説明

波長変換型半導体発光素子

【課題】蛍光体などの蛍光物質を適切に配置して、発光ダイオードによって放出された光の波長を適切に変換する照明システムを提供すること。
【解決手段】少なくとも2つの波長変換物質を備える波長変換型半導体発光素子において、該素子によって放出される混合可視光の等価輝度、演色指数、及び色域のうちの1つ又はそれ以上を最大にするために、該素子内の波長変換物質は、異なる波長変換物質間の相互作用を調整するように発光素子に対して及び互いに対して配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換型半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)を含む半導体発光素子は、現在入手できる最も効率の良い光源の1つである。可視スペクトルの全域で作動できる高輝度発光素子の製造者が現在注目している材料系として、特にIII族窒化物材料とも呼ばれるガリウム、アルミニウム、インジウム、及び窒素の二元合金、三元合金、及び四元合金といった、III−V族半導体が挙げられる。典型的には、III族窒化物発光素子は、異なる組成及び添加物濃度の半導体層のスタックを、有機金属気相成長法(MOCVD)、分子線エピタキシャル成長法(MBE)、又は他のエピタキシャル技術によって、サファイア、シリコン・カーバイド、III族窒化物、又は他の適当な基板上にエピタキシャル成長させることにより製造される。サファイアは、広く市販されており、取扱いが比較的容易なため、成長基板として用いられることが多い。成長基板上に成長したスタックは、典型的には、例えばSiを添加した、基板上に形成される1つ又はそれ以上のn型層と、該n型層又は複数のn型層の上に形成される発光領域すなわち活性領域と、例えばMgを添加した、該活性領域の上に形成される1つ又はそれ以上のp型層とを含む。III族窒化物発光素子は、緑色光を通して効率良くUVを放出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
蛍光体などの蛍光物質を用いて、発光ダイオードによって放出された光の色を変換する照明システムが提案されてきた。
【0004】
青色LEDの一次放出光を黄色の蛍光体によって放出された光と混合させる二色型照明システムが、米国特許第5,998,925号に記載される。Y3Al512:Ce3+蛍光体がIII族窒化物LED上を覆い、該LEDから放出された青色光の一部が、該蛍光体によって黄色光に変換される。LEDからの青色光の他の部分は、蛍光体を透過する。このように、このシステムは、LEDから放出される青色光と、蛍光体から放出される黄色光との両方を放出する。青色発光帯及び黄色発光帯の混合光は、約75から約80までの間のCRIと約6000Kから約8000Kまでの範囲の色温度Tとを持つ白色光として、見るものに認識される。
【0005】
しかしながら、二色アプローチに基づく白色LEDは、赤色成分がないことに起因する低質な演色のため、汎用照明の限定された範囲にしか用いることができない。
赤色の不足を補償する照明システムが、図1に示され、米国特許第6,351,069号により詳細に記載される。図1のLED34は、良好な演色をもたらす照明を提供するために、色に関してバランスのとれた白色光出力を生成するように設計される。LED34は、リフレクタ・カップ状リード・フレーム14上に位置決めされ、リード線16及び18に電気的に連結された窒化ガリウム(GaN)ダイ12を含む。リード線16及び18は、励起電力をGaNダイ12に供給する。GaNダイ12は、一般に、正方形の形状にすることができる。好ましい実施形態においては、GaNダイ12は、光スペクトルの青色領域内にある470nmのピーク波長を有する一次光、すなわち青色光を放出するように作られる。GaNダイ12は、透明材料で作られたスペーサ層36で覆われる。この透明材料は、透明エポキシ又はガラスとすることができる。
【0006】
スペーサ層36に隣接しているのは、蛍光層38である。蛍光層38には、蛍光物質22と、第2の蛍光物質40とが含まれる。蛍光物質22は、一次光を吸収して、第1のピーク波長を持つ二次光を放出する特性を有し、一方、蛍光物質40は、一次光を吸収して、第2のピーク波長を持つ二次光を放出する特性を有する。蛍光物質22によって放出される二次光は、可視スペクトルの黄色領域に中心を持つ高帯域スペクトル分布を有することが望ましい。しかしながら、蛍光物質40によって放出される二次光は、可視スペクトルの赤色領域に強度のあるスペクトル分布を有する。従って、一次光と蛍光物質22及び40によって放出された二次光とが混合されると、他の色に加えて、赤色が多く含まれる白色光が生じる。二次光のピーク波長は、一次光のピーク波長に加えて、蛍光物質22及び40の組成によって決まる。
