説明

流体温度の測定方法及び測定装置

【課題】マイクロ化学システムの温度測定などに好適な、非接触で流体の温度を測定する、応答速度の速い測定方法及び測定装置を提供すること。
【解決手段】マイクロ化学チップ10では、透明基板1の下部1aと上部1bとの間に、溶媒や反応溶液などの液体2を流す流路3を設ける。流路3にはポンプ4および加熱部5を配置し、所定の温度に加熱した液体2を、化学的処理を行う温度測定領域6へ流す。温度測定領域6には、液体2と透明基板上部1bとの界面11に、所定の入射角θで入射光12を入射させ、界面11で反射された反射光13の光量を測定する。この際、界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する現象を利用することによって、液体2の温度を鋭敏に検知することができる。また、液体2の温度と反射光の光量との関係を示す参照用データを実測しておき、この参照用データに基づいて液体2の温度を正確に決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で流体の温度を測定する、応答速度の速い流体温度の測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、試料の調製や分析や反応などの化学的処理を、基板上または基板内部に形成された微小な処理領域で行う集積化技術が、注目されている。微小な処理領域で化学的処理を行うことができれば、様々な利点が得られると考えられる。
【0003】
例えば、わずかなサンプル量で分析や反応などの化学的処理を行うことができるので、微少量のサンプルしか採取できない対象についても調べることができる。この技術を医療分野に応用すれば、医学的検査において患者から採取するサンプル量を減らすことができ、患者の負担を小さく抑えることができる。また、分析装置や反応装置が小型化するので、製造現場やフィールドワークの現場などで容易にオンサイト分析等を行うことができるようになる。
【0004】
或いは、同一の試料に対し多種多様な試験を行ったり、様々な条件下で反応させて反応条件の効果などを調べたりしたい場合に、試料を少量ずつ用いて同時並行的に各種試験を実施したり、それぞれの条件下で反応させたりして、能率よく多様なデータを収集することができる。この場合、試薬の量や廃棄物の量も少なく抑えることができ、コストや環境への影響を軽減する効果も得られる。
【0005】
本明細書では、このように微小な処理領域で化学的処理を行うシステムをマイクロ化学システムと総称し、化学的処理を行う微小な処理領域が形成された基板をマイクロ化学チップと呼ぶことにする。マイクロ化学システムで行う化学的処理は、特に限定されるものではないが、一般的な処理として混合、反応、分離、抽出、濃縮、または検出などの処理を挙げることができる。マイクロ化学システムは、単一の機能のみを有するものでもよく、また、複数の機能を組み合わせた複合的な機能を有するものでもよい。
【0006】
マイクロ化学チップの応用例としては、DNA(デオキシリボ核酸)のPCR(Polymerase Chain Reaction)法による増幅や構造解析を行うDNAチップ、またはタンパク質の構造解析を行うチップなどの生体試料分析用チップ、或いは、通常はビーカーやフラスコなどを用いて実験室的なスケールで行う化学プロセスを、一辺が数cm程度の大きさのチップ上で行うマイクロTAS(Total Analysis System)、ラボオンチップ(lab-on-a-chip)、またはマイクロリアクタなどと呼ばれるチップなどがある。
【0007】
マイクロ化学システムでは、試料を溶液などの液体の状態で扱うことが多く、このため、マイクロ化学チップには、基板上または基板内部に、化学的処理を行うための処理領域の他に、液体状の試料を移動させるための液溜めや流路などが設けられている。各処理領域では、それぞれの化学的処理を所定の条件下で行えるように、温度などの条件を他の処理領域とは独立に局所的に制御する必要がある。
【0008】
そこで、後述の特許文献1には、熱電素子を用いて処理領域の局所的な温度調節を行うマイクロ化学チップの温度調節装置が提案されている。熱電素子は、電気エネルギーと熱エネルギーとを相互変換する素子であり、熱電素子に直流電流を流すと、ペルチェ効果によって、熱電素子の一端で熱の吸収が起こり、他端で熱の放出が起こる。このように、熱電素子は、熱電素子に流す電流の向き(極性)や大きさによって、熱電素子の一端を精度よく加熱または冷却し、その温度を正確に制御することができる。
【0009】
さて、このようなマイクロ化学システムにおいて、処理条件を正確に把握するために、また、温度を正確に制御するために、温度を正確に測定する手段が必須である。特許文献1には、温度測定手段の例として、サーミスタ、白金測温抵抗体(Pt100Ω)、または熱電対などの温度センサが挙げられている。また、非接触で温度を測定する手段の例として放射温度計が挙げられている。
【0010】
マイクロ化学システムでは、扱う試料が微量であるので、試料の温度を乱さずに温度を測定するには、サーミスタや熱電対などの温度センサの熱容量を、できるだけ小さく抑える必要がある。また、速やかな温度変化を応答性よく測定するためにも、温度センサの熱容量は小さいほどよい。これらの点を考慮すると、マイクロ化学システムで扱う試料の温度を測定する手段としては、究極的には非接触で試料の温度を測定できる手段が好ましい。
【0011】
また、マイクロ化学チップ基板の多数の処理領域に1つ1つ温度センサを配置すると、マイクロ化学チップの構成が複雑になり、マイクロ化学チップが高コスト化する原因になる。非接触で温度を測定する手段であれば、基板上の測定位置を少しずつ移動させていくことで、多数箇所の処理領域の温度を1つの測定手段で効率よく測定することができる。また、基板に温度センサを作り込む必要がなく、マイクロ化学チップの構成が簡略になり、マイクロ化学チップを低コスト化することができる。これらの点からも非接触で温度を測定する手段が好ましい。
【0012】
マイクロ化学システムの液体試料の温度の上昇を非接触で検出する方法として、後述の非特許文献1には、熱レンズ効果を用いる方法が提案されている。この方法では、励起光とプローブ光との2種類の光ビームを、収束位置を一致させて液体試料に集光照射し、検出器によって検出されるプローブ光の光量が、励起光の有無によって変化することを利用して、液体試料の温度の上昇を検出する。
【0013】
より具体的に説明すると、プローブ光は、光源側に配置された光学系によって液体試料中の収束位置に集光され、その後広がりながら検出器に向かって進み、検出器手前に設置されたピンホールを通過した光が検出器によって測定される。励起光を照射していない場合には、プローブ光は、一様な屈折率を有する液体試料中を透過した後、検出器によって検出される。一方、励起光を液体試料中の同じ収束位置に集光照射し、液体試料に励起光を吸収させた場合には、励起光を吸収した液体試料の温度が局所的に上昇し、屈折率が変化して、収束位置近傍に熱レンズが形成される。プローブ光は熱レンズが形成された領域を透過するので、プローブ光に熱レンズ効果が作用し、プローブ光の焦点位置が変化する。この結果、前記ピンホールを通過して検出器によって検出されるプローブ光の光量が変化する。
【0014】
また、液体試料の温度を非接触で測定する方法として、後述の特許文献2には吸光度の変化を用いる方法が提案され、後述の特許文献3には屈折率の変化を用いる方法が提案されている。
【0015】
【特許文献1】特開2005−40784号公報(第7、11及び12頁、図5及び1)
【特許文献2】特開2004−251766号公報(第3−5頁、図1−3)
【特許文献3】特開2002−148089号公報(第3及び4頁、図1)
【非特許文献1】比企晋一郎ら、分析化学,Vol.52,No.8,pp.569-574(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
既述したように、マイクロ化学システムの試料温度の測定方法および測定装置としては、非接触で温度を測定することが好ましい。特許文献1には、非接触で温度を測定する手段の例として放射温度計が挙げられているが、放射温度計は高温の試料に対しては有効であるが、室温近傍の試料に対しては適用することが難しい。
【0017】
非特許文献1に述べられている熱レンズ効果を用いる方法は、励起光によって加熱した領域にプローブ光を照射して検出するため、温度を過渡状態で測定することになる。また、液体試料の流速が変化すると、熱レンズの屈折率分布も変化するので、流速の影響も考慮に入れる必要がある。これらのことから、熱レンズ効果を用いる方法は、従来行われている液体組成の同定方法としては有効であるが、流路中を流れる液体の温度を測定する方法としては正確性に欠ける方法である。
