説明

波長変換レーザ装置

【課題】波長変換素子の汚損を光触媒でクリーニングする。
【解決手段】基本波光または第2高調波光が照射される波長変換素子の面に光触媒膜を形成すると共に、光触媒活性化光源より基本波光および第2高調波光とは異なる波長の光触媒活性化光を出力し、光学機構により基本波光および第2高調波光の光軸と交差する方向から光触媒活性化光を光触媒膜に照射する。
【効果】レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できる。出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限されない。出力光または基本波光の光軸と光触媒活性化光の光軸を合わせる光軸調整作業を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換レーザ装置に関し、さらに詳しくは、赤外の半導体レーザから可視光を得る波長変換レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いた光学装置では、レーザ光の通過部分近傍に存在する有機物がレーザトラッピング,改質,分解などのプロセスを経て堆積され、光学素子を汚損する。また、レーザ光のパワー密度が高く、照射する波長が短いほど、汚損が顕著になる。
光学素子の汚損は装置の信頼性を低下させる要因となるため、適切なクリーニング処理を行う必要がある。一般的に光学素子は気密構造の筐体内に密封されるため、光学素子に光触媒膜を形成しておき、光触媒を活性化する光触媒活性化光を光学素子に照射する光触媒クリーニングが行われている。
【0003】
特許文献1では、波長473nmの第2高調波光を出力するレーザ装置において光触媒としてCrイオンを注入した酸化チタンを用いる例、波長400nm近傍のレーザ発振光を出力するGaN半導体レーザ装置において光触媒としてVイオンを注入した酸化チタンを用いる例、および、波長532nmの第2高調波を更に波長変換して波長266nmの紫外光を出力する紫外レーザ装置において光触媒として酸化チタンを用いる例が開示されている。
他方、特許文献2では、レーザ装置の出力光を発生するか又は出力光の基となる基本波光を発生する第1の光源とは別に光触媒活性化光を出力する第2の光源を備え、光触媒活性化光の光軸を出力光または基本波光の光軸と合わせて光触媒活性化光を照射する例が開示されている。
【特許文献1】特開2001−70787号公報
【特許文献2】WO2005/088787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の従来技術では、レーザ装置の出力光を光触媒活性化光として利用しているため、光触媒活性化光を出力する別の光源が要らない利点がある。
しかし、低出力で用いられるレーザ装置では、光触媒を活性化するためのパワーが不足してしまう問題点がある。また、出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限される問題点がある。
他方、特許文献2に開示の従来技術では、第1の光源とは別に光触媒活性化光を出力する第2の光源を備えるため、レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できると共に出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限されず、十分なクリーニング性能を得ることが出来る。
しかし、第2高調波光および基本波光と光触媒活性化光の光軸が一致する構成となっているため、装置として不要な光触媒活性化光が第2高調波光と同軸で出射されてしまうとともに、組立および保守が煩雑となる問題点がある。
そこで、本発明の目的は、レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できると共に出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限されず、さらに第2高調波光および基本波光と光触媒活性化光の光軸が一致することのない波長変換レーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、半導体レーザおよび波長選択素子を含み基本波光を出力する基本波光源と、前記基本波光を第2高調波光に変換する波長変換素子と、前記基本波光または第2高調波光が照射される前記波長変換素子の面に形成された光触媒膜と、前記基本波光および第2高調波光とは異なる波長の光触媒活性化光を出力する光触媒活性化光源と、前記基本波光および第2高調波光の光軸と交差する方向から前記光触媒活性化光を前記光触媒膜に照射するための光学機構とを具備したことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第1の観点による波長変換レーザ装置では、基本波光源とは別に光触媒活性化光源を備えるため、レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できると共に出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限されず、十分なクリーニング性能を得ることが出来る。さらに、基本波光および第2高調波光の光軸と交差する方向から光触媒活性化光を照射するため、光触媒活性化光が第2高調波光と同軸で出射されることがない。さらに第2高調波光および基本波光と光触媒活性化光の光軸を合わせる光軸調整作業を必要とせず、組立および保守が容易になる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による波長変換レーザ装置において、前記光触媒活性化光の波長が、前記第2高調波光の波長より短いことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第2の観点による波長変換レーザ装置では、例えば、可視光を出力する波長変換レーザ装置において、光触媒活性化光の波長を紫外領域とし、光触媒として酸化チタンを用い、最も効率の良い光触媒活性化光と光触媒の組合せを用いることが出来る。
