説明

洗浄装置

【課題】洗浄装置において、リンス後の光学素子の水分を除去する際に、IPAや代替フロンなどを用いることなく、効率的に水分を除去することができるようにする。
【解決手段】被洗浄体であるレンズ2を洗浄治具1に保持して洗浄液5によって洗浄し、水を含むリンス液7でリンスするする洗浄リンス部100Aと、洗浄リンス部100Aでレンズ2に付着した水分を除去する水分除去部100Bとを有する洗浄装置100であって、水分除去部100Bは、レンズ2を保持した洗浄治具1を収容して、洗浄治具1を回転させる回転枠11と、回転枠11に固定して設けられ、洗浄治具1を、洗浄治具1に保持されたレンズ2の厚さ方向が回転枠11の回転円の径方向に略直交する方向に向くように保持する洗浄治具保持部11eと、洗浄治具保持部11eに向けて回転円の径方向にガスGを噴射するガス噴射機構13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばレンズなどの光学素子を洗浄する場合、洗剤などを含む洗浄液で洗浄してから、純水によってリンスし、純水をイソプロピルアルコール(IPA)によって置換し、代替フロンまたはIPA蒸気によって乾燥させることが行われている。
一方、関連する技術として、特許文献1には、シリコンウェハの洗浄装置分野では、例えば、シリコンウェハを被処理体とし、被処理体が、洗浄に用いられる薬液あるいは超純水に接する部分に、光を遮断する容器を設け、さらに、容器内に不活性なガスを供給する手段と、ガスに紫外線を照射する手段を設けた洗浄装置が記載されている。
この特許文献1に記載の洗浄装置は、窒素ガスをシリコンウェハに噴射することで、シリコンウェハ表面の水分を除去するとともに、紫外線を照射することで窒素ガスを電離して、シリコンウェハ表面の静電気を除去することが開示されている。
【特許文献1】特開平5−47735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の洗浄装置には、以下のような問題があった。
光学素子の洗浄にIPAを使用すると、洗浄装置に防爆設計仕様が求められたり設置場所の制限を受けたりするといった問題がある。また、代替フロンは、地球温暖化対策上、今後継続して使用することが難しくなっている。
また、特許文献1に記載の技術を用いて、IPAや代替フロンを用いることなく水分を除去することも考えられるが、特許文献1の洗浄装置では、シリコンウェハの洗浄を行う場合、窒素ガスを噴射して表面の水分を吹き飛ばすことで水分を除去し乾燥を促進することができるものの、レンズなどの光学素子を洗浄する場合には、円板状のシリコンウェハとは異なり、大きさや形状が様々であるため、窒素ガスが当たりにくい場所に水滴が溜まって、乾燥が遅れてしまう。光学素子の基材であるガラスには水に溶け出す成分が含まれているため、水分の除去効率が悪いと、水分が長く残存した領域にシミやヤケが発生して、良好な洗浄効果が得られなくなるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、リンス後の光学素子の水分を除去する際に、IPAや代替フロンなどを用いることなく、効率的に水分を除去することができる洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の洗浄装置は、被洗浄体である光学素子を洗浄治具に保持して洗浄液によって洗浄し、水を含むリンス液でリンスするする洗浄リンス部と、該洗浄リンス部で前記光学素子に付着した水分を除去する水分除去部とを有する洗浄装置であって、前記水分除去部は、前記光学素子を保持した洗浄治具を収容して、該洗浄治具を回転させる回転枠と、該回転枠に固定して設けられ、前記洗浄治具を、該洗浄治具に保持された前記光学素子の厚さ方向が前記回転枠の回転円の径方向に略直交する方向に向くように保持する洗浄治具保持部と、該洗浄治具保持部に向けてガスを噴射するガス噴射機構とを備える構成とする。
この発明によれば、光学素子は、その光学面を一定方向に向けられた状態で、洗浄治具の保持部に保持され、その状態で洗浄リンス部によって洗浄、リンスされる。その後、回転枠の洗浄治具保持部によって、光学素子の厚さ方向が回転枠の回転円の径方向に略直交する方向に向くように保持される。そして、回転枠を回転させるとともに、ガス噴射機構から洗浄治具に対してガスを噴射させることができる。
このため、光学素子の光学面上の水分は、遠心力を受けて、光学素子の厚さ方向に交差する光学面に沿って、回転円の径方向外側に向かって移動される。さらに、ガス噴射機構から光学素子にガスが噴射されることによって、光学面上の水分に対して一定方向にのみ作用する慣性力である遠心力だけでは円滑に移動されない水分や停留する水分があったとしても、ガス噴射によって発生する、遠心力の方向と異なる方向のガス圧成分によって、停留した水分が移動されたり、水分の塊を散らされたりすることで除去することができる。
ここで、洗浄リンス部における洗浄時の洗浄液は、洗剤、界面活性剤などを含む水を用いることができる。また、洗浄リンス部におけるリンス時に用いる水は、必要に応じて、純水、井水、市水等の水を採用することができる。
また、ガス噴射機構から噴射するガスは、必要に応じて窒素等の不活性ガスや空気などを採用することができる。これらのガスは、例えば、濾過フィルタなどによってゴミ等が除去された清浄なガスであることが好ましい。
【0006】
また、本発明の洗浄装置では、前記ガス噴射機構は、前記回転枠とともに回転し、前記回転枠の回転円の径方向に沿って、前記洗浄治具保持部に向けて前記回転円の径方向にガスを噴射する構成であることが好ましい。
この場合、ガスを回転枠の回転円の径方向に沿って噴射するので、回転円の径方向の合力成分が大きくなり、より円滑に水分を除去することができる。
【0007】
また、本発明の洗浄装置では、前記回転枠は、前記ガス噴射機構の噴射口に対して対向する位置に、前記ガスを前記回転円の径方向外側に向けて排気する吸引口を備えることが好ましい。
この場合、ガス噴射機構の噴射口から噴射されたガスは、回転枠に備えられた吸引口のから吸引されて、回転円の径方向外側に向けて排気される。そのため、噴射口から吸引口に向かって、遠心力と同方向に向かう定常流が形成され、洗浄治具に保持された光学素子の光学面上の水分を効率的に吹き飛ばすことができる。