【0018】
更に、熱レンズ効果を用いる方法は、励起光とプローブ光の2種類の光ビームの収束位置を合わせる必要があり、また、流路の両側に測定のための部材を配置する必要がある。このため、温度測定手段によってマイクロ化学システムの構成が制約される不都合がある。
【0019】
特許文献2に述べられている吸光度の変化を用いる方法や、特許文献3に述べられている屈折率の変化を用いる方法は、液体試料を透過してきた透過光を測定する。このため、液体試料内の組成や温度や流れなどの不均一の影響を受けやすい不都合がある。また、流路の両側に測定のための部材を配置する必要があるため、温度測定手段によってマイクロ化学システムの構成が制約される不都合がある。
【0020】
本発明の目的は、上記のような実情に鑑み、マイクロ化学システムにおける温度測定などに好適な、非接触で流体の温度を測定する、応答速度の速い測定方法及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
即ち、本発明は、被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させ、前記界面で反射される反射光の光量、又は前記入射光が前記界面で反射される反射率を測定することによって、前記被測定流体の温度についての情報を得る、流体温度の測定方法に係わる。
【0022】
また、被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させる光入射手段と、前記界面で反射された反射光の光量を測定する光量測定手段とを有し、前記反射光の光量から前記被測定流体の温度についての情報を得る、流体温度の測定装置に係わる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の流体温度の測定方法は、被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させ、前記界面で反射される反射光の光量、又は前記入射光が前記界面で反射される反射率を測定することによって、前記被測定流体の温度についての情報を得ることを特徴とする。前記被測定流体の温度が変化すると、前記被測定流体の屈折率が変化し、この結果として、前記入射光が前記界面で反射される反射率が変化する。従って、前記反射率を測定することによって、前記被測定流体の温度を求めることができる。
【0024】
上記のように、本質的に重要であるのは前記反射率である。前記反射率は、前記入射光の光量に対する前記反射光の光量の比であるので、実験的に前記反射率を求めるためには、前記反射光の光量と前記入射光の光量とを同じ条件で測定し、両者の比をとる必要がある。これを、その通りに実行することは、実験的な負担が大きくなり過ぎる場合が多い。そこで、前記入射光の光量が一定であるとみなし得る場合には、前記反射率に比例するものとして前記反射光の光量を用い、前記被測定流体の温度についての情報を得るようにしてもよい。この場合には、前記反射光の光量の測定のみを行い、前記入射光の光量の測定を省略することができる。
【0025】
また、前記入射光の光量が一定であるとみなし得ない場合であっても、前記入射光の光量の変動率を測定し、これを用いて前記反射光の光量の変動を補正すれば、補正後の反射光の光量は、前記反射率に比例するものとして用いることができ、これから前記被測定流体の温度についての情報を得ることができる。本発明の流体温度の測定方法は、このような方法も含むものとする。
【0026】
本発明の流体温度の測定方法で測定する前記入射光は、前記被測定流体に進入する前の光であり、前記反射光は、前記被測定流体に進入することなく、前記界面で反射された光である。従って、本発明の測定は、いずれの測定であっても、透過光の測定とは異なり、前記被測定流体内の組成や温度や流れなどの不均一の影響を受けにくい利点がある。
【0027】
また、非接触で前記被測定流体の温度を測定するので、前記被測定流体の温度を乱すことなくその温度を測定することができ、また、熱容量などによって応答速度が制限されることがないので、前記被測定流体の温度が急激に変化する場合でも、応答性よく温度変化を測定することができる。また、センサなどを前記被測定流体に接触させる必要がないので、簡易、且つ速やかに測定位置を移動させることができる。従って、多数箇所の温度を測定する必要がある場合などでは、1つの測定手段で効率よく多数箇所の温度を測定することができ、多数の測定箇所にそれぞれ温度センサを配置する方法に比べて、温度測定を低コストで行うことができる。
【0028】
本発明の流体温度の測定装置は、被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させる光入射手段と、前記界面で反射された反射光の光量を測定する光量測定手段とを有するので、本発明の流体温度の測定方法を確実に実行して、上述した、その特徴を発現させることができる。
【0029】
また、前記反射光を測定するので、前記被測定流体と前記光透過性固体との前記界面の片方側にだけ、測定のための部材を配置すればよい。従って、特許文献2〜4に挙げられている透過光を測定する装置のように、前記被測定流体の両側に測定のための部材を配置する必要のある測定装置に比べ、マイクロ化学システムなど、前記被測定流体を処理したり、利用したりするシステムの構成を制約することが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の流体温度の測定方法において、前記測定とは別に、前記被測定流体自体又はこれと同種の流体を参照用流体として用いて、前記参照用流体の温度測定と、前記参照用流体と前記光透過性固体との界面に、前記測定と同様に入射光を入射させた場合の反射光の光量又は反射率の測定とを行うことによって、流体温度と反射光の光量又は反射率との関係を示す参照用データを実測し、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定するのがよい。このようにすれば、前記被測定流体の反射率の文献値が得られない場合であっても、実測された前記参照用データに基づいて、前記被測定流体の温度を正確に決定することができる。また、前記測定と同じ光学系を用いて前記参照用データを測定し、前記測定の際の前記入射光の光量と、前記参照用データの測定の際の前記入射光の光量とが一定であるとみなし得るか、その変動を補正できる場合には、前記反射率の代わりに前記反射光の光量を用いて、簡易に前記被測定流体の温度を決定することができる。
【0031】
この際、前記参照用流体の温度の測定を、測温抵抗体又は熱電対からなる温度測定手段によって行うのがよい。これらの温度センサからなる温度測定手段は、標準温度計またはそれに準ずるものとされ、信頼性が高い。測温抵抗体としては、例えば、白金測温抵抗体(Pt100Ω)やサーミスタなどを用いることができる。なお、前記参照用流体の温度の測定では、前記参照用流体の量や測定時間に制限がないのが一般的であるので、前記温度測定手段の熱容量が制限されることはなく、前記温度測定手段として一般的な市販の測温抵抗体又は熱電対からなる温度測定手段を用いることができる。
【0032】
また、前記被測定流体の温度が、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度を間に挟んで、これより低い場合とこれより高い場合とで、前記反射光の光量又は前記反射率が大きく異なることを利用して、前記被測定流体の温度が前記閾値温度よりも低いか又は高いかを判定するのがよい。このように、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角付近での反射を用いることにより、わずかな温度変化で小さな屈折率変化しかない場合であっても、前記反射光の光量の大きな変化として鋭敏に検出することができる。
【0033】
この際、前記入射光として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させ、前記判定を各入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の複数の閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれか2つの閾値温度の間にあるのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定するのがよい。前述した方法で可能であるのは、前記被測定流体の温度と1つの閾値温度との高低の比較にすぎないが、前記閾値温度が互いに異なる複数の入射光を用いることによって前記被測定流体の温度をさらに詳細に絞り込むことができる。
【0034】
