説明

流体機械

【課題】圧縮機構と膨張機構を備える流体機械の構造を簡素化する。
【解決手段】流体機械としての圧縮・膨張ユニット(30)では、1つのケーシング(31)に圧縮機構(50)と膨張機構(60)の両方が収納される。圧縮機構(50)と膨張機構(60)を連結するシャフト(40)には、給油通路(90)が形成される。ケーシング(31)の底に溜まった冷凍機油は、給油通路(90)へ吸い上げられて圧縮機構(50)や膨張機構(60)へ供給される。膨張機構(60)へ供給された冷凍機油は、膨張後の冷媒と共に膨張機構(60)から排出され、冷媒回路を流れて圧縮・膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ戻ってくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機構と膨張機構が1つのケーシング内に収容された流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、膨張機構と電動機と圧縮機構とを1本の回転軸で連結した流体機械が知られている。この流体機械において、膨張機構では、導入された流体の膨張によって動力が発生する。膨張機構で発生した動力は、電動機で発生した動力と共に、回転軸によって圧縮機構へ伝達される。そして、圧縮機構は、膨張機構及び電動機から伝達された動力によって駆動され、流体を吸入して圧縮する。
【0003】
例えば、特許文献1には、縦長で円筒状のケーシング内に膨張機構と電動機と圧縮機構と回転軸とを収納した流体機械が記載されている。この流体機械のケーシング内では、膨張機構と電動機と圧縮機構とが下から上へ向かって順に配置され、これらが1本の回転軸で互いに連結されている。また、膨張機構と圧縮機構は、共にロータリ式流体機械によって構成されている。
【0004】
この特許文献1の流体機械では、回転軸に給油通路が形成されている。ケーシング内の上部に配置された膨張機構へは、ケーシングの底部に貯留された潤滑油が回転軸内の給油通路を通じて供給される。この流体機械では、膨張機構に油戻し通路を設け、この油戻し通路を通じて余剰の潤滑油をケーシングの底部へ送り返している。
【特許文献1】特開2005−299632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、上記特許文献1の流体機械では、膨張機構側から圧縮機構側へ潤滑油を戻すための油戻し通路を設けている。このため、油戻し通路を設けた分だけ流体機械の構造が複雑化し、製造コストの上昇等の弊害を招くおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮機構と膨張機構を備える流体機械の構造を簡素化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(20)に設けられる流体機械を対象としている。そして、冷媒を圧縮する圧縮機構(50)と、流体の膨張により動力を発生させる膨張機構(60)と、上記圧縮機構(50)と上記膨張機構(60)を連結する回転軸(40)と、上記圧縮機構(50)と膨張機構(60)と回転軸(40)を収容する容器状のケーシング(31)とを備える一方、上記回転軸(40)には、上記ケーシング(31)内における上記圧縮機構(50)寄りに貯留された潤滑油を上記膨張機構(60)へ供給する給油通路(90)が形成され、上記膨張機構(60)は、上記給油通路(90)から供給された潤滑油を、冷媒が膨張する膨張室(72,82)へ導入して膨張後の冷媒と共に排出するように構成されるものである。
【0008】
第1の発明では、流体機械(30)が冷媒回路(20)に設けられる。流体機械(30)の圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、放熱用の熱交換器で放熱した後に流体機械(30)の膨張機構(60)へ流入する。膨張機構(60)では、流入した高圧冷媒が膨張する。膨張機構(60)で高圧冷媒から回収された動力は、回転軸(40)によって圧縮機構(50)へ伝達され、圧縮機構(50)を駆動するために利用される。膨張機構(60)で膨張した冷媒は、吸熱用の熱交換器で吸熱した後に流体機械(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。
【0009】
第1の発明の流体機械(30)では、ケーシング(31)の内部空間のうち圧縮機構(50)寄りの部分に潤滑油が貯留される。ケーシング(31)内の潤滑油は、回転軸(40)に形成された給油通路(90)を通じて膨張機構(60)へ供給され、膨張機構(60)の潤滑に利用される。膨張機構(60)へ供給された潤滑油は、膨張機構(60)の膨張室へ流入する。膨張機構(60)の膨張室内では、冷媒が膨張する。膨張室内へ流入した潤滑油は、膨張後の冷媒と共に膨張機構(60)から排出される。膨張機構(60)から排出された潤滑油は、冷媒と共に冷媒回路(20)内を流れて流体機械(30)へ流入する。つまり、膨張機構(60)へ供給された潤滑油は、流体機械(30)から一旦排出され、冷媒回路(20)を通って流体機械(30)のケーシング(31)内へ戻ってくる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記膨張機構(60)は、両端が閉塞されたシリンダ(71,81)と、上記回転軸(40)に係合すると共に上記シリンダ(71,81)内に収容されて膨張室(72,82)を形成するピストン(75,85)と、上記膨張室(72,82)を高圧側と低圧側に仕切るためのブレード(76,86)とを備えたロータリ式膨張機により構成され、上記回転軸(40)には、上記給油通路(90)から分岐して該回転軸(40)の外周面に開口する分岐通路(93)が形成され、上記膨張機構(60)には、上記分岐通路(93)から吐出された潤滑油を上記ブレード(76,86)の摺動面へ導く油導入路(114)が形成されるものである。
【0011】
