説明

洗浄乾燥方法および洗浄乾燥装置

【課題】 複雑な構造を有するワークであっても、酸化膜の生成を防止しつつ、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥処理できる洗浄乾燥方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】 切削加工や研磨加工などが施された被処理体(ワーク)を有機溶媒で洗浄した後、ブロア1により流路2に酸素を含む気流を供給し、オゾン生成ユニット4でオゾンを発生させ、励起ユニット5によりオゾンを励起酸素原子(励起一重項酸素原子)に変換して、励起酸素原子に富む気流を洗浄乾燥室6に供給し、洗浄乾燥室内の被処理体(ワーク)8を処理する。被処理体(ワーク)8に付着した有機物は励起酸素原子により酸化分解され、被処理体が洗浄乾燥される。被処理体を蒸着などの表面処理に供すると、高い密着力が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄された被処理体(例えば、機械、工具部品などの複雑な三次元形状の金属構造体など)を、表面処理前に乾燥するのに有用な洗浄乾燥方法および洗浄乾燥装置に関する。より詳細には、少なくとも部分的に鏡面加工部を有する三次元形状物の被処理体を有機溶媒により洗浄(浸漬又は蒸気洗浄)した後、清浄な大気を送風して乾燥する方法において、シミ、洗浄ムラ、酸化膜などの汚染又は欠陥部を生成させることなく、均一に洗浄及び乾燥できる洗浄乾燥方法および洗浄乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機械、工具部品には、その長寿命化、高機能化などのため、切削、研磨加工の後、物理蒸着法などによる表面処理が施されている。また、表面処理に先立って、切削油などの汚れ成分を除去するため、有機溶媒(二塩化メチレンなどの塩素含有溶媒、水素原子を含むフッ素系溶媒HCFCなど)を用いて、切削加工された被処理体を浸漬洗浄、蒸気洗浄などにより洗浄し、送風乾燥している。しかし、前記有機溶媒の種類によっては、オゾン層を破壊する虞があったり、防爆措置を必要とする場合がある。
【0003】
そこで、特開平5−70981号公報(特許文献1)には、洗浄物の水系洗浄液による洗浄すすぎ工程の後段に、加温されたフルオロカーボン液を水切り剤として使用する洗浄物の水切り洗浄方法が提案されている。特開平5−78876号公報(特許文献2)には、有機溶剤の洗浄液でワークを洗浄する方法であって、密閉の洗浄槽にワークを入れて減圧にし、真空の洗浄槽に洗浄液タンクの洗浄液を供給するとともに洗浄液を加熱して沸騰させ、ワークを煮沸洗浄した後、その沸騰洗浄液を前記洗浄液タンクに戻し、次いで清浄な洗浄液をワークに噴射してシャワー洗浄してから真空乾燥し、真空の洗浄槽内で煮沸洗浄とシャワー洗浄したワークを真空乾燥する方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの洗浄・乾燥方法では、洗浄液が研削加工跡や小径孔内に残存したり、乾燥中にシミなどの汚染部が生成する場合がある。そのため、洗浄後、被洗浄品の表面を清浄な布などで拭き取る必要がある。
【0005】
特開平6−339668号公報(特許文献3)には、水洗工程の後、被洗浄体を熱風に晒すステップと、この熱風ステップの後又は略同時に前記被洗浄体を高圧空気の噴流に晒す高圧気流ステップと、この高圧気流ステップの後、前記被洗浄体をゲージ圧での負圧雰囲気下におく真空ステップとを含む被洗浄体の乾燥方法が開示されている。しかし、この方法では、被洗浄体の形状によっては熱風に晒されない部位があるため、被洗浄体及び熱風供給口を相対的に移動させる必要がある。そのため、被洗浄体の種類や形状が制限される。
【0006】
特開平8−13175号公報(特許文献4)には、金属の表面処理加工を行った後、波長183〜2000nmの範囲内のいずれか又は1又は2以上の光線を照射し、前記金属の表面に付着した有機物を分解させて除去することにより乾燥する方法が開示されている。この文献には、光線の光エネルギーにより、空気中の酸素分子を酸素原子に分解し、この酸素原子は、被乾燥物の表面に付着している有機物を触媒として空気中の酸素分子と反応し、オゾンを生成すること、183〜780nmの光エネルギーは、被乾燥物の表面に付着した有機物を分解させて除去することに利用されること、遠赤外線(波長375〜2000nm)は、被乾燥物の温度上昇に作用することが記載されている。また、前記のようにして発生したオゾンは、波長183〜400nmの光線によって酸素原子と酸素原子に分解されることも記載されている。しかし、オゾンの生成により被乾燥物の表面が酸化されるため、被乾燥物をメッキ処理しても、処理ムラが生じたり、被乾燥物とメッキ層との密着性が低下する場合がある。
【0007】
