説明

活性なKITチロシンキナーゼ受容体のモジュレーターを同定する方法

本発明は、肥満細胞症および種々のタイプの癌のような、肥満細胞関連障害に関連する、活性化された突然変異体KITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤のようなモジュレーターにつきスクリーニングするのに有用な細胞ベースのアッセイに関する。本発明は、さらに、該スクリーニング方法によって同定された阻害剤での肥満細胞関連障害の治療を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化された突然変異体KITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤につきスクリーニングするのに有用な細胞ベースのアッセイに関する。突然変異したKIT受容体は肥満細胞症、および多数のタイプの癌のような肥満細胞関連障害に関与する。本発明では、さらに、該スクリーニング方法によって同定された阻害剤での肥満細胞関連障害の治療が考えられる。
【背景技術】
【0002】
KITチロシンキナーゼ受容体は、造血系統、例えば、骨髄細胞、肥満細胞およびT細胞の細胞で主として見出されるタイプIII膜貫通受容体であるが、メラノサイト、精巣、血管内皮細胞、カハル間質細胞、神経膠星状細胞、腎臓細管、乳房上皮細胞、および汗腺の細胞においても検出できる(Ashman,L.,Int.J Biochem.Cell.Bio.31:1037−51,1999)。KIT受容体は肥満細胞の成長および生存を調節するにおいて鍵となる分子である(Longley,Jr.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:1609−1614,1999)。KIT受容体は5つの免疫グロブリンドメインを含有する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および分裂キナーゼドメインを含有する細胞内領域を含む。キナーゼドメインの1つの葉はATP結合ドメインとして作用し、他のものはキナーゼ活性化ループを含むホスホトランスフェラーゼドメインとして機能する。
【0003】
細胞外ドメインを介するKITとそのリガンド、幹細胞因子(SCF)(スチール、肥満細胞増殖因子、またはKITリガンドとしても知られる)との相互作用の結果、受容体は二量体化される。KIT−ダイマーは、該ダイマー内のトランスリン酸化のため細胞内領域における特異的チロシン残基において自動リン酸化する。KITリン酸化は受容体を活性化し、細胞増殖を含む種々の生理学的プロセスに関与する下流シグナリング事象のカスケードをトリガーする(Longley et al.,前記)。
【0004】
不規則なKIT活性化は、自然発生的および家族性肥満細胞症双方の発症に関係付けられてきた。肥満細胞症は皮膚(例えば、色素性蕁麻疹)、骨髄、胃腸管、リンパ節、肝臓および脾臓を通じて予測可能なパターンで分布した肥満細胞の過剰な増殖によって特徴付けられる(Brockow et al.,Curr.Opin.Allergy Clin.Immunol.1:449−54,2001)。肥満細胞症は家族性または散在性いずれかとして分類され、後者はさらに皮下または全身いずれかにサブ分類される。全身肥満細胞症はなおさらに無痛性(慢性)肥満細胞症および攻撃的肥満細胞症に分類される。関連した血液障害(AHD)を有する肥満細胞症のタイプも出現している(Brockow et al.,前記)。小児肥満細胞症の多くの症例は、構成的に活性化されたKIT受容体に関連する。肥満細胞症に関連する白血病は肥満細胞白血病を含む。
【0005】
肥満細胞症の大部分および関連障害はKIT受容体における自然発生体細胞突然変異によって引き起こされ、増大した肥満細胞増殖を誘導する構成的にリン酸化された活性な受容体を生じる(Brockow,前記)。今日同定された活性化された受容体をもたらすいくつかのKIT突然変異は、特に、KITキナーゼ活性化ループにおいてキナーゼドメインに位置する。活性化突然変異は、SCFによる刺激なしで受容体の二量体化を誘導し、サイトカイン分泌のような、異常な細胞増殖および他の細胞活性を引き起こす。
【0006】
現在、肥満細胞症に対して治癒はなく、候補療法はほとんど存在しない。これらの療法に対する有意な欠点は治療によって標的化された細胞における多くの細胞チロシンキナーゼの非特異的阻害である。例えば、肥満細胞症を治療するための2つの有望なキナーゼ阻害剤療法は、血小板由来成長因子受容体(PDGF−R)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、またはBcr/Abl突然変異のような他のキナーゼを阻害するのに元来は用いられた。これらの潜在的治療剤は全ての形態の肥満細胞症を治療するにおいて効果的でないことが判明した。
【0007】
インドリノン由来キナーゼ阻害剤での突然変異体KIT受容体を有する肥満細胞の従前の治療は部分的にしか成功しないことが判明した(Ma et al.,J.Invest Dermatol.114:392−4,2000)。インドリノンの大部分はSCF活性化野生型KIT受容体を阻害するが、全ての膜近接および活性化ループ突然変異のリン酸化を阻害しない(Ma et al.,前記)。5つの化合物のうち3つはC2イヌ肥満細胞における膜近接突然変異、すなわち、KITにおける挿入突然変異を阻害し、他方、SU6577、PDGF−RおよびVEGF−R阻害剤のみは、KITD814V活性化ループ突然変異を発現するP815ネズミ肥満細胞においてチロシンリン酸化を減少した。この結果は、各KIT突然変異がユニークであって、1つのKIT阻害剤が普遍的に効果的でないことを示す。
【0008】
いくつかの因子が、高スループットスクリーニングおよび高含有量アッセイにおいてKIT受容体の潜在的阻害剤を同定するにおいて困難性に寄与している。例えば、KIT受容体活性化を分析するインビトロでの試験管ベースのアッセイは、種々の生化学的方法を用いてKIT受容体リン酸化を測定するのに十分な量の精製されたタンパク質を必要とする。精製されたタンパク質を得るためには、KIT受容体は細菌、酵母または哺乳動物細胞のような組換えシステムで発現されなければならず、発現されたタンパク質は引き続いてのこれらの源から精製される。
【0009】
これらの組換えシステムで発現されたほとんどの突然変異体KIT受容体は宿主細胞に対して毒性であり、アッセイを行うのに十分な量で生産できない。加えて、酵母または細菌において生産されたKIT受容体は、恐らくは、正常なタンパク質機能を行うための適切な翻訳後修飾の欠如のため典型的には不活性である。
【0010】
細胞ベースのアッセイは、キナーゼ活性を測定する会社によってゆっくりと開発されつつある。ホスホ特異的抗体は、ホスホ−MAPKまたはホスホ−HER2キナーゼ(Cell Signaling Technology,Beverly,MA)およびホスホ−KIT(pY823,Biosource,Inc.)のような特異的標的タンパク質リン酸化を検出するために生産されつつある。Biosource,Inc.は、最近、KITのリン酸化チロシン823残基に対する抗体を開発した。しかしながら、この抗体はウェスタンブロットおよびインビトロキナーゼアッセイのみにおいて有用であり、KIT受容体活性の細胞ベースのアッセイでは有用でないと記載されている。
【0011】
細胞ベースのアッセイが少数の細胞シグナリングタンパク質の活性を検出するために開発されているが、これらの分析は細胞質から核へのシグナリングタンパク質のトランスローケーション(Cellomics,Inc.,Pittsburgh,PA)、タンパク質活性化の認識可能な変化に頼っている。タンパク質リン酸化による活性化は、例えば、高度に感受性の分子特異的アッセイによって提供される識別利点なしで複雑な細胞バックグラウンドにおいて検出するのが困難であり得る微妙な変化を含む。
【0012】
チロシンリン酸化を評価する細胞ベースのアッセイは開発するのが特に困難である。チロシンリン酸化は多数のシグナリングカスケードにおける普通の下流事象であるので、単一の標的タンパク質のリン酸化状態の評価はバックグラウンドリン酸化の検出によって混同される。さらに、細胞内アッセイは、浸透プロセスに由来するある程度の細胞死滅または細胞溶解のため非特異的シグナルを増大させる細胞の浸透を必要とする。KIT受容体活性化を検出するための細胞ベースのアッセイの開発はこれらの困難によって妨げられてきた。
【0013】
現在の細胞ベースのアッセイは細胞増殖の点においてキナーゼ活性を間接的に測定する。例えば、KIT受容体活性を評価するのに用いるアッセイは、細胞増殖の点でSCF刺激野生型受容体の活性化/阻害を記載した(Heinrich et al.,Blood 96:925−32,2000)。このタイプのアッセイは、増殖に対する種々のさらなる細胞の影響によって危うくされる測定の信頼性でもって、受容体自体の現実の活性を測定せず、細胞活性化を非特異的に測定するに過ぎない。
【0014】
従って、KITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤についての高スループットスクリーニングに適したアッセイを開発し、肥満細胞障害の治療のための新しい改良された治療剤を開発する必要性が当分野に存在する。さらに、高健康コストに集合的に寄与する、ヒトを含む全ての動物に影響する種々の肥満細胞障害を予防し診断するための方法に対する要望が当分野で存在する。
【発明の開示】
【0015】
本発明は、候補化合物をスクリーニングし、肥満細胞障害の発症に関連付けられている、活性化されたKITチロシンキナーゼ受容体の、阻害剤のようなモジュレーターを同定する方法を提供することによって、肥満細胞障害の治療および調節に関連する分野における前記した要望の少なくとも1つに取り組む。本発明は、肥満細胞症、肥満細胞白血病、急性骨髄性白血病および慢性骨髄性白血病のような肥満細胞障害の治療で有用である、構成的に活性なKIT受容体を含むKIT受容体の阻害剤の同定のための感受性のあるアッセイを提供する。さらに、本発明は、KITチロシンキナーゼ受容体活性に対する阻害剤の効果を直接的に評価するためのコスト的に有利な細胞ベースのアッセイを提供することによって、伝統的なアッセイよりも優れた利点を提供する。
【0016】
本発明は、(a)活性なKITチロシンキナーゼ受容体を含む細胞を、候補阻害剤と接触させ;次いで、(b)ホスホチロシン特異的抗体を用いることによってKIT活性を検出して、阻害剤の存在下および非存在下においてKITチロシンリン酸化の量を決定することを含み、その非存在下におけるKITチロシンリン酸化と比較した候補阻害剤の存在下でのKITチロシンリン酸化の減少はKIT阻害剤として候補阻害剤を同定することを含む、活性なKITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤につきスクリーニングする方法を提供する。
【0017】
1つの実施形態において、活性なKIT受容体はそのリガンドとの接触によって活性化される。もう1つの実施形態において、KITチロシンキナーゼ受容体は構成的に活性である。本明細書中で用いるように、「構成的に活性な」とは、KIT受容体における突然変異の結果として、受容体がリガンド刺激の非存在下でリン酸化されることを意味する。ある実施形態において、構成的に活性なKITチロシンキナーゼ受容体が受容体のチロシンキナーゼドメインにおいて突然変異を有する。チロシンキナーゼドメインにおける突然変異はKIT受容体の第一または第二のキナーゼドメインのいずれかにある。突然変異が第一のキナーゼドメインにある場合、それはエクソン13突然変異および置換突然変異K642Eからなる群より選択される。1つの実施形態において、KIT受容体のチロシンキナーゼドメインにおける突然変異がKITチロシンキナーゼドメインの活性化ループにある。1つの実施形態において、活性化ループドメイン突然変異は配列番号2の残基816における突然変異、特に、D816V、D816H、D816F、D816N、およびD816Y、配列番号2における置換突然変異D820G、および配列番号2における置換突然変異V825Aからなる群より選択される。1つの実施形態において、置換突然変異は残基816におけるバリン置換を含む。
【0018】
もう1つの実施形態において、構成的に活性なKITチロシンキナーゼ受容体は膜近接ドメインに突然変異を有する。膜近接ドメイン突然変異は配列番号2のエクソン11における突然変異、配列番号2のアミノ酸550〜558の欠失(ΔK550〜558)、および残基560におけるバリンに代えてのグリシン置換(V560G)からなる群より選択される。他の実施形態において、構成的に活性なKIT受容体は細胞外ドメインに突然変異を含む。1つの実施形態において、細胞外ドメイン突然変異はエクソン9における突然変異および配列番号2における置換突然変異AY502−503からなる群より選択される。
【0019】
いくつかの実施形態は、配列番号2、4および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むKITチロシンキナーゼ受容体を含む。1つの特別な実施形態において、KITチロシンキナーゼ受容体が配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含む。
【0020】
1つの実施形態において、接触工程は、適当な緩衝液中で細胞と共に候補阻害剤をインキュベートすることによって行われる。いくつかの実施形態において、該方法では、接触工程を行い、そこでは、活性なKITチロシンキナーゼ受容体を含む細胞を固体支持体に結合するかまたは該受容体は溶液中で遊離している。1つの実施形態において、KIT受容体を含む細胞を固体支持体に結合する。固体支持体は組織培養目的および顕微鏡での使用に適当なプラスチックまたはガラスプレートであると考えられる。また、固体支持体はプラスチックまたはガラス皿、カバーグラス、透明な底部マイクロタイタープレート、および丸底マイクロタイタープレートからなる群より選択される。関連する実施形態において、活性なKIT受容体を含む細胞は溶液中で遊離している。溶液は、本明細書中に記載のように細胞を培養し、または細胞を染色するのに適したいずれかの緩衝化溶液であってよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、該方法では、活性なKIT受容体を含む細胞が固体支持体に結合されるか、または溶液中で遊離している場合、KIT活性化およびリン酸化を検出することに加えて分析を行う。これらの分析は、候補阻害剤の存在下および非存在下において、細胞形態、細胞骨格再編成、または細胞の核染色を検出するようなアッセイを含む。細胞形態、細胞骨格再編成または核染色は、蛍光顕微鏡またはフローサイトメトリーのような蛍光技術を用いて行われると考えられる。さらに、細胞形態、細胞骨格再編成または核染色についての検出は、明視野染色またはヘマトキシリン/エオシン染色のようなコントラスト顕微鏡を用いて行われると考えられる。
【0022】
また、本発明は、ホスホチロシン特異的抗体を用いるKIT受容体の活性の検出を提供する。ホスホチロシン特異的抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単一鎖抗体、および抗体断片からなる群より選択されると考えられる。1つの実施形態において、抗体はポリクローナル抗体である。もう1つの実施形態において、ホスホチロシン特異的抗体はpY823である。関連する実施形態において、ホスホチロシン特異的抗体はKITチロシンキナーゼ受容体の自動リン酸化部位に結合する。
【0023】
さらに、ホスホチロシン特異的抗体は検出可能に標識されると考えられる。いくつかの実施形態において、検出可能な標識はフルオロフォア、結合パートナー対の一部、または放射性標識である。用いることが考えられるフルオロフォアは、抗体へのコンジュゲーションに適し、かつ当分野で周知の方法を用いて検出可能ないずれのフルオロフォアまたは発色標識も含む。例えば、フルオロフォアはフルオロイソチオシアネート、フィコエリスリン、APC、PerCP、AlexaFluor分子、Cy3、Cy5、テキサスレッドおよびファロイジンであってよい。もう1つの実施形態において、検出可能な標識は結合パートナー対の半分を含む。本発明は、結合パートナー対はビオチン/ストレプトアビジン、Hisペプチドタグ/抗His−タグ抗体、ビオチン/抗ビオチン分子、およびフルオロフォア/抗フルオロフォア分子からなる群より選択され、第二の結合パートナーはホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、または他の適当な酵素/基質対のような酵素/基質標識を通じて検出可能な標識を含むと考えられる。第二の結合パートナーは後に記載する放射性標識にコンジュゲートされるとさらに考えられる。さらなる実施形態において、ホスホチロシン抗体は放射性標識を含み、放射性標識はトリチウム化チミジン(H)、ユーロピウム3+(Eu)、および32Pからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、検出工程はフローサイトメトリーによる検出を含む。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、活性なKITチロシンキナーゼ受容体は異種ベクターから発現される。1つの実施形態において、活性なKIT受容体は本明細書中に記載される遺伝子工学を用いて生産される。配列番号1のKIT受容体ポリヌクレオチドは、置換突然変異、欠失突然変異、または挿入突然変異を含むように操作することができ、その結果、構成的に活性であって、引き続いて適当な異種発現ベクターに挿入されるKIT受容体が得られる。異種ベクターを含有する組換えKIT受容体は適当な宿主細胞にトランスフェクトされると考えられ、そこでは、トランスフェクトされた宿主細胞は組換えKIT受容体ポリペプチドを発現する。
【0025】
いくつかの実施形態において、活性なKITチロシンキナーゼ受容体は細胞にとって内因性である。1つの特別な実施形態において、内因的に活性なKIT受容体を発現する細胞は株化細胞であり、該株化細胞はヒト肥満細胞株(例えば、TF−1およびHMC−1、他の種からの肥満細胞株(例えば、P815、FMA3、RBL−2H3、およびC2)、c−Kit発現細胞株(例えば、NCI−H187、NCI−H378、およびNCI−H526)、および生殖細胞腫瘍/セミノーマ細胞株からなる群より選択される。もう1つの実施形態において、活性なKIT受容体を含む細胞は腫瘍から単離され、腫瘍は肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫、生殖細胞腫瘍、胃腸間質腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、洞鼻リンパ腫、卵巣腫瘍、乳房腫瘍、小肺細胞癌腫、神経芽細胞腫、およびメラノーマからなる群より選択される。
