説明

津波情報提供方法および津波情報提供システム

【課題】津波を検知した場合、迅速に且つ段階的に最適な津波警戒情報を提供し得る方法を提供する。
【解決手段】沖合海面計測器21により計測された海面変位データを津波解析センター23に送り、ここで波の周波数成分を抽出し、この抽出された周波数成分における波の高さが所定の閾値を超えたときに津波であると判断し、周波数成分の90度位相における波高から津波の大きさを予測し、これら判断および予測時点で、津波の発生および津波の大きさを津波情報として出力するようになし、さらに90度位相までの到達時間から津波の周期を予測し、この予測周期を津波情報として出力するようになし、そして上記出力された津波情報をデータ配信センター4を介して避難対象地域の自治体6などに提供するもので、住民に、迅速に且つ段階的に最適な津波警戒情報を発することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面の変位を計測して得られた津波情報を防災用として該当地域に提供し得る津波情報提供方法および津波情報提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、海面の変位量から津波成分を抽出して津波を検知する装置として、GPS受信器をブイに搭載して津波を検知するGPS津波計が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
そして、このGPS津波計については、高精度計測技術が適用可能な沿岸からできるだけ遠方の海域に設置しておき、津波をできるだけ早い時点で検知して、住民を安全に避難させ得るように考慮されている。
【特許文献1】特開2001−147263
【特許文献2】特開2001−281323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、津波を検知する目的は、沿岸地域への避難勧告などの津波警戒情報を発し、住民を安全に避難させることにあるが、津波が検知された場合、住民に、どの時期に且つどのような津波警戒情報を発信すべきかの具体的な提案がなされていない。
【0005】
そこで、本発明は、津波を検知した場合、迅速に且つ段階的に最適な津波警戒情報を提供し得る津波情報提供方法および津波情報提供システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る津波情報提供方法は、
沖合いに設置された沖合海面計測器により計測された海面変位データから波の周波数成分を抽出するステップと、
この抽出された周波数成分における波の高さの絶対値が所定の閾値を超えたときに津波であると認識する第1認識ステップと、
上記周波数成分の90度位相における波高データから津波の大きさを認識する第2認識ステップとを具備し、
且つ上記第1および第2認識ステップの各認識時点にて、津波の発生および津波の大きさを津波情報として出力する方法である。
【0007】
また、請求項2に係る津波情報提供方法は、請求項1に記載の津波情報提供方法の第2認識ステップにおいて、
0度から90度位相までの到達時間を認識するとともに、当該到達時間に基づき津波の周期を予測し、
この津波の予測周期を津波情報として出力する方法である。
【0008】
また、請求項3に係る津波情報提供方法は、請求項2に記載の津波情報提供方法において、
0度から360度位相までの到達時間を認識する第3認識ステップを具備し、
且つ当該第3認識ステップの認識時点にて、その到達時間である津波の実測周期を津波情報として出力する方法である。
【0009】
また、請求項4に係る津波情報提供方法は、請求項2に記載の津波情報提供方法の第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
且つこの海面変位量予測ステップによる予測時点にて、その予測高さを津波情報として出力する方法である。
【0010】
また、請求項5に係る津波情報提供方法は、請求項2に記載の津波情報提供方法の第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での最大海面変位量である津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
さらに0度から360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出するとともに、上記選択された応答関数以外にこの実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更し、
且つ海岸線付近に設置された海岸線海面計測器で得られた津波の実測高さと上記海面変位量予測ステップで得られた予測高さとを比較し、この比較結果に基づき上記選択された応答関数を補正する方法である。