「表面技術」(社)表面技術協会,2002, VOL.53, No.8, p.2-8(非特許文献1)には、エキシマ光による表面処理に関し、200nm以下の波長の光が大気中の酸素を励起してオゾンを生成し、オゾンは300nm以下の波長の光を吸収して励起酸素原子を作り、この励起酸素原子と高分子の分子結合を切断する紫外光の光エネルギーを利用して洗浄及び表面改質を行うことが記載されている。また、汚染物質分子は分子結合エネルギーより大きい光エネルギーの波長の光により励起して、分子切断が起こり活性化され、活性化された汚染物質は励起酸素原子により酸化されて分解すること、金属、無機物質の表面に光エネルギーを照射すると原子から電子が励起放出されて空孔化が起こり、さらに励起酸素原子により酸化膜を形成することも記載されている。しかし、この方法でも、オゾンの生成により金属表面に酸化膜が生成し、メッキ処理しても、処理ムラが生じたり、金属とメッキ層との密着性が低下する場合がある。
【0008】
さらに、光照射を伴うこれらの方法(光洗浄法)では、光エネルギーが酸素に吸収されるため、被処理体の表面に付着した有機物の分解性は光源とワークとの距離により大きく依存する。そのため、簡便な装置でワーク全体(特に立体形状のワーク)を均一に洗浄することが困難である。さらに、鏡面加工された被処理体に適用すると、被処理体の鏡面部で光反射が生じるため、光洗浄効率で低下し、洗浄ムラが生じる。特に、立体構造を有する被処理体、特に少なくとも一部が鏡面加工され、かつ立体構造を有する被処理体に適用すると、光が当たらず陰が生じる部位が生じるとともに鏡面加工部では光反射が生じるため、均一に光洗浄できない。
【0009】
なお、特開平6−296823号公報(特許文献5)には、オゾンに波長240から310nmの紫外線を照射して一重項酸素を生成させた後、波長600〜650nmの可視光線と波長1200〜1300nmの近赤外線を照射して、基底状態の酸素に遷移させるオゾンの分解方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−70981号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−78876号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平6−339668号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平08−013175号公報(特許請求の範囲、段落番号[0010][0019])
【特許文献5】特開平6−296823号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】「表面技術」(社)表面技術協会,2002, VOL.53, No.8, p.3-5,図4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、複雑な構造を有するワークであっても、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥処理できる方法およびそのための装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、酸化膜の生成を防止しつつ、効率よく洗浄及び乾燥できる方法、及びそのための装置を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、活性光線の光源とワークとの距離に左右されることなく、少なくとも部分的に鏡面加工部を有する立体形状又は複雑な形状のワークであっても、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥処理できる方法およびそのための装置を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、有機溶媒により洗浄した後、シミ、洗浄ムラ、酸化膜などの汚染又は欠陥部を生成させることなく、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥できるとともに、表面処理に適した被処理体を得るのに有用な方法、及びそのための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、有機溶媒で洗浄処理した被処理体(ワーク)を、オゾンを含む気流に所定波長の光線を照射することにより、オゾンを実質的に含まず励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を含む気流で乾燥処理すると、少なくとも部分的に鏡面処理部を有する複雑な構造の被処理体(ワーク)であっても、被処理体の表面に酸化膜が生成するのを防止しつつ均一かつ効率よく洗浄及び乾燥できることを見いだし、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の洗浄乾燥方法では、被処理体を洗浄した後、酸素を含む気流により洗浄乾燥する方法であって、遮光下、オゾンを実質的に含まず、少なくとも励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を含む気流で被処理体を処理する。この方法において、オゾン含量が0〜0.1ppmの気流で処理(乾燥処理)してもよい。また、3次元構造を有する被処理体を有機溶媒で洗浄した後、励起酸素原子(一重項酸素原子など)を含む気流で乾燥処理してもよい。被処理体は、少なくとも部分的に鏡面部を有していてもよく、鏡面部を有する被処理体は3次元構造(又は立体構造)であってもよい。より具体的には、少なくとも酸素分子を含む気流に、活性光線を照射してオゾンを発生させ、生成したオゾンを含む気流に、前記活性光線よりも長波長の光線を照射して励起酸素原子を生成させ、この励起酸素原子を含む気流を用いて被処理体を、遮光下で乾燥処理してもよい。