【0026】
本発明は、さらに、活性なKITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤につきスクリーニングするためのキットを提供し、該キットはホスホチロシン抗体、および阻害剤についてのスクリーニングを行うための指示書を含む。
【0027】
また、本発明の方法によって同定される阻害剤も提供される。本発明は、本発明の方法によって同定された阻害剤、および医薬上許容される希釈剤、アジュバントまたは担体を含む医薬組成物を提供すると考えられる。許容される希釈剤および担体、および医薬組成物を処方する方法は本明細書中に記載される。
【0028】
また、本発明は、本発明のスクリーニング方法において同定された阻害剤の医薬上許容される用量を投与することを含み、肥満細胞症、肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫、生殖細胞腫瘍、胃腸間質腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、洞鼻リンパ腫、卵巣腫瘍、乳房腫瘍、小肺細胞癌腫、神経芽細胞腫、およびメラノーマからなる群より選択される疾患を治療する方法を提供する。
【0029】
好ましくは、KIT受容体の阻害剤は哺乳動物対象に投与され、より好ましくは、哺乳動物対象はヒトである。本発明では、治療すべき疾患は突然変異体KIT受容体を発現する細胞の異常な成長または増殖によって特徴付けられると考えられる。1つの実施形態において、細胞は肥満細胞である。阻害剤の投与は、便宜には、例えば、それを修正し、またはその重症度を低下させ、またはその有害な兆候または効果を低下させることによって、異常な成長または増殖を改変する。
【0030】
例えば、1つの変形において、動物は癌、特に、異常な肥満細胞増殖に由来する癌性腫瘍を有する。活性化されたKIT受容体の阻害剤は、それが肥満細胞の成長、移動、または増殖を減少させ、それにより、腫瘍の成長を遅らせることを予期して同定される。本発明によって同定された阻害剤は化学療法剤と組み合わせて投与して、腫瘍の緩解をさらに加速し、異常に増殖する肥満細胞を減少させると考えられる。例示的な化学療法剤は5−FU、ゲムシタビン、シタラビン、メトトレキセート、ヒドロキシ尿素、および6−チオグアニンのような抗代謝産物;DNA−損傷剤;サイトカイン;白金含有錯体のような共有結合DNA結合薬物;カンプトテシン、イリノテカン、トポテカンおよびエトポシドのようなトポイソメラーゼ阻害剤;ドキソルビシン、アクチノマイシン−C、ダウノルビシン、およびグレオマイシンのような抗腫瘍抗生物質;分化剤;アルキル化剤;メチル化剤;ナイトロジェンマスタード;および所望により放射線増感剤および/または光増感剤と組み合わせてもよい放射線源または他の通常に用いられる治療剤を含む。
【0031】
当分野で公知のいずれの投与経路および計画も本発明に従う治療方法で用いることができる。阻害剤の投与は医師によって決定され、治療すべき対象の体重のような、当分野で知られた1以上の変数に基づくことができ、典型的には、実施者に頼る。例えば、与えられた阻害剤の量は療法を投与すべき個体のサイズに従って変化し(mg阻害剤/kg体重ベース)、約50mg/kg日、75mg/kg日、100mg/kg日、150mg/kg日、200mg/kg日、250mg/kg日、500mg/kg日、または1000mg/kg日の範囲とすることができる。
【0032】
また、本発明では、(a)肥満細胞傷害を持つ患者から細胞を単離し、該細胞は活性なKITチロシンキナーゼ受容体を含み;(b)前記したように同定されたKIT阻害剤と該細胞とを接触させ;(c)ホスホチロシン特異的抗体を用いて細胞におけるKIT活性を検出して、阻害剤の存在下および非存在下でKITチロシンリン酸化の量を決定し;次いで、(d)患者においてKIT活性を特異的に阻害するKIT阻害剤の投与を含む患者についての治療計画を設計することを含む、肥満細胞障害を持つ患者のための治療計画を設計する方法が考えられる。
【0033】
1つの態様において、治療計画は、患者によって呈される特定の肥満細胞障害または疾患を標的化するように設計される。肥満細胞障害は先に記載したものから選択される。1つの実施形態において、該方法は肥満細胞障害を有する患者においてより大きな程度のKIT受容体不活化を呈する肥満細胞阻害剤を決定することを含み、該決定は患者から単離された細胞のKIT受容体阻害に基づく。1つの実施形態において、細胞はヒトまたは動物からの流体または組織試料から単離される。そのような試料は当分野で周知の方法によって得られる。例示的な生物学的流体試料は血液、脳脊髄液、尿、および唾液を含む。例示的な組織試料は正常な組織試料、腫瘍、およびそのバイオプシーを含む。患者から単離された細胞は前記したスクリーニング方法を用いて分析されると考えられる。そこでは、細胞を阻害剤と接触させ、前記したホスホチロシン抗体を用いてKIT受容体活性化をモニターする。
【0034】
さらに、一旦患者の特異的肥満細胞障害の阻害剤である阻害剤が同定されれば、治療計画が設計され、そこでは、同定された阻害剤が治療すべき患者に投与されると考えられる。1つの実施形態において、阻害剤は、肥満細胞障害を阻害するのに効果的な量で医薬上許容される担体中で投与される。関連する実施形態において、阻害剤は他の化学治療剤と組み合わせて投与されて、患者において相乗効果を提供し、腫瘍緩解を加速し、あるいは肥満細胞増殖を減少させる。
【0035】
本発明の多数のさらなる態様および利点は、その現在好ましい実施形態を記載する本発明の以下の詳細な記載を考慮すると、当業者に明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、活性化されたKITチロシンリン酸化を特異的に検出する感受性細胞ベースのアッセイを提供することによって当分野における要望に取り組む。本発明は、実質量の精製されたインビトロ活性タンパク質を必要としないコスト的に有利なアッセイを提供する。本発明は、さらに、肥満細胞症、および肥満細胞白血病のような肥満細胞障害、急性骨髄性白血病、および慢性骨髄性白血病の治療で有用なKIT受容体の阻害剤を同定するための感度のよいアッセイを提供する。
【0037】
本発明は、KITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤につきスクリーニングする区別性のある感度のよい方法を提供する。該方法は、候補阻害剤の存在下および非存在下で受容体の細胞内活性化およびチロシンリン酸化を検出するための細胞ベースのアッセイの使用を含む。本発明は、細胞増殖または細胞死滅の測定のような、候補阻害剤に対する非特異的応答を単に検出するよりはむしろKITタンパク質に対する阻害剤の直接的効果を評価するための手段を提供する。細胞ベースのアッセイは、標準的なインビトロ試験管アッセイに必要な量と比べてKIT受容体の低下した量での機能発揮の利点を提供する。さらに、細胞ベースのアッセイはKIT受容体を精製するコストがかかり、面倒であって時間を消費するプロセスを必要としない。KIT受容体活性化の阻害剤を検出することは、慢性肥満細胞症、攻撃的肥満細胞症、全身肥満細胞症、皮下肥満細胞症、散在性肥満細胞症、家族性肥満細胞症、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄単球性白血病、および肥満細胞の異常な成長または増殖によって特徴付けられるいずれかの他の障害のような障害の治療のための新しい治療剤の開発を可能とする。
【0038】
本発明のより徹底的な理解を容易とするために、以下の用語定義を提供する。
【0039】
「活性な」または「活性化されたKIT」は、チロシンリン酸化を呈する二量体化された形態のKITチロシンキナーゼ受容体である。KIT受容体はそのリガンドSCFでの刺激を通じて活性化することができるか、あるいはそれは突然変異の結果として構成的に活性であり得る。
【0040】
本明細書中で用いる「突然変異体KIT」は、アミノ酸の欠失、挿入または置換によって野生型KITとは配列が異なり、構成的に活性な表現型を呈するKIT受容体である。突然変異はKIT受容体の細胞外ドメインまたは細胞内ドメインにおけるものであってよい。
【0041】
「活性なKITを含む細胞」はいずれかの細胞株、またはその発現が天然で起こるか(すなわち、天然で見出すことが期待される条件の少なくとも1つの組下の天然発現)、あるいは全部または部分的に遺伝子工学より作成されたかにかかわらず、野生型または突然変異体KITを発現する対象から単離された細胞である。
【0042】
「候補阻害剤」は、少なくとも1つのKIT受容体の活性化を阻害することができ、そのリガンドを通じてKIT受容体活性化を阻害する、または構成的に活性なKIT受容体を阻害する化合物の能力を評価するための本発明の方法に付すことができる化合物または分子である。
【0043】
「ホスホ特異的抗体」は、リン酸化タンパク質のようなリン酸化化合物に特異的に結合する抗体である。ホスホ特異的抗体は、リン酸化セリン、スレオニンもしくはチロシンを含む結合部位を特異的に認識することができる。本明細書中で用いられるホスホ特異的抗体への言及は、典型的には、文脈上用語の用法から明らかなように、ホスホチロシン特異的抗体をいう。
【0044】
「自動リン酸化」は、もう1つの分子による直接的参画なしで、それ自体の酵素活性を用いるプロテインキナーゼへのホスフェートの添加である。KIT受容体の自動リン酸化は、リガンドを通じての刺激によって、またはKIT受容体における突然変異のため引き起こされ得る。
【0045】
「細胞形態、細胞骨格再編成、または核染色の検出」とは、候補阻害剤の存在下および非存在下における、i)細胞膜一体性および細胞の形状;ii)細胞骨格組成、繊維組み立て、および形状、およびiii)核における核DNAの組成のモニタリング、好ましくは、各々、アポトーシスまたは増殖細胞核における変化を見ることを意味する。
【0046】
「異種ベクター」は、コードされたタンパク質の精製または検出につき十分なレベルで宿主細胞で天然で発現される、または発現されない核酸またはタンパク質を発現するのに用いられるベクターである。本発明で有用な特別なベクターは詳細に議論する。
【0047】
「内因性」は、核酸またはタンパク質が、対象から単離された細胞株または細胞いずれかであり得る宿主細胞において天然に発現されることを意味する。
【0048】
用語「選択性」とは、阻害剤を記載するのに本明細書で用いる場合には、もう1つのタンパク質の活性またはタンパク質−タンパク質相互作用に対して最小効果にて、1つのタンパク質の活性(例えば、KITリン酸化)を阻害するKIT阻害剤の能力をいう。
【0049】
用語「ハイブリッドハイブリドーマ」は、2つのB細胞ハイブリドーマの生産的融合を記載するのに用いる。
【0050】
用語「実質的に同様な」とは、その正味の効果が参照および主題の配列の間で有害な機能的非同様性をもたらさない、1以上の置換、欠失または付加によって参照配列から変化するヌクレオチドまたはアミノ酸配列を共に、例えば、突然変異体配列をいう。変異は1つのヌクレオチドまたはアミノ酸、5つまでのヌクレオチドまたはアミノ酸、10までのヌクレオチドまたはアミノ酸、20までのヌクレオチドまたはアミノ酸、50までのヌクレオチドまたはアミノ酸、または150までのヌクレオチドまたはアミノ酸であり得る。
【0051】
A.肥満細胞障害およびKIT受容体突然変異
ヒトKIT受容体(Genbankアクセッション番号NM 000222)は、残基1〜22からのシグナルペプチド、ほぼ残基43〜112、残基224〜297および残基320〜410からの免疫グロブリン様領域、およびアミノ酸589〜694およびアミノ酸771〜924からの分裂チロシンキナーゼドメインを含む976アミノ酸(配列番号2)のタンパク質である。第一の葉(残基589〜694)はATP結合ドメインを含み、他方、第二の葉はホスホトランスフェラーゼドメインと定義され、キナーゼ活性化ループを含む(Feger et al.,Int.,Arch.Allergy Immunol.127:110−14,2−2002)。KITタンパク質のエクソン11は、受容体活性において重要である膜近接ドメインといわれる重要な領域であり、重要な領域これは適当な受容体二量体化を調節するように抗二量体化ドメインとして機能する。KIT受容体ホモログはマウス(Genbankアクセッション番号NM 021099;配列番号3および4)およびラット(Genbankアクセッション番号NM 022264;配列番号5および6)を含むほとんどの他の哺乳動物種に存在する。
【0052】
KIT受容体とそのリガンドとの相互作用は肥満細胞の増殖および分化を駆動する(Feger et al.,前記)。受容体の機能不全を引き起こすKIT受容体における突然変異は、しばしば、肥満細胞症または関連する肥満細胞の障害をもたらす。肥満細胞症の開始に関連するKIT突然変異の大部分は、膜近接ドメインにおいて、またはキナーゼドメインのいずれかにおいて自然発生的に生起する体細胞突然変異である。例えば、共に膜近接ドメインにおける、残基560におけるグリシンに代えてのバリン置換(V560G)、または残基550のリシンで始まる9つのアミノ酸残基の欠失(ΔK550−558)は胃腸間質腫瘍と関連付けられている。膜近接ドメインにおける突然変異もまた洞鼻ナチュラルキラー/T細胞リンパ腫を持つ患者で同定されている(Heinrich et al.,J.Clin.Oncol.20:1692−1703,2002。「調節突然変異」と命名される膜近接ドメインにおける突然変異はこのKIT受容体領域の調節(例えば、(阻害)機能を破壊し、その結果、KIT受容体がリン酸化される(Longley et al.,Leukemia Res.25:571−76、2001)。KIT阻害剤グリベック(Novartis AG ,Parsippany,NJ)は、膜近接ドメインにおいて突然変異を呈する構成的に活性なKIT突然変異体を阻害することが示されている(Frost et al.,Mol.Cancer Ther.1:1115−24,2002)。
【0053】
キナーゼドメインにおける突然変異は肥満細胞症および白血病と関連付けられる。KIT受容体チロシンキナーゼドメインにおける、より具体的には、キナーゼ活性化ループにおける残基816に位置する置換突然変異は、成人散在性肥満細胞症の症例の大部分に関連付けられてきた。肥満細胞症関連突然変異はバリン(D816V)、フェニルアラニン(D816F)およびチロシン(B816Y)で置換された野生型アスパラギン酸(D816)を含む。816におけるヒスチジン置換(D816H)はセミノーマのような生殖細胞腫瘍を持つ患者で同定されている。アスパラギン酸に代えてのアスパラギンの置換(D816N)は洞鼻腫瘍を持つ患者で検出された。加えて、KIT受容体突然変異D816YおよびD816VはAMLを持つ患者で見出されている。同様な突然変異は残基814におけるマウスKIT受容体において(D814Y)、および残基817におけるラットKIT受容体(D817Y)において見出される(Feger et al.,前記)。これらの類似の突然変異は全て活性化ループドメインに存在し、これらの突然変異によって誘導されたリガンド−独立性リン酸化のため「活性化突然変異」と呼ばれる。他の活性化突然変異は胃腸間質腫瘍(GIST)において見出されたK642E、細胞外エクソン9および細胞内エクソン17における突然変異、およびD820Gにおける潜在的突然変異を含む(Heinrich et al.,J.Clin.Oncol.20:1692−1703.2002)。
【0054】
肥満細胞症に対するいくつかの具体的な治療、例えば、ガストロクロムが存在するが、肥満細胞症に対する治療計画は、典型的には、他の増殖性障害で用いられる非特異的治療計画(例えば、ヒスタミン受容体ブロッカー、クロスタグランジンブロッカー、ステロイド(重症の症例))を使用し、その結果、不完全な治療、または肥満細胞症の進んだ形態では効果的ではない治療がもたらされる。例えば、IFN−α2bおよび免疫抑制剤プレドニゾロンで治療した患者は不完全な腫瘍切除を示した(Brockow et al.,前記)。肥満細胞症患者は、IFN−α2b治療よりも改良された効果を呈するプリンヌクレオシドクラドリブリンで治療することができる。KIT活性を特異的に阻害する化合物が考えられており、インビトロで試みられているが、肥満細胞症を特異的に治療する成功した方法は開発されていない。従って、KITチロシンキナーゼ阻害剤によって肥満細胞症の治療で有用な化合物を同定するアッセイを提供する要望が当分野で依然として存在する。
【0055】
B.本発明の方法で用いられるポリヌクレオチド
本発明の方法で用いられるポリヌクレオチドはDNA(ゲノミック、相補的、増幅されたまたは合成)およびRNA、ならびに天然に生じるポリヌクレオチドから化学的に区別されつつ、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるKIT受容体ポリペプチドと同様な方法で発現させることができるKIT受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドミメティックスを含む。本発明で用いられるポリヌクレオチドは、限定されるものではないが、配列番号1に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるKIT受容体ポリペプチド(配列番号2)をコードする精製され単離されたポリヌクレオチド、またはその断片を含む。種々の態様において、本発明は、KIT受容体をコードする配列番号1に記載された配列、またはその変種を含むポリヌクレオチドの使用を提供する。本発明で有用なポリヌクレオチドは、限定されるものではないが、ストリンジェントな条件下で(a)配列番号1の補体、(b)配列番号2からなる群から選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(c)本発明のポリヌクレオチドによってコードされるKIT受容体と実質的に同様なポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(d)KIT受容体の少なくとも1つの生物学的活性を保有する変種ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および(e)前記ポリペプチドいずれかのホモログをコードするポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするポリペプチドコード領域を含むポリヌクレオチドを含み、該ポリペプチドはKIT受容体活性を保有する。
【0056】
