌処理された腐食性の素材(例えばビスコースレーヨン)によって編織されており、網状本体21を袋本体24に縫製する糸ならびに袋本体24の口部緊縛用の前記括り紐22も網状本体21と同じ素材が用いられる。例えば、網状本体21と縫製糸ならびに括り紐22の素材として、半年乃至二年程度は必要十分に強度が維持され、その後、時間の経過と共に強度が低下して、やがては腐食して土と同質化する抗菌剤で抗菌処理された特性のビスコースレーヨン繊維が選択される。そして、岩盤法面1に際しては、土壌に、植生種子や肥料、保水材、土壌改良材などの植生基材17を適宜配合したものを口部から袋本体24に投入した後口部を緊縛して図9に示す土のう20を構成する。そして、この土のう20を前記土砂部2に持ち込んで、土のう20を前記土砂部2に張り付けたり段積みしたりする。
【0026】
而して、網状本体21と縫製糸ならびに括り紐22の素材として前記抗菌剤で抗菌処理された特性のビスコースレーヨンを用いたので、少なくとも上記期間中は、袋本体24内の前記土壌や植生基材17などの流亡が効果的阻止される。この間に、袋本体24内の植生種子が発芽成育し且つ繁茂することによって、前記土砂部2を介して岩盤法面1の緑化保護が達成されるとともに、以後の腐食による土のう20の土との同質化によって植物の発育性や根付性が良化され、かつ、土のう20が腐食しても、それまでに植物が成育していることによって岩盤法面1の緑化保護が永続的に維持されることになる。また、上記の法面緑化に際して、網状本体21に土壌や植生基材17を投入させた土のう20を岩盤法面1に持ち込む手段がとられているが、上記の植生種子や肥料、保水材、土壌改良材などを適宜混合攪拌した乾式の植生基材を、岩盤法面1の前記土砂部2にポンプアップさせるようにし、かつ、前記土砂部2に網状本体21を持ち込んで、ここで網状本体21内に上記の植生基材を投入して土のう20を構成し、この土のう20を前記土砂部2に張り付けたり段積みしたりする手段をとった場合は、安全且つ能率的に岩盤法面1の緑化保護が達成できる。
【0027】
図12〜図14は、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けるようにしたこの発明の第3の実施形態を示す。なお、図12〜図14において、図1〜図11に示す符号と同一のものは、同一または相当物である。
【0028】
30は仕切部材で、平面視形状が横に長い矩形形状をなし、鋼製線材や軟鉄線材などの複数本の横線材31および横線材31,31同士を連結すべく適宜箇所に設けた縦線材32よりなる金網に形成されている。そして、横線材31の長さの異なる仕切部材30を複数種類予め用意しておき、これら仕切部材30を前記土砂部2と岩盤部3の境(前記土砂部2の外周)に設置する。仕切部材30の設置は、例えば図13に示すように、落石ネット35を岩盤法面1上の全面に敷設した後、例えば針金等の締結部材を用いて落石ネット35に仕切部材30を直立の姿勢で締結することができる。この場合、隣接する仕切部材30,30同士も縦線材32を針金等の締結部材で締結でき、土砂部2の大きさに適宜対応可能である。なお、仕切部材30を前記境だけに設置するのではなく、場合に応じて、前記土砂部2内にも前記土砂部2を仕切る形で適宜の数だけ設置するようにしてもよい。この場合は、前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17の浸食、流亡を防止するのに効果的である。前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17に植物種子を混入してもよい。また、植物種子を混入しなくても、外部から多くの植物の種子が岩盤法面1上に飛来するので、岩盤法面1の緑化保護を達成できる。
【0029】
また、図12、図14に示すように、仕切部材30を前記土砂部2と岩盤部4の境(前記土砂部2の外周)に設置した後、仕切部材30を覆う形で落石ネット35を岩盤法面1上の全面に敷設する場合もある。この場合は、仕切部材30が岩盤法面1に対してより強固に固定保持されるとともに、前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17の浸食、流亡をより効果的に防止することができる。
【0030】
なお、図12における36は別の仕切部材を示す。これは、左右一対の二つの前記仕切部材30,30と、これらと分離自在な連結部材37とからなる。また、図12における38は更に別の仕切部材を示す。これは、鋼製線材や軟鉄線材などのらせん状のコイルよりなる。
【0031】
また、この発明では、緑化可の領域を緑化するにあたり、緑化可の領域に植生マットや土のうを敷設したり、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けたりすること以外に、緑化可の領域に直接植物種子および/または植生基材17を手まきしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の第1の実施形態における法面撮影工程を説明するための図である。
【図2】上記実施形態で得られる法面熱画像を示す図である。
【図3】上記実施形態の法面熱画像において、緑化可の領域の上からメッシュをかけた状態を示す図である。
【図4】図3の要部を拡大した図である。