【0016】
本発明は洗浄乾燥装置も含む。この装置は、洗浄した被処理体を、酸素を含む気流で処理するための洗浄乾燥室と、この洗浄乾燥室に、オゾンを実質的に含まず、少なくとも励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を含有する気流を流通させるためのユニットとを備えている。洗浄乾燥室では、通常、オゾンが生成する活性光線の非照射下(又は遮光下)で乾燥処理が行われる。前記装置は、少なくとも酸素分子を含む気流に、活性光線(例えば、200nm以下の波長を有する光線)を照射してオゾンを発生させるためのユニットと、このオゾン生成ユニットの下流側に配設され、かつ生成したオゾンを含む気流に、前記活性光線よりも長波長の光線(例えば、波長210〜350nm、特に240〜310nm程度の光線)を照射して励起酸素原子を生成させるためのユニットと、オゾン生成ユニットの上流側に配設され、かつオゾンが上流方向に漏出するのを防止するためのユニットとを有していてもよい。
【0017】
なお、本明細書において、「遮光」とは、被処理体への光線を遮蔽するだけでなく、被処理体を酸化する活性種(オゾンなど)を生成せず、しかも励起酸素原子を失活(基底状態へ遷移)させない波長の光線であれば、被処理体を照射又は照明してもよいことを意味する。また、「励起酸素原子」とは、励起一重項酸素原子及び励起三重項酸素原子を意味し、通常、励起一重項酸素原子である場合が多い。
【0018】
本発明では、遮光下で、励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を含む気流で被処理体を処理するため、励起酸素原子と被処理体に付着した不純物(有機物)との反応により不純物を酸化して分解除去できる。一方、気流がオゾンを実質的に含まず励起酸素原子を含むため、被処理体が金属や無機物であっても、酸化膜の生成を防止できる。さらに、被処理体か複雑な形状であったり回り込みが困難な処理形態であっても、気流を被処理体の表面に供給でき、均一かつ効率よく処理(洗浄乾燥処理)できる。特に、活性種を生成するための活性光線を照射することなく(又は光洗浄することなく)、励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を含む気流で処理するため、活性光線の光源とワークとの距離に左右されることなく、被処理体の表面全体を均一かつ効率よく洗浄処理できる。さらに、少なくとも部分的に鏡面加工部を有する複雑な構造の被処理体(立体構造を有する被処理体)であっても、鏡面加工部で光反射することがなく、均一かつ効率よく洗浄処理できる。そのため、被処理体の洗浄不良を低減できるとともに、表面処理による不良率を大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、オゾンを実質的に含まず、励起酸素原子を含む気流で被処理体(又はワーク)を処理するため、複雑な構造を有するワークであっても、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥処理できる。また、オゾンよりもエネルギーレベルの低い励起酸素原子を利用するため、金属又は無機化合物の被処理体を処理しても、酸化膜の生成を防止しつつ、効率よく洗浄及び乾燥できる。特に、活性光線の光源と被処理体(ワーク)との距離に左右されることなく、被処理体の表面全体を均一かつ効率よく洗浄処理できる。さらに、少なくとも部分的に鏡面加工部を有する立体形状又は複雑な形状の被処理体(ワーク)であっても、均一かつ効率よく洗浄できる。すなわち、有機溶媒により洗浄した後、シミ、洗浄ムラ、酸化膜などの汚染又は欠陥部を生成させることなく、均一かつ効率よく洗浄及び乾燥できる。そのため、本発明は、表面処理に適した被処理体を得るのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の洗浄乾燥装置の一例を示す概略図である。
【0021】
この例において、洗浄乾燥装置は、有機溶媒により洗浄処理された被処理体(ワーク)5と、この被処理体を載置するための載置台7を有する洗浄乾燥室(乾燥チャンバー又は洗浄チャンバー)6と、この洗浄乾燥室に酸素を含む気流を供給するための気体供給手段(ブロアなど)1と、前記洗浄乾燥室6と気体供給手段1との間に形成された気体流路2とを備えている。この気体流路2には、オゾンを生成するための光照射エレメント4aを備えたオゾン生成ユニット4と、このオゾン生成ユニットの上流側に位置し、かつオゾン生成ユニット4により生成したオゾンを失活させ、オゾンが上流方向へ漏出するのを防止するための照射エレメント3aを備えた失活ユニット3と、前記オゾン生成ユニット4の下流側に位置し、かつオゾン生成ユニット4により生成したオゾンから励起酸素原子(励起一重項酸素原子)を生成させるための照射エレメント5aを備えた励起ユニット5とが配設されている。なお、前記洗浄乾燥室6は暗室を構成し、外光の入射を規制している。また、洗浄乾燥室6の下流側の壁の適所(この例では、洗浄乾燥室6の底部壁)には、排気口9が形成されている。