本明細書中で用いる用語「ストリンジェント」とは、核酸ハイブリダイゼーションの物理化学的条件(例えば、温度、塩(pH)の厳しさ)の程度をいう。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は65℃における0.1×SSC/0.1%SDSにおける最終洗浄、または当分野で知られているような同等な条件を含む。例えば、Sambrook,et al.,in Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版,Cold Spring Harbor、New York(1989)参照。中程度のストリンジェントな条件は42℃における0.2×SSC/0.1%SDSにおける最終洗浄、または同等な条件を含む。KIT受容体をコードするオリゴヌクレオチド、またはそのようなKIT受容体をコードするポリヌクレオチドを特異的に同定するのに用いることができるプローブのハイブリダイゼーションの場合には、例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は(14塩基オリゴヌクレオチドについての)37℃における、(17塩基オリゴヌクレオチドについての)48℃における、(20塩基オリゴヌクレオチドについての)55℃における、および(23塩基オリゴヌクレオチドについての)60℃における6×SSC/0.05%ピロリン酸ナトリウム中での洗浄を含む。本発明の方法で有用な核酸の範囲内には、全長KIT受容体をコードするポリヌクレオチドの断片を含む核酸、およびストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列のいずれかのそのようなポリヌクレオチドまたはその断片、またはその相補体に特異的にハイブリダイズする核酸が含まれ、そのような断片および核酸は、好ましくは、KIT受容体の少なくとも1つの生物学的活性を保有するペプチドをコードする。断片および核酸は、好ましくは、約10ヌクレオチドよりも大、より好ましくは17ヌクレオチドよりも大である。本発明のポリヌクレオチドのいずれか1つにつき選択的(すなわち、それに対して特異的にハイブリダイズする)な約15、約17、または約20ヌクレオチド以上の断片が考えられる。
【0057】
本発明によるポリヌクレオチドは、生物学的活性を保有する(例えば、KIT受容体の免疫学的、触媒的および/または各活性を呈するペプチドをコードする)と本明細書中に明示的に記載された配列を含むポリヌクレオチドに対して、例えば、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%または89%、好ましくは少なくとも約90%、91%、92%、93%または94%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、99.5%または99.9%配列同一性を有するものを含む。
【0058】
本発明で用いることが考えられる「変種」ポリヌクレオチドは天然に生じるポリヌクレオチドならびに化学的に改変されたポリヌクレオチドを含む。本発明の天然に生じるポリヌクレオチド変種は(i)天然に、例えば、関連哺乳動物種で見出される、(ii)本明細書中に記載された化学的同様性を介して本発明のポリヌクレオチドに関連する、および(iii)少なくとも1つのKIT受容体活性を呈するポリペプチドをコードするものである。例示的な変種ポリヌクレオチドは配列番号3および配列番号5に記載されたポリヌクレオチドを含む。このタイプの変種、その他は、前記したハイブリダイゼーションおよびプローブ技術を用いて同定される。
【0059】
化学的に改変された、または合成ポリヌクレオチド配列変種は、天然で見出されるものであり、このタイプの変種は当分野で公知の方法によって調製することができる。例えば、ヌクレオチドの変化を天然に生じるポリヌクレオチドに導入して、コードされたポリペプチド配列の変化をなすことができる。アミノ酸配列変種の構築で考えられる少なくとも2つの変数がある−突然変異の位置および突然変異の性質。これらの核酸の改変は、異なる種からの(可変位置)または高度に保存された領域における(定常領域)核酸と異なる部位においてなすことができる。そのような位置における部位は、典型的には、例えば、まず保存的選択で置換し(例えば、非同一疎水性アミノ酸に代えて置換された疎水性アミノ酸)、次いで、より類似しない選択で置換(例えば、荷電アミノ酸に代えて置換された疎水性アミノ酸)することによって一連に修飾され、次いで、欠失または挿入を標的部位でなすことができる。
【0060】
「保存的」アミノ酸置換は関連する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいてなすことができる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸はアラニン(Ala,A)、ロイシン(Leu,L)、イソロイシン(Ile,I)、バリン(Val,V)、プロリン(Pro,P)、フェニルアラニン(Phe,F)、トリプトファン(Trp,W)、およびメチオニン(Met,M)を含み;極性中性アミノ酸はグリシン(Gly,G)、セリン(Ser,S)、スレオニン(Thr,T)、システイン(Cys,C)、チロシン(Tyr,Y)、アスパラギン(Asl,N)、およびグルタミン(Gln,Q)を含み;正に荷電した(塩基性)アミノ酸はアルギニン(Arg,R)、リシン(Lys,K)、およびヒスチジン(His,H)を含み;および負に荷電した(酸性)アミノ酸はアスパラギン酸(Asp,D)およびグルタミン酸(Glu,E)を含む。「挿入」または「欠失」は、好ましくは、約1〜20アミノ酸、より好ましくは1〜10アミノ酸の範囲である。許容される変動は、当業者に周知のルーチン的方法によって実験的に決定することができる。
【0061】
遺伝子コードの固有の縮重のため、他のDNA配列は同一のアミノ酸配列をコードすることができ、これらの他の(すなわち、縮重)配列のいずれかを含む核酸は本発明に含まれる。これらの「縮重変種」は、ヌクレオチド配列によって本発明の核酸断片とは異なるが、遺伝子暗号の縮重のため、同一のポリペプチド配列をコードする。種々の制限部位を生じるサイレント変化のような種々のコドン置換を導入して特定の原核生物または真核生物系におけるプラスミドまたはウイルスベクターまたは発現へのクローニングを最適化することができる。そのような核酸は、ストリンジェントな条件、好ましくは、高度にストリンジェントな条件下で本明細書中に記載された核酸にハイブリダイズすることができるものを含む。
【0062】
したがって、用語「変種」(または「アナログ」)とは、アミノ酸の挿入、欠失、および置換によって天然に生じるポリペプチドとは異なるいずれのポリペプチドもいう。これらの変種またはアナログは、例えば、組換えDNA技術を用いて構築することができる。注目する活性をなくすることなくアミノ酸残基を置き換え、加え、または欠失することができる決定のガイダンスは、特定のポリペプチドの配列を相同なペプチドのそれと比較し、高い相同性の領域(保存された領域)でなされたアミノ酸配列の変化の数を最小化することによって、あるいは当分野で認められた共通配列により近くに与えられた配列をシフトさせるようにして保存された領域にてアミノ酸に置き換えることによって見出すことができる。変種は、部位特異的突然変異誘発を含む当分野で知られたいずれかの方法を用いて生じさせることができる。
【0063】
本発明で有用なポリヌクレオチドは、加えて、前記したポリヌクレオチドのいずれかの相補体を含む。このタイプの相補的配列は本明細書中に記載された関連配列の同定、ならびにそれから本発明の合成変種を調製することができる鋳型ポリヌクレオチドとして働くことにおいて特に有用である。例えば、そのような合成変種は、最適化された標準条件下でポリメラーゼ鎖反応(PCR)を用いて作ることができる。
【0064】
本発明は、さらに、KIT受容体および異種アミノ酸配列の融合を含む、タンパク質をコードする「キメラポリヌクレオチド」の使用を提供し、キメラポリヌクレオチドはKIT受容体の少なくとも1つの生物学的活性を保有するポリペプチドをコードする。本明細書中で用いるように「異種」ポリヌクレオチドは、第二のタンパク質コーディング配列に、本明細書中に記載された、またはそうでなければ当分野で公知の技術を介して適切なリーディングフレームにて(「インフレーム」)連結されたポリペプチドコード領域を含み、第一の異種ポリペプチドコード領域は性質が第二のポリペプチドコーディング配列に天然では関連しない(隣接)しない。特に考えられるのは、本発明の第二のポリヌクレオチドに操作可能に連結されたポリペプチドをコードする先に記載された第一の異種ポリヌクレオチドを含むキメラポリヌクレオチド(および該ポリヌクレオチドによってコードされた「キメラポリペプチド」)である。キメラポリヌクレオチド内では、用語「操作可能に連結した」は、異種ポリヌクレオチドおよびKIT受容体ポリヌクレオチドが、発現されたポリペプチドが双方のコードされた配列を含むように相互にインフレームにて結合することを示すことを意図する。
【0065】
KIT受容体を含むキメラポリヌクレオチド配列を用いて、適当な宿主細胞におけるその核酸の発現を指令する組換えDNA分子を作り出すことができる。本発明による異種ポリヌクレオチドを、よく確立された組換えDNA技術によって種々の他のヌクレオチド配列のいずれかに連結することができる(Sambrook J et al.,前記)。
【0066】
本発明は、さらに、コードされたポリペプチドを発現する目的で発現ベクターまたは異種ベクターのようなベクターに挿入されたキメラポリヌクレオチドを提供する。発現ベクターは、当分野で知られているように、コード領域および少なくとも1つの宿主細胞におけるそのコード領域の発現に必要なエレメントを一体化させる能力を含む。典型的には、そのようなベクターは、コード領域のRNA発現を容易とするのに適切な向きの、プロモーターを最小限含有する。適当な発現ベクターおよび宿主細胞は当分野で公知である。有用なベクターは、例えば、当分野で周知のプラスミド、コスミド、ラムダファージのようなウイルスおよびその誘導体、ファジミド、人工染色体などを含む。一般には、ベクターは少なくとも1つの生物において機能的な複製起点、便宜な制限エンドヌクレアーゼ部位、および宿主細胞のための選択マーカーを含有する。本発明によるベクターは発現ベクター、複製ベクター、プローブ創製ベクター、および配列決定ベクターを含む。
【0067】
KITチロシンキナーゼ受容体コード領域を含むベクターの場合には、該ベクターは、さらに、例えば、異種ヌクレオチド配列に操作可能に連結されたプロモーターを含む調節配列を含むことができる。(その多くが内因性調節DNAエレメントを含有する)多数の適当なベクターが当業者に知られており、組換え構築体を作り出すのに商業的に入手可能である。
【0068】
代表的であるが非限定的例として、細菌で用いる有用な発現ベクターは、周知のクローニングベクターpBR322(ATCC37017)の遺伝子エレメントを含有する商業的に入手可能なプラスミドに由来する選択マーカーおよび細菌複製起点を含む。そのような商業的ベクターは、例えば、pKK223−3(Pharmacia Fine Chemicals,Uppsala,Sweden国)およびGEM1(Promega Biotech,Madison,WI,USA)を含む。これらのpBR322「骨格」セクションは適当なプロモーターおよび発現させるべき構造配列と組み合わせる。他の例示的細菌ベクターは、例えば、pBs、phagescript、PhiX174、pBluescript SK、pBs KS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、およびpRIT5を含む。好ましくは、発現ベクターのようなベクターは、少なくとも1つの宿主細胞において調節可能である発現制御配列、例えば、プロモーターを含むであろう。適当な宿主株の形質転換、および宿主株の適当な細胞密度までの成長に続き、適当な手段(例えば、温度シフトまたは化学的誘導)によって発現を誘導し、抑制し、細胞をさらなる期間培養する。
【0069】
哺乳動物発現ベクターは複製起点、適当なプロモーター、およびいずれかの必要なリボーソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナーおよびアクセプター部位、転写終止配列、および5’フランキング−非転写配列を含む。SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起点、初期プロモーター、エンハンサー、スプライス、およびポリアデニル化部位を用いて、必要な発現制御エレメントを提供することができる。例示的な真核生物ベクターはpcDA3、pWLneo、pSV2cat、pOG44、PXTI、pSG(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLを含む。
【0070】
別法として、本発明の方法で有用な異種ポリヌクレオチドは、Kaufman et al.,Nuc.Acids Res.19:4485−4490(1991)に開示されたpMT2またはpED発現ベクターのような発現制御配列に操作可能に連結して、組換えによりタンパク質を生じさせることができる。多くの適当な発現制御配列が当分野で知られている。組換えタンパク質を発現する一般的方法も知られており、R.Kaufman,Methods in Enzymology 185:537−566(1990)に例示されている。本明細書中で規定されるように、「操作可能に連結した」は、2つの生体分子、例えば、ヌクレオチドが、相互作用についての能力を保有したように接合され、または連結されることを意味する(例えば、コード領域の発現において近接性により相互作用するプロモーターおよびコード領域)。例えば、プロモーター領域のような発現制御配列は、いずれかの所望の遺伝子から選択することができる。細菌プロモーターは、lacI、lacZ、T3、T7、gpt、ラムダPR、およびtrcを含んでよく、真核生物プローターは、例えば、CMV即時型、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、またはレトロウイルスからのLTR、およびマウスメタロチオネイン−Iを含む。適当なベクターおよびプロモーターの選択は、十分に当業者のレベル内のものである。
【0071】
本発明は、さらに、本発明で有用なポリヌクレオチドを含有するように遺伝子的に作成された宿主細胞を提供する。本明細書中で規定された組換え発現系は、内因性DNAセグメント、または発現させるべき遺伝子に連結されたKIT受容体配列エレメントの誘導に際して、細胞にとって内因性のポリペプチドまたはタンパク質を発現するであろう。細胞は原核生物または真核生物であり得る。宿主細胞は、公知の形質転換、トランスフェクションまたは感染方法を用いて宿主細胞に導入された本発明の核酸を含有することができる。
【0072】
いずれかの宿主/ベクター系を用いて、本発明で有用なポリヌクレオチドの1以上を発現させることができる。成熟タンパク質は適当なプロモーターの制御下で哺乳動物細胞、酵母、細菌または他の細胞で発現させることができる。原核生物および真核生物宿主で用いられる適当なクローニングおよび発現ベクターはSambrook et al.,in Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版,Cold Spring Harbor,New York(1989)によって記載されており、その開示は参照として本明細書に組み込まれている。
【0073】
多数のタイプの細胞はタンパク質の発現のための適当な宿主細胞として働くことができる。哺乳動物宿主細胞は、例えば、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト腎臓HEK293細胞、ヒト表皮A431細胞、ヒトColo205細胞、3T3細胞、CV−1細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常なジプロイド細胞、一次組織のインビトロ培養に由来する細胞株、一次外植体、HeLa細胞、マウスL細胞、BHK、HL−60、U937、HaKまたはJurkat細胞を含む。また、キメラポリペプチドを発現するための宿主細胞として用いると考えられるのは昆虫、Sf9細胞である。いずれかの公知のウイルス発現系を用いて、(Summers et al.,Txas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555,1987に記載されているように)アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス、および特に考えられるM13またはλファージのようなウイルスバクテリオファージでキメラポリペプチドを作り出すこともできる。
【0074】
C.本発明の方法で用いるためのポリペプチド
本発明の方法において有用な単離されたポリペプチドは、限定されるものではないが、配列番号2として記載されたアミノ酸配列組、または配列番号1におけるヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列を含むポリペプチド、または対応する全長または成熟タンパク質を含む。本発明で用いることが考えられるポリペプチドはKIT受容体の少なくとも1つの生物学的または免疫学的活性を保有するポリペプチドも含み、該ポリペプチドは以下の、(a)配列番号1に記載されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、または(b)配列番号2として記載されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(a)または(b)いずれかのポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドのうちのいずれか1つによってコードされる。また、本発明は、配列番号2に記載されたアミノ酸配列のいずれかの生物学的に活性なまたは免疫学的に活性な変種、または対応する全長または成熟タンパク質;および生物学的活性を保有する(例えば、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、典型的には少なくとも約95%、96%、97%、より典型的には少なくとも約98%、または最も典型的には少なくとも約99%アミノ酸同一性を持つ)その変種も提供する。対立遺伝子変種によってコードされたポリペプチドは配列番号2を含むポリペプチドと比較して同様な、増大したまたは減少した活性を有することができる。
【0075】
生物学的活性を呈することができる本発明によって考えられるタンパク質の断片もまた本発明に含まれる。タンパク質の断片は線状形態であってよく、あるいはそれらは、例えば、その各々を本明細書に参照して組み込まれる、Saragovi,et al.,Bio/Technology 10:773−778,1992およびMcDowell et al.,J.Amer.Chem.Soc.114:9245−9253,1992に記載されているような公知の方法を用いて環化することができる。そのような断片を、タンパク質結合部位の価数の増加を含む多くの目的で免疫グロブリンのような担体分子に融合させることができる。