【0008】
また、本発明の洗浄装置では、前記ガス噴射機構は、前記ガスを加熱して噴射することが好ましい。
この場合、ガスから光学素子および光学素子上の水分に伝熱されることで、光学素子上の水分の粘性が低下するため、光学面上の水分を円滑に移動させることができる。
【0009】
また、本発明のガスを加熱して噴射する洗浄装置では、前記ガスの温度は、前記光学素子上で、60℃以上90℃以下に設定されていることが好ましい。
この場合、光学素子上でのガス温度が60℃以上90℃以下となるようにするので、水の粘性が良好となるため、水分の移動が円滑となる。
ガスの温度が光学素子上で、60℃未満であると、水の粘性が大きくなるため、水分の移動に時間がかかり、シミやヤケが発生する可能性が高まる。また、水分は水滴状になりやすいため、シミやヤケが水滴の移動跡に沿って形成される可能性が高まる。
また、ガスの温度が90℃を超えると、水の粘性は小さくなるものの、水の沸点に近づきすぎるため、気泡跡が発生しやすくなる。また、洗浄治具が高温になるため、人手で搬送できる温度まで冷却されるのを待ってから取り出す必要があり、回転枠からの洗浄治具の取り出しに時間がかかってしまう。
【0010】
また、本発明の洗浄装置では、前記ガス噴射機構は、前記回転枠の回転中心位置に設けられた構成とすることが好ましい。
この場合、ガス噴射機構が回転枠の回転中心位置に設けられるので、ガス噴射機構を回転させる回転動力を低減することができる。
【0011】
また、本発明の洗浄装置では、前記回転枠は、前記洗浄治具保持部に対する径方向の対向位置にバランサを備える構成とすることが好ましい。
この場合、バランサを備えることにより、回転枠に単数の洗浄治具を配置する場合でも、回転枠のアンバランスによる振動を抑制することができるので、高速に回転させることができ、大きな遠心力を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗浄装置によれば、リンス後の光学素子の水分を除去する際に、回転枠の回転に伴う遠心力により光学素子の光学面上の水分を回転円の径方向外側に向かって移動し、かつガス噴射機構からのガス噴射によって光学面上に停留する水分を散らすことができるので、IPAや代替フロンなどを用いることなく、効率的に水分を除去することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0014】
本発明の実施形態に係る洗浄装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る洗浄装置の概略構成を示す模式的な断面構成図である。図2(a)は、本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いる洗浄治具および被洗浄体の一例を示す正面図である。図2(b)は、図2(a)におけるB−B断面図である。図3は、図1におけるA−A断面図である。
【0015】
本実施形態の洗浄装置100は、図1に示すように、洗浄治具1に保持された複数のレンズ2(光学素子)の洗浄、リンス、水分除去を順次行うことができる装置であり、その概略構成は、洗浄、リンスを行う洗浄リンス部100Aと、水分除去を行う水分除去部100Bとからなる。洗浄リンス部100A、水分除去部100Bのそれぞれの内部や、洗浄リンス部100A、水分除去部100Bの間には、レンズ2を保持した洗浄治具1を、それらの内部またはそれらの間で搬送したり、上下方向に移動したりする搬送機構(不図示)を備えている。
【0016】
レンズ2の形状は、特に限定されないが、以下では、便宜上、特に断らない限りはレンズ2が両凸レンズからなる場合の例で説明する。この場合の洗浄治具1の一例を、図2(a)、(b)に示す。
洗浄治具1は、例えば矩形板状の板部1bの1つの長辺近傍に、レンズ2の外形部を嵌合する円状の貫通孔などからなる保持部1aが、洗浄治具1に保持するレンズ2の個数分だけ形成されている。図示の例では4個のレンズ2が保持できるようになっている。
また、本例では、板部1bの板厚は、レンズ2のレンズ厚よりも薄い板厚となっている。
このような構成により、各レンズ2は、保持部1aに嵌合されて固定された状態では、光軸が板部1bの法線に一致され、図2(b)に示すように、レンズ2の光学面であるレンズ面2a、2bが、それぞれ板部1bの法線方向に向けられて配置される。そして、レンズ面2a、2bは、板部1bの板厚方向の表裏面側にそれぞれ露出された状態で固定される。すなわち、レンズ2は、その厚さ方向が、洗浄治具1の法線方向に向けられた状態で洗浄治具1に保持されている。
【0017】
レンズ2の保持部1aに対する固定方法は、洗浄、リンス、水分除去を行う間、保持部1aに固定されていれば、特に限定されない。例えばレンズ2の外縁部をバネ性を有する2枚の板で挟みこむ固定方法を採用することができる。
【0018】
洗浄リンス部100Aの概略構成は、図1に示すように、洗浄槽3、およびリンス槽6からなる。
洗浄槽3は、洗浄治具1に保持されたレンズ2を洗浄液5に浸漬させて、洗浄治具1およびレンズ2を洗浄するものである。
洗浄液5は、例えば、非イオン系界面活性剤などからなる洗剤を含む水溶液を採用することができる。また、洗浄液5には、食塩を電気分解する機能水、例えば、アルカリ電解水を含んでいてもよい。
また、洗浄槽3には、洗浄液5による洗浄効率を向上するため、洗浄槽3内の洗浄液5に超音波振動を伝搬させる超音波発振器4が、例えば、洗浄槽3の底部などの適宜位置に固定されている。
【0019】
リンス槽6は、洗浄槽3で洗浄された洗浄治具1およびレンズ2をリンス液7に浸漬させて、洗浄治具1およびレンズ2をリンスするものである。ここで、リンスするとは、洗浄治具1、レンズ2に付着した洗浄液5をリンス液7によってすすぎ落とすことを意味する。
リンス液7は、本実施形態では、井水、市水、純水の少なくともいずれかを用いている。
また、リンス槽6には、リンス液7によるリンス効率を向上するため、リンス槽6内のリンス液7に超音波振動を伝搬させる超音波発振器4が、例えば、リンス槽6の底部などの適宜位置に固定されている。
【0020】