【0011】
また、請求項6に係る津波情報提供方法は、請求項2に記載の津波情報提供方法の第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での最大海面変位量である津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
さらに0度から360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出するとともに、上記選択された応答関数以外にこの実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更し、
且つ海岸線と沖合海面計測器との中間位置に設置された中間海面計測器にて得られた津波の実測高さと上記海面変位量予測ステップで得られた予測高さとを比較し、この比較結果に基づき上記選択された応答関数を補正する方法である。
【0012】
さらに、本発明の請求項7に係る津波情報提供システムは、
沖合海面計測器および海岸線海面計測器からの海面変位データを入力して津波を解析するための津波解析センターと、この津波解析センターで得られた津波情報を受け取り情報活用機関などに配信するためのデータ配信センターとが具備され、
上記津波解析センターに、
上記海面変位データから波の周波数成分を抽出する周波数成分抽出部と、
この周波数成分抽出部で抽出された波の高さと予め設定された閾値とを比較するとともに、波の高さが閾値を超えている場合に、津波を検知した旨の津波情報を出力する波高比較部と、
この波高比較部で津波と判断された場合にその周波数成分を入力して90度位相値を検出し、その波高の絶対値から津波の大きさを求めるとともに0〜90度位相までの到達時間を検出して津波の予測周期を求めるための1/4周期検出部と、
この1/4周期検出部で検出された予測周期を入力して予め沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じて設けられて海底地形から波高を求めるための応答関数を選択する応答関数選択部と、
この応答関数選択部で選択された応答関数に基づき当該津波による海岸線での最大海面変位量を求めて津波の高さを予測するとともにこの予測高さを津波情報として出力する海面変位量予測部と、
上記周波数成分からさらに0〜360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出する津波周期検出部とが具備されたものである。
【0013】
また、請求項8に係る津波情報提供システムは、請求項7に記載の津波情報提供システムの津波解析センターに、
津波周期検出部で検出された実測周期と1/4周期検出部で求められた予測周期とを入力して選択された応答関数以外に上記実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更の指示を出力する応答関数変更指示部と、
海面変位量予測部で得られた津波の予測高さと海岸線海面計測器で得られた津波の実測高さとを入力して両者を比較するとともにこの比較結果に応じて応答関数を補正する応答関数補正部とが、
さらに具備されたものである。
【発明の効果】
【0014】
上記請求項1の構成によると、第1認識ステップにより津波発生の情報をいち早く防災機関などの津波情報活用機関に提供し得るので、住民を早期に避難させることができる。また、第2認識ステップにより、90度位相における早い時期に、津波の大きさを予測することができるので、津波情報活用機関は、ハザードマップを参照して、どの程度の避難を行えばよいかなどの目安を早期に得ることができる。すなわち、津波の情報活用機関などから、住民に、迅速且つ段階的に適切な津波警戒情報を発することができる。
【0015】
また、請求項2の構成によると、第2認識ステップにおける90度位相までの到達時間にて津波周期を予測するようにしているので、全体周期(1周期分)を計測する場合よりも、迅速に、津波の海岸線への到達時刻を求めて、精度が良い津波情報を提供することができる。
【0016】
また、請求項4の構成によると、海底地形に応じて波高を求め得る応答関数を用いて海岸線での津波の高さを予測するとともに、この予測高さを津波情報として出力するようにしたので、防災機関などの津波情報活用機関ではハザードマップと照らし合わせてさらに具体的な避難指示を行うための情報を得ることができる。
【0017】
また、請求項5の構成によると、予測周期に応じて用いた応答関数を、実測周期に基づき最適な応答関数に変更するようにしたので、次に到来する津波の予測精度を向上させることができるとともに、海岸線海面計測器にて求められた津波の実測高さに基づき応答関数を補正するようにしたので、応答関数の学習により、津波の高さの予測精度の向上を図ることができる。
