説明

流体軸受構造および軸受溝作成方法

【課題】軸受溝の深さのばらつきのない流体軸受およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】主ガイド部材33には流体を流体軸受面34に供給するための孔に、両端が開口している筒状部材32が挿入されている。流体噴出口30から加圧流体が流体軸受面に流出する。流体噴出口30を含む近傍領域は軸受溝31が形成されている。主ガイド部材33と筒状部材32は異種材料が用いられる。主ガイド部材33と筒状部材32の表面は陽極酸化処理がなされて薄膜が形成された構造となっている。主ガイド部材33と筒状部材32とが異種材料であることから、陽極酸化処理を行った場合、表面に形成される薄膜の膜厚が異なって形成される。陽極酸化処理により膜成長が速い材料をガイド部材11に選択し、ガイド部材11より遅い材料を筒状部材32に選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
静圧流体軸受である空気軸受は、流体噴出口から数μmの微小な隙間に圧縮空気を送り込んで、非接触の軸受を構成するものである。空気の噴出口の周囲に深さ数μmの軸受溝があることで、軸受剛性が数倍になることが知られている。軸受溝の深さが浅すぎると軸受剛性が低下し、軸受溝の深さが深すぎると流体軸受の流体の流量が増加して微小振動が発生する。このように軸受溝の深さ方向の精度は空気軸受の性能に大きな影響を与えることから、高精度な加工が要求される。
【0003】
流体軸受の軸受溝を作成する方法として、従来研削や切削のような除去加工が用いられている。さらに、レーザビームを投射し、所定幅、所定深さ、所定長さの溝を形成する方法が用いられている。
【0004】
特許文献1には、軸の回転によって流体が流れることで圧力を発生させる動圧流体軸受の製造方法として、外周囲に溝加工刃を有する切削工具が軸受との相対的な回転関係を伴ってその軸孔内を移動することによって、動圧発生溝を形成するように構成し、切削部材の回転速度、溝加工用の刃の形状並びに本数を変更することで、さまざまな動圧発生溝を形成する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、動圧流体軸受の軸受表面間の距離を一定に保ち且つ動圧を発生させるために、少なくとも一方の軸受表面に動圧溝を切削により形成することが開示されている。また、特許文献2には、軸受部を形成する軸受表面を被覆し、動圧溝が形成される箇所をレーザビームなどの高エネルギービームにより照射し、所定幅、所定深さ、所定長さの溝を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−113832号公報
【特許文献2】特開2001−159426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流体軸受の軸受溝を切削加工により形成することは、溝の外輪縁部に盛り上がりが生じるために、これらを除去しなければならず、そのためのコストが増加する。また、溝の深さは1μmオーダーで、これらの寸法及び位置的に正確に形成しなければならないため、溝を形成するための加工作業が困難である。また、軸受部を被覆しレーザビームなどの高エネルギービームを用いて溝加工を行う方法は、レーザ加工機を用いる必要がありコストアップの原因となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、軸受溝の深さのばらつきのない流体軸受およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、第1の部材により第2の部材を回転自在または直線移動自在に支持し、前記第1の部材と前記第2の部材の双方または少なくともどちらか一方に流体噴出口を有し、該流体噴出口の周囲に軸受溝が設けられた流体軸受であって、前記流体噴出口を有する第1の部材と第2の部材は、該流体噴出口を有する軸受溝部材と該流体噴出口を有しない軸受部材とを一体構成した部材であり、前記軸受溝部材と前記軸受部材とは異なる材質のアルミニウムであり、前記流体噴出口を有する第1の部材と第2の部材は、前記軸受溝部材と前記軸受部材とを一体構成した後に陽極酸化処理を用いて軸受溝を形成したことを特徴とする流体軸受構造である。
請求項2に係る発明は、前記軸受溝部材と前記軸受部材とを一体構成する際に軸受面を形成する面を段差がない状態で一体構成することを特徴とする請求項1に記載の流体軸受構造である。
請求項3に係る発明は、第1の部材により第2の部材を回転自在または直線移動自在に支持し、前記第1の部材と前記第2の部材の双方または少なくともどちらか一方に流体噴出口を有し、該流体噴出口の周囲に軸受溝が設けられた流体軸受の該軸受溝の作成方法であって、前記第1の部材と前記第2の部材を、前記流体噴出口を有する軸受溝部材と前記流体噴出口を有しない軸受部材が異なる材質のアルミニウムで一体構成して形成するステップと、前記軸受溝部材に前記流体噴出口を形成するステップと、該第1の部材と該第2の部材を所定の陽極酸化処理条件の陽極酸化処理により軸受溝を形成するステップと、または、前記軸受溝部材に前記流体噴出口を形成するステップと、前記第1の部材と前記第2の部材を、前記軸受溝部材と前記軸受部材が異なる材質のアルミニウムで一体構成して形成するステップと、前記第1の部材と前記第2の部材を所定の陽極酸化処理条件の陽極酸化処理により軸受溝を形成するステップと、を有する流体軸受の軸受溝作成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、軸受溝の深さのばらつきのない流体軸受およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】流体軸受を用いた直動スライドと回転部材の概略斜視図である。
