説明

流体の制御方法

【課題】二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスにおいて、流体の界面位置が限定されず、かつ安定した界面を形成することができる流体の制御方法を提供する。
【解決手段】二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスを用いて、該合流流路で多層流を形成する流体の制御方法であって、前記合流流路に第一の流体を充填する第一の工程と、前記合流流路に前記第一の流体と第二の流体を導入して多層流を形成する第二の工程とを有し、前記第一の流体が前記第二の流体よりも合流流路の壁面での付着仕事が小さい流体の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細流路を用いた流体デバイス内の流体の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の基板に微細流路を形成し、微量分析や診断、化学合成等をチップ上で行う方法がある。これらはμ−TASやLab−on−a−Chip等と呼ばれ、注目されている。
【0003】
本発明での微細流路とは層流が形成されるような条件を満たす流路である。
流体の状態を示す無次元数としてレイノルズ数というものが知られている。レイノルズ数はRe=UL/ν(U:特性速度[m/s]、L:特性長さ[m]、ν:動粘度[m/s])で表される。レイノルズ数がおおよそ2000より小さい時、流体は層流を形成することが知られている。
【0004】
そのようなチップ内において複数の流体を導入し多層流を形成し、その多層流を利用して分離や合成を行う方法が各種提案されている。例えば、特許文献1においては分子の特異的な挙動の差を利用して特定の分子種を分離している。
この多層流の界面形成は主として界面張力によるものであるが、界面を安定させるのは難しく流体が不連続となるなどの問題があった。
【0005】
そこで、多層流を安定化させる方法として多くの提案がされており、その方法を大別すると微細流路の構造によるものと、流路の表面処理によるものがあった。
特許文献2では、ガイド構造を有することにより界面を安定させる方法が考案されている。しかしながら、ガイド位置近傍に界面が限定されてしまうという問題がある。
【0006】
また、特許文献3では微細流路の壁面全面を両親媒性表面処理する方法が考案されている。この方法では高い安定性を実現できるが、経時変化や個体差があるといった問題がある。
【特許文献1】特開2005−262199号公報
【特許文献2】特開2005−156500号公報(第5頁、図5)
【特許文献3】特開2005−331286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、少なくとも二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスにおいて、流体の界面位置が限定されず、かつ安定した界面を形成することができる流体の制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための流体の制御方法は、二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスを用いて、該合流流路で多層流を形成する流体の制御方法であって、前記合流流路に第一の流体を充填する第一の工程と、前記合流流路に前記第一の流体と第二の流体を導入して多層流を形成する第二の工程とを有し、前記第一の流体が前記第二の流体よりも合流流路の壁面での付着仕事が小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスにおいて、流体同士の界面位置が限定されず、かつ安定した界面を形成することができる流体の制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る流体の制御方法は、二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスを用いて、該合流流路で多層流を形成する流体の制御方法であって、前記合流流路に第一の流体を充填する第一の工程と、前記合流流路に前記第一の流体と第二の流体を導入して多層流を形成する第二の工程とを有し、前記第一の流体が前記第二の流体よりも合流流路の壁面での付着仕事が小さいことを特徴とする。
【0011】
前記多層流の一つの流体層に光を伝播させて標的物の検出を行う工程を有することが好ましい。
前記合流流路の壁面に設置された反応物と、流体内の反応物を反応させる工程を有することが好ましい。
【0012】
前記合流流路の前記第一の流体と第二の流体の界面の位置を計測し、該界面の位置に基づいて前記第一の流体および第二の流体の少なくとも一つの流体の導入量を調整することが好ましい。
【0013】
前記第一および第二の流体の少なくとも一つに含まれている物質を、分離または抽出する工程を有することが好ましい。
【0014】
本発明において、付着仕事とは、単位面積の固体表面から液体を引き離す仕事のことを示す。