第2の発明では、膨張機構(60)がロータリ式膨張機によって構成される。この膨張機構(60)では、膨張室(72,82)へ導入された冷媒が膨張すると、ピストン(75,85)が移動して回転軸(40)が駆動される。給油通路(90)を膨張機構(60)へ向かって流れる潤滑油は、その一部が分岐通路(93)へ流入する。分岐通路(93)へ流入した潤滑油は、回転軸(40)の回転に伴う遠心力を受けて分岐通路(93)から吐出される。分岐通路(93)から吐出された潤滑油は、油導入路(114)を通ってブレード(76,86)の摺動面へ供給され、ブレード(76,86)の潤滑に利用される。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記シリンダ(71,81)には、該シリンダ(71,81)を厚み方向へ貫通していて上記ブレード(76,86)が挿入される貫通孔(78,88)が形成され、上記油導入路(114)は、上記シリンダ(71,81)の貫通孔(78,88)に開口して上記ブレード(76,86)の摺動面へ潤滑油を供給する一方、上記給油通路(90)の一端が上記回転軸(40)における上記膨張機構(60)側の端面に開口しており、上記膨張機構(60)には、上記シリンダ(71,81)の貫通孔(78,88)と上記回転軸(40)の端面に開口する給油通路(90)の一端とを連通させる接続通路(111)が形成されるものである。
【0013】
第3の発明では、油導入路(114)からシリンダ(71,81)の貫通孔(78,88)へ潤滑油が導入され、貫通孔(78,88)へ流入した潤滑油がブレード(76,86)の摺動面へ供給される。また、貫通孔(78,88)内の潤滑油は、接続通路(111)を通って回転軸(40)内の給油通路(90)へ排出される。
【0014】
第4の発明は、上記第1,第2又は第3の発明において、上記ケーシング(31)の内部空間は、上記膨張機構(60)が収容される第1空間(38)と、上記圧縮機構(50)が収容されて該圧縮機構(50)から圧縮された冷媒が吐出される第2空間(39)とに区画されており、上記給油通路(90)を通じて上記第2空間(39)に貯留された潤滑油が上記膨張機構(60)へ供給されるものである。
【0015】
第4の発明では、ケーシング(31)内の第2空間(39)(即ち、圧縮機構(50)から吐出された高温高圧の冷媒で満たされた空間)に潤滑油が貯留される。圧縮機構(50)へ吸入される冷媒は、第2空間(39)内の冷媒と接触することなく圧縮機構(50)へ流入する。従って、膨張機構(60)から排出されて冷媒回路(20)から圧縮機構(50)へ戻る潤滑油も、第2空間(39)内の冷媒と接触せずに圧縮機構(50)へ直接に流れ込む。
【0016】
第5の発明は、上記第1,第2,第3又は第4の発明において、上記回転軸(40)には、上記回転軸(40)の回転により潤滑油を吸入して上記給油通路(90)へ吐出する非容積型の給油ポンプ(94)が設けられるものである。
【0017】
第5の発明では、回転軸(40)に給油ポンプ(94)が設けられる。回転軸(40)が回転すると、それに伴って給油ポンプ(94)がケーシング(31)内の潤滑油を吸い込んで給油通路(90)へ吐出する。給油ポンプ(94)は、非容積型ポンプによって構成される。従って、給油ポンプ(94)から吐出される潤滑油の流量は、容積型ポンプとは異なって回転軸(40)の回転速度だけでは決まらず、給油通路(90)内の圧力やケーシング(31)内の圧力にも影響される。
【0018】
第6の発明は、上記第1,第2,第3又は第4の発明において、二酸化炭素が冷媒として充填された冷媒回路(20)に設けられ、圧縮機構(50)が吸入した冷媒をその臨界圧力以上にまで圧縮する一方、膨張機構(60)では臨界圧力以上の高圧冷媒が流入して膨張するものである。
【0019】
第6の発明では、流体機械(30)が接続された冷媒回路(20)で冷媒としての二酸化炭素が循環する。流体機械(30)の圧縮機構(50)は、吸入した冷媒をその臨界圧力以上にまで圧縮して吐出する。一方、流体機械(30)の膨張機構(60)へは、臨界圧力以上の高圧冷媒が導入されて膨張する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る流体機械(30)において、膨張機構(60)へ供給された潤滑油は、流体機械(30)が接続される冷媒回路(20)を通ってケーシング(31)内へ送り返される。つまり、ケーシング(31)内の膨張機構(60)側から圧縮機構(50)側へ潤滑油を戻す通路等が流体機械(30)自体に設けられていなくても、膨張機構(60)へ供給された潤滑油はケーシング(31)内へ送り返されてくる。従って、本発明によれば、ケーシング(31)内の膨張機構(60)側から圧縮機構(50)側へ潤滑油を戻すための通路等を流体機械(30)から省略することができ、流体機械(30)の構造を簡素化することができる。
【0021】
上記第2の発明によれば、回転軸(40)の回転に伴って生じる遠心力を利用して潤滑油をブレード(76,86)の摺動面へ供給することができる。このため、ブレード(76,86)の従動面を確実に潤滑することが可能となり、流体機械(30)の信頼性を向上させることができる。
【0022】
上記第3の発明では、給油通路(90)から分岐通路(93)と油導入路(114)と貫通孔(78,88)と接続通路(111)を順に通って給油通路(90)へ戻る潤滑油の流通経路が形成される。従って、この発明によれば、ブレード(76,86)の摺動面へ一層確実に潤滑油を供給することができ、流体機械(30)の信頼性を更に向上させることができる。
【0023】
上記第4の発明において、膨張機構(60)から排出された潤滑油は、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出された高温高圧の冷媒と接触せずに圧縮機構(50)へ直接に流れ込む。
【0024】
ここで、上記流体機械(30)では、圧縮機構(50)からは比較的高温(例えば90℃程度)の冷媒が吐出されるのに対し、膨張機構(60)では例えば40℃程度の冷媒が膨張して例えば5℃程度にまで温度低下する。従って、膨張機構(60)を通過した潤滑油の温度は、さほど高くない。このため、従来の流体機械のように膨張機構を通過した潤滑油をケーシング内の圧縮機構側の空間へ送り返すと、この空間へ圧縮機構から吐出された冷媒が膨張機構から送り返されてきた潤滑油によって冷却されてしまう。つまり、圧縮機構で圧縮されて流体機械から吐出される冷媒のエンタルピが低下してしまう。その結果、流体機械から吐出された高圧冷媒によって対象物を加熱する場合には、対象物への加熱量が減少してしまうおそれがあった。
【0025】
これに対し、上記第4の発明の流体機械(30)では、膨張機構(60)から排出された潤滑油が圧縮機構(50)へ直接に吸い込まれる。つまり、膨張機構(60)から排出された比較的低温の潤滑油は、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出された高温高圧の冷媒とは接触せずに圧縮機構(50)へ流入する。従って、この発明によれば、圧縮機構(50)から吐出された冷媒が膨張機構(60)から排出された潤滑油によって冷却されるのを回避できる。その結果、圧縮機構(50)からの吐出冷媒を利用して対象物を加熱する場合には、加熱能力を向上させることができる。
