説明

流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置

【課題】キャップ部材内のインク残りを低減できる流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクを噴射する記録ヘッドと、上記インクを所定の姿勢で受けるキャップ部材42とを有するインクジェットプリンターのメンテナンス方法であって、キャップ部材42の姿勢を、上記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更工程と、上記姿勢変更工程の後、上記傾斜姿勢の上記キャップ部材42内のインクを吸引する吸引工程とを有するという手法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を噴射する流体噴射装置として、例えばインクジェット式記録装置が知られている。インクジェット式記録装置は、記録媒体(媒体)に文字や画像等を記録する装置であり、記録ヘッド(流体噴射ヘッド)に設けられたノズルから記録媒体にインク(流体)を選択的に噴射する構成になっている。
【0003】
この流体噴射装置では、良好な噴射状態を維持又は回復させるため、当該記録ヘッドのメンテナンス処理を定期的に行っている。その具体的なメンテナンス処理としては、キャップ部材(流体受け部材)を記録ヘッドに対向させ、ノズルからインクをフラッシング(噴射)させることでノズルのメニスカスを調整する処理が挙げられる。
【0004】
下記特許文献1には、フラッシングを受けるキャップ部材からのインクの溢れ出しを防止するべく、キャップ部材内に貯溜したインクの貯溜量にその後の印刷処理に伴うフラッシングのインク量を加算した予測量を求め、キャップ部材におけるインクの許容貯溜量をから求めた閾値と上記予測量とを比較し、該予想量が閾値以上となる場合に、キャップ部材内に貯溜したインクを吸引して排出する廃液処理を実行するメンテナンス方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−221796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記廃液処理においては、キャップ部材内のインク残りが課題となっている。吸引しきれずにキャップ部材内に残溜したインクは、時間の経過と共に増粘、固化してキャップ部材内に固着し、キャッピング不良や吸引不良といった問題を誘発させる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、キャップ部材内のインク残りを低減できる流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、上記流体を所定の姿勢で受ける流体受け部材とを有する流体噴射装置のメンテナンス方法であって、上記流体受け部材の姿勢を、上記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更工程と、上記姿勢変更工程の後、上記傾斜姿勢の上記流体受け部材内の流体を吸引する吸引工程とを有するという手法を採用する。
この手法では、流体噴射ヘッドから流体を受ける流体受け部材の姿勢に対して傾けた姿勢で流体を吸引する。流体受け部材を傾けることにより、流体を受ける姿勢では吸引しきれない位置、例えば流体受け部材の隅にある流体をその自重により移動、拡散させて吸引するので、流体受け部材内のインク残りを低減することができる。
【0009】
また、本発明においては、上記吸引工程の後、上記流体受け部材の姿勢を、上記所定の姿勢を挟んで上記傾斜姿勢に対し逆側に傾けた第2傾斜姿勢へと変更させる第2姿勢変更工程と、上記第2姿勢変更工程の後、上記第2傾斜姿勢の上記流体受け部材内の流体を吸引する第2吸引工程とを有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、第1傾斜姿勢に対して逆側に流体受け部材を傾けた姿勢で流体を吸引する。流体受け部材を逆側に傾けることにより、第1傾斜姿勢では吸引しきれない位置、例えば傾いた側の隅に寄った流体を逆側に移動、拡散させて吸引するので、流体受け部材内のインク残りを低減することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記姿勢変更工程の前に、上記所定の姿勢の流体受け部材内の流体を吸引するプレ吸引工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、予め流体を受ける姿勢で流体を吸引し、そのとき吸引しきれない流体を傾けて吸引する。
【0011】