【0007】
2つの蛍光物質を含む層38は、「樹脂ペーストを用いて結合させられた2つの蛍光物質を含む」蛍光体−樹脂混合物である。蛍光体−樹脂混合物は、「封止層上に堆積して、該封止層を均一に覆う蛍光層を形成する。次いで、堆積した蛍光体−樹脂混合物は、ゲル化、すなわち部分的に硬化させることができる」。このように、米国特許第6,351,069号の赤色不足を補償するシステムでは、2つの蛍光物質は、混合されて、ついで樹脂層内に分散させられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によれば、波長変換型半導体発光素子は、第1の波長変換物質及び第2の波長変換物質を含む。第1の波長変換物質は、第2の波長変換物質によって放出される光より短い波長を有する光を放出する。幾つかの実施形態においては、第1及び第2の波長変換物質は、素子によって放出される混合された可視光の等価輝度、演色指数、及び色域のうちの1つ又はそれ以上を最大にするように配置される。幾つかの実施形態においては、第1及び第2の波長変換物質は、互いに隣接して発光素子上に堆積させられる。幾つかの実施形態においては、第1及び第2の波長変換物質は、個別層として堆積されられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来技術である赤色の不足を補償する照明システムを示す。
【図2】Sr2Si58:Eu2+の励起スペクトルと、幾つかの蛍光体の発光スペクトルとを示す。
【図3】蛍光体の相互作用を最小にするように個別の蛍光体層を使用した本発明の実施形態を示す。
【図4】蛍光体の相互作用を最小にするように個別の蛍光体層を使用した本発明の実施形態を示す。
【図5】蛍光体の相互作用を最小にするように個別の蛍光体層を使用した本発明の実施形態を示す。
【図6】蛍光体の相互作用を最小にするように個別の蛍光体層を使用した本発明の実施形態を示す。
【図7】青色発光ダイオードとY3Al512:Ce3+蛍光体とCaS:Eu2+蛍光体とを含むシステムのシミュレーション・スペクトルと実験から得た2つのスペクトルとを示す。
【図8】本発明の実施形態に係るディスプレイを示す。
【図9】図8の装置に使用されたLEDと蛍光体との組み合わせの例を示す。
【図10】図8の装置に使用されたLEDと蛍光体との組み合わせの例を示す。
【図11】図8の装置に使用されたLEDと蛍光体との組み合わせの例を示す。
【図12】図8の装置に使用されたLEDと蛍光体との組み合わせの例を示す。
【図13】図8の装置に使用されたLEDと蛍光体との組み合わせの例を示す。
【図14】Y3Al512:Ce3+蛍光体及びCaS:Eu2+蛍光体の励起スペクトル及び発光スペクトルを示す。
【図15】青色発光ダイオードとY3Al512:Ce3+蛍光体とSr2Si58:Eu2+蛍光体とを含むシステムの実験から得られた2つのスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態にしたがって、半導体発光素子と組み合わされた蛍光体などの多波長変換材料を含むシステムが開示される。以下の説明では、「混合」光又は「合成」光は、半導体発光素子によって放出された光と、システム内のすべての蛍光体によって放出された光とが結合された光を指す。
【0011】
幾つかの実施形態においては、青色発光ダイオードが、黄色又は緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体と組み合わされる。適切な黄色又は緑色発光蛍光体の例として、例えばLu3Al512:Ce3+及びY3Al512:Ce3+を含む(Lu1-x-y-a-bxGdy3(Al1-zGaz512:Cea3+Prb3+(ここで、0<x<1、0<y<1、0<z≦0.1、0<a≦0.2、0<b≦0.1)と、例えばSrSi222:Eu2+を含む(Sr1-a-bCabBac)Sixyz:Eua2+(ここで、a=0.002〜0.2、b=0.0〜0.25、c=0.0〜0.25、x=1.5〜2.5、y=1.5〜2.5、z=1.5〜2.5)と、例えばSrGa24:Eu2+を含む(Sr1-u-v-xMguCavBax)(Ga2-y-zAlyInz4):Eu2+と、Sr1-xBaxSiO4:Eu2+とが挙げられる。適切な赤色発光蛍光体の例として、例えばCaS:Eu2+及びSrS:Eu2+を含む(Ca1-xSrx)S:Eu2+(ここで、0<x≦1)と、例えばSr2Si58:Eu2+を含む(Sr1-x-yBaxCay2-zSi5-aAla8-aa:Euz2+(ここで、0≦a<5、0<x≦1、0≦y≦1、0<z≦1)とが挙げられる。
