説明

洗浄器及び該洗浄器を備えた加湿装置

【課題】ユーザの作業負担を増加させることなく被洗浄物の洗浄性と殺菌性とを両立可能な洗浄器と、該洗浄器を備えた加湿装置とを提供する。
【解決手段】加湿ロータ(31)が浸漬される水タンク(61)と、水タンク(61)内の水中にストリーマ放電を生起する正電極(64)及び負電極(65)と、該両電極間(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)とを備え、上記ストリーマ放電によって、上記水タンク(61)内の水を、正電極(64)側のアルカリ水と負電極(65)側の酸性水とに分離することで上記加湿ロータ(31)の周囲をアルカリ水で満たすとともに、該分離されたアルカリ水中に過酸化水素を生成するようする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被洗浄物が浸漬される洗浄用水を貯留するための洗浄槽と、該被洗浄物を洗浄するための洗浄手段とを備えた洗浄器、及び、該洗浄器を備えた加湿装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被洗浄物をアルカリ水に浸漬して洗浄する洗浄器は知られている。例えば、特許文献1に示す洗浄器では、アルカリ水を貯留するための洗浄槽と、洗浄槽内に配設された超音波発生器とを備えていて、アルカリ水による洗浄と超音波洗浄とを併用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−174552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の洗浄器では、洗浄用水としてアルカリ水を使用しているため、酸性水を使用する場合に比べて被洗浄物(又は洗浄用水自体)の殺菌性に劣るという問題がある。また、この洗浄器では、超音波洗浄によって比較的微細な汚れを除去することができるものの、被洗浄物の表面に固着した強固な汚れを除去することができないという問題がある。
【0005】
更に、上記従来の洗浄器では、ユーザは、洗浄に際してその都度、アルカリ水を洗浄槽に注ぐという煩わしい作業を強いられる。したがって、この点からも改良の余地がある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ユーザの作業負担を増加させることなく被洗浄物の洗浄性と殺菌性とを両立可能な洗浄器を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、被洗浄物(31)が浸漬される洗浄用水を貯留するための洗浄槽(61)と、被洗浄物(31)を洗浄するための洗浄手段(100)とを備えた洗浄器を対象としている。そして、上記洗浄手段(100)は、上記洗浄槽(61)内の洗浄用水中にストリーマ放電を生起する正電極(64)及び負電極(65)と、該両電極間(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)とを有し、上記ストリーマ放電によって、上記洗浄槽(61)内の洗浄用水を、上記正電極(64)側のアルカリ水と上記負電極(65)側の酸性水とに分離することで上記被洗浄物(31)の周囲をアルカリ水で満たすとともに、該分離されたアルカリ水中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明では、直流電源(70)により正電極(64)及び負電極(65)間に直流電圧が印加されると、洗浄槽(61)内の水中では、ストリーマ放電が生起される。このストリーマ放電に伴って、洗浄槽(61)内の水は、正電極側のアルカリ水と負電極側の酸性水とに分離され、被洗浄物(31)の周囲がアルカリ水で満たされる。したがって、被洗浄物(31)の表面に付着した汚れ(油汚れ等)をアルカリ水の性質を利用して分解除去することができる。
【0009】
また、ストリーマ放電に伴って、洗浄槽(61)内の水中では、過酸化水素が生成されるので、過酸化水素によって水の殺菌・浄化を充分に行うことができる。また、水中では、ストリーマ放電の発生に伴い、水酸ラジカル等の活性種も生成される。このため、水中に含まれる有害物質(例えば硫黄系化合物)は、活性種によって酸化分解されて除去される。
【0010】
更に、ストリーマ放電に伴って、衝撃波を発生させることができるので、被洗浄物(31)の表面に付着した汚れを衝撃波を利用して除去することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記洗浄手段(100)は更に、上記両電極間(64,65)の電流密度を上昇させるための電流密度集中部(74)を有していて、上記ストリーマ放電時には、該電流密度集中部(74)におけるジュール熱により気化した気泡を上記被洗浄物(31)に衝突させるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明では、正電極(64)及び負電極(65)間に電流密度集中部(74)を設けることで、ストリーマ放電時には、電流密度集中部(74)にてジュール熱が発生する。このため、電流密度集中部付近では、ジュール熱により水が局部的に加熱されて気泡が発生する。そして、この発生した気泡が被洗浄物(31)に衝突して破壊することにより、被洗浄物(31)の表面に付着した汚れを除去することができる。
