活性炭の処理方法と、処理済み活性炭と、処理済み活性炭を使用している蓄電装置
【課題】 細孔壁で電解液の分解が抑制されるように活性炭を改質する方法と、そのような処理で得られる活性炭と、その活性炭を利用し、出力と容量の低下が長期間にわたって抑制される蓄電装置を提供すること。
【解決手段】 本発明は、活性炭の細孔壁を改質する方法に具現化される。
本処理方法は、細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭をアミン系化合物に接触させる工程(ステップS2)と、アミン系化合物に接触させた活性炭を高粘性の酸に浸漬する工程(ステップS3)と、酸から取り出した活性炭を低粘性の処理液に浸漬する工程(ステップS4)を備えている。
【解決手段】 本発明は、活性炭の細孔壁を改質する方法に具現化される。
本処理方法は、細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭をアミン系化合物に接触させる工程(ステップS2)と、アミン系化合物に接触させた活性炭を高粘性の酸に浸漬する工程(ステップS3)と、酸から取り出した活性炭を低粘性の処理液に浸漬する工程(ステップS4)を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の処理方法と、処理済み活性炭と、処理済み活性炭を使用している蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの蓄電装置では、電極の表面積が広いと、広い範囲で電気二重層効果が得られるので、大電流を確保することができる。
活性炭は、単位重量当たりの比表面積が広いために、電極の表面積を広くするのに適している。例えば、特許文献1に開示されているリチウム二次電池は、正極に活性炭を含んでいる。特許文献1のリチウム二次電池は、初期出力と初期充放電容量が大きい。
【0003】
【特許文献1】特開2002−260634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極に活性炭を含むリチウム二次電池を製作してみると、リチウム二次電池の使用開始直後には出力と容量を増大させることができるものの、使用時間の経過に伴って、出力と容量が顕著に低下してしまう。
発明者らの研究によって、出力と容量が低下する理由は、活性炭の細孔に原因があることがわかった。活性炭は、多数の細孔を有している。有機電解液は、活性炭の細孔にも入り込む。細孔に入り込んだ有機電解液は循環しづらくなり、細孔壁に接触し続ける。有機電解液を構成する分子は、活性炭に長期に接触し続けると、分解し易くなる。さらに、電池の充放電に伴う電気的な作用が活性炭に加わると、活性炭の細孔の中に電界が生じる。細孔壁に留まっている有機電解液は、電界の作用により分解してしまう。
リチウム二次電池は、密閉構造の電池である。リチウム二次電池は、有機電解液が分解するとガスが発生するために、リチウム二次電池内圧が上昇する。その結果、電池出力と電池容量が低下してしまう現象が生じる。
上記では、正極に活性炭を含むリチウム二次電池の場合を説明したが、電極に活性炭を含む蓄電装置では、一般的に、電解液が細孔壁で分解しやすい現象が生じる。
【0005】
本発明では、活性炭の細孔内で電解液の分解が抑制されるように細孔壁を改質する処理方法を提供する。
また本発明では、細孔内で電解液の分解が抑制されるように改質された活性炭を提供する。
また本発明では、細孔壁で電解液の分解が抑制されるように改質された活性炭を利用し、出力と容量の低下が長期間にわたって抑制される蓄電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、活性炭の細孔壁を改質する方法に具現化される。
本処理方法は、細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭をアミン系化合物に接触させる工程と、アミン系化合物に接触させた活性炭を高粘性の酸に浸漬する工程と、酸から取り出した活性炭を低粘性の処理液に浸漬する工程を備えている。
上記の高粘性は、活性炭の細孔に浸入できないほど高い粘性をいう。逆に低粘性は、活性炭の細孔に浸入できほど低い粘性をいう。
【0007】
本明細書の「細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭」は、活性炭の外周面と細孔壁の表面にカルボキシル基が吸着しているものを言う。たとえば賦活処理のように、製造過程でカルボキシル基が吸着した活性炭も、「細孔壁を含む表面がカルボキシル基が吸着している活性炭」に含まれる。
本明細書の「アミン系化合物」は、カルボキシル基と結合してアミノ化できる化合物であれば特に限定されない。例えば、一般的な1級〜4級アミンのほか、ジアミン、ヒドロキシルアミン、アミノアルコールも含まれる。
本明細書の「高粘性の酸」は、活性炭の細孔(開口径が100nm程度であることが多い)に浸入することができないほど高い粘性を有する酸性液体をいう。
本明細書の「処理液」とは、アミノ基と作用して絶縁性物質を生成する成分を含有する液体を言う。処理液の一例として、重合脂肪酸を含んでいる液体が挙げられる。このような処理液を用いる場合、アミノ基と重合脂肪酸が作用し、ポリアミド樹脂が生成する。処理液の他の例として、金属イオン等の陽イオンと、ハロゲン化物イオン、濃硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン等の陰イオンを含んでいる処理液が挙げられる。このような処理液を用いると、活性炭のアミノ基を有する領域に、前記陽イオンと陰イオンの塩が選択的に析出する。
【0008】
本発明の処理方法では、活性炭をアミン系化合物に接触させる工程で、活性炭の表面(細孔壁を含む表面)のカルボキシル基がアミノ化される。活性炭の細孔壁を含む表面は、アミン類が吸着する。ここで言う「アミン類」は、一般式が-COORNH2、-CONHRNH2、-CONHR、-CONRR’であらわされる弱アルカリ性の性質を有するものをいう。アミン類が活性炭表面に吸着していると、活性炭の表面が弱アルカリ性に偏る。
次にアミン類が表面に吸着している活性炭を高粘性の酸に浸漬する。酸と接触した部分のアミン類は、中和される。活性炭は、多孔質構造を有している。高粘性の酸は、細孔に入り込むことができない。活性炭の外周面のアミン類は酸によって中和されるが、活性炭の細孔壁のアミン類は酸によって中和されない。その結果、細孔壁にはアミン類が吸着しており、外周面は中和されている活性炭が得られる。
次いで、活性炭を高粘性の酸から引き上げ、その活性炭を処理液に浸漬する。処理液は、活性炭の細孔に浸入できる低粘性の液体であり、処理液中の成分と細孔壁のアミン類が作用して、絶縁性物質が生成される。この絶縁性物質は、最孔壁に強固に吸着する。
本処理方法によれば、細孔壁面には絶縁性物質からなる皮膜が形成されており、外周面には絶縁性物質が付着していないで活性炭が露出している活性炭を得ることができる。なお、絶縁性物質は細孔壁を覆うように皮膜が形成されていればよく、皮膜の状態は限定されない。例えば、鱗片形状に生成した絶縁性物質が重なり合うように皮膜を形成していてもよい。また、皮膜状の絶縁性物質の表面に絶縁性物質が析出し、細孔を部分的に充填している状態も、「細孔壁面に皮膜が形成されている」状態に含まれる。
本方法によって処理された活性炭は、細孔壁に絶縁性物質が付着しているため、細孔壁の活性が低い。また、細孔壁面に絶縁性物質の皮膜を有することから、細孔には電界が生じづらくなる。細孔に入り込んでいる電解液が分解されることを顕著に抑制することができる。
【0009】
本発明の処理方法では、高粘性の酸の粘性が0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であり、低粘性の処理液の粘性が0.0015Pa/sec以下であることが好ましい。
粘性が0.020Pa/sec以上の酸は、開口径が100nm程度である活性炭の細孔に浸入しづらい。酸の粘性が0.95Pa/sec以上となると、活性炭が分散しにくくなり、処理効率が悪くなる。高粘性の酸の粘性が0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であることが好ましい。一つの具体例としては、気温0℃の環境下の粘性が0.027Pa/secとなる濃硫酸を利用することができる。
粘性が0.0015Pa/sec以下の液体は、開口径が100nm程度である活性炭の細孔に浸入することができる。処理液の粘性が0.0015Pa/sec以下であれば、処理液を活性炭の細孔壁に接触させ、細孔壁の表面処理を行うことができる。
【0010】
本発明の好ましい処理方法では、金属元素を含有するイオンを含む処理液を用いる。