【0012】
幾つかの実施形態においては、紫外線発光ダイオードが、青色発光蛍光体、黄色又は緑色発光蛍光体、及び赤色発光蛍光体と組み合わされる。適切な黄色又は緑色発光蛍光体、及び適切な赤色発光蛍光体の例は、上記されている。適切な青色蛍光発光体の例として、例えばMgSrSiO4が挙げられる。
以下に記載される実施形態は、2つの蛍光体と組み合わされた青色LEDと、3つの蛍光体と組み合わされた紫外線LEDとに言及しているが、より多くの又はより少ない蛍光体と、他の光を放出するLEDとを用いることができることが理解される。
【0013】
上記の蛍光体の幾つかの励起スペクトル及び発光スペクトルが、図2に示される。図2において、スペクトルaはSr2Si58:Eu2+の励起スペクトルであり、スペクトルbはSr2Si58:Eu2+の発光スペクトルであり、スペクトルcはMgSrSiO4の発光スペクトルであり、スペクトルdはSr1-xBaxSiO4:Eu2+の発光スペクトルであり、スペクトルeはSrGa24:Eu2+の発光スペクトルであり、スペクトルfはSrSi222:Eu2+の発光スペクトルである。
【0014】
本発明者らは、幾つかの蛍光体を混合させると、混合された蛍光体間の相互作用が素子の効率及びスペクトルに悪影響を及ぼす場合があることを発見した。したがって、組み合わせる蛍光体に応じて、図3から図6を用いて後述するように蛍光体を別々の個別層として堆積させることにより、素子の性能を改善することができる。好ましい蛍光体の配置が、図1のような蛍光体の混合物であるか又は図3から図6のような個別層であるかは、蛍光体の励起スペクトル及び発光スペクトル並びに用途によって決まることになる。3つの用途、すなわち、LED上に直接堆積した蛍光体を持つ照明装置と、LEDから間隔を空けて配置された蛍光体を持つディスプレイと、LEDから間隔を空けて配置された蛍光体を持つ照明装置とが、以下に説明される。照明装置の場合は、蛍光体の配置は、CRI又はRaとして与えられる演色指数を最大にするように選択することができる。ディスプレイ装置の場合は、蛍光体の配置は、該装置に用いられるフィルタについての色域を最大にするように選択することができる。照明装置においてもディスプレイ装置においても、等価輝度を最大にすることが望ましい。等価輝度は、所与のスペクトルについてできる最大効率であり、ルーメン/Wで表される。
【0015】
図1及び図3から図6までは、図1においては混合物として、図3から図6においては個別層としてLED上に直接堆積させた蛍光体を持つ、第1の用途である照明装置を示すものである。照明装置においては、蛍光体の配置は、等価輝度及び演色指数を最大にするように選択される。蛍光体の具体的な組合せについて、図1及び図3から図6までの異なる蛍光体配置のうちのどれが適切であるかについての判断が、2つの例、すなわち、Y3Al512:Ce3+蛍光体及びSr2Si58:Eu2+蛍光体を持つ素子と、Y3Al512:Ce3+蛍光体及びCaS:Eu2+蛍光体を持つ素子とに即して説明される。
【0016】
第1の例においては、青色発光ダイオードが、Y3Al512:Ce3+蛍光体及びSr2Si58:Eu2+蛍光体と組み合わされる。図2は、Y3Al512:Ce3+及びSr2Si58:Eu2+の励起スペクトル及び発光スペクトルを示す。このシステムによって放出される結合光の1次近似では、青色発光ダイオードのスペクトルと2つの蛍光体のスペクトルとが加えられる。Y3Al512:Ce3+及びSr2Si58:Eu2+の発光スペクトルは、どちらの蛍光体も、例えば約600nmの橙色波長で強く発光することを示す。橙色波長での発光スペクトルの重なりは、混合光の見え方を赤から離れてより短い波長方向へシフトさせる。このシフトは、混合光の演色に悪影響を与えることがある。
【0017】
さらに、図2は、Y3Al512:Ce3+の発光スペクトルが、Sr2Si58:Eu2+の励起スペクトルと重なることを示す。結果として、Y3Al512:Ce3+蛍光体からの発光の一部がSr2Si58:Eu2+蛍光体によって消費され、混合光における緑色/黄色光の量が減少することになる。さらに、Y3Al512:Ce3+によって放出された光のSr2Si58:Eu2+による吸収が、より短い橙色波長方向への混合光のシフトを招く。どちらの作用も、混合光の演色に悪影響を与えることがある。
【0018】
