説明

流体搬送用ホース

【課題】補強層の構造を複雑にすることなく、補強層の破損に伴うホース内部への流体の漏洩を、外部から容易に検知することができる流体搬送用ホースを提供する。
【解決手段】内面ゴム層4とカバーゴム層10との間に複数のカーカス層5、7、9を配置すると共に、カバーゴム層10の外表面にホース軸方向に連続する目視可能な模様3を施した流体搬送用ホースにおいて、カバーゴム層10内のホース軸方向の少なくとも一部に、カバーゴム層10と非接着性の滑面層11を埋設すると共に、その滑面層11の外側にカバーゴム層10と接着性の拘束層12をホース周方向の一部に巻回すように埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体搬送用ホースに関し、更に詳しくは、マリンホースのような水中で使用される流体荷役用の大口径のホースにおいて、内部の補強層の破損を検知できるようにした流体搬送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
マリンホースに代表される流体荷役用の大口径のホースにおいては、高圧で送り出される石油などの流体が、ホース外部へ漏洩しないように厳重に防止する必要がある。そのため、この種の流体搬送用ホースは、流体に対する耐侵食性を有する内面ゴム層の外側に補強層として有機繊維コードからなる複数層の補強層を配置して耐圧強度を向上するようにしている。これら補強層の一部が破損した場合には、流体がホース外にただちに漏洩する可能性はないが、安全性を考慮して補強層の一部が破損した初期段階で、早期に新しいホースと交換することが行われている。そのため、従来から補強層の破損に伴うホース内部への流体の漏洩を、外部から検知することができる検知手段が多数提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1や特許文献2は、本体耐圧コード層とその外側に配置された補助耐圧コード層とからなる補強層を有するホースにおいて、補助耐圧コード層をホース軸方向に対して有機繊維コードを非対称に巻回して構成することにより、本体耐圧コード層の破損により内部に漏洩した流体の圧力で補助耐圧コード層を介してホース全体を捩れ変形させるようにし、その捩れ変形を外部から目視により確認することで、補強層の破損を検知することができるホースを提案している。
【0004】
しかし、上記のホースでは、補助耐圧コード層の構造が複雑になるため、ホースの製造コストの増加を招くと共に、ホース重量が増加したりホースの可撓性が低下したりするという問題があった。
【特許文献1】特開平5−272678号公報
【特許文献2】特開2001−90873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、補強層の構造を複雑にすることなく、補強層の破損に伴うホース内部への流体の漏洩を、外部から容易に検知することができるようにした流体搬送用ホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の流体搬送用ホースは、内面ゴム層とカバーゴム層との間に複数の補強層を配置すると共に、前記カバーゴム層の外表面にホース軸方向に連続する目視可能な模様を施した流体搬送用ホースにおいて、前記カバーゴム層内のホース軸方向の少なくとも一部に、該カバーゴム層と非接着性の滑面層を埋設すると共に、該滑面層の外側に該カバーゴム層と接着性の拘束層をホース周方向の一部に巻回すように埋設したことを特徴とするものである。
【0007】
拘束層はホース全周の1/3〜1/2の範囲に巻回すように埋設することが望ましい。また、拘束層をホース軸方向に間欠的に複数配置すると共に、拘束層のホース周方向の巻回位置を隣接する拘束層間でホース周方向に互いに反対側にするのがよい。
【0008】
あるいは、拘束層はスパイラル状に巻回したり、又は長手方向に二等分した拘束層を、ホース中心について互いに対称となるように配置したりすることが望ましい。
【0009】
滑面層をポリエステルのフィルムから、拘束層をホース周方向に引き揃えられた複数の有機繊維コードから、それぞれ構成することが望ましい。
【0010】