或いは、前記入射光として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させ、前記判定を前記の連続的に変化する入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の連続的に変化する閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれかの閾値温度に等しいのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定するのがよい。上記の方法の発展として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を用いることによって、前記被測定流体の温度を、前記の連続的に変化する閾値温度の範囲内であれば特定の温度に絞り込むことができる。
【0035】
また、前記入射角を一定に保ちつつ、前記反射光の光量又は前記反射率の時間変化を測定することによって、前記被測定流体の温度変化についての情報を得るのがよい。このようにすると、前記被測定流体の温度の時間変化についての情報を、非接触で、速い応答速度で検知することができる。
【0036】
このとき、前記被測定流体の温度変化が、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度を挟んで行われる場合、前記反射光の光量又は前記反射率がこの閾値温度の前後で大きく変化することを利用して、前記閾値温度を挟んで前記被測定流体の温度が変化する時点を検出するのがよい。既述したように、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角付近での反射を用いることにより、わずかな温度変化であって小さな屈折率変化しかない場合であっても、前記反射光の光量の大きな変化として鋭敏に検出することができる。
【0037】
上記の際、前記入射光として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させ、各入射角について前記検出を行うことによって、前記の複数の閾値温度について、前記被測定流体の温度変化が閾値温度を挟んで起こる時点を検出するのがよい。このようにすれば、前記被測定流体の温度の時間変化をさらに詳細に追跡することができる。
【0038】
或いは、前記入射光として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させ、前記の連続的に変化する入射角について前記検出を行うことによって、連続的に変化する前記閾値温度について、前記被測定流体の温度変化が前記閾値温度を挟んで起こる時点を検出するのがよい。このようにすれば、前記被測定流体の温度の時間変化を、連続的に変化する前記閾値温度の範囲内で連続的に追跡することができる。
【0039】
また、前記被測定流体が液体であるのがよい。この際、前記光透過性固体がマイクロ化学チップの一部であり、マイクロ化学チップ内の前記被測定流体の温度を非接触で測定するのがよい。
【0040】
また、前記光透過性固体によって流路が形成され、この流路を流れている前記被測定流体の温度を測定するのがよい。例えば、前記光透過性固体がマイクロ化学チップの基板の一部であり、前記被測定流体が反応溶液などである場合、前記光透過性固体の表面上又は内部に流路が形成されており、この流路を通じて液体状の試料を移動させるように構成されている。
【0041】
この際、前記流路の複数箇所において前記測定を行い、前記被測定流体の流れの流速及び向きについての情報も得るのがよい。流れ方向にある温度変化を有する前記被測定流体が前記流路を流れ下る場合を考えると、前記流路の上流側測定位置でこの温度変化を観察してから、前記流路の下流側測定位置でこの温度変化を観察するまでの時間差をΔtとし、上流側測定位置から下流側測定位置まで前記流路に沿って測った距離をLとすると、前記被測定流体の流速vは下記の式で与えられる。
(流速v)=(距離L)/(時間差Δt)
このようにして、通常の流速計などを用いることができないマイクロ化学システムなどにおいて、重要な基本データである前記被測定流体の流速のデータを得ることができる。
【0042】
本発明の流体温度の測定装置において、前記入射光の光量を測定する手段を有し、前記入射光の光量の測定値と前記反射光の光量の測定値とから、前記界面における前記入射光の反射率を求め得るように構成され、前記反射率から前記被測定流体の温度についての情報を得るのがよい。本発明の流体温度の測定方法の説明において既述したように、本質的に重要であるのは前記反射率であるので、流体温度の測定装置が前記反射率を求め得るように構成されているのが望ましい。
【0043】
但し、これも既述したように、前記入射光の光量が一定であるとみなし得る場合には、前記反射率に比例するものとして、前記反射率の代わりに前記反射光の光量を用いて、前記被測定流体の温度についての情報を得るようにしてもよい。この場合には、前記反射光の光量の測定のみを行い、前記入射光の光量の測定を省略することができる。また、前記入射光の光量が一定であるとみなし得ない場合であっても、前記入射光の光量の変動率を測定し、これを用いて前記反射光の光量の変動を補正すれば、補正後の反射光の光量は、前記反射率に比例するものとして、前記反射率の代わりに用いることができ、これを用いて前記被測定流体の温度についての情報を得るようにしてもよい。
【0044】
また、前記被測定流体自体又はこれと同種の流体を参照用流体として用いて、前記参照用流体の温度を測定する温度測定手段を備えた領域を有し、この領域において前記参照用流体と前記光透過性固体との界面に入射光を所定の入射角で入射させ、前記界面で反射された反射光の光量を測定し、流体温度と反射光の光量との関係を示す参照用データを実測できるように構成され、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定するのがよい。この際、前記温度測定手段が前記温度測定手段が測温抵抗体又は熱電対からなるのがよい。更に、前記入射光の光量を測定する手段を有し、前記入射光の光量の測定値と前記反射光の光量の測定値とから、前記界面における前記入射光の反射率を求め、流体温度と反射率との関係を示す参照用データを実測できるように構成され、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定するのがよい。これらの点に関しては既述した通りである(以下、本発明の流体温度の測定方法の説明において既述した説明は、重複を避け、説明を省略する。)。
【0045】
また、前記入射角を、検出しようとする所定の温度の前記被測定流体に対して、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角に設定できるように、前記光入射手段が構成されており、前記被測定流体の温度が、前記検出しようとする所定の温度、すなわち前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度よりも低いか又は高いかを判定できるように構成されているのがよい。このように、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角付近での反射を用いることにより、わずかな温度変化で小さな屈折率変化しかない場合であっても、前記反射光の光量の大きな変化として鋭敏に検出することができる。
【0046】
この際、前記光入射手段として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させる手段を有し、且つ、前記光量測定手段として、前記の複数の入射光の各反射光の光量を別々に測定する手段とを有し、前記判定を各入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の複数の閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれか2つの閾値温度の間にあるのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定できるように構成されているのがよい。前記入射角が互いに異なる、複数の入射光を入射させる方法としては、複数本の入射光を同時に入射させるのでもよいし、或いは、一本の入射光を短時間のうちに入射角を変えながら複数回入射させるのでもよい。また、前記の複数の入射光の各反射光の光量を別々に測定する手段としては、前記入射角が互いに異なる入射光の数と同数又はそれ以上の個数の光量測定器が設置されているのがよい。
【0047】