【0013】
請求項3の発明は、第1又は第2の発明において、上記洗浄槽(61)内を、上記正電極(64)が配設される第1室(34)と上記負電極が配設される第2室(33)とに区画する区画部材(32)を備え、上記被洗浄物(31)は、上記第2室(33)に配設され、上記区画部材(32)には、上記第1室(34)及び上記第2室(33)を連通する貫通孔部(35)が設けられていることを特徴とする。
【0014】
第3の発明では、洗浄槽(61)には、正電極(64)が配設される第1室(34)と負電極(65)が配設される第2室(33)とを区画する区画部材(32)が設けられている。これにより、ストリーマ放電によって、分離されたアルカリ水と酸性水とが洗浄槽内の水の対流等により混ざる(中和される)のを防止することができる。
【0015】
また、区画部材(32)に貫通孔部(35)を形成するようにしたことで、ストリーマ放電により、正電極側(第1室(34)側)で生じる衝撃波や気泡を、貫通孔部(35)を通じて第2室(33)に配設された被洗浄物(31)に衝突させることができる。
【0016】
請求項4の発明は、第1乃至3のいずれか一項に記載の洗浄器を備えた加湿装置(1)を対象とする。そして、上記被洗浄物(31)は、一部が洗浄用水に浸漬された状態で回転自在に構成された吸水部材(31a)を有する加湿ロータ(31)であることを特徴とする。
【0017】
第4の発明では、加湿ロータ(31)は洗浄用水に浸漬された状態で回転する。洗浄用水は、ストリーマ放電によって、殺菌・洗浄されるため、加湿ロータ(31)から空気中に放出される水分を浄化することができる。また、加湿ロータ(31)に付着した汚れ(例えばヤニや油汚れ等)は、ストリーマ放電によって発生する衝撃波や気泡によって除去することができる。このため、加湿ロータ(31)を常に清潔に維持することができ、延いては、加湿空気の浄化度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、洗浄槽(61)内の水中において、ストリーマ放電を行うことで、被洗浄物(31)の周囲をアルカリ水で満たすと共にアルカリ水中に過酸化水素を生成するようにしている。これにより、アルカリ水の性質を利用して被洗浄物(31)に付着した油汚れ等を分解除去しつつ、過酸化水素水を利用して洗浄用水を殺菌・浄化することができる。また、ストリーマ放電では、水中において多量の活性種が生成するため、この活性種により水中の有害物質を効果的に除去できる。
【0019】
また、本発明では、ストリーマ放電によって生じる衝撃波を利用して被洗浄物(31)に付着した汚れを除去することができる。ここで、本発明では、直流電源(70)により上記両電極(64,65)間に直流電圧を印加することでストリーマ放電を生起するようにしているため、例えばパルス電源を使用する場合と比較すると、弱い衝撃波を持続的に一定の大きさで発生させることができる。したがって、母材(被洗浄物(31))を痛めることなく、被洗浄物(31)の表面に付着した汚れを効果的に除去することができる。また、パルス電源を使用する場合と比較して、電源部(70)の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0020】
第2の発明によれば、被洗浄物(31)に気泡を衝突させることで、被洗浄物(31)に付着した汚れをより一層確実に除去することができる。
【0021】
第3の発明によれば、ストリーマ放電により分離されたアルカリ水と酸性水とが混ざってしまうのを区画部材(32)により阻止することができる。延いては、アルカリ水による被洗浄物(31)の洗浄効果が低下するのを防止することができる。
【0022】
第4の発明によれば、加湿ロータ(31)を備えた加湿装置(1)に対して本発明の洗浄器を適用することで、加湿空気の浄化度を可及的に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る洗浄器を備えた加湿装置を示す装置前側から見た図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る洗浄器を備えた加湿装置を示す側面図である。
【図3】図3は、実施形態に係る洗浄ユニット(洗浄器)の全体構成図であり、水浄化動作を開始する前の状態を示すものである。
【図4】図4は、実施形態に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図5】図5は、実施形態に係る洗浄器の全体構成図であり、水浄化動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図6】図6は、実施形態の変形例に係る洗浄器の全体構成図である。
【図7】図7は、実施形態の変形例に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図8】図8は、他の実施形態を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
《発明の実施形態》
本発明の実施形態に係る洗浄ユニット(10)を備えた加湿装置(1)の全体構成について、図1を参照しながら説明する。
