説明

波長可変半導体レーザ

【課題】大きな特性劣化を抑制しつつ、発振を継続させることが可能な波長可変半導体レーザを提供する。
【解決手段】半導体基板上に、活性導波路層と非活性導波路層とを交互に周期的に繰り返し形成してなる構造を有し、活性導波路層及び非活性導波路層の全長にわたって回折格子が形成され、活性導波路層と非活性導波路層の接合面が理想的に形成された場合に共振器の位相条件を満たすために回折格子に挿入される位相シフトΩCを共振器中に少なくとも一つ以上有し、電流を注入することにより非活性導波路層の屈折率を最大に変化させた状態において、非活性導波路層の屈折率と活性導波路層の屈折率との差が−0.01以上0以下となるように、電流を注入する前の非活性導波路層の屈折率と活性導波路層の屈折率との差を設定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信用光源および光計測用光源として用いられる波長可変半導体レーザに関し、特に光通信における光波長(周波数)多重システム用光源、および広帯域波長帯をカバーする光計測用光源の特性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信における波長多重通信方式では、異なる周波数(波長)の複数のレーザ光を規格で定められた間隔で一つの光ファイバを用いて伝送する。一つ一つの周波数をチャンネルと呼び、高速なチャンネル切り替えのために高速に発振周波数の切り替えが可能な波長可変レーザが求められている。
【0003】
通信用の波長可変半導体レーザでは、単一モードレーザと呼ばれる一つの波長で発振するレーザが用いられており、単一モードを得るために、例えば導波路に周期的に凹凸を設けた回折格子が用いられている。回折格子が形成された半導体光導波路は、回折格子周期Λと光導波路の等価屈折率nとから得られるブラッグ波長λBで選択的に反射する分布反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)となる。ここで、ブラッグ波長λBと回折格子周期Λ及び光導波路の等価屈折率nとの関係式は、
λB=2nΛ (1)
となる。また、分布反射器に利得を持たせて作成した波長可変半導体レーザのことを分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)レーザと呼ぶ。
【0004】
式(1)から、分布反射器の等価屈折率nを変化させることで、ブラッグ波長λBを変化させることができることがわかる。すなわち選択的に反射する波長を変化させることができ、分布反射器を用いた共振器を構成すれば、等価屈折率nの変化により発振波長を変化させることのできる波長可変半導体レーザを構成することが可能となる。回折格子を利用した波長可変半導体レーザとしては、均一な回折格子の分布反射器を用いた分布反射型レーザ(DBRレーザ)や、周期的に回折格子を設けるなどの方法で複数の反射ピークをもつ分布反射器を用いたSG(Sampled Grating)-DBRレーザ、SSG(Super Structure Grating)-DBRレーザなどが知られている。
【0005】
また、連続的に波長を変化させることのできる波長可変半導体レーザとしては、分布活性DFBレーザ(TDA-DFBレーザ)がある。図8は従来の分布活性DFBレーザの基本的な構造を示す断面図である。この分布活性DFBレーザは、図8に示すように、下部クラッド層1上に、長さLaの活性導波路層2と、活性導波路層2とは組成の異なる長さLtの非活性導波路層(波長制御層)3が交互に周期的に接続されている。これら活性導波路層2及び非活性導波路層3の上と、上部クラッド層4との間には周期的な凹凸を形成して導波路の等価屈折率を周期変調させた回折格子5が形成されている。上部クラッド4の上には、それぞれ活性導波路層2、非活性導波路層3に対応するように電極7,8が形成されている。基板下部に共通の電極9を形成する一方、基板上部に形成される電極7,8は、活性導波路層2の領域と非活性導波路層3の領域とで分離されている。なお、活性導波路層2の電極7同士、非活性導波路層3の電極8同士は素子上で短絡されている。
【0006】
このように、分布活性DFBレーザは光の伝播方向に沿って活性導波路層2と非活性導波路層3が交互に周期的に縦続接続された構造となっている。活性導波路層2への電流Iaの注入により発光するとともに利得が生じるが、それぞれの導波路層2,3には回折格子5が形成されており、回折格子5の周期に応じた波長のみ選択的に反射されレーザ発振が起こる。一方、非活性導波路層3への電流Itの注入によりキャリア密度に応じてプラズマ効果により屈折率が変化するため、非活性導波路層3の回折格子5の光学的な周期は変化する。非活性導波路層3の等価屈折率が変化し、1周期の長さに対する波長制御領域の長さの割合分だけ共振縦モード波長が短波長側にシフトする。活性導波路層2の光の伝播方向に沿った活性領域長をLa、非活性導波路層3の光の伝播方向に沿った波長制御領域長をLtとすれば、繰り返し構造の1周期の長さLはLt+Laとなり、共振縦モード波長λrの変化の割合Δλr/λrは、
