説明

流体噴射装置

【課題】噴射ヘッド内の流体を、流体の性状の変化に応じた適切な態様で入れ換える。
【解決手段】噴射ヘッドの外部に、流体溜部を設けておく。この流体溜部は、溜められた流体中の少なくとも一部の成分が大気とやり取り可能となっており、このため、流体溜部の流体は、時間の経過とともに減少し得る。そこで、この流体溜部の流体の減少量に基づいて、噴射ヘッド内の流体を入れ換える際の態様を決定する。ここで、流体溜部と噴射ヘッドとは、ほぼ同じ環境に曝されており、また、内部の流体も同じであることから、流体溜部での流体の減少と、噴射ヘッド内の流体の性状の変化とは、互いに強い相関がある。このため、流体溜部の流体の減少量に基づいて、噴射ヘッド内の流体を入れ換える際の態様を決定すれば、噴射ヘッド内の流体の性状の変化に応じた適切な態様で流体を入れ換えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にインクを吐出して画像を印刷するプリンタ(いわゆるインクジェットプリンタ)は、高品質の画像を簡便に印刷可能であることから、今日では、画像の出力手段として広く使用されている。また、この技術を応用して、インクの代わりに、適切な成分に調製した各種の流体(例えば、機能材料の微粒子が分散された液体や、ジェルなどの半流動体など)を、基板上に噴射すれば、電極や、センサ、バイオチップなど、各種の精密な部品を、簡便に製造することも可能と考えられる。
【0003】
このような技術では、正確な分量の流体を正確な位置に噴射することが可能なように、微細な噴射口が設けられた専用の噴射ヘッドが用いられており、噴射ヘッドに供給した流体を噴射口から噴射するようになっている。また、噴射ヘッドの性能を十分に発揮させて、正確な分量の流体を正確な位置に噴射するためには、噴射ヘッドに供給される流体の性状も、所定の許容範囲内に収まるように管理しておくことが重要である。
【0004】
その一方で、噴射ヘッドに供給された流体は、流体内の水分が蒸発したり、あるいは揮発成分が揮発したりするなどして、時間の経過とともに、次第に性状が変化していく。そこで、インクジェットプリンタでは、噴射ヘッド内のインクを定期的に排出して、新しいインクに入れ換えることにより、噴射ヘッド内のインクの性状(ここでは粘度)を所定の許容範囲内に保っておく技術が開発されている(特許文献1)。また、噴射ヘッド内のインクを入れ換える頻度が高くなると、インクの消費量が増加してしまうので、温度や湿度を計測して、インクの粘度の増加が疑われる場合にだけ、噴射ヘッド内のインクを新しいインクに入れ換えるようにした技術や、粘度の増加の程度を推測して、その程度に応じて必要な量だけインクを入れ換えるようにした技術も提案されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平4−255361号公報
【特許文献2】特開平6−270418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、温度や湿度を計測しても、噴射ヘッド内に供給した流体の性状を正確に把握することは難しいという問題があった。この理由をインクジェットプリンタに即して説明すると、インクジェットプリンタは、温度や湿度が一定に保たれた環境で使用されるわけではない。しかもインクが蒸発する程度は、単に温度や湿度だけでなく、その時のインクの濃度(どの程度、蒸発が進んでいるか)によっても変化する。加えて、インクの濃度と湿度との関係によっては、インクが吸湿することも生じ得る。このため、たとえ温度や湿度を計測しても、噴射ヘッド内のインクの濃度(すなわち、流体の性状)を正確に把握することは困難であり、その結果、噴射ヘッド内の流体を入れ換える頻度や、入れ換える量を十分に抑制することができないという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、噴射ヘッド内の流体の性状を正確に把握して、流体を適切に入れ換え可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
容器内の流体を噴射ヘッドに導くことによって、該噴射ヘッドから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記流体に含まれる少なくとも一部の成分が大気とやり取り可能な状態で、前記噴射ヘッドの外部に該流体を溜めておく流体溜部と、
前記流体溜部の流体の減少量を計測する流体減少量計測手段と、
前記噴射ヘッド内の流体を入れ換える流体入換手段と、
前記流体を入れ換える態様たる流体入換態様を複数記憶しておく流体入換態様記憶手段と
を備え、
前記流体入換手段は、前記計測した流体の減少量に基づいて、前記複数の流体入換態様の中から一の態様を選択し、該選択した態様で前記流体の入れ換えを行う手段であることを要旨とする。
【0009】
かかる本発明の流体噴射装置においては、容器内の流体を噴射ヘッドから噴射することが可能となっているが、噴射ヘッドの外部にも、流体を溜めておく流体溜部が設けられている。また、この流体溜部は、流体が溜められると、流体に含まれる少なくとも一部の成分が大気とやり取り可能な状態に構成されており、このため、流体溜部に溜められた流体は、時間の経過とともに減少し得る。また、本発明の流体噴射装置は、この流体溜部の流体の減少量を計測することが可能となっている。ここで、流体の減少量を計測するには、種々の方法を用いることが可能であり、例えば、流体溜部に残っている流体の重さを測ることによって減少量を計測するものとしてもよいし、流体溜部内のインダクタンスやインピーダンスなどの電気特性を調べることによって減少量を計測するものとしてもよい。また、こうした精密な計測をするのではなく、より大まかな計測をしてもよい。例えば、深さが異なる位置に複数の流体センサを設けておき、流体の表面がどのセンサの位置にあるかを調べることによって、流体の減少量を段階的に計測するものとしてもよい。本発明の流体噴射装置は、こうして計測した流体溜部内の流体の減少量に基づいて、噴射ヘッド内の流体を入れ換える際の態様(流体入換態様)を決定する。例えば、噴射ヘッドの内部を加圧することによって入れ換えを行うのか、それとも外部を減圧することによって入れ換えを行うのかといった入れ換え方法の態様や、あるいは、入れ換える流体の量や入れ換える際の流速といった種々のパラメータなど、流体を入れ換える際の種々の態様を決定する。そして、決定した態様で噴射ヘッド内の流体の入れ換えを行う。
【0010】
噴射ヘッドに導かれた流体を、大気と完全に遮断した状態とすることは困難であるため、長い時間の間には、流体内に含まれる少なくとも一部の成分が、大気中に蒸発あるいは揮発したり、場合によっては大気中の成分が流体内に吸収されることも起こり得る。その結果、噴射ヘッド内の流体の性状が変わってしまうと、流体を正常に噴射することが困難となるので、容器内の流体を用いて、噴射ヘッド内の流体を入れ換える必要が生じる。また、流体の性状の変化の程度に応じて、入れ換える流体の量や流速などを調整する必要も生じ得る。例えば、性状の変化が進んでいる場合には、多くの流体を入れ換える必要が生じる場合があるし、また、性状の変化がより進行して粘性がかなり増している場合などには、流速を速めて勢いよく入れ換えを行わなければならない場合もある。もっとも、流体を入れ換えれば、その分だけ容器内の流体が減ってしまうので、むやみに多くの流体を入れ換えることは好ましくなく、また、流体を入れ換えている間は、噴射ヘッドは本来の噴射動作をすることができないので、流体の入れ換えに必要以上に時間を掛けてしまうのも好ましくない。このため、噴射ヘッド内の流体の性状の変化を正確に把握して、その性状の変化に応じた適切な態様で入れ換えを行う必要がある。とは言うものの、噴射ヘッド内の流体の性状を直接把握することは容易なことではない。
【0011】
ここで、本発明では、流体溜部と噴射ヘッドとは、ほぼ同じ環境に曝されており、流体溜部に溜められた流体と、噴射ヘッド内に供給された流体とは同じ流体である。従って、流体溜部の流体が一部の成分を大気とやり取りすることで生じた流体の減少と、噴射ヘッド内の流体が一部の成分を大気とやり取りすることで生じる性状の変化とは、互いに強い相関があると考えられる。このことから、流体溜部の流体の量減少に基づいて、噴射ヘッド内の流体を入れ換える態様を決定してやれば、噴射ヘッド内の流体の性状の変化に応じた適切な態様で噴射ヘッド内の流体を入れ換えることが可能となる。そして、流体の性状の変化に応じた態様で入れ換えを行うことから、必要以上の量の流体を入れ換えてしまうことがないので、流体の消費量を抑制することが可能となる。加えて、流体の入れ換えに必要以上に時間をかけてしまうこともないので、流体の入れ換えを完了して本来の噴射動作を迅速に開始することも可能となる。