なお、図1には、リンス槽6が単一槽の場合の例が図示されているが、例えば、複数の槽を設け、井水または市水を満たした槽と、純水を満たした槽とを設け、それらを洗浄液の種類に応じて使い分けたり、それらの間で洗浄治具1およびレンズ2を順次移動させて多段階のリンスを行ったりしてもよい。
【0021】
水分除去部100Bは、リンス槽6でリンスされた後のレンズ2上に付着するリンス液7をレンズ2から除去するためのものである。
水分除去部100Bの概略構成は、図1、3に示すように、乾燥槽10、蓋部12、回転枠11、ガス噴射機構13、排気路14、および排気ポンプ15からなる。
【0022】
乾燥槽10は、底面部10b上に立設された円筒状の側壁部10aを有する有底円筒状部材であり、上側の開口が、不図示の開閉手段によって着脱自在に設けられた蓋部12によって封止できるようになっている。
蓋部12には、乾燥槽10の内部に、窒素ガスを電離させるための紫外線を照射するUV光源18が設けられている。
【0023】
回転枠11は、レンズ2を保持した洗浄治具1を収容して回転させるためのもので、乾燥槽10の内部において乾燥槽10と略同心に配置された略有底円筒状の部材からなる。すなわち、底面部11d上に円筒状の側壁部11bが立設され、底面部11dの中心部に設けられた回転軸部11aを介して、乾燥槽10の底面部10bに鉛直方向に沿う回転軸Oを中心として回転可能に取り付けられている。
回転枠11の側壁部11bの外周面と、乾燥槽10の側壁部10aの内周面との間、および回転枠11の底面部11dの下面と乾燥槽10の底面部10bの上面との間には、内部の気体が自由に流通できる程度の隙間16が形成されている。
【0024】
回転軸部11aは、回転中心近傍に、軸方向に貫通する管路を設けることができるものであれば、適宜のスピンドルや外周部で回転支持された円筒部材にモータなどで回転させる回転機構などを採用することができる。
回転軸部11aの回転速度(回転数)は必要に応じて適宜設定することができるが、例えば、本実施形態では、500rpm〜3000rpmの間で可変できるようになっている。
回転軸部11aは、その径方向外側の固定部分が、底面部10bに固定されている。
そして、回転軸部11aの固定位置近傍における乾燥槽10の底面部11dには、底面部10bの板厚方向に貫通する排気口10cが適宜個数だけ設けられている。
【0025】
回転枠11の内部側において、底面部11dおよび側壁部11bの少なくともいずれかには、洗浄治具1を位置決めして保持する洗浄治具保持部11e、および後述するバランサ17を位置決めして保持するバランサ保持部11fがそれぞれ側壁部11bの径方向に対向する対をなして設けられている。
本実施形態の洗浄治具保持部11eは、図1、3に示すように、板部1bを下端側で挟持し、洗浄治具1の保持部1aと反対側の端面を、側壁部11bの内面に当接させて配置する。これにより、板部1bの保持部1aの各中心が回転軸Oからそれぞれ径方向距離Rの位置に配置され、かつ板部1bの法線が回転軸Oを中心とする半径Rの回転円C(図3参照)の接線方向に向けられた状態に、洗浄治具1が位置決めされて洗浄治具保持部11eに保持される。
このため、レンズ2の厚さ方向は、回転枠の径方向に直交する方向の1つである水平方向に向けられた状態で保持される。
半径Rの大きさは、レンズ2上の水滴を除去するのに必要な遠心力の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0026】
洗浄治具保持部11eが設けられ、洗浄治具1が保持される位置の近傍の側壁部11bには、洗浄治具1の周りで、回転枠11の径方向に流れる気流を、径方向に沿って隙間16側に流通せしめるために、側壁部11bを径方向に貫通する複数の貫通孔で構成された吸引口11cが設けられている。
洗浄治具保持部11e、バランサ保持部11fは、本実施形態では、形状の異なる洗浄治具、バランサに対応させて三対設けられているが、同一形状の洗浄治具1、バランサ17に対応して複数対設けてもよいし、常に1つの洗浄治具1を保持する場合には一対だけ設けておいてもよい。
【0027】
ガス噴射機構13は、回転枠11とともに回転し、洗浄治具保持部11eに保持された洗浄治具1に向けて、回転枠11の回転円Cの径方向を中心方向としてガスGを噴射するものである。なお、以下では、誤解のおそれのない場合には、回転円Cの径方向を、単に径方向と称する場合がある。
本実施形態のガス噴射機構13の概略構成は、ガス供給部13g、ガス供給管13e、ガス配管13b、および噴射ノズル部13aからなる。
ガス供給部13gは、乾燥槽10の外部に配置され、ガス供給管13eを通してガス配管13bに、空気または窒素ガスなどからなる加圧されたガスGを供給するものである。
ガス供給管13eは、ガス供給部13gから供給されるガスGを浄化、加熱してガス配管13bに導く管路である。そのため、ガス供給管13eの経路上には、ガス供給部13g側から、ガスG中のゴミを除去する濾過フィルタ13f、ガスGを加熱するヒータ13dがそれぞれ設けられている。
【0028】
濾過フィルタ13fは、本実施形態では、0.5μm以下のゴミが除去可能な濾過性能を有するものを採用している。
ヒータ13dの出力は、ガスGの風速、レンズ2の配置位置等に応じて、レンズ2上での温度が、一定の範囲内になるように設定する。レンズ2上の温度は、60℃以上90℃以下に設定することが好ましい。
ガスGの温度がレンズ2上で、60℃より低くなると、水の粘性が大きくなるため、水分の移動に時間がかかり、シミやヤケが発生する可能性が高まる。また、水分は水滴状になりやすいため、シミやヤケが水滴の移動跡に沿って形成される可能性が高まる。
また、ガスGの温度が90℃以上になると、水の粘性は小さくなるものの、水の沸点に近づきすぎるため、気泡跡が発生しやすくなる。また、レンズ2が高温になるため、人手で搬送できる温度まで冷却されるのを待ってから取り出す必要があり、回転枠からの洗浄治具の取り出しに時間がかかってしまう。
【0029】
ガス配管13bは、回転軸部11aの回転軸Oと同軸位置に固定され、上端が回転枠11の内部側に、下端が乾燥槽10の外側にそれぞれ突出されている。
そして、ガス配管13bの下端は、回転ジョイント13cを介して、ガス供給管13eに対して回転可能かつ気密状態に連結されている。また、ガス配管13bの上端には、噴射ノズル部13aが管路を連結して固定されている。
