説明

流路構造体及びその製造方法並びに液体吐出ヘッド

【課題】耐久性が高く、長期間液漏れ等のない安定した流路構造体を提供する。
【解決手段】第1流路部(28)が形成された第1基板(20)に、第1密着層(22)を介してAuを含む第1貴金属層(26)が形成されており、第1貴金属層(26)上に筒状構造からなるAu構造体(40)が接合されている。また、第2流路部(38)が形成された第2基板(30)に、第2密着層(32)を介してAuを含む第2貴金属層(36)が形成されており、第2貴金属層(36)とAu構造体(40)が接合されている。この流路構造体(50)により、第1流路部(28)とAu構造体(40)の中空部(42)と第2流路部(38)とがつながった流路が形成される。Au構造体(40)の組成はAuが90%以上である。Au粒子を用いて成形後、加熱・加圧することでAu構造体(40)を得ることができる。密着層(22,32)と貴金属層(26,36)の間に、Auの拡散を抑止する拡散ブロック層(24,34)を設ける態様が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流路構造体及びその製造方法並びに液体吐出ヘッドに係り、特にインクなどの液体通過流路として好適な構造体及びその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Au-Sn合金を用いて金属部材同士を接合する技術が開示され、当該接合技術を用いてインクジェットプリントヘッドを製造する技術が開示されている。同文献1に示されているように、Au−Sn合金による接合技術を用いて部材同士を積層接合して製造される構造体はMEMS(Micro Electro Mechanical System;微小電気機械システム)分野で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3578286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の接合技術を適用して得られる構造体を用いて、例えばインクジェット用のインク流路を作製した場合、当該流路に通過させる溶液の種類によっては、Sn等の成分がインク中に溶け出し、流路構造体が劣化してインクが漏れ出すなどの課題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐久性が高く、長期間にわたって液漏れ等のない安定した流路構造体を提供することを目的とする。また、このような流路構造体の製造方法、並びに流路構造体を用いた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するために、第1流路部が形成された第1基板と、前記第1基板に積層された第1密着層と、前記第1密着層を介して前記第1基板に積層されたAuを含む第1貴金属層と、第2流路部が形成された第2基板と、前記第2基板に積層された第2密着層と、前記第2密着層を介して前記第2基板に積層されたAuを含む第2貴金属層と、前記第1貴金属層と前記第2貴金属層との間に配置され、前記第1流路部と前記第2流路部とを連通させる連結流路部となる中空部を有する筒状構造からなる構造体であって、当該構造体の組成としてAuが90%以上であるAu構造体と、を備えたことを特徴とする流路構造体を提供する。
【0007】
本発明の他の態様については、本明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Auの構造体を用いた構成により、耐久性が高く、長期間にわたって液漏れ等のない安定した流路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係る流路構造体の構成を示す断面図
【図2】第2実施形態に係る流路構造体の構成を示す断面図
【図3】実施例1によって得られた流路構造体における接合部の断面を観察したときの例を示す図
【図4】比較例に係る流路構造体における接合部の断面を観察したときの例を示す図
【図5】本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態に係る流路構造体の構成を示す断面図である。この流路構造体10は、第1基板20と第2基板30との間に、中空の筒状構造を有するAu(金)構造体40が挟み込まれた構成からなる。第1基板20には第1密着層22と第1Au層26が積層されており、第1Au層26を介してAu構造体40が第1基板20に接合されている。第2基板30についても同様に、第2密着層32と第2Au層36が積層されており、Au構造体40の上端は第2Au層36に接合されている。