「金属元素を含有するイオン」には、金属単体の陽イオン(例えばNa+、Ca2+、Fe2+、Zn2+、Zr4+、Ti4+)と、金属元素を含む複合イオン(例えばTiO32-、AlO2-)が含まれる。
処理液に金蔵元素を含有するイオンが含まれていると、活性炭の細孔壁に金属化合物からなる絶縁性物質の皮膜を形成することができる。
【0011】
金属元素が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属元素を含んでいることが好ましい。本処理方法で処理された活性炭を、リチウム二次電池の電極に用いる場合、チタン、ジルコニウム、亜鉛は、充放電に係る電極反応を阻害しない。本発明の処理方法によって得られた活性炭は、リチウム二次電池の電極に適している。
【0012】
処理液に、リン酸イオンが含まれていると好ましい。処理液にリン酸イオンが含まれていると、活性炭の細孔壁に絶縁性の金属リン酸塩を析出させることができる。
【0013】
本発明の処理方法では、処理液にフッ素イオンが含まれており、pHが2以上で6以下であると好ましい。このような処理液を用いると、処理液の反応性が一定に保たれる。
【0014】
発明は、細孔壁が改質された活性炭に具現化することもできる。本発明の活性炭は、活性炭の外周面では活性炭が露出しており、細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有することを特徴とする。
「活性炭の外周面では活性炭が露出している」とは、活性炭の外周面の領域に、実質的に絶縁性物質が付着していないことを言う。「細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有する」こととは、細孔壁の略全体に絶縁性物質の皮膜が形成されている。したがって、細孔壁の僅かな領域に絶縁性物質の皮膜が形成されていない領域がある活性炭は、細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有する活性炭に含まれる。同様に、外周面の僅かな領域に絶縁性物質が付着している活性炭も、外周面が露出している活性炭に含まれる。
本発明の活性炭は、有機電解液がしみこんだ状態で用いられる電極に採用すると、電解液の分解が生じにくい。また、活性炭に電気的な作用が加えられても、細孔に電界が生じにくい。本発明の活性炭を用いると、細孔に入り込んでいる有機電解液の分解が抑制される。
【0015】
活性炭の細孔壁面に皮膜を形成している絶縁性物質は、無機金属化合物であると好ましい。無機金属化合物は、有機溶媒との反応性に乏しい。
無機金属化合物は、酸化物であってもよい。酸化物は、有機溶媒中に曝されても性質が安定している無機金属化合物の一つである。
無機金属化合物は、リン酸塩であってもよい。リン酸塩は、有機溶媒中に曝されても性質が安定している無機金属化合物の一つである。
【0016】
金属化合物は、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属を含んでいると好ましい。チタンやジルコニウムや亜鉛は、リチウム二次電池の電極反応を阻害する物質になりづらい。チタンやジルコニウムや亜鉛の化合物からなる絶縁性物質が細孔壁面に皮膜を形成している活性炭は、リチウム二次電池の電極材料に適している。
【0017】
本発明は、新規な蓄電装置をも提供する。本発明で提供される蓄電装置は、電解液が有機電解液であり、電極材料が上記したいずれかの活性炭を含んでいる。
前記したように、処理されていない活性炭の細孔に有機電解液が入り込んだ状態で放置されたり、活性炭に電気的な作用が加えられた場合、細孔に入り込んでいる有機電解液が分解する現象が生じる。本発明の活性炭を電極材料に採用すること、有機電解液の分解が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
最初に、以下に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)リチウム二次電池の電極材料が、細孔壁が改質された活性炭を含んでいる。
(特徴2)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性物質には、リン酸亜鉛(Zn3(PO3)2)が含まれている。
(特徴3)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性物質には、酸化ジルコニウム(ZrO2)が含まれている。
(特徴4)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性皮膜には、酸化チタン(TiO2)と酸化ジルコニウム(ZrO2)が含まれている。
(特徴5)処理液中の金属イオンの濃度が、5ppm以上で5000ppm以下になるように調製されている。
(特徴6)処理液中のフッ素イオン濃度が、0.1ppm以上で100ppm以下になるように調製されている。
(特徴7)活性炭の表面のカルボキシル基を誘導体化するアミンは、ジエチルアミンである。
(特徴8)活性炭表面のアミン類の中和に用いる高粘性の酸は、濃硫酸である。
(特徴9)活性炭は、めっき浴液中の不純物を取り除く処理に用いられる活性炭である。
【実施例】
【0019】
<第1実施例:活性炭の処理1>
本実施例では、活性炭の細孔壁にリン酸亜鉛を付着させ、細孔壁に絶縁性物質領域を形成した。
先ず、処理前の活性炭の形状について図1、2を用いて説明する。図1は、処理前の活性炭1を示す模式図である。図2は、活性炭1の断面図である。
図1、2に示すように、活性炭1は、多数の細孔14を有する多孔質物質である。細孔14は外周面12から内部に向けて形成されている。
【0020】
図3は、本実施例の活性炭処理方法に係る手順を示すフローチャートである。本実施例の処理手順について、図3を参照しながら説明する。
本処理では、先ず、細孔壁と外周面にカルボキシル基が吸着している活性炭1を用意した(図3のステップS1)。図4の部分断面図に示すように、活性炭1の外周面12と細孔14の壁にカルボキシル基が吸着している。活性炭1のカルボキシル基(-COOH)は、賦活処理の時に吸着したものである。
【0021】
次に、一般式がNH2-R-NH2で示されるジアミンを10w%含む水溶液を用意する。上記一般式中のRは、アルキル基である。本実施例では、ジアミンとして、エチレンジアミンを用いた。ジアミン溶液の液性は、弱アルカリ性である。ジアミン溶液に活性炭1を浸漬した(図3のステップS2)。
ジアミン溶液に浸漬して得られた活性炭2を図5に示す。図6は、活性炭2の部分断面図である。ジアミン溶液に活性炭1を浸漬すると、表面の-COOHとジアミンの一方のアミノ基が、脱水反応してアミド結合する。活性炭2の表面は-CO-NH-R-NH2の領域16で覆われる。
【0022】
次に、活性炭2を濃硫酸に浸漬した(図3のステップS3)。濃硫酸を0℃の環境下で使用したために、濃硫酸の粘性は0.027Pa/secであった。
濃硫酸に浸漬して得られた活性炭3の構造を模式的に示す断面図を図8に示し、その部分断面図を図7に示す。濃硫酸は、高粘性であるので、活性炭2の細孔14に浸入できない。活性炭2の外周面12の-CO-NH-R-NH2は、濃硫酸と反応して、-CO-NH-R-NH-HSO3を生成する。ステップS3の処理で得られた活性炭3には、外周面に-CO-NH-R-NH-HSO3領域18が形成される。この-CO-NH-R-NH-HSO3領域18は活性が低いので、活性炭3の外周面12の反応性が低くなる。
一方、濃硫酸は細孔14に浸入できないので、細孔壁の-CO-NH-R-NH2は、濃硫酸と反応しない。したがって、活性炭3の細孔壁は、-CO-NH-R-NH2領域17が形成された状態に保たれる。
【0023】
次に、ステップS3で得られた活性炭3を処理液に浸漬した(図3のステップS4)。本実施例において、処理液は、亜鉛イオンの濃度が(Zn)1300ppmあり、リン酸イオン(PO43-)の濃度が12500ppmであり、フッ素イオン(F-)の濃度が200ppmとなるように調製されたものを用いた。
処理液は、常温で粘性が0.0006〜0.0013Pa/secになるように調製した。処理液を上記の範囲の粘性に保つことで、活性炭3の細孔14に処理液を浸入することができる。
また、処理液は、pHが2〜6になるように調製した。
【0024】
