説明

流体軸受の潤滑液充填方法及び装置

【課題】潤滑流体の発泡による飛沫や気泡の膨張による滴下部のからの液垂れを防止して、潤滑流体による真空チャンバ内や流体軸受装置の汚染を防止することが可能な潤滑流体の注入装置及び潤滑流体の注入方法を提供する。
【解決手段】潤滑流体の注入装置1は真空チャンバ2と、シリンジ部12と、ノズル13とピストン14と潤滑流体収容部17とを備えている。真空チャンバ2は潤滑流体15が注入される流体軸受装置8を収容する。シリンジ部12は流体軸受装置8に対して潤滑流体15を滴下する。ピストン14はシリンジ部12内の潤滑流体15を押し出す、あるいはシリンジ部12内に潤滑流体15を吸入する。潤滑流体収容部17は、真空チャンバ2内に配置され、ノズル13を潤滑流体収容部17に浸漬するためのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク、光ディスクなどを回転駆動するスピンドルモータに使用される流体軸受装置を製造する際の、潤滑液の真空注入方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクや光ディスクなどの記録媒体を回転駆動するスピンドルモータには、動圧流体軸受が用いられている。この動圧流体軸受(以下軸受装置とする。)は、シャフトと、シャフトが挿入されるスリーブと、シャフトとスリーブとの間隙部分に保持されシャフトの回転時に動圧を発生して回転自在にシャフトを保持する潤滑液とから構成されている。
【0003】
このような軸受装置では、次のようにして、シャフトとスリーブとの間隙部分に潤滑液を注入している。すなわち、軸受装置の間隙内部の空気を排気処理して間隙部分を減圧させて軸受装置内部の空気を気泡として除去した後、この間隙に潤滑液を注入する。その後、軸受装置を大気圧に復圧することでその差圧でもって潤滑液を間隙部に注入するとともに、間隙の開口端を潤滑液で封止する真空注入方式が知られている。
【0004】
真空注入方式では、潤滑液内の溶存気体の除去を完全に行うため、予め減圧下で潤滑液を脱気処理する。その後、減圧環境下において軸受装置の間隙内部を排気処理して、潤滑液を軸受装置に滴下する。この潤滑液の滴下方法として、シリンジを用い容積を計量的に滴下するシリンジ方式が知られている(特許文献1及2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−174243号公報
【特許文献2】特開2002−5170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、減圧を行うと、断熱膨張により真空チャンバ内部の温度が低下するので、シリンジが冷却されて収縮し、ノズル先端から潤滑液が漏れる。この潤滑液が漏れた後のシリンジ内部にノズルの先端から減圧された空気が流入し、シリンジと潤滑液の温度が常温に戻っても、ノズルより漏れた潤滑液分だけシリンジ内に気泡が残留する。さらに真空チャンバ内部の減圧が進むと、シリンジの外部とその内部との差圧でこの気泡が膨張し、ノズルよりさらに潤滑液の漏れが生じる。この漏れのため、軸受装置へ適切な量の潤滑液を注入することが出来ないという課題があった。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、真空チャンバ内部の減圧に伴う温度変化が生じても、軸受装置へ適切な量の潤滑液を注入出来る動圧流体軸受の充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明の流体軸受の潤滑液充填方法は、筐体内に潤滑液を含むシリンジと流体軸受とを置き、前記シリンジから潤滑液を流体軸受に注入する流体軸受の潤滑液充填方法において、前記シリンジ吐出部を前記潤滑液で満たされたシリンジ収容部の前記潤滑液に浸漬するシリンジ前処理工程と、前記筐体内部を所定の真空度に減圧する減圧工程と、前記所定の真空度に達した後に前記シリンジを前記シリンジ収容部から引上げるシリンジ引上げ工程と、前記所定の真空度において前記シリンジ内部の前記潤滑液を前記流体軸受の軸と回転体との隙間に塗布する潤滑液塗布工程と、前記筐体の内部気圧を前記所定の真空度より高める加圧工程とから成ることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の流体軸受の潤滑液充填装置は、筐体内に潤滑液を含むシリンジと流体軸受とを置き、前記シリンジから潤滑液を流体軸受に注入する流体軸受の潤滑液充填装置において、前記シリンジからの前記潤滑剤を前記流体軸受に塗布していない間は、前記シリンジの吐出部を浸漬するためのシリンジ収容部を前記筐体内部に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の流体軸受の潤滑液充填方法及び装置によれば、筐体内部を減圧した際に、シリンジ内部の潤滑剤の吐出によるシリンジ内部の空気吸引を防止できるので、軸受装置へ適切な量の潤滑液を注入することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における流体軸受装置の充填装置の全体図