Δλr /λr =(Lt /(Lt+La))・(Δn/n) (2)
となる(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
一方、複数の反射ピークの各波長も、電流注入による等価屈折率の変化の結果、短波長側にシフトする。反射ピーク波長は繰り返し構造1周期内の平均等価屈折率変化に比例するので、反射ピーク波長λsの変化の割合Δλs /λs は、
Δλs /λs =(Lt /(Lt+La))・(Δn/n) (3)
となる。式(2),式(3)より、反射ピーク波長λsと共振縦モード波長λrとは同じ量だけシフトする。したがって、このレーザでは、最初に発振したモードを保ったまま連続的に波長が変化する。ただし、図8の構造の場合、連続的に同一周期で回折格子5が形成されているため、もともと発振の位相条件を満たす波長が反射ピーク波長とはずれており、単一モード性が悪い。単一モード特性を高めるためには、共振器の中央部付近に、共振器の位相条件を満たすための位相シフト(λ/4)を入れるなどする必要がある。
【0008】
特許文献1に開示されている分布活性DFBレーザも、下部クラッド上に、活性導波路層と非活性導波路層が交互に周期的に縦続接続されたものであり、それらの上に上部クラッドが形成されて、その上部クラッド上に、活性導波路層、非活性導波路層に対応する電極が形成されると共に、下部クラッドの下部に共通の電極が形成された構造である。この分布活性DFBレーザでは、回折格子を一部のみに形成しているが、図8に示し上述した分布活性DFBレーザと同じように連続的に波長変化する。ただし、回折格子を共振器内に周期的に形成している(サンプル回折格子という)ことから複数の反射ピークができるため、単一モード性を向上させる必要がある。
【0009】
そこで、特許文献1においては、分布活性DFBレーザの構造として、繰り返し周期の異なる二つのレーザを同一基板上に直列に集積するとともに、各々の活性導波路層に回折格子を形成した構造も開示されている。複数の反射ピークの間隔は、回折格子のサンプル周期によるので、この周期を共振器の左右で変えることにより、反射メインピーク以外の反射ピークが共振器の左右で重ならないようにし、単一モード性を向上させている。
【0010】
更に、特許文献2では、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期を変えた2つのレーザを縦続接続するとともに共振器全体にわたり回折格子を形成した構造や、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期の異なる複数個のレーザ部を縦続接続した構造、および、空間的ホールバーニングを抑えるために、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期の異なる複数個のレーザ部を縦続接続し、接続した各レーザ部の間に位相シフトを入れた構造などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許3237733号公報
【特許文献2】特開2008−103466号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ishii et al, "A Tunable Distributed Amplification DFB Laser Diode (TDA-DFB-LD)," IEEE Photonics Technology Letters, vol. 10, no. 1, Jan 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
例えば、上述した繰り返し周期L1、L2の異なる二つのレーザ(以下、第一のレーザ部、第二のレーザ部という)を同一基板上に直列に集積した分布活性DFBレーザの場合、回折格子の第一のレーザ部と第二のレーザ部との間に1/4波長位相シフトを入れ、共振器の位相条件を満たすようにしている。
【0014】
波長変化は、非活性導波路層に電流を流し、キャリアを注入することによって引き起こされている。半導体の屈折率はキャリアが注入されるに従って低下し、発振波長は短波長化する。
【0015】
また、このような共振器構造の場合、非活性導波路層の光学的ロスを無視して考えると、もっとも発振しやすい、すなわち閾値利得が低くなるのは、活性導波路層と非活性導波路層との屈折率が一致しているときである。このとき、活性導波路と非活性導波路の回折格子の周期が同じであれば、ブラッグ波長が一致するため、最も反射率が高くなる。
【0016】