緑色/黄色発光蛍光体によって放出された光の赤色発光蛍光体による吸収は、緑色/黄色発光体と赤色発光体とを個別領域に分けることによって減少させることができる。図3から図6までは、緑色/黄色発光蛍光体によって放出された光の赤色発光蛍光体による吸収を減少させるように赤色発光蛍光体及び緑色/黄色発光蛍光体を堆積させた素子の実施形態を示す。
【0019】
図3に示された素子においては、半導体発光素子1をリフレクタ・カップ2内に堆積させる。緑色/黄色蛍光体5は、樹脂、シリコン、又は他の透明材料と混合されて、リフレクタ・カップ2の一方の側に堆積させられ、一方、赤色蛍光体を含む他の何らかの蛍光体4は、樹脂、シリコン、又は他の透明材料と混合されて、スラリ5がスラリ4とほとんど混ざらないようにリフレクタ・カップ2の他方の側に堆積させられる。幾つかの実施形態においては、スラリ状の透明材料の粘度は、蛍光体4が蛍光体5と混ざらないように選択される。緑色/黄色蛍光体5及び他の何らかの蛍光体4は、混ざって同一のスラリになるのではなく互いに隣接するので、緑色/黄色蛍光体5によって放出された光は、スラリ4内の何らかの赤色発光蛍光体によって吸収される可能性が低い。
【0020】
図4に示される素子においては、緑色/黄色発光蛍光体5及び他の蛍光体4を、個別層としてLED1上に堆積させる。何らかの赤色発光蛍光体を含む蛍光体層4は、LED1の最も近くに堆積させられる。次に、緑色/黄色発光蛍光体5は、蛍光体層4の上に堆積させられる。蛍光体層4及び5は、任意の透明層6によって分離させることができる。蛍光体層4及び5は、樹脂又は他の透明材料のスラリとして堆積させるか、例えば電子ビーム蒸着法、熱蒸着法、高周波スパッタリング、化学気相成長法、又は原子層エピタキシー法によって薄膜として堆積させるか、又は、例えばスクリーン印刷、米国特許第6,650,044号に記載されるステンシル、若しくは米国特許第6,576,488号に記載される電気泳動析出法によってLED1上にコンフォーマル層として堆積させることができる。薄膜は、米国特許第6,696,703号により詳細に記載される。米国特許第6,696,703号と米国特許第6,650,044号と米国特許第6,576,488号の各々は、引用によりここに組み入れられる。典型的には単一の大きな蛍光体粒子として機能する薄膜とは対照的に、コンフォーマル層の蛍光体は、一般に、多数の蛍光体粒子として機能する。さらに、薄膜は、典型的には、蛍光体以外の物質を含まない。コンフォーマル層は、多くの場合、例えばシリカなどの、蛍光体以外の物質を含む。
【0021】
幾つかの実施形態においては、1つ又はそれ以上のダイクロイック・フィルタが素子内に含まれる。LED1によって放出された光は通すが、蛍光体4及び5によって放出された光は反射するように設計されたダイクロイック・フィルタを、LED1と蛍光体層4との間に挟むことができる。緑色/黄色発光蛍光体5と赤色発光蛍光体4との間の層6は、該赤色発光蛍光体4及びLED1によって放出された光を通すように設計されたダイクロイック・フィルタとし、緑色/黄色発光蛍光体5によって放出された光を反射することができる。ダイクロイック・フィルタは、蛍光体層4及び5によってLED1内に後方散乱される放射の量を減少させ、その放射を吸収することができる。
【0022】
図5に示される素子においては、緑色/黄色発光蛍光体5及び他の蛍光体4を、LED1上の複数の微小領域に堆積させる。異なる領域によって、格子模様などのパターンが形成されることになる。LEDによって放出された青色光が蛍光体によって放出された緑色光及び赤色光と混合して白色光になる場合のように、LED1からの光が変換されずに放出されることになる場合には、非変換光の量は、蛍光体領域4及び5の厚みを調節するか、又は、覆われないLED1の領域を残すか若しくは該LED1によって放出された光を変換しない任意の透明材料7によって覆われるLED1の領域を残すことによって、制御することができる。図5に示されるような異なる発光体層のパターンは、第1の蛍光体層を電気泳動析出法によって堆積させ、その層を従来のリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いてパターニングし、次いで、第2の蛍光体層を電気泳動析出法によって堆積させることによって形成することができる。代替的には、蛍光体層のパターンは、スクリーン印刷又はインク・ジェット印刷によって堆積させることができる。幾つかの実施形態においては、蛍光体層のパターンは、個々の蛍光体混合物4及び5を、微生物学で用いられる透明なプラスチック・マイクロプレートのウェルに分注することによって形成することができる。次に、蛍光体で満たされたマイクロプレートは、LED1上に配置される。蛍光体で満たされたマイクロプレートは、LED1とは別に形成することができる。