或いは、前記光入射手段として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させる手段を有し、且つ、前記光量測定手段として、反射角が連続的に変化する反射光の光量の角度分布を測定する手段とを有し、前記判定を前記の連続的に変化する入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の連続的に変化する閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれかの閾値温度に等しいのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定できるように構成されているのがよい。前記入射角が連続的に変化する入射光を入射させる手段としては、ビームエクスパンダなどを用いて入射角が連続的に変化する入射光を作り出してもよいし、或いは、回転ミラーを用いて一本の入射光を短時間のうちに入射角を連続的に変えながら入射させるのでもよい。また、前記の反射角が連続的に変化する反射光の光量の角度分布を測定する手段としては、フォトダイオードアレイやCCD(Charge Coupled Device;電荷結合素子)などからなるラインセンサや撮像装置を用いることができる。
【0048】
また、前記光入射手段がレーザー光源からなるのがよい。レーザー光は直進性と単色性に優れているので、前記入射光としてレーザー光を用いると、測定精度が向上し、装置が簡易になる効果がある。
【0049】
また、前記入射光の入射角を一定に保ちつつ、前記反射光の光量又は前記反射率の時間変化を測定できるように構成されているのがよい。
【0050】
また、加熱手段を備える温度制御装置の温度測定部として構成されている流体温度の測定装置であるのがよい。
【0051】
また、前記光透過性固体がマイクロ化学チップの一部であり、マイクロ化学チップ内の前記被測定流体の温度を非接触で測定する流体温度の測定装置であるのがよい。
【0052】
また、前記光透過性固体によって流路が形成され、この流路を流れている前記被測定流体の温度を測定するのがよい。この際、前記流路の複数箇所において前記測定を行い、前記被測定流体の流れの流速及び向きについての情報も得るように構成されているのがよい。
【0053】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。
【0054】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1、4、7、8、および11〜13に記載した流体温度の測定方法、および、請求項15、16、20、および23〜27に記載した流体温度の測定装置がマイクロ化学チップの液体温度測定部として構成された例について説明する。
【0055】
図1は、本発明の実施の形態1に基づくマイクロ化学チップ10の温度測定領域6とその近傍の構成を示す概略図である。図1に示すように、マイクロ化学チップ10では、透明基板1の下部1aと上部1bとの間に、溶媒や反応溶液などの液体2を流す流路3が設けられている。この例では、液体2が前記被測定流体に相当し、透明基板上部1bが前記光透過性固体に相当する。
【0056】
透明基板1は、石英ガラスなどからなり、透明基板1に加工が施されて、例えば、幅と高さが共に100μmの流路3が形成されている。透明基板1の材料としては、液体2に溶解したり、液体2や他の試薬類と反応したりせず、形状が安定している材料がよく、石英ガラスおよびその他の無機ガラスや、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂などの有機高分子樹脂などを挙げることができる。
【0057】
流路3の上流側には液体2を送り出すポンプ4が配置されており、ポンプ4が駆動されると、液体2が流路3中を流れるように構成されている。ポンプ4としては、例えば、シリンジポンプなどが用いられる。
【0058】
ポンプ4から送り出された液体2は、加熱部5を通過する間に所定の温度に加熱される。加熱部5における加熱方法は、とくに限定されるものではなく、例えば、レーザー光などの加熱用光源からの光を加熱用光学系で集光して液体2に照射し、照射光を液体2に吸収させることによって加熱する方法を用いることができる。照射光は、液体2に吸収されやすい波長の光であるのがよく、例えば、液体2が水または水溶液である場合には、水に吸収されやすい波長1.45μm近傍の赤外光であるのがよい。また、ペルチェ素子や電熱ヒーターなどによって加熱してもよい。
【0059】
加熱部5で所定の温度に加熱された液体2は、流路3を流れて化学的処理を行う温度測定領域6に到達する。温度測定領域6には、液体2と透明基板上部1bとの界面11に、所定の入射角θで入射光12を入射させる光入射手段と、界面11で反射された反射光13の光量を測定する光量測定手段14とが設けられ、反射光13の光量または入射光12が界面11で反射される反射率を測定することによって、液体2の温度についての情報が得られるように構成されている。温度測定領域6での測定結果に基づいて加熱部5における加熱量を制御することによって、請求項27に記載した温度制御装置を構成することができる。
【0060】
温度測定のための入射光12としては、レーザー光を用いるのがよい。レーザー光は直進性と単色性に優れ、本発明に応用した場合、測定精度が向上し、装置が簡易になる効果がある。また、液体2に与える影響が小さくなるように、液体2(例えば、水や水溶液)による吸収が少ない波長の光がよい。更に、加熱部5での加熱方法として光照射加熱を選択する場合には、反射光13と、加熱用の照射光からくる迷光とを分離しやすいように、入射光12の波長と、加熱用の照射光の波長との差が大きい方がよい。従って、加熱用の照射光として赤外光を用いる場合には、入射光12として緑色から青色のレーザー光、例えば、波長405nmのレーザー光などを用いるのがよい。
【0061】
本実施の形態の流体温度の測定方法は、温度測定領域6において、流路3を流れる液体2と透明基板上部1bとの界面11に所定の入射角で入射光12を入射させ、界面11で反射される反射光13の光量を測定することにより、液体2の温度についての情報を得ることを特徴とする。その原理は、液体2の温度が変化すると液体2の屈折率が変化し、この結果として、入射光12が界面11で反射される反射率が変化することである。従って、反射率を測定することによって、液体2の温度を求めることができる。この際、液体2の温度が上昇した場合に入射光12の反射率が低反射率から高反射率に変化するのでもよいし、逆に、高反射率から低反射率に変化するのでもよい。
【0062】
上記のように、本質的に重要であるのは反射率であるが、反射率は、次式
(反射率)=(反射光13の光量)/(入射光12の光量)
に示すように入射光12の光量に対する反射光13の光量の比であるので、反射率を実験的に求めるためには、反射光13の光量と入射光12の光量とを同等の条件で測定し、両者の比をとる必要がある。この場合、入射光12の光路中に反射鏡などを設けて、入射光12が界面11に入射する光路と、光量測定手段14へ向かう光路とを切り換えるなどの方法を用いる。しかしながら、このようにして反射光13と入射光12とを全く同じ条件で光量測定手段に導き、測光することは難しい。
【0063】
むしろ、実験的には、光入射手段の光源装置を安定化させ、入射光12の光量が一定になるようにして、反射率に比例するものとして反射光13の光量を用い、液体2の温度についての情報を得るようにする方が容易である。この場合でも、次に述べるように、界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する現象を利用することによって、液体2の温度についての情報を得ることができる。また、実施の形態4で後述するように、液体2の温度と反射光の光量との関係を示す参照用データを実測し、この参照用データに基づいて液体2の温度を決定することによって、液体2の温度を正確に決定することができる。このような場合には、反射光13の光量の測定のみを行い、入射光12の光量の測定を省略することができる。
【0064】
また、入射光12の光量が一定であるとみなし得ない場合であっても、入射光12の光量の変動率を測定し、これを用いて反射光13の光量の変動を補正すれば、補正後の反射光13の光量は、反射率に比例するものとして用いることができ、これから液体2の温度についての情報を得ることができる。入射光12の光量の変動率を測定するには、ビームスプリッタなどで入射光12の一部を光量測定手段に導き、入射光12の光量の時間変化をモニタすればよい。
【0065】
