説明

活物質およびその製造方法、電極、二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具ならびに電子機器

【課題】高負荷条件においても高い放電容量を得ることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池は、活物質を含む正極と、負極と、電解液とを備える。この活物質は、Lia Mnb Fec d PO4 (MはMg等のうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)で表される組成を有する。レーザ回折法により測定される活物質のメジアン径(D90)は10.5μm〜60μm、X線回折法により測定される活物質の(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.15°〜0.24°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、オリビン型の結晶構造を有するLiリン酸塩である活物質およびその製造方法、その活物質を用いた電極および二次電池、ならびにその二次電池を用いた電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器(PDA)などに代表される電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、上記した電子機器に限らず、その電子機器などに着脱可能に搭載される電池パック、電気自動車などの電動車両、家庭用電力サーバなどの電力貯蔵システム、または電動ドリルなどの電動工具に代表される多様な用途への適用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが広く提案されているが、中でも、電極反応物質としてリチウムイオンを用いる二次電池などが有望視されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その正極は、電極反応物質を吸蔵放出する正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、高い電池容量を得るために、Liと遷移金属とを構成元素として含むLi複合酸化物が広く用いられている。このLi複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造(空間群:R3m)を有するLiCoO2 またはLiNiO2 や、スピネル型の結晶構造(空間群:Fd3m)を有するLiMn2 4 などである。
【0005】
中でも、層状岩塩型のLi複合酸化物としては、LiCoO2 よりもLiNiO2 が有力である。LiNiO2 の放電容量(=約180mAh/g〜200mAh/g)はLiCoO2 の放電容量(=約150mAh/g)よりも高いからである。また、NiはCoよりも安価であると共に供給安定性に優れているからである。
【0006】
ところが、LiNiO2 を用いると、高い理論容量および放電電位が得られる反面、充放電が繰り返されるとLiNiO2 の結晶構造が崩壊しやすいため、電池性能(放電容量など)および安全性(熱安定性など)が低下する可能性がある。
【0007】
そこで、上記した電池性能および安全性に関する問題を改善するために、オリビン型の結晶構造(空間群:Pnma)を有すると共にLiと遷移金属とを構成元素として含むLiリン酸塩を用いることが提案されている。充放電時の結晶構造変化が少ないため、優れたサイクル特性が得られるからである。また、結晶構造中でOとPとが安定に共有結合しており、高温環境中においても酸素放出が抑制されるため、優れた安全性も得られるからである。
【0008】
具体的には、資源として豊富に存在すると共に安価であるFeを構成元素として含むFe系のLiリン酸塩(LiFePO4 )が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。この場合には、一度に焼成可能な量を増やして製造効率を向上させるために、第一段階の焼成後に二次粒子(一次粒子の凝集体)を所定のかさ密度に圧縮してから第二段階の焼成を行うことが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
また、Fe系のLiリン酸塩は上記した長所を有する反面、エネルギー密度が低いという短所を有するため、さらにMnを構成元素として含むMn系のLiリン酸塩(LiMnx Fey PO4 (x+y=1))が用いられている。充放電曲線においてMnに起因するプラトー領域が4V付近に存在するため、高いエネルギー密度が得られるからである。この場合には、炭素材料との複合体を確実に単相合成するために、焼成工程の前に炭素材料を添加して圧縮することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。なお、Mn系のLiリン酸塩は、さらに他の遷移金属などを構成元素として含む場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−134724号公報
【特許文献2】特開2008−257894号公報
【特許文献3】特開2002−117848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
優れた電池性能を確保する上で、Mn系のLiリン酸塩は正極活物質として有力な候補である。しかしながら、Mn系のLiリン酸塩には、Fe系のLiリン酸塩よりも電子導電性が1×10-3程度低いという大きな問題がある。また、MnとFeとは固溶しにくい傾向にあるため、実質的にMn系のLiリン酸塩の能力を未だ完全に利用しきれていない状況にある。このため、高負荷条件では未だ十分な放電容量が得られていない状況にある。
【0012】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高負荷条件においても高い放電容量を得ることが可能な活物質およびその製造方法、電極、二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本技術の活物質は、下記の式(1)で表される組成を有するものである。レーザ回折法により測定されるメジアン径(D90)は10.5μm〜60μmであると共に、X線回折法により測定される(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.15°〜0.24°である。
【0014】
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【0015】
本技術の電極は、上記した本技術の活物質を含むものであると共に、本技術の二次電池は、正極と負極と電解液とを備え、その正極が上記した本技術の活物質を含むものである。また、本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器は、上記した本技術の二次電池を用いたものである。
【0016】
本技術の活物質の製造方法は、粉末状の原材料を圧縮して成型体を形成したのち、その成型体を焼成してから粉砕することにより、式(1)に示した組成を有する活物質を形成するようにしたものである。圧縮工程における成型体の密度を0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 、粉砕工程における活物質のメジアン径(D50)を5μm〜30μmとする。
【0017】
ここで、メジアン径(D90,D50)は、株式会社堀場製作所製のレーザ回折式粒度分布計LA−920を用いて測定されると共に、半値幅は、株式会社リガク製のX線回折装置RINT200を用いて測定される。この半値幅の測定条件は、官球としてCuKα線を用いると共に、測定範囲(2θ)=10°〜90°、ステップ=0.02°、計数時間=1.2とする。また、成型体の密度は、密度(mg/cm3 )=成型体の重量(mg)/成型体の体積(cm3 )により算出される。
【発明の効果】
【0018】
本技術の活物質、電極または二次電池によれば、式(1)に示した組成を有する活物質のメジアン径(D90)が10.5μm〜60μm、(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.15°〜0.24°である。よって、高負荷条件においても高い放電容量を得ることができる。また、上記した二次電池を用いた本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器においても同様の効果を得ることができる。