図3は、上述した第一のレーザ部、第二のレーザ部を有する分布活性DFBレーザについて、活性導波路層と非活性導波路層の屈折率の差(非活性導波路層の屈折率−活性導波路層の屈折率)をパラメータとして、第一共振モードと第二共振モードの閾値利得差Δgthを第一共振モードの閾値利得gth1で割った規格化閾値利得差Δgth/gth1(図中、黒丸及び実線で示す値。左軸に対応)と、第一共振モードの閾値利得gth1(図中、白丸及び破線で示す値。右軸に対応)を計算した一例である。規格化閾値利得差Δgth/gth1は単一モード特性を考える上で重要なパラメータであり、この数字が大きいほど単一モード性が良い。すなわち、第一モードと第二モードとの強度比(SMSR)が最も大きくなる。従って、上述した第一のレーザ部、第二のレーザ部を有する分布活性DFBレーザの構造の場合、屈折率差が無いときに、閾値利得gthが最も低く、単一モード性が最も良いことになる。
【0017】
分布活性DFBレーザの場合、活性導波路層の屈折率は変化せず、非活性導波路層に電流注入することによって屈折率が変化すると考える。例えば、非活性導波路層の屈折率変化が0.03程度起こるとすると、屈折率差0を中心として、屈折率差が0.015から−0.015の範囲で使うようにすると、平均的な閾値利得gthが最も低く、規格化閾値利得gthが最も大きくなる。すなわち、非活性導波路層にキャリアを注入しない状態で屈折率差が0.015となるようにしておく。
【0018】
しかしながら、実際の場合、キャリア密度の増加に伴い、自由電子吸収などの吸収損失が増加するため、閾値利得gthが上昇する。従って、実際のデバイスでは、屈折率差0を中心として屈折率変化範囲を均等に割り当てることにより、屈折率の変化が大きくなって屈折率差が0を超えて負の値になると、もともと閾値利得gthが上昇するのに加え、損失増加による閾値利得gthが加わり特性が悪化する恐れがある。
【0019】
このようなことから本発明は、大きな特性劣化を抑制しつつ、発振を継続させることが可能な波長可変半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る波長可変半導体レーザは、半導体基板上に、利得を有する活性導波路層と波長を制御するための非活性導波路層とを交互に周期的に繰り返し形成してなる構造を有する波長可変半導体レーザであって、前記活性導波路層及び前記非活性導波路層の全長にわたって回折格子が形成され、前記活性導波路層及び前記非活性導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトΩCを共振器中に少なくとも一つ以上有し、電流を注入することにより前記非活性導波路層の屈折率を最大に変化させた状態において、前記非活性導波路層と前記活性導波路層との屈折率差が−0.01以上0以下となるように、前記電流を注入する前の前記非活性導波路層と前記活性導波路層との初期屈折率差ΔNsを設定することを特徴とする。
【0021】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る波長可変半導体レーザは、第1の発明に係る波長可変半導体レーザにおいて、前記初期屈折率差ΔNsが、前記電流を注入することにより変化する前記非活性導波路層の最大の屈折率変化量をΔNtとして、下式(4)を満足するように設定されることを特徴とする。
【0022】
【数1】

【0023】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る波長可変半導体レーザは、第1又は第2の発明に係る波長可変半導体レーザにおいて、前記活性導波路層と前記非活性導波路層とが少なくとも二以上の異なる繰り返し周期を有することを特徴とする。
【0024】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る波長可変半導体レーザは、第1ないし第3のいずれか一つの発明に係る波長可変半導体レーザにおいて、前記位相シフトΩCが、下式(5)を満足することを特徴とする。
【0025】
【数2】

【発明の効果】
【0026】
本発明に係る波長可変半導体レーザによれば、波長変化時に共振条件を徐々に一致させることにより、非活性導波路層への電流注入による屈折率変化を生じさせた際に生じる損失の増大を打消すことが可能となり、大きな特性劣化を抑制しつつ、発振を継続させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの断面構造を示す説明図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの上面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態の特性を説明する図である。
【図4】本発明の第一の実施形態の効果を説明する図である。
【図5】位相シフトを説明する図である。
【図6】一般的な分布活性DFBレーザの基本構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る波長可変半導体レーザの詳細を説明する。
(第一の実施形態)
以下、図1乃至図4に基づいて本発明に係る波長可変半導体レーザの第一の実施形態について説明する。