【0026】
また、上記第5の発明では、給油ポンプ(94)を非容積型のポンプによって構成している。このため、給油ポンプ(94)によって給油通路(90)へ供給される潤滑油の量は、回転軸(40)の回転速度だけでなく、給油通路(90)内の圧力やケーシング(31)内の圧力によっても変動することになる。従って、この発明によれば、給油通路(90)から膨張機構(60)への潤滑油の供給量を流体機械(30)の運転状態に応じて適切に調節することが可能となる。その結果、膨張機構(60)から冷媒と共に排出される潤滑油の量を削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係る流体機械である圧縮・膨張ユニット(30)を備えた空調機(10)である。
【0028】
〈空調機の全体構成〉
図1に示すように、本実施形態の空調機(10)は、冷媒回路(20)を備えている。この冷媒回路(20)には、圧縮・膨張ユニット(30)と、室外熱交換器(23)と、室内熱交換器(24)と、第1四路切換弁(21)と、第2四路切換弁(22)とが接続されている。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。
【0029】
上記圧縮・膨張ユニット(30)は、縦長円筒形の密閉容器状に形成されたケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)内には、圧縮機構(50)と、膨張機構(60)と、電動機(45)とが収納されている。この膨張機構(60)は、本発明に係る容積型膨張機である。ケーシング(31)内では、圧縮機構(50)と電動機(45)と膨張機構(60)とが下から上へ向かって順に配置されている。圧縮・膨張ユニット(30)の詳細については後述する。
【0030】
上記冷媒回路(20)において、圧縮機構(50)は、その吐出側が第1四路切換弁(21)の第1のポートに、その吸入側が第1四路切換弁(21)の第4のポートにそれぞれ接続されている。一方、膨張機構(60)は、その流出側が第2四路切換弁(22)の第1のポートに、その流入側が第2四路切換弁(22)の第4のポートにそれぞれ接続されている。
【0031】
また、上記冷媒回路(20)において、室外熱交換器(23)は、その一端が第2四路切換弁(22)の第2のポートに、その他端が第1四路切換弁(21)の第3のポートにそれぞれ接続されている。一方、室内熱交換器(24)は、その一端が第1四路切換弁(21)の第2のポートに、その他端が第2四路切換弁(22)の第3のポートにそれぞれ接続されている。
【0032】
上記第1四路切換弁(21)と第2四路切換弁(22)は、それぞれ、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。
【0033】
〈圧縮・膨張ユニットの構成〉
図2に示すように、圧縮・膨張ユニット(30)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)の内部には、下から上に向かって順に、圧縮機構(50)と、電動機(45)と、膨張機構(60)とが配置されている。また、ケーシング(31)の底部には、潤滑油である冷凍機油が貯留されている。つまり、ケーシング(31)の内部では、圧縮機構(50)寄りに冷凍機油が貯留されている。
【0034】
ケーシング(31)の内部空間は、膨張機構(60)のフロントヘッド(61)によって上下に仕切られており、上側の空間が第1空間(38)を、下側の空間が第2空間(39)をそれぞれ構成している。第1空間(38)には膨張機構(60)が配置され、第2空間(39)には圧縮機構(50)と電動機(45)とが配置される。尚、第1空間(38)と第2空間(39)とは気密に仕切られている訳ではなく、第1空間(38)の内圧と第2空間(39)の内圧は概ね等しくなっている。
【0035】
ケーシング(31)には、吐出管(36)が取り付けられている。この吐出管(36)は、電動機(45)と膨張機構(60)の間に配置され、ケーシング(31)内の第2空間(39)に連通している。また、吐出管(36)は、比較的短い直管状に形成され、概ね水平姿勢で設置されている。
【0036】
電動機(45)は、ケーシング(31)の長手方向の中央部に配置されている。この電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とにより構成されている。ステータ(46)は、焼嵌め等によって上記ケーシング(31)に固定されている。ステータ(46)の外周部には、その一部を切り欠いたコアカット部(48)が形成されている。このコアカット部(48)とケーシング(31)の内周面との間には、隙間が形成される。ロータ(47)は、ステータ(46)の内側に配置されている。このロータ(47)には、該ロータ(47)と同軸にシャフト(40)の主軸部(44)が貫通している。
【0037】
シャフト(40)は、回転軸を構成している。このシャフト(40)では、その下端側に2つの下側偏心部(58,59)が形成され、その上端側に2つの大径偏心部(41,42)が形成されている。シャフト(40)は、下側偏心部(58,59)の形成された下端部分が圧縮機構(50)に、大径偏心部(41,42)の形成された上端部分が膨張機構(60)にそれぞれ係合している。
【0038】
2つの下側偏心部(58,59)は、主軸部(44)よりも大径に形成されており、下側のものが第1下側偏心部(58)を、上側のものが第2下側偏心部(59)をそれぞれ構成している。第1下側偏心部(58)と第2下側偏心部(59)とでは、主軸部(44)の軸心に対する偏心方向が逆になっている。
【0039】
2つの大径偏心部(41,42)は、主軸部(44)よりも大径に形成されており、下側のものが第1大径偏心部(41)を構成し、上側のものが第2大径偏心部(42)を構成している。第1大径偏心部(41)と第2大径偏心部(42)とは、何れも同じ方向へ偏心している。第2大径偏心部(42)の外径は、第1大径偏心部(41)の外径よりも大きくなっている。また、主軸部(44)の軸心に対する偏心量は、第2大径偏心部(42)の方が第1大径偏心部(41)よりも大きくなっている。
【0040】