活性炭3を上記の処理液に浸漬すると、活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面17の-CO-NH-R-NH2は、NにH+が配位して、-CO-NH-R-NH3+領域19を形成する(この段階が図9に図示されている)。-CO-NH-R-NH3+領域19は、+の電荷を帯びた状態になる。そのために、処理液中に含まれるPO33-は、+の電荷を帯びている細孔壁に引き寄せられる。そして、細孔壁に引き寄せられたPO33-とZn2+が反応してZn3(PO3)2を生成する。これにより、Zn3(PO3)2が、CO-NH-R-NH3+が形成されている細孔壁の領域に選択的に析出する。この段階で、細孔14の細孔壁に、Zn3(PO3)2領域20が形成される(この段階が図10に図示されている)。Zn3(PO3)2は、絶縁性物質である。細孔14の細孔壁にZn3(PO3)2領域20が形成されることで、活性炭4の細孔14内の活性が低くなる。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭4を得た。
【0025】
<第2実施例:活性炭の処理2>
本実施例は、活性炭の細孔の細孔壁に酸化ジルコニウム(ZrO2)を付着させ、絶縁性物質の皮膜を形成する。本実施例の処理手順では、処理液の成分が異なる他は、第1実施例と同様である。本実施例の処理手順は、第1実施例の活性炭を濃硫酸に浸漬して活性炭3を得る工程までは同様の手順なので、重複する説明及び図面は省略する。
【0026】
先ず、本実施例の処理液の調製方法について説明する。本実施例の処理液は、先ず、オキシ硝酸ジルコニウム溶液と硝酸を用いて、ジルコニウム濃度が200ppmである水溶液を調製した。この水溶液に、フッ化水素酸(HF)を注入してフッ素イオン濃度が50ppmとなるように調製した。さらに水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて、処理液を調製した。処理液は、NaOHの添加によりpHを略3に調製した。
【0027】
そして、活性炭3を処理液に浸漬する。活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面18の-CO-NH-R-NH2は、H+が配位して、-CO-NH-O-R-NH3+となる。処理液中に含まれるZrイオンは、酸化されてZrO2を形成し、CO-NH-R-NH3+が形成されている領域に選択的に析出する。細孔14の細孔壁には、ZrO2領域21が形成される(この段階が図11に図示されている)。ZrO2領域21は、絶縁性皮膜が形成されている領域である。ZrO2領域21が形成されることで、活性炭5は、細孔14内の活性が低い。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭5を得た。
【0028】
<第3実施例:活性炭の処理3>
本実施例は、活性炭の細孔の細孔壁に酸化ジルコニウム(ZrO2)と酸化チタン(TiO2)を付着させ、絶縁性物質の領域を形成する。本実施例の処理手順において、処理液の成分が異なる他は、第1実施例と同様である。本実施例の処理手順は、第1実施例の活性炭を濃硫酸に浸漬して活性炭3を得る工程までは同様の手順なので、重複する説明及び図面は省略する。
【0029】
先ず、本実施例の処理液の調製方法について説明する。本実施例の処理液は、先ず、ヘキサフルオロジルコン酸(IV)水溶液と濃硫酸チタン(IV)水溶液と、濃硫酸カルシウムと硝酸を用いて、ジルコニウム濃度が1000ppm、チタン濃度が2000ppm、カルシウム濃度が5ppm、硝酸根が1000ppmの水溶液を調製した。この水溶液に水酸化カリウム(KOH)とフッ化水素酸(HF)を用い、pHが略5になるように処理液を調整した。HFはフッ素イオン濃度が2250ppmになるように注入した。
【0030】
そして、活性炭3を処理液に浸漬する。活性炭3を上記の処理液に浸漬すると、活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面18の-CO-NH-R-NH2は、H+が配位して、-CO-NH-R-NH3+となる。処理液中に含まれるZrイオンは酸化してZrO2を形成し、Tiイオンは酸化してTiO2を形成する。ZrO2とTiO2イオンは、CO-NH-R-NH3+が形成されている領域に選択的に析出する。細孔の壁面に、ZrO2とTiO2からなるZrO2+TiO2領域22が形成される(この段階が図12に図示されている)。細孔14の細孔壁にZrO2+TiO2領域22が形成されている活性炭6は、細孔14内の活性が低い。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭6を得た。
【0031】
<第4実施例:リチウム二次電池の製造>
第1実施例で得られた活性炭4を正極に含む、リチウム二次電池(1)を製造した。
先ず、正極板の製作手順について説明する。
先ず、第1実施例で得られた活性炭4と、正極活物質と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるフッ素系樹脂(テトラフルオロエチレン)を水と混合して正極活物質ペーストを調製した。正極活物質には、リチウムニッケルコバルト複合酸化物を用いた。アルミニウム集電箔の両面に上記で得られた正極活物質ペーストを連続的に塗布し、乾燥した。このようにして正極シートを作製した。この正極シートを長尺形状に切り出し、リチウム二次電池(1)の正極板を製作した。正極板の端部には、正極リードを溶接した。
【0032】
次に、負極板の製作手順について説明する。
グラファイト活物質と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)を水と混合して負極活物質ペーストを調製した。銅集電箔の両面に上記で得られた負極活物質ペーストを塗布し、乾燥した。このようにして負極シートを作製した。この負極シートを長尺形状に切り出し、リチウム二次電池(1)の負極板を製作した。負極板の端部には、負極リードを溶接した。
【0033】
次いで、セパレータを介した状態で正極板と負極板を重ね合わせて捲回する。セパレータには、微孔性ポリエチレンで構成された多孔質シートを使用した。正極板とセパレータと負極板からなる積層シートを捲回して捲回型電極体を作製した。電極体は、負極リードと正極リードが電池ケースの外方に引き出されるように、電池ケースに収容した。次いで、電池容器内に電解液を減圧注入した。電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる一般的な電解液等を用いることができる。ここではエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)の70:30(質量比)の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた電解液を用いた。このようにして、活性炭4が備えられているリチウム二次電池(1)を製造した。
【0034】
<比較例:比較用リチウム二次電池の製造>
本比較例は、細孔に絶縁性皮膜を形成する処理を行う前の活性炭1を正極に備えたリチウム二次電池(2)を製造した。本比較例は、正極に備える活性炭が活性炭1であることを除くと、第4実施例で製作したリチウム二次電池(1)の製造手順と同様である。本比較例では、リチウム二次電池(2)の製造に関する説明を省略する。
【0035】
<実験例:リチウム二次電池の保存試験>
本実験例では、実施例4で製造したリチウム二次電池(1)と比較例で製造したリチウム二次電池(2)を用いて、保存実験を行った。保存実験の手順は、次の通りである。
先ず、リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)の初期の出力を測定した。出力は、−10℃の低温条件における低温出力と、25℃の常温条件における常温出力を測定した。
次いで、リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)を60℃の恒温槽に入れ、100時間保持した。
その後リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)を恒温槽から取り出し、低温出力と常温出力を測定した。保存実験の結果を表1に示す
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、保存試験前の放電容量は、リチウム二次電池(1)、(2)ともに同等の容量が確保された。また、保存試験前の出力は、リチウム二次電池(1)、(2)ともに同等の出力が確保された。上記第1実施例の活性炭の処理の有無にかかわらず、活性炭を正極に備えているリチウム二次電池は、同等の初期出力と初期放電容量が得られることがわかった。
保存試験後の放電容量変化率は、リチウム二次電池(1)が96.33%であり、リチウム二次電池(2)が95.57%であった。放電容量変化率は、第1実施例の処理が施されているリチウム二次電池(1)のほうが僅かに改善されていることがわかった。