また、本発明においては、上記流体受け部材の底部には、上記吸引により上記流体が流出する流出口が複数設けられているという手法を採用する。
本発明では、流体受け部材が複数の傾斜姿勢をとるため、流体受け部材の底部に設けられた複数の流出口から流体を吸引することで、吸引効率を向上させる。
【0012】
また、本発明においては、上記流体受け部材の姿勢により、下方側となる位置に設けられた上記流出口を開状態とし、上方側となる位置に設けられた上記流出口を閉状態とする開閉工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、流体受け部材の姿勢により下方側となる流出口を開状態とし、流体を低い位置から吸引することで流体を効率よく廃液する。また、流体受け部材の姿勢により上方側となる流出口を閉状態として、該流出口から外気が流入しないようにすることで、吸引効率の低下を抑制する。
【0013】
また、本発明においては、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、上記流体を所定の姿勢で受ける流体受け部材とを有する流体噴射装置であって、上記流体受け部材の姿勢を、上記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更装置と、上記姿勢変更の後、上記傾斜姿勢の上記流体受け部材内の流体を吸引する吸引装置とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、流体噴射ヘッドから流体を受ける流体受け部材の姿勢に対して傾けた姿勢で流体を吸引する。流体受け部材を傾けることにより、流体を受ける姿勢では吸引しきれない位置、例えばキャップ部材の隅にあるにあるインクをその自重により移動、拡散させて吸引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態におけるインクジェットプリンターの概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における記録ヘッドを噴射面側から視た図である。
【図3】本発明の第1実施形態における記録ヘッドの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態におけるメンテナンス機構の構成を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態におけるメンテナンス機構の構成を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構の動作を説明する図である。
【図7】本発明の第2実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構の動作を説明する図である。
【図8】本発明の第3実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る流体噴射装置の各実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、インクジェットプリンターと称する)を例示する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるインクジェットプリンターPRTの概略構成図である。図2は、本発明の第1実施形態における記録ヘッド11を噴射面11A側から視た図である。図3は、本発明の第1実施形態における記録ヘッド11の構成を示す断面図である。
なお、図中示すように、XYZ直交座標系を設定し、XYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する場合がある。この場合においては、記録媒体Mの搬送方向をX方向と、該搬送方向と直交する搬送面幅方向をY方向と、X方向及びY方向と直交する高さ方向(鉛直方向)をZ方向と称する。
【0017】
インクジェットプリンターPRTは、インク滴(流体)を噴射することで記録媒体(媒体)Mに所定の情報や画像を印字する記録処理を行う構成となっている。記録媒体Mとしては、例えば記録用紙やプラスチック、ガラス基板等が用いられる。インクジェットプリンターPRTは、図1に示すように、インクを噴射する記録ヘッド(流体噴射ヘッド)11を備えるインク噴射機構IJ、記録媒体Mを搬送する搬送機構CR、記録ヘッド11をメンテナンスするメンテナンス機構MN、及び上記各構成部の動作を統括的に制御するコンピュータシステムを有する制御装置CONTを有する。
【0018】