シャフト(40)には、給油通路(90)が形成されている。給油通路(90)は、シャフト(40)に沿って延びており、その始端がシャフト(40)の下端に、その終端がシャフト(40)の上端面にそれぞれ開口している。シャフト(40)の下端部には、給油ポンプが設けられている。この給油ポンプは、非容積型ポンプの一種である遠心ポンプによって構成されている。具体的には、給油通路(90)の始端部分がシャフト(40)の軸心から外周方向へ延びる形状に形成されており、その給油通路(90)の始端部分が遠心ポンプである給油ポンプを構成している。
【0041】
圧縮機構(50)は、揺動ピストン型のロータリ式圧縮機を構成している。この圧縮機構(50)は、シリンダ(51,52)とピストン(57)を2つずつ備えている。圧縮機構(50)では、下から上へ向かって順に、リアヘッド(55)と、第1シリンダ(51)と、中間プレート(56)と、第2シリンダ(52)と、フロントヘッド(54)とが積層された状態となっている。
【0042】
第1及び第2シリンダ(51,52)の内部には、円筒状のピストン(57)が1つずつ配置されている。図示しないが、ピストン(57)の側面には平板状のブレードが突設されており、このブレードは揺動ブッシュを介してシリンダ(51,52)に支持されている。第1シリンダ(51)内のピストン(57)は、シャフト(40)の第1下側偏心部(58)と係合する。一方、第2シリンダ(52)内のピストン(57)は、シャフト(40)の第2下側偏心部(59)と係合する。各ピストン(57,57)は、その内周面が下側偏心部(58,59)の外周面と摺接し、その外周面がシリンダ(51,52)の内周面と摺接する。そして、ピストン(57,57)の外周面とシリンダ(51,52)の内周面との間に圧縮室(53)が形成される。
【0043】
第1及び第2シリンダ(51,52)には、それぞれ吸入ポート(33)が1つずつ形成されている。各吸入ポート(33)は、シリンダ(51,52)を半径方向に貫通し、その終端がシリンダ(51,52)の内周面に開口している。また、各吸入ポート(33)は、配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
【0044】
フロントヘッド(54)及びリアヘッド(55)には、それぞれ吐出ポートが1つずつ形成されている。フロントヘッド(54)の吐出ポートは、第2シリンダ(52)内の圧縮室(53)を第2空間(39)と連通させる。リアヘッド(55)の吐出ポートは、第1シリンダ(51)内の圧縮室(53)を第2空間(39)と連通させる。また、各吐出ポートは、その終端にリード弁からなる吐出弁が設けられており、この吐出弁によって開閉される。尚、図2において、吐出ポート及び吐出弁の図示は省略する。そして、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出されたガス冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から送り出される。
【0045】
上述したように、圧縮機構(50)へは、給油通路(90)から冷凍機油が供給される。図示しないが、下側偏心部(58,59)や主軸部(44)の外周面には給油通路(90)から分岐した通路が開口しており、この通路から冷凍機油が下側偏心部(58,59)とピストン(57,57)の摺動面、あるいは主軸部(44)とフロントヘッド(54)やリアヘッド(55)の摺動面へ供給される。
【0046】
図3にも示すように、膨張機構(60)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式膨張機で構成されている。この膨張機構(60)には、対になったシリンダ(71,81)及びピストン(75,85)が二組設けられている。また、膨張機構(60)には、フロントヘッド(61)と、中間プレート(63)と、リアヘッド(62)と、上部プレートが設けられている。
【0047】
膨張機構(60)では、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、第1シリンダ(71)、中間プレート(63)、第2シリンダ(81)、リアヘッド(62)、上部プレートが積層された状態となっている。この状態において、第1シリンダ(71)は、その下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、その上側端面が中間プレート(63)により閉塞されている。一方、第2シリンダ(81)は、その下側端面が中間プレート(63)により閉塞され、その上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されている。また、第2シリンダ(81)の内径は、第1シリンダ(71)の内径よりも大きくなっている。
【0048】
シャフト(40)は、積層された状態のフロントヘッド(61)、第1シリンダ(71)、中間プレート(63)、第2シリンダ(81)を貫通している。リアヘッド(62)の中央部には、該リアヘッド(62)を厚み方向へ貫通する中央孔が形成されている。シャフト(40)の上端部は、このリアヘッド(62)の中央孔に挿入されている。この中央孔には、シャフト(40)の上端面と上部プレートの下面との間に端部空間(95)が形成される。また、シャフト(40)は、その第1大径偏心部(41)が第1シリンダ(71)内に位置し、その第2大径偏心部(42)が第2シリンダ(81)内に位置している。
【0049】
上部プレート(110)には、接続通路(111)が形成されている。接続通路(111)は、上部プレート(110)の下面を掘り下げることによって形成される。また、接続通路(111)は、その始端が端部空間(95)とオーバーラップし、上部プレート(110)の外周側へ向かって延びている。
【0050】
膨張機構(60)では、リアヘッド(62)に第1連通孔(112)が形成され、中間プレート(63)に第2連通孔(113)が形成されている。第1連通孔(112)は、リアヘッド(62)を厚み方向へ貫通し、接続通路(111)の終端を第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)と連通させている。第2連通孔(113)は、中間プレート(63)を厚み方向へ貫通し、第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)を第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)と連通させている。なお、各シリンダ(71,81)のブッシュ孔(78,88)については後述する。
【0051】