【0019】
また、本技術の活物質の製造方法によれば、粉末状の原材料が圧縮された成型体を焼成してから粉砕しており、圧縮工程における成型体の密度を0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 、粉砕工程における活物質のメジアン径(D50)を5μm〜30μmとしている。よって、上記した構成(メジアン径(D90))および物性(半値幅)を有する活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本技術の一実施形態の二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本技術の一実施形態の二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】二次電池の適用例(電池パック)の構成を表すブロック図である。
【図6】二次電池の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図である。
【図7】二次電池の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図である。
【図8】二次電池の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
【図9】試験用の二次電池(コイン型)の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.活物質
1−1.構成
1−2.製造方法
1−3.作用および効果
2.活物質の適用例
2−1.電極および二次電池(円筒型)
2−2.電極および二次電池(ラミネートフィルム型)
3.二次電池の用途
3−1.電池パック
3−2.電動車両
3−3.電力貯蔵システム
3−4.電動工具
【0022】
<1.活物質/1−1.構成>
まず、本技術の一実施形態の活物質の構成について説明する。
【0023】
この活物質は、例えば、二次電池などの電極に用いられるものであり、下記の式(1)で表される組成を有している。すなわち、ここで説明する活物質は、オリビン型の結晶構造(空間群:Pnma)を有するMn系のLiリン酸塩である。電極反応時の結晶構造変化が少ないと共に、高温環境中においても酸素放出が抑制されるからである。また、高いエネルギー密度も得られるからである。
【0024】
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【0025】
上記したb、cおよびdの取り得る値の範囲から明らかなように、活物質は、Liと共に必ずMnおよびFeを構成元素として含んでいる。一方、活物質は、Mを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。a〜dは、上記した範囲内の数値であれば、任意でよい。
【0026】
中でも、活物質は、下記の式(2)で表される組成を有していることが好ましい。より高い効果が得られるからである。ただし、活物質は、式(1)に示した条件を満たしていれば、他の組成を有していてもよい。
【0027】
LiMnb1Fec1PO4 ・・・(2)
(0<b1<1、0<c1<1およびb1+c1=1である。)
【0028】
この活物質は、電極反応物質を吸蔵放出可能であり、後述する活物質の製造方法から明らかなように、製造時に得られた一次粒子の凝集体(二次粒子)である。
【0029】
レーザ回折法により測定される活物質のメジアン径(D90)は、10.5μm〜60μmであると共に、X線回折法により測定される活物質の(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は、0.15°〜0.24°である。ここで説明するメジアン径(D90)は、上記したように、二次粒子の粒径である。
【0030】
メジアン径(D90)が上記した範囲内であるのは、活物質の結晶性との関係において粒径分布が適正化されるため、高負荷条件の電極反応時においても電極反応物質を吸蔵放出しやすいからである。詳細には、メジアン径が10.5μmよりも小さいと、半値幅が大幅に減少してしまう。これにより、一次粒子の結晶性が低くなりすぎるか、その一次粒子の表面が非晶質化されるため、電極反応物質を吸蔵放出しにくくなる。一方、メジアン径が60μmよりも大きいと、半値幅が大幅に増加してしまう。これにより、一次粒子の結晶成長が進行しすぎて電極反応物質の拡散距離が大きくなるため、出力特性が大幅に低下する。また、大粒径の活物質が存在するため、二次電池の作製時などに活物質がセパレータを突き破ることに起因してショートする可能性がある。
【0031】
また、半値幅が上記した範囲内であるのは、活物質の結晶性が適正化されるため、高負荷条件の充放電時においても電極反応物質をより吸蔵放出しやすいからである。詳細には、半値幅が0.15°よりも小さいと、一次粒子の結晶成長が進行しすぎるため、電極反応物質の拡散距離が大きくなってしまう。一方、半値幅が0.24°よりも大きいと、一次粒子の結晶性が低くなりすぎるか、その一次粒子の表面が非晶質化されるため、電極反応物質を吸蔵放出しにくくなる。
【0032】
メジアン径(D90)は、例えば、後述する活物質の製造工程における粉砕条件(粉砕強度および粉砕時間など)に応じて制御される。また、半値幅は、活物質の製造工程における焼成条件(焼成温度および焼成時間など)に応じて制御される。
【0033】
ここで、メジアン径(D90)は、株式会社堀場製作所製のレーザ回折式粒度分布計LA−920を用いて測定されると共に、半値幅は、株式会社リガク製のX線回折装置RINT2000を用いて測定される。この半値幅の測定条件は、官球としてCuKα線を用いると共に、測定範囲(2θ)=10°〜90°、ステップ=0.02°、計数時間=1.2とする。なお、半値幅を規定するために(020)結晶面に着目しているのは、電極反応物質(ここではLi)が拡散する面だからである。
【0034】
<1−2.製造方法>
次に、上記した活物質の製造方法について説明する。
【0035】
この活物質を製造する場合には、最初に、上記した式(1)に示した組成を有する活物質を形成するために必要な粉末状の原材料(一次粒子)を準備する。この原材料は、各元素(Li,Mn,Fe,M,P,O)の供給源となる1または2以上の材料である。
【0036】
Liの供給源となる材料は、特に限定されないが、例えば、無機酸塩、有機酸塩または含有機金属化合物などのいずれか1種類または2種類以上である。無機酸塩は、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、リン酸リチウムまたは水酸化リチウムなどである。有機酸塩は、例えば、酢酸リチウムまたはシュウ酸リチウムなどである。含有機金属化合物は、例えば、リチウムエトキシドなどのリチウムアルコキシドである。
【0037】
Mnの供給源となる材料は、特に限定されないが、例えば、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)またはリン酸マンガン(II)・三水和物などのいずれか1種類または2種類以上である。
【0038】
Feの供給源となる材料は、特に限定されないが、例えば、シュウ酸鉄(II)・二水和物、リン酸鉄(II)・八水和物、塩化鉄(II)水和物、硫酸鉄(III)・七水和物、酢酸鉄(II)・四水和物またはリン酸鉄水和物などのいずれか1種類または2種類以上である。
【0039】
Mの供給源となる材料は、特に限定されないが、例えば、MがAlである場合には、水酸化アルミニウムまたはアルミニウムアルコキシドなどのAl塩のいずれか1種類または2種類以上である。
【0040】
PおよびOの供給源となる材料は、特に限定されないが、例えば、リン酸またはリン酸水素アンモニウム塩などのいずれか1種類または2種類以上である。リン酸は、例えば、オルトリン酸またはメタリン酸などである。リン酸水素アンモニウム塩は、例えば、リン酸水素二アンモニウム((NH4 2 HPO4 ) またはリン酸二水素アンモニウム(NH4 2 PO4 )などである。
【0041】
なお、上記した各元素のうちの任意の2種類以上をあらかじめ構成元素として含む材料(化合物または合金など)を用いてもよい。
【0042】
続いて、粉末状の原材料を混合したのち、その混合物を圧縮して成型体を形成する。この場合には、例えば、混合物を溶媒に分散させて溶液または懸濁液としたのち、噴霧乾燥(スプレードライ)法などを用いて溶液等を噴霧する。これにより、原材料の粉末(一次粒子)が凝集(二次粒子化)するため、粉末の活物質前駆体が得られる。この粉末の活物質前駆体を圧縮することで、成型体を得る。こののち、例えば、400°以下、好ましくは200°以下の温度で成型体を加熱する。
