説明

洗剤組成物

【課題】家庭で行われる洗濯条件において、特に、ドラムタイプの洗濯機のように使用水が少量であるために汚れの再付着が促進されるようになった洗濯条件において、十分な汚れの再付着防止効果を発現する、汚れ移り防止剤及び該防止剤を含有する洗剤組成物を提供すること。
【解決手段】アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られる修飾スメクタイト系粘土鉱物からなる汚れ移り防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品の洗浄時に一度離脱した汚れ等が繊維製品に再付着するのを防止する汚れ移り防止剤及び該防止剤を含有する洗剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まり等から、節水タイプの洗濯機、つまり、洗浄に使用される水量が少ない洗濯機が普及している。その例として、一般にドラム式洗濯機と呼ばれる洗濯機があり、世界中で広く受け入れられている。しかしながら、この被洗浄物に対して使用される水量が少ない洗浄システムには、洗濯を繰り返すことで、被洗浄物が黒ずんでいくという課題がある。省エネルギーによる環境負荷の削減、経済性等の点から、洗濯水の節減は好ましいものの、下記のように、被洗浄物の「黒ずみ」は、使用水量が少ないことが主な原因の1つと考えられるために、洗濯機自体による改善が困難な課題となっている。したがって、節水タイプの洗濯機の普及がすすむ現在、このような使用水量の少ない洗浄システムにおいても、高い洗浄性を発揮するのみでなく、被洗浄物の黒ずみを抑制できるような技術が強く求められている。
【0003】
洗濯毎に被洗浄物が黒ずんでいく典型的な現象として、洗浄過程で被洗浄物から離脱した汚れ等の着色成分が、再び洗濯水中の被洗浄物に再付着する現象が挙げられる。洗濯水量が少なくなると、洗濯水中の汚れ濃度が高くなるため、これらの再付着は起こりやすくなる。たとえ、水量が少なくなることで、汚れと同様に洗濯液中の界面活性剤等の洗浄剤、分散剤濃度が高くなるような場合でも、これらの洗浄成分による繊維からの汚れの脱離作用以上に、水中の汚れ濃度が高くなることによる再付着作用の方が大きく、特に洗濯液の水量が少ないほど被洗浄物への汚れ移りの促進が起こりやすくなり、その結果、衣類が黒ずんでしまう。
【0004】
また、洗濯液中の汚れのうち、その着色成分として代表的なものに、泥に含まれるような親水性の微粒子と、すすのような疎水性の微粒子とがある。黒ずみを防止するためには、これらのような異なる物性をもつ汚れ粒子に対して、高い再付着防止性をもつ洗剤組成物が必要であり、特に疎水性の微粒子の再付着防止性が求められる。
【0005】
従来の再付着防止技術には、アクリル酸(塩)やマレイン酸などの不飽和カルボン酸のポリマーのように汚れを洗濯液中に分散させることで、汚れを洗濯液内に留め、汚れ移りを防止する方法があるが、これらは水量が減ってくると本効果を発揮し辛くなり、特に泥汚れなどのイオン性の汚れに対しては効果を発揮するが、すすなどの疎水性汚れに対する再付着防止効果に関しては十分ではない。一方、繊維に特定の化学種を吸着させることで、繊維の表面物性を変化させ、汚れ移りを防止させる技術がある。例えば、特許文献1には、スメクタイト型の粘土鉱物を繊維に付着させることで、汚れの再付着防止性を向上させる記載がある。しかしながら特許文献1のような、化学種が付着することで効果が現れるような再付着防止機構では、黒ずみを防止するために重要な因子であると思われるすすのような疎水性微粒子の再付着防止に対する性能が十分でない。
【0006】
また、スメクタイト系粘土鉱物の表面を修飾する技術として、特許文献2のようにアニオン性有機化合物とスメクタイト系粘土鉱物の混合分散液を乾燥する例がある。しかしこの先行技術は、増粘剤、衣類の柔軟化、化粧料又は浴用剤のためにベントナイト自体の溶解性及び分散性を高めるための発明であり、本願と解決すべき課題が異なる。
【0007】
特許文献3では、汚れの再付着防止性を向上させるために粒子表面を修飾する例がある。だが、主に粒子としてシリカ粒子を用いる発明であり、多数ある粒子の1つとしてベントナイトの記載があり、また修飾する剤の記載として、陰イオン性高分子電解質が記載されているが、前記の特許文献1と同様に繊維に付着して表面を親水化することにより汚れの再付着を防止する機構であることから、繊維への付着性が良くない場合には効果が十分とは言えない。
【特許文献1】特開昭56−167798号公報
【特許文献2】特開平9−183613号公報