【0030】
噴射ノズル部13aは、ガス配管13bを通して供給されたガスGを、回転枠11の回転円Cの径方向を中心方向として噴射するもので、洗浄治具保持部11eに対向する位置に設けられている。そして、複数の洗浄治具保持部11eに洗浄治具1を付け替える場合には、洗浄治具1の保持位置に合わせて、噴射ノズル部13aの向きを切り替えることができるようになっている。
噴射ノズル部13aの先端部には、洗浄治具保持部11eに保持された洗浄治具1の高さ方向の全体にわたってガスGを噴射できるように、洗浄治具1に対向するスリット状の噴射口、または複数の噴射口を鉛直方向に適宜ピッチで配列した噴射口群が設けられている。
【0031】
噴射ノズル部13aのノズル形状は、適宜の噴射流が得られる形状を採用することができるが、洗浄治具1に保持されたレンズ2の近傍で、板部1bに略平行な噴射流が得られることが好ましい。このような板部1bに対して略平行な噴射流は、いわゆるエアナイフとして知られるノズルによって容易に得られる。
噴射ノズル部13aの噴射口は、本実施形態では、回転軸Oと回転円C上のレンズ2との間であって回転軸Oからの距離r(ただし、r<R)の位置に配置されている。
【0032】
排気路14は、乾燥槽10内のガスGを排気するために、乾燥槽10の底面部10bの下方において、少なくとも排気口10cを覆って、排気口14aに導くダクト部材である。
排気ポンプ15は、排気路14内のガスGを排気口14aから排気するためのものである。
【0033】
次に、洗浄装置100の動作について、水分除去部100Bでの動作を中心に説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る洗浄装置の水分除去部におけるガスの流れについて説明する模式図である。
【0034】
洗浄装置100によって、レンズ2を洗浄するには、まず洗浄治具1の保持部1aにレンズ2を保持させ、洗浄治具1およびレンズ2を洗浄リンス部100Aの洗浄槽3内の洗浄液5に浸漬させ、超音波発振器4によって洗浄液5に超音波振動を印加して、洗浄液5による洗浄工程を行う。
レンズ2から、汚れが除去されたら、洗浄槽3から洗浄治具1およびレンズ2を引き上げて、洗浄治具1およびレンズ2を洗浄リンス部100Aのリンス槽6内のリンス液7に浸漬させ、超音波発振器4によってリンス液7に超音波振動を印加して、リンス液7によるリンス工程を行う。
【0035】
次に、蓋部12を開いて、リンスされた洗浄治具1およびレンズ2を乾燥槽10内に移動させ、回転枠11上の洗浄治具保持部11eによって洗浄治具1を保持させる。
そして、噴射ノズル部13aからガスGを噴射させるとともに、回転枠11を一定方向(例えば、図3における反時計回り方向)に回転させることで水分除去工程を行う。
このとき、本実施形態では、UV光源18によってレンズ2に向けて紫外線を照射する。これにより、ガスGに含まれる窒素が電離され、レンズ2上の静電気が除去されたりレンズ2の表面の有機成分が分解されたりするため、レンズ2表面にゴミや有機物などが付着することを防止することができる。
【0036】
また、本実施形態では、回転軸Oを挟んで洗浄治具1に対向する位置においてバランサ17を設けることによって、回転枠11の回転バランスのずれを低減することができるので、アンバランス振動を抑制して高速でも安定した回転を行うことができる。これにより、洗浄治具1やレンズ2に加わる振動が低減されるので、レンズ2の保持がゆるんだり、保持部で傷が発生したりすることを防止することができる。
また、バランサ17は、異なる洗浄治具1、レンズ2を洗浄治具保持部11eに保持した場合に、これらの質量に応じて、適切な質量を有するバランサ17に代えることで、種々の洗浄治具1、レンズ2に対しても同様の効果をもたらすことができる。
【0037】
本工程におけるガスGの流れについて、図4に基づいて説明する。
まず、蓋部12を閉じて、排気ポンプ15を排気運転し、排気路14内の空気を、排気口14aから排気する。
そして、ガス供給部13gからのガスGの供給を開始する。
ガス供給部13gから加圧噴射されたガスGは、ガス供給管13eを通して濾過フィルタ13fに導かれる。ガスGは、濾過フィルタ13fによって濾過され、0.5μm以上のゴミが除去される。このようにして清浄化されたガスGは、ガス供給管13eによってヒータ13dに導かれ、ヒータ13dで加熱される。
そして、加熱されたガスGは、回転ジョイント13cで連結され、回転軸部11aとともに回転しているガス配管13bに導かれる。ガス配管13bに供給されたガスGは、噴射ノズル部13aに圧送され、噴射ノズル部13aの噴射口から、洗浄治具1およびレンズ2に向かって噴射される。
【0038】
洗浄治具1に向けて噴射されたガスGは、全体としては、洗浄治具1の板部1bと、板部1b側に露出したレンズ2のレンズ面2a、2bとに沿って、回転円Cの径方向に向かって進み、側壁部11b上に設けられた吸引口11cを通して、隙間16に導かれる。
ただし、噴射ノズル部13aから噴射されたガスGは、自由空間に噴射されるため、ノズル配置によって決まる噴射中心方向から、側方に広がって進む。また、洗浄治具1やレンズ2などに当たると、それらの表面形状に応じて、流れ方向が変化するため、レンズ2上の水分に対するガスGの押圧方向は、噴射方向を中心方向としてある程度の分布を持つことになる。
また厳密には、回転系では、噴射ノズル部13aから噴射されたガスGには、コリオリ力が作用するため、径方向距離Rや回転速度に応じて径方向に対して湾曲するが、距離(R−r)が小さい場合には、無視することができる。コリオリ力によるガスGの流路の湾曲が大きくレンズ2上のガス圧が低下しすぎる場合には、コリオリ力による曲がりを補正するため、噴射ノズル部13aの噴射口の向きを対向方向の洗浄治具保持部11eの位置に対して回転方向側の斜め方向に予めずらしておいてもよい。
【0039】
隙間16のガスGは、排気ポンプ15の排気作用により、隙間16内を通って、排気口10cを透過して、排気路14に導かれる。
排気路14に到達したガスGは、乾燥槽10内の空気と同様に、排気口14aから外部に排気される。