【0022】
より詳細には、被処理体に付着した不純物や汚染物(例えば、切削加工油、研磨油剤などの有機成分など)を除去するため、被処理体は有機溶媒で洗浄処理される。しかし、この洗浄処理した後、通気により乾燥させると、微量の有機成分が被処理体の表面に付着したり、乾燥に伴って有機成分が濃縮されながら残るスポット的な汚染部位(シミ)が生成する。このような有機物を除去するため、本発明では、前記オゾン生成ユニット4で生成したオゾンを利用することなく、オゾンから生成する励起酸素原子による洗浄を利用する。
【0023】
すなわち、オゾン生成ユニット4は、酸素分子を励起してオゾンを生成させるため、少なくとも酸素分子を含む気流に波長200nm以下(例えば、172nm(エキシマ光),185nm(低圧水銀灯)などの波長を含む100〜190nm程度の波長)の活性光線を照射するための光照射エレメント(低圧水銀灯などの短波長の照射エレメント)4aで構成されている。また、励起酸素原子(一重項酸素原子)を生成するため、失活ユニット3及び励起ユニット5は、それぞれ、オゾンの吸収波長のうち前記光照射エレメントの活性光線よりも長い波長(254nmなどの波長を含む300nm以下の波長、例えば、220〜300nm程度の波長)の光線を照射するための照射エレメント(殺菌灯などの長波長の照射エレメント)3a,5aで構成されている。なお、オゾン生成ユニット3は、筒状の管壁(又は筐体)と、この管壁内に同軸に配設され、かつ端部が気体流路2に臨んでいる管状の光照射エレメント(筒状ランプ)3aとで構成され、ベンチュリー式オゾン発生器を形成している。また、失活ユニット3及び励起ユニット5は、筒状の管壁(又は筐体)と、この管壁内に同軸に配設され、かつ気流が接触可能な管状の光照射エレメント(筒状ランプ)3a,5aとで構成され、ブロー式光照射装置を形成している。このような失活ユニット3及び励起ユニット5の照射エレメント3a,5aは、オゾン生成用活性光線の波長(例えば、200nm以下の光線)が透過しないガラスを備えた殺菌灯で構成できる。
【0024】
なお、酸素分子は200nm以下の波長において広い範囲で高い吸収係数を有するため、200nm以下の波長の活性光線を気流に照射すると、下記式に従って、酸素分子O2からオゾンO3が効率よく生成する。
【0025】
2→O+O
O+O2→O3
しかし、オゾンは有害である。そのため、オゾン生成ユニット4の上流側に配設された失活ユニット3の照射エレメント3aにより光照射することにより、オゾンを失活でき、オゾンが外部に漏出するのを防止できる。一方、短波長の照射エレメント4aを備えたオゾン生成ユニット4の下流側に配設された励起ユニット5の照射エレメント5aにより光照射すると、下記式に従って、オゾンO3から励起酸素原子Oを生成できる。
【0026】
3→O2+O
そのため、オゾンを実質的に含まず、励起酸素原子(励起一重項酸素原子)に富む気流を洗浄乾燥室6に供給できる。そして、励起酸素原子(励起一重項酸素原子)はオゾンよりも活性が低いためか、被処理体8の表面に酸化被膜を形成することなく、被処理体8の表面に付着した不純物(有機物)を酸化し分解する。そのため、励起酸素原子(励起一重項酸素原子)に富む気流により、被処理体8に付着した有機物だけでなく、洗浄により除去できなかった有機物も効率よく洗浄及び乾燥できる。特に、励起酸素原子(励起一重項酸素原子)に富む気流を利用するため、被処理体8の形状や構造が複雑であっても、オゾン生成用活性光線の光源との距離の如何に拘わらず、表面全体(表面8a及び裏面8bを含む全表面)に前記気流を供給でき、被処理体8の表面を均一に処理(洗浄乾燥処理)できる。例えば、板状被処理体では、載置台と接する板状被処理体の下面にまで気流を回り込ませることができ、洗浄効果を高めることができる。そのため、少なくとも部分的に鏡面加工又は処理部(ドリルの刃先など)を有し、かつ光洗浄により光反射や陰が生じる立体形状の被処理体であっても、光鏡面加工又は処理部を含めて被処理体全体を均一かつ効率よく洗浄乾燥処理できる。
【0027】
なお、前記被処理体としては、有機質も使用できるが、通常、無機質体、例えば、金属(鉄、アルミニウム、シリコンなどの金属、ステンレススチールなどの金属合金、超硬合金)、無機化合物(シリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライトなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ホウ素などのホウ化物、炭化ケイ素、炭化チタンなどの炭化物、コーディエライト、チタン酸アルミニウムなどのセラミックス;炭素材;ガラス;珪酸塩など)が使用される。被処理体としてはウエハー(シリコンウエハーなど)なども利用できる。
【0028】