【特許文献3】特表2003−531952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に焦点をあて、家庭で行われる洗濯条件において、特に、ドラムタイプの洗濯機のように使用水が少量であるために汚れの再付着が促進されるようになった洗濯条件において、十分な汚れの再付着防止効果を発現する、汚れ移り防止剤及び該防止剤を含有する洗剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、洗濯液中での汚れの再付着を防止するというニーズに対して研究を重ねた結果、アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られる修飾スメクタイト系粘土鉱物を使用することにより、効率的に被洗浄物への汚れの再付着を防止でき、結果、黒ずみを抑制できる事を見出した。
即ち、本発明は
〔1〕アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られる修飾スメクタイト系粘土鉱物からなる汚れ移り防止剤、
〔2〕〔1〕記載の汚れ移り防止剤を含有する洗剤組成物
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の汚れ移り防止剤及び該防止剤を含有する洗剤組成物を用いることで、通常の洗濯はもちろん、特に洗濯に使用する水量が少ないような汚れ濃度等が高い洗濯液においても、洗濯による被洗浄物への黒ずみ、汚れの再付着が防止できるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の汚れ移り防止剤は、アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られる修飾スメクタイト系粘土鉱物からなる。
【0012】
一般にスメクタイト系粘土鉱物は、2八面体又は3八面体型の2:1層状ケイ酸塩の総称であり、膨潤する性質をもつことが特徴として主に分類される。本発明に用いるスメクタイト系粘土鉱物は天然に産出されるもの以外にも、合成で得られるものや、天然で得られたものに化学処理を施したものを用いることができる。
【0013】
本発明で用いるスメクタイト系粘土鉱物としては、下記一般式(I)で表されるスメクタイト型粘土鉱物が好ましい。
[Si (Mg Al )O20(OH)X−・MeX+ (I)
(式中、0<a≦6、0<b≦4、好ましくは0<a<6、0<b<4、x=12−2a−3bであり、MeはNa、K、Li、Ca、Mg及びNHの少なくとも1種を表す。Meは、好ましくは、少なくともNaである。)
【0014】
スメクタイト系粘土鉱物は、特に天然の場合、クォーツ、クリストバライト、カルサイト、長石などの不純物を含有するため、配合量は、これらの不純物も含んだものとする。
【0015】
かかる一般式(I)で表される粘土鉱物の例としては、ズード・ケミ社製(実施例で使用)の「ラウンドロジルDGA212」、「ラウンドロジルPR414」、「ラウンドロジルDG214」、「ラウンドロジルDGAパウダー」、「フラソフト−1パウダー」、ラヴィオッサ社製の「デタソフトGIS」、「デタソフトGIB」、「デタソフトGISW」、CSM社製のピュアベントナイト、スタンダードベントナイト、プレミアムベントナイト等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いるスメクタイト系粘土鉱物は、汚れの再付着防止性の観点から、粘土鉱物中のNa/Caの質量比が1.0以上の化合物が好ましく、更には2.0以上が好ましく、特には3.0以上が好ましく、すべてがNaでもかまわない。Na/Caの質量比が高い粘土鉱物を得る方法として、天然品であれば、産地を選択すればよいし、又は、例えば粘土鉱物を製造する際に、Na塩等を添加して調整することも可能である。また、合成品であれば公知の方法にて任意に調整が可能である。
【0017】
例えば、Na/Caの質量比が高い粘土鉱物を製造する方法としては、次の製法が有用である。水分を20質量%以上含む原料粘土鉱石に粉末の炭酸ナトリウム等のNa塩を添加した後に乾燥する工程を含む製法、又は、パウダー状に粉砕した粘土鉱物を造粒機を用いて造粒する際に炭酸ナトリウム等のNa塩の粉末や水溶液を添加する工程を含む製法である。
【0018】
<粘土鉱物のNa/Ca質量比の測定>
尚、粘土鉱物中のNa/Caの質量比は、次の方法で測定する。
粘土鉱物を乳鉢で粉砕し、目開き125μmの篩を通過した試料0.1gをマイクロウェーブ湿式灰化装置(自動)で硫酸−過酸化水素分解したのち、メスフラスコにて50mLにメスアップして、ICP発光分析装置で測定してNaとCa量を定量して計算する。
