説明

活性エネルギー線照射装置

【課題】 本発明は活性エネルギー線照射室内の不活性ガス濃度を維持し、かつ照射室の入口および出口から不活性ガスが外部に漏れることを防ぐことができる照射装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の活性エネルギー線照射装置は、不活性ガスが供給される照射室内に被照射物が導入される入口部及び被照射物が送り出される出口部に、照射室内の気体の排気口を有する。また本発明の活性エネルギー線照射装置においては、照射室内への不活性ガスの供給量を毎分A立方メートル、入口部の排気量を毎分B立方メートル、そして出口部の排気量を毎分C立方メートルとした場合に、A<B+CかつB<Cとするのが好適である。さらにB+CがAの10倍以上であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス濃度を高めた照射室内で、活性エネルギー線硬化型塗料を硬化するために活性エネルギー線を照射する装置であって、該不活性ガスの漏出による周辺の酸欠等の危険を防止する機構を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の活性エネルギー線で硬化する塗料の塗膜を硬化するための活性エネルギー線照射装置において、照射時に酸素が塗膜近傍に存在すると、塗膜が硬化する上での障害となることがある。照射室内が通常の空気で満たされている場合等がこれに該当する。
【0003】
この障害を防止して塗膜を効率よく硬化するために、照射室内に窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガスが照射室内に供給される場合がある。
【0004】
この装置においては、照射装置に供給された窒素ガス等の不活性ガスが照射装置周辺の作業場に漏出すると、周辺で酸欠等の危険が生じるおそれがある。
【0005】
酸欠防止のために照射装置にその内部の気体を排気するための排気口が設けられることがあるが、この場合には給気量と排気量のバランスを適正に保つ必要がある。例えば排気量が給気量よりも少ない場合は不活性ガスが照射装置の周辺に漏れ出してしまう。また排気量が多すぎると、照射室内の気流の具合によっては室内の不活性ガスの濃度が低くなり、前記の硬化不良の問題が発生する。
【0006】
特許文献1には紫外線を照射してオゾンを発生させ、半導体の有機物除去等を行う照射装置において、オゾン濃度を均一化し、不要なオゾンを効率よく除去する装置が記載されている。この発明はオゾン処理を効率よく、均一に行うためのものであり、装置外へのオゾンの漏出については記載されていない。
【0007】
特許文献2には紫外線照射装置において、ランプの発する高熱によって排気用のモータやファン等が劣化することを防止する装置が記載されている。この発明では不活性ガスの使用については記載されていない。
【0008】
特許文献3には紫外線照射装置において、ランプを消灯後、再び点灯する前にランプを冷却しなければならないが、その冷却時間を短縮する発明が記載されている。圧縮空気を用いたランプの冷却機構についてであり、不活性ガスの使用については記載されていない。
【0009】
【特許文献1】特開平5−131133号公報
【特許文献2】特開平6−47896号公報
【特許文献3】特開平7−289969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は活性エネルギー線照射室内の不活性ガス濃度を維持し、かつ照射室の入口および出口から不活性ガスが外部に漏れることを防ぐことができる照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、不活性ガスが供給される照射室内で活性エネルギー線を照射する装置において、該照射室に被照射物が導入される入口部及び被照射物が送り出される出口部のそれぞれ近傍に、該照射室内の気体の排気口を設けることにより、外部への不活性ガスの漏れ出しを大きく減らすことができることを見出した。さらに照射室内への不活性ガスの供給量以上に排気することによって、外部への不活性ガスの漏れ出しを一層減らすことができ、作業者の安全が確保されることを見出した。
【0012】
すなわち本発明の活性エネルギー線照射装置は、不活性ガスが供給される照射室内に被照射物が導入される入口部及び被照射物が送り出される出口部に、該照射室内の気体を排気する排気口を有することを特徴とする。
【0013】
また本発明の活性エネルギー線照射装置においては、照射室内への不活性ガスの供給量を毎分A立方メートル、入口部の排気量を毎分B立方メートル、そして出口部の排気量を毎分C立方メートルとした場合に、A<B+CかつB<Cとするのが好適である。さらにB+CがAの10倍以上であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の活性エネルギー線照射装置により、該照射装置周辺への不活性ガスの漏れ出しを減らすことができ、その漏れ出しによる作業者への酸欠の危険を減らすことができる。
【0015】
また照射室の出入り口の近傍で排気しているので、排気される気体は照射室の外側の空気が主であり、内部の不活性ガスを過剰に排気して照射室内のガス濃度を下げすぎることが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に使用される活性エネルギー線照射装置は、ランプ室と照射室との間がガラス等で隔てられているものが好ましい。これはランプの汚れを防止することが主目的である。また、前記照射室の入口部と出口部に排気口が設けられる。排気口の位置は入口部及び出口部にできるだけ近い位置とするのが好ましい。