【0076】
また、本発明は、(例えば、シグナル配列または前駆体配列なしで)開示されたタンパク質の全長および成熟形態の双方の使用を提供する。タンパク質の成熟形態は、同種宿主細胞における全長ポリヌクレオチドの発現によって得ることができると期待される。タンパク質の成熟形態の配列は全長形態のアミノ酸配列から決定することも可能である。本発明によって考えられるタンパク質が膜に結合する場合、タンパク質の可溶性形態も提供される。そのような様式においては、タンパク質を膜に結合させる領域の一部または全てを、タンパク質がそれが発現される細胞から十分に分泌されるように欠失させる。タンパク質の組成は、さらに、親水性、例えば、医薬上許容される担体のような許容される担体を含むことができる。
【0077】
本発明は、さらに、本発明の核酸断片によって、または本発明のポリヌクレオチド断片の縮重変種によってコードされた単離ポリペプチドを提供する。「縮重変種」は、ヌクレオチド配列によって本明細書中に明示的に記載された配列(例えば、オープンリーディングフレームまたはORF)を含むポリヌクレオチドとは異なるが、遺伝子暗号の縮重により、同一のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド断片を意図する。本発明の好ましいポリヌクレオチドはタンパク質をコードするORFである。
【0078】
当分野で知られた種々の方法を利用して、本発明での使用が考えられる単離されたポリペプチドまたはタンパク質のいずれか1つを得ることができる。例えば、商業的に入手可能なペプチドシンセサイザーを用いてアミノ酸配列を合成することができる。タンパク質と一次、二次、または三次構造および/または立体配座特徴を共有することによって、合成により構築されたタンパク質配列は、タンパク質活性を含むそれと共通する生物学的特性を保有すると期待される。この技術は、小さなペプチドおよびより大きなポリペプチドの断片を生産するにおいて特に有用である。断片は、例えば、天然ポリペプチドに対して抗体を創製するのに有用である。したがって、それらは、治療化合物のスクリーニングにおいて、および抗体の開発のための免疫学的プロセスにおいて、天然の精製されたタンパク質に代えて生物学的に活性なまたは免疫学的代替物として有用である。
【0079】
本発明で有用なポリペプチドおよびタンパク質は、別法として、所望のポリペプチドまたはタンパク質を発現するように改変された細胞から精製することができる。本明細書中で用いるように、遺伝子操作を介して、それが通常は生産しない、または細胞が通常はより低いレベルでしか生産しないポリペプチドまたはタンパク質を細胞が生産するような場合、細胞は所望のポリペプチドまたはタンパク質を発現するように改変されたといわれる。当業者であれば、組換えまたは合成配列を真核生物または原核生物細胞に導入し、それを発現させて、本発明の方法で有用なポリペプチドまたはタンパク質の1つを生じる細胞を創製するための手法を容易に適合させることができる。
【0080】
また、本発明は、適当な培養基中で本発明の宿主細胞の培養を増殖させ、次いで、細胞または細胞はそこで増殖する培養からタンパク質を精製することを含む、ポリペプチドを生産する方法に関する。例えば、本発明の方法は、ポリペプチドの生産方法を含み、そこでは本発明のポリヌクレオチドを含む適当な発現ベクターを含有する宿主細胞をコードされたポリペプチドの発現を可能とする条件下で培養する。ポリペプチドは培養から、便宜には培養基から、あるいは宿主細胞から調製した溶解物から回収し、さらに精製することができる。好ましい実施形態は、そのようなプロセスによって生産されたタンパク質は該タンパク質の全長または成熟形態であるものを含むことができる。
【0081】
代替方法において、ポリペプチドまたはタンパク質は該ポリペプチドまたはタンパク質を天然で生産する細菌細胞から精製される。当業者であれば、ポリペプチドおよびタンパク質を単離するための公知の方法を容易に追跡して、本発明の単離されたポリペプチドまたはタンパク質の1つを得ることができる。これらは、限定されるものではないが、免疫クロマトグラフィー、HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および免疫−アフィニティークロマトグラフィーを含む。例えば、Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,Springer−Verlag(1994);Sambrook et al.,in Molecular Cloning:A Laboratory Manual; Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biologyを参照のこと。生物学的/免疫学的活性を保有するポリペプチド断片は、約100よりも大きなアミノ酸、または約200よりも大きなアミノ酸を含む断片、および特定のタンパク質ドメインをコードする断片を含む。
【0082】
ペプチドまたはDNA配列における修飾は、公知の技術を用いて当業者がなすことができる。タンパク質配列における注目する修飾はコーディング配列における選択されたアミノ酸残基の改変、置換、置き換え、挿入または欠失を含むことができる。例えば、1以上のシステイン残基を欠失し、またはもう1つのアミノ酸で置き換えて、分子の立体配座を改変することができる。そのような改変、置換、置き換え、挿入または欠失についての技術は当業者に周知である(例えば、米国特許第4,518,584号参照)。
【0083】
D.スクリーニングアッセイ
ホスホチロシンレベルは、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット、または免疫蛍光ベースのアッセイのような当分野で周知の標準的インビトロ技術によって生物学的試料から単離されたトランスフェクトされた細胞または複数細胞から測定することができる。KIT活性は、蛍光標識された抗KITおよび抗ホスホチロシン抗体での蛍光顕微鏡を用いて生物学的試料で測定することもできる。検出は、例えば、蛍光顕微鏡アッセイにおけるより明るい染色シグナル、蛍光顕微鏡アッセイにおけるより多い染色の存在によって、あるいはウェスタンブロット、ELISA、RIAまたは蛍光共鳴電子移動(FRET)のような他の免疫蛍光ベースのアッセイによって検出されたリン酸化KITの減少した流体レベルによって修正される。
【0084】
高含有量スクリーニング(HCS)は、単一スクリーニングアッセイにおいて複数のパラメーターの分析を提供する。例えば、突然変異体または野生型KIT受容体活性は、特定の励起チャネルにおいて蛍光を発するホスホチロシン特異的抗体を用いて測定することができる(例えば、Alexa Fluor488は488nmにおいて励起される)。次いで、異なる波長範囲において(すなわち、異なるチャネルにおいて)励起されるさらなる細胞マーカーに対する抗体を同一アッセイに加える。高含有量スクリーニングはKIT阻害剤に応答する細胞膜タンパク質を分析して(例えば、活性化、アップレギュレーション、または内部化)、細胞形態を検出することができ、あるいはアクチン/細胞骨格タンパク質を分析して、細胞骨格再編成を検出することができ、あるいは核染色を分析して、DNA複製または染色体凝縮の程度、および細胞死滅を決定することができる。高含有量スクリーニングで有用な肥満細胞症についての免疫組織化学的マーカーはトライパーゼ、CD34,CD68、KIT(CD117)、およびCD43を含む(Brockow et al.,前記)。さらに、本発明の高含有量スクリーニングは、KITモジュレーター(例えば、阻害剤)の下流効果、すなわち、正常な受容体シグナリング経路に関与するタンパク質に対するいずれかの効果を測定することができる。
【0085】
本発明の方法で用いるのに適した抗ホスホチロシン抗体は放射性同位体、フルオロフォア、蛍光発光タンパク質(例えば、天然または合成緑色蛍光タンパク質)、色素、酵素、基質等のような標識を含むことができる。標識は、ビオチン分子、アルカリ性ホスファターゼ、フルオロフォア(例えば、フルオロイソチアシアネート、フィコエリスリン、テキサスレッド、Alexa Fluor染色、および当分野で周知の他の蛍光色素)、放射性同位体(例えば、H、ユーロピウム3+32P)、凝集するポリペプチドに連結されたヒスチジン(His)タグ、myc−タグ、ヘマグルチミンタグ等のような遺伝子工学により作成されたペプチドタグを含む、標識として有用であることが当分野で知られた化合物また部分である。標識を含むビオチン、フルオロフォア、および他の考えられる小分子を、商業的に生産されたビオチニル化キット(Sigma Chem.Co.,St.Louis,MO)、または小分子をペプチドまたはタンパク質に付着させるために有機化学で通常用いられる代替方法のような当分野で周知の手段によって本発明のポリペプチドに連結させることができる(例えば、Current Protocols in Protein Chemistry,John Wiley & Sons,2001参照)。遺伝子工学的に作成されたタグ、例えば、Hisおよびmyc−タグは、当分野で周知の標準的な組換えDNA方法(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,前記参照)を用い、または慣用的なペプチド合成技術を用いて、本発明のポリペプチドに操作可能に連結される。そのような標識は、標準実験室マシーナリーおよび技術での定量的検出を容易とする。
【0086】
本発明で使用される候補阻害剤は、後に記載する、合成または天然起源の化合物を含有する小分子ライブラリー、またはコンビナトリアルライブラリーで好ましくは見出される小さな有機または無機分子のような、当分野で公知のいずれかの有機または無機化学または生物学分子であり得る。さらに、ペプチドライブラリーで好ましくは見出されるペプチドは、阻害剤のような候補モジュレーターとして考えられる。好ましい候補モジュレーター(例えば、阻害剤)は治療剤としての投与で適当であり、従って、当分野で知られているように許容される毒性レベルを呈するか、あるいはルーチン的実験を用いて当業者によって決定され得る。しかしながら、毒性は引き続いてのアッセイで検出することができ、しばしば、医薬化学者によって分子から「設計される」。化学的に合成された、および天然化合物双方よりなる製薬会社によって開発され維持されたもののような化学ライブラリー、およびコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングが特に考えられる。
【0087】
化学ライブラリーは公知の化合物、公知の化合物の特許薬品構造アナログ、または天然産物スクリーニングから同定された化合物を含有することができる。
【0088】
天然産物ライブラリーは天然源、典型的には、微生物、動物、植物、または海洋生物から単離された物質のコレクションである。天然産物は微生物の発酵、続いての、発酵ブロスの単離および抽出によって、あるいは微生物または組織(植物または動物)自体からの直接的抽出によってそれらの源から単離される。天然産物ライブラリーはポリケチド、非リボソームペプチド、および(天然に生じる変種を含む)その変種を含む。参照して組み込むCane et al.,Science,282:63−68(1998)参照。
【0089】
コンビナトリアルライブラリーは混合物としてのペプチド、オリゴヌクレオチド、または他の有機化合物のような多数の関連化合物から構成される。そのような化合物は伝統的な自動合成プロトコル、PCR、クローニングまたは特許薬物合成方法によって設計しそれを調製するのが比較的直接的である。特に興味があるのはペプチドおよびオリゴヌクレオチドコンビナトリアルライブラリーである。
【0090】
注目するさらに他のライブラリーはペプチド、タンパク質、ペプチドミメティック、多平行合成コレクション、コンビナトーリアルおよびポリペプチドライブラリーを含む。コンビナトーリアル化学およびそれにより作られたライブラリーについてのレビューについては、本明細書に参照して組み込むMyers,Crr.Opin.Biotechnol.,8:701−707(1997)参照。
【0091】
候補モジュレーター(例えば、阻害剤)の評価によって同定された阻害剤は、医薬ビヒクル、賦形剤または媒体として働く医薬上許容される(すなわち、滅菌された非毒性)液体、半固体、または固体希釈剤を含む組成物に処方することができる。このようにして処方された阻害剤は、例えば、病気についての動物モデルにおいてインビボで活性を変調するにつきさらにスクリーニングすることができ、あるいは臨床試験においてヒトに投与することができ、あるいは医薬として製造し、販売することができる。本発明によるモジュレーター組成物は、適当な医薬上許容されるビヒクル、例えば、医薬上許容される希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体を用いていずれかの適当な方法で投与することができる。組成物は、好ましくは、水、生理食塩水、リン酸−緩衝化生理食塩水、グルコース、または治療剤を送達するのに慣用的に用いられる他の担体のような医薬上許容される担体溶液を含む。
【0092】
阻害剤組成物は送達のために便宜な形態にパッケージングすることができる。組成物はカプセル、カプレット、サシェ、カシェ、ゼラチン、ペーパーまたは他の容器内に包むことができる。投与単位は、例えば、錠剤、カプセル、坐薬またはカシェにパッケージングすることができる。
【0093】
E.抗体
リン酸化チロシンを含むペプチドを検出するのに有用な抗体は当分野で周知の技術を用いて作成される、従って、本発明では、抗体(例えば、本発明のポリペプチドを特異的に認識し、KIT受容体につき本発明で特に興味深いポリペプチド、特に、リン酸化チロシンに対して特異的なCDR配列を含む化合物を含めた、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、単一鎖抗体、キメラ抗体、二機能的/二特異的抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR−グラフテッド抗体)の使用が考えられる。好ましい抗体は、その全体を本明細書に参照して組み込むWO 93/11236に記載された方法に従って生産され、同定されるヒト抗体である。Fab、Fab’、F(ab’)、およびFv、および単一鎖抗体を含めた抗体断片も本発明によって提供される。用語「に対して特異的」は、本発明の抗体を記載するのに用いられる場合、本発明の抗体の可変領域は検出可能な優先性でもって注目するポリペプチドを認識し、それに結合する(すなわち、ファミリーメンバーの間の局所化された配列同一性、相同性、または同様性の可能な存在にもかかわらず、結合親和性における測定可能な差によって、同一ファミリーの他の公知のポリペプチドから注目するポリペプチドを区別することができる)ことを示す。特異的抗体は、抗体の可変領域の外側、特に、分子の定常領域における配列との相互作用を介して 他のタンパク質(例えば、S.aureusタンパク質AまたはELISA技術における他の抗体)と相互作用することもできるのが理解されるであろう。本発明の抗体の結合特異性を決定するためのスクリーニングアッセイは当分野で周知であり、ルーチン的に実行される。そのようなアッセイの包括的議論については、Harlow et al.(編),Antibodies A Laboratory Manual;Cold Spring Harvor Laboratory; Cold Spring Harvor NY(1988),第6章参照。本発明の抗体は、当分野で周知のいずれかの方法を用いて生産することができる。
【0094】
当分野で知られた種々の手法を、リン酸化チロシンを含むペプチドに対するポリクローナル抗体の生産で用いることができる。抗体の生産では、(限定されるものではないが、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター等)を含めた種々の宿主動物はリン酸化KITタンパク質またはペプチドで注射によって免疫化される。種々のアジュバントを用いて、限定されるものではないが、フロイントの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、リソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジミトロフェノールおよびBCG(Bacillus Calmette−Guerin)およびCorynebacterium parumのような潜在的に有用なヒトアジュバントのような表面活性物質を含めた、宿主種に応じて、免疫学的応答を増加させることができる。
【0095】
KITのリン酸化エピトープに対するモノクローナル抗体は、培養中の連続的細胞株による抗体分子の生産を供するいずれかの技術を用いることによって調製することができる。それらは、限定されるものではないが、Koehler et al.,Nature,256:495−497(1975)によって元来記載されたハイブリドーマー技術、およびより最近のヒトB−細胞ハイブリドーマー技術[Kosbor et al.,Immunology Today,4:72(1983)]およびEBV−ハイブリドーマー技術[全て特に参照して組み込むCole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R Liss,Inc.,pp.77−96(1985)]を含む。リン酸化KITに対する抗体もまたクローン化免疫グロブリンcDNAから細菌中で生産することもできる。組換えファージ抗体に系の使用に関しては、細菌培養において抗体を迅速に生産し、それを選択し、それらの構造を遺伝子的に操作することは可能であろう。
【0096】
ハイブリドーマー技術を使用する場合、骨髄腫細胞株を用いることができる。ハイブリドーマー−生産融合手法で用いるのに適したそのような細胞株は好ましくは非抗体−生産性であり、高い融合効率を有し、所望の融合した細胞(ハイブリドーマー)のみの増殖を支持するある種の選択培地中でそれらが増殖できないようにする酵素欠陥を呈する。例えば、免疫化動物がマウスである場合、P3−X63/Ag8、P3−X63−Ag8.653、NS1/1.Ag41、Sp210−Ag14、FO、NSO/U、MPC−11、MPC11−X45−GTG1.7およびS194/5XX0 Bulを用いることができ;ラットでは、R210.RCY3、Y3−Ag1.2.3、IR983Fおよび4B210を用いることができ;およびU−266、GM1500−GRG2、LICR−LON−HMy2およびUC729−6は細胞融合との関連で全て有用である。モノクローナル抗体を生じさせるためのそのような技術によって生じたハイブリドーマーおよび細胞株は本発明の考えられる組成物であることに注意すべきである。
【0097】
