説明

流体ポンプ

【課題】流体の移送量の経時的変化を抑制できる流体ポンプを提供する。
【解決手段】弾性チューブ70を押圧する箇所を弾性チューブに沿って移動させることによって、弾性チューブ内の流体を押圧箇所の移動方向に移送させる流体移送手段20と、流体移送手段に対して流体の移送方向の下流側の弾性チューブのコンダクタンスを弾性チューブが開放状態の弾性チューブのコンダクタンスよりも小さくするコンダクタンス調整手段40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体ポンプに関し、特に、軟質弾性チューブを蠕動運動させて送液をするペリスタルティック方式の輸液ポンプに関するものである。輸液とは患者の静脈から体内へ薬液を注入する治療法である。
【背景技術】
【0002】
輸液ポンプには、容積制御方式と滴下制御方式がある。その中で、容積制御方式の輸液ポンプは、チューブ内径が正確に規定された専用の輸液セットを使用し、設定流量に相当するチューブ変形を与えて送液する構造である。チューブ変形を与える方式としてはフィンガを用いるフィンガポンプ(特許文献1参照)とローラを用いるローラポンプとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7ー116251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらのポンプを使用して、長時間の輸液を行うと、次第にチューブの復元力が低下することによるチューブ断面積の低下を生じ、送液流量が低下するという問題点がある。
【0005】
従って、本発明の主な目的は、流体の移送量の経時的変化を抑制できる流体ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
弾性チューブを押圧する箇所を前記弾性チューブに沿って移動させることによって、前記弾性チューブ内の流体を前記押圧箇所の移動方向に移送させる流体移送手段と、
前記流体移送手段に対して前記流体の移送方向の下流側の前記弾性チューブのコンダクタンスを前記弾性チューブが開放状態の前記弾性チューブのコンダクタンスよりも小さくするコンダクタンス調整手段と、
を備える流体ポンプが提供される。
【0007】
好ましくは、前記流体移送手段によって前記流体を移送させる際には、前記コンダクタンス調整手段によって前記下流側の前記弾性チューブのコンダクタンスを前記弾性チューブが開放状態の前記弾性チューブのコンダクタンスよりも小さくするように、前記流体移送手段と、前記コンダクタンス調整手段とを制御する制御手段をさらに備える。
【0008】
また、好ましくは、前記流体移送手段と前記コンダクタンス調整手段との間で前記弾性チューブの内圧を測定する圧力測定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記圧力測定手段によって測定された前記弾性チューブの内圧に応じて前記弾性チューブのコンダクタンスを調整するよう前記コンダクタンス調整手段を制御する。
【0009】
また、好ましくは、前記流体移送手段による前記流体の移送中は、前記弾性チューブの内圧を所定の圧力に維持するように前記コンダクタンス調整手段を制御する。
【0010】
好ましくは、前記所定の圧力は140〜290kPaの範囲内の圧力であり、より好ましくは、前記所定の圧力は220〜290kPaの範囲内の圧力である。
【0011】
また、好ましくは、前記コンダクタンス調整手段は、前記弾性チューブを押圧する押圧手段を備え、前記弾性チューブのコンダクタンスの調整は、前記押圧手段による前記弾性チューブに対する押圧力を調整することにより行う。
【0012】
また、好ましくは、前記流体移送手段は、前記弾性チューブを押圧する複数のフィンガを上流側から順次前記弾性チューブに向かって移動させ、前記弾性チューブを押圧するフィンガを上流側のフィンガから順次下流側のフィンガに移すことによって前記弾性チューブ内の流体を移送させる流体移送手段である。
【0013】
また、好ましくは、前記流体移送手段は、前記弾性チューブを押圧しているローラを上流側から下流側に移動させることによって前記弾性チューブ内の流体を移送させる流体移送手段である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流体の移送量の経時的変化を抑制できる流体ポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプの使用例を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプを説明するための概略斜視図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプを説明するための概略縦断面図である。
【図4】図4は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプで使用するフィンガポンプを説明するための概略斜視図である。
【図5】図5は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプで使用するフィンガポンプの動作を説明するための概略断面図である。
【図6】図6は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプを説明するための概略縦断面図である。
【図7】図7は、ポンプスタートから8時間まで30秒毎に送液流量を測定した実験結果を示した図である。
【図8】図8は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプで使用するローラポンプを説明するための概略縦断面図である。
【図9】図9は、比較例の輸液ポンプを説明するための概略斜視図である。