インク噴射機構IJは、記録媒体Mにインク滴(流体)を噴射する記録ヘッド11と、記録ヘッド11にインクを供給するインク供給部12とを有する構成となっている。本実施形態で用いるインクは、染料や顔料、これを溶解または分散する溶媒を基本的成分とし、必要に応じて各種添加剤が添加された液状体を用いる。
【0019】
本実施形態の記録ヘッド11は、イエロー(Ye)、マゼンタ(Ma)、シアン(Cy)、ブラック(Bk)の各色調に対応した共通インク室14(14Y、14M、14C、14B)を有し、それらと対応して連通するノズル13から各色に応じたインクを噴射する構成となっている。なお、記録ヘッド11は、不図示のヘッド移動装置によりZ方向に移動自在となっている。
インク供給部12は、上記4色のインクを貯蔵するインクタンク12(12Y、12M、12C、12K)を有する。また、インク供給部12は、不図示のインク供給ポンプを有し、各共通インク室14にその色調に応じたインクをインクタンク12から供給する構成となっている。
【0020】
図2に示すように、記録ヘッド11は、インクジェットプリンターPRTが対象とする最大サイズの記録媒体Mの幅(最大記録媒体幅W)に亘って設けられたノズル形成領域15を有するライン型の記録ヘッドである。ノズル形成領域15は、上記各色のインクに対応したノズル形成領域15Y、15M、15C、15Kを有する。ノズル13は、各ノズル形成領域15に対応してY方向に複数配列されてノズル列Lを構成する。このノズル13が複数形成された噴射面11Aは、−Z方向側に向けて配置される。
【0021】
図3に示すように、記録ヘッド11は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えると共に、共通インク室14と、インク供給口30と、圧力室31とを形成する。さらに、流路形成ユニット22は、ダイヤフラム部として機能する島部32と、共通インク室14内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33とを備える。ヘッド本体18には、固定部材26と共に駆動ユニット24を収容する収容空間23と、インクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成される。
【0022】
上記構成の記録ヘッド11によれば、ケーブル27を介して駆動ユニット24に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19がキャビティに接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。このため、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル13から、インクが噴射される。
【0023】
図1に戻り、搬送機構CRは、紙送りローラ35、排出ローラ36等を有している。紙送りローラ35、排出ローラ36は、不図示のモータ機構によって回転駆動されるようになっている。搬送機構CRは、インク噴射機構IJによるインク滴の噴射動作に連動させて記録媒体Mを搬送面MRに沿って搬送する構成となっている。
【0024】
次に、メンテナンス機構MNの構成について、図4及び図5を参照して説明する。
図4及び図5は、本発明の第1実施形態におけるメンテナンス機構MNの構成を示す図である。なお、図4は、記録処理時のメンテナンス機構MNの様子を示し、図5は、フラッシング時のメンテナンス機構MNの様子を示す。
メンテナンス機構MNは、回転駆動する回転体(姿勢変更装置、第2姿勢変更装置)40と、回転体の外周部40aに設けられるプラテン部材41、キャップ部材(流体受け部材)42と、キャップ部材42内のインクを吸引する吸引ポンプ(吸引装置、第2吸引装置、第3吸引装置)45と、吸引ポンプ45により吸引したインクを貯溜する廃インクタンク46とを有する。
【0025】
回転体40は、記録ヘッド11の噴射面11Aと対向する位置に設けられ、インクの噴射方向と直交するY方向に延びる軸周りに回転駆動する構成となっている。回転体40は、回転駆動装置40Aにより駆動され、図4において時計回り、反時計回りに回転自在な構成となっている。また、回転体40には、その回転角度を検出するエンコーダが設けられ、該検出結果は制御装置CONTに出力されて回転体40の姿勢が制御される。
【0026】
プラテン部材41は、記録ヘッド11と対向する位置で記録媒体Mを支持する媒体支持部である。プラテン部材41は、記録媒体Mを支持する支持面41aを有している。支持面41aは、プラテン38a及びプラテン38bと共に搬送面MRの一部を構成する(図4参照)。プラテン部材41は、支持面41aが記録ヘッド11のノズル形成領域15に対応した領域をカバーするように形成されている。
【0027】