【0043】
この圧縮工程では、成型体の密度を0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 とすると共に、例えば、錠剤成型機を用いる。この成型体の密度は、密度(mg/cm3 )=成型体の重量(mg)/成型体の体積(cm3 )により算出される。
【0044】
密度が上記した範囲内であるのは、MnとFeとが固溶しやすくなるため、抵抗が低下すると共に、活物質の結晶性が適正化されるからである。詳細には、密度が0.5mg/cm3 よりも小さいと、(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅が0.15°〜0.24°の範囲外になる。一方、密度が2.3mg/cm3 よりも大きいと、一次粒子間にネッキングが生じるため、粒径が増大する。これにより、電極反応物質の拡散距離が増大するため、抵抗も増大してしまう。
【0045】
なお、成型体の厚さは特に限定されないが、中でも、6mm以下であることが好ましい。後述する焼成工程において焼成ムラが生じにくくなるため、MnおよびFeがより固溶しやすくなるからである。
【0046】
成型体の形状は特に限定されないが、例えば、円板状(錠剤状またはペレット状)であることが好ましい。成型体の形状を制御しやすいと共に、その厚さを全体に渡って均一に制御しやすいからである。ただし、他の形状でもよい。
【0047】
分散用の溶媒は、特に限定されないが、例えば、純水またはその純水と有機溶媒の混合溶媒などのいずれか1種類または2種類以上である。この有機溶媒は、例えば、アルコール、ケトンまたはエーテルなどである。中でも、扱いやすさおよび安全性の観点から、純粋が好ましい。
【0048】
なお、原材料を混合する場合には、必要に応じて、電子伝導性物質またはその前駆体(電子伝導性物質前駆体)を添加してもよい。原材料(一次粒子)が電子伝導性物質等を介して二次粒子化されるため、活物質前駆体(二次粒子)の電気抵抗が低下するからである。
【0049】
電子伝導性物質は、例えば、C、Au、Pt、Ag、Ti、V、Sn、Nb、Zr、Mo、Pd、Ru、Rh、Irまたはそれらの酸化物などのいずれか1種類または2種類以上である。中でも、化学的安定性および製造コストなどの観点から、非金属であるCが好ましい。Cは、カーボンブラック、アセチレンブラックまたは黒鉛などであり、中でも、カーボンブラックまたはアセチレンブラックが好ましい。また、同様の観点から、金属の中ではAu、Pt、Ag、Pd、Ru、RhまたはIrなどの貴金属が好ましく、中でも、Agが好ましい。
【0050】
電子伝導性物質前駆体は、加熱により電子伝導性物質となるものであり、有機化合物、金属塩、金属アルコキシドまたは金属錯体などのいずれか1種類または2種類以上である。有機化合物は、加熱により揮発しないものであれば特に限定されないが、例えば、高分子化合物、糖類または水溶性有機界面活性剤などである。高分子化合物は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリビニルブチラールまたはポリビニルピロリドンなどである。糖類は、例えば、糖アルコール、糖エステルまたはセルロースなどである。水溶性有機界面活性剤は、例えば、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステルまたはポリオキシエチレンソルビタンなどである。この他、電子伝導性物質前駆体は、リン酸エステルまたはリン酸エステル塩などでもよい。
【0051】
なお、電子伝導性物質としてCを用いるために、上記した溶液等に電子伝導性物質前駆体として有機化合物を含有させる場合には、その有機化合物は溶液等に溶解可能であることが好ましい。電子伝導性物質前駆体が分子レベルで溶液等中に分散するため、電子伝導性物質が二次粒子中において均一に分布しやすいからである。
【0052】
噴霧乾燥法などによる噴霧工程では、高温環境中において溶液等を噴霧することにより、溶媒が瞬時に揮発すると共に一次粒子が凝集して二次粒子化する。この場合には、溶液等中に電子伝導性物質が含有されていると、その電子伝導性物質により表面を被覆された一次粒子同士が凝集する。
【0053】
続いて、不活性雰囲気下において活物質前駆体の成型体を焼成する。この不活性ガスは、例えば、N2 、ArまたはH2 などであり、これ以外のガスでもよい。また、焼成温度は、400℃〜800℃、好ましくは500℃〜700℃であることが好ましい。成型体中で結晶成長が進行しやすいため、活物質の適正な結晶性が得られやすいからである。
【0054】
最後に、活物質前駆体の成型体を粉砕して、式(1)に示した組成を有する活物質(一次粒子)を取得する。この場合には、例えば、ボールミル、振動ミル、バンタムミルなどのいずれか1種類または2種類以上の粉砕装置を用いる。ただし、他の種類の粉砕装置を用いてもよい。
【0055】
この粉砕工程では、粉砕後の活物質(一次粒子)のメジアン径(D50)を5μm〜30μmとする。活物質(二次粒子)のメジアン径(D90)が上記した範囲内(10.5μm〜60μm)になると共に、その活物質の結晶性が適正化されるからである。詳細には、メジアン径が5μmよりも小さいと、活物質が非晶質化されてしまい、一方、メジアン径が30μmよりも大きいと、活物質(二次粒子)のメジアン径が増大するため、いずれの場合においても活物質の適正な結晶性が得られない。
【0056】
<1−3.作用および効果>
この活物質によれば、式(1)に示した組成を有しており、メジアン径(D90)が10.5μm〜60μmであると共に(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅が0.15°〜0.24°である。これにより、上記したように、活物質の結晶性が適正化されるため、高負荷条件の電極反応時においても電極反応物質を円滑に吸蔵放出できる。
【0057】
また、活物質の製造方法によれば、粉末状の原材料が圧縮された成型体を焼成してから粉砕しており、圧縮工程における成型体の密度を0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 、粉砕工程における活物質のメジアン径(D50)を5μm〜30μmとしている。よって、上記したメジアン径(D90)および半値幅を有する活物質を得ることができる。この場合には、圧縮工程における成型体の厚さを6mm以下、焼成工程における焼成温度を400℃〜800℃とすれば、より高い効果を得ることができる。
【0058】
<2.活物質の適用例>
次に、上記した活物質の適用例について説明する。この活物質は、例えば、二次電池の電極(正極)に用いられる。
【0059】
<2−1.電極および二次電池(円筒型)>
図1および図2は、円筒型の二次電池の断面構成を表しており、図2では、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大している。ここで説明する二次電池は、例えば、電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵放出により電池容量が得られるリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)である。
【0060】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に巻回電極体20および一対の絶縁板12,13が収納されたものである。この巻回電極体20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体である。
【0061】
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などにより形成されている。なお、電池缶11がFe製である場合には、その電池缶11の表面にNiなどが鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0062】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられており、その電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されていてもよい。