【0012】
第1基板20並びに第1密着層22及び第1Au層26には、Au構造体40の中空部42に連通する貫通孔28(「第1貫通孔」という。)が形成されている。また、第2基板30並びに第2密着層32及び第2Au層36には、Au構造体40の中空部42に連通する貫通孔38(「第2貫通孔」という。)が形成されている。図1では、図示の便宜上、孔の空間部の記載を省略し、破線によって貫通孔28、38の側壁面を示した。
【0013】
第1貫通孔28が「第1流路部」に相当し、第2貫通孔38が「第2流路部」に相当する。第1Au層26が「第1貴金属層」に相当し、第2Au層36が「第2貴金属層」に相当する。これらAu層(26、36)は、Au構造体40との馴染み(材料の接合性)を良くする効果がある。Auを主たる組成とする貴金属層であれば同様の効果がある。貴金属層としてPt、Ir、Ruなどがある。Auの含有量は高い方が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0014】
第1基板20及び第2基板30としては、Si(シリコン)基板が好適である。Au層(26,36)とSi基板(20、30)の密着層(22、32)として、Ti、Ni、Cr、Zrのいずれかを含む層が形成される構成が好ましい。
【0015】
Au構造体40は、その組成としてAuが90%以上であり、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。このようなAu構造体40は、Auの微粒子(例えば、平均粒径がサブミクロンオーダーのAu粒子)を原材料とし、目的の形状に成形した後に加熱及び加圧を行い、その成形物(構造物)を圧縮することによって得られる。
【0016】
Au構造体40は、円筒形状に限らず、多角筒形状であってもよい。また、液体が通過する中空部42の流路断面の形状についても特に限定はなく、円形、楕円形、四角形、六角形その他の多角形など、様々な形状が可能である。Au構造体40は、第1貫通孔28と第2貫通孔38とをつなぐ連結流路としての役割を果たす。
【0017】
図1に示した構造により、第1貫通孔28、Au構造体40の中空部42、第2貫通孔38が直線的につながった液体通過流路が構成され、この流路の中をインク等の液体が流れる。ここでは、1つの流路のみを示したが、基板(20、30)間に、同様の流体通過流路が多数形成される。
【0018】
液体が流れる方向について、特に限定はない。図1の上から下に(第2貫通孔38から第1貫通孔28に)向かって液体を流しても良いし、その逆でもよい。また、図示されていないが、図1の第1基板20の下面側に、さらに第1貫通孔28と連通する流路を形成した別の基板(不図示)が積層されていてもよい。同様に、図1の第2基板30の上に、さらに第2貫通孔38と連通する流路を形成した別の基板(不図示)が積層されていてもよい。
【0019】
<第2実施形態>
図2は第2実施形態に係る流路構造体の構成を示す断面図である。図2中、図1と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0020】
図2に示した流路構造体50では、第1密着層22と第1Au層26の間に第1拡散ブロック層24が設けられ、第2密着層32と第2Au層36の間に第2拡散ブロック層34が設けられている。これら拡散ブロック層(24、34)は、Au構造体40の加熱・加圧プロセスにおいてAu層(26,36)から密着層(22,32)へのAuの拡散(移動)を抑止する機能を果たし、Au層(26,36)と密着層(22,32)との間の密着性を向上させ、剥がれを防止する効果がある。
【0021】
拡散ブロック層(24、34)は、貴金属であることが反応性の点から好ましい。特に、拡散ブロック層(24、34)として、PtあるいはIrあるいはRuあるいはそれらの酸化物の層が形成されることが好ましい。
【0022】
第2実施形態に係る流路構造体50は、第1実施形態に係る流路構造体10と比較して、更なる耐久性の向上が実現されている。
【0023】
<流路構造体の製造方法;実施例1>
ここでは図2で説明した流路構造体50の製造方法を具体的な実施例によって説明する。
【0024】
以下の手順によって流路構造体50を製造した。