このようにして、乾燥槽10内にはガスGの定常流が形成される。特に、レンズ面2a、2bの近傍では、板部1bに略平行、すなわち、レンズ2の光軸に略直交する方向を中心方向として、回転円Cの径方向内側から径方向外側に向かう定常流が形成される。
【0040】
次に、水分除去部100Bの水分除去作用について説明する。
図5(a)、(b)は、それぞれ光学素子に付着した水滴の水分除去工程前、および水分除去工程中の様子を示す模式断面図である。図6(a)、(b)は、それぞれ他例の光学素子に付着した水滴の水分除去工程前、および水分除去工程中の様子を示す模式断面図である。
【0041】
まず、図5(a)に示すように、レンズ2が両凸レンズ2A(光学素子)で、一方の凸面であるレンズ面2aに水滴20(水分)が付着している場合の例で説明する。
回転枠11が回転され、ガスGが噴射されると、図5(b)に示すように、水滴20には、レンズ面2aに密着する密着力T、遠心力F、ガスGの風圧による押圧力Wなどの力が作用する。また、重力が図示の紙面奥行き方向に作用する。
例えば、水滴20が半径1mmの半球であると仮定すると、質量mは、2.09×10−6kgであるから、重力は、2.05×10−5Nである。
これに対してレンズ面2aに対する密着力Tは、主として水の表面張力に由来しており、水の表面張力は、20℃で約72.7mN/mであるから、この場合、密着力Tの大きさは、約1×10−4N程度の大きさであり、重力に比べてかなり大きい。したがって、密着力Tは、水滴20の付着する位置におけるレンズ面2aのおよそ接線方向であって、かつ遠心力Fに抗する側に作用する(図5(b)参照)。
水の表面張力は温度が上昇すると低下する傾向がある。例えば、60℃では、約66.2mN/m、90℃では、約60.7mN/mとなり、これに伴って、水滴20の密着力Tも減少する。
一方、遠心力F(N)の大きさは、回転半径をR(mm)、回転数をN(rpm)とすると、次式で表される。
【0042】
F=m・R・(2πN/60)/1000 ・・・(1)
【0043】
例えば、m=2.09×10−6(kg)、R=50(mm)、400(mm)、N=500(rpm)、3000(rpm)の場合の組合せについて、それぞれ、表1のように計算される。
【0044】
【表1】

【0045】
すなわち、回転半径Rが50mm〜500mm、回転数Nが500rpm〜3000rpmの範囲において、重力に比べて格段に大きな、また、密着力Tよりも大きな遠心力Fが得られる。そのため、水滴20は回転円Cの径方向に移動され、レンズ面2a上から迅速に除去される。
その結果、水溶性のガラス成分が水滴20内に溶け出すことによるシミやヤケの発生を抑制することができる。
なお、水滴20がさらに小径となると、回転数が低い場合には遠心力Fよりも密着力Tが上回る場合も発生するが、その場合でも本例で明らかなように回転数、回転半径を変えれば、遠心力Fを大きくすることは容易である。
また水滴20がきわめて小さくなると、水に溶けるガラス成分の溶解量も小さくなり、蒸発するまでの時間も短くなるため、シミやヤケは発生しにくくなる。
【0046】
一方、ガスGによる押圧力Wは、水滴20の表面においてガスGの流れの方向に作用し、本例では、水滴20をレンズ面2aに沿って回転円Cの径方向外側に向けて押し出す。このため、遠心力Fと相俟って、水滴20をより効率的に除去することができる。
ここで、遠心力Fは慣性力として、回転系では、水滴に対して常に径方向外側に向かって径方向に沿って作用する。
一方、ガスGによる押圧力Wは、中心方向は径方向を向いているものの、作用する方向にはある程度のばらつきがある。また、洗浄治具1、レンズ2の凹凸形状に応じて、作用方向が変化するため、水滴20の位置などによっても作用方向、力の大きさなどが変化する。
また、押圧力Wは、水滴20の表面に動的な圧力として作用するため、水滴20を移動させるだけでなく、水滴20を分裂させたり、飛び散らせたり、押しつぶしたりする。
このため、遠心力Fの作用のみでは、レンズ2の形状によっては、力がつり合って停留するおそれがあるが、ガスGの押圧力Wが作用することで、このような静的なつり合い状態が解消される。
【0047】
また、ガスGは、加熱されているため、水滴20および両凸レンズ2Aの温度を上昇させる。これにより、水滴20の表面張力が低下し密着力Tがより低下するので、水滴20がより円滑に移動される。また、ガスGによって、水滴20の粘性も低下されるため、水滴20の面積が広がりやすくなり、レンズ面2a上での水滴20の移動がより均一化される。このため、仮に、水滴20の移動経路上でシミやヤケが発生するとしても、発生場所が均一化されるため、ムラになりにくい。
また、ガスGが加熱されていることで、水滴20の蒸発、乾燥を促進させる。
【0048】
次に、レンズ2が、図6(a)、(b)に示すような、凹レンズ面2c(光学面)を有する平凹レンズ2B(光学素子)からなる場合について説明する。
この場合、回転枠11が回転され、ガスGが噴射されると、凹レンズ面2c上の水滴20には、上記と同様に、密着力T、遠心力F、押圧力Wが作用する。このとき、ガスGは、凹レンズ面2cの光軸に略直交する方向に流れるので、凹レンズ面2cのうち、回転円Cの径方向内側ではレンズ端部を乗り越える必要があり、押圧力Wは弱くなる。したがって、主として、遠心力Fの作用により、水滴20は、凹レンズ面2cに沿って回転円Cの径方向外側に向かって移動する。
【0049】
一方、例えば、図6(b)に二点鎖線で示すように、水滴20がレンズ中心を超えると、凹レンズ面2cは水滴20の移動を妨げる方向の傾斜面となる。このため、密着力Tに抗する凹レンズ面2cの接線に沿う遠心力Fの分力が次第に減少し、水滴20の移動に寄与する遠心力Fの成分が低下する。特に、凹レンズ面2cの曲率半径が小さい場合には、水滴20の移動速度が低下し、極端な場合には、力のつり合い位置で停留する可能性もある。
ところが、本実施形態では、回転円Cの径方向内側のレンズ端部を乗り越えたガスGは、凹レンズ面2cに沿って流れるため、図示二点鎖線の位置では、押圧力W’が凹レンズ面2cの曲率に沿って作用し、水滴20を凹レンズ面2cに沿って、回転円の径方向外側に向けて押し出し、これにより、凹レンズ2Bから水分を除去することができる。