【0063】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされ、電池蓋14と電気的に接続されていると共に、負極リード26は、電池缶11に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0064】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bを有している。正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。正極活物質層21Bは、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極活物質として、上記した活物質(Mn系のLiリン酸塩)を含んでいる。この正極活物質層21Bは、必要に応じて、正極活物質と共に、正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0065】
正極活物質層21Bに含まれている正極活物質のメジアン径(D90)および半値幅は、例えば、以下の手順により確認される。まず、正極活物質21Bを正極集電体21Aから剥離する。続いて、正極活物質層21BをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解させたのち、濾過して正極活物質を正極結着剤などから分離する。最後に、上記したように、レーザ回折式粒度分布計を用いて正極活物質のメジアン径を測定すると共に、X線回折装置を用いて正極活物質の半値幅を測定する。
【0066】
この正極活物質層21Bは、その内部に複数の細孔を含んでいる。この細孔は、正極活物質間に生じる隙間や、正極活物質層21Bが正極活物質と共に正極結着剤などを含んでいる場合にはそれらの間に生じる隙間などである。水銀圧入法により測定される正極活物質層21Bに対する水銀浸入量の変化率が示す最大ピークの孔径は、0.06μm〜0.023μmであることが好ましい。高負荷条件時においても放電容量の低下が抑制されるからである。
【0067】
上記した「水銀圧入法により測定される水銀浸入量」とは、正極活物質層21B(複数の細孔)に対する水銀浸入量であり、水銀ポロシメータを用いて測定される。詳細には、水銀浸入量は、水銀の表面張力=485mN/m、水銀の接触角=130°、細孔の孔径と圧力との間の関係を180/圧力=孔径と近似したときに測定される値である。水銀ポロシメータでは、圧力Pを段階的に増加させながら、複数の細孔に対する水銀浸入量Vが測定されるため、その水銀浸入量の変化率(ΔV/ΔP)が孔径に対してプロットされる。また、「最大ピークの孔径が0.023μm〜0.06μmである」とは、水銀ポロシメータの測定結果(横軸:孔径,縦軸:水銀浸入量の変化率)中において、最大ピークのピーク位置の孔径は0.023μm〜0.06μmの範囲内に位置することを意味する。なお、ピークの総数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0068】
なお、正極活物質21Bは、正極活物質(Mn系のLiリン酸塩)と共に、他の種類の正極活物質のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。このような他の正極活物質は、特に限定されないが、例えば、層状岩塩型の結晶構造を有するLiCoO2 またはLiNiO2 や、スピネル型の結晶構造を有するLiMn2 4 などである。この他、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などでもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。
【0069】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはポリイミドなどである。
【0070】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上である。炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0071】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bを有している。
【0072】
負極集電体22Aは、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法で作製された銅箔は、一般に電解銅箔と呼ばれている。
【0073】
負極活物質層22Bは、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極活物質のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。この負極活物質層22Bでは、例えば、充放電時に意図せずにLi金属が析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は正極21の放電容量よりも大きいことが好ましい。
【0074】
負極活物質は、例えば、炭素材料である。リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0075】
また、負極活物質は、例えば、金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、金属元素または半金属元素の単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。この合金には、2種類以上の金属元素からなる材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。ただし、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0076】
上記した金属元素または半金属元素は、例えば、Liと合金を形成可能である金属元素または半金属元素であり、例えば、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、PdまたはPtなどのいずれか1種類または2種類以上である。中でも、SiおよびSnのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0077】
SiおよびSnのうちの少なくとも一方を含む材料は、SiまたはSnの単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0078】
Siの合金は、例えば、Si以外の構成元素として、Sn、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrなどのいずれか1種類または2種類以上を含む材料である。である。Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、CまたはOなどのいずれか1種類または2種類以上を含む材料などである。なお、Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、Siの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0079】
Siの合金または化合物は、例えば、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 またはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)またはLiSiOなどである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0080】
Snの合金は、例えば、Sn以外の構成元素として、Si、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbまたはCrなどのいずれか1種類または2種類以上を含む材料である。Snの化合物は、例えば、CまたはOなどのいずれか1種類または2種類以上を含む材料などである。なお、Snの化合物は、例えば、Sn以外の構成元素としてSnの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。Snの合金または化合物は、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどである。
【0081】
また、Snを含む材料は、例えば、Snを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料であることが好ましい。第2構成元素は、例えば、以下の元素の1種類または2種類以上である。Co、Fe、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Ce、Hf、Ta、W、BiまたはSiである。第3構成元素は、例えば、B、C、AlおよびPの1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を含むと、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0082】