【図10】図9は、比較例の輸液ポンプを説明するための概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプの使用例を説明するための図である。輸液用の輸液ユニット80は、スタンド90に取り付けられている。輸液バッグ94は、スタンド90のアーム92に掛けられている。輸液バッグ94に接続されているチューブ70の内部を流通する薬液を液送する輸液ポンプ10は、輸液ユニット80内に収容されている。
【0018】
図2、図3を参照すれば、輸液ポンプ10は、本体12と、蓋14とを備えている。本体12は、送液部20、気泡検出部30、圧力センサ32、コンダクタンス調整部40、閉塞検出部34、クランプ36を備えている。本体12の壁面16にチューブ70を収容する溝18が縦方向に設けられている。チューブ70はこの溝18内に装着され、蓋14が閉じられる。送液部20、気泡検出部30、圧力センサ32、コンダクタンス調整部40、閉塞検出部34、クランプ36も本体12の壁面16側に、溝18に沿って上流側から下流側に向かってこの順番に設けられている。気泡検出部30、閉塞検出部34およびクランプ36は安全機構である。気泡検出部30によって、チューブ70内の薬液中の気泡が検出される。閉塞検出部34によって、チューブ70の閉塞の有無が検出される。クランプ36は蓋14を不用意に開けたときに、自由落下による薬液の流れを防止する。
【0019】
送液部20は、弾性のチューブ70を押圧する箇所をチューブ70に沿って移動させることによって、弾性チューブ70内の薬液を押圧箇所の移動方向に移送させる流体移送手段として機能する。本実施の形態では、送液部20はフィンガポンプであり、フィンガ22を順次押し出してチューブ70を下流側に順次圧閉してゆく。
【0020】
図4、図5を参照すれば、蓋14(図2、3参照)に取り付けられた加圧板24に対してフィンガ22によってチューブ70を押圧すると、フィンガ22によって押圧された箇所のチューブ70は、フィンガ22と加圧板24に挟まれて閉塞する。複数のフィンガ22を上流側から順次チューブ70に向かって移動させ、チューブを押圧するフィンガ22を上流側のフィンガから順次下流側のフィンガに移すことによってチューブ70を上流側から順次押圧して、チューブ70を上流側から順次閉塞することによって、薬液を上流側から下流方向に移送する。図4に示すように、複数のフィンガ22は、カム27によって動作し、カム27は、減速機構28を介してモータ29によって駆動される。
【0021】
圧力センサ32は、ロードセルを使用している。チューブ70の一部を平面状に押しつぶして、チューブ外部から内圧を測定するトノメトリ方式を使用している。
【0022】
コンダクタンス調整部40は、チューブ70のコンダクタンスをチューブ70が開放状態のチューブ70のコンダクタンスよりも小さくするコンダクタンス調整手段として機能する。本実施の形態では、コンダクタンス調整部40は、オクルーダ42と、オクルーダ42を駆動するリニアアクチュエータ44とを備えている。
【0023】
図6に示すように、輸液ポンプ10は、制御部50を備えている。制御部50は、コンダクタンス調整部40のリニアアクチュエータ44、圧力センサ32、送液部20のモータ29に接続されており、圧力センサ32からの圧力情報の取得、リニアアクチュエータ44およびモータ29の駆動の制御を行う。
【0024】
本実施の形態の送液部20はフィンガポンプであり、フィンガ22の下流側に圧カセンサ32、オクルーダ42を備えている。フィンガ22を作動させ、送液を行っている状態において、オクルーダ42でチューブ70を圧閉してゆくと、チューブ70のコンダクタンスは小さくなり流路抵抗によりチューブ70の内圧が上昇してゆく。チューブ70の内圧を圧力センサ32で検出しながらチューブ70の圧閉度を制御部50で制御して、設定したチューブ70の内圧を維持する。
【0025】
このように、送液部20によってチューブ70内で薬液を移送させる際には、オクルーダ42によってチューブ70のコンダクタンスをチューブ70が開放状態のチューブ70のコンダクタンスよりも小さくするように、制御部50で送液部20のモータ26およびコンダクタンス調整部40のリニアアクチュエータ44を制御する。その際、圧カセンサ32によって測定されたチューブ70の内圧に応じて制御部50でコンダクタンス調整部40のリニアアクチュエータ44を制御して、オクルーダ42によってチューブ70のコンダクタンスを調整する。そして、送液部20によってチューブ70内で薬液を移送させる際には、チューブ70の内圧を所定の圧力に維持するように、圧カセンサ32によって測定されたチューブ70の内圧に応じて制御部50でコンダクタンス調整部40のリニアアクチュエータ44を制御する。
【0026】
送液部20のチューブ70は内圧を受けて、大きく脹らもうとするので、復元力の低下を防ぎ、長時間使用しても流量低下を防止することができる。
【0027】
なお、気泡検出部30が送液部20の下流に設置されているのは、送液部20のフィンガ下端とオクルーダ42の間隔をできるだけ空けることにより、より良い効果が得られるからである。
【0028】
また、オクルーダ42にはリニアアクチュエータ44によって所定に圧力が印加されている一方で、輸液前はチューブ70に内圧がかかっていないので、オクルーダ42は完全に閉じている。フィンガ22を動作させるとチューブ70の内圧が上昇してゆき、設定圧になると、オクルーダ42がわずかに開き送液を開始する。
【0029】
この場合、ポンプスタート時から輸液開始時までの時間遅れが生じるので、スタート直後は圧が上昇するまで、フィンガ22を早送りすることが望ましい。
【0030】