本発明の流体搬送用ホースは、石油搬送用のマリンホースに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の流体搬送用ホースによれば、カバーゴム層内のホース軸方向の少なくとも一部に、カバーゴム層と非接着性の滑面層を埋設すると共に、滑面層の外側にカバーゴム層と接着性の拘束層をホース周方向の一部に巻回すように埋設するようにしたので、補強層が破損すると、漏洩した流体の圧力によりカバーゴム層が膨らむ一方で、カバーゴム層における拘束層の周囲の部分は、拘束層によりホース周方向への変形が拘束され、かつ滑面層上を滑るので膨れに追随することがない。そのため、カバーゴム層に捩れ変形が生じ、その捩れ変形により外表面に施された模様の一部が変形するため、外部から目視により容易に流体漏洩を検知することができる。また、従来の構造の補強層を用いることができるため、補強層の構造が複雑になることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態からなる流体搬送用ホースを示す。
【0014】
この流体搬送用ホースは、ホース本体1の両端部にそれぞれ液密に接続金具2が取り付けられていると共に、ホース本体1の外表面には、ホース軸方向へ連続する模様3が施されている。この模様3は、外部から容易に視認することができるように、通常は白色やオレンジ色などに着色されている。
【0015】
ホース本体1の構造は、図2に示すように、円筒状の内面ゴム層4の外周に第1内側カーカス層5、スパイラルワイヤ補強層6、第2内側カーカス層7、バッファ層8、外側カーカス層9及びカバーゴム層10を順に積層したものとなっている。複数の補強層は、第1内側カーカス層5、スパイラルワイヤ補強層6、第2内側カーカス層7及び外側カーカス層9から構成される。
【0016】
内面ゴム層4はホース内を流れる流体への耐侵食性に優れた材質から構成されている。第1内側カーカス層5及び第2内側カーカス層7は、ホース軸方向にバイアスに配列した有機繊維コードからなる複数の層を、層間でコードが互いに交差するように積層することにより構成されており、それらの層の一部がホース本体1の端部でターンバックされている。これら内側カーカス層5、7は、ホース本体1に主として軸方向の強度と適度な可撓性を付与する。
【0017】
スパイラルワイヤ補強層6は、金属ワイヤを所定のピッチで第1内側カーカス層5の外周にスパイラル状に巻回することにより構成され、ホース本体1に主に周方向の強度を付与すると共に、ホース本体1が湾曲したときにキンクが発生するのを防止し、更に外圧によるホース本体1の潰れを防止する。
【0018】
外側カーカス層9は、内側カーカス層5、7と同様に、ホース軸方向にバイアスに配列した有機繊維コードからなる複数の層を、層間でコードが互いに交差するように積層することにより構成されている。
【0019】
バッファ層8は、主に発泡材から構成され、内側カーカス層5、7と外側カーカス層9との間に配置されることにより、内側カーカス層5、7が破損した場合でも、バッファ層8が圧力を吸収緩和して外側カーカス層9に破損が伝搬しないようにするものである。
【0020】
なお、外側カーカス層9とカバーゴム層10との間に、ホース本体1に浮力を与える浮力層を設けるようにしてもよい。
【0021】
このようなホース本体1の構成において、図3に示すように、カバーゴム層10のホース周方向の一部には、滑面層11と拘束層12とが内側から順に埋設されている。拘束層12は、図4に示すように、ホース周方向の一部に巻回すように埋設され、滑面層11は拘束層12の下面を十分覆う程度の大きさを有している。なお、ここで「ホース周方向の一部」とは、拘束層12の長手方向の両端部が互いに接触しない状態を意味する。
【0022】
滑面層11は、カバーゴム層10の加硫温度でも溶融せず、かつカバーゴム層10と非接着性の材料から構成され、例えばポリエステルのフィルムが用いられる。また、拘束層12は、延性(伸度)がカバーゴム層10より大幅に低く、かつカバーゴム層10と接着性の材料から構成され、例えばホース周方向に引き揃えられた複数の有機繊維コードから構成される。この有機繊維としては、アラミド繊維、ポリケトン又はポリフェニレルサルファイドなどが好ましく用いられる。
【0023】