モノクローナル抗体の生産に加えて、[キメラ抗体]の生産のために開発された技術、適当な抗原特異性および生物学的活性を持つ分子を得るためのマウス抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子へのスプライシングを用いることができる[Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.81:6851−6855(1984);Neuberger et al.,Nature 312:604−608(1984);Takeda et al.,Nature 314:452−454(1985)]。別法として、単一鎖抗体の生産につき記載された技術(米国特許第4,946,778号)を適合させて、リン酸化−KITペプチド特異的単一鎖抗体を生じさせることができる。
【0098】
分子のイディオタイプを含む抗体断片は公知の技術によって創製することができる。例えば、そのような断片は、限定されるものではないが、抗体分子のペプシン消化によって生じさせることができるF(ab’)断片;F(ab’)断片のジスルフィドブリッジを還元することによって創製することができるFab’断片、および抗体分子をバパインおよび還元剤で処理することによって創製することができる2つのFab断片を含む。
【0099】
非ヒト抗体は当分野で公知のいずれかの方法によってヒト化することができる。好ましい「ヒト化」抗体は、ヒト定常領域を有し、他方、抗体の可変領域、または少なくともCDRは非ヒト種に由来する。非ヒト抗体をヒト化するための方法は当分野で周知である(米国特許第5,585,089号および第5,693,762号参照)。一般に、ヒト化抗体は非ヒト源からのそのフレームワーク領域に導入された1以上のアミノ酸残基を有する。ヒト化は、ヒト抗体の対応する領域に代えてげっ歯類相補性−決定領域の少なくとも一部で置き換えることによって、例えば、Jones et al.,Nature 321:522−525、(1986),Riechmann et al.,Nature,332:323−327、(1988)およびVerhoeyen et al.,Science 239:1534−1536、(1988)に記載された方法を用いて行うことができる。作成された抗体を調製するための多数の技術が、例えば、Owens et al.,J.Immunol.Meth.,168:149−165(1994)に記載されている。次いで、更なる変化を抗体フレームワークに導入して、親和性または免疫原性を変調することができる。
【0100】
ファージディスプレイ[Hoogenboom et al.,J.Mol.Biol.227:381,(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581,(1991)]またはリボソームディスプレイ方法、所望によりそれに続いてのアフィニティー成熟[例えば、Ouwehand et al.,Vox Sang 74(Suppl 2):223−232(1998);Rader et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910−8915(1998);Dall‘Acqua et al.,Curr.Opin.Struct.Biol.8:443−450,(1998)参照]のような抗体を創製するための迅速な大規模組換え方法を使用することができる。ファージ−ディスプレイプロセスはフィラメント状バクテリオファージの表面抗体レパートリーのディスプレイ、および引き続いての、選択する抗原へのその結合によるファージの選択を介して免疫選択を模倣する。1つのそのような技術は、そのようなアプローチを用いるMPLおよびmsk受容体についての高親和性および機能的アゴニスト抗体の単離を記載するWO 99/10494に記載されている。
【0101】
二特異的抗体は少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル、好ましくはヒトまたはヒト化抗体である。二特異的抗体は文献に記載されている標準的手法を用いて生産され、単離され、およびテストされる。例えば、その全体を本明細書に参照して組み込む、Pluckthun et al.,Immunotechnology,3:83−105(1997);Carter et al.,J.Hematotherapy,4:463−470(1995);Renner & Pfreundschuh,Immunological Reviews,1995,No.145,pp.179−209;Pfreundschuh 米国特許第5,643,759号;Segal et al.,J.Hematotherapy,4:377−382(1995);Segal et al.,Immunobiology,185:390−402(1992);およびBolhuis et al.,Cancer Immunol.Immunother.,34:1−8(1991)参照。
【0102】
用語「二特異的抗体」とは、2つの異なる抗原結合部位(可変領域)を有する単一の二価抗体をいう。後に記載するように二特異的結合剤は、一般には、抗体、抗体断片、または抗体可変領域に由来する少なくとも1つの相補性決定領域を含有する抗体のアナログから作成される。これらは慣用的な二特異的抗体であり、これは、種々の方法によって製造することができ、(Holliger et al.,Current Opinion Biotechnol.4,446−449(1993)、例えば、そのような二特異的抗体のコーディング配列をベクターに入れ、組換えペプチドを生産することによって、あるいはファージディスプレイによって、ハイブリッドハイブリドーマーを用いて化学的に調製することができる。二特異的抗体はいずれかの二特異的抗体断片でもあり得る。
【0103】
1つの方法において、二特異的抗体断片は、全抗体をタンパク質分解によって(一特異的)F(ab’)分子に変換し、これらの断片をFab’分子に分裂させることによって構築され、Fab’分子を二特異的F(ab’)分子に対する異なった特異性と組み合わせる(例えば、米国特許第5,798,229号参照)。
【0104】
二特異的抗体は、各々が2つの同一L(軽鎖)−H(重鎖)半分分子を含み、1以上のジスルフィド結合によって連結される、2つの異なるモノクローナル抗体の酵素的変換によって創製することができる。各モノクローナル抗体を2つのF(ab’)分子に変換し、還元条件下で各F(ab’)分子をFab’チオールに分裂させる。各抗体のFab分子の1つをチオール活性化剤で活性化し、活性なFab’分子を組み合わせて、ここに、1つの特異性を担う活性化されたFab’分子は第二の特異性を担う非活性化Fab’分子に連結し、あるいはその逆をして、所望の二 特異的抗体F(ab’)断片を得る。
【0105】
二特異的抗体を生産するためのもう1つの方法は、先に定義したように、ハイブリッドハイブリドーマーを形成するための2つのハイブリドーマーの融合による。今日標準的な技術を用い、2つの抗体生産ハイブリドーマーを融合させて、娘細胞が得られ、次いで、クロノタイプ免疫グロブリン遺伝子の双方の組の発現を維持した細胞を選択する。
【0106】
二特異的抗体を同定するために、ELISAのような標準的方法を用い、ここに、マイクロタイタープレートのウェルを、親ハイブリドーマー抗体の1つを特異的に相互作用し、および双方の抗体との交差−反応性を欠く試薬でコートする。加えて、FACS、免疫蛍光染色、イディオタイプ特異的抗体、抗原欠乏競合アッセイ、および抗体特徴付けの分野で共通した他の方法を本発明と組み合わせて用いて、好ましいハイブリッドハイブリドーマーを同定することができる。
【0107】
組換え抗体断片、例えば、scFvsもまた、高い結合親和性および異なる標的抗原に対する特異性の安定なマルチマーオリゴマーに組み立てられるように作成することもできる。そのようなディアボディ(ダイマー)、トリアボディ(トリマー)またはテトラボディ(テトラマー)は当分野で周知である。例えば、Kortt et al.,Biomol Eng.2001 18:95−108、(2001)およびTodorovska et al.,J Immunol Methods.248:47−66,(2001)。
【0108】
F.医薬化合物の処方
本発明の方法によってKIT阻害剤として同定された候補阻害剤は1以上の医薬上許容される担体を含む組成物にて対象に投与されると考えられる。また、本発明によってKIT阻害剤として同定された候補阻害剤は、前記で同定された、または当分野で知られた、抗代謝産物、DNA−損傷剤、サイトカイン、共有結合DNA結合薬物、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍抗体、分化剤、アルキル化剤、メチル化剤、ナイトロジェンマスタードまたは他の治療剤のような1以上の化学療法剤とで医薬組成物に処方されると考えられる。
【0109】
本発明で用いる医薬担体は、特に、塩基性または酸性基が化合物に存在する場合、医薬上許容される塩を含む。例えば、−COOHのような酸性置換基が存在する場合、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよび同様な塩が生物学的宿主への投与のための好ましい実施形態と考えられる。(ピリジルのような、アミドまたは塩基性ヘテロアリール基のような)塩基性基が存在する場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、パモサン塩、リン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のような酸性塩が生物学的宿主への投与用の好ましい形態と考えられる。
【0110】
同様に、酸基が存在する場合、該化合物の医薬上許容されるエステル(例えば、メチル,tert−ブチル、ピバロイルオキシメチル、スクシニル等)が化合物の好ましい形態と考えられ、そのようなエステルは、維持放出またはプロドラッグ処方として用いるための溶解性および/または加水分解特徴を就職するために当分野で知られている。加えて、いくつかの化合物は水または通常の有機溶媒とで溶媒輪物を形成することができる。そのような溶媒和物は同様に考えられる。
【0111】
医薬阻害剤組成物を直接的に用いて、本発明の物質および方法を実施することができるが、好ましい実施形態においては、化合物は医薬上許容される希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体と共に処方される。フレーズ「医薬上または薬理学上許容される」とは、動物またはヒトに、例えば、経口、局所、経皮、非経口、吸入スプレイ、膣、直腸、または頭蓋注射によって投与された場合に、有害な、アレルギー性または他の厄介な反応を生じない分子体および組成物をいう。(本明細書中で用いる用語非経口は、皮下注射、静脈内、筋肉内、槽内注射、または注入技術を含む。静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、クモ膜下腔内、眼球後、肺内注射および特定の部位における外科的移植が同様に考えられる。一般に、これは、パイロジェン、ならびにヒトまたは動物に有害であろう他の不純物に実質的に含まない組成物を調製することを含むであろう。用語「医学上許容される担体」はいずれかのおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。医薬上活性な物質のためのそのような媒体および剤の使用は当分野で周知である。
【0112】
前記したKIT阻害剤を含有する医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトゼラチン、またはシロップまたはエリキシルとして経口使用に適した形態とすることができる。経口使用で意図した組成物は、いずれかの公知の方法に従って調製することができ、そのような組成物は甘味剤、フレーバー剤、着色剤、および保存剤からなる群より選択される1以上の剤を含有して、医薬上エレガントな味の良い製剤を供することができる。錠剤は、錠剤の製造に適した非毒性の医薬上許容される賦形剤と混合した有効成分を含有することができる。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムのような不活性な希釈剤;造粒剤および崩壊剤、例えば、コーンスターチまたはアネギン酸;結合剤、例えば,澱粉、ゼラチンまたはアカシヤ;および滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであってよい。錠剤は被覆しなくてもよいか、あるいは錠剤は公知の技術によって被覆して、胃腸管において崩壊および吸収を遅延させることができ、それにより、長時間にわたった維持された作用を供することができる。例えば、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートのような時間遅延物質を使用することができる。それらは米国特許第4,256,108号;第4,166,452号;および第4,265,874号に記載された技術によって被覆して、制御された放出用の浸透圧治療錠剤を形成することもできる。
【0113】
経口使用のための処方はハードゼラチンカプセルとして供することもでき、そこでは、有効成分は不活性な固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合され、あるいはソフトゼラチンカプセルとして供することもでき、そこでは、有効成分は水または油媒体、例えば、落花生油、流動パラフィンまたはオリーブ油と混合される。
【0114】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した有効成分を含有することができる。そのような賦形剤は懸濁化剤、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアカシアガムであり;分散または湿潤剤は天然に生じるホスファチド、例えば、レシチン、あるいはアルキレンオキサイドと脂肪酸との縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンステアレート、あるいはエチレンオキサイドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えば、ヘプタデカエチルエンオキシセタノール、あるいはポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートのようなエチレンオキサイドと脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、あるいはエチレンオキサイドと脂肪酸およびヘキシトールアンヒドライデに由来する部分エステルとの縮合生成物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートであってよい。水性懸濁液は1以上の保存剤、例えば、エチル、またはn―プロピル、p−ヒドロキシベンゾエート、1以上の着色剤、1以上のフレーバー剤、およびスクロースまたはサッカリンのような1以上の甘味剤を含有することもできる。
【0115】
油性懸濁液は有効成分を植物油、例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油、あるいは流動パラフィンのような鉱油に懸濁させることによって処方することができる。該油性懸濁液は増粘剤、例えば、ミツロウ、ハードパラフィンまたはセチルアルコールを含有することもできる。前記したもののような甘味剤、およびフレーバー剤を加えて味の良い経口製剤を供することができる。これらの組成物はアスコルビン酸のような抗酸化剤の添加によって維持することができる。
【0116】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉末および顆粒は、分散または湿潤剤、懸濁化剤、および1以上の保存剤と混合された活性化合物を提供する。適当な分散または湿潤剤および懸濁化剤は、既に前記したものによって例示される。さらなる賦形剤、例えば、甘味、フレーバーおよび着色剤も存在させることができる。
【0117】
本発明の医薬組成物は水中油型エマルジョンの形態としてもよい。油相は植物油、例えば、オリーブ油または落花生油、あるいは鉱油、例えば、流動パラフィンまたはこれらの混合物であってよい。適当な乳化剤は、天然に生じるガム、例えば、アカシアガムまたはトラガカントガム、天然に生じるホスファチド、例えば、大豆、レシチン、および脂肪酸およびヘキシトールアンヒドライドに由来するエステルまたは部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、および該部分エステルとエチレンオキサイドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってよい。エマルジョンは甘味およびフレーバー剤を含有することもできる。
【0118】
シロップおよびエリキシルは甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースとで処方することができる。そのような処方は粘滑薬、保存剤およびフレーバーおよび着色剤を含有することもできる。医薬組成物は滅菌注射水性または油性懸濁液の形態とすることもできる。この懸濁液は、前記した適当な分散または湿潤剤および懸濁化剤を用いて公知の技術に従って処方することができる。滅菌注射製剤は非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液とすることもでき、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液とすることもできる。使用できる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌不揮発性油は慣用的に溶媒または懸濁化媒体として使用される。この目的では、いずれかの口当たりの良い不揮発性油を使用することができ、これは、合成モノ−またはジグリセライドを含む。加えて、オレイン酸のような脂肪酸は、注射剤の調製で使用される。
【0119】
組成物は、PTPase変調化合物の直腸投与用の坐薬の形態とすることもできる。これらの組成物は、薬物を、常温では固体であるが、直腸温度では液体であり、したがって、直腸で融解して薬物を放出する適当な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができる。そのような物質は、例えば、カカオバターおよびポリエチレングリコールである。
【0120】