図1は本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの導波方向に沿った断面を示す模式図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、n型InP下部クラッド層11上に、第一のレーザ部A1においては長さLa1のGaInAsP活性導波路層12a1と、活性導波路層12a1とは組成の異なる長さLt1のGaInAsP非活性導波路層(波長制御層)13t1とが交互に周期的に接続されている。また、第二のレーザ部A2においては長さLa2のGaInAsP活性導波路層12a2と、活性導波路層12a2とは組成の異なる長さLt2のGaInAsP非活性導波路層13t2とが交互に周期的に接続されている。以下、GaInAsP活性導波路層12a1,12a2を総称する場合はGaInAsP活性導波路層12、GaInAsP非活性導波路層13t1,13t2を総称する場合はGaInAsP非活性導波路層13と呼称する。
【0030】
これらGaInAsP活性導波路層12及びGaInAsP非活性導波路層13の上と、p型InP上部クラッド層14との間には周期的な凹凸を形成して導波路の等価屈折率を周期変調させた回折格子15が形成されている。InP上部クラッド14の上には、オーミックコンタクトのために高ドープのp型InGaAsコンタクト層16を設け、その上にそれぞれ活性導波路層12、非活性導波路層13に対応するように電極17,18を形成している。基板下部に形成した電極19は共通としているが、基板上部に形成する電極は、活性導波路層12の領域と非活性導波路層13の領域とで分離している。具体的には、活性導波路層12の領域と非活性導波路層13の領域とでコンタクト層16および電極17,18を分離し、さらに、図2に示すように、活性導波路層12の電極17同士、非活性導波路層13の電極18同士を素子上で短絡している。
【0031】
さらに、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2とで活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期をL1,L2変えて直列に接続した構造となっている。さらに、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間に1/4波長の位相シフト20を入れている。
【0032】
ここで、活性導波路層12にバンドギャップ波長1.55μmのGaInAsPを用いた場合、非活性導波路13はそれより短波のバンドギャップ波長、たとえば、1.4μmのバンドギャップ波長のGaInAsPを用いることにより、レーザ発振の利得に寄与しないために、キャリア密度が一定にならない。これにより、電流注入により大きく屈折率を変化させることができる。
【0033】
また、活性導波路層12および非活性導波路層13はバルク材料でなくともよく、たとえば、量子井戸構造、もしくは、量子井戸をバリア層を挟んで重ねた多層量子井戸構造や、さらに量子ドットや量子細線などの低次元の量子井戸構造を備えたものであっても良い。また、活性層への光閉じ込めやキャリア閉じ込めを高めるなどのために、活性層とクラッド層の間に中間の屈折率を持つ層を導入する分離閉じ込めへテロ構造などを導入しても良い。
【0034】
回折格子15は屈折率が周期的に変動していることが重要であるため、回折格子15を形成する位置は、活性導波路層12や非活性導波路層13と上部クラッド14との間では無くともよく、例えば、各導波路層12,13と下部クラッド11との間や、各層から離れた位置に形成しても良い。
【0035】
本素子に用いる半導体は、InPとGaInAsPの組み合わせに限定することなく、GaAs、GaInNAs、AlGaInAsなど、その他の半導体を用いても良いし、活性導波路層12と非活性導波路層13のバンドギャップ波長の組み合わせも上記に限定するものではない。
【0036】
本発明では、活性導波路層と非活性導波路層の屈折率差が重要であるので、これについては詳細に後述する。
【0037】
本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、図示はしないが、電流Iaが活性導波路層12に効率よく注入されるように、導波路の両脇に半絶縁性材料であるFeをドープしたInPを埋め込み再成長した埋め込みヘテロ構造(BH)としている。FeドープInPの代わりに、p型n型の半導体を交互に重ねることにより電流ブロック層としてもよい。また、Feの代わりにRuをドーピングして高抵抗としたInP層としてもよい。
【0038】
また、導波路構造は、本実施形態では埋め込みヘテロ構造を採用しているが、一般的なリッジ構造やハイメサ構造などでも本発明の原理を用いることができる。
【0039】