同様に汚れの再付着防止性の観点から、粘土鉱物に含有されるCaの質量割合は、粘土鉱物中、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。Caの質量割合は、上記のNa/Caの質量比と同様に、Ca定量値をサンプル質量と比較して計算することができる。
【0019】
スメクタイト系粘土鉱物の含有量は、乾燥状態の質量で修飾スメクタイト系粘土鉱物の質量のうち好ましくは80〜99.9質量%であり、より好ましくは90〜99質量%である。
【0020】
本発明に用いられるアクリル酸系ポリマーとは、アクリル酸又はメタクリル酸をモノマーとして重合した際に該モノマーに相当する構成単位(以下、モノマー構成単位という場合がある)を含むポリマーであり、アクリル酸又はメタクリル酸のホモポリマーであるポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。また本発明ではアクリル酸又はメタクリル酸と共重合可能なモノマーを用いた共重合体も含めることができる。共重合可能なモノマーとしては特に限定されることはないが、下記の(i)〜(iii)から選ばれるモノマーを挙げることができる。共重合体は、ブロック、ランダム又は主鎖にアクリル酸若しくはメタクリル酸由来のモノマー構成単位を有するペンダントタイプであってもよい。
(i)アニオン系モノマー
イタコン酸、メタリルスルホン酸、(無水)マレイン酸又はそれらのアルカリ金属塩
(ii)ノニオン系モノマー
(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のエステル、好ましくは(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸エチル、酢酸ビニル、エチルビニルアルコール、ビニルピロリドン
(iii)その他
イソプレンなどの炭素数1〜8のオレフィン
を挙げることができる。
【0021】
アクリル酸系ポリマー中のアクリル酸又はメタクリル酸由来のモノマー構成単位の割合は、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%であり、100モル%のアクリル酸又はメタクリル酸ホモポリマー、すなわち本発明ではポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はそれらの塩が最も好ましい。塩はアミン塩、アルカリ金属塩が好ましく、具体的にはナトリウム又はカリウム塩が好ましい。
【0022】
アクリル酸系ポリマーの分子量は、重量平均分子量として、好ましくは1000〜200000、より好ましくは3000〜30000である。なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、アセトニトリルと水の混合溶液(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ポリエチレングリコールを標準物質として測定することができる。
【0023】
本発明において、水系媒体とは、スメクタイト系粘土鉱物を膨潤させることが可能な、水等の媒体のことである。水系媒体としては、水、イオン交換水などが好ましいが、ポリマーの溶解性の観点からメタノール、エタノールなどの有機系溶媒を含んでもよい。
【0024】
以下、本発明の汚れ移り防止剤、即ち、修飾スメクタイト系粘土鉱物の製造方法について説明する。
本発明において修飾スメクタイト系粘土鉱物とは、アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られたものであり、スメクタイト粘土鉱物の表面ないし内部までアクリル酸系ポリマーが付着した状態であると考えられる。このような化合物を得るためには、例えば、アクリル酸系ポリマー粉末と少量の水分を吸わせたスメクタイト系粘土鉱物を粉末で混合して得る方法、アクリル酸系ポリマー水溶液をスメクタイト系粘土鉱物に噴霧して得る方法、スメクタイト系粘土鉱物とアクリル酸系ポリマーとを水系媒体中で混合し、乾燥して得る方法などを挙げることができる。本発明では特にスメクタイト系粘土鉱物とアクリル酸系ポリマーとを水系媒体中で混合し、乾燥して得る方法が好ましい。前記好ましい方法は、例えば以下の4つの工程を含む。
工程(1):スメクタイト系粘土鉱物を水100質量部に対して1〜10質量部を添加後、分散又は溶解させる工程、
工程(2):アクリル酸系ポリマーを水100質量部に対して0.1〜40質量部を添加し、分散させ、これを工程(1)のスメクタイト系粘土鉱物の分散液又は溶解液と上記の割合になるように混合する工程、
工程(3):工程(2)で得られた混合液をそのまま乾燥させることで、修飾スメクタイト系粘土鉱物を得る工程、乾燥方法としては、加熱する場合は80℃から120℃で乾燥してもよいし、或いは凍結乾燥してもよい、