【図5】上記実施形態で得られる熱画像判読図である。
【図6】上記実施形態で得られる法面の状態を示す断面図である。
【図7】上記実施形態で用いる植生マットならびに緑化可の領域を緑化する工程を示す斜視図である。
【図8】上記実施形態における緑化可の領域を緑化する工程を示す構成説明図である。
【図9】この発明の第2の実施形態で用いる土のうを示す斜視図である。
【図10】前記土のうを構成する網状本体を示す平面図である。
【図11】前記土のうの袋本体を示す平面図である。
【図12】この発明の第3の実施形態で用いる各種仕切部材ならびに緑化可の領域を緑化する工程を示す斜視図である。
【図13】上記第3の実施形態における緑化可の領域を緑化する工程を示す構成説明図である。
【図14】上記第3の実施形態における緑化可の領域を緑化する工程の変形例を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 法面
2 緑化可の領域
3 緑化不可の領域
4 赤外線カメラ
A 法面熱画像
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば岩盤法面の緑化に好適な法面緑化工法および法面緑化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩盤法面は一様ではなく、土砂に近い土質から硬岩に至るまで風化程度が異なる岩質が入り混じった状態が多い。この岩盤法面の緑化には、従来から法面上の全面にネットを張設してその上から、例えば樹木種子に肥料、保水材、土壌改良材等を配合した厚層基材を吹き付ける吹付工法が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、厚層基材を岩盤法面全面に吹き付ける工法では、元々緑化不可能な領域である硬質岩盤面にも厚層基材を吹き付けることになるので、不経済である。
一方、法面上に落石防止用のネットだけを張設する場合は、緑化可能な領域である土砂部の強風化部分が浸食されたり、表層が崩落するおそれがあることから、外部から多くの植物の種子が飛来するにもかかわらず土砂部に植生が侵入しないことも多い。
【0004】
一方、下記特許文献1に示すように、赤外線カメラで法面を撮影し、その画像からモルタルの地山表面に対する密着状態を検知する手法が提案されている。これは、モルタル吹き付け法面を赤外線カメラで撮影することにより、地山の切り通し法面に打設されるモルタルと地山との間に形成される背面空洞、亀裂、漏水などの異常部を検知して落盤等の発生を事前に予知し、災害を未然に防ぐことができるようにしたものである。しかし、この手法は、法面の土砂部を検知するのではなく、また、土砂部の緑化を行うために意図されたものでもない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−10064号公報
【0006】
この発明は、風化程度が異なる岩質が入り混じった岩盤法面を経済的に効率よく緑化することができる法面緑化工法および法面緑化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の法面緑化工法は、赤外線カメラで法面を撮影する工程と、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程と、この緑化可の領域を緑化する工程とを含むことを特徴としている(請求項1)。
【0008】
そして、この発明では、緑化する工程が、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含むのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、緑化する工程が、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含んでもよい(請求項3)。
【0010】
また、この発明は別の観点から、請求項1〜3のいずれかに記載の法面緑化工法を用いて形成されたことを特徴とする法面緑化構造を提供する(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、赤外線カメラで法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別し、この緑化可の領域を緑化するようにしている。すなわち、請求項1に係る発明では、例えば岩盤法面のような、土砂に近い土質から硬岩に至るまで風化程度が異なる岩質が入り混じった法面を緑化するにあたり、土砂部のように緑化が可能なところだけを緑化するようにしたので、厚層基材を岩盤法面全面に吹き付けるようにしていた従来工法に比べて大変経済的であるとともに、効率よく緑化することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含むので、請求項1に係る発明による効果に加えて、早期の法面緑化が可能である。すなわち、植生マットは、外部から飛来する多くの植物種子の捕捉機能に優れているので、早期の法面緑化を行うことができるとともに、法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる。さらに、植生マットに例えば肥料袋を備えさせた場合には、早期の法面緑化をより促進できる。また、緑化可の領域に土のうを敷設する場合にも上記と同様の効果がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含むので、仕切部材内の植生基材などの流亡を効果的阻止することができるとともに、植生基材として、肥料、保水材、土壌改良材など以外に植生種子を含む場合には、早期の法面緑化が可能である。そして、法面近辺の森の林床などの土とともに採取した植生種子(シードバンク)を植生基材に混入することにより、早期の法面緑化を行いながら、この法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる。