【0026】
加湿装置(1)は、箱状のケーシング(20)と、ケーシング(20)内に収容された洗浄ユニット付きの加湿ユニット(21)とを備えている。ケーシング(20)の前側(図1における手前側)の面には、空気をケーシング(20)内に導入するための吸込口(22)(図2参照)が形成されている。また、ケーシング(20)の後側の面には、加湿された空気を吹出すための吹出口(23)が形成されている。
【0027】
図2に示すように、空気通路(24)は、空気の流れの上流側から下流側に向かって順に、プレフィルタ(25)、イオン化部(26)、プリーツフィルタ(27)、加湿ユニット(21)、及び遠心ファン(28)が設けられている。
【0028】
プレフィルタ(25)は、空気中に含まれる比較的大きな塵埃を物理的に補足する集塵用のフィルタである。
【0029】
イオン化部(26)は、コロン放電を行うための一対の電極を有していて、このコロナ放電によって、空気中の塵埃を所定の電荷(正又は負の電荷)に帯電させる。
【0030】
プリーツフィルタ(27)は、波板状の静電フィルタで構成されていて、イオン化部(26)で帯電された塵埃を電気的に誘引して補足する。
【0031】
加湿ユニット(21)は、水を貯留するための水タンク(61)と、空気中に水分を放出する加湿ロータ(31)と、加湿ロータ(31)を回転駆動するための駆動モータ(図示省略)とを備えている。
【0032】
水タンク(61)は、密閉型の容器状に形成されている。水タンク(61)の下面には、図示しない注入口が形成されており、この注入口からタンク(30)内の水を出し入れして交換可能になっている。水タンク(61)内には、タンク(30)内の空間を上下に区画する区画部材(32)としての分離板(32)(後述する)が設けられている。
【0033】
加湿ユニット(21)には、更に、加湿ロータ(31)を加熱するためのヒータ(33)と、加湿ロータ(31)に含まれる水を浄化すると共に加湿ロータ(31)の洗浄を行うための洗浄ユニット(10)が設けられている。洗浄ユニット(10)の詳細については後述する。
【0034】
加湿ロータ(31)は、円筒状の吸水部材(31a)と、吸水部材(31a)を支持する支持軸(31b)とで構成され、この支持軸(31b)は、不図示の軸受けを介して水タンク(61)に回動可能に取り付けられている。吸水部材(31a)は、支持軸(31b)に回転一体に固定されている。吸水部材(31a)は、水タンク(61)が満水状態にあるときに、軸心方向から見てその下側半分の略全体が水に浸かるように配設されている。支持軸(31b)は、駆動モータに動力伝達可能に連結されている。
【0035】
吸水部材(31a)は、複数の通気孔を有するハニカム構造の基材の表面に吸着剤が担持されて構成されている。上記吸着剤としては、粒状のゼオライト等、水分に対する吸着性能に優れた材料が用いられる。また、吸着剤を基材に担持させるためのバインダーとしては、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ABS樹脂(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0036】
上記ヒータ(33)は、加湿ロータ(31)の上流側の側面の上端部に近接して配置されている。ヒータ(33)は、通電状態となることで加湿ロータ(31)へ流入する空気を加熱するように構成されている。
【0037】
−洗浄ユニットの詳細構造−
上記洗浄ユニット(10)は、水中でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の浄化成分を生成し、この浄化成分によって水の浄化を行うものである。洗浄ユニット(10)は、加湿ユニット(21)の一部を構成する上記水タンク(61)と、放電ユニット(62)とを有している(図3を参照)。水タンク(61)内の空間は、分離板(32)によって上部室(33)と下部室(34)とに区画されており、この分離板(32)と放電ユニット(62)とが本発明の洗浄手段(100)を構成している。分離板(32)は、板状部材(例えば樹脂製)で構成されている。分離板(32)には、複数の孔(35)が形成されている。この孔(35)は、本実施形態では、数ミクロンオーダの直径を有する微細孔とされている。
【0038】
放電ユニット(62)は、放電電極(64)及び対向電極(65)とからなる電極対(64,65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する電源部(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。放電電極(正電極)(64)は、上記下部室(34)に配設されており、対向電極(負電極)(65)は、上記上部室(33)に配設されて、水タンク(61)の内壁面に取り付けられている。
【0039】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、電源部(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0040】
対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、電源部(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0041】