注射使用に適した医薬形態は滅菌水性溶液または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即席製剤用の滅菌粉末を含む。全ての場合、該形態は滅菌されていなければならず、容易なシリンジ性が存在する程度に流動性でなければならない。それは製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、その適当な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒体とすることができる。適当な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の予防は、種々の抗菌または抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロザル等によって行うことができる。多くの場合には、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。注射組成物の延長された吸収は、吸収を遅延する剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンの組成物での使用によって行うことができる。
【0121】
G.投与および投与量
本発明のいくつかの方法はヒトまたは動物へのポリペプチド投与の工程を含む。ポリペプチドは、適当な医薬上許容されるビヒクル、例えば、医薬上許容される希釈剤、アジュバント、賦形剤、または担体を用いていずれかの適当な方法で投与することができる。本発明の方法に従って投与すべき組成物は、好ましくは、水、生理食塩水、リン酸−緩衝化生理食塩水、グルコース、あるいは治療剤またはイメージング剤を送達するのに慣用的に用いられる他の担体を含む。
【0122】
本発明に従って行われる「投与」は、限定されるものではないが、注射(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、頭蓋内またはカテーテル);経口摂取;鼻腔内または局所投与等を含めた、哺乳動物対象へ直接的にまたは間接的に治療剤を導入するためのいずれかの医療的に許容される手段を用いて行うことができる。1つの実施形態において、組成物の投与は、病巣部位への直接的注射によって、あるいは処方を内部に送達できる維持送達または維持放出メカニズムを介して治療を必要とする病巣または侵された組織部位で行われる。例えば、生分解性マイクロスフィアまたはカプセル、あるいは組成物(例えば、可溶生ポリペプチド、抗体または小分子)の維持送達が可能な他の生分解性ポリマー配置を病巣近くに移植した本発明の処方に含めることができる。
【0123】
治療組成物は複数部位にて患者に送達することができる。複数投与は同時に行うことができるか、あるいは数時間にわたって投与することもできる。ある場合には、治療組成物の連続的流動を供するのが有益であろう。さらなる療法を期間ベースで、例えば、毎日、毎週、または毎月投与することができる。
【0124】
投与用のポリペプチドまたは阻害剤は摂取または吸収促進剤とで処方して、それらの効率を増大させることができる。そのような促進剤は、例えば、サリシレート、グリコレート/リノレーエート、グリコレート、アプロチニン、バシトラシン、SDSカプレート等を含む。例えば、Fix(J.Pharm.Sci.,85:1282−1285,1996)およびOliyai and Stella (Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,32:521−544,1993)。
【0125】
与えられた用量における医薬組成物の量は療法を投与しつつある個体のサイズ、ならびに治療すべき障害の特徴に従って変化するであろう。例示的な治療においては、約50mg/日、75mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、500mg/日、または1000mg/日を投与する必要があろう。これらの濃度は単一投与形態として、または複数用量として投与することができる。まず動物モデルにおいて、次いで臨床テストにおいて、標準用量−応答研究は、特定の病気状態および患者の集団についての最適な用量を明らかとする。
【0126】
また、もし伝統的な治療剤が本発明で同定された阻害剤と組み合わせて投与されるのであれば、用量は修飾すべきなのも明らかであろう。例えば、肥満細胞障害および関連白血病または他の癌の、本発明で同定された阻害剤と組み合わせての治療が考えられる。いくつかの実施形態において、本発明によって同定されたKIT阻害剤は化学療法剤と組み合わせて患者に投与され、そこでは、組成物は同時に投与される。他の実施形態において、本発明によって同定されたKIT阻害剤は化学−または放射線治療剤での治療の前に、あるいは化学−または放射線治療剤での治療後のいずれかに患者に投与することができる。本発明によって同定された阻害剤は、1以上の化学療法剤での治療の2週間前まで、1週間前まで、1日前まで、あるいは1時間前まで、1以上の化学治療剤と組み合わせて投与することができる。さらに他の実施形態において、本発明によって同定された阻害剤は、化学療法剤での治療の2週間後まで、1週間後まで、1日後まで、または1時間後まで、1以上の化学治療剤と組み合わせて投与することができる。特定の治療計画は、ルーチン的実験および最適化技術だけを用いてケースバイケースで当業者によって決定され、各場合に治療の適当なコースを決定する。
【0127】
H.キット
さらなる態様において、本発明は、その使用を容易として、本発明の方法を実行するようにパッケージされた本発明の1以上の化合物または組成物を含むキットを含む。最も単純な実施形態において、そのようなキットは、本発明の方法を実施するための化合物または組成物の使用を記載する容器に付着された、またはパッケージに含まれた標識と共に、密封ビンまたは器のような容器にパッケージされた、本発明の方法の実施で有用なものとしての(例えば、スクリーニングアッセイで用いられる活性KIT受容体の阻害剤およびホスホチロシン抗体)本明細書中に記載された化合物または組成物を含む。好ましくは、該化合物または組成物は単位投与形態にてパッケージされる。キットは、さらに、好ましい投与経路に従って組成物を投与するのに、あるいはスクリーニングアッセイを実行するのに適したデバイスを含むことができる。
【実施例】
【0128】
本発明のさらなる態様および詳細は、限定的よりはむしろ説明的であることを意図する以下の実施例から明らかであろう。
【0129】
実施例1
HEK293細胞から発現された組換えKITD816Vはインビボにて高度に活性である。
肥満細胞症、および異常な肥満細胞増殖に関連する他の障害の発症において有意な役割を果たすKITチロシンキナーゼ受容体の突然変異した変種は高レベルの自動リン酸化を呈する。典型的には、細胞ベースの高スループットスクリーニング(HTS)キナーゼアッセイを行って、受容体リン酸化状態に対する潜在的阻害剤化合物の効果を調べる。これらのHTSは、リン酸化分析を正確に行うためには大量の精製されたタンパク質を必要とする。
【0130】
細菌または酵母細胞株のような標準組換えタンパク質系における突然変異体KIT受容体の発現に対する障壁は、おそらくは、高度なチロシンキナーゼ活性に着せられる突然変異体KIT受容体の毒性である。例えば、細菌組換えシステムまたは酵母Pichia pastorisで発現されるKITD814V活性化突然変異体は、毒性のため適切な量で精製するのが困難である。加えて、これらの細菌または酵母系から精製されたいずれの受容体も低い活性を持つKIT受容体を発現する。
【0131】
KITD816V突然変異体活性の研究を可能とするために、組換え方法を開発して、前記困難を克服している。KIT突然変異体を効果的に生産する組換え系を確立するために、ヒト胚腎臓HEK293細胞を、KITD816V突然変異体受容体を含有するプラスミドで一過的にトランスフェクトした。
【0132】
10%ウシ胎児血清、2mM L−グルタミン、1mM ピルベート、0.1mM 非必須アミノ酸(GIBCO BRL)、50U/MLペニシリン、および50μg/mlストレプトマイシンを補足した修飾イーグル培地中でHEK細胞を37℃および5%COにて維持した。異なるKIT突然変異体を発現するHEK細胞を、クローン選択目的で0.4mg/mlゲンタマイシンを補足した前記培地中で維持した。HEK293細胞の一過的トランスフェクションを、DNAのリン酸カルシウム共沈殿を用いて行った。安定な細胞株を確立するために、野生型KIT(KITWT)、KITD816V突然変異体受容体、KITΔK550−558欠失突然変異体、またはKITY823Fいずれかをコードするポリヌクレオチドを含有するpcDNA3.1発現ベクターでHEK293細胞をトランスフェクトし、ここに、チロシンリン酸化部位は非リン酸化可能フェニルアラニン残基で置き換えられていた。トランスフェクションから2日後に、ゲネティシンを培養基に加え、ゲネティシン−耐性細胞をプールした。単一クローンを限界希釈アッセイによって樹立した。
【0133】
単離されたクローン細胞株の引き続いての分析は、KITD816Vを発現するHEKクローンの点でここに記載された発現されたKIT突然変異体の特徴付けに向けた。細胞を溶解し、全溶解物を分析して、受容体の活性化状態を測定した。SDS−PAGEおよびイムノブロットは、HEK細胞で発現された組換え突然変異体受容体がリガンド誘導とは独立した高レベルのチロシンリン酸化を示すことを明らかとした。
【0134】
実施例2
リン酸化KIT受容体に対する抗体の産生
構成的に活性なKIT突然変異体のリン酸化状態を正確に測定するために、例えば、細胞内タンパク質−タンパク質相互作用に由来する、KITリン酸化よりはむしろ自動リン酸化によって活性化されたKITを特異的に認識する抗体を誘導した。KIT受容体の活性化ループ中のチロシン823は活性化されたKitにおける自動リン酸化の一次部位であり、これは構成的に活性なKIT突然変異体を検出するための良好な標的である。
【0135】
リン酸化チロシン823を認識するポリクローナル抗血清は、ホスホチロシン部位(配列番号2の残基818−828)を含有するKIT受容体中の11アミノ酸KNDSNY823VVKGNに対応するホスホペプチドに対して誘導した。該ペプチドは、製造業者のプロトコルに従い、慣用的なホスホ−ペプチド合成技術(Affinity Bioreagents,Golden,CO)を用いて合成した。
【0136】
合成ペプチドを担体タンパク質にカップリングさせ、Affinity Bioregents, Inc.(Golden,CO)によって行われた標準免疫化技術を用いてウサギに注射した。pY823−Kit(pY823)に対して特異的なウサギポリクローナル抗体を、エピトープアフィニティークロマトグラフィー(Affinity Bioreagents,Inc.)を用いて精製した。
【0137】
pY823抗体の特異性を評価するために、KITWT、KITY823FまたはKITD816V発現ベクターで一過的にトランスフェクトした血清−飢餓HEK293細胞を37℃にて7分間幹細胞因子(150ng/ml)(Calbiochem.San Diego,CA)で処理し、溶解緩衝液(1%Triton X−100、20mM Tris HCl(pH7.4)、80mM NaCl、5mM EDTA、10%グリセロール、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチミン、30mM NA,250μM Na、50mM NF、40μMフェニルアルシンオキサイド)中で溶解させた。細胞抽出物を遠心によって予め清澄化し、ゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析するか、あるいはヌテーター中でプロテインA―SEPHAROSE(商標)ビーズに架橋された抗体と共に4℃にて2時間インキュベートした。
【0138】
溶解物を、Kit受容体(Blume−Jensen et al.,EMBO J.12:4199−4209.1993)のC−末端に対して特異的なKit−C1抗体、pY823抗体、または免疫化ペプチドで中和したpY823抗体いずれかで免疫沈澱させた。免疫沈澱させた物質をSDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースフィルターに移し、pY823またはKit−Cl抗血清いずれかに暴露した。同一ブロットを、pY99抗体、SCF活性化についての対照としてのホスホチロシンに特異的なモノクローナル抗体(Transduction Laboratories,San Jose,CA)で、およびKit−Cl、およびタンパク質発現レベルについての対照に対するpY823抗血清でサイドプローブした。
【0139】
トランスフェクトされたHEK293細胞のイムノブロットは、pY823抗体がKit−ClまたはpY823いずれかで免疫沈澱させたKITWTを認識するが、SCF−刺激細胞からのものだけであることを示し、これは、pY823抗体が活性化されたKITのみを特異的に認識することを示す。中和ペプチドの存在下での免疫沈澱は刺激された受容体の検出を完全にブロックした。pY823抗体はフェニルアラニン突然変異体(Y823F)に対するチロシンを認識しなかった。対照的に、pY823抗体は高い親和性でもって構成的に活性なD816V突然変異体を認識した。
【0140】
免疫蛍光アッセイにおいて、pY823を評価するためには、HEK293細胞をポリ−L−リシン被覆カバーグラス(Becton Dickinson,Mountain View,CA)上で増殖させ、KITWT発現ベクターでトランスフェクトした。次いで、細胞を血清飢餓させ、前記したようにSCFで処理するか、あるいは未処理のまま放置した。細胞をリン酸−緩衝化生理食塩水(PBS)中で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で室温にて20分間固定し、0.2%TritonX−100を含むPBS中で20分間浸透させ、洗浄した。カバーグラスをKIT特異的抗体A4502(Dako,Inc.,Carpinteria,CA)で1時間染色して、pY823での、または、対照血清でのトランスフェクション効率を評価した。次いで、細胞を洗浄し,AlexaFluor488コンジュゲーテッドラバ抗ウサギIgG特異的二次抗体(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR)で染色し(1時間)PBS中で洗浄し、蛍光顕微鏡による分析のためにVectashield(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA)に設置した。
【0141】
pY823抗体はSCF−刺激細胞においてのみリン酸化KITWTを検出し、他方、該抗体はSCF−独立的に一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞中のKITD816Vにおいてチロシンリン酸化を強く認識した。リン酸化はキナーゼ阻害剤スタウロスポリン(10μM)(Calbiochem)で予備処理したKITD816Vトランスフェクト細胞において完全に無くなり、1μMスタウロスポリンで処理した細胞において部分的に減少した。
【0142】
次いで、突然変異体KITを発現する胃腸間質腫瘍(GIST)においてKITリン酸化を阻害することが示されているFDA認可c−Kit阻害剤グリベック(Glivac,STI571)の存在下で細胞を次いでアッセイした。以前の研究は、グリベックがKIT816突然変異体に対して効果的でないことを示した(Heinrich et al,.J.Clin.Oncol.20:1692−1703,2002;Zermati et al.,Oncogene 22:660−4,2003)。HITD816Vを発現するように一過的にトランスフェクトされ、かつグリベックで予備処理したHEK細胞はpY823の存在下で強いシグナルを与え、これは、グリベックが、一過的にトランスフェクトされたKITD816V−発現HEK細胞においてKIT自動リン酸化を阻害しなかったことを示す。
【0143】
結果は、突然変異体KITがHEK細胞において構成的に活性であり、細胞に対して高度に毒性でないことを、また、本発明の阻害剤をスクリーニングする方法は以前の突然変異体KIT受容体のインビトロリン酸化アッセイよりもかなり感受性であることを示す。しかしながら、これらのインビトロ研究は、おそらくは、不適切なKITタンパク質の量、および精製プロセスの間におけるリン酸化の喪失のため、D816VのSTI571(グリベック)阻害を検出するのに十分に感受性でなかった。
【0144】
前記結果に基づき、KIT突然変異体を発現する安定な細胞株は、KITのリン酸化状態を強化するための、およびKIT活性化のモジュレーター(例えば、阻害剤)を検出するための有用なツールであると予測される。
【0145】
実施例3
KIT突然変異体を安定に発現するHEK293細胞は高レベルの自動リン酸化を示す。
KIT突然変異体の活性を分析し、KIT突然変異体のモジュレーターを同定するために、KITWI、ならびにKIT突然変異体KITD816VおよびKITΔK550−558、および対照突然変異体KITY823Fを含めた、種々のKIT受容体のいずれかを発現する安定な細胞株を作出した。D816H、D816F、D816Y、またはD816Nのようないずれかの臨床的に関連するKIT受容体突然変異を発現する安定な細胞株を、本明細書中に記載された方法を用いて創製することができると予測される。
【0146】
HEK293細胞に由来し、かつ外因性KIT突然変異体コード領域を含有する安定な細胞株は実施例1に記載したように創製した。野生型Kit(KITWT)、KITD816V突然変異体、KITΔK550−558欠失突然変異体、またはKITY823Fいずれかを発現する安定な細胞株を創製した。単一クローンを拾い出し、先に記載したように抗KITA4502抗体での免疫蛍光染色によってKIT発現に付き分析した。KITWTおよび突然変異体KITの安定な均一な発現を示すクローンを更なる分析のために選択した。
【0147】
トランスフェクトされたHEK細胞を血清−飢餓させ、引き続いて、前記したようにSCFで処理し(あるいは対照として未処理のままとし)、溶解させ、合計溶解物またはKIT−Cl免疫沈澱溶解物いずれかをSDS−PAGEに付し、全タンパク質含有量につき制御して、各試料中の全タンパク質レベルが同等であることを確認した。タンパク質をニトロセルロース膜に移し、ブロットを、前記したように、pY823抗体および対照抗体(Kit−Cl)で分析した。
【0148】
免疫沈澱した溶解物および全溶解物はKITWT、KITΔK550−558、およびKITY823Fの各々につき匹敵するタンパク質発現を示し、他方、KITD816Vは、おそらくは、細胞に対するその毒性のため、より低いレベルにて発現された。しかしながら、pY823はSCF−独立的にKITD816Vの強力な認識を示した。KITΔK550−558は、pY823およびpY99抗体で測定してバックグラウンドレベルのリン酸化を呈し、他方、KITY823FはpY823またはpY99いずれかによって認識されなかった。
【0149】