【0007】
第3の観点では、本発明は、前記第1または第2の観点による波長変換レーザ装置において、前記波長変換素子が収められた筐体外に前記光触媒活性化光源が設置され、前記波長変換素子が収められた筐体内に光触媒活性化光の照射を可能にする前記光学機構が設置され、前記筐体の内面に光触媒活性化光反射膜が形成されていることを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第3の観点による波長変換レーザ装置では、光触媒活性化光源を筐体外に置くため、光触媒活性化光源が故障したとしても筐体を開けることなく光源の交換作業を行うことが出来る。また、筐体の内面に光触媒活性化光反射膜が形成されているため、光触媒膜への光触媒活性化光の照射効率を向上することが出来る。
【0008】
第4の観点では、本発明は、前記第1から第3のいずれかの観点による波長変換レーザ装置において、前記基本波光源と前記光触媒活性化光源とを同時に点灯しないように制御する制御部を具備したことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第4の観点による波長変換レーザ装置では、基本波光源と光触媒活性化光源とを同時に点灯しないため、光触媒活性化光が迷光として出射されるのを回避することが出来る。また、最大電源容量を低減することが出来る。また、基本波光および第2高調波光と光触媒活性化光の干渉を防止することが出来る。
【0009】
第5の観点では、本発明は、前記第1から第4のいずれかの観点による波長変換レーザ装置において、前記光触媒膜が酸化チタンであり、前記光触媒活性化光が紫外光あることを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第5の観点による波長変換レーザ装置では、最も効率の良い光触媒活性化光と光触媒の組合せを用いることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の波長変換レーザ装置によれば、レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できる。また、出力光の波長によって活性化されうる光触媒が制限されない。さらに、第2高調波高および基本波光と光触媒活性化光の光軸が一致しないため、光触媒活性化光が第2高調波光と同軸で出射されることがなく、光軸調整作業も必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0012】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る波長変換レーザ装置100を示す説明図である。
この波長変換レーザ装置100は、例えば赤外領域の励起レーザ光を発生する半導体レーザ1と、励起レーザ光を集光するレンズ2と、所定波長の赤外光を選択的に基本波光16として出力するための波長選択素子3と、基本波光16を集光するレンズ4と、基本波光16の1/2波長の第2高調波光17を出力する波長変換素子5と、第2高調波光17を平行光にするレンズ6と、半導体レーザ1とレンズ2と波長選択素子3とから構成される基本波光源20の温度を制御するサーモモジュール8と、波長変換素子5の温度を制御するサーモモジュール9と、上述の半導体レーザ1や波長変換素子5などを収容し乾燥空気を充填され密閉された筐体10と、第2高調波光17を筐体10から出射するための窓7と、波長変換素子5の基本波入射面に形成された光触媒膜5aおよび第2高調波出力面に形成された光触媒膜5bと、レンズ6の第2高調波入射面に形成された光触媒膜6aおよび第2高調波出力面に形成された光触媒膜6bと、窓7の第2高調波入射面に形成された光触媒膜7aおよび第2高調波出力面に形成された光触媒膜7bと、筐体10の外に置かれ紫外光18を発生する例えば紫外線発光ダイオードの如き紫外光源12と、筐体10の内部に紫外光18を導入し基本波光16および第2高調波光17の光軸と交差する方向から紫外光18を光触媒膜5a,5b,6a,6b,7a,7bに照射するためのレンズ13,光ファイバ14および光コネクタ15と、筐体10の内面に形成された紫外線反射膜11と、半導体レーザ1に基本波光源電流Isを供給し紫外光源12に光触媒活性化電流Iuを供給しサーモモジュール8,9を駆動する制御部30とを具備している。
【0013】
例えば、基本波光16の波長は約1000nmであり、第2高調波光17の波長は約500nmであり、紫外光18の波長は約390nm以下である。また、光触媒膜5a,5b,6a,6b,7a,7bは、酸化チタンである。
【0014】
図2は、制御部30の動作タイミングを示すタイムチャートである。
時刻t0において、操作者による作動開始の操作がなされると、サーモモジュール8,9による温度制御を開始する。また、紫外線光源電流Iuを供給し、光触媒によるクリーニング処理を行う。基本波光源電流Isは未だ供給しない。