被処理体としては、金属(例えば、非鉄金属)を利用する場合が多い。被処理体の形状は、特に制限されず、表面処理(蒸着やコーティングなどの表面処理)に供される種々の形状、例えば、一次元的形状(ピン、線状体、ロッドやシャフトなどの棒状体など)、二次元的形状(シートや板材など)であってもよく、三次元的形状(工具、金型など)であってもよい。被処理体は、二次元的構造又は三次元構造を有する場合が多い。さらに、本発明では、光反射や光の非照射部があっても被処理体を均一に洗浄処理できる。そのため、被処理体は、少なくとも部分的に鏡面部(鏡面加工部又は鏡面処理部)を有する被処理体(例えば、全体が鏡面加工された部材、鏡面加工部と非鏡面加工部とを含む部材)、特に複雑な構造や三次元構造の被処理体であってもよい。このような被処理体としては、例えば、一方の方向から光を照射しても陰部が生じる部材[立体形状部材(ロッドやシャフト、ケーシングやケースなど)、凹部やネジ部を有する部材(ネジ、ボルト、歯車など)、孔部を有する部材(異形管を含むパイプ類、リングなど)、ベース(基材)の前面に遮蔽部を有する部材(フック部、クリップ部やリング部を有する部材など)など]、光反射部(又は鏡面部)を有する部材[金型、刃先を有する工具、刃物類など]に好適に適用される。本発明は、特に、切削加工、研磨加工などにより油分などが付着する金属部品に適用するのに好適である。
【0029】
洗浄溶媒は、無機溶媒(例えば、水)などであってもよいが、通常、有機溶媒を用いる場合が多い。有機溶媒としては、炭化水素類(ヘキサン、ナフテン類、直鎖又は分岐パラフィン類などの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1-4アルコール類など)、エステル類(酢酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトンなどの脂肪族ケトン類など)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類(エチレングリコールエチルエーテルなど)、カルビトール類(エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど)、ハロゲン化炭化水素類(テトラクロロエチレン、トリクロロエタンなどの塩素系溶媒、完全にハロゲン化されたクロロフルオロカーボン(CFC−12,CFC−13などのCFC)、水素原子を含むフロン(HCFC−123,HCFC−124,HCFC−141bなどのHCFC)、塩素原子を含まないフロン(HFC−134a,HFC−125などのHFC)などのフッ素系溶媒)などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上混合して使用できる。
【0030】
洗浄方法は、特に制限されず、洗浄溶媒への浸漬洗浄、洗浄溶媒の噴射又は噴霧洗浄(スプレー噴霧洗浄など)、洗浄溶媒の蒸気洗浄などであってもよい。洗浄では、有機溶媒への被処理体の浸漬洗浄、有機溶媒の蒸気を利用して洗浄する蒸気洗浄を利用する場合が多い。また、洗浄過程で洗浄溶媒は加熱(例えば、30〜100℃程度に加熱)してもよく、超音波を作用させたり撹拌下で洗浄してもよい。さらに、洗浄は、常圧下で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。洗浄は、通常、減圧又は大気圧下で行う場合が多い。
【0031】
洗浄工程の後、被処理体(ワーク)は、洗浄乾燥室(乾燥チャンバー又は洗浄チャンバー)内で酸素を含む気流により洗浄乾燥される。酸素を含む気流は、フィルターを介して洗浄乾燥室に導入する場合が多い。酸素を含む気流は、酸素ガス単独又は酸素ガスと他のガス(不活性ガスなど)との混合ガスであってもよいが、通常、大気(清浄な大気)を流通(送風及び/又は吸引流通)することにより行う場合が多い。また、酸素を含む気流は乾燥している場合が多く、乾燥大気を利用する場合が多い。気流中の酸素濃度は、100体積%であってもよいが、通常、5〜50体積%、好ましくは10〜40体積%、さらに好ましくは15〜35体積%程度であってもよい。この気流は、通常、常温下で供給されるが、必要であれば加熱(例えば、30〜70℃程度に加熱)していてもよい。なお、酸素濃度が高すぎると、励起ユニットや失活ユニットが大型化する可能性があるため、気流中の酸素濃度は、大気中の濃度又はそれ以下(例えば、10〜30体積%)であってもよい。
【0032】
流通又は給気速度は、特に制限されず洗浄乾燥室のサイズ(容積)、被処理体の形状や構造などに応じて選択でき、通常、洗浄乾燥室の容積1m3に対して、気流の流通(又は通気)供給速度は、0.1〜100m3/分、好ましくは0.3〜10m3/分、さらに好ましくは0.5〜5m3/分程度であってもよい。
【0033】
このような気流を、流路(大気導入配管など)を通じて洗浄乾燥室に流通するための供給手段は、送気手段(前記ブロアなど)に限らず、洗浄乾燥室の下流側から気流を吸引するための吸引手段であってもよい。通常、ブロアなどの送気手段を流路(大気導入配管など)の上流側に配設する場合が多い。
【0034】
本発明では、オゾンを生成させるとともに、オゾンから生成する励起酸素原子を利用して、遮光下、被処理体を洗浄すると共に乾燥する。洗浄乾燥室は暗室であってもよく、遮光手段は、オゾンを生成する活性光線や励起酸素原子を失活させる光に対して不透明であり、かつ洗浄乾燥室自体を構成する遮光部材(例えば、前記光を吸収可能なガラスなどの光吸収部材)であってもよく、前記光に対して不透明であり、かつ洗浄乾燥室を覆う被覆手段で構成してもよい。
