説明

注型品およびその製造方法

【課題】注型品を破壊することなく、当該注型品から試験片を製作し、品質を向上させる。
【解決手段】金型1内に所定形状のキャビティー2a、2b、2cが彫られ、このキャビティー2a、2b、2c内に主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dから絶縁材料4を充填し、加熱硬化させて製造される注型品であって、主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dで加熱硬化した絶縁材料4の流れがランダムになる樹脂流れランダム部分から試験片5を製作し、絶縁材料4の諸特性を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内で加熱硬化させて得られる注型品に係り、特に品質を向上し得る注型品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の注型品は、金型内に設けられたキャビティー内にエポキシ樹脂を充填し、その後、加熱硬化させて製造される。キャビティーは複数設けられ、それぞれのキャビティーには分岐配管された注入管からエポキシ樹脂が充填されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、エポキシ樹脂には、種々の充填剤が混合され、電気的、機械的、熱的など優れた特性を有するようになる。ここで、エポキシ樹脂の特性調査においては、所定形状の試験片を製作する金型内にエポキシ樹脂を充填し、加熱硬化させて試験片が得られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
種々の充填剤を混合したエポキシ樹脂の特性調査では、上述で製作された試験片により例えば熱変形温度が測定される。即ち、熱変形温度を測定することにより、充填剤の種類やその量などが正確に混合攪拌され、均一で安定した品質であることが分かることになる。なお、特性調査には、引張り強度や破壊電圧などの測定もある。
【特許文献1】特開2005−246981号公報 (第4ページ、図1)
【特許文献2】特開平6−172493号公報 (第4ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の注型品においては、次のような問題がある。
キャビティー内で製造された注型品の例えば熱変形温度を測定する場合には、当該注型品を機械加工し、所定形状の試験片を製作しなければならなかった。これは、製造した注型品を破壊しなければならず、製造コスト上、好ましいものでない。
【0006】
一方、試験片を製造する金型によって試験片を得るものでは、材料ロット毎に、試験片を製作しなければならず、この作業に手間がかかっていた。また、試験片を得る金型内にエポキシ樹脂を充填したときの材料の流れと、実際の注型品の材料の流れが必ずしも一致しておらず、熱変形温度などの特性を精度よく測定することが困難であった。即ち、注型品は複雑な形状をしているため、その内部の材料の流れは一般的にランダムになり、加熱硬化される。
【0007】
これに対して、金型によって試験片を得るものでは、試験片が板状であるため、比較的均一で同一方向の流れになって加熱硬化される。このように流れが異なってくると、充填剤などの混合度合いや配列などが微妙に異なり、精度のよい測定ができず、品質を安定させて維持することが困難であった。
【0008】
これらのことから、製造した注型品を破壊することなく、当該注型品の製造過程から試験片を製作し、更には試験片の材料の流れが当該注型品のようにランダムになって、精度の高い測定を行うことができ、品質を安定させ向上させることのできるものが望まれていた。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、注型品の製造過程から試験片を製作し、品質を向上し得る注型品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の注型品は、金型内に所定形状のキャビティーが彫られ、このキャビティー内に注入管から絶縁材料を充填し、加熱硬化させて製造される注型品であって、前記注入管で加熱硬化した樹脂流れランダム部分から試験片を製作し、前記絶縁材料の諸特性を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁材料の流れがランダムになる注入管から諸特性を測定するための試験片を製作しているので、注型品を破壊させることなく、精度の高い測定ができ、注型品の品質を安定させ向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0013】
先ず、本発明の実施例1に係る注型品を図1および図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る注型品を得る金型の構成を示す正面図、図2は、本発明の実施例1に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図である。なお、各図は、左右に二つ割りした金型の一方を示す。
【0014】
図1に示すように、金型1内には、三個からなる同様の所定形状の注型品を得るキャビティー2a、2b、2cが彫られている。各キャビティー2a、2b、2cには、金型1の一側面に設けられた主注入管3aからエポキシ樹脂のような絶縁材料4が注入される。主注入管3aからは、この主注入管3aに直角に分岐された第1の分岐管3bおよび第2の分岐管3c、主注入管3aの直線上に分岐された第3の分岐管3dが分岐されている。即ち、キャビティー2aでは主注入管3aと第1の分岐管3b、キャビティー2bでは主注入管3aと第3の分岐管3d、キャビティー2cでは主注入管3aと第2の分岐管3cによって絶縁材料4が充填される。
【0015】
主注入管3aから三方向に分岐さる部分では、各分岐管3b、3c、3dに絶縁材料4が流れるので、その流れが図示点線で示すようにランダムとなる。また、各キャビティー2a、2b、2c内においても、絶縁材料4が図示下方から上方へ充填されていくので、図示点線で示すようにランダムとなる。
【0016】
そこで、図2に示すように、主注入管3aから各分岐管3b、3c、3dに分岐する部分から、二点鎖線で示すような試験片5を製作するようにしている。即ち、各キャビティー2a、2b、2c内の絶縁材料4を例えば120℃−15時間で加熱硬化させ、注型品を得ると、主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dも同様の条件で加熱硬化する。このため、分岐した部分から機械加工をして例えば熱変形温度を測定するためのJISに準拠した試験片5を製作するものである。試験片5の製作は、第1の分岐管3bと第2の分岐管3cとの図示横方向、または主注入管3aと第3の分岐管3dとの図示縦方向のいずれでもよい。