キャップ部材42は、記録ヘッド11の噴射面11Aをキャッピングするトレイ形状の部材である。キャップ部材42の開口縁部を構成するリップ部42aは、ゴム部材等の弾性部材から形成され、複数のノズル13を囲うように噴射面11Aと当接可能な構成となっている。なお、キャップ部材42は、ノズル13内で粘度が高くなったインクを噴射するフラッシング動作を行う際、噴射されたインクを受ける部分でもある(図5参照)。キャップ部材42は、トレイ内部にインク吸収材42bを有している。キャップ部材42の底部中央には、回転体40に形成されたインク排出孔40bに連通する流出口42cが設けられている。
【0028】
吸引ポンプ45は、インク排出孔40bと廃インクタンク46との間に設けられ、キャップ部材42の流出口42cを介して吸引動作を行う構成となっている。廃インクタンク46は、吸引動作により流れ込むインクを貯溜する構成となっている。なお、廃インクタンク46は、装置本体に対して着脱自在であり、定期的に内部に貯溜したインクを廃棄する構成となっている。
【0029】
上記構成のインクジェットプリンターPRTは、記録ヘッド11の良好な噴射状態を維持又は回復させるため、メンテナンス機構MNを駆動させ、当該記録ヘッド11のメンテナンス処理を定期的に行う。このメンテナンス処理には、記録ヘッド11のノズルから強制的に増粘したインクを吸い出すインク吸引処理、記録ヘッド11を駆動させ増粘したインクを予備噴射して除去するフラッシング処理が挙げられる。
【0030】
インク吸引処理では、先ず回転体40を駆動させてキャップ部材42と記録ヘッド11とをZ方向で対向させる。その次に、記録ヘッド11を−Z方向に移動させて、噴射面11Aとリップ部42aとを密着させ、記録ヘッド11とキャップ部材42との間に気密室を形成する。その後、吸引ポンプ45を駆動させて該気密室を負圧状態にし、各ノズル13から粘性が高くなったインクや付着したゴミ等を吸引してメニスカスを調整し、記録ヘッド11の噴射特性を回復させる。
フラッシング処理では、図5に示すように、先ず回転体40を駆動させてキャップ部材42と記録ヘッド11とをZ方向で対向させる。その後、記録ヘッド11を駆動させて対向しているキャップ部材42に粘性が高くなったインクを予備噴射してメニスカスを調整し、記録ヘッド11の噴射特性を回復させる。
【0031】
なお、フラッシング処理において、キャップ部材42内に貯溜したインクは、吸引ポンプ45を駆動させて廃インクタンク46に廃棄する。該廃棄が不十分であると、キャップ部材42内にインク残りが生じ、それが時間の経過と共に増粘、固化してキャップ部材42内に固着し、キャッピング不良や吸引不良といった問題を誘発させる。
本実施形態のインクジェットプリンターPRTは、以下、図6を参照して説明する特徴的な廃液処理を行うことによりこのインク残りを低減させる。
図6は、本発明の第1実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構MNの動作を説明する図である。なお、図6においては、視認性を向上させるため、メンテナンス機構MNの要部のみを示している。
【0032】
本処理では先ず、図6(a)に示すように、フラッシングを受ける姿勢(所定の姿勢)のままキャップ部材42内のインクを吸引し、その大部分を廃棄する(プレ吸引工程)。
フラッシングを受ける際、キャップ部材42の姿勢は、記録ヘッド11と対向するために水平状態にある。制御装置CONTは、この状態で吸引ポンプ45を駆動させる。吸引ポンプ45の駆動により、キャップ部材42内のインクが底部に設けられた流出口42cから流出し、徐々に液面が下がる。しかし、インクは所定の粘性を有するためキャップ部材42の隅部C1、C2等に滞り、このような吸引しきれない位置に残溜する。
【0033】
本処理では次に、図6(b)に示すように、キャップ部材42の姿勢を、フラッシングを受ける姿勢に対し傾けた傾斜姿勢に変更させる(姿勢変更工程)。そして、傾斜姿勢のキャップ部材42内のインクを吸引する(吸引工程)。
姿勢変更工程では、制御装置CONTは、回転体40を反時計回りに回転駆動させ、キャップ部材42の姿勢を水平面に対し傾いた傾斜姿勢に変更させる。なお、この姿勢のキャップ部材42の傾斜角度は、水平面に対し0度より大きく90度より小さい範囲内で、インクの粘性やキャップ部材42の形状を考慮して、キャップ部材42内のインクが移動、拡散できるような適切な角度に設定される。
【0034】
上記姿勢変更工程により、キャップ部材42の姿勢は、隅部C1が下方側に、隅部C2が上方側に位置する姿勢となる。上方側に位置する隅部C2に残溜するインクは自重により、傾斜した底部に沿って移動し、その位置から下方側に拡散する。制御装置CONTは、この状態で吸引ポンプ45を駆動させる。吸引ポンプ45の駆動により、隅部C2に残溜していたインクが流出口42cから吸引除去される。