【0015】
図1は界面張力と接触角の関係を示す図である。図1で1は固体(基板)であり、2は気体、3は液体である。4は固−気界面張力(γ)、5は気−液界面張力(γ)、6は固−液界面張力であり(γSL)、7は接触角(θ)である。
【0016】
界面張力の釣り合いを示す式として、次に示すヤング(Young)の式が知られている。
【0017】
【数1】

【0018】
一方、付着仕事(W)を示す式として、次に示すデュプレ(Dupre)の式が知られている。
【0019】
【数2】

【0020】
これらの式から、γとγSLを消去すると、次に示すヤング−デュプレ(Young−Dupre)の式が得られる。
【0021】
【数3】

【0022】
付着仕事が大きいと流体が基板から引き離れにくくなり安定となる。したがって、付着仕事が大きい流体を充填した後に付着仕事が小さい流体を導入すると、後から導入した流体は基板から離れるように流れやすくなるため制御が難しい。一方、付着仕事が小さい流体を充填した後に付着仕事が大きい流体を導入すると、後から導入した流体は基板に沿って流れやすくなるため、制御が容易となり安定な界面を形成しやすくなる。
【0023】
このように安定した界面を形成するため、本発明の第一の工程においては二流体のうち、より付着仕事が小さい流体を充填する。次に第二の工程において前記流体ともう一方の流体を導入し多層流を形成する。第一の工程および第二の工程の流量は任意の流量に調整することが可能なため、界面位置が限定されず、かつ安定な界面を形成することが出来る。
【0024】
例として、第一の流体がシリコーンオイル、第二の流体が水、合流流路の流路壁が表面未処理のガラスである場合を考える。この流路壁は、図1の固体1と対応する。
シリコーンオイルの表面張力は0.047N/m、ガラスとの接触角は17°である。また、水の表面張力は0.072N/m、ガラスとの接触角は26°である。
【0025】
それぞれの付着仕事を求めると、シリコーンオイルは0.092J/m、水は0.14J/mとなり、シリコーンオイルの方が付着仕事が小さい。したがってこの場合は、第一の工程でシリコーンオイルを導入する。
【0026】
また、接触角7は固体1の表面状態によって大きく変わる。例えば、汚れたガラスでは清浄なガラスに比べ水との接触角が大きくなる。また、ガラス表面に撥水処理を行うと、水との接触角は90°より大きくなる。この場合、付着仕事はシリコーンオイルと比べて水の方が小さくなり、第一の工程では水を導入することとなる。
【0027】
ここでは、流体をシリコーンオイルと水、流路壁をガラスとして説明してきたが他の物質であってもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0029】
実施例1
図2から図9を用いて本発明における第一の実施例を説明する。
【0030】
図2は流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの装置構成図である。図2において、8aは第一の流体、8bは第二の流体である。
9aは第一の流量調整手段で10a、11aから構成される。10aは第一のポンプで、不図示のリザーバに充填されている第一の流体8aを流す。11aは第一のバルブであり、第一の流体8aの流量を調整する。9bは第二の流量調整手段で10b、11bから構成される。10bは第二のポンプで、不図示のリザーバに充填されている第二の流体8bを流す。11bは第二のバルブであり、第二の流体8bの流量を調整する。
【0031】
12aは第一の流体8aの導入流路、12bは第二の流体8bの導入流路であり、13は合流流路である。14は第一の流体8aと第二の流体8bの界面である。15は流路壁である。
【0032】
16はレーザによる入射光を示しており、合流流路13内の流体8bの層を界面14および流路壁15で全反射しながら光が伝播していく。その際に流体8aで観測されるエバネッセント光を用いて、流体8a内の不図示の標的物を検出することが可能である。
【0033】
波長が一定であれば導波路となる流体8bの屈折率および幅、検出路となる流体8aの屈折率および幅、流路基板の屈折率の諸条件で伝播モードが決定する。本実施例で流体8bの幅を狭くする理由は、流体8bの幅以外の諸条件が一定であれば、流体8bの幅が狭いほど低次の伝播モードとなりやすく、検出路となる流体8aで観測されるエバネッセント光の入射光全体に占める割合がより大きくなるからである。
【0034】
よって、導波路となる流体8bにおいて基本モードがカットオフとなる幅近傍を除けば、流体8bの幅が狭いほうが流体8aで生じた屈折率の変化をより高感度に検出することが可能になる。
【0035】
図3は本実施例の処理手順のフローチャートである。
S1で二つの流体の内、合流流路の流路壁での付着仕事がより小さい流体で合流流路13を満たす第一の工程の後、S2でもう一方の流体を導入し多層流を形成する第二の工程を行う。次にS3で流体内の検体を検出する検出工程を行う。
【0036】
第一の実施例では、第二の工程後に入射光16を入射させ、流体8aで観測されるエバネッセント光を用いて、流体8a内の標的物を検出する。