フロントヘッド(61)には、油導入路(114)が形成されている。油導入路(114)の始端は、シャフト(40)の主軸部(44)が挿通された中央孔の側壁に開口している。油導入路(114)は、その始端からフロントヘッド(61)の外周方向へ延びている。油導入路(114)の終端は、上方へ屈曲してフロントヘッド(61)の上面に開口し、第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)に連通している。
【0052】
図4及び図5にも示すように、第1シリンダ(71)内には第1ピストン(75)が、第2シリンダ(81)内には第2ピストン(85)がそれぞれ設けられている。第1及び第2ピストン(75,85)は、何れも円環状あるいは円筒状に形成されている。第1ピストン(75)の外径と第2ピストン(85)の外径とは、互いに等しくなっている。第1ピストン(75)の内径は第1大径偏心部(41)の外径と、第2ピストン(85)の内径は第2大径偏心部(42)の外径とそれぞれ概ね等しくなっている。そして、第1ピストン(75)には第1大径偏心部(41)が、第2ピストン(85)には第2大径偏心部(42)がそれぞれ貫通している。
【0053】
上記第1ピストン(75)は、その外周面が第1シリンダ(71)の内周面に、一方の端面がフロントヘッド(61)に、他方の端面が中間プレート(63)にそれぞれ摺接している。第1シリンダ(71)内には、その内周面と第1ピストン(75)の外周面との間に第1膨張室(72)が形成される。一方、上記第2ピストン(85)は、その外周面が第2シリンダ(81)の内周面に、一方の端面がリアヘッド(62)に、他方の端面が中間プレート(63)にそれぞれ摺接している。第2シリンダ(81)内には、その内周面と第2ピストン(85)の外周面との間に第2膨張室(82)が形成される。
【0054】
上記第1及び第2ピストン(75,85)のそれぞれには、ブレード(76,86)が1つずつ一体に設けられている。ブレード(76,86)は、ピストン(75,85)の半径方向へ延びる板状に形成されており、ピストン(75,85)の外周面から外側へ突出している。第1ピストン(75)のブレード(76)は第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)に、第2ピストン(85)のブレード(86)は第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)にそれぞれ挿入されている。各シリンダ(71,81)のブッシュ孔(78,88)は、シリンダ(71,81)を厚み方向へ貫通すると共に、シリンダ(71,81)の内周面に開口している。これらのブッシュ孔(78,88)は、貫通孔を構成している。
【0055】
上記各シリンダ(71,81)には、一対のブッシュ(77,87)が一組ずつ設けられている。各ブッシュ(77,87)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となるように形成された小片である。各シリンダ(71,81)において、一対のブッシュ(77,87)は、ブッシュ孔(78,88)に挿入されてブレード(76,86)を挟み込んだ状態となる。各ブッシュ(77,87)は、その内側面がブレード(76,86)と、その外側面がシリンダ(71,81)と摺動する。そして、ピストン(75,85)と一体のブレード(76,86)は、ブッシュ(77,87)を介してシリンダ(71,81)に支持され、シリンダ(71,81)に対して回動自在で且つ進退自在となっている。
【0056】
第1シリンダ(71)内の第1膨張室(72)は、第1ピストン(75)と一体の第1ブレード(76)によって仕切られており、図4,図5における第1ブレード(76)の左側が高圧側の第1高圧室(73)となり、その右側が低圧側の第1低圧室(74)となっている。第2シリンダ(81)内の第2膨張室(82)は、第2ピストン(85)と一体の第2ブレード(86)によって仕切られており、図4,図5における第2ブレード(86)の左側が高圧側の第2高圧室(83)となり、その右側が低圧側の第2低圧室(84)となっている。
【0057】
上記第1シリンダ(71)と第2シリンダ(81)とは、それぞれの周方向におけるブッシュ(77,87)の位置が一致する姿勢で配置されている。言い換えると、第2シリンダ(81)の第1シリンダ(71)に対する配置角度が0°となっている。上述のように、第1大径偏心部(41)と第2大径偏心部(42)とは、主軸部(44)の軸心に対して同じ方向へ偏心している。従って、第1ブレード(76)が第1シリンダ(71)の外側へ最も退いた状態になるのと同時に、第2ブレード(86)が第2シリンダ(81)の外側へ最も退いた状態になる。
【0058】
上記第1シリンダ(71)には、流入ポート(34)が形成されている。流入ポート(34)は、第1シリンダ(71)の内周面のうち、図4,図5におけるブッシュ(77)のやや左側の箇所に開口している。流入ポート(34)は、第1高圧室(73)と連通可能となっている。一方、上記第2シリンダ(81)には、流出ポート(35)が形成されている。流出ポート(35)は、第2シリンダ(81)の内周面のうち、図4,図5におけるブッシュ(87)のやや右側の箇所に開口している。流出ポート(35)は、第2低圧室(84)と連通可能となっている。
【0059】
上記中間プレート(63)には、連通路(64)が形成されている。この連通路(64)は、中間プレート(63)を厚み方向へ貫通している。中間プレート(63)における第1シリンダ(71)側の面では、第1ブレード(76)の右側の箇所に連通路(64)の一端が開口している。中間プレート(63)における第2シリンダ(81)側の面では、第2ブレード(86)の左側の箇所に連通路(64)の他端が開口している。そして、図4に示すように、連通路(64)は、中間プレート(63)の厚み方向に対して斜めに延びており、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)とを互いに連通させている。
【0060】
図2,図3に示すように、上記シャフト(40)には、給油通路(90)から分岐した3つの分岐通路(91,92,93)が形成されている。各分岐通路(91,92,93)は、何れも給油通路(90)からシャフト(40)の径方向に延びている。第1分岐通路(91)は第1大径偏心部(41)の外周面に、第2分岐通路(92)は第2大径偏心部(42)の外周面にそれぞれ開口している。第3分岐通路(93)は、主軸部(44)の外周面のうち第1大径偏心部(41)よりもやや下の部分に開口している。主軸部(44)の外周面における第3分岐通路(93)の開口位置は、油導入路(114)の始端と同じ高さになっている。