工程(4):所望により、乾燥後のアクリル酸系ポリマーが修飾したスメクタイト系粘土鉱物を粉砕、或いは整粒する工程。
この方法において、工程(2)で得られた混合液中に、界面活性剤、アクリル酸系ポリマー以外のポリマー、水溶性無機塩、有機酸塩などを添加してもよい。
【0025】
修飾スメクタイト系粘土鉱物中に含まれる、アクリル酸系ポリマーの含有量は、汚れの再付着防止性の観点から、スメクタイト系粘土鉱物100質量部に対して少なくとも1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また上限は、使用時に分散性の点から好ましくは50質量部以下、より好ましくは11質量部以下である。
【0026】
修飾スメクタイト粘土鉱物は、繊維製品の洗浄工程に用いることで優れた汚れ移り防止効果を発揮する。使用用途としては、洗濯の際に洗剤と共に添加してもよく、また漂白剤などに混ぜて使用することもできる。もちろん洗剤に混ぜて使用することも可能である。
【0027】
以下、本発明の汚れ移り防止剤(修飾スメクタイト粘土鉱物)[以下(a)成分という]を含有する洗剤組成物について説明する。
(a)修飾スメクタイト系粘土鉱物
本発明において修飾スメクタイト系粘土鉱物は、前記したものを用いることができる。洗剤組成物に配合する場合、汚れの再付着防止性の点から、洗剤組成物中の(a)成分の含有量は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。組成のバランスの点から、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0028】
(b)界面活性剤
本発明の洗剤組成物は、好ましくは(b)成分として界面活性剤を含有する。特に、本発明の洗剤組成物は、洗浄力を付与するために、(b−1)非イオン性界面活性剤と、(b−2)陰イオン性界面活性剤とを含有することが好ましい。
【0029】
(b−1)非イオン性界面活性剤
非イオン界面活性剤としては、アルキル基の炭素数が10〜18であって炭素数が2〜4のアルキレンオキシドを平均3〜10モル付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が8〜22の脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキシド付加物、アルキル基の炭素数が8〜22のショ糖脂肪酸エステル、アルキル基の炭素数が8〜22のアルキルグリコシド、アルキル基の炭素数が8〜22の脂肪酸グリセリンモノエステルなどを挙げることができる。この中でも本発明の洗剤組成物は、非イオン界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することが好ましく、更には炭素数10〜16の、好ましくは炭素数10〜14の、最も好ましくは12〜14のアルキル鎖をもつ、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。すすのような疎水性微粒子の再付着防止性の点から、エチレンオキサイド(EO)の平均付加モル数が、好ましくは4〜8であり、より好ましくは4.5〜8であり、より好ましくは4.5〜7であり、より好ましくは5〜7であり、より好ましくは5〜6.5である。木綿への再付着防止性の点からは、平均付加モル数が、4.5〜8のものが好ましく、5〜7のものがより好ましい。また、ポリエステルと木綿の混紡生地への再付着防止性の点からは、平均付加モル数が、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5のものが優れている。
【0030】
本発明において、上記のエチレンオキサイドの平均付加モル数を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルは、単独又は複数で用いることができる。複数の場合は、その合計量を(b−1)成分の量とする。
【0031】
(b−2)陰イオン性界面活性剤
本発明の洗剤組成物に用いられる(b−2)陰イオン性界面活性剤としては、好ましくは炭素数10〜18の、より好ましくは炭素数12〜16の、さらに好ましくは炭素数12〜14のアルキル鎖又はアルケニル鎖を持つ、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルファスルフォ脂肪酸メチルエステル塩、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、アルキル又はアルケニルリン酸エステル又はその塩等が使用できる。特に、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩が好ましい。本発明では牛脂やヤシ油由来の脂肪酸塩を配合してもよいが、汚れの再付着防止性が十分でないために、本発明では(b−2)陰イオン性界面活性剤として、脂肪酸、及びその塩は含まず、その他界面活性剤として本効果を損なわない範囲で適宜配合するものとする。