図4は、流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。本実施例の第一の工程においては、第一の流体8aと第二の流体8bの内、より合流流路の流路壁での付着仕事が小さい流体のみを合流流路13に導入する。本実施例では第二の流体8bを第二の流量調整手段9bを用いて第二の流体の導入流路12bを通じて送液し、合流流路13を充填させる。この時第一の流体8aは第一の流量調整手段9aにより送液されないようにする。
【0037】
図5は、流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。
本実施例の第二の工程においては、第二の流体8bが充填された合流流路13に第一の流体8aを第一の流量調整手段9aを用い、第一の導入流路12aを通じて導入する。この時、第二の流体8bは前記第一の工程から引き続き第二の流量調整手段9bによって前記第一の工程と同じ流量で導入される。
【0038】
図6はシミュレーションに用いた流路の二次元モデルである。第一の流体の導入流路12a、第二の流体の導入流路12bおよび合流流路13の幅は100μmであり、導入流路12a、12b間の角度は22.6°、導入流路12a、12bの長さは550μm、合流流路13の長さは2250μmとなっている。
【0039】
ところで、多層流を形成する際に二つの流体を同時に流した場合には、どちらかの流体が不連続となる場合がある。それを解決する方法として一方の流体を合流流路13に充填してから両方の流体を流す方法が考えられる。ここで不連続とは図7のように流体が千切れた状態を指す。図7では第二の流体8bが千切れ、球状で合流流路13を流れている。
【0040】
図7、8、9は第一の流体として水、第二の流体としてシリコーンオイルを用いたシミュレーション結果であり、図7は不連続な状態を示すシミュレーション図、図8は第一の工程のシミュレーション図、図9は第二の工程のシミュレーション図である。
【0041】
シミュレーションの初期状態として、導入流路12a及び合流流路13には第一の流体(水)8aが充填され、導入流路12bには第二の流体(シリコーンオイル)8bが充填されている状況を考える。前述のようにこの二流体ではシリコーンオイルの方が合流流路の流路壁での付着仕事が小さい。
【0042】
図7は前記状態から水の単位深さ当たりの質量流量5.0×10−4kg/s・m、シリコーンオイルの単位深さ当たりの質量流量1.0×10−4kg/s・mを与え、両流体を流し始めてから約0.95秒後の状態である。
【0043】
このように最初に付着仕事の大きい流体が合流流路に充填されている場合では、流体8bが不連続となり、安定な層流を形成することができないことがある。
【0044】
図8は初期状態として、導入流路12aには水が充填され、導入流路12b及び合流流路13にはシリコーンオイルが充填されている状態であり、本発明の第一の工程に対応するものである。
【0045】
図9は図8の状態から、水の単位深さ当たりの質量流量5.0×10−4kg/s・m、シリコーンオイルの単位深さ当たりの質量流量1.0×10−4kg/s・mを与えて両流体を流した時の約0.95秒後の状態であり、本発明の第二の工程に対応するものである。
【0046】
同じ質量流量の図7に対し、図9では安定な界面が形成されている。
このように、付着仕事の大きい流体が合流流路13に充填されている場合に比べ、第一の工程、第二の工程を経る本発明ではより安定な界面を築くことができる。
【0047】
本実施例で使用する第一の流体8a、第二の流体8bは、第二の流体8bが第一の流体8aより付着仕事が小さい必要がある。さらに第一の流体8aおよび流路壁の材質の屈折率より第二の流体8bの屈折率が大きく、使用している入射光16の波長において吸収が少ない流体であればどのような流体でもよい。使用する流体は不混和性液体がより望ましく、例えば第一の流体8aが水、第二の流体8bがシリコーンオイルである。
【0048】
本実施例の第二の工程では第二の流体の流量を第一の工程での流量に固定しているが、第二の流量調整手段2bにより流量を調整してもよい。
【0049】
第二の工程の後、図2に示すようにレーザによる入射光16を第二の流体8bに入射させ、界面14および流路壁15で全反射しながら光が伝播する際に流体8aで観測されるエバネッセント光を用いて、流体8a内の不図示の標的物を検出する検出工程を行う。
【0050】
例えば、標的物は蛍光標識されたPCR産物であり、流体8aで観測されるエバネッセント光を用いて蛍光検出を行う。ただし、標的物は他の物でもよく、検出方法は他の方法であってもよい。
【0051】
本実施例ではエバネッセント光を有効に利用するために、流体8bの幅を薄くする必要がある。幅は理論式により理論値を算出することができる。
例えば流体8a内を流れている検体の蛍光検出を行う場合には、流体8a内に侵入するエバネッセント光が全入射光に占める割合が増加し、エバネッセント領域内における光量が増加するほどより高感度に検出できる。
【0052】