【0035】
本処理では続いて、図6(c)に示すように、キャップ部材42の姿勢を、フラッシングを受ける姿勢を挟んで上記傾斜姿勢に対し逆側に傾けた第2傾斜姿勢へと変更させる(第2姿勢変更工程)。そして、第2傾斜姿勢のキャップ部材42内のインクを吸引する(第2吸引工程)。
第2姿勢変更工程では、制御装置CONTは、回転体40を時計回りに回転駆動させ、キャップ部材42の姿勢を上記傾斜姿勢の向きと逆方向で水平面に対し傾いた第2傾斜姿勢に変更させる。なお、この姿勢のキャップ部材42の傾斜角度は、水平面に対し0度より大きく90度より小さい範囲内で、インクの粘性やキャップ部材42の形状を考慮して、キャップ部材42内のインクが移動、拡散できるような適切な角度に設定される。また、上記吸引工程までで、大部分のインクは吸引除去され残溜量が少なくなっているため、2回目の傾斜角度は、1回目の傾斜角度よりも水平面に対する傾斜が大きくなるように設定することが望ましい。
【0036】
上記第2姿勢変更工程により、キャップ部材42の姿勢は、隅部C1が上方側に、隅部C2が下方側に位置する姿勢となる。上方側に位置する隅部C1に残溜するインクは自重により、傾斜した底部に沿って移動し、その位置から下方側に拡散する。制御装置CONTは、この状態で吸引ポンプ45を駆動させる。吸引ポンプ45の駆動により、隅部C1に残溜していたインクが流出口42cから吸引除去される。
【0037】
以上の工程を経ることにより、フラッシングを受けたキャップ部材42内のインクが適切に除去されるため、キャッピング不良や吸引不良といった問題を誘発させることなく、長期間のメンテナンスフリーを実現できる。
【0038】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクを噴射する記録ヘッド11と、上記インクを所定の姿勢で受けるキャップ部材42とを有するインクジェットプリンターPRTのメンテナンス方法であって、キャップ部材42の姿勢を、上記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更工程と、上記姿勢変更工程の後、上記傾斜姿勢の上記キャップ部材42内のインクを吸引する吸引工程とを有するという手法を採用することで、フラッシングを受ける姿勢では吸引しきれない位置、例えばキャップ部材42の隅にあるインクをその自重により移動させ、その位置から拡散させて吸引することで、インク残りを低減することができる。
【0039】
また、本実施形態においては、上記吸引工程の後、上記キャップ部材42の姿勢を、上記所定の姿勢を挟んで上記傾斜姿勢に対し逆側に傾けた第2傾斜姿勢へと変更させる第2姿勢変更工程と、上記第2姿勢変更工程の後、上記第2傾斜姿勢の上記キャップ部材42内のインクを吸引する第2吸引工程とを有するという手法を採用することによって、第1傾斜姿勢では吸引しきれない位置、例えば傾いた側の隅部C1に寄ったインクを逆側に移動、拡散させて吸引することで、インク残りをより低減させることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、上記姿勢変更工程の前に、上記所定の姿勢のキャップ部材42内のインクを吸引するプレ吸引工程を有するという手法を採用することによって、予めインクを受ける姿勢でインクの大部分を吸引し、そのとき吸引しきれないインクを傾けて吸引することで、インク残りを効率よく低減することが可能となる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と構成を同じくする部分の説明は割愛することとする。
第2実施形態では、キャップ部材42の底部に設けられた流出口42cが隅部C1に対応する位置と隅部C2に対応する位置とに設けられる点と、各流出口42c(42c1、42c2)を開状態/閉状態にするバルブ(開閉装置)50(50c1、50c2)が設けられる点で、上記実施形態と異なる。
図7は、本発明の第2実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構MNの動作を説明する図である。なお、図中、黒色を付されたバルブ50は閉状態にあることを示し、白色を付されたバルブ50は開状態にあることを示す。
【0042】
図7(a)に示すように、キャップ部材42は、バルブ50c1及びバルブ50c2を閉状態として、フラッシングを水平状態の姿勢で受ける。そして、第2実施形態では、プレ吸引工程を経ずに、図7(b)に示す姿勢変更工程に移行する。