【0014】
請求項4に係る発明では、風化程度が異なる岩質が入り混じった法面を経済的に効率よく緑化してなる法面緑化構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下にこの発明の実施の形態について説明する。なお、この発明はそれによって限定されるものではない。
【0016】
図1〜図8は、この発明の第1の実施形態を示す。図1〜図5は、赤外線カメラで法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程を説明するためのものである。また、図6は、法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを示し、図7,8は、緑化可の領域に植生マットを敷設する工程を説明するためのものである。
図1〜図8において、1は施工対象地である例えば岩盤法面である。この岩盤法面1は、緑化可の領域である例えば軟質岩盤よりなる土砂部および/または強風化部(以下、単に土砂部という)2と、緑化不可の領域である例えば硬質岩盤よりなる硬質岩盤部(以下、単に岩盤部という)3に大別される。
【0017】
まず、赤外線カメラで岩盤法面を撮影し、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程について説明する。
【0018】
図1に示すように、赤外線カメラ4で岩盤法面1を撮影し、サーモグラフによる法面熱画像A(図2〜図4参照)をパソコン5の画面6に表示させる。すなわち、赤外線カメラ4で撮影した岩盤法面1の熱画像Aをパソコンデータとして取り込むことにより、土砂部2の位置を確認することができる。この発明で用いるサーモグラフによる分析は公知のものであるけれども、この発明の検出対象が従来例のような異常部ではなく法面1の土砂部2である点で従来例と異なる。前記熱画像Aによって岩盤法面1における土砂部2と岩盤部3とを判別できるのは、岩盤法面1表面の昼夜の温度差による。すなわち、土砂部2における昼間と夜間の温度差と、岩盤部3における昼間と夜間の温度差がそれぞれ異なることを利用している。
【0019】
各土砂部2の位置を確認した後、その上から例えば後述する植生マット1枚の大きさに等しい網目を有するメッシュ7をかけ、植生マットを土砂部2に張付ける際の張付け位置をパソコン画面上で決定するとともに、各土砂部2に植生マットを何枚張付ける必要があるのかを計算する。
【0020】
このように、赤外線カメラ4で撮影した岩盤法面1の熱画像Aはパソコンデータとして取り込まれ、パソコン5の画面6上で植生マットや土のうの張付け位置を決定したり、植生マットや土のうの数量の計算を行うことができる。なお、図5は、パソコン5の画面6に表示された熱画像判読図9である。
【0021】
次に、図7、図8を用いて植生マットを用いた法面緑化工法について説明する。
図7、図8において、12は経糸13aと緯糸13bとを編織してなる網状本体部13を備え、この網状本体部13に複数の肥料袋部14と一枚のマット部15を付設させた植生マットである。この肥料袋付植生マット12には網状本体部13の複数箇所に収容部分16が形成されている。そして、これら収容部16の内部には、例えば有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材17が収容された例えば不織布などからなる肥料袋部14が挿入収容されている。また、網状本体部13の一側外表面には、例えば薄綿ラップや不織布などからなるマット部15がポリビニルアルコールなどの水溶性糊剤を介して接着一体化されている。さらに、このマット15には、前記と同様の水溶性糊剤を介して例えば植物種子が付着保持されている。
【0022】
而して、植生マット12を各土砂部2を覆うように岩盤法面1上に敷設する。各土砂部2に敷設される植生マット12の枚数は上述したように土砂部2の大きさに応じてパソコン5上で予め計算されている。植生マット12の敷設作業は、アンカー18や止めピンを使用して土砂部2の凹凸に、植物種子を下に向けた状態のマット部15を介して網状本体部13を岩盤法面1上に密着させることで行われる。続いて、植生マット12を覆うように植生マット12を含む岩盤法面1全面にネット19を張設する。このように、ネット19で植生マット12を覆ったので、落石を防止できて防災効果を増大できるとともに、収容部分16に肥料袋部14を収容し、また、植物種子をマット部15と土砂部2間に位置させたので、植生基材17や植物種子などの流亡が効果的に阻止される。そして、マット部15の植生種子が発芽成育し且つ繁茂することによって緑化による景観性の向上を図ることができ、土砂部2を介して岩盤法面1の緑化保護が達成できる法面緑化構造を提供できる。