実効屈折率を求めてマクスウェル方程式を解くと、導波路内を伝播する光の電界分布が算出でき、エバネッセント領域の入射光に占める割合を算出することができる。この割合が最大になる流体8aの幅が理論上の最適の幅となる。
【0053】
ここで、実効屈折率は、各流体の屈折率、幅、流体デバイス基板の屈折率、波長および流路形状の各値を規格化し、波長の分散関係を利用して数値解析により求める方法が知られている。
【0054】
また、エバネッセント光を利用せず、第二の流体層を伝播する光を用いる検出方法であってもよい。
以上、本実施例によれば第一の工程において、二つの流体の内、合流流路の流路壁での付着仕事が小さい流体で合流流路を充填した後、二つの流体を導入して多層流を形成する第二の工程を経ることにより、二つの流体を同時に導入した時に見られる流体が不連続となる現象を抑制することができる。そのため、層流を利用し、第二の流体に伝播させた光を用いた検出ができる。
【0055】
実施例2
図10および図11を用いて本発明における本実施例を説明する。
図10は壁面と流体内の反応物を反応させるマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。
【0056】
図10において、17は流路壁に設置された一本鎖DNAプローブであり、18は第二の流体1bに含まれる一本鎖DNAで、蛍光標識されている。17と18は相補的であり、ハイブリダイゼーションが起こると不図示の光学検出手段により反応物の検出ができる。
【0057】
本実施例の第一の工程においては、第一の流体8aと第二の流体8bの内、より合流流路の流路壁での付着仕事が小さい流体のみを合流流路13に導入する。本実施例では第一の流体8aを第一の流量調整手段9aを用いて第一の流体の導入流路12aを通じて送液し、合流流路13を充填させる。この時第二の流体8bは第二の流量調整手段9bにより送液されないようにする。
【0058】
図11は、壁面と流体内の反応物を反応させるマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。本実施例の第二の工程においては、第一の流体8aが充填された合流流路13に第二の流体8bを第二の流量調整手段9bを用い、第二の流体の導入流路12bを通じて導入する。この時、第一の流体8aは前記第一の工程から引き続き流量調整手段9aによって前記第一の工程と同じ流量で導入される。
【0059】
第一の流体8a、第二の流体8bは不混和性流体が望ましく、また一本鎖DNA18が界面14を越えて拡散しないような流体が望ましい。例えば、8aがシリコーンオイル、8bが水溶性のバッファである。
【0060】
本実施例の第二の工程では第一の流体の流量を第一の工程での流量に固定しているが、第一の流量調整手段9aにより流量を調整してもよい。
第二の工程の後、一本鎖DNAプローブ17と流体8b内の一本鎖DNA18のハイブリダイゼーション工程を行う。
【0061】
本実施例で幅を薄くする理由は、一本鎖DNAプローブ17を設置した流路壁側の幅を狭くすると、一本鎖DNA18が17と接触しハイブリダイズする確率が高まるためである。
【0062】
流体の幅は、プローブの大きさよりも厚ければより薄いほうがよい。チップでハイブリダイゼーションを行う際の幅は一般的に50μmから200μmであり、これより薄ければ効果がある。
【0063】
蛍光標識は一本鎖DNA18にされていたが、DNAプローブ17にされていてもよく、インターカレータ方式を用いてもよいがこれに限定されない。
DNAプローブ17、一本鎖DNA18にRNAを用いてもよいが、これに限定されない。
【0064】
ここまでハイブリダイゼーションについて説明してきたが、抗原抗体反応など他の反応を行ってもよく、これに限定されない。以上、蛍光標識を用いた検出方法について説明してきたが、化学発光を用いた検出方法であってもよく、また、光学検出に限定されない。
【0065】
以上、第二の実施例によれば、幅が薄く安定な界面を築く事でマイクロデバイス内での反応をより効率的に行うことができる。
【0066】
実施例3
図12および図13を用いて本発明における本実施例を説明する。
【0067】
図12は界面位置情報を利用し流量を調整するマイクロ流体デバイスの装置構成図である。
図12において、19は界面14の位置を測定する界面位置計測手段であり、図12においては合流流路13がある平面より上方に位置している。21は流量を制御する制御部で、界面位置計測手段19から界面位置情報20が入力され、第一の流体の流量情報22aと第二の流体の流量情報22bを出力する。流量情報22a、22bは第一の流量調整手段9a、第二の流量調整手段9bにそれぞれフィードバックして所望の界面位置になるよう流量を調整する。
【0068】
図13は本実施例の処理手順のフローチャートである。
S11の第一の工程、S12の第二の工程の後、S13で界面位置計測手段19により界面位置の計測を行う。界面位置情報20は制御部21に入力され、S14で界面14が所望の位置にあるかどうかを判断し、所望の位置にあればS13に戻ってそのまま送液を続けたまま界面位置の計測を繰り返す。所望の位置になければS15で適切な流量比で所望の位置に界面を形成する工程を行ない、S13に戻る。