以上の説明ではやや単純化して、水滴20が径方向に沿って移動するように述べたが、実際には、押圧力Wが動的に加わると、水滴20が分裂したり、径方向と異なる方向に飛び散ったりして散らされる。このため、凹レンズ面2c上で水滴20の径、付着位置、経路などを変えながら、全体として径方向外側に向かって移動していくため、遠心力のみの作用によって一定の経路を移動していく場合に比べて、シミやヤケをさらに抑制することができる。
【0050】
このように、本実施形態の洗浄装置100では、リンス後のレンズ2の水分を除去する際に、回転枠11の回転に伴う遠心力Fおよびガス噴射機構13からのガスGの噴射により、レンズ2の光学面上の水滴20が回転円Cの径方向外側に向かって移動されるので、IPAや代替フロンなどを用いることなく、効率的に水分を除去することができる。
また、遠心力Fによる水滴20の除去効果が低下しやすい凹部を備えた光学素子の場合であっても、ガスGを噴射するため、円滑に水滴20を移動させ、光学素子から除去することができる。
【0051】
本実施形態の水分除去部100Bでは、洗浄治具保持部11eを複数種類備えているため、種々の形状の洗浄治具を保持させることができる。
図7(a)は、本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いることができる洗浄治具の一例の概略構成を示す模式的な斜視図である。図7(b)は、図7(a)におけるC−C断面図である。図8は、本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いることができる洗浄治具の他例の概略構成を示す模式的な斜視図である。図9は、本発明の実施形態に係る洗浄装置の水分除去部に洗浄治具の他例を保持させた場合の図1におけるA−A断面図である。
【0052】
図7(a)、(b)に示す洗浄治具30は、上記実施形態の洗浄治具1に置き換えて用いることができる洗浄治具の一例であり、保持板30A、30B、および固定ねじ30Cからなる。
保持板30A、30Bは、図7(a)、(b)に示すように、レンズ2をそれぞれレンズ面2a、2b側から挟持して、レンズ2を保持するもので、レンズ2を外嵌する保持穴部30aがそれぞれの対向面の同軸位置に形成されている。図示の例では、複数のレンズ2を保持するため、複数保持穴30aが、例えば3個×2列だけ設けられている。
各保持穴30aの底部には、それぞれレンズ2の外径より小さくレンズ2の有効径よりも大きな直径を有し、レンズ2のレンズ面2a、2bを係止する円状の係止部30bが形成されている。
このため、各レンズ2は、保持板30A、30Bのそれぞれの保持穴30aに収納され、係止部30bによって、レンズ面2a、2bを係止して、レンズ2を保持できるようになっている。
レンズ2を挟持した保持板30A、30Bは、一方に挿通され、他方に螺合される固定ねじ30Cによって、対向間隔が固定される。
【0053】
このような洗浄治具30によれば、洗浄治具1と同様に、板状であって、板面の法線方向にレンズ2の光軸を向けた状態でレンズ2を保持することができる。そのため、対向間隔が固定された洗浄治具30の板厚に合わせて、洗浄治具保持部11eを形成することで、洗浄治具1と同様に回転枠11内に保持させることができる。
【0054】
図8に示す洗浄治具31は、洗浄治具1に代えて用いることができる他例であり、レンズ2に代えて、例えば、シリンドリカルレンズなどの棒状光学素子2C(光学素子)を保持する場合に好適なものである。図8には、棒状光学素子2Cの一例として、円筒レンズ面2d(光学面)および平面レンズ面2e(光学面)を有するシリンドリカルレンズが描かれている。
洗浄治具31は、直方体形状のブロック状部材からなり、棒状光学素子2Cの厚さ方句、すなわち、円筒レンズ面2dと平面レンズ面2eとの間のレンズ厚方向が、鉛直方向に向けられた状態で、棒状光学素子2Cの長さ方向の端部を嵌合保持する嵌合孔31aが、厚さ方向(棒状光学素子2Cの長さ方向)に貫通して設けられている。
洗浄治具31の厚さ方向の一側面の中央部には、嵌合孔31aごとに光学素子固定ねじ32が螺設されている。これにより、各嵌合孔31aに挿入された棒状光学素子2Cの長さ方向の端部を押圧して、棒状光学素子2Cの長さ方向の端部を嵌合孔31aに固定できるようになっている。
これにより、洗浄治具31の厚さ方向の両側に、複数の棒状光学素子2Cが、嵌合孔31aに嵌合された状態で固定され、それぞれ洗浄治具31の法線方向に突出される。
【0055】
このように、棒状光学素子2Cを保持した洗浄治具31は、図9に示すように、回転枠11の洗浄治具保持部11eによって、厚さ方向に挟持され、光学素子固定ねじ32を設けた側面と対向する側面を側壁部11bに押しつけた状態で保持される。
これにより、各棒状光学素子2Cは、棒状光学素子2Cの長さ方向が回転円Cの接線方向に配置され、棒状光学素子2Cの厚さ方向を鉛直方向に向けて配置される。すなわち、各棒状光学素子2Cの厚さ方向は、回転円Cの径方向に直交する方向に向けられている。
このとき、洗浄治具31の洗浄治具保持部11eに対し、回転軸Oを挟んで対向する位置のバランサ保持部11fには、バランサ17に代えて、洗浄治具31および棒状光学素子2Cの質量に応じたバランサ17Aが配置される。
【0056】
このような構成により、ガス噴射機構13から噴射されたガスGは、棒状光学素子2Cに当たると、円筒レンズ面2dおよび平面レンズ面2eに振り分けられて、それぞれの上下方向に置いて、それぞれのレンズ面に沿って進み、棒状光学素子2Cを略最短距離で横断するように流れる。
このため、円筒レンズ面2d上に付着した水滴20に作用する力関係は、回転円Cの径方向を含む鉛直面内において、図5(b)と同様な関係になるため、同様にして円滑に除去される。
すなわち、本例は、光学素子の厚さ方向が回転枠の径方向に直交する方向の1つである鉛直方向に向けられた場合の例となっている。
【0057】
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
図10は、本発明の実施形態の第1変形例に係る水分除去部の構成を示す、図1におけるA−A断面図である。
【0058】
本変形例は、上記実施形態の洗浄装置100において、水分除去部100Bを、図10に示す水分除去部101Bに代えたものである。