【0018】
また、請求項6の構成によると、海岸線での波高を用いると波形が崩れがちであるが、中間海面計測器により計測された海岸線と沖合との中間位置における綺麗な波形の高さを用いて応答関数を補正するようにしたので、応答関数による津波の大きさの予測精度の一層の向上を図ることができる。
【0019】
さらに、請求項7および請求項8の構成によると、沖合いに設置された沖合海面計測器から海面変位データの周波数成分の高さから迅速に津波の発生を検知するとともに、90度位相における波の高さおよびその到達時間により、津波の大きさおよび全体周期を予測し、これらの津波情報をデータ配信センターを介して防災機関などの津波情報活用機関に提供するようにしたので、住民に、迅速且つ段階的に適切な津波警戒情報を発することができる。
【0020】
また、予測周期に基づき応答関数を用いて海岸線での津波の高さを予測するようにしているので、より、精度の良い津波警戒情報を提供することができる。
しかも、津波の実測周期に基づき応答関数を適正なものに変更するとともに、海岸線海面計測器または中間海面計測器で計測された津波の高さに基づき応答関数を補正するようにしているので、次に到来する津波の高さを精度良く予測して、防災機関などの津波情報活用機関に提供することができ、したがって精度の良い津波警戒情報を住民に発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る津波情報提供方法および津波情報提供システムを、図面に基づき説明する。
【0022】
まず、津波情報提供システムの全体構成について説明する。
この津波情報提供システムは、図1に示すように、沖合いの海面変位から津波の発生を検知するための津波計測システム1と、海岸に設置されて波の高さ(海面)を計測してこの津波計測システム1による津波の検知精度の向上を図るための海岸線海面計測器(オンサイト観測機器ともいう)2と、さらには沿岸における海象情報(波浪情報(波高、波向)も含む)を得るとともにこれらを津波計測システム1に供給してやはり津波の検知精度の向上に利用される波浪海象解析システム3と、これら各システム1,3により得られた情報を、情報活用機関である公的防災機関、例えば気象庁5、自治体6に、またはインターネットの公開用ホームページ(正確には、公開用サーバである)7に配信するためのデータ配信センター4とから構成されている。勿論、少なくもと、自治体6からは、これらの情報に基づき、住民に津波発生による避難勧告、避難指示などの各種の津波警戒情報が発せられる。
【0023】
以下、津波情報提供システムについて説明するが、まず、波浪情報を提供する波浪海象解析システム3について説明し、次に、海岸線海面計測器2および本発明の要旨となる津波計測システム1について説明する。
【0024】
上記波浪海象解析システム3は、潮位、波高、波向などを計測する海象計、波浪高さを計測する波高計などの沿岸観測機器11と、この沿岸観測機器11で計測された計測データを陸上の基地局12を介して受け取り、所定の解析を行う波浪海象解析センター(波浪海象解析装置とも言える)13とから構成されている。
【0025】
上記海岸線海面計測器2としては、海岸線近傍のうち岸壁前面の波を計測し得る海底設置型の超音波式海面変位計や水圧計、または空中から海面に向けて設置された空中発射型超音波式潮位計、海岸線近傍のうち岸壁を乗り越えた波(越波)を計測する越波計(上下に配した複数の電極に電源が接続され、波が触れることにより流れる電気を検出して高さを計測するもの)が用いられる。また、海岸線近傍のうち主要港湾に設けられた検潮所には、井戸内のフロートの上下変動を記録するフース型検潮器が設置されており、この計測データを用いることもできる。これらの計測データ、すなわち実際に海岸線近傍に到達した波の高さデータ(時系列のデータ)が、上記津波計測システム1と波浪海象解析システム3とに渡されて、各システムでの解析精度の向上が図られる。
【0026】
次に、上記津波計測システム1は、海岸線から比較的遠い沖合い(例えば、海岸から50km以遠の海域)に設置された沖合海面計測器21と、この沖合海面計測器21で計測された海面変位データを陸上の基地局22を介して受け取り、所定の解析を行う津波解析センター(津波解析装置とも言える)23とから構成されている(この津波解析センターについては、その設置場所はどこにあってもよく、例えば基地局、データ配信センターなどに設置してもよい)。
【0027】
上記沖合海面計測器21としては、例えばGPS津波計が用いられる。