【0032】
本発明において、非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の質量比〔(b−1)/(b−2)〕は、0.5以上であることが本発明の効果を得る上で好ましい。特にカーボンなどの疎水性微粒子による再付着防止性の点から、質量比が1を超える非イオン界面活性剤が多い系の方が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.75以上が最も好ましい。また、泥などの親水性微粒子による汚れ移り防止性の点から、5未満が好ましく、4未満がより好ましく、3未満がさらに好ましい。
【0033】
本発明の洗剤組成物には、非イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤以外に、ベタイン型両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、石鹸(脂肪酸塩)等の界面活性剤も適宜配合することができる。ただし陽イオン界面活性剤については、微粒子の被洗浄物への再付着を促進する傾向をもつことから、陽イオン性界面活性剤を用いることは好ましくはないが、所望の範囲内で使用することができる。用いられる陽イオン性界面活性剤は、特に限定されない。洗剤組成物中の陽イオン性界面活性剤の含有量は、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下がさらにより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0034】
界面活性剤含有量
(b)成分は、界面活性剤全体として、洗剤組成物中に好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、最も好ましくは19質量%以上含有され、洗剤粒子からしみだすことによる製品品質への影響の点から、30質量%以下が好ましく、27.5質量%以下がより好ましく、25質量%以下が最も好ましい。また、汚れの再付着防止性や洗浄性の点から非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤を主界面活性剤とすることが好ましく、洗剤組成物中の(b−1)及び(b−2)を合計した割合が、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、19質量%以上が最も好ましい。全ての界面活性剤が(b−1)及び(b−2)成分から構成されていてもよい。
【0035】
本発明の洗剤組成物には(a)成分及び(b)成分以外に、下記(c)〜(f)成分を配合することが好ましく、更に(g)成分のような任意成分を配合することで優れた洗浄力の衣料用洗剤を得ることができる。
【0036】
(c)ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はアクリル酸−マレイン酸共重合体
本発明の洗剤組成物に、修飾スメクタイト系粘土鉱物に含まれるアクリル酸系ポリマー以外に、別途ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくはその塩、又はアクリル酸-マレイン酸共重合体若しくはその塩を含有すると、更に汚れ付着防止効果が向上するので好ましい。重量平均分子量5000以上10万以下のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくはその塩、又は重量平均分子量5000以上10万以下のアクリル酸-マレイン酸共重合体若しくはその塩を含有することが好ましい。これらの高分子は、泥のような親水性の微粒子に対する分散性に優れるために、これらの粒子の再付着防止性に効果を発揮する。この点から、洗剤組成物中の(c)成分の含有量は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が更に好ましく、3.0質量%以上が更により好ましい。また、配合のバランスの観点から洗剤組成物中の(c)成分の含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更により好ましい。また、泥汚れの再付着防止性の点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はその塩がより好ましい。汚れの再付着防止性の観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はその塩の重量平均分子量は5000以上5万以下が好ましく、5000以上3万以下がより好ましい。重量平均分子量は前記記載の方法で測定する。