【図2】流体軸受を用いた直動スライドや回転部材の流体軸受面に流体を供給するための流体噴出口が設けられていることを説明する図である。
【図3】直動スライドの断面の一部を示した図である。
【図4】アルミニウム部品の表面に微小な凹凸を作成する例を説明する図である。
【図5】アルミニウムの材質の差によって、陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った時、それぞれの材質において形成される膜厚が異なることを説明する図である。
【図6】陽極酸化処理により軸受溝を形成することを説明する図である。
【図7】アルミニウムの材質によって膜厚の成長速度が異なることを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1(a)は、流体軸受を用いた直動スライドの概略斜視図である。スライド部材10はガイド部材11を囲むように形成され、スライド部材10とガイド部材11の対向面は流体軸受面(図示せず)とされ、スライド部材10はガイド部材11により支持されている。スライド部材10またはガイド部材11に圧縮空気などの加圧流体を噴出するための流体噴出口(図示せず)が設けられており、流体軸受面に流体軸受として動作させるために十分な圧力の流体を供給される。直動スライド型の流体軸受では、ガイド部材11を固定し静止部材としスライド部材10を移動可能な移動部材とする構造のもの、ガイド部材11を移動可能な移動部材としスライド部材10を固定し静止部材とする構造のものがある。なお、流体噴出口を、左右の流体軸受面ではガイド部材11に、上下の流体軸受面ではスライド部材10に配置することも可能である。
【0013】
図1(b)は、流体軸受を軸受に用いた回転部材の概略斜視図である。回転部材20を構成する回転軸は、その一部に拡径された円板部26を備えている。円板部26の両端面及び周面と対向する面を備えた静止部材21を有し、静止部材21の内面と円板部26の両端面及び周面が流体軸受面を構成し、この流体軸受によって回転部材20は、静止部材21によって支持されている。流体軸受面に十分な流体が供給されると、回転部材20は静止部材21により非接触状態で支持され回転可能となる。
【0014】
図2は、図1に示される流体軸受を用いた直動スライドや回転部材の流体軸受面に流体を供給するための流体噴出口30が設けられていることを説明する図である。図2に示されるように、流体噴出口30の周辺領域には凹部として形成された軸受溝が形成されている。軸受溝31は、図2(a)に示されるようにその領域内に1つの流体噴出口を有する構成、図2(b)に示されるようにその領域内に複数の流体噴出口を有する構成がある。流体噴出口30および軸受溝31は、移動部材あるいは静止部材のいずれか一方の部材に配置される。このように軸受溝31を設けることにより軸受剛性が高くなる。
【0015】
図3は、図1(a)に示される直動スライドのAA断面の一部である。ガイド部材11は主ガイド部材33と筒状部材32から構成される。主ガイド部材33には流体を流体軸受面34に供給するための孔が設けられており、該孔に両端が開口している筒状部材32が挿入されている。筒状部材32に設けられている開口のうち、流体軸受面34に対向している開口は、流体噴出口30である。流体噴出口30から加圧流体が流体軸受面に流出する。流体噴出口30を含む近傍領域は軸受溝31が形成されている。軸受溝31を流体噴出口30を含む近傍領域に設けることによって、軸受剛性が高まる。
【0016】
主ガイド部材33と筒状部材32は異種材料が用いられる。主ガイド部材33と筒状部材32の表面は陽極酸化処理がなされて薄膜が形成された構造となっている。主ガイド部材33と筒状部材32とが異種材料であることから、陽極酸化処理を行った場合、表面に形成される薄膜の膜厚が異なって形成される。陽極酸化処理により膜成長が速い材料を主ガイド部材33に選択し、主ガイド部材33より陽極酸化膜の膜成長が遅い材料を筒状部材32に選択する。
【0017】
次に、図4と図5を用いて陽極酸化処理によりアルミ部品の表面に微小な凹凸を形成することを説明する。図4は、アルミニウム部品40の表面に微小な凹凸を作成する例を示している。図4(a)はアルミニウム部品40の表面の複数箇所に微小な凹凸を形成したことを示している。そして、その1つを拡大したものが図4(b)に示されている。
【0018】
図5は、アルミニウムの材質の差によって、陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った時、それぞれの材質において形成される陽極酸化膜の膜厚が異なることを説明する図である。陽極酸化処理によってアルミニウムの母材表面に厚さ数μm〜数十μmの薄膜が形成される。この膜厚は同じ条件で陽極酸化処理を行った場合、アルミニウムの材質によって異なる。
【0019】