したがって、構成的に活性化されたKIT受容体の候補阻害剤をスクリーニングするための細胞ベースのアッセイはインビトロの試験管ベースのアッセイと比較して高度に感受性である。この細胞ベースの発現方法は、実質量の精製されたタンパク質で必要な試験管アッセイの主な欠点を回避する。高度にリン酸化された突然変異体KITの潜在的毒性は、KIT突然変異体を安定に発現する哺乳動物細胞を含む細胞ベースのアッセイを用いてかなり低くされる。細胞ベースのアッセイの増大した検出感度は、以前は可能なタンパク質のかなりより低いレベルでのKIT受容体活性化の測定を可能とする。加えて、この細胞ベースの方法は、高スループットアッセイ、高含有量スクリーニングフォーマットを含めた種々のフォーマットにおけるKIT阻害を評価する定量的方法を提供する。
【0150】
実施例4
活性化されたKITの阻害剤につきスクリーニングするのに有用な高スループットアッセイ
前記したように、チロシンリン酸化を検出するのに典型的には用いられるインビトロアッセイは、関連突然変異体KITタンパク質の十分な量を精製できないため、突然変異体KIT活性化を評価するにおいて問題があることが判明した。活性化されたKIT受容体、SCF−刺激野生型受容体または構成的に活性なKIT突然変異体いずれかを阻害する化合物の能力を分析するために、リン酸化KITの免疫蛍光検出を利用する高スループットアッセイを開発した。
【0151】
KITD816V−発現HEK293細胞株を、85μ容量にて384−ウェル−ポリ−B−リシン−被覆黒色透明底プレート(Becton−Dickinson)で三連で接種し、37℃/5%COで増殖させた。24時間後に、培養基中で予め希釈したKIT阻害剤またはDMSOを30分間で90μL/ウェルの最終容量まで加えた。培地をマルチチャネルアスピレーターを用いて除去し、細胞を予め温めた(37℃)、4%パラホルムアルデヒド中で室温にて20分間固定した。細胞をPBS/0.2%TritonX−100中で20分間浸透させ、TBS中で2回洗浄した。細胞をpY823または対照抗体に暴露し、前記したようにコンジュゲートした抗ウサギIgGで検出した。全免疫蛍光をANALYST(商標)を用いて測定した。また、MetaMorphソフトウェア(Universal Imaging Corp.,Downingtown,PA)を用いるデータ分析にて、Molecular Devices(Downingtown,PA)からのThe DISCOVERY−1(商標)高含有量スクリーニングシステムを用いてプレートを分析した。
【0152】
細胞当たりの平均免疫蛍光を定量するために、細胞ベースのアッセイを、核−染色DAPIを用いて細胞の数を定量することによって、ウェル当たりの全細胞数の変化を説明するように設計することができ、かくして、分析の精度を改良することができる。ウェル当たりの合計細胞数の変動は、テストすべき化合物の非特異的活性、すなわち、化合物−誘導形態変化、および化合物−誘導接着変化のため、細胞スクリーニングにおける共通の出現である。これらの非特異的活性は、それらは自動リン酸化事象を阻害しないものの、アッセイにおいて陽性阻害として見える。
【0153】
アッセイでは、DAPI波長(365nm励起、405nm発光)およびAlexafluor−488波長(485nm励起、535nm発光)双方において細胞のイメージが獲得される。DAPIイメージは、バックグラウンドシグナルから蛍光シグナルを分離するための閾値であり、蛍光シグナルについての合計面積を測定する。この関係で、「閾値」は、2つの値のいずれが二元プロセッシングにおいて各画素に帰属されるかを決定するための特異的強度レベルを規定するプロセスを意味する。もし画素の明るさが閾値レベルを超えるならば、それはイメージ自身において、あるいは電子イメージマップにおいて白色として出現し;もし閾値レベル未満であれば、それは黒色と指名されるか、あるいは黒色として見える。次いで、合計DAPI蛍光面積を単一細胞当たりの平均面積で割って、ウェル当たりの合計細胞数(TCPW)を計算した。Alexafluorイメージを引き続いて閾値として、蛍光シグナルをバックグラウンドシグナルから分離し、ウェル当たりの蛍光シグナルについての合計強度を測定する(TFPW)。ウェル当たりの合計蛍光(TFPW)をウェル当たりの合計細胞数(TCPW)で割ることによって、ウェル当たりの平均蛍光を計算し、これはウェル当たりの合計細胞数から独立している。
【0154】
高スループット適用では、候補阻害剤を慣用的プレートリーダーを用い、バックグラウンドシグナル強度の減算を可能とする適当な対照にてスクリーニングすることができる。高スループットプレートリーダースクリーニングをイメージベースのアッセイアプローチと組み合わせて、阻害剤を迅速かつ正確に同定することができる。
【0155】
活性化されたKITに対する公知のキナーゼ阻害剤の効果を測定するために、KITD816VまたはKITY823Fを安定に発現するHEK293細胞、ならびにpcDNA3.1ベクターを含有するHEK細胞を96−ウェルプレート中に接種し、前記したように、種々の濃度のスタウロスポリンまたはDMSOと共に培養した。視野における慣用的プラクティスに合致させて、標識された二次抗体の非特異的結合から生起する細胞数および蛍光バックグラウンドシグナルの変動についての対照を典型的にはアッセイに含めた。pY823/抗ウサギIgG−染色細胞の合計シグナル強度読みは、近いIC50およびZ’因子値での細胞イメージングシステムおよびANALYST(商標)を用いて前記したように得て、アッセイの質を測定した。高スループットスクリーニングアッセイでは、IC50の値が低いと、アッセイはより感受性となる。Z’因子はシグナル−対−ノイズ比率、および最小および最大ルミネセンス読みの間の差に基づく統計的値である。1.0のZ’因子は完全な細胞ベースのアッセイ、例えば、対照ウェルおよびバックグラウンドウェルにおいて実質的に変動がないものを示す。0.5よりも大きなZ’因子値は優れたアッセイの質を示す。
【0156】
予測されるように、KITY823FまたはpcDNA3.1含有細胞において受容体リン酸化は検出されなかった。KITD816Vを発現するHEK細胞はKITリン酸化につき明るく染色され、これはスタウロスポリンとのインキュベーションによってブロックされた。これらの結果は、細胞ベースのアッセイが活性化されたKIT受容体を検出するための感度の良いアッセイを提供することを示す。
【0157】
接種時の細胞の数は、阻害剤の添加および染色時の細胞密集の度合いを決定し、これは、アッセイの結果の再現性に影響する。最適細胞−接種量を決定するために、KITD816V発現細胞を、二連にて、2×10、2.5×10、3×10、または3.5×10細胞/ウェルにおいて384−ウェルプレート中に接種し、37℃にて増殖させた。IC50およびZ’因子は各濃度で測定した。IC50値は2.5×10、3×10および3.5×10細胞/ウェルにおいて同様であり;最適なZ’因子(Z’=0.74)を示した3.5×10細胞/ウェルを引き続いての実験のための細胞−接種量として選択した。
【0158】
実施例5
高スループットアッセイはKIT阻害剤に応答しての構成的に活性なKIT突然変異体の阻害を検出する。
構成的に活性なKITリン酸化のブロックに対する臨床的に有用なKITモジュレーター、すなわち、KIT阻害剤の効果を測定するために、突然変異体KIT受容体を発現するHEK細胞を前記した細胞ベースの高スループットアッセイにおいて分析するために調製し、KIT活性の阻害剤(SU6577)の存在下で培養した。SU6577はKIT関連受容体、PDGF−RおよびVEGF−Rの阻害剤として以前特徴付けられたインドリノン化合物である。受容体活性の細胞内レベルは阻害剤に対する直接的応答として測定した。
【0159】
KITΔK550−558−発現HEK293細胞を二連にて前記したように96−ウェルの黒色透明−底プレート上に接種した。細胞を培養基中に予め希釈した種々の濃度のAS701932/1(SU6577)またはDMSOと共に30分間培養した。前記したように、細胞イメージングシステムおよびAnalyst(商標)を用いて合計シグナル強度を得た。KITΔK550−558を発現する細胞は、pY823抗体の存在下で染色を示し、これはSU6577での処理によってなくなった。細胞は0.3μMのIC50を呈し、0.8のZ’因子が達成された。
【0160】
これらの結果は、本明細書中で開示した細胞ベースのアッセイが、複数タイプの構成的に活性なKIT突然変異体におけるKIT受容体チロシンリン酸化を測定するにおいて効果的であり、構成的に活性なKIT突然変異体の阻害剤についての高スループットスクリーニングのための感度の良い方法を提供することを示す。
【0161】
実施例6
KIT機能獲得突然変異体の特徴付け
KIT機能獲得突然変異が典型的には構成的に活性であることをさらに確認するために、肥満細胞症およびAML患者で通常見出されるGIST、KITD816V突然変異体、および生殖細胞腫瘍で通常見出されるKITD816H突然変異体に由来するΔK550−558、ΔV559−560およびV559Dのような公知の機能獲得突然変異体で実施例1におけるようにHEK293細胞をトランスフェクトした。
【0162】
トランスフェクトされた293細胞をKITリガンドで刺激し、溶解し、ホスホチロシン抗体を用いてKIT受容体免疫沈澱を分析して、受容体の活性化状態を決定した。SDS−PAGEおよびイムノブロットは、テストした全ての機能獲得突然変異体受容体が、幹細胞因子誘導とは独立して高レベルのチロシンリン酸化を示すことを明らかとした。
【0163】
KIT細胞−表面発現に対するD816V活性化ループ機能獲得突然変異の効果を測定するために、実施例2に記載したようにして蛍光顕微鏡観察を実施した。KITD816V細胞内局所化の分析は、突然変異体受容体タンパク質が、野生型KIT受容体とは異なり、細胞内に保持され、細胞−表面では発現されないことを明らかとした。KITD816Vの細胞内局所化は、該タンパク質が小胞体(ER)中で保持されることを示唆した。
【0164】
新しく合成されたタンパク質は、正しいタンパク質折り畳みおよびタンパク質凝集の防止を助けるシャペロンタンパク質の助けを借りてER中で折り畳まれる。1つのシャペロン経路、カルネキシン/カルレチクリン経路はER質制御システムの構成要素としても働き、誤って折り畳まれたタンパク質を同定し、ER中でこれらのタンパク質を保持する。カルネキシンおよびカルレチクリンはER区画のよく特徴付けられた免疫蛍光マーカーである。
【0165】
KITD816V突然変異体はER内に保持されるかを判断するために、免疫蛍光を行った。トランスフェクトされた293細胞をKIT受容体およびERマーカーのカルネキシンおよびカルレチクリン[Stressgen Biotechnologies Corp.,Victoria,BC Canada (カタログ番号SPA−600およびカタログ番号SPA−850)]につき染色した。D816V突然変異の細胞内位置の評価は、突然変異体KITD816VがER中でカルネキシンおよびカルレチクリンと共局所化することを示した。
【0166】
これらの結果は、KITD816V活性化ループ機能獲得突然変異体がERに保持され、細胞表面では発現しないことを示す。
【0167】
実施例7
細胞ベースのスクリーニングアッセイを用いるさらなるKIT阻害剤の同定
Tatton et al.(J.Biol.Chem.278:4847−53,2003)は、Srcチロシンキナーゼ阻害剤、すなわち、ピラゾロ−ピリミジン化合物PP1およびPP2もまた、トランスフェクトされた細胞で発現されるKITD814VおよびKITD814Yを含めた、活性化されたKIT受容体の阻害剤として作用することを開示した。PP1およびPP2化合物が活性なKIT受容体を効果的に阻害するかを判断するために、D816V突然変異体KIT受容体で安定にトランスフェクトされたHEK293細胞をある範囲の濃度にわたって前記したようにPP1およびPP2と共に培養した。阻害剤とのインキュベーションの後に、細胞をpY823抗体で免疫染色し、実施例4で記載したように分析した。
【0168】
データ分析は、PP1およびPP2がKITD816V突然変異体の構成的活性化をブロックすることを示し、各化合物はほぼ1μMのIC50を呈する。これらの結果は、PP1およびPP2が構成的に活性なKITD816V受容体の効果的な阻害剤であり、KitD816V阻害剤を同定するための強力なツールとして免疫蛍光方法を確証することを確認する。
【0169】
天然で突然変異体KIT受容体を発現する細胞においてKIT活性化を妨げる潜在的KIT阻害剤の能力を同定し、測定するために、(天然でKITV560Gを発現する)ヒト肥満細胞株HMC1.1、(KITV560GおよびKITD816V突然変異を発現する)HMC1.2、および(天然でKITD814V、KITD816Vのネズミアナログを発現する)P815マウス肥満細胞症細胞株を用いて細胞ベースの細胞−生存性アッセイを行った。細胞−生存性アッセイは、製造業者のプロトコルに従って、ATPlite商標アッセイ(PerkinElmer Life Sciences,Boston,MA)を用いて行った。簡単に述べれば、10%胎児ウシ結成を補足したRPMI 1640培地中で、細胞を96ウェルプレートにて2×10細胞/ウェルで平板培養した。KIT阻害剤の存在下または非存在下で細胞を72時間インキュベートし、細胞生存性を測定した。
【0170】
スタウロスポリン(IC50=20nM)およびグリベック(Gleevec)(IC50=60nM)と共にインキュベートしたHMC1.1およびHMC1.2細胞は、増殖の濃度依存性阻害を示した。HMC1.1細胞では、スタウロスポリンは10−2μMにおいて20%阻害を、および10−1μMにおいて100%阻害を示し、他方、グリベックは10−1μMにおいてほぼ80%の阻害を示した。HMC1.2細胞では、スタウロスポリン(IC50=6nM)は10−2μMにおいて70%阻害を、および10−1μMにおいてほぼ97%阻害を示し、他方、グリベックはいずれの濃度においてもHMC1.2細胞の増殖を阻害しなかった。これらの結果は、KIT受容体におけるD816V突然変異の出現が、肥満細胞白血病HMC1.2細胞においてKIT−誘導増殖のグリベック阻害に対する耐性を付与することを示す。HMC1.1および1.2サブラインは、KIT阻害剤の効率を評価し、KIT膜近接突然変異体阻害剤−対−KITD816V活性化ループ阻害剤を同定するための有用なシステムを提供する。
【0171】
D814Vを発現するP815細胞をKIT阻害剤AS396773(SU396773)(米国特許第5,792,783号)、置換されたインドリノンと共に培養し、KIT−誘導増殖の阻害につきアッセイした。AS396773(IC50500nM)はほぼ2μMの濃度においてP815細胞増殖のほぼ92%阻害を示した。AS396773もまた免疫蛍光顕微鏡観察によって、D816VおよびΔK550−558を発現する細胞においてKIT受容体リン酸化を阻害することが示された。
【0172】
これらの結果は、KitD816V阻害剤を同定するための有力なツールとしての免疫蛍光方法と組み合わせたP815増殖アッセイを確証する。また、これらの結果は、トランスフェクトされた非肥満細胞様細胞におけるKIT阻害の検出に加えて、細胞ベースのアッセイが突然変異体KIT受容体を内因的に発現する肥満細胞においてKIT阻害剤を同定するのに効果的であることを示す。
【0173】
実施例8
KIT D816Vは、STAT5のチロシンリン酸化および核トランスローケーションを誘導する。
KIT受容体は、そのリガンドSCFに結合した後に細胞において下流リン酸化を誘導することが知られている。活性化されたKITによって誘導された1つの下流因子は、チロシンリン酸化によって活性化されるStat5(転写5のシグナルトランジューサーおよびアクチベーター)である。STATはシグナルを核に伝達し、そこで、STATが遺伝子発現を調節する特異的DNAプロモーター配列に結合する細胞質転写因子のファミリーを含む(Darnell et al.,Science 264:1415−1421,1994)。STATシグナリングは多くの正常な細胞プロセスに対して臨界的であり、研究は、構成的に活性なStatタンパク質、特に、Stat3およびStat5による異常なSTATシグナリングが、アポトーシスを阻害し、細胞増殖を誘導し、またその双方のいずれかによって、ヒト癌の発症および進行に参画することを示している(Bowman et al.,Oncogene,19:2474−88,2000)。Stat5はエリスロポエチン(EPO)および細胞−表面受容体へのSCFの相乗効果によって活性化され、その結果、Stat5の核へのトランスローケーションの誘導がもたらされる。最近の研究は、SCFが単独でStat5トランスローケーションを誘導できることを示している(Boer et al.,Exp.Hematol.31:512−20,2003)。
【0174】
構成的に活性なKIT受容体がStat5の活性化を誘導できるかを判断するために、構成的に活性なKITD816Vで一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞において内因性Stat5の細胞内局所化をアッセイした。低レベルのKITD816Vを発現する細胞はStat5の核へのトランスローケーションを誘導した。
【0175】
KITD816Vで一過的にトランスフェクトしたHEK293細胞からのSTAT5抗体での免疫沈澱、およびpY694 Stat5に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析は、KITD816Vの過剰発現がY694での内因性Stat5のリン酸化を引き起こすことを示した。
【0176】
これらの結果を一緒にすると、構成的に活性化されたKITがSCF−独立的にStat5活性化を誘導できることを示し、これは、構成的に活性化されたKIT受容体突然変異体の阻害剤についてのもう1つの解読を示唆する。
【0177】
KIT阻害剤がStat5の核へのトランスローケーションを妨げることによって働くかを判断するために、KITD816VでトランスフェクトされたHEK293細胞をスタウロスポリン(1μM)およびAS396773(10μM)と共にインキュベートし、免疫沈澱およびイムノブロットによってStat5トランスローケーションにつき評価した。ウェスタンブロットは、スタウロスポリンおよびAS396773が共に構成的に活性なKIT受容体によるStat5トランスローケーションを阻害したことを示した。
【0178】
これらの結果は、KIT阻害剤を同定するための細胞ベースのアッセイに加えて、Stat5が、候補阻害剤がKITのリン酸化を妨げ、KIT阻害剤として働くことを示す有用なマーカーであることを示す。
【0179】
実施例9
阻害剤に応答してのKITリン酸化の溶液ベースの測定