【0037】
(d)アルカリ剤
更に、本発明ではアルカリ剤を使用することが好ましい。使用できるアルカリ剤としては、従来知られているものが挙げられる。アルカリ剤の例としては、デンス灰やライト灰と称される炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号等の非晶質のアルカリ金属珪酸塩、結晶性アルカリ金属珪酸塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。洗浄性の点から、アルカリ剤の含有量は、洗剤組成物の5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。配合のバランスの点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下が好ましく、35質量%以下が更に好ましい。
【0038】
(e)金属イオン封鎖剤
金属イオン封鎖剤は、塩強度の増加による汚れの再付着の促進を抑制する効果があるため、配合することが好ましい。また、ビルダーとして、金属イオン封鎖剤を洗剤組成物に配合し、洗濯水中の硬度成分を捕捉することは、洗浄性の点から非常に効果的である。特にカルシウムイオン捕捉能100mgCaCO3 /g以上である金属イオン封鎖剤を配合することがより効果的であり、好ましい。かかる金属イオン封鎖剤としては、A型ゼオライトとして知られている結晶性アルミノ珪酸塩、層状ケイ酸ナトリウムとしてよく知られている結晶性珪酸ナトリウム、その他にトリポリリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、メチルグリシン二酢酸が挙げられる。ただし、炭酸ナトリウム、非晶質珪酸ナトリウムは、高硬度の場合、金属イオン封鎖剤として作用するが、本発明においては金属イオン封鎖剤に含まないこととする。洗剤組成物中の金属イオン封鎖剤の含有量は、洗浄性の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、配合のバランスの観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。本発明では特に、一次平均粒子径が0.1〜2μmの結晶性アルミノ珪酸ナトリウム(ゼオライト)を10〜40質量%含有することが最も好ましい。なおゼオライトは、界面活性剤を含有する粉末粒子の表面に付着させることで、粉末洗剤の流動性を高めることからも好ましい基材である。
【0039】
(f)その他のポリマー
また、本発明の洗剤組成物には、前記(a)成分に用いられたアクリル酸系ポリマー及び(c)成分のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸やアクリル酸−マレイン酸共重合体以外に、重量平均分子量数千〜数十万の有機ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。再汚染防止性の点から、重量平均分子量30万以上の有機ポリマーは配合しないことが好ましい。
【0040】
ポリエチレングリコールは、固体粒子汚れを洗濯浴中へ分散させる作用がある。分散性の点から、重量平均分子量は1000以上2万以下のものが好ましい。
【0041】
カルボキシメチルセルロースは、固体粒子汚れを洗濯浴中へ分散させる作用がある。分散性の点から、重量平均分子量が1000以上〜10万以下のものが好ましく、エーテル化度が0.2〜1.0のものが好ましい。
重量平均分子量は(a)成分に記載の測定方法により測定することができる。
【0042】
(g)その他添加剤
本発明の洗剤組成物には、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、漂白剤、漂白活性化剤、酵素、香料、蛍光染料、着色剤(顔料や染料)、酸化防止剤、抗菌剤等も適宜配合することができる。特に酵素は、粒状化されたものや、液状のものとして市販されているものを用いることができ、また漂白剤としてはホウ酸又はホウ酸塩や水溶性珪酸塩で被覆された過炭酸ナトリウム(PCとも言う)を配合することができる。
【0043】
本発明の洗剤組成物は、粉末洗剤、錠剤型洗剤又はシート型洗剤の剤形が好ましく、一般に知られている方法で製造することができる。(a)成分は、酵素や漂白剤などのように(a)成分以外を含む洗剤成分に、ドライブレンドしてもよい。本発明では粉末洗剤の剤形が最も好ましく、(a)成分と他の成分との兼ね合いから、嵩密度は500〜1200g/cmが好ましく、600〜1100g/cmがより好ましく、700〜1050g/cmが更により好ましい。