このGPS津波計は、図2に示すように、所定海域の沖合いに係留されたブイ(浮体)21aと、このブイ21aに搭載されたGPS受信機21bと、このGPS受信機21bにて受信された時系列の計測データを陸上の基地局22に送信するための無線通信装置21cとから構成されている。このGPS津波計での計測データは、三次元座標位置データであるが、ここで、このデータからその時々の平均海面に対する海面変位量が求められて、この海面変位データが基地局22に送信される。なお、三次元座標位置データを基地局22に送信し、この基地局22で海面変位量を求めるようにしてもよい。
【0028】
また、上記津波解析センター23には、図3に示すように、基地局22から送信された海面変位データ(以下、計測データという)を受信するデータ受信部(例えば、無線通信装置、データのバッファ部などからなる)31と、このデータ受信部31にて受信された計測データを入力して津波の周波数成分を取り出すデータ解析部32と、このデータ解析部32で取り出された周波数成分(例えば、波形データ)を入力して所定の津波情報、すなわち段階的な津波情報をデータ配信センター4に出力する津波情報出力部(データの送信形態に応じた出力機器が用いられる)33とが具備されている。
【0029】
そして、上記データ解析部32は、図4に示すように、計測データから津波の周波数成分を抽出する周波数成分抽出部41と、この抽出された周波数成分データから平均海面(例えば、津波1周期程度のデータの移動平均値)に対する海面変位量が求められ、この海面変位量の高さの絶対値(波の高さデータ)と津波かどうかの判断を行うために予め設定された閾値と比較する波高比較部42と、この波高比較部42で閾値を超えて津波と判断された場合にその周波数成分の時系列高さデータを入力して90度位相値を検出し、最大振幅値である極値(極大値または極小値)での海面変位量の絶対値[図5の(a)に示すように押し波の場合には波の頂上、(b)に示すように引き波の場合には波の谷底の位置を示す]から津波の大きさ(規模)を求めるとともに0〜90度位相まで(1/4周期分)の到達時間を検出し4倍して津波の全体周期(1周期)を予測して予測周期を得るための1/4周期検出部43と、この1/4周期検出部43で求められた予測周期を入力して予め計測に係る沖合海面計測器21の設置位置に応じて且つ複数の津波周期および到来方向ごとに応じて設けられている応答関数を選択する(具体的には、予測周期と到来方向に最も近い津波周期に係る応答関数がデータベースの中から選択される)応答関数選択部44と、この応答関数選択部44で選択された応答関数と上記90度位相における上記海面変位量に基づき当該津波による海岸線での最大海面変位量、つまり津波高さを予測する海面変位量予測部45と、上記周波数成分からさらに0〜360度位相まで(1周期)の到達時間すなわち津波の実測周期を検出する津波周期検出部(1周期検出部とも言える)46と、この津波周期検出部46で検出された津波の実測周期および上記1/4周期検出部43で求められた予測周期を入力して比較するとともにこの比較結果に基づき現在選択されている応答関数が適正であるか否かが判断され、そして現在の応答関数よりも実測周期に近い津波周期の応答関数が存在すると判断された場合には、この応答関数に変更する指示を出力する応答関数変更指示部47と、上記海面変位量予測部45で予測された予測津波高さと海岸線海面計測器2からの計測データを入力して両者を比較するとともにこの比較結果に基づき応答関数そのものを補正するための、所謂、学習機能を有する応答関数補正部48とから構成されている。なお、津波と判断された後の平均海面に対する海面変位量(波の高さ)を津波高さと呼ぶものとし、この応答関数補正部48にて補正を行う場合には、例えば予測地点における予測津波高さに対する実測津波高さ(例えば予測地点としての海岸線海面計測器2の計測データから求めたもの)の比が、予め設定された閾値と比較されて、閾値以上の場合に、応答関数に上記比が乗算され、当該応答関数が補正される。
【0030】
そして、上記波高比較部42から津波情報出力部33を介して津波が発生した旨の津波情報(第1報)がデータ配信センター4に出力され、また1/4周期検出部43から津波情報出力部33を介して津波の大きさおよびその予測周期並びに応答関数に基づく津波の予測高さが津波情報(第2報)としてデータ配信センター4に出力され、さらに津波周期検出部46から津波情報出力部33を介して津波の実測周期が津波情報(第3報)としてデータ配信センター4に出力される。
【0031】
ところで、上記波高比較部42における所定の閾値としては、例えば下記のような値が採用される。
津波を計測するための沖合海面計測器の設置場所での深さ(以下、水深という)が10mの場合には偏差65cmが閾値とされ、水深が20mの場合には偏差55cmが閾値とされ、水深が50mの場合には偏差45cmが閾値とされ、水深が100mの場合には偏差35cmが閾値とされ、水深が200mの場合には偏差30cmが閾値とされる。