【0025】
(工程1):予め内部に流路が形成され、貼り合わされているウエハ基板(Siウエハを積層接合したもの)を準備した。このウエハ基板が「第1基板20」に相当するものである。
【0026】
(工程2):ウエハ基板の表面に、基板面から順に、Ti層、Pt層、Au層を積層したものをスパッタ法にて形成した。Ti層は第1密着層22に相当し、Pt層は第1拡散ブロック層24に相当し、Au層は第1Au層26に相当する。各層の膜厚は、Ti(20nm)、Pt(100nm)、Au(20nm)とした。膜厚は一例であり、他の膜厚による実施も可能である。これらTi、Pt、Auの薄膜積層部が全体として、Au構造体40をウエハ基板上に貼り合わせるための密着層として機能する。この3層薄膜積層部からなる密着層は、後の工程でAuの構造体を形成する部位のみパターン化して形成してもよいし、Si基板の全面に形成してもよい。
【0027】
(工程3):次に、ウエハ基板上にレジストでパターンを形成し、このパターン形成されたレジストに平均粒径0.3ミクロンサイズのAu粒子を埋め込み、100度にて仮焼成した後にレジストを剥離して、Auの構造体(外径180μm、内径120μm、高さ20μmの円筒状のもの)を形成した。ここで形成されるAuの構造体は、後の工程で最終的にAu構造体40となる前段階の構造体である。便宜上、「前駆Au構造体」と呼ぶことにする。なお、レジストのパターンは、Au粒子によって前駆Au構造体の立体形状を作るための「型」となるものであり、作製目標とする構造体の形態に合わせてパターニングされる。
【0028】
(工程4):その後、前駆Au構造体の中心部をドライエッチングにて穴あけして貫通流路の片側を作製した。この工程によって、ウエハ基板に、第1貫通孔28に相当する孔が形成される。なお、この段階で前駆Au構造体のAuの純度は99%以上であった。
【0029】
(工程5):工程4で得られたウエハ基板に貼り合わせる別のSiウエハ(第2基板30に相当するもの)を用意し、このウエハの表面に、Ti層、Pt層、Au層を順に、積層したものをスパッタ法にて形成した。Ti層は第2密着層32に相当し、Pt層は第2拡散ブロック層34に相当し、Au層は第2Au層36に相当する。各層の膜厚は、Ti(20nm)、Pt(100nm)、Au(20nm)とした。各層の膜厚は、工程2と同等に設計してもよいし、適宜異ならせてもよい。また、これら各層の膜に関しても、工程2と同様に、Auの構造体と対応する部位のみパターン化してもよいし、パターン化せずにSiウエハの全面に形成してもよい。
【0030】
(工程6):工程5で得られたウエハにドライエッチングにて穴あけし、「第2貫通孔38」に相当する開口を形成する。
【0031】
(工程7):その後、上記2枚のウエハをアライメントして重ね合わせ、押し付け圧力50MPa、加熱温度300℃にて1時間貼り合わせを行い、貫通流路ウエハを完成させた。この加熱、加圧の工程によって、前駆Au構造体は圧縮され、図2で説明した「Au構造体40」となる。一例として、高さ20μmで作った前駆Au構造体が、加熱、加圧で圧縮され、高さ10〜15μm程度になる。
【0032】
本実施例1では、圧力50MPa、温度300℃としたが、加圧条件としては20MPa〜50MPaの範囲が好ましい。加熱条件としては200℃〜300℃の範囲が好ましい。このような条件のもとで、前駆Au構造体を加熱・加圧すると、元原料であるAu粒子の粒の集まりという粒状態がなくなり、Auのバルク体となる。
【0033】
なお、上記の実施例では、2枚のウエハを貼り合わせる前に、第2貫通孔38に相当する開口を形成したが、貫通孔を形成する順序は、特にこだわらず、予め穴あけしたウエハを用いて、Au粒子の形成を行ってもよいし、穴あけ工程は2枚のウエハを貼り合わせた後に行ってもよい。
【0034】
上記製造方法(工程1〜7)によって、図2で説明した構造の流路構造体を得ることができる。また、工程2、4で拡散ブロック層(Pt層)の形成を省略することによって、図1で説明した構造の流路構造体を得ることができる。
【0035】
<耐久性の確認実験>
上記の製造方法(工程1〜7)によって得られた貫通流路ウエハ(「流路構造体」に相当)をpH3の塩酸溶液に浸して24時間経過した後に観察したところ、変化なく良好な耐久性であった。
【0036】
また、このサンプルにおけるAu層(貴金属層)とAu構造体との接合部の断面をSEM(scanning electron microscope;走査型電子顕微鏡)観察した例を図3に示す。Au層とAu構造体の界面における接着部の比率は60%となっており、良好な接合が観測された。