第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2とでは、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期は、それぞれL1,L2と異なるが、活性導波路層12と非活性導波路層13の割合(La1/Lt1、および、La2/Lt2)は同じである。本実施形態では、この割合を1/2とした。また、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間に位相シフト20を入れて、回折格子15の位相を1/4波長変化させている。これにより、第一のレーザ部A1での反射波と第二のレーザ部A2での反射波の位相を発振条件を満たすように整合させている。
【0040】
また、上述したように、活性導波路層12、および波長制御用非活性導波路層13の上部に設けられる電極17,18は互いに分離されており、図2に示すように、活性導波路層12上の電極17同士、および非活性導波路層13上の電極18同士は素子上で接続されている。このように素子上で各々の領域の電極17,18同士を短絡しておくことにより、金属製のボンディング・ワイヤをどこか一か所ずつ接着させるだけで、各領域に電流Ia又は波長制御電流Itを注入することができる。
【0041】
続いて、本実施形態に係る波長可変半導体レーザの作製方法を簡単に説明する。最初に有機金属気相エピタキシャル成長(MOCVD)法と、これによる選択成長法を用いて、n型InP下部クラッド層11上に活性導波路層12と非活性導波路層13とを作製する。具体的には、活性導波路層12が形成された基板上にSiO2などのエッチングマスク22を形成し、エッチングマスク22を用いて活性導波路層12を島状に加工し、エッチングマスク22をそのままにして非活性導波路層13を再成長することにより、活性導波路層12と非活性導波路層13が接続される。
【0042】
その後、塗布したレジストに、電子ビーム露光法を用いて回折格子のパターンを転写し、転写パターンをマスクとしてエッチングを行い回折格子を形成する。回折格子には、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間にλ/4の位相シフトを入れる。
【0043】
ここで、本実施形態では、回折格子15は活性導波路層12、非活性導波路層13の両者ともに同一周期としている。
【0044】
p型InP上部クラッド層14およびp型InGaAsコンタクト層16を成長した後、横モードを制御するために、幅1.2μmのストライプ状に導波路を加工し、その両側にFeをドープしたInP電流ブロック層を成長する。そして、各電極17,18を形成した後、活性層駆動電極17と波長制御電極18とを電気的に分離するために、それらの電極17,18間のp型InGaAsコンタクト層16を除去する。さらに各導波路層12,13を分離する場合は、分離溝を形成するなどしてもよい。
【0045】
なお、半導体の成長法としては、有機金属気相エピタキシャル成長法に限らず、分子線エピタキシャル成長法やその他の手段を用いてもよい。回折格子15の形成方法も電子線露光法に限らず、二束干渉露光法やそのほかの手段を用いてもよい。
【0046】
本実施形態では、第一のレーザ部A1および第二のレーザ部A2の活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返しの数をそれぞれ6としている。第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2では同じ結合係数の回折格子15を用いているので、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期の長い第二のレーザ部A2の方が結合係数と長さの積が大きくなるため反射率は高くなる。したがって、繰り返し数を同数とした場合、自然に出力は非対称となり、反射率の低い第一のレーザ部A1からの出力が反射率の高い第二のレーザ部A2からの出力に比べて大きくとれるため、第一のレーザ部A1側から出力を効率よく取り出すことができる。なお、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返しの数は6に限らず、また繰り返し数が第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2で同じである必要もないため、必要な反射率に応じて繰り返し周期や繰り返し数を設計すればよい。
【0047】
本実施形態では、第一のレーザ部A1の繰り返し周期を57μmとし、第二のレーザ部A2の繰り返し周期を72μmとしている。また回折格子15の結合係数は25cm-1である。
【0048】
上述したように、本実施形態では、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の回折格子15の間に、1/4波長の位相シフト20を入れている。1/4波長シフトは通常、理想的な状態、すなわち、活性導波路層12及び非活性導波路層13の屈折率が共振方向に沿って均一である場合でも、回折格子15中に共振器の位相条件を満たすために挿入される。これにより最も位相整合がとれる条件となるが、必ずしも1/4波長シフトでなくともよく、例えば1/8波長シフトや3/8波長シフトとすることで、位相条件はずれることになるが、その分、位相シフト領域への光の集中を抑制することが可能となる。位相シフト領域への光の集中は、キャリア密度の低下を招き屈折率を上昇させる。これは、ホールバーニングと呼ばれ、高出力時にモードが安定しないなどの問題を生じさせるおそれがある。つまり、1/4波長シフトからずらした波長シフトとすれば、ホールバーニングを抑制し、モードを安定化させることが可能となる。