中でも、Sn、CoおよびCを含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料とは、少なくともSnとCoとCとを構成元素として含む材料であり、後述するように、必要に応じてそれ以外の他の元素を含んでいてもよい。SnCoC含有材料の組成は、例えば、以下の通りである。Cの含有量は9.9質量%〜29.7質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。
【0083】
このSnCoC含有材料は、Sn、CoおよびCを含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、Liと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0084】
X線回折により得られた回折ピークがLiと反応可能な反応相に対応するか否かについては、Liとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、Liとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、Liと反応可能な反応相に対応している。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、Cの存在に起因して低結晶化または非晶質化していると考えられる
【0085】
SnCoC含有材料では、構成元素であるCの少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。Snなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光法(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。Cの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、Cの1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、Au原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中のCのピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアで解析して両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0086】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。この他の構成元素としては、Si、Fe、Ni、Cr、In、Nb、Ge、Ti、Mo、Al、P、GaおよびBiの1種または2種以上などが挙げられる。
【0087】
このSnCoC含有材料の他、Sn、Co、FeおよびCを構成元素として含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、Feの含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は9.9質量%〜29.7質量%、Feの含有量は0.3質量%〜5.9質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、Feの含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は11.9質量%〜29.7質量%、Sn、CoおよびFeの含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%、CoおよびFeの含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0088】
また、他の負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などでもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0089】
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法または焼成法(焼結法)、あるいはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粉末(粒子)状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させてから塗布する方法である。気相法は、例えば、物理堆積法または化学堆積法などである。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などである。溶射法とは、溶融状態または半溶融状態の負極活物質を吹き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0090】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどが挙げられる。
【0091】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0092】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この非水溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0093】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0094】
特に、溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つのHがハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つのHがハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0095】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、F、ClまたはBrが好ましく、Fがより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなると共に、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0096】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0097】
また、溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和炭素結合を含む(いずれかの箇所に不飽和炭素結合が導入された)環状炭酸エステルである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0098】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0099】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0100】
電解質塩は、例えば、Li塩などの軽金属塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。Li塩は、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 5 4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、Li2 SiF6 、LiClまたはLiBrなどであり、その他の種類のLi塩でもよい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0101】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のいずれか1種類または2種類以上が好ましく、LiPF6 またはLiBF4 が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より優れた特性が得られるからである。