図7は、ポンプスタートから8時間まで30秒毎に送液流量を測定した実験結果を示した図である。0kPaは、図9、図10に示すように、圧カセンサ32およびコンダクタンス調整部40を使用しない比較例のものを示している。この場合は8時間で約0.9mL/h流量が低下している。チューブ70の内圧が140kPaから流量低下の防止効果があり。290kPaでは8時間後の減少量が0.2mL/hとなった。さらにチューブ70の内圧を上昇させ、300kPaに設定すると、フィンガ22を備える送液部20での逆流等を生じ効果が低減した。従って、チューブ70の設定内圧は140〜290kPaで流量低下防止効果が得られ、さらに好ましくは220〜290kPaでより有効な効果が得られる。
【0031】
図8は、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプ10で使用するローラポンプを説明するための概略縦断面図である。これまでは送液部20にフィンガポンプを使用する場合について示してきたが、本発明の好ましい実施の形態の輸液ポンプ10は、送液部20にフィンガポンプに代えてローラポンプを使用した場合にも適応可能である。ローラポンプはフィンガポンプのフィンガ22の代わりにローラ64でチューブ70をしごいて送液するタイプのペリスタルティック方式ポンプである。このローラポンプは、弾性チューブ70を押圧しているローラ64を上流側から下流側に移動させることによって、チューブ70の、ポンプヘッド66とローラ64とに挟まれて閉塞している箇所を上流側から下流側に移動させて、チューブ70内の薬液を移送させる流体移送手段である。なお、ローラ64は、正三角形のローラ取り付け板62の3つの頂点近傍にそれぞれ取り付けられており、ローラ取り付け板62を制御部(図示せず)の制御によりモータ等の駆動手段(図示せず)で回転することによって回転して、ローラ64を上流側から下流側に移動する。
【0032】
本発明は一定の流量を送液する必要がある食品や、化学薬品の送液ポンプに適している。さらには、正確な流量で輸液を行わなくてはならない輸液療法に用いる輸液ポンプとして応用することが最適である。
【0033】
以上、本発明の種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。従って、本発明の範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0034】
10 輸液ポンプ
12 本体
14 蓋
16 壁面
18 溝
20 送液部
22 フィンガ
24 加圧板
27 カム
28 減速機構
29 モータ
30 気泡検出部
32 圧力センサ
34 閉塞検出部
36 クランプ
40 コンダクタンス調整部
42 オクルーダ
44 リニアアクチュエータ
50 制御部
70 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性チューブを押圧する箇所を前記弾性チューブに沿って移動させることによって、前記弾性チューブ内の流体を前記押圧箇所の移動方向に移送させる流体移送手段と、
前記流体移送手段に対して前記流体の移送方向の下流側の前記弾性チューブのコンダクタンスを前記弾性チューブが開放状態の前記弾性チューブのコンダクタンスよりも小さくするコンダクタンス調整手段と、
を備える流体ポンプ。
【請求項2】
前記流体移送手段によって前記流体を移送させる際には、前記コンダクタンス調整手段によって前記下流側の前記弾性チューブのコンダクタンスを前記弾性チューブが開放状態の前記弾性チューブのコンダクタンスよりも小さくするように、前記流体移送手段と、前記コンダクタンス調整手段とを制御する制御手段をさらに備える請求項1記載の流体ポンプ。
【請求項3】
前記流体移送手段と前記コンダクタンス調整手段との間で前記弾性チューブの内圧を測定する圧力測定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記圧力測定手段によって測定された前記弾性チューブの内圧に応じて前記弾性チューブのコンダクタンスを調整するよう前記コンダクタンス調整手段を制御する請求項2記載の流体ポンプ。
【請求項4】
前記流体移送手段による前記流体の移送中は、前記弾性チューブの内圧を所定の圧力に維持するように前記コンダクタンス調整手段を制御する請求項3記載の流体ポンプ。
【請求項5】
前記所定の圧力は140〜290kPaの範囲内の圧力である請求項4記載の流体ポンプ。
【請求項6】
前記所定の圧力は220〜290kPaの範囲内の圧力である請求項5記載の流体ポンプ。
【請求項7】
前記コンダクタンス調整手段は、前記弾性チューブを押圧する押圧手段を備え、前記弾性チューブのコンダクタンスの調整は、前記押圧手段による前記弾性チューブに対する押圧力を調整することにより行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の流体ポンプ。
【請求項8】
前記流体移送手段は、前記弾性チューブを押圧する複数のフィンガを上流側から順次前記弾性チューブに向かって移動させ、前記弾性チューブを押圧するフィンガを上流側のフィンガから順次下流側のフィンガに移すことによって前記弾性チューブ内の流体を移送させる流体移送手段である請求項1〜7のいずれか1項に記載の流体ポンプ。
【請求項9】
前記流体移送手段は、前記弾性チューブを押圧しているローラを上流側から下流側に移動させることによって前記弾性チューブ内の流体を移送させる流体移送手段である請求項1〜7のいずれか1項に記載の流体ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−251460(P2012−251460A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123318(P2011−123318)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(501241645)学校法人 工学院大学 (14)
【Fターム(参考)】