【0049】
また、理想的な状態でも回折格子15に挿入される、共振器の位相条件を満たすための位相シフト(本実施形態では1/4波長シフト)の位置は、必ずしも第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間である必要はなく、共振器中央の全共振器長の約1/3程度の範囲内に位相シフトがあれば、位相条件を満たすことができる。
【0050】
上述したように、本実施形態では、第一のレーザ部A1および第二のレーザ部A2の活性導波路層12と非活性導波路層13の割合を1:2としている。非活性導波路13の割合を大きくすることで、平均の等価屈折率変化を大きくすることができるので、波長変化量を大きくすることができる。しかしながら、非活性導波路層13の割合を大きくすると必然的に活性導波路層12の割合が小さくなってしまい、レーザ発振に必要な利得を得ることが困難になるおそれがある。したがって、活性層の層数などの設計や導波路の損失に応じて割合を調整することが必要であるが、分布活性DFBレーザの原理は、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2で活性導波路層12と非活性導波路層13の割合を同一とすることであるため、その割合は要求に応じて変更可能である。
【0051】
ここで、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差が重要となっている。非活性導波路層13の屈折率は、層構造や波長にもよるが、電流注入により0.025〜0.03程度変化する。本実施形態の非活性導波路層13は、1.4μmのバンドギャップ波長を持つGaInAsP層300nm厚をコア層としてInPクラッド層で挟んだ構造としている。この場合、約0.027の屈折率変化を引き起こすことができる。従って、非活性導波路層13への電流注入前に活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差を0.022に設定した。
【0052】
つまり、活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差−0.005から0.022の範囲で波長変化を起こすことになる。このようにすることにより、非活性導波路層13への電流注入により損失が増加して閾値利得gthが上昇したとしても、共振器としては、活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差が無くなり、両者のブラッグ波長が一致するので高い反射率が得られるようになり、共振器の特性が向上して閾値利得gthを下げる効果が働くため、大きな閾値利得gthの増加を防ぐことが可能となる。
【0053】
すなわち、非活性導波路層13の屈折率の変化量のうち、半分以上の領域が、図3の横軸の活性導波路層12と非活性導波路層13の屈折率差(非活性導波路層13の屈折率−活性導波路層12の屈折率)の正の領域で動くように、初期の活性導波路層12と非活性導波路層13の屈折率差を設定すれば、上記の効果を得ることが可能となる。
【0054】
より効果的には、非活性導波路層13の屈折率を最大に変化させたときに、活性導波路層12の屈折率が変化しないとした場合に、活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差が0から−0.01となっていることが望ましい。これは、実際には、非活性導波路層13への電流注入により損失が増大して閾値利得gthが増大する分だけ、活性層のキャリア密度が増大することにより、活性導波路層12の屈折率が若干低下するためである。
【0055】
屈折率が低下する量は、導波路損失や回折格子の結合係数など、その他のパラメータなどにもよるので、一般化するのは困難である。しかしながら、本発明の重要な点は、屈折率変化をさせていった結果、共振器としての特性が上がるように初期屈折率差を設定しておくという点である。
【0056】
従って、図3上で非活性導波路層13の屈折率を最大に変化させたときに活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差が0から−0.01となるように設定しておくと、実際には活性導波路層12の屈折率が下がる効果も考えると屈折率差が0近辺の状態になり、共振器としては最も閾値利得gthが下がる状態となる。
【0057】
この範囲に設定しておくと、仮に活性導波路層12の屈折率変化が0.01以上起きたとしても、最終的な活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差は正の値となって、初期状態から考えると閾値利得gthは単調減少しているので、損失増大による閾値利得gthの上昇を打ち消す方向に働いていると言え、本発明の効果が得られていると言える。