電源部(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0042】
絶縁ケーシング(71)は、水タンク(61)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0043】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0044】
図3及び図4に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(74)は、電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0045】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0046】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して微細な気泡(A)が多数生成されると共に、開口(74)を覆うように大粒の気泡(B)が形成される。
【0047】
−加湿装置の運転動作−
実施形態に係る加湿装置(1)では、室内空気を浄化すると同時に室内空気を加湿する加湿運転が行われる。
【0048】
加湿運転では、遠心ファン(28)が運転されることで室内の空気が吸込口(22)を通じて空気通路(24)内に導入される。また、加湿ロータ(31)が回転駆動されると共にヒータ(33)が通電状態となる。更に、イオン化部(26)の電極に電圧が印加されると共に、電源部(70)から上記放電ユニット(62)の両電極(51,52)に電圧が印加される。
【0049】
図2に示すように、空気通路(24)に流入した空気は、プレフィルタ(25)を通過して塵埃が捕捉された後、イオン化部(26)を通過する。イオン化部(26)では、電極間でコロナ放電が行われており、空気中の塵埃が帯電される。イオン化部(26)を流出した空気は、プリーツフィルタ(27)を通過する。プリーツフィルタ(27)では、帯電した塵埃が電気的に誘引されて捕捉される。プリーツフィルタ(27)を流出した空気は、ヒータ(33)で加熱された後、加湿ロータ(31)を通過する。
【0050】
加湿ロータ(31)は、所定時間間隔で間欠的又は連続的に回転駆動される。加湿ロータ(31)を通過した空気には、加湿ロータ(31)の吸水部材(31a)から離脱した水分が含まれて、この水分を含む加湿空気が吹出口(23)を通じて室内へと供給される。
【0051】
−洗浄ユニットの運転動作−
本実施形態の加湿装置(1)では、洗浄ユニット(10)が運転されることで、加湿ロータ(31)の洗浄、及び、水タンク(61)内の水の殺菌・浄化がなされる。このような洗浄ユニット(10)による加湿ロータ(31)の洗浄動作、及び、水の殺菌・浄化動作について詳細に説明する。なお、これらの動作は上述した加湿運転時に実行される。
【0052】
洗浄ユニット(10)の運転の開始時には、図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば5kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0053】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図5に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。したがって、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0054】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、上記対向電極(65)の近傍では、次式(1)に示すような反応が行われる。この反応により、水素イオン(H+)が消費されて減少する。この結果、水素イオン指数が増加し、アルカリイオン水が生成される。
【0055】
4H2O+4e− → 2H2+4OH− (式1)
一方、上記放電電極(64)の近傍では、次式(2)に示すような反応が行われる。この反応により、水酸化イオン(OH−)が減少して水素イオン(H+)が増加する。この結果、水素イオン指数が減少し、酸性水が生成される。
【0056】
2H2O → O2+4H++4e− (式2)
そうして、分離板(32)の下側の下部室(34)が酸性水で満たされる一方、分離板(32)の上側の上部室(33)がアルカリ水で満たされることとなる。
【0057】
こうして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、加湿ロータの周囲(上部室(33))をアルカリ水で満たすことができる。したがって、アルカリ水の性質を利用して、加湿ロータ(31)の表面に付着した汚れ(ヤニや油汚れ)を分解除去することができる。
【0058】