(a)はA=Bであり、同材質により膜厚に差が生じない。(b)A>Bであり、Aのほうが付きやすい、(c)はA<Bであり、Bの方が付きやすい。また(d)に示されるように、Aには付かない。本発明において、膜厚の差が生じる異種金属を選択し軸受溝を陽極酸化処理(アルマイト処理)により形成することができる。
【0020】
図6は、陽極酸化処理により軸受溝を形成することを説明している。図6(a)に示されるように、ガイド部材11は、主ガイド部材33と、主ガイド部材33に設けられた孔に挿入された筒状部材32とから構成される。これはは、主ガイド部材33が流体噴出口を有しない軸受部材、筒状部材32が流体噴出口を有する軸受溝部材の例である。筒状部材32と主ガイド部材33とは接着あるいは圧入により流体軸受面34を構成する面が揃うように一体化される。
【0021】
主ガイド部材33としてアルミニウム合金A7075を使用し、筒状部材32としてアルミニウム合金A2024を使用する。A7075とA2024とに陽極酸化処理(アルマイト処理)を行った場合、図5(c)に示されるように、A2024に比べA7075の方が陽極酸化膜が付きやすい。A2024は超ジュラルミン、A7075は超超ジュラルミンと呼ばれる。A2024は主にアルミニウムと銅の合金である。A7075は主にアルミニウムと亜鉛、マグネシウムの合金である。
【0022】
図6(b)は主ガイド部材33と筒状部材32とを一体化して構成したガイド部材11に陽極酸化処理(アルマイト処理)を行う。主ガイド部材33と筒状部材32とを異種材料にしたことにより、陽極酸化膜の膜厚を変えることができ、軸受溝31を形成することができる。陽極酸化処理の膜厚は正確な管理が可能であり、軸受溝31の要求される精度の深さの溝を形成することができる。
【0023】
軸受溝31の深さdepは、あらかじめ溝を作成したい材料の組み合わせで溝作成の陽極酸化処理の試験を行う。そして、軸受溝31の深さdepが指定の深さとなる陽極酸化処理の条件を求める。陽極酸化膜の厚さは、陽極酸化処理の電圧や液に浸漬する時間、薬液の温度などの条件と陽極酸化膜の膜厚の関係とを事前に測定しておいたデータを元に管理することができる。
図7は、アルミニウムの材質によって膜厚の成長速度が異なることを説明するグラフである。あらかじめ軸受部材と軸受溝部材の陽極酸化膜の膜厚と陽極酸化処理の処理経過時間との関係を求めておく。このグラフを元に軸受溝の深さdepになる時間を求めることができる。
【0024】
本発明により、流体軸受面に深さのばらつきのない軸受溝を形成することができ、軸受溝の加工工程も簡略化することができ、工数の削減ができ効率的な生産が可能となった。また、筒状部材に設けられる流体噴出口の数や口径を、軸受溝の深さや筒状部材の流体軸受面に面する面積に応じて変えることにより、軸受剛性の向上や流体の流れを整えることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 スライド部材
11 ガイド部材
20 回転部材
21 静止部材
26 円板部
30 流体噴出口
31 軸受溝
32 筒状部材
33 主ガイド部材
34 流体軸受面
40 アルミニウム部品
dep 軸受溝の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材により第2の部材を回転自在または直線移動自在に支持し、前記第1の部材と前記第2の部材の双方または少なくともどちらか一方に流体噴出口を有し、該流体噴出口の周囲に軸受溝が設けられた流体軸受であって、
前記流体噴出口を有する第1の部材と第2の部材は、該流体噴出口を有する軸受溝部材と該流体噴出口を有しない軸受部材とを一体構成した部材であり、
前記軸受溝部材と前記軸受部材とは異なる材質のアルミニウムであり、
前記流体噴出口を有する第1の部材と第2の部材は、前記軸受溝部材と前記軸受部材とを一体構成した後に陽極酸化処理を用いて軸受溝を形成したことを特徴とする流体軸受構造。
【請求項2】
前記軸受溝部材と前記軸受部材とを一体構成する際に軸受面を形成する面を段差がない状態で一体構成することを特徴とする請求項1に記載の流体軸受構造。
【請求項3】
第1の部材により第2の部材を回転自在または直線移動自在に支持し、前記第1の部材と前記第2の部材の双方または少なくともどちらか一方に流体噴出口を有し、該流体噴出口の周囲に軸受溝が設けられた流体軸受の該軸受溝の作成方法であって、
前記第1の部材と前記第2の部材を、前記流体噴出口を有する軸受溝部材と前記流体噴出口を有しない軸受部材が異なる材質のアルミニウムで一体構成して形成するステップと、
前記軸受溝部材に前記流体噴出口を形成するステップと、
該第1の部材と該第2の部材を所定の陽極酸化処理条件の陽極酸化処理により軸受溝を形成するステップと、
または、前記軸受溝部材に前記流体噴出口を形成するステップと、
前記第1の部材と前記第2の部材を、前記軸受溝部材と前記軸受部材が異なる材質のアルミニウムで一体構成して形成するステップと、
前記第1の部材と前記第2の部材を所定の陽極酸化処理条件の陽極酸化処理により軸受溝を形成するステップと、
を有する流体軸受の軸受溝作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−180920(P2010−180920A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23303(P2009−23303)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】