【0058】
逆に、仮に活性導波路層12の屈折率変化がほとんど起こらなかったとすると、最終的な活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差は−0.01となる。図3から屈折率差0のときの閾値利得gthと屈折率差−0.01の時の閾値利得gthは5%程度の違いでしかない。従って、ここでの閾値利得gthの上昇はわずかだと言えるので許容範囲である。このような理由から、非活性導波路層13の屈折率変化を最大としたときの活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差を0から−0.01となるように設定すると良いと言える。
【0059】
以下に、上述した点を数式化して説明する。
非活性導波路層13の屈折率変化量をΔNtとする。活性導波路層12と非活性導波路層13の初期(非活性導波路層13への電流注入前)の屈折率差(非活性導波路層13の屈折率−活性導波路層12の屈折率)をΔNsとする。活性導波路層12の屈折率変化が無いと仮定した場合に、非活性導波路層13の最大の屈折率変化を得た際の活性導波路層12との屈折率差をΔNeとする。これらの関係は、下式(6)となる。
ΔNs−ΔNt=ΔNe (6)
【0060】
ここで、上述したように屈折率差ΔNeを下式(7)のように設定する。
【0061】
【数3】

【0062】
(6)式及び(7)式から、初期屈折率差ΔNsは、下式(8)で表される。
【0063】
【数4】

【0064】
本実施形態の設定条件を当てはめると、非活性導波路層13の屈折率変化が可能な量は、ΔNt=0.027、また、活性導波路層12と非活性導波路層13との初期屈折率差は、ΔNs=0.022であるから、初期屈折率差ΔNsが、0.017〜0.027の範囲に入っているので(8)式を満たしていることがわかる。
【0065】
初期屈折率差ΔNsは、層構造を変化させることで制御可能である。例えば、活性導波路層13は多層量子井戸構造となっているが、量子井戸数を増やすと等価屈折率が上昇する。また、バリア組成を、より長波長のバンドギャップ波長の組成にすることによっても等価屈折率が上昇する。その他、導波路コアを形成する層の厚さや組成を変更することで等価屈折率を設計可能である。
【0066】
ところで、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し構造よりなる分布活性DFBレーザでは、活性導波路層12と非活性導波路層13との屈折率差が大きくなると、主反射ピークの他に繰り返し周期に反比例する間隔で副反射ピークが生じてくる。図1に示した繰り返し周期の異なる二つのレーザ部A1,A2を直列に接続した構造では、主反射ピークと副反射ピークの間隔が、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2で異なるために、副反射ピークでは共振が生じず、屈折率差が大きくなっても主反射ピークで発振し続ける。
【0067】
本発明では、初期屈折率差ΔNsを比較的大きくする必要があるが、単一の繰り返し周期のみを持つような分布活性DFBレーザの場合は、初期屈折率差ΔNsが大きいために単一モード性が悪くなることがあり得る。したがって、本発明を適用するには、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期を2つ以上持つ分布活性DFBレーザの方が望ましい。
【0068】
(第二の実施形態)
以下、図4及び図5に基づいて本発明に係る波長可変半導体レーザの第二の実施形態について説明する。
【0069】
本実施形態は、第一の実施形態において説明した位相シフト20を、λ/4に代えて、λ/4よりも小さい位相シフトとするものである。具体的には、本実施形態では、位相シフトをλ/5とした。その他の構造は第一の実施形態と同様であり、以下、同一の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略し、異なる点を中心に説明する。活性導波路層12と非活性導波路層13の初期屈折率差ΔNsは0.02とした。
【0070】
図4は、位相シフト20として、3種類(λ/4、λ/6、λ/8)の位相シフトを適用した場合の規格化閾値利得差Δgth/gth1(左軸)と閾値利得gth(右軸)である。位相シフトの量を変えることによって、規格化閾値利得差Δgth/gth1に大きな違いが現れることがわかる。一方、第一モードの閾値利得gthには、それほど大きな違いは見られない。本実施形態の位相シフトはλ/5なので、図4中のλ/4とλ/6の間の特性となることは容易に類推できる。
【0071】
ここで、位相シフトは、図5で定義する関係になっている。図5は横軸を位置で縦軸を屈折率とした場合の回折格子の屈折率変動の模式図であり、図5(a)は位相シフト20をゼロとした場合、図5(b)は位相シフト20をλ/8とした場合、図5(c)は位相シフト20をλ/4とした場合を示している。