【0037】
<接着部の比率の定義>
Au層とAu構造体の界面における接着部の比率は以下のように定義した。
【0038】
Au構造体とAu層の接合部を当該Au構造体の筒状構造の軸に沿った切断面で観察し、Au構造体による流路部の液体が通過する側から、液体が通過しない面の断面を見て、当該断面内の任意の視野(ここでは、約10μmの長さを例示)を観察したときに、当該視野の全体の長さをL、接着している部分の長さをL1としたときに、接着部の比率Rは、R=(L1/L)×100[%]と定義される。
【0039】
全体の長さLは、視野内における界面に沿った方向の長さである。L1は、当該視野内の界面においてAu構造体とAu層とが接着している部分の界面に沿った方向の長さの総和である。
【0040】
液体通過流路として用いる流路構造体の場合、液漏れ防止の観点から、Au構造体とAu層との接合領域における任意の視野内について(どの部分の視野を観察しても)、接着部の比率Rが50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上とする。
【0041】
<比較例1>
実施例1の工程4で得られるものと、同じような構造体を、Siウエハ上にAu-20%Snの共晶メッキにて作製した。この構造体上に実施例1と同様に、密着層を有したSiウエハを約280℃、20MPaにて貼り合わせた。こうして得られたウエハ積層体(貫通流路ウエハ)をpH3の塩酸溶液に24時間浸したところ、腐食が確認された。
【0042】
<比較例2>
実施例1と同様に、Au粒子を用いて貼り合わせ基板を作製した。ただし、密着層として、Ti/Ptの積層物とした(Au層を設けない構成とした)。それ以外は、実施例1とまったく同じ条件にて貼り合わせをした。このときの貼り合せ断面をSEMで調べたところ、接着部の比率が50%未満であった。図4に当該サンプルのSEM観察の例を示した。図示のとおり、接合部の界面付近に空隙が多く、この流路に液体を通過させたところ、微小な漏れが観測され、流路としては不適なものであった。
【0043】
<比較例3>
実施例1と同様にAu粒子を用いて貼り合わせ基板を作製した。ただし、密着層として、Ti(20nm)/Pt(20nm)とした。それ以外はまったく同じ条件にて貼り合わせをした。この貼り合せ材料はハンドリング途中に剥離してしまった。この理由としては、バリア性能のある貴金属がAuと密着層の間にないため、AuがTi層やSi層へ拡散して反応してしまい、界面での密着性が悪くなったと考えられる。
【0044】
<液体吐出ヘッドの構成例>
図5は本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの構成を示した断面図である。図5において、図1及び図2で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0045】
図5に示したインクジェットヘッド100は、インク吐出口としてのノズル102と、ノズル102から押し出すインクが充填される圧力室(インクキャビティ)104と、圧力室104に対応して設けられた圧電素子106(「吐出エネルギー発生素子」に相当)とを備える。圧電素子106の詳細な構成は図示しないが、振動板108上に下部電極が形成され、下部電極の上に圧電体が形成され、その上に上部電極が形成されている。ここでは、1つのノズル102に対応した吐出機構のみを示したが、インクジェットヘッド100は、複数のノズル102を有し、同様の吐出機構が複数設けられている。
【0046】
また、インクジェットヘッド100には、各圧力室104にインクを供給するための内部流路110が形成されている。この内部流路110は、圧力室104にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)として機能する。内部流路110とこれにつながる第1貫通孔28及び圧力室104等が形成されたSi構造体120(以下、「下部Si構造体」という。)は、1枚のSi基板又は複数枚のSi基板を積層して貼り合わせた積層構造によって構成される。
【0047】
この下部Si構造体120の上にAu構造体40を介して接合されるSi構造体130(以下、「上部Si構造体」という。)も、1枚のSi基板又は複数枚のSi基板を積層して貼り合わせた積層構造によって構成される。