【実施例】
【0044】
修飾スメクタイト系粘土鉱物(汚れ移り防止剤)は、次のようにして製造した。
【0045】
製造例1(修飾スメクタイト系粘土鉱物Aの製造)
ズード・ケミ社製のベントナイト3g(Na/Ca質量比=3)をイオン交換水90mLに分散させて、その分散液にポリアクリル酸Na(実効値:40%)(花王(株)製、重量平均分子量 10000;GPC測定、ポリエチレングリコール換算)2.25gをイオン交換水100mL中に分散した分散液10mLを添加して攪拌し、凍結乾燥を行い製造した。
【0046】
製造例2(修飾スメクタイト系粘土鉱物Bの製造)
ズード・ケミ社製のベントナイト3g(Na/Ca質量比=3)をイオン交換水90mLに分散させて、その分散液にポリアクリル酸Na(実効値:40%)(花王株式会社製、重量平均分子量 10000;GPC測定、ポリエチレングリコール換算)2.25gをイオン交換水100mL中に分散した分散液10mLを添加して攪拌し、105℃の電気乾燥機で120分乾燥して製造した。
【0047】
製造例3(修飾スメクタイト系粘土鉱物Cの製造)
ズード・ケミ社製のベントナイト3g(Na/Ca質量比=3)をイオン交換水90mLに分散させて、その分散液にアクリル酸/マレイン酸共重合体(実効値:40%)(Sokalan CP7(BASF社製)、重量平均分子量 50000;GPC測定、ポリエチレングリコール換算、共重合体のアクリル酸由来のモノマー構成単位の割合=50%)2.25gをイオン交換水100mL中に分散した分散液10mLを添加して攪拌し、105℃の電気乾燥機で120分乾燥して製造した。
【0048】
製造例1〜3にて調製した修飾スメクタイト系粘土鉱物又はベントナイトを用いて或いはこれらを用いずに表1記載の洗剤組成物を調製した。表1の洗剤組成物を用いて、汚れ移り防止効果(再汚染防止率)を調べた。
<処理布の調製法>
試験布(注1)を次の方法にて前処理を行った。衣料用洗剤(ニュービーズ、花王(株)製)を洗濯水量の0.083質量%で使って、試験布に全自動洗濯機・標準コースを使って5回累積洗濯処理を行った。洗濯処理を行った試験布を、恒温室(25℃/40%RH)において一昼夜の乾燥及び調湿したものを処理布とした。なお、浴処理条件は、Haier(株)製全自動洗濯機JW−Z20A型を用い、標準コース(洗い15分、濯ぎ2回、脱水5分、水量15L)、水温20℃、浴比40である。
【0049】
注1:綿メリヤスニット(蛍光染料未染着布)、及びT/Cブロード(蛍光染料染着布シルケット処理有)を、(株)谷頭商店より入手し、試験布とした。なおT/Cとは木綿と化繊の混紡布のことである。試験布のサイズは、それぞれ4×5cmとした。
【0050】
<汚れ移り防止効果>
汚れ移り防止効果の評価には、布帛の洗浄試験機としてラウンダオメーター(スガ試験機株式会社製)を使用して評価を行った。
表1の洗剤組成物を硬度72mg/L(CaCO3換算)のカルシウム硬水100mLに各々溶解し、濃度が0.15質量%になるように調整し、浴液とした。次いで浴液中に、0.13gのカーボンを入れ、超音波発振器((株)国際電気エルテック製 型式U0600PB-Y)の浴槽を用いて15分間超音波照射し分散させ、ラウンダオメーター用のガラスカップに移した。
【0051】
2種類の処理布(綿メリヤスニット・T/Cブロード)を、1種類5枚組で計10枚組にしたものをカップ内の浴液中に投入し、25℃、30分間、ポット回転速度 40±2回/分でラウンダオメーターにて洗浄を行った。5Lの水道水でのためすすぎの後、アイロンプレス処理を行い、再汚染試験布とした。次いで、処理布、再汚染試験布の550nmにおける反射率を日本電色工業(株)製 分光色差計SE2000にて測定し、次式から再汚染防止率(%)を算出した。
式: 再汚染防止率(%)=〔再汚染試験布の反射率/処理布の反射率〕×100
【0052】
【表1】

【0053】
なお、実施例1〜3、比較例1、参考例中、各成分としては、以下のものを用いた。
非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル):炭素数10〜14の1級アルコールにEOを平均3モル付加させたもの
陰イオン性界面活性剤:炭素数12〜14のアルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
粘土鉱物1:修飾スメクタイト系粘土鉱物B
粘土鉱物2:Na/Ca質量比が3のベントナイト(ズード・ケミ社製)
ソーダ灰:デンス灰(セントラル硝子(株)製)
【0054】