【0023】
図6に示された素子においては、何らかの赤色発光蛍光体を含む蛍光体4の複数の微小領域が、LED1の表面上に形成される。緑色/黄色発光蛍光体5の層が、蛍光体4の複数の領域上に堆積させられる。
【0024】
図3から図6までに示される実施形態の各々は、上述の吸収の問題を軽減することができる。いずれの場合にも、LED1によって放出された光は、最初に赤色発光蛍光体に入射するか、又は、別々の領域の赤色発光蛍光体及び緑色/黄色発光蛍光体に入射する。このように、図3から図6までに示される配置は、緑色/黄色発光蛍光体から放出された光が赤色発光蛍光体によって吸収される確率を低下させる。
【0025】
図3から図6までに示されるように蛍光体を分離することによって、青色LEDと、Y3Al512:Ce3+蛍光体と、Sr2Si58:Eu2+蛍光体とを含む照明システムの演色が著しく改善する。図15は、図1に示されるような混合型蛍光体配置(曲線a)と、図4に示されるような層状蛍光体配置(曲線b)とにおける、青色LEDとY3Al512:Ce3+蛍光体とSr2Si58:Eu2+蛍光体からの混合光のスペクトルを示す。いずれの蛍光体配置も、層状配置については296、及び、混合型配置については343という高等価輝度を有するが、層状配置は、混合型配置の場合の75と比較して、87という著しく高い演色指数を示す。
【0026】
幾つかの実施形態においては、青色LEDがY3Al512:Ce3+蛍光体及びCaS:Eu2+蛍光体と組み合わされる場合の第2の照明システムの例に示されるように、緑色/黄色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを分離しても、素子の性能は向上しない。図14は、Y3Al512:Ce3+及びCaS:Eu2+の励起スペクトル及び発光スペクトルを示す。最も左の実線は、Y3Al512:Ce3+の励起スペクトルである。中央の実線は、Y3Al512:Ce3+の発光スペクトルである。破線は、CaS:Eu2+の励起スペクトルである。最も右の実線は、CaS:Eu2+の発光スペクトルである。図7は、青色LEDとY3Al512:Ce3+蛍光体とCaS:Eu2+蛍光体とを含むシステムからの合成光の3つのスペクトルを示す。曲線aは、発光ダイオード及び2つの蛍光体の発光スペクトルの重ね合わせによって計算されたシミュレーション・スペクトルである。曲線bは、図1に示されるように2つの蛍光体を単一層内に混合することによって形成される素子からの観測スペクトルである。曲線cは、図4に示されるような2つの個別の蛍光体層を含む素子からの観測スペクトルである。蛍光体を層状にすることによって、素子の等価輝度が低下する。層状の素子は、演色指数が96であり、等価輝度が265である。混合型素子は、Raが91であり、等価輝度が300である。したがって、蛍光体を層状にしても演色がそれほど向上せず、素子の等価輝度は減少する。結果として、蛍光体を混合することが好ましい。
【0027】
多くの要因が、多数の蛍光体を混合させるのが最も良いのか、又は個別層として形成するのが最も良いのかを左右することになる。2つの蛍光体の屈折率の差と、該2つの蛍光体の粒子サイズの差が、緑色/黄色蛍光体からの発光の赤色蛍光体による吸収性に影響を与える。2つの物質間の屈折率の段差が大きくなるにつれて、該2つの物質間の界面への入射光が吸収されるより反射されるようになる可能性も高くなる。このように、2つの蛍光体の屈折率が大きく異なる場合は、緑色/黄色蛍光体によって放出された光は、赤色蛍光体に入射すると、吸収されるよりもむしろ散乱されやすい。さらに、赤色発光蛍光体の放射スペクトルの位置は、2つの蛍光体を混合すべきかどうかを左右する場合がある。上述のように、緑色/黄色発光蛍光体と赤色発光蛍光体との間の相互作用は、システムからの合成光の赤色成分をより短い橙色波長方向へシフトし、演色の低下をもたらす。赤色発光蛍光体のピーク波長が長くなるにつれて、システムは、演色に影響を与えることなく、より短波長方向へ赤色のシフトを許容できるようになる。同様に、緑色/黄色発光蛍光体の発光スペクトルと赤色発光蛍光体の励起スペクトルと間の重なりは、2つの発光体を混合すべきかどうかを左右することになる。その重なりが大きければ大きいほど、緑色/黄色発光蛍光体からの発光量のより多くが、赤色発光蛍光体によって吸収されやすくなる。したがって、重なりが大きければ大きいほど、システムの性能は、蛍光体を分離することによって変化させやすくなる。
【0028】
幾つかの実施形態においては、蛍光体は個別層に分離されるが、例えば少量の赤色発光蛍光体を、緑色/黄色発光蛍光体層に含ませることができる。緑色/黄色発光蛍光体層内における少量の赤色発光蛍光体の存在により、合成光の演色を向上させることができる。