【0017】
搬送用コンベアのスピードや被照射物のスピードによって、照射室内に巻き込まれる空気量が変化するため、前述の入口部と出口部の排気口の排気量がそれぞれ独立して調節できることが望ましい。
【0018】
炭酸ガスのように空気よりも比重の大きなガスを不活性ガスとして使用する場合は、照射室は不活性ガスが滞留しやすいように、入口部及び出口部よりも低い位置にあることが好ましい。この構造においても、排気口の位置は前記のように入口部及び出口部にできるだけ近い位置とするのが好ましい。また照射室が低い位置にある場合は、照射室の入口側、出口側の経路において照射室より高い位置の部分があるので、その高い部分に排気口を設けることも好ましい。このようにすることにより炭酸ガスが無駄に排気されることを減らすことができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合の実施例]
本発明の照射装置の一実施例を図1に示す。図1の装置においては不活性ガスに窒素ガスを用いることを想定している。この例の装置では、ランプの冷却を兼ねて、不活性ガスはランプ室を経由して照射室内に供給される構造になっている。被照射物は搬送コンベア(6)に載せられて照射室内を移動する。この装置で紫外線ランプによる照射運転を行い、そのときの窒素ガスの供給量(11の流量、これは2か所の10の流量の合計である)、入口部の排気量(12の流量)、出口部の排気量(13の流量)のバランスを変え、入口部の空気流入量(8の流量)、出口部の空気流入量(9の流量)、ランプ(3)直下の照射室内の酸素濃度、装置外の近傍の酸素濃度を測定した。その結果を表1に示す。尚、数値が負の値の場合は流出を示す。窒素ガスの供給量(11)は前記のAに、入口部の排気量(12)は前記のBに、出口部の排気量(13)は前記のCに相当する。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より、実施例1〜3に比べて比較例1では照射ランプ直下の酸素濃度が高く、塗膜の硬化が阻害される恐れがある。また比較例2では照射装置の入口部、出口部の酸素濃度が低く、装置周辺における酸欠の危険がある。
【0023】
[不活性ガスとして炭酸ガスを用いる場合の実施例]
図2は不活性ガスに炭酸ガス(空気に対する比重が1より大きい)を用いる場合の一実施例である。被照射物は搬送用レール(7)につるされて照射室内を移動する。レールはガラス窓(5)を遮らないように取り付けられている。この装置で紫外線照射運転を行い、そのときの炭酸ガスの供給量(2か所の10の流量の合計)、入口部排気量(12の流量)、出口部排気量(13の流量)のバランスを変え、入口部の空気流入量(8の流量)、出口部の空気流入量(9の流量)、ランプ(3)直下の照射室内の酸素濃度、装置の入口部の外側近傍の酸素濃度を測定した結果を表2に示す。尚、数値が負の値の場合は流出を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2より、実施例4〜6に比べて比較例3では照射ランプ直下の酸素濃度が高く、塗膜の硬化が阻害される恐れがある。また比較例2では照射装置の入口部、出口部の酸素濃度が低く、装置周辺における酸欠の危険がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合の本発明の照射装置である。
【図2】不活性ガスとして炭酸ガスを用いる場合の本発明の照射装置である。
【符号の説明】
【0027】
1 活性エネルギー線照射室
2 活性エネルギー線ランプ室
3 活性エネルギー線ランプ
4 活性エネルギー線ランプの反射板
5 活性エネルギー線を透過するガラス板
6 被照射物を搬送するコンベア
7 被照射物を吊り下げて搬送するレール
8 入口部からの空気の流れ
9 出口部からの空気の流れ
10 照射室内への不活性ガスの供給
11 ランプ室に供給される不活性ガス
12 入口部の排気
13 出口部の排気
14 被照射物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスが供給される照射室内で活性エネルギー線を照射する装置において、該照射室に被照射物が搬入される入口部及び被照射物が送り出される出口部に、該照射室内の気体の排気口を有することを特徴とする活性エネルギー線照射装置。
【請求項2】
照射室内への不活性ガスの供給量を毎分A立方メートル、
入口部の排気量を毎分B立方メートル、
出口部の排気量を毎分C立方メートルとした場合に、
A<B+CかつB<Cである請求項1に記載の活性エネルギー線照射装置。
【請求項3】
B+CがAの10倍以上である請求項2に記載の活性エネルギー線照射装置。
【請求項4】
活性エネルギー線が紫外線である請求項1に記載の活性エネルギー線照射装置。
【請求項5】
不活性ガスが、窒素ガス、二酸化炭素ガス及びアルゴンガスから成る群から選ばれる1種以上の不活性ガスである請求項1〜4のいずれかに記載の活性エネルギー線照射装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−204970(P2006−204970A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16711(P2005−16711)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】