【0048】
下部Si構造体120は、図1及び図2で説明した第1基板20に相当する部材を含んでおり、第1貫通孔28に相当する孔が形成されている。上部Si構造体130は、図1及び図2で説明した第2基板30に相当する部材を含んでおり、第2貫通孔38に相当する孔が形成されている。
【0049】
図5では、図示を省略したが、Au構造体40と下部Si構造体120との基板界面には、図1で説明した第1密着層22及び第1Au層26、あるいは図2で説明した第1密着層22、第1拡散ブロック層24、及び第1Au層26が形成されている。また、Au構造体40と上部Si構造体130との基板界面には、図1で説明した第2密着層32及び第2Au層36、あるいは図2で説明した第2密着層32、第2拡散ブロック層34、及び第2Au層36が形成されている。
【0050】
このように、本例のインクジェットヘッド100は、ノズル102が形成されたノズルプレート150と、下部Si構造体120と、Au構造体40と、上部Si構造体130とが積層された構造からなる。
【0051】
図5において、上部Si構造体130の上面に開口する孔部(符号132)は、インクを供給するためのインク入り口である。図示のように、インク入り口132から第2貫通孔38、Au構造体40の中空部42、第1貫通孔28へとつながる液体通過流路は、真下に向かって(基板に対して垂直な方向に)直線的に形成される。
【0052】
インク入り口132から入ったインクは、内部流路110を介して圧力室104にインクが供給される。振動板108は圧力室104の一部の面(図5において天面)を構成しており、当該振動板108に接合された圧電素子106の上部電極(個別電極)に駆動電圧を印加することによって圧電素子106が変形して圧力室104の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル102からインクが吐出される。
【0053】
なお、図5では、インクの供給用流路のみを示したが、インクはヘッド内を循環する構成となっており、上部Si構造体130の上面には図示を省略したインク出口となる孔部が設けられており、供給系と同様のAu構造体を利用した循環(回収)流路が形成されている。すなわち、下部Si構造体120の各圧力室104にはインク回収(循環)用の回収流路が設けられており、上述したインク供給系と同様に、Au構造体を利用した液体通過流路を介して上部Si構造体130のインク出口にインクを循環させることができる。
【0054】
<本実施形態の利点>
本実施形態によれば、耐久性のよいマイクロ流路を得ることができる。
【0055】
本実施形態によれば、強アルカリ性、あるいは、強酸性のインクを流すことも可能であり、インクの種類によらず、耐久性が高い。
【0056】
本実施形態によれば、長時間にわたって液漏れのない、安定した流路を形成できる。
【0057】
<変形例1>
図5では、吐出エネルギー発生素子として圧電素子を用いた例を説明したが、これに代えて、発熱素子や静電アクチュエータなど、他の手段を用いることも可能である。
【0058】
<変形例2>
本発明による流路構造体は、インクジェット用インク以外の液体についても、同様に、耐久性よく流すことができる。また、液体に限らず、気体(ガス)等の流体の流路としても利用することが可能である。
【0059】
<変形例3>
上述の実施形態では、Si基板を用いたが、Si以外の材料の基板についても本発明を適用することができる。
【0060】
例えば、ステンレスやTi、アルミニウムなどの金属材料や、ガラス材料などを用いることが可能である。また、ポリイミドやポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂(PEEK)などの耐熱性樹脂、さらにはこれらの樹脂にフィラーを入れたものなどを用いることができる。
【0061】
<本発明の他の応用例について>
上記の実施形態では、インクジェットヘッドへの適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、CPU(中央演算処理装置)のヒートシンク用流路やマイクロタスなどの流路など、様々な用途における微小な流路構造体に広く適用できる。
【0062】
<付記>
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0063】