【0029】
図8は、第2の用途であり、1つ又はそれ以上のLEDから間隔を空けて配置された蛍光体を備えるディスプレイ装置を示す。図8に示される装置は、2003年10月3日に出願され、発明の名称を「LCD Backlight Using Two−Dimensional Array LEDs」とし、引用によりここに組み入れられる米国出願連続番号第10/678,541号に、より詳細に説明される。
図8は、LCDディスプレイの側面図である。LEDのアレイ24が、バックライト26の後部パネル上に取り付けられる。バックライト26は、拡散カバー・プレート40で覆われる。拡散体40は、例えばアクリル又はガラスで作られ、光を拡散するように粗い表面を持つ。代替的に、拡散体40は、アクリル又はガラスのシートと共に、光散乱粒子を備えることもできる。多くの種類の拡散体が知られており、バックライト26で用いることができる。バックライト26の光出力が、拡散体がなくても十分に拡散される場合は、拡散体40の代わりに透明プレートを用いることができる。例えば3Mによって製造される、例えばBrightness Enhancement Film及びDual Brightness Enhancement Filmといった、輝度又は効率を増加させるための付加的なフィルム(図示せず)を、拡散体の上面のLCD直前に用いてもよい。
【0030】
バックライト26の後面及び側壁は、高反射性材料で覆われる。後面に白色拡散反射フィルム(例えば、日本のToray社によって製造されるE60L)を用い、側壁に鏡面反射材料(例えば、ドイツのAlanod社によって製造されるMiro材料)を用いて良好な結果が得られたが、他の構成も同様に機能する。用いられる材料は、好ましくは90%より大きい高反射係数を有するべきであろう。こういった高反射材料を用いることによって、高い再利用率が達成される。このことは、こうしたフィルムは、第1の光路では用いることができず、第2又は第3の光路の間にLCDの出力に寄与するように再利用される必要がある光を反射するため、上述のようにBrightness Enhancement Filmが用いられるときには特に重要である。
【0031】
LCDパネル14は、バックライト26の前に設置される。LCDパネル14は、第1の偏光フィルタと、液晶層の選択範囲を横切って電界を生成するための薄膜トランジスタ・アレイと、液晶層と、RGBカラー・フィルタ・アレイと、第2の偏光フィルタとを有する従来型のLCDとすることができる。カラー・フィルタ・アレイは、赤色と、緑色と、青色のサブピクセルを有する。LCDパネル14とバックライト26との間には、輝度増強フィルム(BEF)又は偏光回復フィルム(DBEF)などの付加的なフィルムを用いることができる。
【0032】
LED26は、一般に、青色又は紫外線放射LEDである。図1のように混合されるか、又は図3から図6までのように層状にされる多数の蛍光体を含むことができる蛍光体層39が、LED26上に直接ではなく、カバー・プレート40上に形成される。幾つかの実施形態においては、異なる蛍光体層が、カバー・プレート40の異なる表面に形成される。カバー・プレート40は、蛍光体によって行われる拡散の量に応じて、拡散体としてもしなくてもよい。バックライト26に用いられるフィルムの反射率が高いことによって、蛍光体からバックライト26の後部に放出される光はLEDチップに入る光と比べて再利用率が高いため、蛍光体層39をLED26から離して配置することは好ましいことである。再利用率に加えて、蛍光体は、LED近くの高温に耐える必要も、LEDと化学的に適合するものである必要もなく、利用できる適当な蛍光体の数が増加し、装置の効率及び寿命が改善される可能性がある。青色バックライトは、異なる種類のカラー・フィルタと共に広範囲の異なるディスプレイに用いることができあり、特定のLCDに適合させるためには、蛍光体層の厚みと蛍光体の濃度とを最適化するだけでよいので、物流的な観点からも、この解決法は注目されるものである。
図8に示されるディスプレイ装置においては、蛍光体配置は、等価輝度及び色域を最大にするように選択される。
【0033】