【0061】
これらの分岐通路(91,92,93)からは、第1大径偏心部(41)と第1ピストン(75)の摺動面、第2大径偏心部(42)と第2ピストン(85)の摺動面、及び主軸部(44)とフロントヘッド(61)の摺動面へ給油通路(90)の冷凍機油が供給される。また、第3分岐通路(93)から吐出された冷凍機油は、油導入路(114)へも導入される。
【0062】
以上のように構成された本実施形態の膨張機構(60)では、第1シリンダ(71)と、そこに設けられたブッシュ(77)と、第1ピストン(75)と、第1ブレード(76)とが第1ロータリ機構部(70)を構成している。また、第2シリンダ(81)と、そこに設けられたブッシュ(87)と、第2ピストン(85)と、第2ブレード(86)とが第2ロータリ機構部(80)を構成している。
【0063】
−運転動作−
上記空調機(10)の動作について説明する。ここでは、空調機(10)の冷房運転時及び暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(60)の動作について説明する。
【0064】
〈冷房運転〉
冷房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
【0065】
圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、室外熱交換器(23)へ送られて室外空気へ放熱する。室外熱交換器(23)で放熱した高圧冷媒は、流入管を通って膨張機構(60)へ流入する。膨張機構(60)では、高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒から動力が回収される。膨張後の低圧冷媒は、流出管を通って室内熱交換器(24)へ送られる。室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(24)から出た低圧ガス冷媒は、吸入ポート(32)から圧縮機構(50)へ吸入される。圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
【0066】
〈暖房運転〉
暖房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
【0067】
圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、室内熱交換器(24)へ送られる。室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(24)で放熱した冷媒は、流入管を通って膨張機構(60)へ流入する。膨張機構(60)では、高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒から動力が回収される。膨張後の低圧冷媒は、流出管を通って室外熱交換器(23)へ送られ、室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)から出た低圧ガス冷媒は、吸入ポート(32)から圧縮機構(50)へ吸入される。圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
【0068】
〈膨張機構の動作〉
膨張機構(60)の動作について、図5を参照しながら説明する。
【0069】
先ず、第1ロータリ機構部(70)の第1高圧室(73)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入する過程について説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転すると、第1ピストン(75)と第1シリンダ(71)の接触位置が流入ポート(34)の開口部を通過し、流入ポート(34)から第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれて、第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入してゆく。この第1高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、シャフト(40)の回転角が360°に達するまで続く。
【0070】
次に、膨張機構(60)において冷媒が膨張する過程について説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転すると、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)が連通路(64)を介して互いに連通し、第1低圧室(74)から第2高圧室(83)へと冷媒が流入し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれ、第1低圧室(74)の容積が次第に減少すると同時に第2高圧室(83)の容積が次第に増加し、結果として膨張室(66)の容積が次第に増加してゆく。この膨張室(66)の容積増加は、シャフト(40)の回転角が360°に達する直前まで続く。そして、膨張室(66)の容積が増加する過程で膨張室(66)内の冷媒が膨張し、この冷媒の膨張によってシャフト(40)が回転駆動される。このように、第1低圧室(74)内の冷媒は、連通路(64)を通って第2高圧室(83)へ膨張しながら流入してゆく。
【0071】
続いて、第2ロータリ機構部(80)の第2低圧室(84)から冷媒が流出してゆく過程について説明する。第2低圧室(84)は、シャフト(40)の回転角が0°の時点から流出ポート(35)に連通し始める。つまり、第2低圧室(84)から流出ポート(35)へと冷媒が流出し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなってゆき、その回転角が360°に達するまでの間に亘って、第2低圧室(84)から膨張後の低圧冷媒が流出してゆく。
【0072】
〈圧縮・膨張ユニットでの給油動作〉
圧縮・膨張ユニット(30)において圧縮機構(50)や膨張機構(60)へ冷凍機油を供給する動作について説明する。
【0073】
ケーシング(31)の底(即ち、第2空間(39)の底部)には、冷凍機油が貯留されている。この冷凍機油の温度は、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出された冷媒の温度(約90℃)と同程度となっている。