保存試験後の低温出力変化率は、リチウム二次電池(1)が70.59%であり、リチウム二次電池(2)が63.64%であった。低温出力変化率は、リチウム二次電池(1)がリチウム二次電池(2)よりも約7%改善されていることがわかった。保存試験後の常温出力変化率は、リチウム二次電池(1)が67.09%であり、リチウム二次電池(2)が63.75%であった。常温出力変化率は、リチウム二次電池(1)がリチウム二次電池(2)よりも約3%改善されていることがわかった。
【0038】
本実験例の結果から、細孔の細孔壁に絶縁性皮膜が形成されている活性炭を正極に備えたリチウム二次電池は、保存特性に優れることがわかった。リチウム二次電池(2)は、有機電解液が活性炭の孔内に浸入しても細孔壁でその有機電解液が分解しにくい。活性炭の細孔壁で、有機電解液の分解によるガスが発生しにくい。電池内圧が上昇すると、リチウム二次電池の内部抵抗が上昇する。リチウム二次電池(1)は、有機電解液の分解によるガスの発生が抑制されているので、リチウム二次電池(1)の電池内圧は上昇しにくい。結果、リチウム二次電池(1)は、内部抵抗の上昇が抑制され、保存試験後の出力も維持されたものと考えられる。
【0039】
一方、比較例であるリチウム二次電池(2)は、細孔の細孔壁に絶縁性皮膜が形成されていない。このため、保存試験中に活性炭の細孔壁部で有機電解液が分解し易い。本実験例の結果、リチウム二次電池(2)は、保存試験後に低温出力及び常温出力の低下が見られた。これは、活性炭の細孔に入り込んだ有機電解液が保存試験中に分解し、電池内圧が上昇したことに起因すると思われる。リチウム二次電池(2)は、電池内圧が上昇した結果、電池の内部抵抗が上昇し、保存試験後の出力が低下したものと思われる。
本実験例の結果から、第1実施例の処理で得られた活性炭4を正極材料に備えると、保存試験後の出力低下が抑制されることがわかった。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0041】
例えば、上記実施例では、リチウム二次電池を示したが、本発明の活性炭は、めっき用の浴液の不純物除去に使用してもよい。
【0042】
電解めっき、無電解めっきの手法を問わず、めっき浴の浴液に不純物が混入していると、めっき処理中にガスが発生したり、めっき膜厚が不均一になる不具合が生じる。このため、浴液は、不純物を取り除く浄化処理が行われる。浄化処理前の浴液には、有機系不純物と無機系不純物が混入している。有機物系不純物は、活性炭処理によって除去される。この浄化法は、活性炭が有機物を吸着する性質を利用した方法である。無機物系不純物は、弱電解処理によって分解される。めっき材料の金属よりも電位の低い金属は、弱電解処理によって除去される。
【0043】
活性炭処理に従来の活性炭(細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されていない活性炭)を用いる場合、活性炭処理と弱電解処理を同期して行うことができなかった。活性炭は、細孔壁にも有機系不純物を取り込む。弱電解処理を行うと、活性炭に電気的な作用が加わる。細孔に有機系不純物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わると、細孔壁に電界が生じ、有機系不純物が細孔から再び浴液に溶解する現象が生じる。
【0044】
活性炭処理に本発明の処理が施された活性炭を用いると、活性炭処理と弱電解処理を同期して行うことができる。本発明に係る活性炭(細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されていない活性炭)は、弱電解処理が行われても細孔壁で電界が生じない。細孔に有機系不純物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わっても、有機系不純物が分解して浴液に再び溶解する現象が生じない。活性炭処理と弱電界処理を同期して行うことができるので、浴液の浄化処理を短時間に済ませることができる。
【0045】
本発明の処理が施された活性炭は、めっき処理中の電解めっきの浴液に浸漬させておくこともできる。
電解めっきは、めっき材料の金属からなる陽極と対象物の素材からなる陰極をめっき浴に浸漬し、両極間に直流電流を流して実行される。電解めっきの浴液には、光沢剤、応力減少剤、ピット防止剤、有機錯化剤などの添加剤が含まれる。めっき処理を実施して電解電流を流すと、添加剤は、陰極では還元され、陽極では酸化される。結果、添加剤は分解する。添加剤の分解生成物を浴液から除去するために、活性炭が加えられる。従来の活性炭を用いる場合、浴液に活性炭を入れた状態でめっき処理の電解電流を流すと、活性炭の細孔に入った分解生成物がさらに分解してガス化したり、分解して再び浴液中に溶解する現象が生じる。従来の活性炭を用いる場合は、めっき処理を中断して行う必要があった。
【0046】
本発明に係る活性炭は、細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されている。本発明に係る活性炭は、浴液に浸漬しており、その浴液に電解電流が印加されている状態であっても、細孔壁に電界が生じない。細孔に添加剤の分解生成物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わっても、分解生成物は分解しにくい。本発明に係る活性炭を電解めっきの浴液に浸漬しておくと、分解生成物を除去しながらめっき処理を行うことができる。分解生成物による浴液の汚染が抑制されるので、めっき処理の回数が増加しても、めっき加工の質が落ちづらい。
【0047】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】処理前の活性炭を模式的に示した平面図である。
【図2】処理前の活性炭の断面構造を模式的に示した断面図である。
【図3】第1実施例の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】処理前の活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図5】アミン類が形成された活性炭の断面図である。
【図6】アミン類が形成された活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図7】濃硫酸処理後の活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図8】濃硫酸処理後の活性炭を示している断面図である。
【図9】アミン類に水素イオンが配位した状態を示している部分断面図である。
【図10】第1実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【図11】第2実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【図12】第3実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、2、3、4、5:活性炭
12:外周面
14:細孔
16、17:-CO-NH-R-NH2領域
18:-CO-NH-R-NH-HSO3領域
19:-CO-NH-R-NH3+領域
20:Zn3(PO4)2領域
21:ZrO2領域
22:ZrO2+TiO2領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の処理方法と、処理済み活性炭と、処理済み活性炭を使用している蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの蓄電装置では、電極の表面積が広いと、広い範囲で電気二重層効果が得られるので、大電流を確保することができる。
活性炭は、単位重量当たりの比表面積が広いために、電極の表面積を広くするのに適している。例えば、特許文献1に開示されているリチウム二次電池は、正極に活性炭を含んでいる。特許文献1のリチウム二次電池は、初期出力と初期充放電容量が大きい。
【0003】
【特許文献1】特開2002−260634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極に活性炭を含むリチウム二次電池を製作してみると、リチウム二次電池の使用開始直後には出力と容量を増大させることができるものの、使用時間の経過に伴って、出力と容量が顕著に低下してしまう。
発明者らの研究によって、出力と容量が低下する理由は、活性炭の細孔に原因があることがわかった。活性炭は、多数の細孔を有している。有機電解液は、活性炭の細孔にも入り込む。細孔に入り込んだ有機電解液は循環しづらくなり、細孔壁に接触し続ける。有機電解液を構成する分子は、活性炭に長期に接触し続けると、分解し易くなる。さらに、電池の充放電に伴う電気的な作用が活性炭に加わると、活性炭の細孔の中に電界が生じる。細孔壁に留まっている有機電解液は、電界の作用により分解してしまう。