図9、図10、図11、図12、及び図13は、青色発光ダイオードと組み合わされる幾つかの蛍光体組成の性能を示す。図9から図13までの各々においては、曲線aは、真の白色光と考えられるプランク軌跡を表し、曲線bは、CIEチャートを表す。曲線cは、図8の装置のRGBピクセル・フィルタ内のフィルタを用いて可能になる色域を示す。点dは、LED及び蛍光体によって放出される混合光の色を表す。曲線eは、NTSC規格で要求される色域を表す。点fは、赤色フィルタ、青色フィルタ、及び緑色フィルタの各々によってフィルタをかけられた後の光の色を表す。点gは、フィルタをかける前の合成光のスペクトルを示す。曲線h、i、及びjは、図8のRGBピクセル・フィルタの青色フィルタ、緑色フィルタ、及び赤色フィルタの性能を示す。曲線kは、LEDと蛍光体との組み合わせによって放出される合成光を示す。曲線lは、曲線hで表された青色フィルタを通過した後の合成光を示す。曲線mは、曲線iで表された緑色フィルタを通過した後の合成光を示す。曲線nは、曲線jで表された赤色フィルタを通過した後の合成光を示す。
【0034】
図9に示される装置においては、例えば455nmの光を放出する青色LEDが、単一の蛍光体であるY3Al512:Ce3+と組み合わされる。図9に示される装置は、等価輝度299で作動し、NTSC規格の色域の範囲の62%となる色域を有する。
【0035】
図10に示される装置においては、赤色発光蛍光体であるSrS:Eu2+が図9の装置に追加される。SrS:Eu2+の追加は、装置の性能にそれほど影響を与えない。図10に示される装置は、等価輝度291で作動し、NTSC規格の色域の範囲の62%となる色域を有する。
【0036】
図11に示される装置は、青色発光ダイオードをSrGa24:Eu2+及びCaS:Eu2+と組み合わせるものである。この装置は、優れた色域(NTSCの86%)を示すが、200という低質の等価輝度である。この場合は、図1に示されるように蛍光体を混合するのではなく、図3から図6に示されるように個別の蛍光体領域を形成することが好ましい。
【0037】
図12に示される装置においては、図11の装置のCaS:Eu2+がSrS:Eu2+に置き代えられる。この装置は、優れた色域(NTSCの73%)と優れた等価輝度(298)とを示す。この場合は、図1に示されるように蛍光体を混合するのではなく、図3から図6に示されるように個別の蛍光体領域を形成することが好ましい。
【0038】
図13に示される装置は、青色発光ダイオードをSr1-xBaxSiO4:Eu2+及びSr2Si58:Eu2+と組み合わせるものである。この装置は、NTSCの72%の色域と、241の等価輝度とを有する。
【0039】
第3の用途においては、照明装置は、1つ又はそれ以上のLEDから間隔を空けて配置された蛍光体を含む。こうした装置の一例は、図8に示された装置からLCD14を省いたものである。こうした実施形態においては、蛍光体配置は、等価輝度及び演色指数を最大にするように選択される。第1の用途において上述されたような蛍光体の組合せが適切であろう。
【0040】
本発明を詳細に説明してきたが、当業者であれば、本開示を前提として、本明細書で説明された発明概念の精神から逸脱することなく、本発明に対して修正を行うことができることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲が、例示され、説明された特定の実施形態に制限されることを意図するものではない。
【符号の説明】
【0041】
1:半導体発光素子
2:リフレクタ・カップ
4、5:蛍光体
6:層
7:透明材料
14:LCD
24:LEDアレイ
26:バックライト
39:蛍光体層
40:カバー・プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高反射性材料で覆われる後部と、
前記後部上において位置され、第1のピーク波長を有する第1の光を放出することができる少なくとも1つの半導体発光素子と、
前記少なくも1つの半導体発光素子から間隔を置いて配置されたカバー・プレートと、
前記第1の光を吸収することができ、かつ、前記第1のピーク波長より長い第2のピーク波長を有する第2の光を放出することができる第1の波長変換物質を含む第1の蛍光物質と、
前記第2のピーク波長より長い第3のピーク波長を有する第3の光を放出することができる第2の波長変換物質を含む第2の蛍光物質と、
を備え、