【0012】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、噴射ヘッド内の流体を入れ換えた際に噴射ヘッドから排出された流体を流体溜部に溜めておくものとしてもよい。
【0013】
こうすると、噴射ヘッド内の流体を入れ換えたタイミングとほぼ同じタイミングで流体溜部に流体が溜められるので、噴射ヘッド内で新たに入れ換わった流体と、流体溜部に溜められた流体との間で性状の相関がより強くなる。このため、流体溜部の減少量に基づいて噴射ヘッド内の流体の性状の変化をより正確に把握することが可能となり、その結果、噴射ヘッド内の流体をより適切な態様で入れ換えることが可能となる。また、噴射ヘッドから排出された流体を流体溜部に溜めることから、流体を溜めるために流体を余分に消費する必要がないので、流体の消費をより抑制することも可能となる。
【0014】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、噴射ヘッドから流体を噴射することによって流体を入れ換える態様と、噴射ヘッドから流体を吸引することによって流体を入れ換える態様とを記憶しておき、流体溜部の流体の減少量に応じて、これらの態様を選択するものとしてもよい。
【0015】
噴射ヘッドから流体を噴射することによって流体を入れ換える場合には、他の装置等を用いなくてもよいので、流体を簡便に入れ換えることができ、また、他の装置等を駆動させる必要がないことから、流体を入れ換える動作を迅速に完了して、本来の噴射動作を直ちに開始することができる。一方、噴射ヘッドから流体を吸引することによって入れ換えを行う場合には、より多くの流体を入れ換えることが可能であり、また、吸引時の負圧を高めることによって流体の流速を上げることも可能である。そこで、これら2つの流体入換態様を備えておき、流体溜部の流体の減少量に応じてこれらの態様を選択してやれば、噴射ヘッド内の流体の性状に応じて、流体を適切に入れ換えることが可能となる。例えば、流体の性状の変化が小さい場合には、噴射ヘッドから流体を噴射することとすれば、流体を簡便に入れ換えることができ、これによって、本来の噴射動作に迅速に復帰することが可能となる。一方、流体の性状の変化が大きい場合には、噴射ヘッドから流体を吸引することとすれば、多くの流体を勢いよく入れ換えることによって、噴射ヘッドを正常な状態に確実に回復させることが可能となる。
【0016】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、噴射ヘッドから噴射して排出された流体を第1の流体溜部に溜めておくものとし、一方、噴射ヘッドから吸引して排出された流体を、第2の流体溜部に溜めておくものとしてもよい。そして、第1の流体溜部および第2の流体溜部それぞれの流体の減少量に基づいて、流体を入れ換える際の態様を選択するものとしてもよい。
【0017】
こうすれば、第1の流体溜部の減少量と、第2の流体溜部の減少量との2つの減少量に基づいて噴射ヘッド内の流体の性状を把握することができるので、噴射ヘッド内の流体の性状をより正確に把握することが可能となり、その結果、噴射ヘッド内の流体をより適切な態様で入れ換えることが可能となる。
【0018】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、流体溜部に溜まった流体を排出するための排出弁を、流体溜部に設けることとしてもよい。
【0019】
流体溜部に排出弁を設けておけば、排出弁を開放することで、流体溜部内の流体を排出することができる。このため、たとえ流体溜部に溜まっている流体の性状が変化して、噴射ヘッド内の流体の性状とは異なってしまった場合でも、排出弁から流体を排出して、新たな流体を溜めてやれば、流体溜部の流体の性状を、噴射ヘッド内の流体の性状に近づけることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
A−1.流体噴射装置の構成:
A−2.メンテナンス機構の構成:
B.本実施例のフラッシング動作:
C.本実施例のクリーニング動作:
D.変形例:
D−1.第1の変形例:
D−2.第2の変形例:
D−3.第3の変形例:
D−4.第4の変形例:
【0021】
A.装置構成 :
A−1.流体噴射装置の構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンタ10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラ40と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構100などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されてインクを噴射する噴射ヘッド24などが設けられており、インクカートリッジ26内のインクを噴射ヘッド24に導いて、噴射ヘッド24から印刷媒体2に正確な分量だけインクを噴射することによって、画像が印刷されるようになっている。
【0022】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモータ36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリ34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモータ36で駆動プーリ34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
【0023】
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラ40は、図示しない駆動モータやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。
【0024】
また、メンテナンス機構100は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており、噴射ヘッド24の表面を払拭するワイパーブレード130や、噴射ヘッド24の底面側に押しつけられて噴射ヘッド24との間に密閉空間を形成するキャップ部140、キャップ部140の密閉空間に接続された吸引ポンプ150、更には、定期的あるいは必要に応じて噴射ヘッド24から吐き出したインクを受けるフラッシング受け部110などから構成されている。また、フラッシング受け部110や吸引ポンプ150の下方には、廃液タンク120も設けられている。印刷を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションまで移動させて、キャップ部140を押しつけて噴射ヘッド24の底面に密閉空間を形成する。噴射ヘッド24の底面には、インクを噴射するための微少な噴射ノズルが開口しているが、キャップ部140を押し付けて密閉空間を形成することにより、噴射ヘッド24内のインクの乾きによる増粘を防止することができる。
【0025】
もっとも、噴射ヘッド24にキャップ部140を押し付けてインクの乾きを防いだとしても、長い間には、少しずつインク内の水分や揮発成分が減少して、インクの性状が変化(特に粘度が増加)してしまう。そこで、軽微な増粘の場合には、噴射ヘッド24をフラッシング受け部110の位置まで移動させて、噴射ヘッド24内の増粘したインクを噴射する動作(フラッシング動作)を行うことにより、噴射ヘッド24内のインクの性状を正常な状態に回復させる。また、フラッシング動作では回復できなかった場合や、長い期間、インクジェットプリンタ10が使用されなかったなどの原因でインクの増粘が進んでしまった場合には、吸引ポンプ150を作動させて密閉空間を負圧にすることにより、噴射ヘッド24内部のインクを噴射ノズルから吸い出す動作(クリーニング動作)を行う。これらフラッシング動作やクリーニング動作によって排出されたインクは、廃液タンク120に溜められる。また、クリーニング動作後は、噴射ヘッド24の下面側にはインクが付着した状態となっており、このまま放置しておくと、噴射ノズルが目詰まりしたり、あるいは印刷媒体の印刷面の汚れなどの原因になる。そこで、クリーニング動作後は、噴射ヘッド24の底面に付着したインクを、ワイパーブレード130を用いて払拭するようになっている。なお、フラッシング動作によりインクを噴射した際や、クリーニング動作によりインクを吸い出した際には、噴射ヘッド24から排出されたインク量と同量のインクがインクカートリッジ26側から供給されることになる。したがって、本願の特許請求の範囲において、噴射ヘッド内の流体を入れ換えるとは、噴射ヘッドからのインクの排出に伴って噴射ヘッドへのインクの供給が連動して行われていることを示している。