【0074】
シャフト(40)が回転すると、ケーシング(31)の底に溜まった冷凍機油が給油通路(90)へ吸い込まれる。給油通路(90)を上向きに流れる冷凍機油は、その一部が圧縮機構(50)へ供給される。圧縮機構(50)へ供給された冷凍機油は、下側偏心部(58,59)とピストン(57,57)の摺動面、あるいはフロントヘッド(54)やリアヘッド(55)と主軸部(44)の摺動面の潤滑に利用される。
【0075】
圧縮機構(50)へ供給されなかった残りの冷凍機油は、給油通路(90)内を上向きに流れて膨張機構(60)へ供給される。膨張機構(60)では、給油通路(90)を流れてきた冷凍機油が3つの分岐通路(91,92,93)へ分かれて流れ込む。
【0076】
第1分岐通路(91)へ流れ込んだ冷凍機油は、第1大径偏心部(41)と第1ピストン(75)との間の隙間と、第1ピストン(75)の端面とフロントヘッド(61)や中間プレート(63)との間の隙間を順に通って第1膨張室(72)へ侵入する。第1膨張室(72)へ入り込んだ冷凍機油は、第1ピストン(75)と第1シリンダ(71)の摺動面を潤滑する。また、この冷凍機油は、第1膨張室(72)内の冷媒と共に連通路(64)を通って第2膨張室(82)へ送り込まれる。
【0077】
第2分岐通路(92)へ流れ込んだ冷凍機油は、第2大径偏心部(42)と第2ピストン(85)との間の隙間と、第2ピストン(85)の端面とリアヘッド(62)や中間プレート(63)との間の隙間を順に通って第2膨張室(82)へ侵入する。上述したように、第2膨張室(82)へは、第1膨張室(72)からも冷凍機油が導入される。第2膨張室(82)へ入り込んだ冷凍機油は、第2ピストン(85)と第2シリンダ(81)の摺動面を潤滑する。また、この冷凍機油は、第2膨張室(82)内の冷媒と共に流出ポート(35)を通って膨張機構(60)から排出される。
【0078】
第3分岐通路(93)へ流れ込んだ冷凍機油は、フロントヘッド(61)の油導入路(114)へ流入する。その際、冷凍機油は、シャフト(40)の回転に伴う遠心力によって昇圧された状態で油導入路(114)へ流れ込む。この冷凍機油は、油導入路(114)を通って第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)へ流れ込む。このブッシュ孔(78)へ流入した冷凍機油は、その一部が第1ブレード(76)とブッシュ(77)の摺動面やブッシュ(77)と第1シリンダ(71)の摺動面へ供給され、残りが第2連通孔(113)を通って第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)へ流れ込む。このブッシュ孔(88)へ流入した冷凍機油は、その一部が第2ブレード(86)とブッシュ(87)の摺動面やブッシュ(87)と第2シリンダ(81)の摺動面へ供給され、残りが第1連通孔(112)と接続通路(111)と端部空間(95)を順に通ってシャフト(40)の給油通路(90)へ送り返される。
【0079】
膨張機構(60)において、油導入路(114)、第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)、第2連通孔(113)、第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)、第1連通孔(112)、接続通路(111)、及び端部空間(95)により構成される冷凍機油の流通路(99)は、その両端がシャフト(40)の給油通路(90)に接続している。つまり、膨張機構(60)では、上記流通路(99)と給油通路(90)によって閉ループ状の流通経路が形成されている。そして、膨張機構(60)の潤滑に利用された冷凍機油は、膨張後の冷媒と共に流出ポート(35)を通って膨張機構(60)から排出されてゆく。
【0080】
膨張機構(60)から排出された冷凍機油は、室外熱交換器(23)と室内熱交換器(24)のうち蒸発器となっている方を通過し、吸入ポート(32)を通って冷媒と共に圧縮機構(50)へ吸入される。圧縮機構(50)の圧縮室(53)へ侵入した冷凍機油は、圧縮後の冷媒と共にケーシング(31)内の第2空間(39)へ吐出される。圧縮機構(50)から冷媒と共に吐出された冷凍機油は、ケーシング(31)とステータ(46)の隙間や、ステータ(46)とロータ(47)の隙間を通過する際に冷媒から分離され、ケーシング(31)の底部へと流れ落ちてゆく。
【0081】
−実施形態1の効果−
圧縮・膨張ユニット(30)において、膨張機構(60)へ供給された冷凍機油は、圧縮・膨張ユニット(30)が接続される冷媒回路(20)を通ってケーシング(31)内へ送り返される。つまり、ケーシング(31)内の膨張機構(60)側から圧縮機構(50)側へ冷凍機油を戻す通路等が圧縮・膨張ユニット(30)自体に設けられていなくても、膨張機構(60)へ供給された冷凍機油はケーシング(31)内へ送り返されてくる。従って、本実施形態によれば、ケーシング(31)内の膨張機構(60)側から圧縮機構(50)側へ冷凍機油を戻すための通路等を圧縮・膨張ユニット(30)から省略することができ、圧縮・膨張ユニット(30)の構造を簡素化することができる。
【0082】
また、圧縮・膨張ユニット(30)では、シャフト(40)の半径方向へ延びる第3分岐通路(93)から油導入路(114)へ冷凍機油を導入している。このため、シャフト(40)の回転に伴って生じる遠心力を利用して冷凍機油をブレード(76,86)の摺動面へ供給することができる。従って、本実施形態によれば、ブレード(76,86)の従動面を確実に潤滑することが可能となり、圧縮・膨張ユニット(30)の信頼性を向上させることができる。
【0083】
また、圧縮・膨張ユニット(30)では、給油通路(90)から第3分岐通路(93)と油導入路(114)と貫通孔(78,88)と接続通路(111)を順に通って給油通路(90)へ戻る冷凍機油の流通経路が形成されている。従って、本実施形態によれば、ブレード(76,86)の摺動面へ一層確実に冷凍機油を供給することができ、圧縮・膨張ユニット(30)の信頼性を更に向上させることができる。
【0084】
圧縮・膨張ユニット(30)において、膨張機構(60)から排出された冷凍機油は、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出された高温高圧の冷媒と接触せずに圧縮機構(50)へ直接に流れ込む。つまり、膨張機構(60)から排出された比較的低温の冷凍機油は、圧縮機構(50)から第2空間(39)へ吐出された高温高圧の冷媒とは接触せずに圧縮機構(50)へ流入する。従って、本実施形態によれば、圧縮機構(50)から吐出された冷媒が膨張機構(60)から排出された冷凍機油によって冷却されるのを回避できる。その結果、圧縮機構(50)からの吐出冷媒を利用して室内を暖房する暖房運転において、暖房能力を向上させることができる。