【0102】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0103】
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0104】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0105】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0106】
次に、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。この場合には、負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合した負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、必要に応じて負極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0107】
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、溶接法などを用いて正極集電体21Aに正極リード25を取り付けると共に負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。
【0108】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、正極21が正極活物質として上記した活物質を含んでいるので、高負荷条件の充放電時においても正極活物質の結晶性に起因する放電容量の低下が抑制される。よって、高負荷条件でも高い放電容量を得ることができる。
【0109】
<2−2.電極および二次電池(ラミネートフィルム型)>
図3は、ラミネートフィルム型の二次電池の分解斜視構成を表しており、図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面を拡大して示している。ここで説明する二次電池は、円筒型の場合と同様にリチウムイオン二次電池であり、以下では、既に説明した円筒型の二次電池の構成要素を随時引用する。
【0110】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されたものである。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回された巻回積層体である。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。この巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0111】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0112】
外装部材40は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0113】
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムでもよい。
【0114】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0115】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを有している。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0116】
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層36は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0117】
高分子化合物は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0118】
電解液の組成は、円筒型と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0119】
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0120】
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極53に吸蔵される。
【0121】
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0122】
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布してゲル状の電解質層36を形成する。続いて、溶接法などを用いて正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層および巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40の外周縁部同士を接着させて、その外装部材40に巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
【0123】
第2手順では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層36を形成する。
【0124】
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40の開口部を密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成される。
【0125】
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは有機溶剤などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0126】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、正極33が正極活物質として上記した活物質を含んでいるので、円筒型の二次電池と同様に、高負荷条件においても高い放電容量を得ることができる。
【0127】
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
【0128】
二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。
【0129】
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ノート型パソコンなどの電源として用いられる電池パックである。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0130】
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源として各種機能を発揮する機器である。
【0131】
ここで、二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0132】
<3−1.電池パック>
図5は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、図5に示したように、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
【0133】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上の二次電池を含む組電池であり、それらの接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
【0134】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0135】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時に制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時に補正処理を行うために用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定して、その測定電圧アナログ/デジタル変換(A/D)変換して制御部61に供給するものである。
【0136】
スイッチ制御部67は、電流測定部66および電圧測定部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