【0026】
A−2.メンテナンス機構の構成 :
図2は、本実施例のインクジェットプリンタ10に搭載されたメンテナンス機構100の構成を示した説明図である。前述したように、メンテナンス機構100には、キャップ部140が設けられており、キャップ部140には、図示しないカム機構が設けられている。ステップモータ36を駆動してキャリッジ20をホームポジションまで移動させると、カム機構によってキャップ部140が押し上げられ、噴射ヘッド24の底面に押し付けられて、噴射ヘッド24とキャップ部140との間に密閉空間が形成されるようになっている。尚、図2では、ワイパーブレード130については、図示が省略されている。
【0027】
キャップ部140の底部には吸引ポンプ150が接続されており、キャップ部140を噴射ヘッド24の底面に押し付けた状態で吸引ポンプ150を作動させると、噴射ヘッド24の底面に設けられた噴射ノズルからインクが吸い出され、吸い出されたインクは、吸引ポンプ150の下方に設けられた廃液タンク120に流入する。廃液タンク120内にはインクの吸収材122が設けられており、流入したインクは吸収材122に一旦吸収された後、やがて蒸発して処理されるようになっている。
【0028】
また、図示されているように、本実施例の廃液タンク120内には、吸引ポンプ150からインクが排出される位置に、第1インク溜部142が設けられている。第1インク溜部142は、上面側が開口した形状の容器であり、底部には開閉弁148が設けられている。そして、開閉弁148を閉めた状態で、吸引ポンプ150から噴射ヘッド24内のインクを吸引すると、吸引ポンプ150から排出されたインクが第1インク溜部142に溜まるようになっている。また、第1インク溜部142には、液面センサA144および液面センサB146が設けられており、第1インク溜部142に溜まっているインク量を計測することで、噴射ヘッド24内のインクが増粘している程度を、精度良く検出することが可能となっている。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0029】
キャリッジ20の経路上には、キャップ部140に隣接した位置に、フラッシング受け部110も設けられている。フラッシング動作時には、ステップモータ36を駆動してキャリッジ20をフラッシング受け部110の位置まで移動させた後、噴射ヘッド24に設けられた複数の噴射ノズルから、フラッシング受け部110に向けて一斉にインクを噴射する。フラッシング受け部110の底部はチューブによって廃液タンク120に接続されており、フラッシング受け部110に噴射されたインクは廃液タンク120に導かれ、廃液タンク120内の吸収材に吸収された後、やがて蒸発して処理される。
【0030】
また、図示されているように、本実施例では、フラッシング受け部110の中に第2インク溜部112も設けられている。第2インク溜部112も、上面側が開口した形状の容器であり、底部には開閉弁116が設けられている。そして、開閉弁116を閉めておくことによって、第2インク溜部112内にインクを溜めておくことが可能である。また、第2インク溜部112にも液面センサ114が設けられており、第2インク溜部112内に溜まっているインク量を検出することで、噴射ヘッド24内のインクが増粘している程度を、精度良く検出することが可能となっている。以下では、本実施例のインクジェットプリンタ10が、噴射ヘッド24内のインクの増粘程度を精度良く検出することによって、フラッシング動作あるいはクリーニング動作を行う様子について説明する。
【0031】
B.本実施例のフラッシング動作 :
図3は、本実施例の「印刷前フラッシング処理」の流れを示した説明図である。かかる処理は、印刷時にインクが適切に噴射されるようにする為に、印刷の直前に実行される処理である。印刷前フラッシング処理を開始すると、先ず始めに、第2インク溜部112に溜まっているインクの液面が、液面センサ114の位置まで下がっているか否かを判断する(ステップS100)。ここで、第2インク溜部112とは、図2を用いて前述したように、フラッシング受け部110の中に設けられた小さな容器である。また、第2インク溜部112の側面には、ホール素子を用いた液面センサ114が設けられており、第2インク溜部112内に溜まっているインクの液面を検出することが可能となっている。もちろん、液面センサ114は、第2インク溜部112内のインクの液面を検出できれば、ホール素子に限らず、光学素子、あるいは静電容量の変化を検出する方式の素子など、種々のセンサを適用することが可能である。
【0032】
本実施例のインクジェットプリンタ10では、後述する方法で第2インク溜部112内にインクが供給されるようになっており、長い間、インクジェットプリンタ10の電源が切断されて放置されていた場合などを除いて、通常の状態であれば、第2インク溜部112の液面は、液面センサ114よりも上にある。そこで、ほとんどの場合、ステップS100では「no」と判断され、その結果、ステップS102のライトフラッシングが実施される。
【0033】
図4は、本実施例のインクジェットプリンタ10が、ライトフラッシングを行っている様子を示した説明図である。図示されるように、ライトフラッシングでは、キャリッジ20をフラッシング受け部110の位置まで移動させた後、噴射ヘッド24の底面に設けられた全ての噴射ノズルから、一斉にインクを噴射する。こうして噴射ノズルからインクを噴射しておけば、噴射ノズル内でインクの増粘が生じていたとしても、インクが排出されて新しいインクに入れ換わることによって、噴射ノズルを正常な状態に回復させることが可能である。尚、本実施例のインクジェットプリンタ10では、こうしたライトフラッシングと同じようなフラッシング動作(定期フラッシング)を、印刷中も定期的に行うようになっており、これによって、印刷中も噴射ノズルを正常な状態に保つことが可能となっている。
【0034】
また、図示されているように、第2インク溜部112は、全ての噴射ノズルから一斉にインクが噴射された場合でも、第2インク溜部112にはインクが入らないような位置に設けられている。このため、ライトフラッシングを行っても、第2インク溜部112にインクが入ってしまうことはなく、インク液面はライトフラッシングを行う前の位置のままに保たれるようになっている。また、ライトフラッシング受け部110には、図示しない吸収材が設けられており、ライトフラッシングによって噴射されたインクは、吸収材に一旦吸収された後、フラッシング受け部110の底部から廃液タンク120に排出されるようになっている。
【0035】
ライトフラッシング動作が終了すると、キャリッジ20は印字領域に戻されて、印刷を開始可能な状態となる。こうして、噴射ノズルが正常な状態に回復され、インクジェットプリンタ10が印刷を開始可能な状態になると、図3の「印刷前フラッシング処理」が終了する。
【0036】
このように、「印刷前フラッシング処理」が実行されると、多くの場合は、第2インク溜部112にはインクが溜まっているので、図3のステップS100で「no」と判断されて、ライトフラッシング動作を実行する。しかし、第2インク溜部112に溜まったインクからは、少しずつ水分や揮発成分が蒸発し、それに伴って第2インク溜部112内のインク液面の位置が下がっていくので、やがては、インク液面が液面センサ114の位置よりも下がった状態となる。そして、この状態の時に「印刷前フラッシング処理」が実行されると、ステップS100において「yes」と判断されることになる。この場合には、ライトフラッシングよりも多量のインクを噴射するヘビーフラッシングを開始する。
【0037】