【0032】
また、応答関数とは、ある2点間の一方の津波高さの入力により、他方の津波高さを求めるための係数であり、津波は海底の形状の影響を受けることから、津波の到来方向と津波の周期の影響も受ける。このため、事前に用意される応答関数は、津波の到来方向および津波周期別にシミュレーションして求められる。
【0033】
ここでは、応答関数の2点間とは、沖合海面計測器21と海岸線海面計測器2の設置地点であり、例えば沖合海面計測器21に対応する応答関数をfとすれば、この沖合海面計測器21における海面高さを代入することにより、海岸線海面計測2での海面高さを予測することができる。例えば、両海面計測器21,2の途中に中間海面計測器を設置し、この中間海面計測器の海岸線海面計測器2に対する応答関数をfとし、また沖合海面計測器21の中間海面計測器に対する応答関数をfとし、さらに各海面計測器が一直線上に存在すると仮定すれば、f=f×fの関係が成立する。
【0034】
次に、上記津波情報提供システムにおける津波情報の提供方法を概略的に説明する。
すなわち、基地局22を介して沖合海面計測器21からの計測データ(海面変位データである)が津波解析センター23に入力されている状態で、例えば津波が到来した場合、この計測データから周波数成分抽出部41で周波数成分が抽出される(周波数成分抽出ステップ)。
【0035】
この周波数成分抽出部41で抽出された周波数成分は波高比較部42に入力され、ここで、海面変位量と沖合海面計測器21の設置場所での水深に応じた閾値とが比較され、閾値を超えている場合には津波であると判断(認識)されて(第1認識ステップ)、津波が発生した旨が第1報としてデータ配信センター4に出力される。
【0036】
そして、このデータ配信センター4から、気象庁5、自治体6、公開用ホームページ7などにその津波情報が配信され、それぞれの関係部所から例えばハザードマップに応じた津波警戒情報が住民に発せられる。
【0037】
次に、周波数成分が1/4周期検出部43に入力され、ここで、90度位相における海面変位量の波形の極値の絶対値(最大振幅値)から津波の大きさが検出(認識)されるとともに、0〜90度位相までの到達時間と90度位相における津波高さが検出(認識)され、そしてこの到達時間が4倍されることにより津波の予測周期が求められる。
【0038】
次に、この予測周期が応答関数選択部44に入力されて、ここで、当該沖合海面計測器21が設置された海域に応じて且つ複数の津波周期と到来方向に応じてそれぞれ準備されている海底地形から他点の波高を求めるための複数の応答関数の中から最適な応答関数が選択される。具体的には、予測周期に最も近い津波周期の応答関数が選択され、さらに到来方向が最も近いものが選択されるが、到来方向が不明な段階では他点での津波高さを最も高く予測する応答関数が選択される。
【0039】
そして、上記応答関数選択部44で選択された応答関数が海面変位量予測部45に入力されて、ここで、応答関数と上記90度位相における沖合海面計測位置での津波高さから、応答関数による予測地点(他点)である海岸線に津波が到達した場合の最大海面変位量、すなわち津波の高さが精度良く予測される(第2認識ステップ)。
【0040】
この第2認識ステップで求められた沖合海面計測位置での津波の大きさ、津波の予測周期および海岸線での津波の予測高さが、第2報として、データ配信センター4を介して、気象庁5、自治体6、公開用ホームページ7に配信される。
【0041】
勿論、第2報においても、それが配信された時点に応じて、各関係部所から住民に、避難などの最も適切な津波警戒情報が発せられる。
次に、90度位相値が検出された後、津波周期検出部46に周波数成分が入力されて、ここで、0〜360度位相までの到達時間である津波の実測周期が検出される(第3認識ステップ)。
【0042】
そして、この実測周期と上記予測周期とが応答関数変更指示部47に入力されて、現在用いられている応答関数の津波周期よりも実測周期により近い津波周期を有する応答関数がそのデータベースに存在するか否かが判断され、存在する場合には、その応答関数を用いるように変更指示が応答関数選択部44に出力される。勿論、到来方向も既に分かっていれば、到来方向により適切に選択される(応答関数選択ステップ)。
【0043】
また、上記津波周期検出部46で検出された津波の実測周期に基づき変更した応答関数から求めた海岸線での津波の予測高さが求められると(第3認識ステップ)、この実測周期と予測高さ(第2報での津波の予測高さに対する修正値として)が第3報としてデータ配信センター4を介して、気象庁5、自治体6、公開用ホームページ7に配信される。なお、第3報では、津波の予測高さを配信せずに実測周期だけを配信するようにして、この実測周期に基づき変更した応答関数を、次に到来する津波から用いるようにしてもよい。