【0072】
本発明では、第一の実施形態で説明したように、初期屈折率差ΔNsを最大の屈折率変化を鑑みて設定し、特に屈折率差がほぼ正の領域となるように屈折率を変化させる。図4よりわかるように、位相シフト20をλ/4とすると、屈折率差0において最も規格化閾値利得差Δgth/gth1が大きくなり、屈折率差が大きくなるにしたがって小さくなる。屈折率差0を中心として、屈折率差の正負で対称な形をしている。一方、位相シフト20をλ/4よりも小さくすることによって、規格化閾値利得差Δgth/gth1のピーク位置を屈折率差が正の領域にすることが可能となる。
【0073】
本実施形態では、初期屈折率差が0.02から−0.005程度まで動くので、この範囲で平均的に大きな規格化閾値利得差Δgth/gth1が得られるように、位相シフト20をλ/5としている。ここで、位相シフト20が小さい方が、ピーク位置での規格化閾値利得差Δgth/gth1は小さくなってしまっている。しかし、波長可変レーザとして考えると、波長変化させている範囲で平均した副モード抑圧比(SMSR)が得られる方が良い。
【0074】
以上のように、屈折率差が正の領域を中心に波長を変化させるのであれば、位相シフト量を小さくすることによって、波長変化幅全域にわたって平均的な単一モード特性が得られるようになる。
【0075】
ただし、位相シフト20をあまり小さくしすぎると、単一モード特性が悪くなってしまう。図4で示されるように位相シフト20をλ/8とした場合には、屈折率差0.02から0.025近辺がピークとなっている。屈折率差0.03ではλ/6の位相シフト、λ/8の位相シフトともに急激に規格化閾値利得差Δgth/gth1が減少する。従って、位相シフト20をλ/8よりも小さくすると、波長変化幅全域にわたって平均的な単一モード特性が得られるようにするという効果は得られない。従って、位相シフト20のシフト量ΩCは下式(9)の範囲とすると良い。
【0076】
【数5】

【0077】
従って、第一の実施形態と合わせて考えると、位相シフト20のシフト量ΩCの範囲は、下式(10)となる。
【0078】
【数6】

【0079】
なお、もし、屈折率差が負の領域を使うときには、位相シフト20をλ/4よりも大きくすればよいことは容易に類推できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、波長可変半導体レーザに適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0081】
11 n型InP下部クラッド層
12 GaInAsP活性導波路層
13 GaInAsP非活性導波路層(波長制御層)
14 p型InP上部クラッド層
15 回折格子
16 p型InGaAsコンタクト層
17 活性層電極
18 波長制御電極
19 電極
20 レーザ部間位相シフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、利得を有する活性導波路層と波長を制御するための非活性導波路層とを交互に周期的に繰り返し形成してなる構造を有する波長可変半導体レーザであって、
前記活性導波路層及び前記非活性導波路層の全長にわたって回折格子が形成され、
前記活性導波路層及び前記非活性導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトΩCを共振器中に少なくとも一つ以上有し、
電流を注入することにより前記非活性導波路層の屈折率を最大に変化させた状態において、前記非活性導波路層と前記活性導波路層との屈折率差が−0.01以上0以下となるように、前記電流を注入する前の前記非活性導波路層と前記活性導波路層との初期屈折率差ΔNsを設定する
ことを特徴とする波長可変半導体レーザ。
【請求項2】
前記初期屈折率差ΔNsが、前記電流を注入することにより変化する前記非活性導波路層の最大の屈折率変化量をΔNtとして、下式(1)を満足するように設定される
ことを特徴とする請求項1記載の波長可変半導体レーザ。
【数1】

【請求項3】
前記活性導波路層と前記非活性導波路層とが少なくとも二以上の異なる繰り返し周期を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項4】
前記位相シフトΩCが、下式(2)を満足する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の波長可変半導体レーザ。
【数2】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−93415(P2013−93415A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234074(P2011−234074)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】