リチウム二次電池は、密閉構造の電池である。リチウム二次電池は、有機電解液が分解するとガスが発生するために、リチウム二次電池内圧が上昇する。その結果、電池出力と電池容量が低下してしまう現象が生じる。
上記では、正極に活性炭を含むリチウム二次電池の場合を説明したが、電極に活性炭を含む蓄電装置では、一般的に、電解液が細孔壁で分解しやすい現象が生じる。
【0005】
本発明では、活性炭の細孔内で電解液の分解が抑制されるように細孔壁を改質する処理方法を提供する。
また本発明では、細孔内で電解液の分解が抑制されるように改質された活性炭を提供する。
また本発明では、細孔壁で電解液の分解が抑制されるように改質された活性炭を利用し、出力と容量の低下が長期間にわたって抑制される蓄電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、活性炭の細孔壁を改質する方法に具現化される。
本処理方法は、細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭をアミン系化合物に接触させる工程と、アミン系化合物に接触させた活性炭を高粘性の酸に浸漬する工程と、酸から取り出した活性炭を低粘性の処理液に浸漬する工程を備えている。
上記の高粘性は、活性炭の細孔に浸入できないほど高い粘性をいう。逆に低粘性は、活性炭の細孔に浸入できほど低い粘性をいう。
【0007】
本明細書の「細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭」は、活性炭の外周面と細孔壁の表面にカルボキシル基が吸着しているものを言う。たとえば賦活処理のように、製造過程でカルボキシル基が吸着した活性炭も、「細孔壁を含む表面がカルボキシル基が吸着している活性炭」に含まれる。
本明細書の「アミン系化合物」は、カルボキシル基と結合してアミノ化できる化合物であれば特に限定されない。例えば、一般的な1級〜4級アミンのほか、ジアミン、ヒドロキシルアミン、アミノアルコールも含まれる。
本明細書の「高粘性の酸」は、活性炭の細孔(開口径が100nm程度であることが多い)に浸入することができないほど高い粘性を有する酸性液体をいう。
本明細書の「処理液」とは、アミノ基と作用して絶縁性物質を生成する成分を含有する液体を言う。処理液の一例として、重合脂肪酸を含んでいる液体が挙げられる。このような処理液を用いる場合、アミノ基と重合脂肪酸が作用し、ポリアミド樹脂が生成する。処理液の他の例として、金属イオン等の陽イオンと、ハロゲン化物イオン、濃硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン等の陰イオンを含んでいる処理液が挙げられる。このような処理液を用いると、活性炭のアミノ基を有する領域に、前記陽イオンと陰イオンの塩が選択的に析出する。
【0008】
本発明の処理方法では、活性炭をアミン系化合物に接触させる工程で、活性炭の表面(細孔壁を含む表面)のカルボキシル基がアミノ化される。活性炭の細孔壁を含む表面は、アミン類が吸着する。ここで言う「アミン類」は、一般式が-COORNH2、-CONHRNH2、-CONHR、-CONRR’であらわされる弱アルカリ性の性質を有するものをいう。アミン類が活性炭表面に吸着していると、活性炭の表面が弱アルカリ性に偏る。
次にアミン類が表面に吸着している活性炭を高粘性の酸に浸漬する。酸と接触した部分のアミン類は、中和される。活性炭は、多孔質構造を有している。高粘性の酸は、細孔に入り込むことができない。活性炭の外周面のアミン類は酸によって中和されるが、活性炭の細孔壁のアミン類は酸によって中和されない。その結果、細孔壁にはアミン類が吸着しており、外周面は中和されている活性炭が得られる。
次いで、活性炭を高粘性の酸から引き上げ、その活性炭を処理液に浸漬する。処理液は、活性炭の細孔に浸入できる低粘性の液体であり、処理液中の成分と細孔壁のアミン類が作用して、絶縁性物質が生成される。この絶縁性物質は、最孔壁に強固に吸着する。
本処理方法によれば、細孔壁面には絶縁性物質からなる皮膜が形成されており、外周面には絶縁性物質が付着していないで活性炭が露出している活性炭を得ることができる。なお、絶縁性物質は細孔壁を覆うように皮膜が形成されていればよく、皮膜の状態は限定されない。例えば、鱗片形状に生成した絶縁性物質が重なり合うように皮膜を形成していてもよい。また、皮膜状の絶縁性物質の表面に絶縁性物質が析出し、細孔を部分的に充填している状態も、「細孔壁面に皮膜が形成されている」状態に含まれる。
本方法によって処理された活性炭は、細孔壁に絶縁性物質が付着しているため、細孔壁の活性が低い。また、細孔壁面に絶縁性物質の皮膜を有することから、細孔には電界が生じづらくなる。細孔に入り込んでいる電解液が分解されることを顕著に抑制することができる。
【0009】
本発明の処理方法では、高粘性の酸の粘性が0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であり、低粘性の処理液の粘性が0.0015Pa/sec以下であることが好ましい。
粘性が0.020Pa/sec以上の酸は、開口径が100nm程度である活性炭の細孔に浸入しづらい。酸の粘性が0.95Pa/sec以上となると、活性炭が分散しにくくなり、処理効率が悪くなる。高粘性の酸の粘性が0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であることが好ましい。一つの具体例としては、気温0℃の環境下の粘性が0.027Pa/secとなる濃硫酸を利用することができる。
粘性が0.0015Pa/sec以下の液体は、開口径が100nm程度である活性炭の細孔に浸入することができる。処理液の粘性が0.0015Pa/sec以下であれば、処理液を活性炭の細孔壁に接触させ、細孔壁の表面処理を行うことができる。
【0010】
本発明の好ましい処理方法では、金属元素を含有するイオンを含む処理液を用いる。
「金属元素を含有するイオン」には、金属単体の陽イオン(例えばNa+、Ca2+、Fe2+、Zn2+、Zr4+、Ti4+)と、金属元素を含む複合イオン(例えばTiO32-、AlO2-)が含まれる。
処理液に金蔵元素を含有するイオンが含まれていると、活性炭の細孔壁に金属化合物からなる絶縁性物質の皮膜を形成することができる。
【0011】
金属元素が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属元素を含んでいることが好ましい。本処理方法で処理された活性炭を、リチウム二次電池の電極に用いる場合、チタン、ジルコニウム、亜鉛は、充放電に係る電極反応を阻害しない。本発明の処理方法によって得られた活性炭は、リチウム二次電池の電極に適している。
【0012】
処理液に、リン酸イオンが含まれていると好ましい。処理液にリン酸イオンが含まれていると、活性炭の細孔壁に絶縁性の金属リン酸塩を析出させることができる。
【0013】
本発明の処理方法では、処理液にフッ素イオンが含まれており、pHが2以上で6以下であると好ましい。このような処理液を用いると、処理液の反応性が一定に保たれる。
【0014】
発明は、細孔壁が改質された活性炭に具現化することもできる。本発明の活性炭は、活性炭の外周面では活性炭が露出しており、細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有することを特徴とする。
「活性炭の外周面では活性炭が露出している」とは、活性炭の外周面の領域に、実質的に絶縁性物質が付着していないことを言う。「細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有する」こととは、細孔壁の略全体に絶縁性物質の皮膜が形成されている。したがって、細孔壁の僅かな領域に絶縁性物質の皮膜が形成されていない領域がある活性炭は、細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有する活性炭に含まれる。同様に、外周面の僅かな領域に絶縁性物質が付着している活性炭も、外周面が露出している活性炭に含まれる。
本発明の活性炭は、有機電解液がしみこんだ状態で用いられる電極に採用すると、電解液の分解が生じにくい。また、活性炭に電気的な作用が加えられても、細孔に電界が生じにくい。本発明の活性炭を用いると、細孔に入り込んでいる有機電解液の分解が抑制される。
【0015】
活性炭の細孔壁面に皮膜を形成している絶縁性物質は、無機金属化合物であると好ましい。無機金属化合物は、有機溶媒との反応性に乏しい。
無機金属化合物は、酸化物であってもよい。酸化物は、有機溶媒中に曝されても性質が安定している無機金属化合物の一つである。
無機金属化合物は、リン酸塩であってもよい。リン酸塩は、有機溶媒中に曝されても性質が安定している無機金属化合物の一つである。
【0016】