(発明1):第1流路部が形成された第1基板と、前記第1基板に積層された第1密着層と、前記第1密着層を介して前記第1基板に積層されたAuを含む第1貴金属層と、第2流路部が形成された第2基板と、前記第2基板に積層された第2密着層と、前記第2密着層を介して前記第2基板に積層されたAuを含む第2貴金属層と、前記第1貴金属層と前記第2貴金属層との間に配置され、前記第1流路部と前記第2流路部とを連通させる連結流路部となる中空部を有する筒状構造からなる構造体であって、当該構造体の組成としてAuが90%以上であるAu構造体と、を備えたことを特徴とする流路構造体。
【0064】
発明1によれば、第1流路部とAu構造体の中空部(連結流路部)と第2流路部とがつながった流路が形成される。この発明によれば、Au構造体と各基板との密着性が高く、耐久性のよい流路構造を提供できる。
【0065】
(発明2):発明1に記載の流路構造体において、前記第1流路部、前記Au構造体の前記中空部及び前記第2流路部からなる液体通過流路が構成されることを特徴とする。
【0066】
この流路構造体によれば、アルカリ性液や酸性液など、液種を問わず、様々な液体の通過流路として利用することができる。
【0067】
(発明3):発明1又は2に記載の流路構造体において、前記Au構造体の組成としてAuが99%以上であることを特徴とする。
【0068】
耐液性等の観点から、Auの組成比率が高いほど、より好ましい態様である。
【0069】
(発明4):発明1から3のいずれか1項に記載の流路構造体において、前記Au構造体は、Au粒子を用いて成形した後、加熱及び加圧することによって得られたものであることを特徴とする。
【0070】
Auの微粒子を所定の型に入れて成形後、その構造物を加熱、加圧して圧縮することによってAu構造体を得ることができる。
【0071】
(発明5):発明1から4のいずれか1項に記載の流路構造体において、前記第1基板及び前記第2基板は、Si基板であることを特徴とする。
【0072】
かかる態様によれば、半導体製造技術を活用した微細加工が可能である。
【0073】
(発明6):発明1から5のいずれか1項に記載の流路構造体において、前記第1密着層及び前記第2密着層は、Ti、Ni、Cr、Zrのいずれかを含む層であることを特徴とする。
【0074】
これらの材料は、密着層として好適なものである。
【0075】
(発明7):発明1から6のいずれか1項に記載の流路構造体において、前記第1貴金属層と前記第1密着層の間に、前記第1貴金属層から前記第1密着層へのAuの拡散を抑止するための第1拡散ブロック層が設けられ、前記第2貴金属層と前記第2密着層の間に、前記第2貴金属層から前記第2密着層へのAuの拡散を抑止するための第2拡散ブロック層が設けられていることを特徴とする。
【0076】
貴金属層と密着層の間に拡散ブロック層を設けることにより、一層の耐久性向上を達成できる。
【0077】
(発明8):発明7に記載の流路構造体において、前記第1拡散ブロック層及び前記第2拡散ブロック層は、Pt、Ir、Ruのいずれか、あるいは、これらいずれかの酸化物を含む層であることを特徴とする。
【0078】
これらの材料は、拡散ブロック層として好適なものである。
【0079】
(発明9):発明1から8のいずれか1項に記載の流路構造体において、前記筒状構造の軸に沿って前記Au構造体を切断した断面で前記第1貴金属層又は前記第2貴金属層と前記Au構造体との界面を観察したときに、当該断面の視野内における前記界面の全体の長さをL、当該視野内で前記Au構造体が前記第1貴金属層又は前記第2貴金属層と接着している分の長さをL1としたときに、接着部分の比率RをR=(L1/L)×100[%]と定義すると、前記第1貴金属層と前記Au構造体の界面における接着部分の比率、並びに、前記第2貴金属層と前記Au構造体の界面における接着部分の比率が、ともに50%以上であることを特徴とする。
【0080】
かかる態様によれば、漏れのない安定した流路を形成できる。
【0081】
接着部分の比率は、より好ましくは60%以上であり、高いほど好ましい。
【0082】
(発明10):発明1から9のいずれか1項に記載の流路構造体と、前記流路構造体によって構成される流路に接続された圧力室と、前記圧力室内の液を吐出するための吐出口としてのノズルと、前記圧力室に対応して設けられ、前記ノズルから液滴を吐出させるエネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子と、を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【0083】