【0044】
さらに、上記津波の予測大きさおよび海岸線海面計測器2にて実測された津波の高さが応答関数補正部48に入力され、ここで、両者の比が求められるとともに、この比と予め設定されている閾値とが比較され、閾値以上である場合には、応答関数に上記比が乗算されて補正が行われる(応答関数補正ステップ)。
【0045】
なお、応答関数が変更または補正された場合には、次に到来する津波による海岸線での津波高さの検知に適用される。
上述した津波情報提供システムおよび津波情報提供方法によると、閾値に基づく第1報により、津波の大きさは分からないが、津波の発生をいち早く検知してデータ公開センターを介して、気象庁、自治体などに配信するようにしているので、これら情報活用機関は、住民に対する避難勧告などの津波警戒情報を早期に提供することができる。これにより、住民を安全に避難させることができる。
【0046】
また、第2報では、90度位相値による津波の予測大きさを配信することができるため、避難勧告などを発する自治体は、この予測大きさに基づき、自治区域のハザードマップなどを用いて、どの程度の避難にすべきかの判断を容易に行うことができる。
【0047】
すなわち、自治体などから、住民に、迅速且つ段階的に適切な津波警戒情報を発することができる。
詳しく説明すると、沖合海面計測器での計測データに基づき沿岸での津波の高さを精度良く予測する場合には、応答関数を用いるのが望ましいが、この応答関数は津波周期により異なり、津波を1周期分計測しようとすると津波が沿岸に近づいてしまい、迅速に、津波警戒情報を発することができなくなる場合が生じる。
【0048】
そのため、90度位相である1/4周期の時間に基づき1周期分を予測するとともに、この予測周期に基づき適切な応答関数を選択し、そしてこの応答関数に90度位相における波の高さを入力して海岸線での高さを予測するようにしたので、迅速に且つ適切な津波警戒情報を発することができる。
【0049】
特に、津波の第1波よりも第2波、第3波の規模のほうが大きいと言われており、第1波に対する警報が迅速に且つ適切に発せられれば、第2波や第3波の津波に対しても、より、効果的に対処することができる。
【0050】
また、90度位相(1/4周期分)における波の高さを用いて津波の大きさを予測しているため、1周期分の計測に比べて正確さは劣るが、応答関数を用いることにより、できるだけ予測が正確になるように考慮されている。
【0051】
また、応答関数はデータベースとして準備されているが、実際に適正なものか否かが分からないため、適正でないと判断された場合には、応答関数そのものを補正(学習)するようにしている。したがって、第2波以降の津波の海岸線への到達時刻および津波の高さなどを予測する場合にその精度が向上するため、津波警戒情報を、より適正なものにすることができる。
【0052】
上記システムを簡単に説明すれば、第1報により、津波と判断される高さの波が到来していることが分かるとともに、第2報により、津波の山部または谷部が通過したことおよびその1/4周期の時間が分かるため、津波の大きさおよび第2波、第3波など続けて来る次の津波の到来時刻を予測することができ、また応答関数を用いることにより、他点での津波の高さを予測することができる。さらに、第3報により、津波の実測周期が分かるので、必要であれば、応答関数を補正して他点での津波の高さの予測精度を高めることができる。
【0053】
ところで、上記実施の形態においては、沖合海面計測器として、GPS津波計を用いたが、例えば海底設置型の超音波式変位計測器などが用いることもできる。この超音波式変位計測器からの計測データを用いる場合には、既に、日本で構築されているナウファス(全国港湾海洋波浪情報網:NOWPHAS:Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS)の構成機器として設置されている計測器を用いるとともに、公開用ネットワークを介してその計測データを受け取ることもできる。
【0054】
このナウファスは、沿岸浅海域(水深50m程度まで)における海底設置式波浪計ネットワークとして構築され、断続的に、海象計測、波高計測として波浪の方向スペクトル観測や沖合での潮位観測を行っているものである。また、海底に設置される波浪計は圧力センサ(水圧計)または超音波センサが用いられており、この超音波センサとしては、ドップラー効果を利用したものが知られている。
【0055】
