説明

注入工法及びそれを用いた組成物

【課題】均一な組成物を安定的に圧送できる注入工法の提供。
【解決手段】有機チタン系化合物とポリビニルアルコールからなる水溶液のA材とセメント系鉱物を含有するスラリーのB材を別々に圧送し、注入前にA材とB材を混合し、スタティックミキサに圧送し、注入してなる注入工法。A材とB材の混合物の注入量が毎分1〜40リットルである。A材50〜95質量部とB材5〜50質量部を別々に圧送する。スタティックミキサのエレメントの直径に対するエレメントの長さの比が1〜60倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野の地下構造物周囲又は地盤に注入する注入工法及びそれを用いた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の周囲を弾性組成物で改質することにより、地震による地下構造物の被害を軽減する技術が検討されている。弾性組成物としてポリビニルアルコールを用いたヒドロゲル組成物が検討されている(特許文献1、2、3)。水溶性チタン化合物として有機チタンペルオキソ化合物やその製法が開示されている(特許文献4,5)。
【特許文献1】特開平06−207071号公報
【特許文献2】特開平05−117003号公報
【特許文献3】特開2005−162984号公報
【特許文献4】特開2000−159786号公報
【特許文献5】特開2004−43353号公報 有機チタン化合物とポリビニルアルコールを含有する弾性組成物が開示されている(特許文献6,7)。
【特許文献6】特開2007−31662号公報
【特許文献7】特開2007−177212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機チタン系化合物とポリビニルアルコールからなる水溶液とセメント系鉱物を含有するスラリーは液状であるため、ポンプ圧送性に優れる。
【0004】
しかし、Y字管、T字管などにより混合しても均一に混合できず、弾性を有する組成物が得られない課題があった。ゲル化すると瞬時に粘度が上昇するため、均一な組成物を圧送できない課題があった。
【0005】
そこで、本発明者は、鋭意努力を重ね、種々の実験検討を通して、均一な組成物を注入できる工法を完成し、均一に混合できる組成物を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は有機チタン系化合物とポリビニルアルコールからなる水溶液のA材とセメント系鉱物を含有するスラリーのB材を別々に圧送し、注入前にA材とB材を混合し、スタティックミキサに圧送し、注入してなる注入工法であり、A材とB材の混合物の注入量が毎分1〜40リットルである該注入工法であり、A材50〜95質量部とB材5〜50質量部を別々に圧送する該注入工法であり、スタティックミキサのエレメントの直径に対するエレメントの長さの比が1〜60倍である該注入工法であり、該注入工法により製造する組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の注入工法は、均一な組成物を安定的に圧送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
なお、本発明で使用する部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0009】
本発明で使用するポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)は、完全ケン化型PVA、部分ケン化型PVAをはじめとして、水酸基を有し実質的に水溶性を保持しているものであればよい。アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、アクリルアミドなどを付加した各種変性PVAを用いることもできる。本発明で使用するPVAの平均重合度は、500〜3000が好ましく、1000〜2000がより好ましい。PVAの鹸化度は80mol%以上のものが好ましく、90mol%以上がより好ましい。PVAの重合度や鹸化度が前記範囲外の場合には、ヒドロゲル組成物がゲル化した後の物理的強度、弾力性、耐水性に影響する場合がある。
【0010】
PVAを予め水溶液として使用する際、PVA水溶液中の固形分濃度は、5〜15質量%が好ましく、8〜12質量%がより好ましい。5質量%未満ではヒドロゲル組成物が硬化し弾性が不足する場合があり、15質量%を超えると水溶液の安定性が悪くなり、さらにヒドロゲル組成物から溶出する有機物の濃度が高くなる場合がある。
【0011】
本発明で使用する有機チタン化合物は、水酸基やカルボキシル基と反応するもの(架橋剤)であれば利用可能である。中でも、水溶性の有機チタン系化合物を用いることが好ましい。
【0012】
有機チタン化合物の中では、水溶性のものが好ましい。水溶性の有機チタン化合物の中では、チタンアルコキシドにヒドロキシカルボン酸である乳酸を反応させたチタンラクテートや、チタンアルコキシドにβ-ジケトンであるアセチルアセトンを反応させたチタンアセチルアセトネート、チタンアルコキシドにアルカノールアミンであるトリエタノールアミンを反応させたチタントリエタノールアルミネート、チタンアルコキシドにジカルボン酸であるシュウ酸を反応させたシュウ酸チタンなどを含むものが増粘作用の観点から好ましい。さらにチタンペルオキソ化合物を利用することも可能である。特に、水溶液の安定性に優れるチタンラクテートが好ましい。
【0013】
本発明で使用する有機チタン化合物は液状でも粉末状でも使用できる。液状のほうがPVA水溶液との混合性に優れる。有機チタン化合物の水溶液のチタン濃度は1.0〜10.0質量%が好ましく、4.0〜7.0質量%がより好ましい。1.0質量%未満では、十分な架橋が得られず強度発現性が得られない場合がある。10.0質量%を超えると水溶液が安定しない場合がある。