表1より、再汚染防止率は、実施例1〜3全てにおける綿メリヤスニット及びT/Cブロードの両方において、比較例1より良好であったことが理解できる。
参考例に粘土鉱物2を加えることでより良好になるが、本願の修飾スメクタイト系粘土鉱物、例えば、修飾スメクタイト系粘土鉱物Bを用いることで、さらにその効果を高めることができる。特にT/Cブロードのときにその差は顕著である。
【0055】
修飾スメクタイト系粘土鉱物A及びCを含有する洗剤組成物を用いた場合も、修飾スメクタイト系粘土鉱物Bを用いた場合と、同様の効果が得られる。
【0056】
次に、表2で示される配合例1〜3の洗剤組成物を調製するに辺り、漂白剤粒子、漂白活性化剤粒子、酵素、香料、及び表面改質用ゼオライト3質量%を除いた成分で、洗浄剤ベースを得た。これに、粘土鉱物1、漂白剤粒子、漂白活性化剤粒子、酵素、香料、及び表面改質用ゼオライト3質量%を混合して本発明の洗剤組成物を得た。
これら本発明の洗剤組成物を用いて、長期にわたって洗濯を行うと、粘土鉱物1を含まない洗剤組成物或いは、ポリマー非修飾の粘土鉱物2を配合する場合よりも、衣類に対して黒ずみが抑制されることが観察される。それはドラム式洗濯機において顕著である。
【0057】
【表2】

【0058】
前記表中の各種成分を以下に示す。
粘土鉱物1:修飾スメクタイト系粘土鉱物B
ノニオン: 炭素数10〜14の1級アルコールにEOを平均7モル付加させたもの
LAS:アルキル基の炭素数12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
AS−Na:アルキル基の炭素数12〜16のアルキル硫酸エステルナトリウム
AAポリマー:ポリアクリル酸(重量平均分子量1.5万;GPCによる測定、ポリエチレングリコール換算)
炭酸Na:炭酸ナトリウム
結晶性シリケート:「プリフィード顆粒品」(株式会社トクヤマシルテック製)
ゼオライト:「ゼオビルダー」(4A型、ゼオビルダー社製)
PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量10000)
芒硝:硫酸ナトリウム(四国化成(株)製)
漂白剤粒子:炭酸ナトリウム・過酸化水素付加物(過炭酸ナトリウム)(特開2000−256699号公報の段落0019に記載の漂白剤粒子)
漂白活性化剤粒子:ラウロイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム造粒物(特開2000−256699号公報の段落0018記載の漂白剤粒子)
蛍光染料:「チノパールCBS−X」(チバガイギー社製)
酵素: 「アルカリセルラーゼK」(特開昭63−264699号公報記載)、「カンナーゼ24TK」(ノボザイム社製) 、「サビナーゼ6.0T」(ノボザイム社製) を3:1:2の質量比で使用。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の汚れ移り防止剤及び洗剤組成物を用いることで、洗濯による被洗浄物への黒ずみ、汚れの再付着が防止できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸系ポリマーとスメクタイト系粘土鉱物とを水系媒体の存在下に接触処理して得られる修飾スメクタイト系粘土鉱物からなる汚れ移り防止剤。
【請求項2】
修飾スメクタイト系粘土鉱物が、スメクタイト系粘土鉱物とアクリル酸系ポリマーとを水系媒体中で混合し、乾燥して得られたものである請求項1記載の汚れ移り防止剤。
【請求項3】
スメクタイト系粘土鉱物中のNa/Caの質量比が、1.0以上である請求項1又は2記載の汚れ移り防止剤。
【請求項4】
修飾スメクタイト系粘土鉱物が、スメクタイト系粘土鉱物100質量部に対して、アクリル酸系ポリマーを1質量部以上、50質量部以下の割合で接触処理させてなるものである請求項1〜3いずれか記載の汚れ移り防止剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の汚れ移り防止剤を含有する洗剤組成物。
【請求項6】
(a)請求項1〜4いずれか記載の汚れ移り防止剤、並びに(b)界面活性剤として(b−1)非イオン性界面活性剤、及び(b−2)陰イオン性界面活性剤を含有し、(b−1)成分と(b−2)成分の質量比〔(b−1)/(b−2)〕が0.5以上である請求項5記載の洗剤組成物。


【公開番号】特開2010−1421(P2010−1421A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162994(P2008−162994)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】