前記第1蛍光物質及び前記第2蛍光物質は、前記少なくとも1つの半導体発光素子から間隔を置いて配置されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記高反射性材料は、90%より大きい高反射係数を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第3の光が前記第1の光及び前記第2の光と混合されて、白色に見える混合光を生成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1蛍光物質及び前記第2蛍光物質は、前記カバー・プレート及び前記少なくとも1つの半導体発光素子との間に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1蛍光物質及び前記第2蛍光物質は、前記カバー・プレートへ一体化される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の蛍光物質及び前記第2の蛍光物質を含む蛍光体層は、前記カバー・プレート上に配置されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の波長変換物質及び前記第2の波長変換物質は、前記カバー・プレート上に個別層として堆積されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の波長変換物質は前記カバー・プレート上に塗布され且つ前記第2の波長変換物質は前記後部へ塗布される、又は逆である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の蛍光物質層及び前記第2の蛍光物質層が、前記第1の光と前記第2の光と前記第3の光とを混合した光の等価輝度を最大にするように配置されたことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
1つ又はそれ以上のフィルタをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記第1の蛍光物質層及び前記第2の蛍光物質層が、前記第1の光と前記第2の光と前記第3の光とが前記1つ又はそれ以上のフィルタを通過した後の色域を最大にするように配置されたことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
前記第2の波長変換物質層が、前記第1の波長変換物質層より、前記少なくとも1つの半導体発光素子に近いことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の波長変換物質が、0<x<1、0<y<1、0<z≦0.1、0<a≦0.2、及び0<b≦0.1である(Lu1-x-y-a-bxGdy3(Al1-zGaz512:Cea3+Prb3+と、Lu3Al512:Ce3+と、Y3Al512:Ce3+と、a=0.002〜0.2、b=0.0〜0.25、c=0.0〜0.25、x=1.5〜2.5、y=1.5〜2.5、z=1.5〜2.5である(Sr1-a-bCabBac)Sixyz:Eua2+と、SrSi222:Eu2+と、(Sr1-u-v-xMguCavBax)(Ga2-y-zAlyInz4):Eu2+と、SrGa24:Eu2+と、Sr1-xBaxSiO4:Eu2+との群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項14】
前記第2の波長変換物質が、0<x≦1である(Ca1-xSrx)S:Eu2+と、CaS:Eu2+と、SrS:Eu2+と、0≦a<5、0<x≦1、0≦y≦1、及び0<z≦1である(Sr1-x-yBaxCay2-zSi5-aAla8-aa:Euz2+と、Sr2Si58:Eu2+との群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項15】
前記第1の蛍光物質層及び前記第2の蛍光物質層の少なくとも1つが、波長変換物質ではない第2の物質を含む、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項16】
前記第2の物質が、樹脂、シリコン、及びシリカの群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の装置を含む液晶ディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−216905(P2011−216905A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153916(P2011−153916)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【分割の表示】特願2005−45325(P2005−45325)の分割
【原出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(500507009)フィリップス ルミレッズ ライティング カンパニー リミテッド ライアビリティ カンパニー (197)
【Fターム(参考)】