なお、海底設置型の超音式変位計測器は、海底に設置したセンサから超音波を海面に向けて発射し、反射波を受信して海面の変動を計測するものであり、陸上とは海底ケーブルを介してのデータ伝送または海水を媒介しての音波通信によるデータ伝送が行われるものである。
【0056】
なお、このナウファスは、上述した波浪海象解析システムとデータ配信センターとを一体化した機能を、その一部として有するものである。
また、沖合海面計測器として、GPS津波計を用いる代わりに、上述したナウファスで設置されている海底設置型超音波式変位計測器からの計測データを利用して津波を検知することもできる。
【0057】
また、応答関数の補正は、上述したように、設定した2点間の計測データの比で行うが、各計測器は複数あるため、できるだけ、2点を結ぶ線分が、到来方向に近い計測器同士で比較するのが望ましい。例えば、図1の破線で示すように、海岸線と沖合海面計測器との間の沿岸近傍(例えば、海岸線から50kmまでの間の中間部)に設置された中間海面計測器51により計測された波の高さを用いるようにしてもよい。この場合、まず、中間海面計測器51に対応する沖合海面計測器21の応答関数fを用いて、中間海面計測器51での波高を求め、次に海岸線海面計測器2に対応する中間海面計測器51の応答関数fを用いて海岸線海面計測器2での波高が求められ、最終的には、f=f×fの関係から、すなわちfとfとの値から海岸線での津波高さが求められる。
【0058】
このように中間海面計測器51による波の高さを用いることにより、海岸線まで津波が到達すると波が崩れて応答関数の補正が難しくなるが、海岸線から離れると波形も綺麗になるため、補正のための比較が容易となる。
【0059】
なお、この中間海面計測器51としては、上述した海底設置型超音波式海面変位計またはGPS津波計測器を用いてもよく、また、図1の一点鎖線にて示すように、この海底設置型超音波式海面変位計については、ナウファスで設置されているもの(沿岸観測機器11)を利用してもよい。したがって、応答関数を補正する際のデータとしては、海岸線海面計測器2以外に、沿岸観測機器11または中間海面計測器51での計測データを用いることができる。
【0060】
また、上述の説明において、津波の到来方向は、各計測器11,21,51の設置位置が既知であることから、別途、求められた震源地から求めるようにしてもよく、また波向を計測可能な計測器11,51にて求められた波向を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る津波情報提供システムの概略構成を示す図である。
【図2】同システムにおける沖合海面計測器の概略構成を示す図である。
【図3】同システムにおける津波解析センターの概略構成を示すブロック図である。
【図4】同津波解析センターの構成を示すブロック図である。
【図5】同システムでの波高の検出箇所を説明する波形図で、(a)は押し波の場合を示し、(b)は引き波の場合を示す。
【符号の説明】
【0062】
1 津波計測システム
2 海岸線海面計測器
3 波浪海象解析システム
4 データ配信センター
5 気象庁
6 自治体
7 公開用ホームページ
11 沿岸観測機器
13 波浪海象解析センター
21 沖合海面計測器
23 津波解析センター
31 データ受信部
32 データ解析部
33 津波情報出力部
41 周波数成分抽出部
42 波高比較部
43 1/4周期検出部
44 応答関数選択部
45 海面変位量予測部
46 津波周期検出部
47 応答関数変更指示部
48 応答関数補正部
51 中間海面計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沖合いに設置された沖合海面計測器により計測された海面変位データから波の周波数成分を抽出するステップと、
この抽出された周波数成分における波の高さの絶対値が所定の閾値を超えたときに津波であると認識する第1認識ステップと、
上記周波数成分の90度位相における波高データから津波の大きさを認識する第2認識ステップとを具備し、
且つ上記第1および第2認識ステップの各認識時点にて、津波の発生および津波の大きさを津波情報として出力することを特徴とする津波情報提供方法。
【請求項2】
第2認識ステップにおいて、0度から90度位相までの到達時間を認識するとともに、当該到達時間に基づき津波の周期を予測し、
この津波の予測周期を津波情報として出力することを特徴とする請求項1に記載の津波情報提供方法。
【請求項3】
0度から360度位相までの到達時間を認識する第3認識ステップを具備し、
且つ当該第3認識ステップの認識時点にて、その到達時間である津波の実測周期を津波情報として出力することを特徴とする請求項2に記載の津波情報提供方法。
【請求項4】
第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