時刻t1に至り、基本波光源20および波長変換素子5の温度が安定すると、紫外線光源電流Iuを停止し、基本波光源電流Isを供給する。これにより、第2高調波17が出力される。
時刻t2において、所定の出力時間が経過するか又は操作者による出力停止の操作がなされると、基本波光源電流Isを停止する。また、紫外線光源電流Iuを供給し、光触媒によるクリーニング処理を行う。
時刻t3において、所定の休止時間が経過するか又は操作者による出力再開の操作がなされると、紫外線光源電流Iuを停止し、基本波光源電流Isを供給する。これにより、第2高調波17が出力される。
以後、基本波光源電流Isまたは紫外線光源電流Iuの一方だけを供給する動作を繰り返す。
操作者による作動停止の操作がなされると、サーモモジュール8,9による温度制御を停止する。また、紫外線光源電流Iuおよび基本波光源電流Isの供給を停止する。
【0015】
実施例1の波長変換レーザ装置100によれば次の効果が得られる。
(1)基本波光源20とは別に紫外光源12を備えるため、レーザ装置としてのパワーとは別に十分なパワーで光触媒を活性化できる。また、最も効率の良い光触媒と光触媒活性化光の組合せである酸化チタンと紫外光を用いることが出来る。
(2)基本波光16および第2高調波光17の光軸と交差する方向から紫外光18を照射し、基本波光16および第2高調波光17の光軸と紫外光18の光軸が一致しないため光触媒活性化光が第2高調波光と同軸で出射されることがなく、さらに光軸調整作業を必要としないため、組立および保守が容易になる。
(3)光コネクタ15よりも故障率が高い紫外光源12を筐体10の外に置くため、比較的頻度が高い紫外光源12の交換作業を、筐体10を開けずに行うことが出来る。
(4)筐体10の内面に紫外光反射膜11が形成されているため、光触媒膜5a,5b,6a,6b,7a,7bへの紫外光18の照射効率を向上することが出来る。
(5)基本波光源20と紫外光源12とを同時に点灯しないため、紫外光18が迷光として出射されるのを回避することが出来る。また、最大電源容量を低減することが出来る。また、基本波光16と第2高調波光17と紫外光18の干渉を防止することが出来る。
【0016】
−実施例2−
場合によっては、基本波光源20と紫外光源12とを同時点灯してもよい。
【0017】
−実施例3−
酸化チタン以外の光触媒と、その光触媒の活性化に適した波長の光触媒活性化光を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の波長変換レーザ装置は、バイオエンジニアリング分野や計測分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1に係る波長変換レーザ装置を示す構成説明図である。
【図2】実施例1に係る波長変換レーザ装置における制御部の動作タイミングを示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0020】
1 半導体レーザ
2,4,6 レンズ
3 波長選択素子
5 波長変換素子
5a,5b 光触媒膜
7 窓
8,9 サーモモジュール
10 筐体
11 紫外線反射膜
12 紫外光源
13 レンズ
14 光ファイバ
15 光コネクタ
16 基本波光
17 第2高調波光
18 紫外光
30 制御部
100 波長変換レーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザおよび波長選択素子を含み基本波光を出力する基本波光源と、前記基本波光を第2高調波光に変換する波長変換素子と、前記基本波光または第2高調波光が照射される前記波長変換素子の面に形成された光触媒膜と、前記基本波光および第2高調波光とは異なる波長の光触媒活性化光を出力する光触媒活性化光源と、前記基本波光および第2高調波光の光軸と交差する方向から前記光触媒活性化光を前記光触媒膜に照射するための光学機構とを具備したことを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換レーザ装置において、前記光触媒活性化光の波長が、前記第2高調波光の波長より短いことを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長変換レーザ装置において、前記波長変換素子が気密された筐体内に収められ、前記光触媒活性化光源が前記筐体外に設置され、前記筐体内に光触媒活性化光の照射を可能にする前記光学機構が設置され、前記筐体の内面に光触媒活性化光反射膜が形成されていることを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長変換レーザ装置において、前記基本波光源と前記光触媒活性化光源とを同時に点灯しないように制御する制御部を具備したことを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長変換レーザ装置において、前記光触媒膜が酸化チタンであり、前記光触媒活性化光源が紫外領域の波長の光を出射する発光ダイオードであることを特徴とする波長変換レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−129547(P2010−129547A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298904(P2008−298904)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】