【0017】
ここで、注入管の分岐部分においては、絶縁材料4の流れがランダムになるので、樹脂流れランダム部分と定義する。なお、注入管とは、主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dを総称する。
【0018】
このような注型品によれば、絶縁材料4の流れがランダムになった主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dから試験片5を得ることができるので、キャビティー2a、2b、2c内で製造した注型品を破壊させる必要がない。これは、製造コスト上、好ましいものである。
【0019】
また、このような試験片5の製造方法によれば、注型品と同一の材料ロットで、キャビティー2a、2b、2cと同様の条件で加熱硬化したものであるから、精度の高い測定をすることができる。更には、試験片5を得るための専用の金型およびその製造が不要であり、作業が容易となる。
【0020】
上記実施例1の注型品によれば、主注入管3aおよび各分岐管3b、3c、3dから絶縁材料4の諸特性を測定するための試験片5を製作しているので、注型品を破壊させることなく、精度の高い測定ができ、品質を安定させ向上させることができる。
【実施例2】
【0021】
次に、本発明の実施例2に係る注型品を図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施例2に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、注入管に樹脂溜まり部を設けたことである。図3において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0022】
図3に示すように、第1の分岐管3bおよび第2の分岐管3cが図示水平から垂直に曲がる部分には、図示水平方向に伸びた行き止まりの樹脂溜まり部3e、3fをそれぞれ設けている。樹脂溜まり部3e、3fでは、図示点線で示すように、樹脂溜まり部3e、3fに向かう方向と、逆に戻る方向との絶縁材料4の流れができる。即ち、樹脂溜まり部3e、3fでは、ランダムな流れとなるので、この部分から試験片5を製作するようにしている。
【0023】
ここで、樹脂溜まり部3e、3fにおいては、絶縁材料4の流れがランダムになるので、実施例1と同様に、樹脂流れランダム部分と定義する。
【0024】
なお、キャビティーおよび注入管がそれぞれ単独であり、注入管が直線状であっても、この注入管と交差するような樹脂溜まり部3e(3f)を設けることができる。このため、キャビティーが単独で注入管が直線状の場合でも、絶縁材料4の流れをランダムにさせることができる。
【0025】
上記実施例2の注型品によれば、実施例1と同様の効果のほかに、単独のキャビティーを有するものでも絶縁材料4の流れがランダムな試験片5を得ることができる。
【実施例3】
【0026】
次に、本発明の実施例3に係る注型品を図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施例3に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図である。なお、この実施例3が実施例1と異なる点は、注入管に突起部を設けたことである。図4において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0027】
図4に示すように、第1の分岐管3bおよび第2の分岐管3cには、絶縁材料4の流れを変化させる突起部6を設けている。これにより、第1の分岐管3bおよび第2の分岐管3cでは、図示点線で示すように、突起部6付近でランダムな流れとなり、この部分から試験片5を製作するようにしている。
【0028】
ここで、突起部6付近においては、絶縁材料4の流れがランダムになるので、実施例1と同様に、樹脂流れランダム部分と定義する。
【0029】
なお、キャビティーが単独で、注入管が直線状であっても、この注入管に突起部6を設けることでエポキシ樹脂の流れをランダムにさせることができる。
【0030】
上記実施例3の注型品によれば、実施例1と同様の効果のほかに、単独のキャビティーを有するものでも、絶縁材料4の流れがランダムになった試験片5を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係る注型品を得る金型の構成を示す正面図。
【図2】本発明の実施例1に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図。
【図3】本発明の実施例2に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図。
【図4】本発明の実施例3に係る注型品を得る金型の構成を示す要部正面図。
【符号の説明】
【0032】
1 金型
2a、2b、2c キャビティー
3a 主注入管
3b 第1の分岐管
3c 第2の分岐管
3d 第3の分岐管
3e、3f 樹脂溜まり部
4 絶縁材料
5 試験片
6 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に所定形状のキャビティーが彫られ、このキャビティー内に注入管から絶縁材料を充填し、加熱硬化させて製造される注型品であって、
前記注入管で加熱硬化した樹脂流れランダム部分から試験片を製作し、前記絶縁材料の諸特性を測定することを特徴とする注型品。
【請求項2】
金型内に彫られた所定形状のキャビティーと、
前記キャビティー内に絶縁材料を充填するとともに、樹脂流れランダム部分を有する注入管とを備えた注型品の製造方法であって、
前記注入管から前記キャビティー内に絶縁材料を充填し、
加熱硬化後、前記樹脂流れランダム部分から前記絶縁材料の諸特性を測定するための試験片を製作することを特徴とする注型品の製造方法。
【請求項3】
前記注入管が複数に分岐され、この分岐した部分から前記試験片を製作することを特徴とする請求項2に記載の注型品の製造方法。
【請求項4】
前記注入管に樹脂溜まり部を設け、この樹脂溜まり部から前記試験片を製作することを特徴とする請求項2に記載の注型品の製造方法。
【請求項5】
前記注入管に突起部を設け、この突起部から前記試験片を製作することを特徴とする請求項2に記載の注型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−143076(P2008−143076A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334398(P2006−334398)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】