【0035】
オゾンの生成には、オゾン生成エレメントを備えた種々のオゾン生成ユニット(オゾン発生装置)、例えば、放電エレメントを備えた放電式オゾン発生器、光エレメント又は光源を備えた光学式オゾン発生器などが利用できる。窒素酸化物の生成量が少なく、適当な濃度のオゾンを効率よく生成するため、光照射により酸素を励起してオゾンを生成するオゾン発生器が好ましい。光学式オゾン発生器は、波長200nm以下(例えば、波長172nm,185nmなどの波長100〜200nm、好ましくは150〜190nm程度)の活性光線を照射可能な装置である場合が多く、波長185nm付近の光線で酸素をオゾン化可能なオゾン発生灯や水銀灯(低圧水銀灯など)、エキシマレーザなどを備えた装置が利用できる。なお、オゾン発生灯や水銀灯(低圧水銀灯など)などのオゾン生成光源は、前記気流が接触可能なブロー式光源であってもよいが、耐久性の点から、前記気流の接触が抑制されたベンチュリー式光源である場合が多い。
【0036】
このようなオゾン生成ユニットにより、酸素を励起してオゾンを生成できる。気流中のオゾン濃度は、前記気流中の酸素濃度に応じて、例えば、1〜1000ppm、好ましくは5〜500ppm、さらに好ましくは10〜300ppm程度であり、1〜200ppm(例えば、5〜150ppm、特に10〜100ppm)程度であってもよい。気流中のオゾン濃度は、オゾン生成エレメントの出力により調整してもよく、酸素を含む気流(例えば、大気)の流量(又は送風量)によりコントロールできる。また、気流中のオゾン濃度は、オゾン生成エレメント(光源など)と気流との接触効率又は距離により調整することもできる。例えば、オゾン生成ユニット(オゾン生成管体など)の内壁面(流路壁面)とオゾン生成エレメント(オゾン発生灯など)との距離や気流の流量によりオゾン濃度を効率よく調整できる。オゾン生成ユニットの内壁面とオゾン生成エレメントとの距離は、例えば、0.5〜5cm(例えば、0.5〜3cm)、好ましくは0.5〜2cm程度であってもよい。
【0037】
前記オゾンは人体に対して有害であるとともに、酸化力が大きく、被処理体の表面に酸化被膜を形成する。そのため、本発明では、オゾン生成ユニットの下流側に配設された励起ユニットによりオゾンから励起酸素原子を生成させ、この励起酸素原子を含む気流を利用し、洗浄乾燥室で洗浄された被処理体を洗浄及び乾燥する。前記励起ユニットとしては、励起酸素原子を効率よく生成させるため、光学式励起ユニットを用いる場合が多い。すなわち、オゾンの吸収波長のうち、前記オゾン生成用活性光線よりも長波長の光線を照射すると、オゾンの励起レベルを効率よく低減でき、励起酸素原子(励起一重項酸素原子など)を有効に生成できる。
【0038】
前記励起ユニットの光照射エレメント(又は光源、ランプ)から照射する光線の波長は、前記活性光線よりも長波長であり、かつ励起酸素原子の生成効率を損なわない限り特に制限されず、例えば、波長210〜350nm(例えば、210〜300nm)程度、好ましくは230〜350nm(例えば、230〜280nm)、さらに好ましくは240〜340nm程度であってもよく、通常、240〜270nm程度である。励起ユニットの光照射エレメント(又は励起光源、ランプ)としては、波長254nm程度の光線を照射可能な光源(例えば、殺菌灯)を用いる場合が多い。
【0039】
なお、オゾンの吸収波長を利用して励起酸素原子を生成するため、励起酸素原子の生成効率を著しく向上できる。そのため、前記オゾン濃度に対応させて気流中の励起酸素原子濃度を調整できる。励起酸素原子の濃度は、気流の流速、前記励起ユニットの光照射エレメント(殺菌灯などの励起光源)との距離や光照射エレメントの出力などの調整によりコントロールでき、前記オゾン濃度に対応して、例えば、1〜1000ppm(例えば、1〜200ppm)、好ましくは5〜500ppm(例えば、5〜150ppm)、さらに好ましくは10〜300ppm(例えば、10〜100ppm)程度であってもよい。すなわち、オゾンを含む気流に対して前記励起ユニットの光照射エレメントからの光線を照射すると、オゾンを実質的に含まず、少なくとも励起酸素原子を含む気流を生成できる。オゾンの濃度は、例えば、0.1ppm以下(0〜0.1ppm、好ましくは0〜0.01ppm程度)である。そのため、人体に対して有害なオゾン濃度を低減でき、作業環境を向上できる。なお、励起ユニットの内壁面と励起エレメント(殺菌灯などの光源又はランプ)との距離は、気流の流量に応じて、例えば、1〜10cm(例えば、1〜7cm)、好ましくは2〜6cm程度であってもよい。また、光照射エレメントを備えた励起ユニットは、ブロー式、ベンチュリー式のいずれであってもよい。
【0040】
このような励起ユニットを用いると、洗浄乾燥室では、オゾンを生成させる活性光線の非照射下(すなわち、遮光下)で、被処理体を洗浄しつつ乾燥できる。そのため、被処理体および作業者に紫外線を照射することがなく、被処理体の酸化膜の生成を防止しつつ安全性を高めることができる。また、被処理体の形状による洗浄乾燥ムラが発生せず、均一に洗浄処理できる。特に、励起酸素原子は被処理体の表面の親水性を高めるため、洗浄液が被処理体表面で拡散し、乾燥速度を高めつつシミの発生を防止できる。