このような構成とすることで、ホース本体1において内側カーカス層5、7が破損すると、バッファ層8へ漏洩した流体の圧力により外側カーカス層9を通じてカバーゴム層10が膨らむ一方で、カバーゴム層10における拘束層12の周囲の部分は、拘束層12によりホース周方向への変形を拘束され、かつ滑面層11上を滑るので、カバーゴム層10の膨れに追随しない。これに対して、カバーゴム層10における拘束層12から離れた部分は、ホース周方向への変形が拘束されず、かつ滑面層11上を滑るので、カバーゴム層10の膨れに追随することになる。そのため、拘束層12の周囲の部分と、それ以外の部分との間における変形量の差によって、カバーゴム層10には捩れ変形が生じることになり、この捩れ変形により、図5(a)の正常状態から図5(b)の流体漏洩状態に示すように外表面に施された模様3の一部が変形するため、外部から目視により容易に流体漏洩を検知することができる。なお、カバーゴム層10の膨れが大きくかつ急激な場合には、カバーゴム層10の破損を目視で確認することによっても、流体漏洩を検知することができる。
【0024】
カバーゴム層10の捩れ変形を十分なものとし、模様3の変形を大きくして視認しやすくするため、拘束層12はホース周方向の1/3〜1/2の範囲に巻回すように埋設することが望ましい。また、拘束層12は、図3に示すように、ホース軸方向に間欠的に複数配置すると共に、隣接する拘束層12間でホース周方向の巻回位置が互いに180°ずれた反対側になるようにするのがよい。このようにすることで、ホース本体1の外表面の模様3が蛇行するように変形しやすくなるため、目視による確認が更に容易になる。
【0025】
なお、拘束層12をホース周方向の大部分に巻回す場合には、図6に示すように、拘束層12の両端部に挟まれた部分13がホース長手方向へ並ぶようにすると共に、その上を模様3の少なくとも一部が通過するようにすることが好ましい。
【0026】
図7は、本発明の第2の実施形態からなる流体搬送用ホースにおける拘束層の構成を示す。なお、ホース本体1の形状及び構造は、図1及び図2と同じであるため省略する。
【0027】
この第2の実施形態においては、拘束層12がスパイラル状に巻回されている。このようにすることで、第1の実施形態の場合に比べて、カバーゴム層10の膨れに対する模様3の変形量を大きくすることができ、かつ拘束層12の施行を容易にすることができる。
【0028】
拘束層12のホース周方向の巻回数は特に限定するものではないが、1〜2周とすることが好ましい。1周未満であると模様3の変形が小さくなり、2周超であると拘束層12の施行が困難になる。また、スパイラルの間隔(ピッチ)も特に限定するものではないが、例えば図8(a)の正常状態に示すように、ホース外径をDとした場合にピッチPを0.1×πDとすることで、図8(b)の流体漏洩状態に示すように、カバーゴム層10の膨れが10%程度(外径比)でも、模様3を約45°の傾きで大きく変形させることができるので、視認を容易にすることができる。この拘束層12をホース軸方向に複数設ける場合には、隣接する拘束層12同士の間隔を、0.2×πDの大きさにすることで、模様3における約45°の傾きでの変形を連続させることができる。
【0029】
図9は、本発明の第3の実施形態からなる流体搬送用ホースにおける拘束層の構成を示す。なお、ホース本体1の形状及び構造は、図1及び図2と同じであるため省略する。
【0030】
この第3の実施形態においては、長手方向に二等分された拘束層12を、ホース中心に対して対称となるように配置している。
【0031】
このようにすることで、拘束層12の両端部に挟まれた部分13が、カバーゴム層10の膨れに伴い両側に引っ張られて変形する。この変形により、図10(a)の正常状態から図10(b)の流体漏洩状態に示すように、外表面に施された模様3の一部が変形するため、外部から目視により容易に流体漏洩を検知することができる。なお、模様3を効果的に変形させるため、拘束層12の両端部に挟まれた部分13の上を模様3の少なくとも一部が通過するようにすることが好ましい。
【0032】
上記のいずれの実施形態においても、滑面層11及び拘束層12を埋設するカバーゴム層10のホース軸方向位置は、特に限定するものではないが、ホース本体1の端部近傍(接続金具の端部から約3000mmの範囲)には、端部補強を目的として補強層が多く配置されているため、ホース本体1の中央域とするのがよい。
【0033】