【0014】
有機チタン化合物の水溶液のpHは2以上が好ましく、4以上がより好ましい。2以下では強酸となり施工時の安全性に課題があり、ゲル化時間が遅くなり、水中不分離抵抗性に劣る場合がある。
【0015】
本発明で使用する有機チタン化合物とPVAの混合割合は、有機チタン化合物中のチタンとポリビニルアルコール水溶液中の水酸基とのモル比(以下、Ti/OHモル比という)が0.05〜0.4が好ましく、0.08〜0.25がより好ましい。0.05未満ではゲル組成物が膨潤し長期安定性に劣る場合がある。0.4を超えるとゲル組成物の強度が高くなりすぎて弾性が損なわれる場合がある。
【0016】
本発明で使用するセメント系鉱物としては、普通、早強、超早強および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグやフライアッシュなどを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメント、並びに、アルミナセメントなどが挙げられる。各種ポルトランドセメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することもできる。通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)量を増減して調整されたものも使用できる。
【0017】
セメントの硬化を早めるカルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、カルシウムサルホアルミネート、カルシウムアルミノフェライトも使用できる。
【0018】
セメント系鉱物は単独で使用することができ、さらに2種以上併用して使用することもできる。
【0019】
本発明のセメント系鉱物の粒度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/gが好ましく、4000〜8000cm/gがより好ましい。3000cm/g未満ではゲル体の強度が充分でない場合がある。9000cm/gを超えると流動性や可使時間の確保が困難になる場合がある。
【0020】
B材をスラリー化するための水量は、水結合材比で、15〜100質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。ここで、結合材とは、セメント系鉱物などをいう。15質量%未満ではセメントスラリーが瞬結する場合がある。100質量%を超えると架橋割合が減少し、ヒドロゲル組成物の弾性が不十分になる場合がある。
【0021】
さらに本発明の組成物においては、セメントの水和促進剤、凝結遅延剤、流動化剤を本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0022】
本発明で使用する有機チタン系化合物とポリビニルアルコールと水を含有するA材とセメント系鉱物と水を含有するB材を混合する。A材とB材の混合物の注入量は、毎分1〜40リットルが好ましく、毎分5〜20リットルがより好ましい。毎分1リットル未満では安定した圧送ができず、A材とB材の混合後、圧送管内でゲル化し、圧送できない場合がある。毎分40リットルを超えるとスタティックミキサ内に流れる最大流量より圧送量が多くなり、A材とB材の混合部で圧力が高くなり、ホースが破損する場合がある。
【0023】
本発明で使用するA材とB材の合計100質量部中、A材の使用量は50〜95質量部が好ましく、60〜85質量部がより好ましい。50質量部未満ではA材とB材を混合時に瞬時にゲル化が生じ、圧送できない場合がある。95質量部を超えると、B材側の圧送圧力より高すぎ、B材が圧送できない場合がある。
【0024】
本発明で使用するA材とB材の混合性を向上するため、A材とB材が合流、混合した後、スタティックミキサに圧送することが好ましい。
【0025】
本発明で使用するスタティックミキサは、動的攪拌機のない静的混合装置をいう。スタティックミキサは、管と、管内に固定された可動部分の無いエレメントからなる。スタティックミキサにより、合流した混合物が分割、混合、攪拌するので、混合性が向上する。スタティックミキサのエレメントの形状、寸法は、市販のものであればよい。例えば、らせん状のものが挙げられる。複数のスタティックミキサを併用することもできる。
【0026】
本発明で使用するスタティックミキサのエレメントの直径に対するエレメントの長さの比は1〜60倍が好ましく、2〜20倍がより好ましい。1倍未満では混合効率が悪く、材料が均一に混ざらない場合がある。60倍を超えるとスタティックミキサに流れる最大流量より圧送量が多くなり、スタティックミキサ近傍で圧力が高くなりホースが破損する場合がある。
【0027】
本発明で使用するA材、B材を別々に圧送する設備は、手動ダイヤフラム式ポンプやスクイズ式ポンプやスネーク式ポンプやピストン式ポンプなどが挙げられる。これらの中では、安定して定量圧送ができる観点から、スクイズ式ポンプやスネーク式ポンプやピストン式ポンプが好ましい。
【0028】
本発明で使用するA材、B材を混合する混合部の形状は、T型やY型の混合管などが挙げられる。
【0029】
本発明で使用するA材、B材を別々に圧送する圧送管の種類、長さ、混合後の組成物を圧送する圧送管の種類、長さは、取扱い易く、圧力に抵抗性がある耐圧式ホースが好ましい。
【0030】
本発明で使用する組成物は、硬化体の強度や弾性率、密度をコントロールする目的でフィラーを併用することができる。フィラーは、特に限定されることはなく、無機系や有機系のものが使用可能である。無機系としては、珪石、石灰石などの骨材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末などが挙げられる。有機系としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質、イオン交換樹脂などが挙げられる。これらを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0031】