【0041】
なお、洗浄乾燥室には、洗浄した被処理体を載置するための載置台を備えていてもよく、この載置台は回転及び/又は上下動可能であってもよい。さらに、載置台は必ずしも必要ではなく、載置台とともに(又は載置台なしに)マニピュレータにより被処理体を操作してもよい。また、洗浄乾燥室内では、被処理体の隅々にまで万遍なく気流を供給するため、撹拌しながら気流で被処理体を処理してもよい。
【0042】
このような洗浄乾燥処理では、溶媒を用いた洗浄によっても被処理体に付着して残存する有機物のみならず被処理体に付着した洗浄溶媒を分解しつつ洗浄乾燥できる。特に、被処理体の表面に酸化膜を生成することなく気流により効率よく洗浄乾燥できる。そのため、乾燥中に、洗浄溶媒や付着有機物によるシミが発生することがなく、蒸着などの表面処理に供しても、密着力の高い被膜を形成できる。
【0043】
失活ユニットは必ずしも必要ではないが、外部へのオゾンの漏出(流路の上流側での漏出)を防止するためには、前記オゾン生成ユニットの上流側にオゾンを失活させるためのユニットが配設されているのが好ましい。前記失活ユニットは、オゾンの吸収波長を利用して失活させる方法(例えば、前記殺菌灯などの光照射エレメント又はランプによる光照射方法又は光分解方法)、触媒と接触させて分解する触媒法、オゾンを吸着又は分解する吸着方法(又は活性炭分解方法)、オゾンと反応成分とを反応させる化学的方法(又は薬液洗浄方法)などが利用できる。より具体的には、前記光分解法に代えて、例えば、特公平7−106298号公報に記載のように、下部に設けられたオゾン含有ガスの導入口、上部に設けられた放出口、および前記導入口と放出口との間に設けられ、かつオゾン含有気体を通す活性炭層が充填されたオゾン分解塔と、オゾン分解塔内に特定の方向を向けて設けられた複数の伝熱材とを備えたオゾン分解装置、特公平7−38936号公報に記載のように、オゾン分解触媒を50〜200℃に通電加熱し、触媒の加熱を間欠的に行う方法なども利用できる。
【0044】
さらに、失活ユニット(光照射エレメントなどの失活エレメントを収容する管体など)の内壁に光触媒層(酸化チタンなどで構成された光触媒層)を形成すると、光照射エレメントなどの失活エレメントからの光線を利用して光触媒により不純物を分解できるため、清浄化された気流をオゾン生成ユニットに供給できるとともに、オゾンを分解できるためオゾンの漏出も防止できる。そのため、失活ユニットは、管体と、この管体の内面に形成された光触媒層と、前記管体内に配設された失活エレメント(殺菌灯などの光照射エレメントなど)とで構成してもよい。失活ユニットの失活エレメントは、オゾンを有効に分解するため、前記光照射エレメントと、励起酸素原子を基底状態に遷移させるための波長を有する光線(波長600〜650nmの可視光線、および波長1200〜1300nmの近赤外線)を照射可能な照射エレメントとで構成してもよい。なお、失活ユニットの内壁面と失活エレメント(殺菌灯など)との距離は、気流の流量に応じて、例えば、1〜10cm(例えば、1〜7cm)、好ましくは2〜6cm程度であってもよい。失活エレメントを備えた失活ユニットは、ブロ式、ベンチュリー式のいずれであってもよい。
【0045】
なお、洗浄乾燥室の排気口は、前記底壁に限らず、適所(例えば、下流側の側壁下部)などに形成してもよい。また、前記ブロワに代えて、吸引装置を用い、排気口から気流を排出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、機械、工具部品などの洗浄乾燥に有用である。例えば、切削加工、研磨加工などの表面加工に供され、かつ油分などの汚染物質が付着した被処理体(金属処理体など)に適用して洗浄乾燥し、表面処理に供するのに適している。
【0047】
表面処理の種類は特に制限されず、コーティング剤(薬液や樹脂含有塗布剤などのコーティング剤)によるコーティング処理、薬液やコーティング剤への浸漬処理であってもよいが、無機質被膜を形成するためのメッキ(又は表面改質)や溶射処理などであってもよい。メッキ処理は、例えば、電気メッキ、無電解メッキであってもよく、気相表面処理(真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、分子線エピタキシー法などのPVD;熱CVD、プラズマCVD、MOCVD、光CVDなどのCVD;イオン注入など)などであってもよい。なお、被処理体(ワーク)は必要により非処理部をマスキングして洗浄乾燥処理し、表面処理に供してもよい。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
実施例1