ヘビーフラッシングを開始するに際しては、先ず始めに、第2インク溜部112の底部に設けられた開閉弁116を開放する(ステップS104)。すると、第2インク溜部112内に残っていたインクが、開閉弁116を通って廃液タンク120へと排出されていく。もっとも、第2インク溜部112に残っているインクが増粘していて、速やかには排出されない場合も考えられる。そこで、開閉弁116の開放後は、所定の開放時間が経過したか否かを判断し(ステップS106)、開放時間が経過するまで待機状態となる。開閉弁116の開放時間としては、代表的には2秒程度の時間に設定される。第2インク溜部112内のインクは液面センサ114の位置まで下がっているので、残っているインクはそれほど多くはない。従って、2秒程度、開閉弁116を開放しておけば、第2インク溜部112内のインクを全て排出することが可能である。図5には、第2インク溜部112のインク液面が液面センサ114の位置まで低下したことを受けて、開閉弁116が開放されて、第2インク溜部112内のインクが廃液タンク120へと排出される様子が示されている。
【0038】
開閉弁116を開放している時間が、所定の開放時間に達したら(ステップS106:yes)、第2インク溜部112内のインクが排出されたものと考えられるので、開閉弁116を閉鎖する(ステップS108)。続いて、噴射ヘッド24を移動させて位置決めしながら、第2インク溜部112に向けてヘビーフラッシングを実施する。これは、次のような動作である。先ず、噴射ヘッド24の底面には複数の噴射ノズルが設けられているが、これら噴射ノズルは、比較的広い範囲に亘って、複数列に分けて形成されている。これに対して第2インク溜部112の開口部は、噴射ノズルが分布している範囲に較べれば、たいへんに狭くなっている。このため、例えば図4に示したライトフラッシングの場合のように、全ての噴射ノズルから同時にインクを噴射したのでは、ごく一部のインクしか、第2インク溜部112で受け止めることはできない。そこで、ノズル列毎に噴射ノズルからインクを噴射することとして、噴射するノズル列の位置が第2インク溜部112の開口部に来るように、噴射ヘッド24を位置決めしながら、フラッシング動作を行うのである。
【0039】
図6は、噴射ヘッド24を位置決めしながら、第2インク溜部112に向かってヘビーフラッシングを行っている様子を示した説明図である。図6(a)には、噴射ヘッド24の一番端に形成された先頭のノズル列を、第2インク溜部112の開口部の上に位置決めして、噴射ノズルからインクを噴射している様子が示されている。前述したように、この段階では、開閉弁116は閉鎖されているので、噴射ノズルから噴射されたインクは、第2インク溜部112内に溜まっていく。また、ヘビーフラッシングでは、前述したライトフラッシングの場合よりも多量のインクが噴射される。尚、図6では、ノズル列1列分ずつ位置決めしてヘビーフラッシングを行うものとして表示されているが、噴射ヘッド24の底面に形成された噴射ノズルの配列に応じて、複数のノズル列分ずつ(たとえば2列ずつ)、インクを噴射することも可能である。
【0040】
こうして、第2インク溜部112に対して噴射ヘッド24を位置決めしながら、ノズル列毎にインクを噴射していくと、やがて第2インク溜部112は満杯となり、最後のノズル列から噴射されるインクは、第2インク溜部112から溢れる状態となる。図6(b)には、最後のノズル列から噴射されるインクが、第2インク溜部112から溢れてフラッシング受け部110に流入する様子が示されている。フラッシング受け部110に流入したインクは、フラッシング受け部110内の吸収材に吸収された後、やがて廃液タンク120に排出される。
【0041】
図4のステップS110では、以上に説明したように、噴射ヘッド24を位置決めしながら、第2インク溜部112に向けてインクを噴射することによって、ノズル列毎にヘビーフラッシングを行う。そして、全てのノズル列についてヘビーフラッシングを終了した時点では、第2インク溜部112はインクで満たされた状態となっている。
【0042】
こうしてヘビーフラッシングを終了したら、噴射ヘッド24を印字領域に戻した後、図3の「フラッシング処理」を終了する。これによって、噴射ヘッド24が適切にインクを噴射可能な状態になるので、インクジェットプリンタ10は、画像を適切に印刷することが可能となる。また、前述したヘビーフラッシングを行った結果として、第2インク溜部112はインクで満たされた状態となっている。このため、次に「印刷前フラッシング処理」が実行された際には、ステップS100において「no」と判断されて、ライトフラッシングを実行することになる。しかし、第2インク溜部112の上面側は大気に接した状態となっているので、時間とともにインクの水分や揮発成分が蒸発して、第2インク溜部112のインク液面が下がっていく。そして、インク液面が、第2インク溜部112に設けられた液面センサ114の位置よりも下がると、今度は、ヘビーフラッシングが実行されることとなる。
【0043】
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、印刷を開始する前に図3の「印刷前フラッシング処理」を行うことによって、噴射ヘッド24を正常にインク噴射可能な状態としておき、これによって画像を適切に印刷することを可能としている。このとき、通常はライトフラッシングを行うが、第2インク溜部112に溜まったインクが、一定量だけ蒸発している場合には、ヘビーフラッシングを行う。ヘビーフラッシングは、ライトフラッシングに較べて多量のインクを排出するので、インクの消費を抑制する観点からは、必要以上には実行しないことが望ましい。この点、本実施例のインクジェットプリンタ10では、ヘビーフラッシングを行うか否かを、第2インク溜部112に溜まったインクが一定量蒸発しているか否かに基づいて決定しているので、本当に必要な場合にだけ、適切にヘビーフラッシングを実行することが可能となる。以下では、この点について詳しく説明する。
【0044】
図3および図4を用いて前述したように、本実施例のインクジェットプリンタ10は、印刷を開始する直前および印刷中にライトフラッシングを行うことにより、噴射ヘッド24内のインクが増粘することを防止している。しかし、ライトフラッシングを行っていても、種々の理由から、長い間には噴射ヘッド24内のインクが次第に増粘し得る。例えば、ライトフラッシングは印刷の直前に行うことから、ライトフラッシングに時間が掛かれば、その分だけ印刷画像が出力されるまでの時間が長くなってしまう。また、ライトフラッシングは、印刷のたびに毎回実行されるので、インク消費量を抑制する観点からすると、ライトフラッシングで噴射するインク量が多量になることは好ましいことではない。このような理由から、ライトフラッシングは、出来るだけ短時間で、しかも噴射するインク量も出来るだけ抑制した状態で行われる傾向がある。その結果、ライトフラッシングだけでは、噴射ヘッド24内のインクの粘度を完全には回復できずに、時間の経過とともに、少しずつインクが増粘する事態が発生し得る。
【0045】
また、画像を印刷していない間は、キャリッジ20をホームポジションに退避させている。この状態では、噴射ヘッド24の底面にキャップ部140が押し付けられて密閉状態となっているので、噴射ヘッド24に設けられた噴射ノズルから、インクの水分や揮発成分が蒸発することを抑制することが可能である。とは言うものの、キャップ部140が押し付けられた状態でも、少しずつではあるがインク中の水分や揮発成分が蒸発するので、長い間には、噴射ヘッド24のインクが増粘し得る。
【0046】
結局、こうした種々の理由から、ライトフラッシングだけでは噴射ヘッド24のインクの増粘を完全に防止することはできず、従って、より完全にインクの粘度を回復可能なヘビーフラッシングが必要となる。そして前述したように、ヘビーフラッシングを行うと多量のインクが消費されるので、ライトフラッシングでも対応可能な間は、ライトフラッシングを行い、噴射ヘッド24内のインクの増粘がある程度まで進行して、ライトフラッシングではインクの粘度を回復できなくなった場合にだけ、ヘビーフラッシングを行うことが望ましい。
【0047】