ただし、液体2の温度変化による液体2の屈折率の変化は小さく、この結果として、通常の条件下では、反射光13の光量の変化および反射率の変化は小さく、これを精度よく測定するには測定装置に特別な工夫が必要になる。そこで本実施の形態では、請求項4に記載したように、界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度を間に挟んで、液体2の温度がこれより低い場合とこれより高い場合とで、反射光13の光量または反射率が大きく異なることを利用して、液体2の温度が前記閾値温度よりも低いか又は高いかを判定する。このように、界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角付近での反射を用いることにより、わずかな温度の違いで小さな屈折率の相違しかない場合であっても、反射光13の光量には大きな相違があるため、液体2の温度の相違を一般的な測定装置で鋭敏に検出することができる。
【0066】
また、入射光12の入射角を一定に保ちつつ測定を継続的に行い、反射光13の光量または反射率の時間変化を測定すると、前記閾値温度を間に挟む温度変化がどの時点で起こったかを検出することができる。
【0067】
このためには、請求項20に記載したように、入射光12を界面11に入射させる光入射手段は、検出しようとする所定の温度の液体2に対して、界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角に、入射光12の入射角θを設定できるように構成されている必要がある。入射角θがこのように設定されていると、液体2の温度が、前記検出しようとする所定の温度、すなわち界面11での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度よりも低い場合と高い場合とで反射光13の光量または反射率が大きく変化する。
【0068】
また、界面11に所定の入射角で入射光12を入射させられるように、透明基板上部1bの上部に台形プリズム7や三角プリズムなどの光学部材を配置するのがよい。これらの光学部材の材料や形状は特に限定されるものではないが、一般的な光学ガラスや有機透明樹脂がよい。透明基板上部1bと台形プリズム7との間の間隙には、(図示省略した)マッチングオイルなどを充填する。マッチングオイルは、透明基板上部1bと台形プリズム7とを光学的段差のないように接続するためのものである。
【0069】
以下、一例として、液体2が水であり、透明基板1が石英ガラスであり、液体2の温度が15℃から30℃へ変化する場合を挙げて説明する。水の屈折率n2は、15℃において1.33345であり、30℃において1.33180である。このように、水の屈折率n2は温度上昇とともに減少し、その変化率はおよそ110ppm/Kである。一方、石英ガラスの屈折率n1は、室温において1.45である。石英ガラスの屈折率n1も温度上昇とともに減少するが、その変化率はおよそ10ppm/Kであり、水の屈折率の変化率に比べてはるかに小さい。従って、水と石英ガラスガラスの屈折率差は温度上昇とともに減少し、その変化率はおよそ100ppm/Kである。
【0070】
なお、説明を簡単にするため、ここでは加熱された液体2の水が温度測定領域6を通過する時間は短いので、透明基板1である石英ガラスの温度変化は小さく、石英ガラスの屈折率変化は無視できるものとする。もし、加熱された水の通過時間が長く、石英ガラスの温度変化が無視できない場合であっても、石英ガラスの屈折率n1の変化率は水の屈折率n2の変化率に比べて一桁小さいので、石英ガラスの屈折率変化を無視しても大きな誤差にはならない。また、厳密な計算が必要な場合には補正することもできる。
【0071】
さて、本実施の形態では、界面11に対する入射光12の入射角θを適切な角度、例えば66.775度に設定することが重要である。この入射角が臨界角となる水の屈折率をnとおくと、
1×sinθ = n×sin90°
1.45×sin66.775°= n×sin90°
が成り立つので、
n=1.33250
が得られる。水の屈折率n2の変化率がおよそ110ppm/Kであることから、この屈折率nを与える水の温度は約24℃と求まる。すなわち、66.775度の入射角θに対応する閾値温度は約24℃であり、入射光12をこの入射角で入射させた場合には、水温が約24℃より低い場合には入射光12は全反射しないが、水温が約24℃より高い場合には入射光12は全反射する。
【0072】
例えば、水の温度が15℃のとき、透過光15の屈折角がαであるとすると、
1×sinθ = n2×sinα
1.45×sin66.775°= 1.33345×sinα
が成り立つので、
α=87.834°
が得られる。従って、水温が15℃のとき、入射光12は全反射せず、その一部が透過光15となって液体2中へ進入する。このとき、次の計算式
反射率(P偏光成分)= (tan(θ-α)/tan(θ+α))2
反射率(S偏光成分)= (sin(θ-α)/sin(θ+α))2
(鈴木範人、小塩高文、「応用光学II」、P.164-166、朝倉書店)から、反射率は、P偏光成分では65.8%程度、S偏光成分では70.2%程度と求まる。
【0073】
一方、水の温度が30℃のとき、透過光15の屈折角がβであるとすると、
1×sinθ = n2×sinβ
1.45×sin66.775°= 1.33318×sinβ
が成り立つので、
sinβ>1
となる。これはあり得ないので、この場合には透過光15は発生せず、P偏光成分およびS偏光成分は共に全反射して、反射率は100%となることがわかる。
【0074】
上記の例では、閾値温度である約24℃を間に挟んで水温が15℃から30℃へ変化すると、水の屈折率n2は1.33345から1.33180へ0.00165(0.124%)減少するに過ぎないが、反射率は30%程度の大きな変化を示す。このため、一般的な光入射手段と光量測定手段とを用いて、液体2の温度が閾値温度に比して低いか、高いかを判定したり、閾値温度を間に挟んで起こる水温の変化を検出したりすることができる。この際に重要であるのは、検出しようとする温度が閾値温度になるように、入射光12の入射角θが適切に設定されていることである。
【0075】
本実施の形態で測定する入射光12は、液体2に進入する前の光であり、反射光13は、液体2に進入することなく、界面11で反射された光である。従って、いずれの測定でも、透過光15の測定とは異なり、液体2内の組成や温度や流れなどの不均一の影響を受けにくい利点がある。
【0076】
また、非接触で液体2の温度を測定するので、液体2の温度を乱すことなく測定することができ、また、熱容量などによって応答速度が制限されることがないので、液体2の温度が急激に変化する場合でも、応答性よく温度変化を測定することができる。また、液体2に接触させる必要がないので、簡易、且つ速やかに測定位置を変えることができる。従って、多数箇所の温度を測定する必要がある場合などでは、1つの測定手段で効率よく多数箇所の温度を測定することができ、多数の温度センサを配置する方法に比べて、温度測定を低コスト化することができる。
【0077】
実施の形態2
実施の形態2では、主として、請求項5、7および9に記載した流体温度の測定方法、および、請求項21に記載した流体温度の測定装置がマイクロ化学チップの液体温度測定部として構成された例について説明する。
【0078】
図2は、本発明の実施の形態2に基づくマイクロ化学チップ20の温度測定領域26とその近傍の構成を示す概略図である。図2に示すように、マイクロ化学チップ20では、温度測定領域26以外の構成は、実施の形態1で説明したマイクロ化学チップ10と同じであるので、相違点に重点を置いて説明する。
【0079】
温度測定領域26には、液体2と透明基板上部1bとの界面21に、所定の入射角θで入射光22を入射させる光入射手段と、界面21で反射された反射光23の光量を測定する光量測定手段24とが設けられ、反射光23の光量、または入射光22が界面21で反射される反射率を測定することによって、液体2の温度についての情報が得られるように構成されている。
【0080】
この際、本実施の形態の特徴として、光入射手段は、入射角が互いに異なり、閾値温度が互いに異なる、複数の入射光22a〜22cを入射させ、且つ、光量測定手段24は、複数の入射光の各反射光23a〜23cの光量を別々に測定する。そして、入射角が互いに異なり、閾値温度が互いに異なる、複数の入射光22a〜22cに対して、実施の形態1で説明した判定を行うことによって、液体2の温度が、複数の閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれか2つの閾値温度の間にあるのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定する。実施の形態1の判定では、液体2の温度を1つの閾値温度と高低比較を行うが、実施の形態2の判定では、液体2の温度を複数の閾値温度と高低比較することによって、液体2の温度をさらに詳細に絞り込むことができる。
【0081】