また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、水タンク(61)内の水中では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって水タンク(61)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。水中に拡散した水酸ラジカル等の活性種は、水中に含まれる被処理成分(例えばアンモニア等)を酸化分解して水の浄化に利用される。また、水中に拡散した過酸化水素は、水の殺菌に利用される。加湿運転時には、このような洗浄動作及び殺菌・浄化動作が適宜実行され、これにより、加湿ロータ(31)が洗浄されると共に、水タンク(61)内の水が殺菌・浄化される。
【0059】
また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、水タンク(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0060】
また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、気泡(B)付近に発生した微細な気泡(A)がストリーマ放電に伴う熱によって水タンク(61)内を対流し、分離板(32)の微細孔(35)を通り抜けて加湿ロータ(31)の表面に衝突する。そして、この衝突で気泡(A)が破壊する衝撃を利用して、加湿ロータ(31)の表面に付着した汚れを除去することができる。
【0061】
更にまた、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、放電電極側で衝撃波が発生する。発生した衝撃波は、分離板(32)の微細孔(35)を通り抜けて加湿ロータ(31)の表面に衝突する。そうして、この衝撃波を利用して加湿ロータ(31)の表面に付着した強固な汚れを除去することができる。
【0062】
−実施形態の効果−
上記実施形態では、水タンク(61)内の水中において、ストリーマ放電を行うことで、加湿ロータ(31)の周囲をアルカリ水で満たすと共にアルカリ水中に過酸化水素を生成(供給)するようにしている。これにより、アルカリ水の性質を利用して加湿ロータ(31)に付着した油汚れ等を分解除去しつつ、過酸化水素水を利用して水タンク(61)内の水を殺菌・浄化することができる。また、ストリーマ放電では、水中において多量の活性種が生成するため、この活性種により水中の有害物質を効果的に除去できる。こうして、加湿ロータ(31)及び水タンク(61)内の水を常に清潔に保って、加湿装置(1)から室内に供給される加湿空気の浄化度を高めることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、上記ストリーマ放電によって生じる衝撃波を加湿ロータの表面に衝突させるようにしている。これにより、衝撃波を利用して加湿ロータの表面に固着強固な汚れでも確実に除去することができる。ここで、上記実施形態では、直流電源(70)を使用してストリーマ放電を生起するようにしているため、例えばパルス電源を使用する場合と比較すると、弱い衝撃波を持続的に一定の大きさで発生させることができる。したがって、吸水部材(加湿ロータ(31))のように表面が比較的脆い材質で構成されている場合であっても、この表面に付着した汚れを母材を痛めることなく効果的に除去することができる。
【0064】
また、上記実施形態では、上記ストリーマ放電によって生じる微細気泡(A)を、加湿ロータ(31)の表面に衝突させるようにしている。これにより、気泡の破壊力を利用して、加湿ロータ(31)の表面に付着した強固な汚れを更に確実に除去することができる。
【0065】
また、上記実施形態では、水タンク(61)内を、分離板(32)によって、対向電極(65)が配設される上部室(33)と放電電極(64)が配設される下部室(34)とに区画するようにしている。このため、ストリーマ放電によって分離された対向電極側のアルカリ水と放電電極側の酸性水とが混ざるのを分離板(32)により阻止することができ、延いては、アルカリ水の洗浄効果が低下するのを防止することができる。
【0066】
〈実施形態の変形例〉
上記実施形態では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図6及び図7に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0067】
この変形例においても、各開口(74)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0068】
《その他の実施形態》
〈洗浄ユニットの構成>
上述した各実施形態では、分離板(32)が水平に配設されて、水タンク(61)内を分離板(32)によって上下に区画する例を示したが、これに限ったものではなく、例えば、図8に示すように、分離板(32)を鉛直に配置して、水タンク(61)内の空間を左右に区画するようにしてもよい。
【0069】
また、上記各実施形態では、洗浄ユニット(10)を加湿装置(1)に適用して、加湿ロータ(31)を被洗浄物とする例を示したが、これに限ったものではなく、例えば、野菜やメガネ等を被洗浄物とすることもできる。
【0070】
また、上記各実施形態では、対向電極(65)を、被洗浄物(加湿ロータ(31))とは別に設けるようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、被洗浄物自体を、電源部(70)の負極側に直接接続して対向電極として利用することもできる。但し、この場合には、被洗浄物を導電材で構成する必要がある。