【0023】
なお、網状本体部13には、マット部15に代えて、薄い素材間に前記植物種子などとともに、肥料や土壌改良材などを挟在させた所謂張芝体を貼着させることが可能である。 また、肥料袋部14、マット部15、前記張芝体の構成素材としては、例えばバクテリアなどの微生物で分解腐食されて経時的に消失する綿、絹、麻などの天然繊維や、再生セルロースからなるビスコースレーヨンなどの再生繊維、さらには、前述したような腐食性繊維の単独、又は、腐食性繊維と合成繊維とからなる混紡繊維を使用する。さらに、前記腐食性素材としは、前述したもの以外に、薬品で易腐食化されたポリオレフィン系の化学繊維、また、微生物分解性プラスチックや光分解性プラスチックなどの生分解性化学繊維なども使用できる。
【0024】
また、緑化可の領域に、三次元的に構成された立体ネット(特願2005−089970参照)を敷設して緑化するようにしてもよい。この場合、立体ネットを用いて飛来種子を積極的に捕捉することで、周辺植生と調和した緑化を行うことができる。すなわち、緑化可の領域に敷設された立体ネットで周辺植物を効率よく捕捉でき、この捕捉した植物の種子を繁茂させることにより、現地植物による緑化を達成できる。
【0025】
図9〜図11は、緑化可の領域に土のうを敷設したこの発明の第2の実施形態を示す。なお、図9〜図11において、図1〜図8に示す符号と同一のものは、同一または相当物である。
図9は植生基材を収容した袋状の土のう20を示し、図10は土のう20を構成する、植物の発芽生育が可能な目合いを有する網状本体21を示す。
土のう20は以下のようにして作成できる。すなわち、網状本体21の上端縁21aを折り返して括り紐22の挿通部23を形成すると共に、網状本体21を左右方向で二つ折りして、左右の端部21b,21cと下端縁両側21d,21eを縫着することにより、図11に示すような、口部を有する土のう用袋本体24が形成される。例えば、網状本体21は、抗菌処理された腐食性の素材(例えばビスコースレーヨン)によって編織されており、網状本体21を袋本体24に縫製する糸ならびに袋本体24の口部緊縛用の前記括り紐22も網状本体21と同じ素材が用いられる。例えば、網状本体21と縫製糸ならびに括り紐22の素材として、半年乃至二年程度は必要十分に強度が維持され、その後、時間の経過と共に強度が低下して、やがては腐食して土と同質化する抗菌剤で抗菌処理された特性のビスコースレーヨン繊維が選択される。そして、岩盤法面1に際しては、土壌に、植生種子や肥料、保水材、土壌改良材などの植生基材17を適宜配合したものを口部から袋本体24に投入した後口部を緊縛して図9に示す土のう20を構成する。そして、この土のう20を前記土砂部2に持ち込んで、土のう20を前記土砂部2に張り付けたり段積みしたりする。
【0026】
而して、網状本体21と縫製糸ならびに括り紐22の素材として前記抗菌剤で抗菌処理された特性のビスコースレーヨンを用いたので、少なくとも上記期間中は、袋本体24内の前記土壌や植生基材17などの流亡が効果的阻止される。この間に、袋本体24内の植生種子が発芽成育し且つ繁茂することによって、前記土砂部2を介して岩盤法面1の緑化保護が達成されるとともに、以後の腐食による土のう20の土との同質化によって植物の発育性や根付性が良化され、かつ、土のう20が腐食しても、それまでに植物が成育していることによって岩盤法面1の緑化保護が永続的に維持されることになる。また、上記の法面緑化に際して、網状本体21に土壌や植生基材17を投入させた土のう20を岩盤法面1に持ち込む手段がとられているが、上記の植生種子や肥料、保水材、土壌改良材などを適宜混合攪拌した乾式の植生基材を、岩盤法面1の前記土砂部2にポンプアップさせるようにし、かつ、前記土砂部2に網状本体21を持ち込んで、ここで網状本体21内に上記の植生基材を投入して土のう20を構成し、この土のう20を前記土砂部2に張り付けたり段積みしたりする手段をとった場合は、安全且つ能率的に岩盤法面1の緑化保護が達成できる。
【0027】
図12〜図14は、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けるようにしたこの発明の第3の実施形態を示す。なお、図12〜図14において、図1〜図11に示す符号と同一のものは、同一または相当物である。
【0028】
30は仕切部材で、平面視形状が横に長い矩形形状をなし、鋼製線材や軟鉄線材などの複数本の横線材31および横線材31,31同士を連結すべく適宜箇所に設けた縦線材32よりなる金網に形成されている。そして、横線材31の長さの異なる仕切部材30を複数種類予め用意しておき、これら仕切部材30を前記土砂部2と岩盤部3の境(前記土砂部2の外周)に設置する。仕切部材30の設置は、例えば図13に示すように、落石ネット35を岩盤法面1上の全面に敷設した後、例えば針金等の締結部材を用いて落石ネット35に仕切部材30を直立の姿勢で締結することができる。この場合、隣接する仕切部材30,30同士も縦線材32を針金等の締結部材で締結でき、土砂部2の大きさに適宜対応可能である。なお、仕切部材30を前記境だけに設置するのではなく、場合に応じて、前記土砂部2内にも前記土砂部2を仕切る形で適宜の数だけ設置するようにしてもよい。この場合は、前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17の浸食、流亡を防止するのに効果的である。前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17に植物種子を混入してもよい。また、植物種子を混入しなくても、外部から多くの植物の種子が岩盤法面1上に飛来するので、岩盤法面1の緑化保護を達成できる。