姿勢変更工程では、制御装置CONTは、回転体40を反時計回りに回転駆動させ、キャップ部材42の姿勢を水平面に対し傾いた傾斜姿勢に変更させる。上記姿勢変更工程により、キャップ部材42の姿勢は、隅部C1が下方側に、隅部C2が上方側に位置する姿勢となる。
【0043】
次の吸引工程では、制御装置CONTは、バルブ50c1を駆動させ、キャップ部材42の傾斜姿勢により下方側となる流出口42c1を開状態とし、インクを低い位置から吸引することでインクを効率よく廃液する。また、制御装置CONTは、バルブ50c2を閉状態のままにして、キャップ部材42の傾斜姿勢により上方側となった流出口42c2から外気が流入しないようにすることで、吸引ポンプ45の吸引効率の低下を抑制する。
【0044】
次の第2姿勢変更工程では、制御装置CONTは、回転体40を時計回りに回転駆動させ、キャップ部材42の姿勢を上記傾斜姿勢の向きと逆方向で水平面に対し傾いた第2傾斜姿勢に変更させる。上記第2姿勢変更工程により、キャップ部材42の姿勢は、図7(c)に示すように隅部C1が上方側に、隅部C2が下方側に位置する姿勢となる。上記吸引工程を経てなお、キャップ部材42内に残留するインクは自重により、傾斜した底部に沿って隅部C2側に移動する。
【0045】
そして、第2吸引工程では、制御装置CONTは、バルブ50c2を駆動させ、キャップ部材42の第2傾斜姿勢により下方側となる流出口42c2を開状態とし、隅部C2側に寄ったインクを廃液する。また、制御装置CONTは、バルブ50c1を駆動させ、キャップ部材42の第2傾斜姿勢により上方側となった流出口42c1から外気が流入しないようにすることで、吸引ポンプ45の吸引効率の低下を抑制する。
【0046】
このように、上述した第2実施形態によれば、キャップ部材42の底部に流出口42c1及び流出口42c2を設け、キャップ部材42の姿勢に応じて、下方側となる位置に設けられた流出口42cを開状態とし、上方側となる位置に設けられた流出口42cを閉状態とする開閉工程を有するという手法を採用することにより、吸引効率を向上させ、インク残りを低減させることができる。また、第2実施形態によれば、プレ吸引工程を経ないため、廃液処理の時間を短縮させることが可能になり、ひいては記録処理に移行する時間の短縮化を図ることができる。
【0047】
(第3実施形態)
次に、図8を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上記実施形態と構成を同じくする部分の説明は割愛することとする。
図8は、本発明の第3実施形態における廃液処理時のメンテナンス機構MNの動作を説明する図である。
第3実施形態では、本発明を、例えば記録媒体として比較的大型の記録用紙(例えばJIS規格のA1判、B1判など)に記録可能な大型のインクジェット式プリンター(ラージフォーマットプリンター:LFP)に適用した形態を例示する。LFPについては、本出願人が先に特願2007−242468で提案しているので、詳しい説明はその先願に譲るが、このLFPの記録ヘッドは、斜めの記録媒体搬送路に対応して傾いて設けられているため、その記録ヘッドからフラッシングを受けるキャップ部材の姿勢は、図8(a)に示すように初期状態で傾いた姿勢となっている。
【0048】
第3実施形態では先ず、図8(b)に示すように、フラッシングを受ける姿勢のままキャップ部材42内のインクを吸引し、その大部分を廃棄するプレ吸引工程を行う。そして、次に、図8(c)に示すように、キャップ部材42の姿勢を、フラッシングを受ける姿勢に対し逆側に傾けた傾斜姿勢に変更させ(姿勢変更工程)、傾斜姿勢のキャップ部材42内のインクを吸引する(吸引工程)ことで、インク残りを低減させる。
したがって、第3実施形態によれば、初期状態でキャップ部材42が傾斜姿勢となっているので、第2姿勢変更工程、第2吸引工程を経ずにインク残りを低減でき、廃液処理の時間を短縮させることが可能になり、ひいては記録処理に移行する時間の短縮化を図ることができる。
【0049】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0050】
例えば、上述した実施形態の組合せの変形例としては、第1実施形態ではプレ吸引工程を経ずに姿勢変更工程に移行しても良いし、第2実施形態及び第3実施形態ではバルブ50c1及びバルブ50c2がなくても良い。また、第2実施形態でプレ吸引工程を設けても良い。
【0051】
また、例えば、上述の実施形態においては、キャップ部材の姿勢を回転体の回動により変更させると説明したが、本発明は該構成に限定されるものではない。例えば、キャップ部材の底部裏側に複数の可動アームや可動シリンダを設置し、それらを選択的に可動させることで、キャップ部材の姿勢を変更させる構成であっても良い。
【0052】