【0071】
また、上記各実施形態では、洗浄ユニット(10)は分離板(32)を有する構成とされているが、分離板(32)を有さないものであってもよい。
【0072】
また、上記各実施形態では、上記放電ユニット(62)による洗浄動作及び浄化・殺菌動作を加湿運転時にのみ行うようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、これらの動作を行うための専用モードを備えて、ユーザがこのモードを選択している場合には、加湿装置(1)が加湿運転中であるか否かに拘わらず、上記洗浄動作及び浄化・殺菌動作を実行するようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、加湿ロータ(31)を水タンク(61)に直接浸漬するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、特開2009−154118に示すように、加湿ロータ(31)とは別に水車を設けて、該水車によりタンク(30)内の水を汲み上げて加湿ロータ(31)に供給するようにしてもよい。この場合、加湿ロータ(31)に水を供給する水車を被洗浄物として洗浄することができ、延いては、加湿ロータ(31)及び加湿空気の浄化度を高めることができる。
〈放電ユニットの構成>
上述した各実施形態の電源部(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、洗浄用水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0074】
また、上述した各実施形態では、電源部(70)の正極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、電源部(70)の負極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、被洗浄物が浸漬される洗浄用水を貯留するための洗浄槽と、該被洗浄物を洗浄するための洗浄手段とを備えた洗浄器、及び、該洗浄器を備えた加湿装置に有用である。
【符号の説明】
【0076】
31 加湿ロータ(被洗浄物)
31a 吸水部材
32 分離板(区画部材)
33 第2室(上部室)
34 第1室(下部室)
35 貫通孔部
61 水タンク(洗浄槽)
64 放電電極(正電極)
65 対向電極(負電極)
70 直流電源
74 電流密度集中部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物(31)が浸漬される洗浄用水を貯留するための洗浄槽(61)と、該被洗浄物(31)を洗浄するための洗浄手段(100)とを備えた洗浄器であって、
上記洗浄手段(100)は、上記洗浄槽(61)内の洗浄用水中にストリーマ放電を生起する正電極(64)及び負電極(65)と、該両電極間(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)とを有し、上記ストリーマ放電によって、上記洗浄槽(61)内の洗浄用水を、上記正電極(64)側のアルカリ水と上記負電極(65)側の酸性水とに分離することで上記被洗浄物(31)の周囲をアルカリ水で満たすとともに、該分離されたアルカリ水中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とする洗浄器。
【請求項2】
請求項1記載の洗浄器において、
上記洗浄手段(100)は更に、上記両電極間(64,65)の電流密度を上昇させるための電流密度集中部(74)を有していて、上記ストリーマ放電時には、該電流密度集中部(74)におけるジュール熱により気化した気泡を上記被洗浄物(31)に衝突させるように構成されていることを特徴とする洗浄器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の洗浄器において、
上記洗浄槽(61)内を、上記正電極(64)が配設される第1室(34)と上記負電極(65)が配設される第2室(33)とに区画する区画部材(32)を備え、
上記被洗浄物(31)は、上記第2室(33)に配設され、
上記区画部材(32)には、上記第1室(34)及び上記第2室(33)を連通する貫通孔部(35)が設けられていることを特徴とする洗浄器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の洗浄器を備えた加湿装置であって、
上記被洗浄物(31)は、一部が洗浄用水に浸漬された状態で回転自在に構成された吸水部材(31a)を有する加湿ロータ(31)であることを特徴とする加湿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−75964(P2012−75964A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220386(P2010−220386)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】