【0069】
界面位置計測手段19は、例えば画像を基に界面位置を計測する方法がある。
第一の流体、第二の流体いずれかを着色、あるいはそれぞれを別の色に着色すれば判定が可能である。
【0070】
また、両方無色の場合でも流体および基板の屈折率の違いを利用して、流体内に光を伝播させることにより計測が可能である。但し、第一と第二の流体は異なる屈折率を有し、かつ少なくとも一つの流体の屈折率は基板の屈折率より高い値を有する。
【0071】
例えば、第一の流体が水(n=1.33)、第二の流体が透明なシリコーンオイル(n=1.6)、流路壁の材質がガラス(n=1.52)を用いた場合である。
その他の計測法として、界面に光を照射して得られる透過光の検出位置と第一の流体と第二の流体の屈折率の違いを基に変位を測定する方法などがあるが、これに限定されない。制御部21は流量調整手段9a、9bと一体となっていてもよく、界面位置計測手段19と一体になっていてもよい。
【0072】
以上の実施例1から実施例3では、Y字型の流路を使用しているが多層流を形成するための導入路があればよく、この形状に限定されない。また、導入路と合流流路の幅が同一であるが、例えば合流流路の幅が各導入流路の幅の総和であってもよく、これに限定されない。また、陽圧でポンプを使用しているが、合流流路の下流側にポンプを設置する場合は陰圧であってもよい。さらに、流出口が一つであるが、複数あってもよい。
【0073】
流出口が複数ある場合については実施例4で後述する。
本実施例によれば、界面が所望の位置からずれていても修正ができる。
【0074】
実施例4
図14および図15を用いて本発明における本実施例を説明する。
【0075】
図14は抽出を行うマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。図14において、23a、23bは流出経路であり、24は液体に溶解する物質であり、本実施例では油脂である。
【0076】
本実施例の第一の工程においては、第一の流体8aと第二の流体8bの内、より合流流路の流路壁での付着仕事の小さい流体のみを合流流路13に導入する。本実施例では第一の流体8aはノルマルヘキサン(n−ヘキサン)、第二の流体8bは水、合流流路の流路壁はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であると想定している。
【0077】
n−ヘキサンの表面張力は0.018N/mであり、PTFEとの接触角は41°である。また、水の表面張力は0.072N/mであり、PTFEとの接触角は104°である。この時、n−ヘキサンの付着仕事は0.032J/m、水の付着仕事は0.055J/mである。
【0078】
したがって、本実施例の第一の工程では第一の流体8aを第一の流量調整手段9aを用いて第一の流体の導入流路12aを通じて送液し、合流流路13を充填させる。この時第二の流体8bは第二の流量調整手段9bにより送液されないようにする。
【0079】
図15は、抽出を行うマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。本実施例の第二の工程においては、第一の流体8aが充填された合流流路13に第二の流体8bを第二の流量調整手段9bを用い、第二の流体の導入流路12bを通じて導入する。この時、第一の流体8aは前記第一の工程から引き続き流量調整手段9aによって前記第一の工程と同じ流量で導入される。
【0080】
本実施例の第二の工程では第一の流体の流量を第一の工程での流量に固定しているが、第一の流量調整手段9aにより流量を調整してもよい。
第二の工程の後に抽出工程を行う。本実施例で幅を狭くする理由は、第二の流体8bの幅を狭くすると油脂24が界面14で第一の流体8aと接触し、油脂が抽出される確率が高まるためである。
【0081】
油脂の溶解度は水とn−ヘキサンではn−ヘキサンの方が大きいため、水中の油脂が界面でn−ヘキサンと接触するとn−ヘキサンの方に溶解する。よって、流出口23aでは油脂を抽出したn−ヘキサンが得られる。
【0082】
本実施例では、第一の流体8aおよび、第二の流体8bはそれぞれn−ヘキサン、水、であったが、これらに限定されない。また、流体に溶解する物質24は油脂であったが、他の物であってもよく、溶解しない物質、例えば粒子であってもよい。
【0083】
また、溶解物質が一種類の場合について説明してきたが、二種類以上でもよい。これは粒子の場合でも同様である。
本実施例では抽出について説明してきたが、二種類以上の粒子の分離であってもよい。分離の方法としては粒子径と流体幅を利用して分離する方法などがあるが、この方法に限定されない。
【0084】
また、実施例4にて示した流路形状においても、実施例1から実施例3を行うことができる。