(発明11):第1基板に第1密着層を形成する第1密着層形成工程と、前記第1基板に前記第1密着層を介して、Auを含む第1貴金属層を積層形成する第1貴金属層形成工程と、前記第1貴金属層の上に、Au粒子を用いて筒状構造体を形成する筒状構造体形成工程と、前記第1基板に前記筒状構造体の中空部とつながる第1貫通孔を形成する第1貫通孔形成工程と、第2基板に第2密着層を形成する第2密着層形成工程と、前記第2基板に前記第2密着層を介して、Auを含む第2貴金属層を積層形成する第2貴金属層形成工程と、前記第2基板に前記筒状構造体の中空部とつながる第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程と、前記第1密着層及び前記第1貴金属層を介して前記筒状構造体が積層された前記第1基板と、前記第2密着層を介して前記第2貴金属層が積層された前記第2基板とを重ね合わせて、前記第2貴金属層と前記筒状構造体とを接触させ、加熱及び加圧によって前記第1基板と前記第2基板とを接合する接合工程と、を含み、前記接合工程により前記筒状構造体が圧縮されてなるAu構造体の中空部を通して前記第1基板の前記第1貫通孔と前記第2基板の前記第2貫通孔とがつながった流路が形成されてなる流路構造体を得ることを特徴とする流路構造体の製造方法。
【0084】
この製造方法によれば、耐久性が高い良好な流路構造体を得ることができる。
【0085】
(発明12):発明11に記載の流路構造体の製造方法において、前記第1密着層と前記第1貴金属層の間に前記第1貴金属層から前記第1密着層へのAuの拡散を抑止するための第1拡散ブロック層を、前記第1密着層の形成後、前記第1貴金属層の形成前に、形成する第1拡散ブロック層形成工程と、前記第2密着層と前記第2貴金属層の間に前記第2貴金属層から前記第2密着層へのAuの拡散を抑止するための第2拡散ブロック層を、前記第2密着層の形成後、前記第2貴金属層の形成前に、形成する第2拡散ブロック層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0086】
かかる態様によれば、一層の耐久性向上を達成できる。
【符号の説明】
【0087】
10…流路構造体、20…第1基板、22…第1密着層、24…第1拡散ブロック層、26…第1Au層、28…第1貫通孔、30…第2基板、32…第2密着層、34…第2拡散ブロック層、36…第2Au層、38…第2貫通孔、40…Au構造体、42…中空部、50…流路構造体、100…インクジェット、102…ノズル、104…圧力室、106…圧電素子、108…振動板、110…内部流路、120…Si構造体、130…Si構造体、150…ノズルプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流路部が形成された第1基板と、
前記第1基板に積層された第1密着層と、
前記第1密着層を介して前記第1基板に積層されたAuを含む第1貴金属層と、
第2流路部が形成された第2基板と、
前記第2基板に積層された第2密着層と、
前記第2密着層を介して前記第2基板に積層されたAuを含む第2貴金属層と、
前記第1貴金属層と前記第2貴金属層との間に配置され、前記第1流路部と前記第2流路部とを連通させる連結流路部となる中空部を有する筒状構造からなる構造体であって、当該構造体の組成としてAuが90%以上であるAu構造体と、
を備えたことを特徴とする流路構造体。
【請求項2】
前記第1流路部、前記Au構造体の前記中空部及び前記第2流路部からなる液体通過流路が構成されることを特徴とする請求項1に記載の流路構造体。
【請求項3】
前記Au構造体の組成としてAuが99%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の流路構造体。
【請求項4】
前記Au構造体は、Au粒子を用いて成形した後、加熱及び加圧することによって得られたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項5】
前記第1基板及び前記第2基板は、Si基板であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項6】
前記第1密着層及び前記第2密着層は、Ti、Ni、Cr、Zrのいずれかを含む層であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項7】