水分除去部101Bは、上記実施形態の水分除去部100Bの回転枠11に代えて、回転枠11Aを備え、これにより、ガス噴射機構13を、回転軸Oを挟んで洗浄治具保持部11eに対向する位置に設けたものである。
以下、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、以下では、洗浄治具として、上記に説明した洗浄治具31を配置した場合の例で説明するが、本変形例の洗浄治具が洗浄治具31に限定されるわけではなく、洗浄治具1、30を用いても同様の作用効果が得られる。
【0059】
回転枠11Aは、ガス噴射機構13を、回転軸Oを挟んで洗浄治具保持部11eに対向する位置に設けるため、ガス配管13bを、回転軸部11a上に突出させ、径方向外側に延設してなるものである。
ガス噴射機構13は、底面部11dに対して不図示の保持部材によって固定される。
これにより、噴射ノズル部13aは、回転円Cの径方向に沿ってガスGを噴射し、対向位置に設けられた洗浄治具保持部11eに保持された洗浄治具31にガスGを噴射できるようになっている。
このため、嵌合孔31aの中心を通る回転円Cの半径をR、回転軸Oと噴射ノズル部13aとの距離をr(ただし、0<r<R)とすると、噴射ノズル部13aと嵌合孔31aとの間の距離は、R+rとなっている。
【0060】
本変形例によれば、ガス噴射機構13から噴射されるガスGは、回転円Cの略径方向に沿って進み、洗浄治具31に噴射される。そのため上記実施形態と同様にして、洗浄治具31に保持された棒状光学素子2Cの水分が除去される。
本変形例では、噴射ノズル部13aと嵌合孔31aとの距離が、R+rとなるので、洗浄治具に対する噴射口の距離を上記実施形態と同一距離とした場合に、回転枠11Aの方が側壁部11bの径を小さく設定することができる。
このため、水分除去部101Bをより小型化することが可能となる。
また、洗浄治具31に対向する位置に、ガス噴射機構13を配置するので、ガス噴射機構13の質量を、洗浄治具31と均衡させることにより、ガス噴射機構13にバランサの機能を兼備させることができる。そのため、部品点数を低減することができる。
【0061】
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
図11は、本発明の実施形態の第2変形例に係る水分除去部の構成を示す、図1におけるA−A断面図である。
【0062】
本変形例は、上記実施形態の洗浄装置100において、水分除去部100Bを、図10に示す水分除去部102Bに代えたものである。
水分除去部102Bは、上記実施形態の水分除去部100Bの回転枠11、ガス噴射機構13に代えて、回転枠11B、ガス噴射機構13Aを備える。
以下、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、以下では、洗浄治具として、上記に説明した洗浄治具1を配置した場合の例で説明するが、本変形例の洗浄治具が洗浄治具1に限定されるわけではなく、洗浄治具30、31を用いても同様の作用効果が得られる。
【0063】
回転枠11Bは、対をなす同一形状の洗浄治具保持部11eを、回転軸Oを挟んで対向する位置に設けることにより、回転軸Oを挟んで、同一形状の洗浄治具1を対向配置することができるようにしたものである。本変形例では、このような洗浄治具保持部11eを、異なる形状の洗浄治具1の対を複数配置することができるように、周方向の異なる位置に三対設けている。
【0064】
ガス噴射機構13Aは、回転枠11Bとともに回転し、対をなす洗浄治具保持部11eにそれぞれ保持された一対の洗浄治具1のそれぞれに向けて、回転枠11Bの回転円Cの径方向にガスを噴射するものであり、上記実施形態のガス噴射機構13において、噴射ノズル部13aの径方向の反対側に、もう一つの噴射ノズル部13aを設けてなるものである。
また、ガス噴射機構13Aの周方向の位置は、ガス噴射機構13と同様に、各洗浄治具保持部11eの位置に向けて、切り替えられるようになっている。
【0065】
本変形例によれば、一対の洗浄治具保持部11eに洗浄治具1がそれぞれ径方向に対向して配置され、ガス噴射機構13Aの噴射ノズル部13aから、それぞれに対して同時にガスGが噴射される。すなわち、水分除去部102Bによれば、2つの洗浄治具1に保持されたレンズ2から同時に水分を除去することができる。
また、同形状、同一種類の洗浄治具1が、回転枠11B内で、回転軸Oから同一距離の位置に回転軸Oを挟んで対向して配置されるので、洗浄治具1によって回転枠11Bのバランスがくずれることがないため、バランサ部材を省略することができ、部品点数を低減することができる。
【0066】
なお、上記の説明では、被洗浄体である光学素子が、レンズの場合の例で説明したが、光学素子は、レンズに限定されるものではなく、例えば、反射鏡、偏光フィルタ、プリズム等の他の光学素子であってもよい。
【0067】
また、上記の実施形態の説明では、バランサ17、17Aを用いて、アンバランス振動を低減する場合の例で説明したが、回転枠11の回転数が低い場合や洗浄治具1の質量が小さい場合など、アンバランス振動が許容範囲にある場合には、バランサ17、17Aを設けない構成としてもよい。
【0068】
また、上記の説明では、ガスを噴射させるとともに、回転枠を回転する場合の例で説明したが、ガスの噴射と回転枠の回転とが同時に行われる工程を含んでいれば、ガスの噴射と、回転枠の回転とは、いずれを先に開始してもよい。
【0069】
また、上記の説明では、ガス噴射機構が回転枠とともに回転する場合の例で説明したが、遠心力のみで水分を径方向に移動させることができる場合には、ガス噴射機構から噴射されるガス圧は、径方向以外の方向に作用させるのみでもよい。
例えば、ガス噴射機構を、静止系に固定して、回転枠の中心から径方向に沿ってガスを噴射する構成としてもよい。この場合、回転している光学素子から見ると、ガス流は、径方向に対して斜め方向の速度成分を有しているため、水分を遠心力と異なる方向に吹き飛ばす作用を備える。
静止系に固定したガス噴射機構は、周方向に複数の噴射ノズルを備えることが好ましい。
また、ガス噴射機構は、回転枠と異なる速度で回転したり、回転枠と異なる方向に回転させたりする構成としてもよい。この場合も上記と同様の作用を備えることができる。
【0070】