表面粗さRa粗さ7μmに研磨加工された3種類の材質のワーク[超硬合金(WC−Co合金、三菱マテリアル(株)製)、SKH51(高速度焼き入れ焼き戻し品(JIS G 4403規定適用品))、ステンレススチールSUS304、サイズ:20mm角]を、ジクロロメタン中に浸漬し、減圧下(10Torr(1333Pa))、10分間、超音波洗浄を行った。次いで、図1に示す洗浄乾燥室6(容積0.5m3)の載置台7にワーク8を載置し、室温(25℃)でブロア1により乾燥大気を洗浄乾燥室6内に供給し(1.9m3/分)、ブロア1と洗浄乾燥室6との間の流路2では、オゾン生成ユニット4の低圧水銀灯4a(主波長185nm、出力10W)によりオゾンを発生させるとともに、オゾン生成ユニット4の上流側に配設された失活ユニット3の殺菌灯3a(主波長254nm、出力40W)、及びオゾン生成ユニット4の下流側に配設された励起ユニット5の殺菌灯5a(主波長254nm、出力40W)によりオゾンを励起酸素原子に変換させ、ワーク8を10分間洗浄した。なお、オゾン生成ユニット4の内壁と低圧水銀灯4aとの距離は約1cmであり、励起ユニット5の内壁と殺菌灯5aとの距離、及び失活ユニット3の内壁と殺菌灯3aとの距離は、それぞれ約4cmである。
【0050】
そして、ワーク8の表面8aと裏面8bに真空アーク蒸着法により1μmのTiN被膜を形成し、被膜の剥離の有無およびスクラッチテストによる密着力を評価した。その結果、3種類の材質のワークにおいて表面8a及び裏面8bの全てに被膜の剥離がなく、被膜の密着力はそれぞれ、超硬合金では90N、SKH51では65N、SUS304では40Nであった。
【0051】
比較例1
実施例1と同様の3種類のワークを10分間ジクロロメタンで洗浄した後、励起酸素原子を含む気流で処理することなく、上記実施例1と同様にしてTiN被膜を成膜した。その結果、3種類の材質のワーク全てに研磨目に沿って被膜の剥離が確認され、被膜の密着力はそれぞれ、超硬合金のワークで78N、SKH51のワークで43N、SUS304のワークで32Nであった。
【0052】
比較例2
実施例1と同様の3種類のワークを10分間ジクロロメタンで洗浄した後、図2に示す装置の洗浄乾燥室(容積0.02m3)の載置台に載置した。そして、室温(25℃)でブロア11により乾燥大気を洗浄乾燥室内に供給し(1.9m3/分)、洗浄乾燥室16に配設された低圧水銀灯13(出力95W)により紫外線をワーク15に照射し、10分間洗浄した。なお、ワーク15の表面15aと低圧水銀灯13との距離は20mmであり、符号15bはワーク15の裏面を示す。この洗浄処理により超硬合金のワーク15の表面15aには、酸化によると思われる着色が認められ、均一な洗浄ができないことが確認できた。
【0053】
実施例と比較例との対比から明らかなように、実施例では、均一な洗浄乾燥効果が得られ、洗浄不良による蒸着被膜の剥離や密着力の低下がない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は本発明の洗浄乾燥装置の一例を示す概略図である。
【図2】図2は比較例2で用いた光洗浄装置の概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1…ブロア
2…流路
3…失活ユニット
3a…照射エレメント(殺菌灯)
4…オゾン生成ユニット
4a…光照射エレメント(低圧水銀灯)
5…励起ユニット
5a…照射エレメント(殺菌灯)
6…洗浄乾燥室
7…載置台
8…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体を洗浄した後、酸素を含む気流により洗浄乾燥する方法であって、遮光下、オゾンを実質的に含まず、少なくとも励起酸素原子を含む気流で被処理体を処理する洗浄乾燥方法。
【請求項2】
オゾン含量が0〜0.1ppmの気流で処理する請求項1記載の洗浄乾燥方法。
【請求項3】
3次元構造を有する被処理体を有機溶媒で洗浄した後、励起酸素原子を含む気流で乾燥処理する請求項1記載の洗浄乾燥方法。
【請求項4】
少なくとも部分的に鏡面部を有する被処理体を有機溶媒で洗浄した後、励起酸素原子を含む気流で乾燥処理する請求項1記載の洗浄乾燥方法。
【請求項5】
少なくとも酸素分子を含む気流に、活性光線を照射してオゾンを発生させ、生成したオゾンを含む気流に、前記活性光線よりも長波長の光線を照射して励起酸素原子を生成させ、この励起酸素原子を含む気流を用いて被処理体を乾燥処理する請求項1記載の洗浄乾燥方法。
【請求項6】
洗浄した被処理体を、酸素を含む気流で処理するための洗浄乾燥室と、この洗浄乾燥室に、遮光下、オゾンを実質的に含まず、少なくとも励起酸素原子を含有する気流を流通させるためのユニットとを有する洗浄乾燥装置。
【請求項7】
少なくとも酸素分子を含む気流に、活性光線を照射してオゾンを発生させるためのユニットと、このオゾン生成ユニットの下流側に配設され、かつ生成したオゾンを含む気流に、前記活性光線よりも長波長の光線を照射して励起酸素原子を生成させるためのユニットと、オゾン生成ユニットの上流側に配設され、かつオゾンが上流方向に漏出するのを防止するためのユニットとを有する請求項6記載の洗浄乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−2232(P2006−2232A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181673(P2004−181673)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(504237175)清水電設工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】