金属化合物は、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属を含んでいると好ましい。チタンやジルコニウムや亜鉛は、リチウム二次電池の電極反応を阻害する物質になりづらい。チタンやジルコニウムや亜鉛の化合物からなる絶縁性物質が細孔壁面に皮膜を形成している活性炭は、リチウム二次電池の電極材料に適している。
【0017】
本発明は、新規な蓄電装置をも提供する。本発明で提供される蓄電装置は、電解液が有機電解液であり、電極材料が上記したいずれかの活性炭を含んでいる。
前記したように、処理されていない活性炭の細孔に有機電解液が入り込んだ状態で放置されたり、活性炭に電気的な作用が加えられた場合、細孔に入り込んでいる有機電解液が分解する現象が生じる。本発明の活性炭を電極材料に採用すること、有機電解液の分解が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
最初に、以下に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)リチウム二次電池の電極材料が、細孔壁が改質された活性炭を含んでいる。
(特徴2)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性物質には、リン酸亜鉛(Zn3(PO3)2)が含まれている。
(特徴3)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性物質には、酸化ジルコニウム(ZrO2)が含まれている。
(特徴4)処理後の活性炭の細孔壁に絶縁性物質の皮膜が形成されている。この絶縁性皮膜には、酸化チタン(TiO2)と酸化ジルコニウム(ZrO2)が含まれている。
(特徴5)処理液中の金属イオンの濃度が、5ppm以上で5000ppm以下になるように調製されている。
(特徴6)処理液中のフッ素イオン濃度が、0.1ppm以上で100ppm以下になるように調製されている。
(特徴7)活性炭の表面のカルボキシル基を誘導体化するアミンは、ジエチルアミンである。
(特徴8)活性炭表面のアミン類の中和に用いる高粘性の酸は、濃硫酸である。
(特徴9)活性炭は、めっき浴液中の不純物を取り除く処理に用いられる活性炭である。
【実施例】
【0019】
<第1実施例:活性炭の処理1>
本実施例では、活性炭の細孔壁にリン酸亜鉛を付着させ、細孔壁に絶縁性物質領域を形成した。
先ず、処理前の活性炭の形状について図1、2を用いて説明する。図1は、処理前の活性炭1を示す模式図である。図2は、活性炭1の断面図である。
図1、2に示すように、活性炭1は、多数の細孔14を有する多孔質物質である。細孔14は外周面12から内部に向けて形成されている。
【0020】
図3は、本実施例の活性炭処理方法に係る手順を示すフローチャートである。本実施例の処理手順について、図3を参照しながら説明する。
本処理では、先ず、細孔壁と外周面にカルボキシル基が吸着している活性炭1を用意した(図3のステップS1)。図4の部分断面図に示すように、活性炭1の外周面12と細孔14の壁にカルボキシル基が吸着している。活性炭1のカルボキシル基(-COOH)は、賦活処理の時に吸着したものである。
【0021】
次に、一般式がNH2-R-NH2で示されるジアミンを10w%含む水溶液を用意する。上記一般式中のRは、アルキル基である。本実施例では、ジアミンとして、エチレンジアミンを用いた。ジアミン溶液の液性は、弱アルカリ性である。ジアミン溶液に活性炭1を浸漬した(図3のステップS2)。
ジアミン溶液に浸漬して得られた活性炭2を図5に示す。図6は、活性炭2の部分断面図である。ジアミン溶液に活性炭1を浸漬すると、表面の-COOHとジアミンの一方のアミノ基が、脱水反応してアミド結合する。活性炭2の表面は-CO-NH-R-NH2の領域16で覆われる。
【0022】
次に、活性炭2を濃硫酸に浸漬した(図3のステップS3)。濃硫酸を0℃の環境下で使用したために、濃硫酸の粘性は0.027Pa/secであった。
濃硫酸に浸漬して得られた活性炭3の構造を模式的に示す断面図を図8に示し、その部分断面図を図7に示す。濃硫酸は、高粘性であるので、活性炭2の細孔14に浸入できない。活性炭2の外周面12の-CO-NH-R-NH2は、濃硫酸と反応して、-CO-NH-R-NH-HSO3を生成する。ステップS3の処理で得られた活性炭3には、外周面に-CO-NH-R-NH-HSO3領域18が形成される。この-CO-NH-R-NH-HSO3領域18は活性が低いので、活性炭3の外周面12の反応性が低くなる。
一方、濃硫酸は細孔14に浸入できないので、細孔壁の-CO-NH-R-NH2は、濃硫酸と反応しない。したがって、活性炭3の細孔壁は、-CO-NH-R-NH2領域17が形成された状態に保たれる。
【0023】
次に、ステップS3で得られた活性炭3を処理液に浸漬した(図3のステップS4)。本実施例において、処理液は、亜鉛イオンの濃度が(Zn)1300ppmあり、リン酸イオン(PO43-)の濃度が12500ppmであり、フッ素イオン(F-)の濃度が200ppmとなるように調製されたものを用いた。
処理液は、常温で粘性が0.0006〜0.0013Pa/secになるように調製した。処理液を上記の範囲の粘性に保つことで、活性炭3の細孔14に処理液を浸入することができる。
また、処理液は、pHが2〜6になるように調製した。
【0024】
活性炭3を上記の処理液に浸漬すると、活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面17の-CO-NH-R-NH2は、NにH+が配位して、-CO-NH-R-NH3+領域19を形成する(この段階が図9に図示されている)。-CO-NH-R-NH3+領域19は、+の電荷を帯びた状態になる。そのために、処理液中に含まれるPO33-は、+の電荷を帯びている細孔壁に引き寄せられる。そして、細孔壁に引き寄せられたPO33-とZn2+が反応してZn3(PO3)2を生成する。これにより、Zn3(PO3)2が、CO-NH-R-NH3+が形成されている細孔壁の領域に選択的に析出する。この段階で、細孔14の細孔壁に、Zn3(PO3)2領域20が形成される(この段階が図10に図示されている)。Zn3(PO3)2は、絶縁性物質である。細孔14の細孔壁にZn3(PO3)2領域20が形成されることで、活性炭4の細孔14内の活性が低くなる。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭4を得た。
【0025】
<第2実施例:活性炭の処理2>
本実施例は、活性炭の細孔の細孔壁に酸化ジルコニウム(ZrO2)を付着させ、絶縁性物質の皮膜を形成する。本実施例の処理手順では、処理液の成分が異なる他は、第1実施例と同様である。本実施例の処理手順は、第1実施例の活性炭を濃硫酸に浸漬して活性炭3を得る工程までは同様の手順なので、重複する説明及び図面は省略する。
【0026】
先ず、本実施例の処理液の調製方法について説明する。本実施例の処理液は、先ず、オキシ硝酸ジルコニウム溶液と硝酸を用いて、ジルコニウム濃度が200ppmである水溶液を調製した。この水溶液に、フッ化水素酸(HF)を注入してフッ素イオン濃度が50ppmとなるように調製した。さらに水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて、処理液を調製した。処理液は、NaOHの添加によりpHを略3に調製した。
【0027】
そして、活性炭3を処理液に浸漬する。活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面18の-CO-NH-R-NH2は、H+が配位して、-CO-NH-O-R-NH3+となる。処理液中に含まれるZrイオンは、酸化されてZrO2を形成し、CO-NH-R-NH3+が形成されている領域に選択的に析出する。細孔14の細孔壁には、ZrO2領域21が形成される(この段階が図11に図示されている)。ZrO2領域21は、絶縁性皮膜が形成されている領域である。ZrO2領域21が形成されることで、活性炭5は、細孔14内の活性が低い。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭5を得た。
【0028】
<第3実施例:活性炭の処理3>
本実施例は、活性炭の細孔の細孔壁に酸化ジルコニウム(ZrO2)と酸化チタン(TiO2)を付着させ、絶縁性物質の領域を形成する。本実施例の処理手順において、処理液の成分が異なる他は、第1実施例と同様である。本実施例の処理手順は、第1実施例の活性炭を濃硫酸に浸漬して活性炭3を得る工程までは同様の手順なので、重複する説明及び図面は省略する。
【0029】