しかし、上述したように、噴射ヘッド24のインクの増粘は種々の原因によって進行するので、インクの増粘がどの程度まで進んでいるかを正確に把握することは困難である。もちろん、「温度が高いと増粘が進み易い」とか「湿度が低いと増粘が進み易い」といった定性的な傾向は知られているが、インクジェットプリンタ10が使用される環境では、温度や湿度は刻々と変化している。加えて、たとえ同じ温度、同じ湿度の環境でも、その時のインクの状態によって、増粘の進み易さは変化する。すなわち、新しいインクであれば、インクの水分や揮発成分がどんどん蒸発するので増粘が進み易く、逆に、ある程度まで増粘が進んだインクであれば、蒸発は緩慢になるので増粘の進行速度も遅くなると考えられる。更には、雰囲気の湿度と、インクの増粘の程度との関係によっては、雰囲気中の水分をインクが吸収して、インクの粘度が逆に低下することも起こり得る。
【0048】
このようにインクの増粘は、刻々と変化する温度や湿度と、それによって変化するインクの状態と、そして、それらに種々の原因が作用しながら進行する現象である。このため、たとえ温度や湿度を計測しても、噴射ヘッド24のインクが増粘している程度を把握することは困難である。
【0049】
これに対して本実施例のインクジェットプリンタ10では、図3を用いて前述したように、第2インク溜部112にインクを溜めておき、第2インク溜部112に溜まったインクが一定量蒸発している場合に、ヘビーフラッシングを行っている。第2インク溜部112に溜まっているインクも、噴射ヘッド24内のインクも、同じインクカートリッジ26から供給された全く同じインクである。しかも、噴射ヘッド24も第2インク溜部112も同じインクジェットプリンタ10に搭載されているので、当然ながら、ほとんど同じ環境に曝されている。このため、噴射ヘッド24のインクと、第2インク溜部112内のインクとは、増粘程度の相関が極めて高いと考えられる。また、第2インク溜部112内に溜まったインクの増粘の程度は、インクの蒸発量(体積減少量)から、極めて簡単に、しかも十分な精度で把握することが可能である。従って、予め適切な蒸発量を設定しておき、設定した蒸発量だけ第2インク溜部112内のインクが蒸発している場合に、ヘビーフラッシングを行うこととしておけば、適切なタイミング(すなわち、ライトフラッシングでは対応困難な程度まで、噴射ヘッド24のインクの増粘が進んだタイミング)で、ヘビーフラッシングを実行することが可能となるのである。
【0050】
更に、第2インク溜部112内のインクの蒸発量に基づいてライトフラッシングを行うかヘビーフラッシングを行うかを決めることから、インクジェットプリンタ10に常に電力を供給しておく必要がなく、印刷をしない間は電源を切断しておいたとしても、ライトフラッシングを行うのかヘビーフラッシングを行うのかを適切に判断することが可能となっている。すなわち、第2インク溜部112内のインクは、曝された環境に応じて自発的に蒸発していくので、温度センサや湿度センサなどを用いて温度や湿度を記録する場合の様に、電力を常に供給しておく必要がない。このため、ユーザーが長期間に渡ってインクジェットプリンタ10を使わずに電源を切断しておいた場合であっても、第2インク溜部112内のインクの蒸発量に基づいて、噴射ヘッド24内のインクの増粘程度を適切に把握することが可能となっている。
【0051】
また、本実施例のインクジェットプリンタ10では、ヘビーフラッシングで噴射されたインクを、第2インク溜部112に溜めることとしている。ヘビーフラッシングで噴射されたインクは、廃液タンク120で処理されるだけである。従って、このインクを第2インク溜部112に溜めて、ヘビーフラッシングのタイミングを決定してやれば、捨てるインクを効果的に利用しつつ、ヘビーフラッシングによるインク消費量を抑制することが可能となる。
【0052】
更に、図6を用いて前述したように、本実施例の第2インク溜部112は、ヘビーフラッシングで噴射される全インクを受けるとインクが溢れてしまう程度に、小さめの容積に設定されている。このため、ヘビーフラッシング後は、第2インク溜部112が必ずインクで満たされた状態となっているので、1箇所に液面センサ114を設けてインク液面を監視しておくだけで、所定量のインクが蒸発したか否かを、簡単に判断することが可能となる。
【0053】
尚、図3および図6を用いて前述したように、本実施例のフラッシング処理では、第2インク溜部112の開閉弁116を開放して溜まっているインクを排出すると、開閉弁116を閉めた後に、ヘビーフラッシングを行って第2インク溜部112にインクを溜めるものとして説明した。しかし、開閉弁116を閉める前にヘビーフラッシングを開始して、ヘビーフラッシングの途中で開閉弁116を閉めるようにしても良い。こうすれば、たとえ第2インク溜部112内のインクが増粘していた場合でも、ヘビーフラッシングによって噴射された新たなインクで洗い流すようにして、開閉弁116から排出することができる。このため、第2インク溜部112内のインクを、噴射ヘッド24内のインクと同じような状態に保っておくことが可能となり、その結果、噴射ヘッド24内のインクの増粘程度を精度良く把握して、適切なタイミングでヘビーフラッシングを行うことが可能となる。
【0054】
また、一般的にインクジェットプリンタでは、ヘビーフラッシングでも回復できない程度にインクの増粘が進んでしまった場合には、吸引ポンプを用いて、噴射ヘッド24内のインクを強制的に吸い出すクリーニングと呼ばれる動作が行われる。このクリーニング動作も多量のインクを消費するので、上述したヘビーフラッシングと同様に、本当に必要な場合に限って行うことが望ましい。更には、クリーニング動作の際に、インクを必要以上に無駄に吸い出してしまうことがないように、回復に必要な最低限の量のインクを吸い出すようにすることが望ましい。こうした点に着目すると、容器に溜めたインクの蒸発量に基づいて、ヘビーフラッシングとライトフラッシングとの何れを行うのかを決定するという着想は、クリーニング動作を実施するか否かを決定する場合や、クリーニング動作の際のインク吸出し量を決定する場合にも、きわめて有効に適用することができる。本実施例のインクジェットプリンタ10では、このような着想に基づいてクリーニング動作を行っている。以下では、本実施例のインクジェットプリンタ10がクリーニング動作を行う処理について説明する。
【0055】
C.本実施例のクリーニング動作 :
図7は、本実施例のインクジェットプリンタ10がクリーニング動作を行う際に実行する処理の流れを示した説明図である。かかる処理も、図3を用いて前述した「印刷前フラッシング処理」と同様に、印刷の直前に実行される処理である。ここで、本実施例の「印刷前クリーニング処理」は、キャリッジ20がホームポジションに退避して、噴射ヘッド24の底面にキャップ部140が押し付けられた状態となっていることを前提としている。このため、噴射ヘッド24にキャップ部140が押し付けられていない場合には、まず、キャリッジ20をホームポジションに退避して、キャップ部140を噴射ヘッド24に押し付ける動作を行っておき、その後に、本実施例の「印刷前クリーニング処理」を開始するものとする。
【0056】
印刷前クリーニング処理を開始すると、先ず始めに、第1インク溜部142に溜まっているインクの液面が、液面センサAの位置まで下がっているか否かを判断する(ステップS200)。図2を用いて前述したように、廃液タンク120の内部には、第1インク溜部142が設けられており、吸引ポンプ150からインクが排出されると、第1インク溜部142に供給されるようになっている。また、第1インク溜部142の側面には、ホール素子を用いた液面センサA144および液面センサB146が設けられており、第1インク溜部142内に溜まっているインクの液面をそれぞれの液面センサで検出することが可能となっている。尚、これらの液面センサA144および液面センサB146は、前述した第2インク溜部112に設けられた液面センサ114と同様に、第1インク溜部142内のインクの液面を検出できれば、どのようなタイプの素子を用いても構わない。
【0057】
後述するように、第1インク溜部142には、クリーニング動作が行われる度にインクが供給されるようになっており、通常の状態であれば、第1インク溜部142の液面は、液面センサA144よりも上にある。このため、通常は、ステップS200では「no」と判断される。詳しくは後で説明するが、第1インク溜部142の液面が液面センサA144よりも上にあるときは、噴射ヘッド24内では、クリーニング動作が必要になるほどのインクの増粘は発生していないと考えられるので、クリーニング動作を行わずに処理を終了する。これにより、本実施例のインクジェットプリンタ10では、不要なクリーニング動作を行ってインクを無駄に消費してしまう事態を回避可能としている。また、クリーニング動作が終わるまで待つ必要も無いので、直ちに印刷を開始することが可能となっている。