【0137】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
【0138】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
【0139】
なお、二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.20V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
【0140】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)が記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部10が残容量などの情報を把握できる。
【0141】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
【0142】
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)または電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
【0143】
<3−2.電動車両>
図6は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、図6に示したように、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0144】
この電動車両は、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力により発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力によりモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
【0145】
なお、図示しない制動機構により電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力によりモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0146】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
【0147】
なお、上記では電動車両としてハイブリッド自動車について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0148】
<3−3.電力貯蔵システム>
図7は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、図7に示したように、一般住宅または商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0149】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
【0150】
なお、電気機器94は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビまたは給湯器などの1または2以上の家電製品を含んでいる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機または風力発電機などの1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクまたはハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所または風力発電所などの1種類または2種類以上である。
【0151】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、必要に応じて外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御し、効率的で安定したエネルギー供給を可能にするようになっている。
【0152】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて、必要に応じて電気機器94または電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0153】
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
【0154】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0155】
<3−4.電動工具>
図8は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、図8に示したように、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0156】
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御物99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、必要に応じて電源100からドリル部101に電力を供給して可動させるようになっている。
【実施例】
【0157】
本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0158】
(実験例1−1〜1−125)
以下の手順により、図9に示したコイン型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0159】
正極活物質を得る場合には、最初に、原材料として、リン酸リチウム、リン酸鉄およびリン酸マンガンの粉末を準備した。続いて、原材料の粉末を混合したのち、純水に分散させて溶液とした。続いて、200℃の高温環境中において噴霧乾燥法を用いて溶液を噴霧して粉末状の正極活物質前駆体(LiMn0.75Fe0.25PO4 )を得たのち、200℃で加熱した。続いて、錠剤成型機を用いて粉末の正極活物質前駆体を圧縮して、ペレット状に成型した。この場合には、成型体の厚さを6μmとすると共に、その密度を表1〜表5に示したように変化させた。続いて、N2 ガスの雰囲気下、正極活物質前駆体の成型体を600℃で焼成した。最後に、ボールミルを用いて正極活物質前駆体の成型体を粉砕して、粉末状の正極活物質を得た。この場合には、粉砕強度および粉砕時間を調整して、粉砕後の正極活物質(一次粒子のメジアン径(D50))を表1〜表5に示したように変化させた。なお、二次電池の作製に用いた正極活物質(二次粒子)のメジアン径(D90)は、表1〜表5に示した通りである。
【0160】
試験極51を作製する場合には、最初に、正極活物質(LiMn0.75Fe0.25PO4 )90.8質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)5質量部と、正極導電剤(黒鉛)4.2質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、正極合剤を分量外のNMPに分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(Al箔:厚さ=15μm)の一面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層を圧縮成型してからペレット状に打ち抜いた。水銀ポロシメータ(Micromeritics 社製オートポア9500シリーズ)を用いて正極活物質層に対する水銀浸入量を測定したところ、最大ピークの孔径は表1〜表5に示した通りであった。
【0161】
対極53を作製する場合には、最初に、負極活物質(黒鉛)95質量部と、負極結着剤(PVDF)5質量部とを混合して負極合剤としたのち、その負極合剤を分量外のNMPに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体(Cu箔:厚さ=15μm)の一面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層を形成したのち、ロールプレス機を用いて負極活物質層を圧縮成型してからペレット状に打ち抜いた。
【0162】
電解液を調製する場合には、溶媒である炭酸エチレン(EC)と炭酸エチルメチル(EMC)と炭酸ジメチル(DMC)とを混合したのち、電解質塩であるLiPF6 を溶解させた。この場合には、溶媒の組成(体積比)をEC:EMC:DMC=20:20:60、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/dm3 (=1mol/l)とした。