且つこの海面変位量予測ステップによる予測時点にて、その予測高さを津波情報として出力することを特徴とする請求項2に記載の津波情報提供方法。
【請求項5】
第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での最大海面変位量である津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
さらに0度から360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出するとともに、上記選択された応答関数以外にこの実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更し、
且つ海岸線付近に設置された海岸線海面計測器で得られた津波の実測高さと上記海面変位量予測ステップで得られた予測高さとを比較し、この比較結果に基づき上記選択された応答関数を補正することを特徴とする請求項2に記載の津波情報提供方法。
【請求項6】
第2認識ステップで求められた津波の予測周期に基づき、計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じてそれぞれ準備されている海底地形から波高を求めるための応答関数の中から最適な応答関数を選択するとともに、この選択された応答関数を用いて海岸線での最大海面変位量である津波の高さを予測する海面変位量予測ステップを具備し、
さらに0度から360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出するとともに、上記選択された応答関数以外にこの実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更し、
且つ海岸線と沖合海面計測器との中間位置に設置された中間海面計測器にて得られた津波の実測高さと上記海面変位量予測ステップで得られた予測高さとを比較し、この比較結果に基づき上記選択された応答関数を補正することを特徴とする請求項2に記載の津波情報提供方法。
【請求項7】
沖合海面計測器および海岸線海面計測器からの海面変位データを入力して津波を解析するための津波解析センターと、この津波解析センターで得られた津波情報を受け取り情報活用機関などに配信するためのデータ配信センターとが具備され、
上記津波解析センターに、
上記海面変位データから波の周波数成分を抽出する周波数成分抽出部と、この周波数成分抽出部で抽出された波の高さと予め設定された閾値とを比較するとともに、波の高さが閾値を超えている場合に、津波を検知した旨の津波情報を出力する波高比較部と、
この波高比較部で津波と判断された場合にその周波数成分を入力して90度位相値を検出し、その波高の絶対値から津波の大きさを求めるとともに0〜90度位相までの到達時間を検出して津波の予測周期を求めるための1/4周期検出部と、
この1/4周期検出部で検出された予測周期を入力して予め計測に係る沖合海面計測器の設置位置に応じて且つ複数の津波周期に応じて設けられて海底地形から波高を求めるための応答関数を選択する応答関数選択部と、
この応答関数選択部で選択された応答関数に基づき当該津波による海岸線での最大海面変位量を求めて津波の高さを予測するとともにこの予測高さを津波情報として出力する海面変位量予測部と、
上記周波数成分からさらに0〜360度位相までの到達時間である津波の実測周期を検出する津波周期検出部とが具備されたことを特徴とする津波情報提供システム。
【請求項8】
津波解析センターに、
津波周期検出部で検出された実測周期と1/4周期検出部で求められた予測周期とを入力して選択された応答関数以外に上記実測周期に近い津波周期の応答関数が存在する場合には当該応答関数に変更の指示を出力する応答関数変更指示部と、
海面変位量予測部で得られた津波の予測高さと海岸線海面計測器で得られた津波の実測高さとを入力して両者を比較するとともにこの比較結果に応じて応答関数を補正する応答関数補正部とが、
さらに具備されたことを特徴とする請求項7に記載の津波情報提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−18291(P2007−18291A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199489(P2005−199489)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(595138052)財団法人沿岸技術研究センター (6)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】