先ず、本実施例の処理液の調製方法について説明する。本実施例の処理液は、先ず、ヘキサフルオロジルコン酸(IV)水溶液と濃硫酸チタン(IV)水溶液と、濃硫酸カルシウムと硝酸を用いて、ジルコニウム濃度が1000ppm、チタン濃度が2000ppm、カルシウム濃度が5ppm、硝酸根が1000ppmの水溶液を調製した。この水溶液に水酸化カリウム(KOH)とフッ化水素酸(HF)を用い、pHが略5になるように処理液を調整した。HFはフッ素イオン濃度が2250ppmになるように注入した。
【0030】
そして、活性炭3を処理液に浸漬する。活性炭3を上記の処理液に浸漬すると、活性炭3の細孔14には、処理液が入り込む。処理液の液性が弱酸性なので、細孔14の壁面18の-CO-NH-R-NH2は、H+が配位して、-CO-NH-R-NH3+となる。処理液中に含まれるZrイオンは酸化してZrO2を形成し、Tiイオンは酸化してTiO2を形成する。ZrO2とTiO2イオンは、CO-NH-R-NH3+が形成されている領域に選択的に析出する。細孔の壁面に、ZrO2とTiO2からなるZrO2+TiO2領域22が形成される(この段階が図12に図示されている)。細孔14の細孔壁にZrO2+TiO2領域22が形成されている活性炭6は、細孔14内の活性が低い。
以上のようにして、細孔の活性が低い活性炭6を得た。
【0031】
<第4実施例:リチウム二次電池の製造>
第1実施例で得られた活性炭4を正極に含む、リチウム二次電池(1)を製造した。
先ず、正極板の製作手順について説明する。
先ず、第1実施例で得られた活性炭4と、正極活物質と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるフッ素系樹脂(テトラフルオロエチレン)を水と混合して正極活物質ペーストを調製した。正極活物質には、リチウムニッケルコバルト複合酸化物を用いた。アルミニウム集電箔の両面に上記で得られた正極活物質ペーストを連続的に塗布し、乾燥した。このようにして正極シートを作製した。この正極シートを長尺形状に切り出し、リチウム二次電池(1)の正極板を製作した。正極板の端部には、正極リードを溶接した。
【0032】
次に、負極板の製作手順について説明する。
グラファイト活物質と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)を水と混合して負極活物質ペーストを調製した。銅集電箔の両面に上記で得られた負極活物質ペーストを塗布し、乾燥した。このようにして負極シートを作製した。この負極シートを長尺形状に切り出し、リチウム二次電池(1)の負極板を製作した。負極板の端部には、負極リードを溶接した。
【0033】
次いで、セパレータを介した状態で正極板と負極板を重ね合わせて捲回する。セパレータには、微孔性ポリエチレンで構成された多孔質シートを使用した。正極板とセパレータと負極板からなる積層シートを捲回して捲回型電極体を作製した。電極体は、負極リードと正極リードが電池ケースの外方に引き出されるように、電池ケースに収容した。次いで、電池容器内に電解液を減圧注入した。電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる一般的な電解液等を用いることができる。ここではエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)の70:30(質量比)の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた電解液を用いた。このようにして、活性炭4が備えられているリチウム二次電池(1)を製造した。
【0034】
<比較例:比較用リチウム二次電池の製造>
本比較例は、細孔に絶縁性皮膜を形成する処理を行う前の活性炭1を正極に備えたリチウム二次電池(2)を製造した。本比較例は、正極に備える活性炭が活性炭1であることを除くと、第4実施例で製作したリチウム二次電池(1)の製造手順と同様である。本比較例では、リチウム二次電池(2)の製造に関する説明を省略する。
【0035】
<実験例:リチウム二次電池の保存試験>
本実験例では、実施例4で製造したリチウム二次電池(1)と比較例で製造したリチウム二次電池(2)を用いて、保存実験を行った。保存実験の手順は、次の通りである。
先ず、リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)の初期の出力を測定した。出力は、−10℃の低温条件における低温出力と、25℃の常温条件における常温出力を測定した。
次いで、リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)を60℃の恒温槽に入れ、100時間保持した。
その後リチウム二次電池(1)とリチウム二次電池(2)を恒温槽から取り出し、低温出力と常温出力を測定した。保存実験の結果を表1に示す
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、保存試験前の放電容量は、リチウム二次電池(1)、(2)ともに同等の容量が確保された。また、保存試験前の出力は、リチウム二次電池(1)、(2)ともに同等の出力が確保された。上記第1実施例の活性炭の処理の有無にかかわらず、活性炭を正極に備えているリチウム二次電池は、同等の初期出力と初期放電容量が得られることがわかった。
保存試験後の放電容量変化率は、リチウム二次電池(1)が96.33%であり、リチウム二次電池(2)が95.57%であった。放電容量変化率は、第1実施例の処理が施されているリチウム二次電池(1)のほうが僅かに改善されていることがわかった。
保存試験後の低温出力変化率は、リチウム二次電池(1)が70.59%であり、リチウム二次電池(2)が63.64%であった。低温出力変化率は、リチウム二次電池(1)がリチウム二次電池(2)よりも約7%改善されていることがわかった。保存試験後の常温出力変化率は、リチウム二次電池(1)が67.09%であり、リチウム二次電池(2)が63.75%であった。常温出力変化率は、リチウム二次電池(1)がリチウム二次電池(2)よりも約3%改善されていることがわかった。
【0038】
本実験例の結果から、細孔の細孔壁に絶縁性皮膜が形成されている活性炭を正極に備えたリチウム二次電池は、保存特性に優れることがわかった。リチウム二次電池(2)は、有機電解液が活性炭の孔内に浸入しても細孔壁でその有機電解液が分解しにくい。活性炭の細孔壁で、有機電解液の分解によるガスが発生しにくい。電池内圧が上昇すると、リチウム二次電池の内部抵抗が上昇する。リチウム二次電池(1)は、有機電解液の分解によるガスの発生が抑制されているので、リチウム二次電池(1)の電池内圧は上昇しにくい。結果、リチウム二次電池(1)は、内部抵抗の上昇が抑制され、保存試験後の出力も維持されたものと考えられる。
【0039】
一方、比較例であるリチウム二次電池(2)は、細孔の細孔壁に絶縁性皮膜が形成されていない。このため、保存試験中に活性炭の細孔壁部で有機電解液が分解し易い。本実験例の結果、リチウム二次電池(2)は、保存試験後に低温出力及び常温出力の低下が見られた。これは、活性炭の細孔に入り込んだ有機電解液が保存試験中に分解し、電池内圧が上昇したことに起因すると思われる。リチウム二次電池(2)は、電池内圧が上昇した結果、電池の内部抵抗が上昇し、保存試験後の出力が低下したものと思われる。
本実験例の結果から、第1実施例の処理で得られた活性炭4を正極材料に備えると、保存試験後の出力低下が抑制されることがわかった。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0041】
例えば、上記実施例では、リチウム二次電池を示したが、本発明の活性炭は、めっき用の浴液の不純物除去に使用してもよい。
【0042】
電解めっき、無電解めっきの手法を問わず、めっき浴の浴液に不純物が混入していると、めっき処理中にガスが発生したり、めっき膜厚が不均一になる不具合が生じる。このため、浴液は、不純物を取り除く浄化処理が行われる。浄化処理前の浴液には、有機系不純物と無機系不純物が混入している。有機物系不純物は、活性炭処理によって除去される。この浄化法は、活性炭が有機物を吸着する性質を利用した方法である。無機物系不純物は、弱電解処理によって分解される。めっき材料の金属よりも電位の低い金属は、弱電解処理によって除去される。
【0043】
活性炭処理に従来の活性炭(細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されていない活性炭)を用いる場合、活性炭処理と弱電解処理を同期して行うことができなかった。活性炭は、細孔壁にも有機系不純物を取り込む。弱電解処理を行うと、活性炭に電気的な作用が加わる。細孔に有機系不純物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わると、細孔壁に電界が生じ、有機系不純物が細孔から再び浴液に溶解する現象が生じる。
【0044】