【0085】
また、圧縮・膨張ユニット(30)では、給油ポンプを非容積型のポンプによって構成している。このため、給油ポンプによって給油通路(90)へ供給される冷凍機油の量は、シャフト(40)の回転速度だけでなく、給油通路(90)内の圧力やケーシング(31)内の圧力によっても変動することになる。従って、本実施形態によれば、給油通路(90)から膨張機構(60)への冷凍機油の供給量を圧縮・膨張ユニット(30)の運転状態に応じて適切に調節することが可能となる。その結果、膨張機構(60)から冷媒と共に排出される冷凍機油の量を削減することが可能となる。
【0086】
−実施形態の変形例−
上記実施形態では、ローリングピストン型のロータリ式膨張機によって膨張機構(60)を構成してもよい。この変形例の膨張機構(60)では、各ロータリ機構部(70,80)において、ブレード(76,86)がピストン(75,85)とは別体に形成される。そして、このブレード(76,86)は、その先端がピストン(75,85)の外周面に押圧され、ピストン(75,85)の移動に伴って進退する。
【0087】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明は、圧縮機構と膨張機構が1つのケーシング内に収容された流体機械について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施形態の冷媒回路の構成を示す配管系統図である。
【図2】実施形態の圧縮・膨張ユニットの概略構成を示す縦断面図である。
【図3】実施形態の膨張機構の概略構成を示す縦断面図である。
【図4】実施形態の膨張機構の要部を示す要部拡大図である。
【図5】実施形態の膨張機構の状態をシャフトの回転角90°毎に示した膨張機構の概略の横断面図である。
【符号の説明】
【0090】
20 冷媒回路
31 ケーシング
38 第1空間
39 第2空間
40 シャフト(回転軸)
50 圧縮機構
60 膨張機構
71 第1シリンダ
72 第1膨張室
75 第1ピストン
76 第1ブレード
78 ブッシュ孔(貫通孔)
81 第2シリンダ
82 第2膨張室
85 第2ピストン
86 第2ブレード
88 ブッシュ孔(貫通孔)
90 給油通路
93 第3分岐通路
94 給油ポンプ
111 接続通路(111)
114 油導入路(114)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(20)に設けられる流体機械であって、
冷媒を圧縮する圧縮機構(50)と、流体の膨張により動力を発生させる膨張機構(60)と、上記圧縮機構(50)と上記膨張機構(60)を連結する回転軸(40)と、上記圧縮機構(50)と膨張機構(60)と回転軸(40)を収容する容器状のケーシング(31)とを備える一方、
上記回転軸(40)には、上記ケーシング(31)内における上記圧縮機構(50)寄りに貯留された潤滑油を上記膨張機構(60)へ供給する給油通路(90)が形成され、
上記膨張機構(60)は、上記給油通路(90)から供給された潤滑油を、冷媒が膨張する膨張室(72,82)へ導入して膨張後の冷媒と共に排出するように構成されている
ことを特徴とする流体機械。
【請求項2】
請求項1において、
上記膨張機構(60)は、両端が閉塞されたシリンダ(71,81)と、上記回転軸(40)に係合すると共に上記シリンダ(71,81)内に収容されて膨張室(72,82)を形成するピストン(75,85)と、上記膨張室(72,82)を高圧側と低圧側に仕切るためのブレード(76,86)とを備えたロータリ式膨張機により構成され、
上記回転軸(40)には、上記給油通路(90)から分岐して該回転軸(40)の外周面に開口する分岐通路(93)が形成され、
上記膨張機構(60)には、上記分岐通路(93)から吐出された潤滑油を上記ブレード(76,86)の摺動面へ導く油導入路(114)が形成されている
ことを特徴とする流体機械。
【請求項3】
請求項2において、
上記シリンダ(71,81)には、該シリンダ(71,81)を厚み方向へ貫通していて上記ブレード(76,86)が挿入される貫通孔(78,88)が形成され、
上記油導入路(114)は、上記シリンダ(71,81)の貫通孔(78,88)に開口して上記ブレード(76,86)の摺動面へ潤滑油を供給する一方、
上記給油通路(90)の一端が上記回転軸(40)における上記膨張機構(60)側の端面に開口しており、
上記膨張機構(60)には、上記シリンダ(71,81)の貫通孔(78,88)と上記回転軸(40)の端面に開口する給油通路(90)の一端とを連通させる接続通路(111)が形成されている
ことを特徴とする流体機械。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、
上記ケーシング(31)の内部空間は、上記膨張機構(60)が収容される第1空間(38)と、上記圧縮機構(50)が収容されて該圧縮機構(50)から圧縮された冷媒が吐出される第2空間(39)とに区画されており、
上記給油通路(90)を通じて上記第2空間(39)に貯留された潤滑油が上記膨張機構(60)へ供給される
ことを特徴とする流体機械。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4において、
上記回転軸(40)には、上記回転軸(40)の回転により潤滑油を吸入して上記給油通路(90)へ吐出する非容積型の給油ポンプ(94)が設けられている
ことを特徴とする流体機械。
【請求項6】
請求項1,2,3又は4において、
二酸化炭素が冷媒として充填された冷媒回路(20)に設けられ、
圧縮機構(50)が吸入した冷媒をその臨界圧力以上にまで圧縮する一方、膨張機構(60)では臨界圧力以上の高圧冷媒が流入して膨張する
ことを特徴とする流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−247607(P2007−247607A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74912(P2006−74912)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】