また、上記の説明では、回転枠11、11A、11Bは、それぞれ、有底円筒状の側壁部11bに吸引口11cが設けられた場合の例で説明したが、例えば、側壁部11bが、メッシュ状などのフレーム構造を有していてもよい。この場合、メッシュ状の開口が吸引口となる。
【0071】
また、上記の説明では、洗浄リンス部が、水分除去部の外部に設けられている場合の例で説明したが、洗浄リンス部は、水分除去部の内部側に収容されていてもよい。例えば、乾燥槽10の内部において、回転枠11の上側の空間に配置され、洗浄、リンス後の洗浄治具1を、乾燥槽10内において、下方側の回転枠11内に移動できるようにしてもよい。
【0072】
また、上記の説明では、水分除去部が、洗浄装置の一部を構成する場合の例で説明したが、上記に説明したすべての水分除去部の構成は、水分除去装置として、洗浄装置から独立した構成としてもよい。
【0073】
また、上記の説明では、UV光源を備えることで、光学素子へのゴミや有機物の付着を防止するようにしているが、洗浄装置100全体が、清浄な雰囲気にある場合や、ガスが十分清浄であり、ゴミや有機物の付着のおそれがない場合には、UV光源を省略することができる。
また、UV光源は、同様に、ゴミや有機物の付着を防止する効果のあるプラズマ発生装置に置き換えた構成としてもよい。
【0074】
また、上記の各実施形態に説明したすべての構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る洗浄装置の概略構成を示す模式的な断面構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いる洗浄治具および被洗浄体の一例を示す正面図、およびそのB−B断面図である。
【図3】図1におけるA−A断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る洗浄装置の水分除去部におけるガスの流れについて説明する模式図である。
【図5】光学素子に付着した水滴の水分除去工程前、および水分除去工程中の様子を示す模式断面図である。
【図6】他例の光学素子に付着した水滴の水分除去工程前、および水分除去工程中の様子を示す模式断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いることができる洗浄治具の一例の概略構成を示す模式的な斜視図、およびそのC−C断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る洗浄装置に用いることができる洗浄治具の他例の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図9】本発明の実施形態に係る洗浄装置の水分除去部に洗浄治具の他例を保持させた場合の図1におけるA−A断面図である。
【図10】本発明の実施形態の第1変形例に係る水分除去部の構成を示す、図1におけるA−A断面図である。
【図11】本発明の実施形態の第2変形例に係る水分除去部の構成を示す、図1におけるA−A断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1、30、31 洗浄治具
1b 板部
2 レンズ(光学素子)
2A 両凸レンズ(光学素子)
2B 平凹レンズ(光学素子)
2C 棒状光学素子(光学素子)
10c 排気口
11、11A、11B 回転枠
11b 側壁部
11c 吸引口
11e 洗浄治具保持部
11f バランサ保持部
13、13A ガス噴射機構
13a 噴射ノズル部
13d ヒータ
13f 濾過フィルタ
14 排気路
15 排気ポンプ
16 隙間
17、17A バランサ
20 水滴(水分)
100 洗浄装置
100A 洗浄リンス部
100B、101B、102B 水分除去部
C 回転円
O 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄体である光学素子を洗浄治具に保持して洗浄液によって洗浄し、水を含むリンス液でリンスするする洗浄リンス部と、該洗浄リンス部で前記光学素子に付着した水分を除去する水分除去部とを有する洗浄装置であって、
前記水分除去部は、
前記光学素子を保持した洗浄治具を収容して、該洗浄治具を回転させる回転枠と、
該回転枠に固定して設けられ、前記洗浄治具を、該洗浄治具に保持された前記光学素子の厚さ方向が前記回転枠の回転円の径方向に略直交する方向に向くように保持する洗浄治具保持部と、
該洗浄治具保持部に向けてガスを噴射するガス噴射機構とを備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記ガス噴射機構は、前記回転枠とともに回転し、前記回転枠の回転円の径方向に沿って、前記洗浄治具保持部に向けて前記回転円の径方向にガスを噴射することを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記回転枠は、
前記ガス噴射機構の噴射口に対して対向する位置に、前記ガスを前記回転円の径方向外側に向けて排気する吸引口を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記ガス噴射機構は、
前記ガスを加熱して噴射することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記ガスの温度は、
前記光学素子上で、60℃以上90℃以下に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記ガス噴射機構は、
前記回転枠の回転中心位置に設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記回転枠は、
前記洗浄治具保持部に対する径方向の対向位置にバランサを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−248060(P2009−248060A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102720(P2008−102720)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】