【0163】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、試験極51を外装缶52に収容すると共に、対極53を外装カップ54に収容した。続いて、電解液が含浸されたセパレータ55(ポリエチレン:厚さ=23μm)を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように外装缶52と外装カップ54とを積層させた。最後に、ガスケット56を介して外装缶52および外装カップ54をかしめた。これにより、コイン型の二次電池(直径=20mm×高さ=1.6mm)が完成した。
【0164】
この二次電池の負荷特性を調べたところ、表1〜表5に示した結果が得られた。負荷特性を調べる場合には、25℃の恒温槽中において二次電池を充放電させて、放電容量(mAh/g)を測定した。充電時には、0.3mAの電流密度(0.1Cに相当)で定電流充電したのち、電池電圧が4.2Vに到達した時点で定電圧充電に切り換えた。放電時には、15mAの電流密度(5Cに相当)で電池電圧が3Vに到達するまで定電流放電した。なお、0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、5Cとは、電池容量を0.2時間で放電しきる電流値である。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
【表3】

【0168】
【表4】

【0169】
【表5】

【0170】
正極活物質の製造条件(密度およびメジアン径)および物性条件(半値幅)を変化させると、それに応じて高負荷条件における放電容量が変化した。この場合には、密度が0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 、孔径が0.023μm〜0.06μmであると、その範囲外である場合よりも放電容量が高くなった。なお、圧縮成型しなかった場合(密度=0cm3 )には、試験極51を作製できないため、放電容量も測定できなかった。また、密度が上記した範囲内である場合において、メジアン径(D50)が5μm〜30μm、メジアン径(D90)が10.5μm〜60μmであると、それらの範囲外である場合よりも放電容量がより高くなった。さらに、密度およびメジアン径(D50,D90)が上記した範囲内である場合において、半値幅が0.15°〜0.24°であると、その範囲外である場合よりも放電容量がさらに高くなった。なお、成型体の厚さが6μmよりも大きいと、焼成ムラに起因して上記した物性条件(半値幅)が得られなかった。
【0171】
表1〜表5の結果から、式(1)に示したオリビン型のLiリン酸塩を用いる場合には、メジアン径(D90)=10.5μm〜60μm、半値幅=0.15°〜0.24°であると、負荷特性が向上することが確認された。
【0172】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出により表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とLi金属の析出溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される場合についても適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0173】
また、電池構造が円筒型またはラミネートフィルム型であると共に電池素子が巻回構造を有する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、電池構造が角型またはボタン型などである場合、または、電池素子が積層構造などを有する場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0174】
21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、36…電解質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む正極と、負極と、電解液とを備え、
前記活物質は下記の式(1)で表される組成を有し、
レーザ回折法により測定される前記活物質のメジアン径(D90)は10.5μm〜60μmであると共に、X線回折法により測定される前記活物質の(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.15°〜0.24°である、
二次電池。
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【請求項2】
前記活物質は下記の式(2)で表される組成を有する、請求項1記載の二次電池。
LiMnb1Fec1PO4 ・・・(2)
(0<b1<1、0<c1<1およびb1+c1=1である。)
【請求項3】
前記正極は前記活物質を含む活物質層を有し、水銀圧入法により測定される前記活物質層に対する水銀浸入量の変化率の最大ピークの孔径は0.023〜0.06μmμmである、請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池である、請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
下記の式(1)で表される組成を有し、
レーザ回折法により測定されるメジアン径(D90)は10.5μm〜60μmであると共に、X線回折法により測定される(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.15°〜0.24°である、
活物質。
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【請求項6】
粉末状の原材料を圧縮して成型体を形成したのち、その成型体を焼成してから粉砕することにより、下記の式(1)で表される組成を有する活物質を形成し、
圧縮工程における前記成型体の密度を0.5mg/cm3 〜2.3mg/cm3 、粉砕工程における前記活物質のメジアン径(D50)を5μm〜30μmとする、
活物質の製造方法。
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【請求項7】
圧縮工程における前記成型体の厚さを6mm以下、焼成工程における焼成温度を400℃〜800℃とする、請求項6記載の活物質の製造方法。
【請求項8】
活物質を含み、その活物質は下記の式(1)で表される組成を有し、
レーザ回折法により測定される前記活物質のメジアン径(D90)は10.5μm〜60μmであると共に、X線回折法により測定される前記活物質の(020)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は0.15°〜0.24°である、
電極。
Lia Mnb Fec d PO4 ・・・(1)
(MはMg、Ni、Co、Al、W、Nb、Ti、Si、Cr、CuおよびZnのうちの少なくとも1種であると共に、0<a≦2、0<b<1、0<c<1、0≦d<1およびb+c+d=1である。)
【請求項9】
請求項1ないし請求項4に記載した二次電池と、その二次電池の使用状態を制御する制御部と、その制御部の指示に応じて前記二次電池の使用状態を切り換えるスイッチ部とを備えた、電池パック。
【請求項10】
請求項1ないし請求項4に記載した二次電池と、その二次電池から電力を供給された電力を駆動力に変換する変換部と、その駆動力に応じて駆動する駆動部と、前記二次電池の使用状態を制御する制御部とを備えた、電動車両。
【請求項11】
請求項1ないし請求項4に記載した二次電池と、1または2以上の電気機器と、前記二次電池から前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部とを備えた、電力貯蔵システム。
【請求項12】
請求項1ないし請求項4に記載した二次電池と、その二次電池から電力を供給される可動部とを備えた、電動工具。
【請求項13】
請求項1ないし請求項4に記載した二次電池を備え、その二次電池から電力を供給される、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−30350(P2013−30350A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165514(P2011−165514)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】