【0058】
このように、多くの場合は、クリーニング動作を行わずに処理を終了して、そのまま印刷を開始する。しかし、図2を用いて説明したように、第1インク溜部142は上面側が開口しているので、第1インク溜部142内に溜まっているインクからは、少しずつ水分や揮発成分が蒸発し、それに伴って第1インク溜部142内のインク液面の位置が下がっていく。その結果、やがては、第1インク溜部142内のインク液面が、液面センサA144の位置よりも下がった状態となる。そして、この状態のときに、本実施例の「印刷前クリーニング処理」が実行されると、図7のステップS200において「yes」と判断されることになる。この場合、続いて、インク液面が液面センサB146の位置よりも下にあるか否かの判断を行う(ステップS202)。
【0059】
インク液面が液面センサB146よりも下にあると判断された場合(ステップS202:yes)、第1インク溜部142内のインクは、かなり蒸発しており、それに伴って増粘も進行した状態となっている。ここで、第1インク溜部142と噴射ヘッド24とは、同じインクジェットプリンタ10に搭載されており、同じ環境に曝されていることから、第1インク溜部142内のインクの増粘が進行していれば、噴射ヘッド24内でもインクの増粘がかなり進行していると考えられる。そこで、この場合には、クリーニング動作を十分に行うために、吸引ポンプ150のタイマーを長めにセットする(ステップS204)。後ほど説明するが、吸引ポンプ150の駆動時間はタイマーによって制御されるようになっており、タイマーを長く設定しておけば、吸引ポンプ150の駆動時間を長くしてより多くのインクを吸引することが可能である。一方、ステップS202で「no」と判断された場合、ステップS200においてインク液面は液面センサA144よりも下にあると判断されていることから、インク液面は、液面センサA144と液面センサB146との間に位置している。この場合、第1インク溜部142のインクは、ある程度は蒸発しているものの、蒸発はそれほど進行していない。したがって、噴射ヘッド24においてもインクの増粘はそれほど進行していないと考えられるので、ある程度の量のインクを吸引してやれば十分に正常な状態に回復することができると考えられる。そこで、吸引ポンプ150のタイマーを短めにセットすることによってインクの吸引量を少なくし、必要以上の量のインクを無駄に消費してしまわないようにする(ステップS206)。
【0060】
こうして、インクの液面の位置に応じてタイマーをセットしたら、続いて、吸引ポンプ150の駆動を開始する(ステップS208)。前述したように、クリーニング動作時には、噴射ヘッド24の底面は、キャップ部140が押し付けられて密閉空間が形成されているから、吸引ポンプ150を駆動すると、密閉空間内の圧力が次第に負圧になっていく。
【0061】
吸引ポンプ150の駆動を開始すると、続いて、第1インク溜部142の底部に設けられた開閉弁148を開放する(ステップS210)。すると、第1インク溜部142内に残っていたインクが、開閉弁148を通って廃液タンク120へと排出される。このとき、第1インク溜部142内のインクが増粘していると、排出に時間がかかるので、開閉弁148の開放後は、所定の開放時間が経過したか否かを判断し(ステップS212)、開放時間が経過するまで待機状態となる。開閉弁148の開放時間は、代表的には2秒程度の時間に設定されている。この間も吸引ポンプ150は駆動されているが、駆動開始から2秒程度では、未だ噴射ヘッド24の底面とキャップ部140との間の密閉空間を負圧にしている段階であり、吸引ポンプ150から排出されたインクが第1インク溜部142内に流入することはない。また、この段階では、第1インク溜部142内のインクは少なくとも液面センサA144の位置まで下がっているので、第1インク溜部142内に残っているインクはそれほど多くはない。従って、2秒程度、開閉弁148を開放しておけば、第1インク溜部142内のインクを全て排出することが可能である。
【0062】
図8には、吸引ポンプ150の駆動が開始されるとともに、開閉弁148が開放されて、第1インク溜部142内のインクが廃液タンク120へと排出される様子が示されている。このような状態で、第1インク溜部142内に残っているインクが全て排出される。
【0063】
こうして、開閉弁148を開放している時間が、所定の開放時間に達したら(ステップS212:yes)、第1インク溜部142内のインクが排出されたものと考えられるので、開閉弁148を閉鎖する(ステップS214)。そして、暫くすると、噴射ヘッド24の底面とキャップ部140との間に形成された密閉空間の圧力が十分に低下して、噴射ヘッド24内のインクが、噴射ノズルから吸い出される。吸い出されたインクは、キャップ部140内に溜まった後、吸引ポンプ150によって吸い出されて、第1インク溜部142に排出される。この段階では、第1インク溜部142の開閉弁148は既に閉じられているので、吸引ポンプ150から排出されたインクは、第1インク溜部142内に溜まっていくことになる。
【0064】
図9は、吸引ポンプ150を駆動することによって噴射ヘッド24から吸い出されたインクが、開閉弁148を閉じた状態の第1インク溜部142に供給される様子を示した説明図である。本実施例のクリーニング処理では、このような状態で吸引ポンプ150を駆動して噴射ヘッド24内のインクを強制的に吸い出しながら、タイマーに設定した時間が経過したか否かを判断する(図7のステップS216)。すなわち、本実施例のクリーニング処理では、第1インク溜部142のインク液面が液面センサA144より下がっていると判断されると(ステップS200:yes)、インク液面の位置に応じて吸引ポンプ150の駆動時間を決定し、タイマーをセットする(ステップS204あるいはステップS206)。それと同時に、吸引ポンプ150を駆動して吸引を開始するので(ステップS208)、吸引ポンプ150を駆動してからの経過時間が、タイマーに設定した時間に達したか否かを判断するのである。そして、タイマーに設定した時間には達していないと判断された場合は(ステップS216:no)、そのまま吸引ポンプ150の駆動を継続する。その結果、第1インク溜部142内にはどんどんインクが溜まっていく。
【0065】
ここで、第1インク溜部142の容積は、1回のクリーニング動作で吸い出されるインクの体積よりも、小さな容積に設定されている。このため、第1インク溜部142の底部の開閉弁148を閉じた状態で、吸引ポンプ150からインクを供給していると、やがて第1インク溜部142はインクで満杯となり、溢れたインクは、廃液タンク120に流入する。図10には、吸引ポンプ150から供給されたインクが、第1インク溜部142から溢れて廃液タンク120に流入する様子が示されている。こうして廃液タンク120に流入したインクは、一旦は吸収材122に吸収された後、やがて蒸発することによって処理される。
【0066】
このようにクリーニング動作を行っていると、やがて、タイマーに設定した時間が経過したと判断されるので(図7のステップS216:yes)、吸引ポンプ150の駆動を停止する(ステップS218)。こうして、インクを吸引することによって噴射ヘッド24が正常な状態に回復されたら、「印刷前クリーニング処理」を終了する。これにより、インクジェットプリンタ10は、正常に印刷可能な状態となるので、「印刷前クリーニング処理」に続いて、印刷を開始することが可能となる。
【0067】
ここで、上述したクリーニング動作を行った結果として、第1インク溜部142はインクで満たされた状態となっている。したがって、次に「印刷前クリーニング処理」が実行された際には、ステップS200において「no」と判断されて、クリーニング動作は行われないことになる。しかし、第1インク溜部142の上面側は大気に接した状態となっているので、時間とともにインクの水分や揮発成分が蒸発して、第1インク溜部142のインク液面が下がっていき、やがては液面センサA144の位置よりも下まで下がる。そして、この状態のときに「印刷前クリーニング処理」が実行されると、ステップS200において「yes」と判断され、タイマーをセットするとともに吸引ポンプ150の駆動を開始することによって(ステップS204、S206、S208)、クリーニング動作を実行するのである。