本発明で使用する注入工法およびその組成物を用いた地盤補修工法としては、トンネルおよび下水管などの地下構造物周囲の空洞や土壌中に注入する工法などが挙げられる。
【0032】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
「実験例1」
Ti/OHモル比が0.15となるようにPVAと有機チタン系化合物を混合した水溶液A材とセメント系鉱物スラリーB材(水結合材比50質量部)を別々に調製した。A材とB材を表1に示す割合で圧送し、混合した。圧送する設備として、スクイズ式ポンプを使用した。A材とB材を混合した混合物を圧送する圧送管内に、スタティックミキサを設置した。注入量を変えて注入試験を行った。結果を表1に示した。
【0034】
「使用材料、装置」
PVA:電気化学工業社製、商品名「K17」、重合度1700、鹸化度98.7mol%を水道水に加えて80℃に加温し、固形分濃度10%のPVA水溶液を調製した。
有機チタン系水溶液:チタンラクテート、マツモトファインケミカル社製、商品名「TC−325」、水溶液中のチタン濃度5.5質量%、水溶液のpH4.1
セメント系鉱物:セメント、試作品、CaO29%、Al65%、SiO3%、ガラス化率30%、ブレーン比表面積5000cm/g、密度3.05g/cm
水:水道水
圧送ポンプ:A材とB材はともに、友定建機社製スクイズ式ポンプTS-055Mを使用した。
スタティックミキサ:エレメントがらせん状のもの。エレメントの直径20mm。エレメントの直径に対するエレメントの長さが6倍のもの(市販品)。
【0035】
「試験方法」
A材とB材の混合性試験(目視観察):注入後のヒドロゲル組成物を目視観察し、混合性を確認した。A材は透明な液であり、B材は灰色のスラリーである。混合性が良好であり、灰色で均一なヒドロゲル組成物が得られた場合を○とした。混合性がやや不良であり、A材の透明部分が僅かに残ったヒドロゲル組成物が得られた場合を△とした。混合性が不良であり、A材の透明部分が相当残ったヒドロゲル組成物が得られた場合を×とした。
A材とB材の混合性試験(復元率):弾性を試験した。注入後のヒドロゲル組成物を5×5×5cmの型枠に流し込み、材齢1日で脱型した。市販の耐圧試験機を用いて上部から1cm裁荷した後、除荷した。除荷後の供試体の高さ(xcm)を測定し、復元率を測定した。復元率は[1−(5−x)]×100(%)で算出し、混合性の指標とした。混合が不十分であるほど、復元率は低くなった。
注入時の最大圧力測定:A材とB材の混合後の圧送管内に市販の圧力計を設置し、注入時の最大圧力を測定した。なお、圧力は1.0MPaまで測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より以下のことが判った。A材とB材を適量使用することにより、A材とB材の混合性が良好となり、弾性を有するヒドロゲル化合物が得られるという、効果が得られた。注入時の圧力が小さいので、圧送性が大きいという、効果も得られた。注入量を適量にすることにより、同様の効果が得られた。
【0038】
「実験例2」
Ti/OHモル比が0.15となるようにPVAと有機チタン系化合物を混合した溶液A材とセメント系鉱物スラリーB材(水結合材比50質量部)を別々に調製した。A材とB材を表2に示す割合で圧送し、混合した。圧送する設備として、スクイズ式ポンプを使用した。A材とB材を混合した混合物を圧送する圧送管内に、表2に示すスタティックミキサを設置した。表2に示す量の注入量で注入試験を行った。
【0039】
「使用材料、装置」
スタティックミキサ:エレメントの直径20mm。エレメントの直径に対するエレメントの長さの比(L/D)が表2の値であるもの
【0040】
【表2】

【0041】
表2より以下のことが判った。エレメントの直径に対するエレメントの長さの比(L/D)を適切な値にすることにより、A材とB材の混合性が良好となり、弾性を有するヒドロゲル化合物が得られるという、効果が得られた。注入時の圧力が小さいので、圧送性が大きいという、効果も得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の注入工法により、均一なヒドロゲル組成物を地下構造物周囲又は地盤に注入圧送することができる。本発明の注入工法により、ヒドロゲル組成物を安定的に圧送できるので、充填性が高くなり、高範囲に地盤を強化することができる。本発明の注入工法により、弾性が大きいヒドロゲル組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機チタン系化合物とポリビニルアルコールからなる水溶液のA材とセメント系鉱物を含有するスラリーのB材を別々に圧送し、注入前にA材とB材を混合し、スタティックミキサに圧送し、注入してなる注入工法。
【請求項2】
A材とB材の混合物の注入量が毎分1〜40リットルである請求項1に記載の注入工法。
【請求項3】
A材50〜95質量部とB材5〜50質量部を別々に圧送する請求項1または2のいずれか1項記載の注入工法。
【請求項4】
スタティックミキサのエレメントの直径に対するエレメントの長さの比が1〜60倍である請求項1〜3のいずれか1項記載の注入工法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の注入工法により製造する組成物。

【公開番号】特開2009−209615(P2009−209615A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55134(P2008−55134)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】