【0029】
また、図12、図14に示すように、仕切部材30を前記土砂部2と岩盤部4の境(前記土砂部2の外周)に設置した後、仕切部材30を覆う形で落石ネット35を岩盤法面1上の全面に敷設する場合もある。この場合は、仕切部材30が岩盤法面1に対してより強固に固定保持されるとともに、前記土砂部2内に吹き付けられる植生基材17の浸食、流亡をより効果的に防止することができる。
【0030】
なお、図12における36は別の仕切部材を示す。これは、左右一対の二つの前記仕切部材30,30と、これらと分離自在な連結部材37とからなる。また、図12における38は更に別の仕切部材を示す。これは、鋼製線材や軟鉄線材などのらせん状のコイルよりなる。
【0031】
また、この発明では、緑化可の領域を緑化するにあたり、緑化可の領域に植生マットや土のうを敷設したり、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けたりすること以外に、緑化可の領域に直接植物種子および/または植生基材17を手まきしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の第1の実施形態における法面撮影工程を説明するための図である。
【図2】上記実施形態で得られる法面熱画像を示す図である。
【図3】上記実施形態の法面熱画像において、緑化可の領域の上からメッシュをかけた状態を示す図である。
【図4】図3の要部を拡大した図である。
【図5】上記実施形態で得られる熱画像判読図である。
【図6】上記実施形態で得られる法面の状態を示す断面図である。
【図7】上記実施形態で用いる植生マットならびに緑化可の領域を緑化する工程を示す斜視図である。
【図8】上記実施形態における緑化可の領域を緑化する工程を示す構成説明図である。
【図9】この発明の第2の実施形態で用いる土のうを示す斜視図である。
【図10】前記土のうを構成する網状本体を示す平面図である。
【図11】前記土のうの袋本体を示す平面図である。
【図12】この発明の第3の実施形態で用いる各種仕切部材ならびに緑化可の領域を緑化する工程を示す斜視図である。
【図13】上記第3の実施形態における緑化可の領域を緑化する工程を示す構成説明図である。
【図14】上記第3の実施形態における緑化可の領域を緑化する工程の変形例を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 法面
2 緑化可の領域
3 緑化不可の領域
4 赤外線カメラ
A 法面熱画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線カメラで法面を撮影する工程と、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程と、この緑化可の領域を緑化する工程とを含むことを特徴とする法面緑化工法。
【請求項2】
緑化する工程が、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含む請求項1に記載の法面緑化工法。
【請求項3】
緑化する工程が、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含む請求項1に記載の法面緑化工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の法面緑化工法を用いて形成されたことを特徴とする法面緑化構造。
【請求項1】
赤外線カメラで法面を撮影する工程と、撮影した画像によって法面における緑化可の領域と緑化不可の領域とを判別する工程と、この緑化可の領域を緑化する工程とを含むことを特徴とする法面緑化工法。
【請求項2】
緑化する工程が、緑化可の領域に植生マットおよび/または土のうを敷設することを含む請求項1に記載の法面緑化工法。
【請求項3】
緑化する工程が、緑化可の領域と緑化不可の領域との境に仕切部材を設置した後緑化可の領域に植生基材を吹き付けることを含む請求項1に記載の法面緑化工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の法面緑化工法を用いて形成されたことを特徴とする法面緑化構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−23589(P2007−23589A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206501(P2005−206501)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
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