【0068】
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、クリーニング動作についても、第1インク溜部142に溜まったインクが一定量以上蒸発している場合にだけ実行される。クリーニング動作もヘビーフラッシングと同様に多量のインクを消費するので、必要な場合に限って実行することが望ましい。この点で、本実施例のインクジェットプリンタ10では、クリーニング動作についても、第1インク溜部142に溜まったインクが一定量だけ蒸発している場合に実行することとしているので、本当に必要な場合にだけ、クリーニング動作を実行することが可能となる。更に、本実施例のインクジェットプリンタ10では、インクの蒸発量が少ない場合には、吸引時間を短めにセットすることによって吸引されるインクの量を少なくし、一方、蒸発量が多い場合には、吸引時間を長めにセットすることによって、吸引されるインクの量を多くしている。この様にインクの吸引量を調整しているために、必要以上に多くのインクを吸引してインクを無駄に消費してしまうことがなく、噴射ヘッド24を回復させるのに必要な量だけを吸引することが可能となっている。以下では、これらの点について簡単に説明する。
【0069】
先ず、本実施例の印刷前フラッシング処理でも説明した理由から、たとえ雰囲気の温度や湿度を連続的に計測したとしても、噴射ヘッド24内のインクの増粘の程度を正確に把握することは極めて困難である。これに対して、第1インク溜部142に溜められたインクは、噴射ヘッド24内のインクと同様に、インクカートリッジ26から供給された全く同じインクであり、しかも、噴射ヘッド24も第1インク溜部142も、ほとんど同じ環境に曝されている。このことから、噴射ヘッド24のインクと、第1インク溜部142内のインクとは、増粘程度の相関が極めて高いと考えられる。従って、予め適切な蒸発量を設定しておき、設定した蒸発量だけ第1インク溜部142内のインクが蒸発している場合にのみクリーニング動作を行うこととしておけば、本当に必要な場合にだけ、クリーニング動作を実行することが可能となる。
【0070】
また、クリーニング動作によって噴射ヘッド24を回復させる場合、噴射ヘッド24内でインクの増粘がより進行している場合には、より多くのインクを吸引しなければならない。しかし、インクの増粘がそれほど進行していない場合には、多くのインクを吸引するとインクを無駄に消費することになってしまう。この点、本実施例のインクジェットプリンタ10では、第1インク溜部142内のインクの蒸発量から、噴射ヘッド内でのインクの増粘の程度を把握することが可能であるから、増粘の程度に応じて必要な量だけを吸引することが可能である。これにより、必要以上に多くのインクを吸引してインクを無駄に消費してしまう事態を回避することが可能となっている。また、インクの吸引に必要以上に時間が掛かってしまうこともないので、クリーニング動作を迅速に終了して、直ちに印刷を開始することが可能となっている。
【0071】
また、第1インク溜部142に溜められるインクも、クリーニング動作で吸い出されて、廃液タンク120に捨てられる筈のインクである。従って、第1インク溜部142にインクを溜めるために、新たにインクの消費を増やすことがない。
【0072】
更に、第1インク溜部142の容積も、第2インク溜部112の容積と同様に、小さめの容積に設定されている。すなわち、クリーニング動作で吸い出される全てのインクを第1インク溜部142で受けるとインクが溢れてしまう程度に、小さめの容積に設定されている。このため、クリーニング動作後は、第1インク溜部142が必ずインクで満たされた状態となるので、液面センサA144および液面センサB146を設けてインク液面を監視しておくだけで、所定量のインクが蒸発したか否かを、簡単に判断することが可能となる。
【0073】
また、クリーニング動作を行って第1インク溜部142にインクを溜める際にも、開閉弁148を開放して第1インク溜部142内のインクを排出することとしている。このため、古いインクが第1インク溜部142の底部にいつまでも残って、インクが固化したり、新たに供給されたインクと混ざって、第1インク溜部142内のインク全体の粘度を増加させてしまうことを回避することができる。
【0074】
尚、図9を用いて説明したように、本実施例のクリーニング処理では、第1インク溜部142の開閉弁148を閉じた後、吸引ポンプ150からインクが供給されるものとして説明した。しかし、吸引ポンプ150からインクが供給された後に、開閉弁148を閉めるようにしても良い。こうすれば、たとえ第1インク溜部142内のインクが増粘していた場合でも、吸引ポンプ150から供給される新たなインクで洗い流して、開閉弁148から排出することが可能となる。
【0075】
D.変形例 :
上述した実施例には、幾つかの変形例が存在している。以下では、これらの変形例について簡単に説明する。
【0076】
D−1.第1の変形例 :
上述した実施例では、第2インク溜部112内のインク量の情報は「印刷前フラッシング処理」に用い、一方、第1インク溜部142内のインク量の情報は「印刷前クリーニング処理」にそれぞれ用いるものとして説明した。しかし、このように2つのインク溜部のインク量の情報を別々に用いるのではなく、両方を合わせて用いることとしてもよい。こうすれば、噴射ヘッド24内のインクの増粘の程度をより詳細に把握することが可能となる。
【0077】
また、次のような見方をすることもできる。まず、ヘビーフラッシングでは、噴射ヘッド24内でインクの流れが良い部分のインクが入れ換わり易い傾向があるので、第2インク溜部112のインク(ヘビーフラッシングの際に溜められたインク)は、こうした流れが良い部分のインクとの相関が強くなっている。このため、第2インク溜部112のインク量からは、主に、こうした流れが良い部分のインクの増粘の程度を把握することができる。一方、噴射ヘッド24内でインクの流れに淀みが生じている部分では、インクが入れ換わり難く、クリーニング動作を行わないとインクが入れ換わらない傾向があるので、こうした部分のインクは、第1インク溜部142のインク(クリーニング動作の際に溜められたインク)との相関が強くなっている。このため、第2インク溜部のインク量からは、主に、こうした流れに淀みがある部分のインクの増粘の程度を把握することができる。この様に、第1インク溜部のインク量と第2インク溜部のインク量とは、噴射ヘッド24内のそれぞれ異なる部分のインクの増粘の程度を反映していると考えることもできる。
【0078】
この様に、第1インク溜部と第2インク溜部とは、異なる内容を反映していると考えられるので、これら2つのインク溜部のインク量を合わせて用いれば、噴射ヘッド24内のインクの増粘の程度をより正確に把握することが可能となり、その結果、噴射ヘッド24内のインクをより適切な態様で入れ換えることが可能となる。例えば、第2インク溜部のインクはあまり減少していないが、第1インク溜部のインクはかなり減少している場合、インクの流れが良好な部分ではインクの増粘があまり進行していないものの、インクの流れに淀みがある部分ではインクの増粘が進行していることが把握できる。そこで、この場合には、ヘビーフラッシングを行うのではなく、クリーニング動作を行うこととすれば、淀みがある部分のインクを入れ換えることができるので、噴射ヘッド24をより確実に回復させることが可能となる。
【0079】
D−2.第2の変形例 :
上述した実施例では、液面センサよりもインク液面が上か否かを検出することによって、インク溜部内のインクが所定量だけ蒸発しているか否かを調べるものとして説明した。しかし、所定量の蒸発があるか否かを調べるのではなく、インク溜部内のインクの量を直接測ることによって、インクの蒸発量そのものを調べるものとしてもよい。例えば、ポテンションメータ等でインク溜部全体の重さを測ることによってインク溜部内のインクの量を測定し、測定したインクの量からインクの蒸発量を求めるものとしてもよい。もちろん、重さではなく、インク溜部内のインダクタンスやインピーダンスなどの電気特性を測ることによってインク溜部内のインクの量を測定してもよい。そして、求めたインクの蒸発量に基づいて、噴射ヘッド24から吸引するインクの吸引量を決定するものとしてもよい。例えば、予め定めておいた数式を用いて蒸発量から吸引量を算出するものとしてもよいし、あるいは、蒸発量と吸引量との対応テーブルを予め記憶しておき、この対応テーブルを参照して吸引量を決めるものとしてもよい。こうすれば、噴射ヘッド24を回復させる為の吸引量を、噴射ヘッド24内のインクの増粘の程度に応じてより正確に設定することができるので、噴射ヘッド24をより確実に回復させることが可能となる。また、回復に必要な量以上はインクを吸引しないので、インクの無駄な消費をより抑えることが可能となる。