夜間や悪天候などの環境下で目視による模様3の視認が困難な場合に対応するために、ホース本体1の外表面から模様3が浮き出るように形成して触手による確認を可能にすることが好ましい。または、他の手段として、水溶性の食紅等の色粉を収納した袋状の膜体を、カバーゴム層10の外表面から1〜2mmの深さであって、漏洩流体の圧力により捩れ変形が生じる場所、特に拘束層12の両端部に挟まれた部分13に配置することができる。このようにすることで、カバーゴム層10が大きく変形して破損すると、カバーゴム層10外へ色粉が放出されるので、模様3の視認が困難な場合でも流体漏洩を容易に検知することができる。
【0034】
本発明の流体搬送用ホースは、用途は特に限定されるものではないが、流体荷役用の大口径ホースとして好ましく適用され、特に沖合のタンカーと陸部の備蓄タンク等との間で石油を搬送するマリンホースに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態からなる流体搬送用ホースを示す外観図である。
【図2】図1に示す流体搬送用ホースの構造を示す一部断面図である。
【図3】第1の実施形態におけるカバーゴム層の構成を示す一部断面図である。
【図4】第1の実施形態における拘束層の構成を示す斜視図である。
【図5】第1の実施形態におけるカバーゴム層の捩れ変形による模様の変形を説明する斜視図であって、(a)は正常状態を、(b)は流体漏洩が発生したときの状態を、それぞれ示す。
【図6】第1の実施形態における拘束層の構成の別の例を示す斜視図である。
【図7】第2の実施形態における拘束層の構成を示す立体図である。
【図8】第2の実施形態におけるカバーゴム層の変形による模様の変形を説明する立体図であって、(a)は正常状態を、(b)は流体漏洩が発生したときの状態を、それぞれ示す。
【図9】第3の実施形態における拘束層の構成を示す斜視図である。
【図10】第3の実施形態におけるカバーゴム層の変形による模様の変形を説明する斜視図であって、(a)は正常状態を、(b)は流体漏洩が発生したときの状態を、それぞれ示す。
【符号の説明】
【0036】
1 ホース本体
2 接続金具
3 模様
4 内面ゴム層
5 第1内側カーカス層
6 スパイラルワイヤ層
7 第2内側カーカス層
8 バッファ層
9 外側カーカス層
10 カバーゴム層
11 滑面層
12 拘束層
13 拘束層の両端部に挟まれた部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面ゴム層とカバーゴム層との間に複数の補強層を配置すると共に、前記カバーゴム層の外表面にホース軸方向に連続する目視可能な模様を施した流体搬送用ホースにおいて、
前記カバーゴム層内のホース軸方向の少なくとも一部に、該カバーゴム層と非接着性の滑面層を埋設すると共に、該滑面層の外側に該カバーゴム層と接着性の拘束層をホース周方向の一部に巻回すように埋設した流体搬送用ホース。
【請求項2】
前記拘束層をホース全周の1/3〜1/2の範囲に巻回すように埋設した請求項1に記載の流体搬送用ホース。
【請求項3】
前記拘束層を、ホース軸方向に間欠的に複数配置すると共に、該拘束層のホース周方向の巻回位置を隣接する拘束層間でホース周方向に互いに反対側にした請求項1又は2に記載の流体搬送用ホース。
【請求項4】
前記拘束層をスパイラル状に巻回した請求項1に記載の流体搬送用ホース。
【請求項5】
前記拘束層を長手方向に二等分すると共に、それらの拘束層をホース中心について互いに対称となるように配置した請求項1に記載の流体搬送用ホース。
【請求項6】
前記滑面層がポリエステルのフィルムからなる請求項1〜5のいずれかに記載の流体搬送用ホース。
【請求項7】
前記拘束層がホース周方向に引き揃えられた複数の有機繊維コードからなる請求項1〜6のいずれかに記載の流体搬送用ホース。
【請求項8】
石油搬送用のマリンホースである請求項1〜7のいずれかに記載の流体搬送用ホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−1939(P2010−1939A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160269(P2008−160269)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】