一例として、図2には、3本の入射光22a〜22cを入射させたところ、入射光22aは全反射され、入射光22bおよび入射光22cは不完全反射された例を示した。入射角の間にはθa>θb>θcの関係があり、これらに対応する閾値温度の間にはTa<Tb<Tcの関係がある。液体2の温度Tは、入射光22aが全反射されたことからTa<Tであり、入射光22bおよび入射光22cは不完全反射されたことからT<TbおよびT<Tcである。以上から、液体2の温度Tは、Ta<T<Tb(<Tc)と定められる。
【0082】
また、入射光22a〜22cの入射角を一定に保ちつつ測定を継続的に行い、反射光23a〜23cの光量または反射率の時間変化を測定すると、閾値温度Ta、Tb、およびTcを間に挟む温度変化がどの時点で起こったかを、それぞれ、検出することができる。
【0083】
入射角が互いに異なる、複数の入射光を入射させる方法としては、複数本の入射光を同時に入射させるのでもよいし、或いは、一本の入射光を短時間のうちに入射角を変えながら複数回入射させるのでもよい。また、前記の複数の入射光の各反射光の光量を別々に測定する手段としては、入射角が互いに異なる入射光の数と同数又はそれ以上の個数の光量測定器が設置されているのがよい。
【0084】
複数の入射光を入射させること以外は実施の形態1と同じであるので、実施の形態1で説明した作用効果が実施の形態2でも得られることは言うまでもない。すなわち、入射光22a〜22cは、液体2に進入する前の光であり、反射光23a〜23cは、液体2に進入することなく、界面21で反射された光である。従って、いずれの測定でも、透過光25の測定とは異なり、液体2内の組成や温度や流れなどの不均一の影響を受けにくい利点がある。
【0085】
また、非接触で液体2の温度を測定するので、液体2の温度を乱すことなく測定することができ、また、熱容量などによって応答速度が制限されることがないので、液体2の温度が急激に変化する場合でも、応答性よく温度変化を測定することができる。また、液体2に接触させる必要がないので、簡易、且つ速やかに測定位置を変えることができる。従って、多数箇所の温度を測定する必要がある場合などでは、1つの測定手段で効率よく多数箇所の温度を測定することができ、多数の温度センサを配置する方法に比べて、温度測定を低コスト化することができる。
【0086】
実施の形態3
実施の形態3では、主として、請求項6、7および10に記載した流体温度の測定方法の例、および、請求項22に記載した、流体温度の測定装置がマイクロ化学チップの液体温度測定部として構成された例について説明する。
【0087】
図3は、マイクロ化学チップ30の流路と処理部(ウェル)を示す平面図(a)および断面図(b)である。断面図(b)は、平面図(a)に点線A−B−C−Dで示した位置における断面図である。図3に示すように、マイクロ化学チップ30では、マイクロ化学チップ10と同様、透明基板下部31aと透明基板上部31bとの間に、反応溶液などの液体2を流す流路32が形成されている。また、液体2を供給する注入側リザーバ33、処理後の液体2を取り出す取り出し側リザーバ34aと34b、および液体2の化学的処理を行う処理部(ウェル)35a〜35dなどの液溜めが設けられている。
【0088】
透明基板1は、例えば、50mm×75mm程度の大きさの長方形の石英ガラス基板などである。また、例えば、流路の幅と高さは共に100μm程度であり、リザーバ33および34の深さは500μm程度である。また、処理部(ウェル)35a〜35dの透明基板上部1bの上部には台形プリズム37や三角プリズムなどの光学部材が配置されている。
【0089】
図4は、図3(b)と同じ断面位置に沿ったマイクロ化学チップ30の構成を示す概略図である。図4に示すように、注入側リザーバ33には液体2を供給する注入側ポンプ38が設けられ、取り出し側リザーバ34aおよび34bには、処理後の液体2を取り出す取り出し側ポンプ39が設けられている。処理部(ウェル)35a〜35dは、マイクロ化学チップ10における加熱部5と温度測定領域6でもあり、温度測定手段41〜45、および、赤外レーザー光源などの加熱用光源46と加熱用光学系47からなる光照射加熱手段が設けられている。
【0090】
本実施の形態の特徴として、温度測定用レーザー光源41および入射光学系42からなる光入射手段は、入射角が連続的に変化し、閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光43を入射させる。この光入射手段は、図4に示すように、ビームエクスパンダ42などを用いて入射角が連続的に変化する入射光を作り出してもよいし、或いは、図示は省略するが、回転ミラーを用いて一本の入射光を短時間のうちに入射角を連続的に変えながら入射させるのでもよい。そして、光量測定手段45は、フォトダイオードアレイやCCD(Charge Coupled Device;電荷結合素子)などからなるラインセンサや撮像装置であって、反射角が連続的に変化する反射光の光量の角度分布を測定する。
【0091】
そして上記の測定装置を用いて、入射角が連続的に変化し、閾値温度が連続的に変化する入射光43に対して、実施の形態1で説明した判定を行うことによって、液体2の温度が、前記の連続的に変化する閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれかの閾値温度に等しいのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定する。複数の入射光を用いる実施の形態2の方法の発展として、入射角が連続的に変化する光からなる入射光を用いることによって、本実施の形態では、前記閾値温度の範囲内であれば、液体2の温度を特定の温度に絞り込むことができる。
【0092】
また、上記の測定を継続的に行い、反射光44の光量または反射率の時間変化を測定するようにすれば、液体2の温度の時間変化を、前記閾値温度の範囲内で連続的に追跡することができる。
【0093】
入射角が連続的に変化する入射光を入射させること以外は実施の形態1(または2)と同じであるので、実施の形態1で説明した作用効果が実施の形態3でも得られることは言うまでもない。すなわち、入射光43は、液体2に進入する前の光であり、反射光44は、液体2に進入することなく、界面で反射された光である。従って、いずれの測定でも、透過光の測定とは異なり、液体2内の組成や温度や流れなどの不均一の影響を受けにくい利点がある。
【0094】
また、非接触で液体2の温度を測定するので、液体2の温度を乱すことなく測定することができ、また、熱容量などによって応答速度が制限されることがないので、液体2の温度が急激に変化する場合でも、応答性よく温度変化を測定することができる。
【0095】
また、液体2に接触させる必要がないので、簡易、且つ速やかに測定位置を移動させることができる。従って、多数箇所の温度を測定する必要がある場合などでは、1つの測定手段で効率よく多数箇所の温度を測定することができ、多数の測定箇所にそれぞれ温度センサを配置する方法に比べて、温度測定を低コストで行うことができる。例えば、図3および図4に示した装置において、処理部35a〜35dのいずれかに測定位置を移動させる場合、温度測定手段を移動させるのではなく、透明基板31の方を移動させればよい。このようにすれば、小さな基板31を移動させるだけで測定位置を容易に変更できるばかりではなく、加熱手段を共用できる利点もある。
【0096】
実施の形態4
実施の形態4では、主として、請求項2および3に記載した流体温度の測定方法の例、および、請求項17〜19に記載した、流体温度の測定装置がマイクロ化学チップの液体温度測定部として構成された例について説明する。
【0097】
図5は、マイクロ化学チップ40を示す平面図である。図5に示すように、マイクロ化学チップ40には、液体試料2の分析や反応などの化学的処理を実行する流路32や液溜め33〜35などに加えて、本実施の形態の特徴として参照用データを作成するための領域が設けられている。これ以外は、実施の形態3で説明したマイクロ化学チップ30と同じであるので、以下、相違点に重点を置いて説明する。
【0098】
図5に示すように、参照用データ作成領域には、参照用液体51を流す流路52、参照用液体51を供給する注入側リザーバ53、参照用液体51を取り出す取り出し側リザーバ54、および参照用液体51を用いて参照用データを取得する参照用液体加熱部55などの液溜めが設けられている。これらは、流路32や液溜め33〜35と同様に作られている。とくに、参照用液体51と接する透明基板上部31bの表面は、液体2と接する透明基板上部31bの表面と同じ平坦性をもつように形成されている。
【0099】