【0080】
D−3.第3の変形例 :
上述した実施例では、ヘビーフラッシングもクリーニング動作も、第2インク溜部112あるいは第1インク溜部142内のインクが所定量減少している場合に、ヘビーフラッシングあるいはクリーニング動作を行うものとして説明した。しかし、所定量のインクが減少したという情報を、直ちにヘビーフラッシングやクリーニング動作の開始に結びつける必要はなく、このような情報に基づいて、言わば間接的に、フラッシング動作やクリーニング動作を行うか否かを決定するようにしても良い。例えば、所定量のインクが減少するまでに要した時間を計測すれば、インクの蒸発し易さ(あるいは揮発し易さ)を把握することができる。従って、この情報に基づいて、フラッシング動作や、クリーニング動作の頻度を調整するものとしてもよい。例えば、インクが蒸発し難い環境であると判断された場合には、印刷の度にライトフラッシングを行うのではなく、数回に一度の頻度でライトフラッシングを行うようにしたり、あるいは、印刷中に行う定期フラッシングの間隔を長くするなどしてフラッシングの頻度を下げてやれば、インクの消費量を抑制することが可能となる。
【0081】
D−4.第4の変形例 :
以上に説明した本実施例のクリーニング動作では、吸引ポンプ150から排出されたインクは、重力によって落下して、第1インク溜部142内に供給されるものとして説明した。しかし、吸引ポンプ150から圧送することによって、第1インク溜部142内にインクを供給するようにしても良い。
【0082】
図11には、このような変形例としての第1インク溜部142が例示されている。図示した例では、吸引ポンプ150の排出口が、チューブによって第1インク溜部142の底部付近に接続されており、吸引ポンプ150を駆動すると、チューブを介して第1インク溜部142の内部にインクが圧送されるようになっている。もちろん、このような構成に限らず、例えば、吸引ポンプ150の排出口に接続されたチューブを、第1インク溜部142の上方から底部付近まで差し込むようにしてもよい。
【0083】
このような変形例の第1インク溜部142においても、吸引ポンプ150を駆動してクリーニング動作を行うと、第1インク溜部142内にインクが溜まっていき、やがて満杯になって、第1インク溜部142の上部からインクが溢れ出す。図11には、満杯になったインクが第1インク溜部142から溢れ出す様子が示されている。
【0084】
尚、吸引ポンプ150の排出口からチューブを第1インク溜部142に接続した場合、吸引ポンプ150の駆動後、暫くの間は、チューブから空気が供給されて、第1インク溜部142内に泡が発生する可能性がある。しかし、第1インク溜部142の容積は、クリーニング動作で吸い出されるインク量よりも小さく設定されているので、クリーニング動作の後半では、図11に示されているように、インクが必ず溢れ出す。そして、たとえ第1インク溜部142の内部に泡が発生していても、溢れ出すインクとともに泡も排出されてしまう。このため、クリーニング動作の終了後は、第1インク溜部142の内部には泡が全く存在しないインク液面が形成されるので、液面センサA144および液面センサB液面センサB146を用いてインク液面を正確に検出することが可能となる。
【0085】
以上、本実施例の印刷装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】インクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例のインクジェットプリンタに搭載されたメンテナンス機構の構成を示した説明図である。
【図3】本実施例のインクジェットプリンタが行う印刷前フラッシング処理の流れを示した説明図である。
【図4】本実施例のインクジェットプリンタがライトフラッシングを行う様子を示した説明図である。
【図5】第2インク溜部の開閉弁が開放されて、インクが廃液タンクへと排出される様子を示した説明図である。
【図6】噴射ヘッドを位置決めしながら第2インク溜部に向かってヘビーフラッシングを行う様子を示した説明図である。
【図7】本実施例のインクジェットプリンタが行う印刷前クリーニング処理の流れを示した説明図である。
【図8】吸引ポンプの駆動が開始されるとともに、第1インク溜部の開閉弁が開放されることにより、第1インク溜部のインクが廃液タンクへと排出される様子を示した説明図である。
【図9】吸引ポンプによって噴射ヘッドから吸い出されたインクが第1インク溜部に供給される様子を示した説明図である。
【図10】吸引ポンプから供給されたインクが、第1インク溜部から溢れて廃液タンクに流入する様子を示した説明図である。
【図11】変形例の第1インク溜部を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0087】
10…インクジェットプリンタ、 20…キャリッジ、 24…噴射ヘッド、
26…インクカートリッジ、 30…駆動機構、 40…プラテンローラ、
100…メンテナンス機構、 110…フラッシング受け部、
112…第2インク溜部、 114…液面センサ、 116…開閉弁、
120…廃液タンク、 130…ワイパーブレード、 140…キャップ部、
142…第1インク溜部、 144…液面センサA、 146…液面センサB、
148…開閉弁、 150…吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の流体を噴射ヘッドに導くことによって、該噴射ヘッドから流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記流体に含まれる少なくとも一部の成分が大気とやり取り可能な状態で、前記噴射ヘッドの外部に該流体を溜めておく流体溜部と、
前記流体溜部の流体の減少量を計測する流体減少量計測手段と、
前記噴射ヘッド内の流体を入れ換える流体入換手段と、
前記流体を入れ換える態様たる流体入換態様を複数記憶しておく流体入換態様記憶手段と
を備え、
前記流体入換手段は、前記計測した流体の減少量に基づいて、前記複数の流体入換態様の中から一の態様を選択し、該選択した態様で前記流体の入れ換えを行う手段である流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記流体溜部は、前記噴射ヘッド内の流体を入れ換えることによって該噴射ヘッドから排出される流体を溜めておく溜部である流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドから前記流体を吸引することによって該噴射ヘッド内の流体を排出する流体吸引排出手段を備えるとともに、
前記流体入換態様記憶手段は、
前記噴射ヘッドから前記流体を噴射することによって該噴射ヘッド内の流体を入れ換える流体入換態様と、
前記噴射ヘッドから前記流体を吸引することによって該噴射ヘッド内の流体を入れ換える流体入換態様と
を記憶している手段である流体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体噴射装置であって、
前記流体溜部は、前記噴射ヘッドから噴射された流体が溜まるように構成された第1の流体溜部と、該噴射ヘッドから吸引された流体が溜まるように構成された第2の流体溜部とを有する溜部である流体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の流体噴射装置であって、
前記流体溜部には、内部に溜まっている前記流体を排出するための排出弁が設けられている流体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−208325(P2009−208325A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52977(P2008−52977)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】