KIT突然変異体−発現細胞が固体支持体に結合された前記細胞ベースのアッセイは溶液ベースのアッセイを用いて行うこともできる。溶液中でこのアッセイを行う能力は、例えば、必ずしも接着性細胞ではない広い範囲の細胞型におけるKIT受容体活性化の測定を可能とする。溶液ベースのアッセイは、突然変異を含有する細胞型とは独立して、突然変異体KIT受容体を発現する患者から単離された細胞の測定をやはり容易とする。
【0180】
KITチロシンリン酸化の溶液ベースの測定は細胞内フローサイトメトリーによって評価される(Jung et al.,J.Immunol.Methods 173:219−228,1993)。HEK293細胞、または突然変異体KITを発現するいずれかの他の細胞株の細胞を、フローサイトメトリー分析に適した濃度、例えば、少なくとも1×10または2×10細胞/ウェルにおいて96−ウェル丸底プレートに入れる。この細胞濃度はルーチン的実験を用いて抗体および細胞型につき最適化される。突然変異体KIT−発現細胞は、前記したように、SCFで刺激するか、あるいは阻害剤のような候補KITモジュレーターと共に培養して、細胞内KITチロシンリン酸化を変調させる。
【0181】
ある時間の間のSCFまたは阻害剤の存在下での培養の後、KIT−発現細胞をホスホ−KIT特異的抗体と接触させる。細胞を遠心によって単離して、培地および阻害剤を除去し、再懸濁し、染色緩衝液(2%ヤギ血清、0.5%BSA、2mM EDTA、任意のアジドを含有するPBS)で洗浄する。次いで、細胞を100μLの4%パラホルムアルデヒドに再度懸濁し、暗所にて4℃にて20分間固定する。細胞を遠心および染色緩衝液中への2回の再懸濁によって洗浄し、1%サポニンを含有する100μLのPBSに再度懸濁して、細胞を浸透化させる。細胞を4℃にて15分間浸透化させる。次いで、細胞を染色緩衝液中で2回洗浄し、100μLの染色緩衝液に再度懸濁させる。次いで、前記したように細胞をKIT抗体および/またはpY823で染色して、活性化されたKIT受容体を検出する。細胞を再度洗浄し、フローサイトメーター分析のために、検出すべき細胞の数に応じて、200μL〜0.5mlの適当な容量の染色緩衝液に再度懸濁させる。製造業者のプロトコルに従い、細胞の固定および浸透化も商業的に入手可能な試薬で行うことができる(Cytofix/Cytoperm(商標)試薬,Pharmingen,Inc.,San Diego,CA)。表面抗原、すなわち、細胞特異的マーカーまたは形態学的マーカーの染色は固定工程前に行い、KIT特異的またはホスホチロシン抗体とは異なるチャネルにおいて抗体励起で染色されるであろう。多色フローサイトメトリー分析は、製造業者のプロトコルに従い、FACScan(登録商標)またはFACScalibur(登録商標)(Becton Dickinson)のようなフローサイトメーターで行う。
【0182】
1つの実施形態において、KITWT、KITD816V、KITΔK550−558またはいずれかの他の臨床的に関連するKIT突然変異体を発現するベクターで安定にトランスフェクトされたHEK細胞を候補モジュレーター(例えば、阻害剤)と共に培養し、本明細書中に記載されたようにフローサイトメトリーのために収穫する。D816V−発現細胞またはKITΔK550−558−発現細胞におけるpY823抗体に由来するシグナルの減少は、自動リン酸化を効果的に阻害する候補モジュレーターは構成的に活性なKIT受容体をブロックし、肥満細胞症および他の肥満細胞病の治療において有用な治療剤の候補であることを示す。
【0183】
他の実施形態において、細胞は、肥満細胞障害、肥満細胞病に由来する白血病、または他の関連腫瘍を呈する患者から単離し、フローサイトメトリーによるKIT受容体分析のために調製する。フローサイトメトリー方法の利点は、接着性および非接着性細胞タイプ双方の多数の細胞タイプを細胞内フローサイトメトリーによる染色に適合できることである。これは、肥満細胞障害を示す患者から直接的な、構成的に活性なKIT受容体突然変異体の検出、および候補阻害剤による阻害に対する受容体の感受性の分析を可能とする。
【0184】
候補阻害剤に対する、リガンド−独立的に活性化されたKITを含めた活性化されたKIT受容体を発現していることが知られた、または発現していることが疑われる細胞の暴露の結果としてのチロシンリン酸化の減少は、特定の阻害剤がその特定の患者を治療するのに有用であることを示す。これらの細胞ベースのアッセイは、個々の患者の病気を予防し、またはそれに関連する少なくとも1つの兆候を軽減するにおいて特異的に効果的であるKITモジュレーター(例えば、阻害剤)を同定することによって、特定の肥満細胞障害を持つ患者の治療に個人的に仕立て上げることができる多様な治療的アプローチを提供する。
【0185】
実施例10
細胞ベースの高スループットスクリーニングで同定された阻害剤を用いる肥満細胞障害の治療
肥満細胞障害についての治療は、典型的には、非特異的キナーゼ阻害剤、または癌関連病を治療するように設計された他の治療に基づく。例えば、肥満細胞症はしばしばガストロクロム(Gastrocrom)(Aventis,Inc.)で治療されるが、この試薬は病気の進行した形態に対しては効果的でない。肥満細胞障害に関連する白血病は非特異的治療で治療され、例えば、AMLはしばしばシタラビンまたはアントロサイクリンのようなDNA合成阻害剤で治療される。KITD816H突然変異を呈する染色細胞腫瘍は、しばしば、ブレオマイシンまたはシスプラチンのような特異的標的化を欠く治療剤で治療され、おそらくは、肺毒性または腎臓損傷を引き起こす。
【0186】
高スループットスクリーニングにおける突然変異体KIT受容体に対して効果的と同定された阻害剤は、それを必要とする対象への投与のために医薬組成物へと開発することができる。KIT阻害剤は、治療すべき肥満細胞障害のタイプに応じて、投与に適したいずれかの経路によって投与することができる。本発明のスクリーニング方法によって同定された阻害剤は、肥満細胞障害または癌の治療用の他の療法と組み合わせて投与することができる。本発明によるスクリーニング方法によって同定されたKIT阻害剤での治療に使用できる異常な肥満細胞増殖によって特徴付けられる肥満細胞障害または癌は、限定されるものではないが、肥満細胞症、肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫、生殖細胞腫瘍、胃腸間質腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、洞鼻リンパ腫、卵巣腫瘍、乳房腫瘍、小肺細胞癌腫、神経芽細胞腫、およびメラノーマを含む。
【0187】
スクリーニング方法によって同定された阻害剤は、Ryan et al.(Oncologist 7:531−38,2002)に記載されたように、必要とする患者に投与することができる。阻害剤は、当分野で知られており、または容易に判断されるように、患者のサイズ、性別、および体重などにつき適当な用量にて、例えば、1.5mg/m、400mg、800mgの標的用量、または他の適当な用量で投与される。阻害剤の引き続いての用量は、療法に対する特定の患者の応答に取り組むために増加または減少させることができる。患者は、最大許容用量(MTD)が決定されるまで上昇させる用量のKIT受容体阻害剤を受けることができる。MTDは、3人の患者のうち少なくとも2人、または6人の患者のうち少なくとも2人のような、受容者の確立された割合が用量−限界毒性を経験するに先行する用量と定義される。
【0188】
阻害剤は、例えば、静脈内送達を介して、または遅延放出方法によって、延長された間連続的に投与することができる。投与は4〜24時間以上継続することができ、ルーチン的実験を用いて最適化可能である。阻害剤は延長された治療を必要としない持続の間に与えることもできる。加えて、阻害剤は、当業者によって決定できるように、毎日、毎週、2週間ごとに、または他の頻度にて投与することができる。
【0189】
1つのアプローチにおいて、治療の有効性は、腫瘍のサイズの減少を測定することによって評価された腫瘍退行の程度と共に腫瘍面積のコンピュータートモグラフィー(CT)スキャンによって決定される。バイオプシーまたは血液試料を用いても、KIT受容体阻害剤での治療に応答しての特定の細胞型の存在または非存在を評価する。これらの応答評価は、治療のコースの間に周期的に行って、与えられた両方に対する患者の応答をモニターする。
【0190】
胃腸間質腫瘍(GIST)は数個の構成的に活性化されたKIT受容体突然変異体に関連付けられる。GISTを示す患者は本発明のスクリーニング方法によって同定されたKIT阻害剤で治療される。治療する医師によって決定されるKIT阻害剤の適当な用量は先に記載されたように投与される。例示的な治療用量は、毎日の、250mg〜1000mgKIT阻害剤の範囲を含むことができる。毎日の400〜600mgの範囲はグリベックの投与で用いられてきた。患者は毎日2回阻害剤を受けることができ、治療は1週間、1ヶ月まで、または2ヶ月まで続けることができる。治療剤は毎週の間隔で、または2週間の間隔で投与することもできる。治療剤は必要であれば再度投与することができる。
【0191】
KIT阻害剤療法の効率は、腫瘍グレード毒性の改良に基づいて、または腫瘍進行の減少した速度に基づいて、腫瘍グレード毒性、腫瘍サイズおよび有糸分裂細胞カウントの測定によって評価して、GISTを呈する患者において測定される(Strickland et al.,Cancer Control,8:252−261,2001;Fletcher et al.,Human Pathology 33:459−465,2002)。GISTはグレード1−4のスケールでスコア取りされ、4は最も酷い腫瘍タイプである。該グレードは形態学的兆候、腫瘍サイズ、および細胞カウントに基づく。患者は、分裂する腫瘍形成細胞の減少の指標である、腫瘍スコアの減少ならびに有糸分裂細胞数の減少につき評価される。
【0192】
本発明の方法によって同定されたKIT阻害剤での治療の後における腫瘍スコアの改良および患者の予後は、該スクリーニング方法が、病気に関連する兆候の酷さを減少することによるなどして、GISTを有する患者を効果的に治療することができる化合物を同定することを示す。本明細書中に開示された方法によって同定されたKIT阻害剤は、異常なKITチロシンキナーゼ受容体の発現によって特徴付けられる他の癌の治療において治療的に有用であると予測される。
【0193】
KIT受容体阻害剤は単独で、あるいは他の化学治療剤と、ならびに特定の治療計画のいずれかの副作用を減少させるよう設計された治療と組み合わせて投与されるであろうと考えられる。
【0194】
本発明をその特別な実施形態と関連して記載してきたが、さらなる修飾が可能であり、本出願は、一般に本発明の原理に従う本発明のいずれの変形、使用または適合も網羅することを意図し、本発明が関する分野内の公知のまたは慣用的プラクティス内に入る本発明の開示からのそのような逸脱も含み、前記した構成要件に適用でき、添付の請求の範囲の範囲に従うことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性なKITチロシンキナーゼ受容体を含む細胞を候補阻害剤と接触させ;次いで、
(b)ホスホチロシン特異的抗体を用いることによってKIT活性を検出して、前記阻害剤の存在下および非存在下におけるKITチロシンリン酸化の量を決定することを含み、
ここで、その非存在におけるKITチロシンリン酸化と比較した前記候補阻害剤の存在下におけるKITチロシンリン酸化の減少は、候補阻害剤をKIT阻害剤として同定する、細胞中の活性なKITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤をスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記KITチロシンキナーゼ受容体が構成的に活性である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
構成的に活性なKITチロシンキナーゼ受容体がホスホトランスフェラーゼチロシンキナーゼドメインにおいて突然変異を有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
突然変異がKITチロシンキナーゼドメインの活性化ループにある請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記構成的に活性なKITチロシンキナーゼ受容体が膜近接ドメインに突然変異を有する請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記突然変異が配列番号2のアミノ酸550〜558の欠失である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記構成的に活性なKITチロシンキナーゼ受容体が細胞外ドメインに突然変異を有する請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記突然変異が配列番号2におけるAY502−503の置換突然変異である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記KITチロシンキナーゼ受容体が、配列番号2、4および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記KITチロシンキナーゼ受容体が、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記KITチロシンキナーゼ受容体が配列番号2の位置816において置換されたアミノ酸を含む請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記置換されたアミノ酸がバリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシンまたはグリシンからなる群より選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記置換されたアミノ酸がバリンである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記活性なKITチロシンキナーゼ受容体を含む細胞が固体支持体に結合される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
さらに、候補阻害剤の存在下および非存在下において、前記細胞の細胞形態、細胞骨格再編成、または核染色を検出することを含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ホスホチロシン特異的抗体がモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単一鎖抗体、および抗体断片からなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ホスホチロシン特異的抗体がpY823である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ホスホチロシン特異的抗体が前記KITチロシンキナーゼ受容体の自動リン酸化部位に結合する請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ホスホチロシン特異的抗体が検出可能に標識される請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記検出可能な標識がフルオロフォアまたは放射性標識である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
検出工程がフローサイトメトリーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記活性なKITチロシンキナーゼ受容体が異種ベクターから発現される請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記活性なKITチロシンキナーゼ受容体が細胞に対して内因性である請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が腫瘍から単離される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記腫瘍が肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫、生殖細胞腫瘍、胃腸間質腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄性単球性白血病(CMML)、洞鼻リンパ腫、卵巣腫瘍、乳房腫瘍、小肺細胞癌腫、神経芽細胞腫、およびメラノーマからなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ホスホチロシン抗体、および前記阻害剤につき請求項1に記載のスクリーニングを行うための指示書を含む活性KITチロシンキナーゼ受容体の阻害剤をスクリーニングするためのキット。
【請求項27】
請求項1に記載の方法に従って同定された阻害剤を投与することを含む、肥満細胞症、肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫、生殖細胞腫瘍、胃腸間質腫瘍、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄性単球性白血病(CMML)、洞鼻リンパ腫、卵巣腫瘍、乳房腫瘍、小肺細胞癌腫、神経芽細胞腫、およびメラノーマからなる群より選択される疾患の治療方法。
【請求項28】
(a)肥満細胞障害を持つ患者から細胞を単離し、前記細胞は活性KITチロシンキナーゼ受容体を含み;
(b)請求項1の方法によって同定されたKIT阻害剤と前記細胞とを接触させ;
(c)ホスホチロシン特異的抗体を用いて前記細胞におけるKIT活性を検出して、前記阻害剤の存在下および非存在下においてKITチロシンリン酸化の量を決定し;次いで、
(d)前記患者においてKIT活性を特異的に阻害するKIT阻害剤を投与することを含む前記患者のための治療計画を設計することを含む、肥満細胞障害を持つ患者のために治療計画を設計する方法。

【公表番号】特表2007−517502(P2007−517502A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542794(P2006−542794)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/040547
【国際公開番号】WO2005/057223
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(599177396)アプライド リサーチ システムズ エーアールエス ホールディング ナームロゼ フェンノートシャップ (70)
【Fターム(参考)】