図6は、流路52に沿った断面位置におけるマイクロ化学チップ40の構成を示す概略図である。図6に示すように、注入側リザーバ53には参照用液体51を供給する注入側ポンプ58が設けられ、取り出し側リザーバ54には、参照用液体51を取り出す取り出し側ポンプ59が設けられている。また、参照用液体加熱部55には、処理部(ウェル)35a〜35dと同様に、温度測定手段41〜45、および、赤外レーザー光源などの加熱用光源46と加熱用光学系47からなる光照射加熱手段を配置できるように構成されている。
【0100】
図5および図6に示すように、参照用液体加熱部55には、参照用液体51の温度を測定するための温度センサ60、および温度センサ60への配線を配置するための配線溝61が設けられている。温度センサ60は、測温抵抗体または熱電対などである。これらの温度センサ60からなる標準温度測定手段62は、標準温度計またはそれに準ずるものとされ、信頼性が高い。測温抵抗体としては、例えば、白金測温抵抗体(Pt100Ω)や較正されたサーミスタなどを用いることができる。なお、参照用液体51の温度の測定では、参照用液体51の量や測定時間に制限がないのが一般的であるので、温度センサ60の熱容量が制限されることはなく、温度センサ60として一般的な市販の測温抵抗体又は熱電対を用いることができる。
【0101】
温度センサ60の配置は上記の例に限られるものではなく、例えば、参照用液体加熱部55の上方の透明基板上部31bに接するように設けてもよい。この場合には、温度測定手段41〜45および台形プリズム57を透明基板下部31a側に設け、参照用液体加熱部55のウェルの下面を平坦面とする。加熱用光源46からの加熱用照射光は台形の上底(短辺)から参照用液体加熱部55へ入射させる。このようにすると、温度センサ60への配線を設けるのが容易になる。また、上記の例では化学的処理実行領域と参照用データ作成領域とを同一基板に設ける例を示したが、これらを別基板に設けてもよい。
【0102】
さて、本実施の形態では、光学的に液体2と同等であるとみなせる参照用液体51を用いて、液体温度と反射光の光量との関係を与える参照用データを実測し、この参照用データに基づいて液体2の温度を決定することによって、液体2の正確な温度を測定する。
【0103】
すなわち、実施の形態3で説明した液体2に関する測定とは別に、液体2自体またはこれと屈折率が同等の液体を参照用液体51として用いて、標準温度測定手段61による参照用液体51の温度の測定と、参照用液体51と透明基板上部31bとの界面に、液体2に関する測定と同様に入射光を入射させた場合の反射光の光量又は反射率の測定とを行う。これによって、流体温度と反射光の光量又は反射率との関係を示す参照用データを実測し、この参照用データに基づいて液体2の温度を決定する。このようにすれば、液体2の反射率の文献値が得られない場合であっても、実測された参照用データに基づいて、液体2の温度を正確に決定することができる。また、液体2に関する測定と同じ光学系を用いて参照用データを測定し、液体2に関する測定の際の入射光の光量と参照用データの測定の際の入射光の光量とが一定であるとみなし得るか、またはその変動を補正できる場合には、反射率の代わりに反射光の光量を用いて、簡易に液体2の温度を正確に決定することができる。
【0104】
実際の工程は、下記の順序で行う。
【0105】
まず、参照用データ作成領域の注入側リザーバ53から、注入側ポンプ58によって参照用液体51を注入し、取り出し側リザーバ54から取り出し側ポンプ59によって吸出する。参照用液体加熱部55に参照用液体51が満たされた状態で両方のポンプ58および59を停止させる。
【0106】
参照用液体加熱部55の中の参照用液体51に、加熱用光源46からの、例えば波長1.5μm程度の近赤外レーザー光などを集光して照射し、参照用液体51に近赤外光を吸収させて加熱する。参照用液体51の温度を近傍に設置した温度センサ60を用いて測定する。この際、標準温度測定手段62からの信号で近赤外レーザー光の出力を調節することによって、参照用液体51の温度を一定に保つことができる。
【0107】
温度測定用のレーザー光源41からの、加熱用照射光とは別の波長、例えば波長650nmのレーザー光をビームエクスパンダなどの入射光学系42で拡幅した後、集光して斜め方向から照射することによって、界面に対して臨界角近傍で、かつ入射角度に幅を持たせて入射光43を入射させ、反射角が連続的に変化する反射光44の光量の角度分布を測定する。入射光43のうち入射角の大きい光は界面で全反射するので、これから、先に実測された参照用液体51の温度に対応する臨界角を決定できる。
【0108】
加熱用光源46からの加熱用照射光の光量を変え、参照用液体51の温度をステップ状に変えながら、上記の測定を繰り返し行い、参照用液体51の温度と臨界角とを対応させる参照用テーブルを作成する。
【0109】
液体試料2の分析や反応を行う化学的処理実行時には、液体2と透明基板上部31bとの界面に入射光43を入射させ、反射光44の光量の角度分布を測定し、決定された臨界角から上記参照用テーブルに基づいて、処理部(ウェル)35a〜35dでの液体2の温度を決定する。
【0110】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の流体温度の測定方法及び測定装置は、非接触で流体の温度を測定する、応答速度の速い測定方法及び測定装置であり、マイクロ化学システムにおける溶媒や反応溶液などの液体の温度測定などに好適であり、マイクロ化学システムの普及に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の実施の形態1に基づくマイクロ化学チップの温度測定領域とその近傍の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態2に基づくマイクロ化学チップの温度測定領域とその近傍の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態3に基づくマイクロ化学チップの流路と処理部(ウェル)を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図4】本発明の実施の形態3に基づくマイクロ化学チップの概略図である。
【図5】本発明の実施の形態4に基づくマイクロ化学チップの流路と処理部(ウェル)を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図6】本発明の実施の形態4に基づくマイクロ化学チップの概略図である。
【符号の説明】
【0113】
1…透明基板、1a…透明基板下部、1b…透明基板上部、2…液体(反応溶液など)、
3…流路、4…ポンプ、5…加熱部、6…温度測定領域、7…台形プリズム、
10…マイクロ化学チップ、11…界面、12…入射光、13…反射光、
14…光量測定手段、15…透過光、20…マイクロ化学チップ、21…界面、
22a〜22c…入射光、23a〜23c…反射光、24…光量測定手段、
25b、25c…透過光、26…温度測定領域、30…マイクロ化学チップ、
31…透明基板、31a…透明基板下部、31b…透明基板上部、32…流路、
33…注入側リザーバ、34a、34b…取り出し側リザーバ、
35a〜35d…処理部(ウェル)、37…台形プリズム、41…温度測定用レーザー、42…入射光学系、43…入射光、44…反射光、45…光量測定手段、
46…加熱用光源、47…加熱用光学系、51…参照用液体、52…流路、
53…注入側リザーバ、54…取り出し側リザーバ、55…参照用液体加熱部、
57…台形プリズム、58…注入側ポンプ、59…取り出し側ポンプ、
60…温度センサ、61…配線溝(および配線)、62…標準温度測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させ、前記界面で反射される反射光の光量、又は前記入射光が前記界面で反射される反射率を測定することによって、前記被測定流体の温度についての情報を得る、流体温度の測定方法。
【請求項2】
前記測定とは別に、前記被測定流体自体又はこれと同種の流体を参照用流体として用いて、前記参照用流体の温度測定と、前記参照用流体と前記光透過性固体との界面に、前記測定と同様に入射光を入射させた場合の反射光の光量又は反射率の測定とを行うことによって、流体温度と反射光の光量又は反射率との関係を示す参照用データを実測し、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定する、請求項1に記載した流体温度の測定方法。
【請求項3】
前記参照用流体の温度の測定を、測温抵抗体又は熱電対からなる温度測定手段によって行う、請求項2に記載した流体温度の測定方法。
【請求項4】
前記被測定流体の温度が、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度を間に挟んで、これより低い場合とこれより高い場合とで、前記反射光の光量又は前記反射率が大きく異なることを利用して、前記被測定流体の温度が前記閾値温度よりも低いか又は高いかを判定する、請求項1又は2に記載した流体温度の測定方法。