【図2】潤滑液収容部の形状図
【図3】本発明の潤滑液収容部とノズルの関係を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の流体軸受の潤滑液充填方法及び装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施形態における潤滑液の注入装置1の全体図を示す。真空チャンバ(筐体部)2内部に、ベース3が固定され、そのベース3上にX軸ステージ4、Y軸ステージ5、Z軸ステージ6が設置されている。真空チャンバ2は、図示しない真空ポンプとリークバルブとによって所定の真空度まで減圧、あるいは、大気圧に復圧することができる。Z軸ステージ6上には、パレット7が着脱可能に接続固定されている。このパレット7上に、1個または複数個の流体軸受装置8を載せる。これらの流体軸受装置8は、X、Y、Z軸ステージ(4、5、6)をそれぞれ制御することにより、決められた位置に移動することが出来る。
【0014】
流体軸受装置8に潤滑液を塗布するためのディスペンサユニット11が、保持部材9を介してベース3に固定接続されている。ディスペンサユニット11は、滴下用駆動部10と、シリンジ部(滴下部)12と、ノズル13と、ピストン14とから成る。本実施例では、シリンジ部12の内径φを23mm、高さを90mm、ノズル13内径φを0.33mmとした。滴下用駆動部10は、ピストン14に連結されており、ピストン14を上下できるものであれば良い。
【0015】
使用する潤滑液15は、ポリオールエステル系オイルを用いたが、揮発性が低く金属への潤滑特性が優れているものであれば、これに限定するものではない。予めこの潤滑液をシリンジ部12に充填し、ピストン14を押し出すことで、ノズル13から潤滑液15を流体軸受装置8の間隙部16に滴下することが出来る。
【0016】
ピストン14の先端部には、外径φ23mmの樹脂が設けられている。この樹脂は、シリンジ部12内部と密着するために適度な弾性変形があり、かつ、真空中でのアウトガスが少ない材料が良い。本実施例では、フッソ素系樹脂を用いた。シリンジ部12内部の潤滑液15を押出す際、滴下用駆動部10を介してピストン14を12μmだけ移動させることにより、ピストン14の移動量つまりその容積5mgのみがノズル13より滴下される。この方式ではピストン14の移動量のみが影響するため、潤滑液15の粘度および圧力による影響を受けない。
【0017】
17は、本発明の潤滑液収容部であり、パレット7上に設けている。これは、Z軸ステージ6上に設けても良い。潤滑液収容部17の内部にはディスペンサユニット11の中の潤滑液15と同じ潤滑液が、脱気された状態で満たされている。
【0018】
図2に、潤滑液収容部の形状を示す。図2(a)の潤滑液収容部17は、潤滑液15を入れるための潤滑液槽を有している。図2(b)の潤滑液収容部18は、潤滑液槽の周囲を取り巻くような溝からなるバッファー槽19が設けられている。バッファー槽19を設けることで、滴下部を浸漬中に断熱膨張によってノズル13から漏れた潤滑液を回収することができ、また真空チャンバ(筐体部)2内部の潤滑液による汚染を防止することができる。
【0019】
次に、上記実施形態における潤滑液の注入装置1において、流体軸受装置8に潤滑液15を滴下する工程を図3に示す。
【0020】
まず、大気圧中にてノズル13を図3(a)に示す脱気された潤滑液槽の潤滑液15の表面Aの位置より下に5mm以上浸漬させる(シリンジ前処理工程)。これはノズル13を通して空気を吸込むことを防止するため、ノズル13を潤滑液15の表面から5mm以上浸漬させる必要がある。
【0021】
上記の状態にて真空チャンバ2内部を減圧して真空状態にする(減圧工程)。本実施形態においては、真空度を10Paとした。
【0022】
続いて、図3(b)に示すように真空状態で、ノズル13を潤滑液収容部17から引き上げる(シリンジ引上げ工程)。ノズル13の引き上げは、滴下部と潤滑液の温度がともに常温状態に戻った状態で行うのが良い。そのために、シリンジ内部と潤滑液収容部17の潤滑液槽内部に温度センサーを設ければ良い。