前記第1貴金属層と前記第1密着層の間に、前記第1貴金属層から前記第1密着層へのAuの拡散を抑止するための第1拡散ブロック層が設けられ、
前記第2貴金属層と前記第2密着層の間に、前記第2貴金属層から前記第2密着層へのAuの拡散を抑止するための第2拡散ブロック層が設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項8】
前記第1拡散ブロック層及び前記第2拡散ブロック層は、Pt、Ir、Ruのいずれか、あるいは、これらいずれかの酸化物を含む層であることを特徴とする請求項7に記載の流路構造体。
【請求項9】
前記筒状構造の軸に沿って前記Au構造体を切断した断面で前記第1貴金属層又は前記第2貴金属層と前記Au構造体との界面を観察したときに、当該断面の視野内における前記界面の全体の長さをL、当該視野内で前記Au構造体が前記第1貴金属層又は前記第2貴金属層と接着している分の長さをL1としたときに、接着部分の比率RをR=(L1/L)×100[%]と定義すると、
前記第1貴金属層と前記Au構造体の界面における接着部分の比率、並びに、前記第2貴金属層と前記Au構造体の界面における接着部分の比率が、ともに50%以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の流路構造体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の流路構造体と、
前記流路構造体によって構成される流路に接続された圧力室と、
前記圧力室内の液を吐出するための吐出口としてのノズルと、
前記圧力室に対応して設けられ、前記ノズルから液滴を吐出させるエネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子と、
を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項11】
第1基板に第1密着層を形成する第1密着層形成工程と、
前記第1基板に前記第1密着層を介して、Auを含む第1貴金属層を積層形成する第1貴金属層形成工程と、
前記第1貴金属層の上に、Au粒子を用いて筒状構造体を形成する筒状構造体形成工程と、
前記第1基板に前記筒状構造体の中空部とつながる第1貫通孔を形成する第1貫通孔形成工程と、
第2基板に第2密着層を形成する第2密着層形成工程と、
前記第2基板に前記第2密着層を介して、Auを含む第2貴金属層を積層形成する第2貴金属層形成工程と、
前記第2基板に前記筒状構造体の中空部とつながる第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程と、
前記第1密着層及び前記第1貴金属層を介して前記筒状構造体が積層された前記第1基板と、前記第2密着層を介して前記第2貴金属層が積層された前記第2基板とを重ね合わせて、前記第2貴金属層と前記筒状構造体とを接触させ、加熱及び加圧によって前記第1基板と前記第2基板とを接合する接合工程と、
を含み、
前記接合工程により前記筒状構造体が圧縮されてなるAu構造体の中空部を通して前記第1基板の前記第1貫通孔と前記第2基板の前記第2貫通孔とがつながった流路が形成されてなる流路構造体を得ることを特徴とする流路構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第1密着層と前記第1貴金属層の間に前記第1貴金属層から前記第1密着層へのAuの拡散を抑止するための第1拡散ブロック層を、前記第1密着層の形成後、前記第1貴金属層の形成前に、形成する第1拡散ブロック層形成工程と、
前記第2密着層と前記第2貴金属層の間に前記第2貴金属層から前記第2密着層へのAuの拡散を抑止するための第2拡散ブロック層を、前記第2密着層の形成後、前記第2貴金属層の形成前に、形成する第2拡散ブロック層形成工程と、
を有することを特徴とする請求項11に記載の流路構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−179735(P2012−179735A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42512(P2011−42512)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】