【請求項5】
前記入射光として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させ、前記判定を各入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の複数の閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれか2つの閾値温度の間にあるのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定する、請求項4に記載した流体温度の測定方法。
【請求項6】
前記入射光として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させ、前記判定を前記の連続的に変化する入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の連続的に変化する閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれかの閾値温度に等しいのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定する、請求項4に記載した流体温度の測定方法。
【請求項7】
前記入射角を一定に保ちつつ、前記反射光の光量又は前記反射率の時間変化を測定することによって、前記被測定流体の温度変化についての情報を得る、請求項1又は2に記載した流体温度の測定方法。
【請求項8】
前記被測定流体の温度変化が、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度を挟んで行われる場合、前記反射光の光量又は前記反射率がこの閾値温度の前後で大きく変化することを利用して、前記閾値温度を挟んで起こる前記被測定流体の温度変化を検出する、請求項7に記載した流体温度の測定方法。
【請求項9】
前記入射光として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させ、各入射角について前記検出を行うことによって、前記の複数の閾値温度について、前記被測定流体の温度変化が閾値温度を挟んで起こる時点を検出する、請求項8に記載した流体温度の測定方法。
【請求項10】
前記入射光として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させ、前記の連続的に変化する入射角について前記検出を行うことによって、前記の閾値温度が変化する温度範囲において、前記被測定流体の温度の時間変化を測定する、請求項8に記載した流体温度の測定方法。
【請求項11】
前記被測定流体が液体である、請求項1又は2に記載した流体温度の測定方法。
【請求項12】
前記光透過性固体がマイクロ化学チップの一部であり、マイクロ化学チップ内の前記被測定流体の温度を非接触で測定する、請求項11に記載した流体温度の測定方法。
【請求項13】
前記光透過性固体によって流路が形成され、この流路を流れている前記被測定流体の温度を測定する、請求項1又は2に記載した流体温度の測定方法。
【請求項14】
前記流路の複数箇所において前記測定を行い、前記被測定流体の流れの流速及び向きについての情報も得る、請求項13に記載した流体温度の測定方法。
【請求項15】
被測定流体とこの被測定流体に接している光透過性固体との界面に、所定の入射角で入射光を入射させる光入射手段と、前記界面で反射された反射光の光量を測定する光量測定手段とを有し、前記反射光の光量から前記被測定流体の温度についての情報を得る、流体温度の測定装置。
【請求項16】
前記入射光の光量を測定する手段を有し、前記入射光の光量の測定値と前記反射光の光量の測定値とから、前記界面における前記入射光の反射率を求め得るように構成され、前記反射率から前記被測定流体の温度についての情報を得る、請求項15に記載した流体温度の測定装置。
【請求項17】
前記被測定流体自体又はこれと同種の流体を参照用流体として用いて、前記参照用流体の温度を測定する温度測定手段を備えた領域を有し、この領域において前記参照用流体と前記光透過性固体との界面に入射光を所定の入射角で入射させ、前記界面で反射された反射光の光量を測定し、流体温度と反射光の光量との関係を示す参照用データを実測できるように構成され、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定する、請求項15に記載した流体温度の測定装置。
【請求項18】
前記入射光の光量を測定する手段を有し、前記入射光の光量の測定値と前記反射光の光量の測定値とから、前記界面における前記入射光の反射率を求め、流体温度と反射率との関係を示す参照用データを実測できるように構成され、この参照用データに基づいて前記被測定流体の温度を決定する、請求項17に記載した流体温度の測定装置。
【請求項19】
前記温度測定手段が測温抵抗体又は熱電対からなる、請求項17に記載した流体温度の測定装置。
【請求項20】
前記入射角を、検出しようとする所定の温度の前記被測定流体に対して、前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する臨界角に設定できるように、前記光入射手段が構成されており、前記被測定流体の温度が、前記検出しようとする所定の温度、すなわち前記界面での反射が不完全反射から全反射に変化する閾値温度よりも低いか又は高いかを判定できるように構成されている、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項21】
前記光入射手段として、前記入射角が互いに異なり、前記閾値温度が互いに異なる、複数の入射光を入射させる手段を有し、且つ、前記光量測定手段として、前記の複数の入射光の各反射光の光量を別々に測定する手段とを有し、前記判定を各入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の複数の閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれか2つの閾値温度の間にあるのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定できるように構成されている、請求項20に記載した流体温度の測定装置。
【請求項22】
前記光入射手段として、前記入射角が連続的に変化し、前記閾値温度が連続的に変化する光からなる入射光を入射させる手段を有し、且つ、前記光量測定手段として、反射角が連続的に変化する反射光の光量の角度分布を測定する手段とを有し、前記判定を前記の連続的に変化する入射角について行うことによって、前記被測定流体の温度が、前記の連続的に変化する閾値温度のいずれの閾値温度よりも低いのか、いずれかの閾値温度に等しいのか、又はいずれの閾値温度よりも高いのかを判定できるように構成されている、請求項20に記載した流体温度の測定装置。
【請求項23】
前記光入射手段がレーザー光源からなる、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項24】
前記入射光の入射角を一定に保ちつつ、前記反射光の光量又は前記反射率の時間変化を測定できるように構成されている、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項25】
加熱手段を備える温度制御装置の温度測定部として構成されている、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項26】
前記光透過性固体がマイクロ化学チップの一部であり、マイクロ化学チップ内の前記被測定流体の温度を非接触で測定する、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項27】
前記光透過性固体によって流路が形成され、この流路を流れている前記被測定流体の温度を測定する、請求項15又は16に記載した流体温度の測定装置。
【請求項28】
前記流路の複数箇所において前記測定を行い、前記被測定流体の流れの流速及び向きについての情報も得るように構成されている、請求項27に記載した流体温度の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−109321(P2009−109321A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281544(P2007−281544)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】