【0023】
本実施例では、予め真空チャンバ2内部のパレット7には、600個の流体軸受装置を収容されている。真空チャンバ2内部をさらに減圧し一定の真空度に維持したまま、予め定めた順序に従ってパレット7上の流体軸受装置8の間隙部16にノズル13を介して潤滑液15を5mgずつ滴下した(潤滑液塗布工程)。潤滑液塗布工程での真空度は、10Pa未満の高真空が良いので、本実施形態においては、真空度1.0Paとした。
【0024】
全ての600個の流体軸受装置8の間隙部16に滴下が終了したら、真空チャンバ2内部を大気圧に復圧(復圧工程)する。
【0025】
以上説明した工程を実施すれば、シリンジ部12内への気泡の混入を防止することができ、潤滑液15の滴下時におけるノズル13からの発泡や、気泡の膨張による潤滑液15の垂れを防止することができる。この結果、潤滑液15による流体軸受装置8の汚染を防止することができる。また、流体軸受装置8に対して高精度な潤滑液15の滴下量制御を実現することが可能となる。
【0026】
また、潤滑液収容部に滴下部先端を浸漬させることにより、真空チャンバ内部の温度が変化しても、滴下部先端から空気が吸入されることなく、潤滑液のみが吸入され、滴下部先端より潤滑液の漏れを起こすことを防止することができる。
【0027】
以上のように本発明によれば、減圧の際に生じる潤滑液の滴下部からの気泡の膨張による液垂れを防止することが出来、真空チャンバ内や流体軸受装置の潤滑液による汚染を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、潤滑液の滴下部からの液垂れを防止し、真空チャンバ内や流体軸受装置が潤滑液によって汚染されることなく、シリンジ方式において滴下する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 潤滑液の注入装置
2 真空チャンバ(筐体部)
3 ベース
4 X軸ステージ
5 Y軸ステージ
6 Z軸ステージ
7 パレット
8 流体軸受装置
9 保持部材
10 滴下用駆動部
11 ディスペンスユニット
12 シリンジ部(滴下部)
13 ノズル
14 ピストン
15 潤滑液
16 間隙部
17 潤滑液収容部
18 潤滑液収容部(バッファー付)
19 バッファー槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に潤滑液を含むシリンジと流体軸受とを置き、前記シリンジから潤滑液を流体軸受に注入する流体軸受の潤滑液充填方法において、
前記シリンジ吐出部を前記潤滑液で満たされたシリンジ収容部の前記潤滑液に浸漬するシリンジ前処理工程と、
前記筐体内部を所定の真空度に減圧する減圧工程と、
前記所定の真空度に達した後に前記シリンジを前記シリンジ収容部から引上げるシリンジ引上げ工程と、
前記所定の真空度において前記シリンジ内部の前記潤滑液を前記流体軸受の軸と回転体との隙間に塗布する潤滑液塗布工程と、
前記筐体の内部気圧を前記所定の真空度より高める復圧工程と、
から成る流体軸受の潤滑液充填方法。
【請求項2】
前記シリンジ前処理工程において、前記シリンジの内壁が前記筐体内に露出しないように前記シリンジ吐出部の全てを前記潤滑液内に浸漬する請求項1に記載の流体軸受の潤滑液充填方法。
【請求項3】
前記復圧工程において、前記筐体の内部気圧は前記筐体の周囲の大気圧になるように加圧する請求項1に記載の流体軸受の潤滑液充填方法。
【請求項4】
筐体内に潤滑液を含むシリンジと流体軸受とを置き、前記シリンジから潤滑液を流体軸受に注入する流体軸受の潤滑液充填装置において、
前記シリンジからの前記潤滑剤を前記流体軸受に塗布していない間は、前記シリンジの吐出部を浸漬するためのシリンジ収容部を前記筐体内部に備えた流体軸受の潤滑液充填装置。
【請求項5】
前記シリンジ収容部が、その内部に前記潤滑剤が潤滑液槽を持つ請求項4に記載の流体軸受の潤滑液充填装置。
【請求項6】
前記シリンジ収容部が、その内部に前記潤滑剤が潤滑液槽を持ち、さらにその潤滑液層の周囲を取り囲むように溝部を設けた請求項4に記載の流体軸受の潤滑液充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−33150(P2011−33150A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181409(P2009−181409)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】