活性炭処理に本発明の処理が施された活性炭を用いると、活性炭処理と弱電解処理を同期して行うことができる。本発明に係る活性炭(細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されていない活性炭)は、弱電解処理が行われても細孔壁で電界が生じない。細孔に有機系不純物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わっても、有機系不純物が分解して浴液に再び溶解する現象が生じない。活性炭処理と弱電界処理を同期して行うことができるので、浴液の浄化処理を短時間に済ませることができる。
【0045】
本発明の処理が施された活性炭は、めっき処理中の電解めっきの浴液に浸漬させておくこともできる。
電解めっきは、めっき材料の金属からなる陽極と対象物の素材からなる陰極をめっき浴に浸漬し、両極間に直流電流を流して実行される。電解めっきの浴液には、光沢剤、応力減少剤、ピット防止剤、有機錯化剤などの添加剤が含まれる。めっき処理を実施して電解電流を流すと、添加剤は、陰極では還元され、陽極では酸化される。結果、添加剤は分解する。添加剤の分解生成物を浴液から除去するために、活性炭が加えられる。従来の活性炭を用いる場合、浴液に活性炭を入れた状態でめっき処理の電解電流を流すと、活性炭の細孔に入った分解生成物がさらに分解してガス化したり、分解して再び浴液中に溶解する現象が生じる。従来の活性炭を用いる場合は、めっき処理を中断して行う必要があった。
【0046】
本発明に係る活性炭は、細孔壁に絶縁性物質からなる皮膜が形成されている。本発明に係る活性炭は、浴液に浸漬しており、その浴液に電解電流が印加されている状態であっても、細孔壁に電界が生じない。細孔に添加剤の分解生成物を取り込んでいる状態で活性炭に電気的作用が加わっても、分解生成物は分解しにくい。本発明に係る活性炭を電解めっきの浴液に浸漬しておくと、分解生成物を除去しながらめっき処理を行うことができる。分解生成物による浴液の汚染が抑制されるので、めっき処理の回数が増加しても、めっき加工の質が落ちづらい。
【0047】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】処理前の活性炭を模式的に示した平面図である。
【図2】処理前の活性炭の断面構造を模式的に示した断面図である。
【図3】第1実施例の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】処理前の活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図5】アミン類が形成された活性炭の断面図である。
【図6】アミン類が形成された活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図7】濃硫酸処理後の活性炭の表面構造を示している部分断面図である。
【図8】濃硫酸処理後の活性炭を示している断面図である。
【図9】アミン類に水素イオンが配位した状態を示している部分断面図である。
【図10】第1実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【図11】第2実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【図12】第3実施例で処理された活性炭の断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、2、3、4、5:活性炭
12:外周面
14:細孔
16、17:-CO-NH-R-NH2領域
18:-CO-NH-R-NH-HSO3領域
19:-CO-NH-R-NH3+領域
20:Zn3(PO4)2領域
21:ZrO2領域
22:ZrO2+TiO2領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭の細孔壁を改質する方法であり、
細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭を、アミン系化合物に接触させる工程と、
アミン系化合物に接触させた活性炭を、細孔に浸入できない高粘性の酸に浸漬する工程と、
酸から取り出した活性炭を、細孔に浸入できる低粘性の処理液に浸漬する工程と、
を備えている活性炭の処理方法。
【請求項2】
前記酸の粘性が、0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であり、
前記処理液の粘性が、0.0015Pa/sec以下であることを特徴とする請求項1の処理方法。
【請求項3】
前記処理液が、金属元素を含有するイオンを含むことを特徴とする請求項1又は2の処理方法。
【請求項4】
前記金属元素が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属元素であることを特徴とする請求項3の処理方法。
【請求項5】
前記処理液が、リン酸イオンを含むことを特徴とする請求項3又は4の処理方法。
【請求項6】
前記処理液が、フッ素イオンが含み、pHが2以上で6以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかの処理方法。
【請求項7】
外周面と、外周面で開孔している細孔を有する活性炭であり、
外周面では、活性炭が露出しており、
細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有することを特徴とする活性炭。
【請求項8】
前記絶縁性物質が、無機金属化合物であることを特徴とする請求項7の活性炭。
【請求項9】
前記無機金属化合物が、酸化物であることを特徴とする請求項8の活性炭。
【請求項10】
前記無機金属化合物が、リン酸塩であることを特徴とする請求項8の活性炭。
【請求項11】
前記無機金属化合物が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属を含んでいることを特徴とする請求項8〜10のいずれかの活性炭。
【請求項12】
電解液が、有機電解液であり、
電極材料が、請求項7〜11のいずれかの活性炭を含むことを特徴とする蓄電装置。
【請求項1】
活性炭の細孔壁を改質する方法であり、
細孔壁を含む表面にカルボキシル基が吸着している活性炭を、アミン系化合物に接触させる工程と、
アミン系化合物に接触させた活性炭を、細孔に浸入できない高粘性の酸に浸漬する工程と、
酸から取り出した活性炭を、細孔に浸入できる低粘性の処理液に浸漬する工程と、
を備えている活性炭の処理方法。
【請求項2】
前記酸の粘性が、0.020Pa/sec以上で0.95Pa/sec以下であり、
前記処理液の粘性が、0.0015Pa/sec以下であることを特徴とする請求項1の処理方法。
【請求項3】
前記処理液が、金属元素を含有するイオンを含むことを特徴とする請求項1又は2の処理方法。
【請求項4】
前記金属元素が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属元素であることを特徴とする請求項3の処理方法。
【請求項5】
前記処理液が、リン酸イオンを含むことを特徴とする請求項3又は4の処理方法。
【請求項6】
前記処理液が、フッ素イオンが含み、pHが2以上で6以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかの処理方法。
【請求項7】
外周面と、外周面で開孔している細孔を有する活性炭であり、
外周面では、活性炭が露出しており、
細孔壁面に絶縁性物質からなる皮膜を有することを特徴とする活性炭。
【請求項8】
前記絶縁性物質が、無機金属化合物であることを特徴とする請求項7の活性炭。
【請求項9】
前記無機金属化合物が、酸化物であることを特徴とする請求項8の活性炭。
【請求項10】
前記無機金属化合物が、リン酸塩であることを特徴とする請求項8の活性炭。
【請求項11】
前記無機金属化合物が、チタン、ジルコニウム、亜鉛から選択される1種又は2種以上の金属を含んでいることを特徴とする請求項8〜10のいずれかの活性炭。
【請求項12】
電解液が、有機電解液であり、
電極材料が、請求項7〜11のいずれかの活性炭を含むことを特徴とする蓄電装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−37682(P2008−37682A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212220(P2006−212220)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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