尚、上述の実施形態においては、流体噴射装置がインクジェットプリンターである場合を例にして説明したが、インクジェットプリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【0053】
また、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0054】
また、上述の実施形態において、流体噴射装置から噴射される流体(液状体)としては、インクのみならず、特定の用途に対応する流体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する流体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する流体を噴射して、その流体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(液状体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した流体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0055】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、40…回転体(姿勢変更装置、第2姿勢変更装置)、42…キャップ部材(流体受け部材)、42c(42c1、42c2)…流出口、45…吸引ポンプ(第1吸引装置、第2吸引装置、第3吸引装置)、50(50c1、50c2)…バルブ(開閉装置)、PRT…インクジェットプリンター(流体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記流体を所定の姿勢で受ける流体受け部材とを有する流体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記流体受け部材の姿勢を、前記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更工程と、
前記姿勢変更工程の後、前記傾斜姿勢の前記流体受け部材内の流体を吸引する吸引工程とを有することを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記吸引工程の後、前記流体受け部材の姿勢を、前記所定の姿勢を挟んで前記傾斜姿勢に対し逆側に傾けた第2傾斜姿勢へと変更させる第2姿勢変更工程と、
前記第2姿勢変更工程の後、前記第2傾斜姿勢の前記流体受け部材内の流体を吸引する第2吸引工程とを有することを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記姿勢変更工程の前に、前記所定の姿勢の流体受け部材内の流体を吸引するプレ吸引工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記流体受け部材の底部には、前記吸引により前記流体が流出する流出口が複数設けられ、
前記流体受け部材の姿勢により、下方側となる位置に設けられた前記流出口を開状態とし、上方側となる位置に設けられた前記流出口を閉状態とする開閉工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記流体を所定の姿勢で受ける流体受け部材とを有する流体噴射装置であって、
前記流体受け部材の姿勢を、前記所定の姿勢に対して傾けた傾斜姿勢へと変更させる姿勢変更装置と、
該姿勢変更の後、前記傾斜姿勢の前記流体受け部材内の流体を吸引する吸引装置とを有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項6】
前記吸引の後、前記流体受け部材の姿勢を、前記所定の姿勢を挟んで前記傾斜姿勢に対し逆側に傾けた第2傾斜姿勢へと変更させる第2姿勢変更装置と、
該姿勢変更の後、前記第2傾斜姿勢の前記流体受け部材内の流体を吸引する第2吸引装置とを有することを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記傾斜姿勢へと姿勢を変更する前に、前記所定の姿勢の流体受け部材内の流体を吸引する第3吸引装置を有することを特徴とする請求項5または6に記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−264725(P2010−264725A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120230(P2009−120230)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】