以上の実施例1から実施例4では流量調整手段9a、9bが流路内に組み込まれているが、流路の外側にあってもよい。流量調整手段はポンプとバルブが一体となっていてもよく、ポンプのみで構成されてもよい。さらに、ポンプやバルブが複数であってもよい。ポンプは、シリンジポンプ、ダイヤフラムポンプ、ローラーポンプ、真空ポンプなどを用いればよいが、これらに限定されない。
【0085】
また、第一の工程において合流流路13の流路壁での付着仕事の小さい流体を導入する際、流路内の空気のほとんどは流出口から放出されるが、一部がバルブ付近に気泡として残存する可能性がある。これは、例えばバルブ付近の流路壁にガス透過膜を設置することで防ぐことができる。
【0086】
実施例4によれば、層流を利用し、流体中の溶解物質あるいは粒子を抽出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の流体の制御方法は、二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスにおいて、流体同士の界面位置が限定されず、かつ安定した界面を形成することができるので、μ−TASやLab−on−a−Chipを用いた検出や分析に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】界面張力と接触角の関係を示す図である。
【図2】流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの装置の構成図である。
【図3】処理手順のフローチャートを示す図である。
【図4】流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。
【図5】流体層に光を伝播させて検出を行うマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。
【図6】シミュレーションに使用した二次元モデルを示す図である。
【図7】不連続な状態を示すシミュレーションを示す図である。
【図8】第一の工程のシミュレーションを示す図である。
【図9】第二の工程のシミュレーションを示す図である。
【図10】壁面と流体内の反応物を反応させるマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。
【図11】壁面と流体内の反応物を反応させるマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。
【図12】界面位置情報を利用し流量を調整するマイクロ流体デバイスの装置の構成図である。
【図13】処理手順のフローチャートを示す図である。
【図14】抽出を行うマイクロ流体デバイスの第一の工程を示す図である。
【図15】抽出を行うマイクロ流体デバイスの第二の工程を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 固体(基板)
2 空気
3 液体
4 固−気界面張力
5 気―液界面張力
6 固―液界面張力
7 接触角
8a 第一の流体
8b 第二の流体
9a 第一の流体の流量調整手段
9b 第二の流体の流量調整手段
10a 第一のポンプ
10b 第二のポンプ
11a 第一のバルブ
11b 第二のバルブ
12a 第一の流体の導入流路
12b 第二の流体の導入流路
13 合流流路
14 界面
15 流路壁
16 入射光
17 一本鎖DNAプローブ
18 一本鎖DNA
19 界面位置計測手段
20 界面位置情報
21 制御部
22a 第一の流体の流量調整情報
22b 第二の流体の流量調整情報
23a、23b 流出流路
24 液体に溶解する物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの流体を合流させる合流流路を有する流体デバイスを用いて、該合流流路で多層流を形成する流体の制御方法であって、前記合流流路に第一の流体を充填する第一の工程と、前記合流流路に前記第一の流体と第二の流体を導入して多層流を形成する第二の工程とを有し、前記第一の流体が前記第二の流体よりも合流流路の壁面での付着仕事が小さいことを特徴とする流体の制御方法。
【請求項2】
前記多層流の一つの流体層に光を伝播させて標的物の検出を行う工程を有する請求項1に記載の流体の制御方法。
【請求項3】
前記合流流路の壁面に設置された反応物と、流体内の反応物を反応させる工程を有する請求項1に記載の流体の制御方法。
【請求項4】
前記合流流路の前記第一の流体と第二の流体の界面の位置を計測し、該界面の位置に基づいて前記第一の流体および第二の流体の少なくとも一つの流体の導入量を調整する請求項1に記載の流体の制御方法。
【請求項5】
前記第一および第二の流体の少なくとも一つの流体に含まれている物質を、分離または抽出する工程を有する請求項1に記載の流体の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−204357(P2009−204357A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45029(P2008−45029)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】